JP3936164B2 - 高周波用低温焼結磁器組成物及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低誘電率で低誘電損失の高周波用低温焼成磁器組成物及び低温焼成磁器の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高度情報化時代を迎え、半導体素子には、高速化、高集積化及び実装の高密度化が求められている。半導体素子における高速化を進めるためには、配線長の短縮等に加え、回路上の信号伝播速度の高速化が不可欠であるが、信号伝播速度は基板材料の比誘電率の平方根に反比例するため、より低い誘電率の基板材料が必要である。また、高集積化や実装の高密度化のためには抵抗率の低い配線材料(Ag、Au、Cu等)の使用が求められるが、これらの金属は融点が低いため、配線パターンの印刷後に基板を焼成する多層配線基板等では、低温焼成可能な基板材料を用いる必要がある。このため、電子機器用基板材料として従来広く用いられてきたアルミナ基板(誘電率:9〜9.5、焼成温度:1500℃前後)は高周波回路基板には適さず、これに代わる、より低い誘電率を有し低温焼成可能な材料が必要とされている。また、マイクロ波、ミリ波帯域での低損失化も要求されている。
【0003】
そこで、最近では、高速化に対応し得る低誘電率基板材料として、ガラスと無機質フィラーとからなるガラスセラミック材料が検討されている。この種のガラスセラミック材料は、誘電率が3〜7程度と低いことから高周波用絶縁基板として適しており、また、800〜1000℃の温度で焼成することができるため、導体抵抗の低いAg、Au、Cu等と同時焼成できるという特長がある。
【0004】
例えば、特開2000-188017号公報には、ディオプサイド(CaMgSi2O6)型結晶相を析出可能なガラス相と、フィラーとしてMg及び/またはZnとTiとを含有する酸化物を含む1000℃以下で焼成可能な高周波用磁器組成物が開示されている。また、特開2001-240470号公報には、SiO2、Al2O3、MO(Mはアルカリ土類金属元素)及びPbを含む結晶化ガラス成分と、Al2O3、SiO2、MgTiO3、(Mg,Zn)TiO3、TiO2、SrTiO3、MgAl2O4、ZnAl2O4、コージェライト、ムライト、エンスタタイト、ウイレマイト、CaAl2Si2O8、SrAl2Si2O8、(Sr,Ca)Al2Si2O8、フォルステライトの群から選ばれる少なくとも1種のフィラーとからなる高周波用配線基板が開示されている。
【0005】
しかしながら、従来のガラスセラミックス材料は、誘電率は低くても、信号周波数10GHz以上の高周波帯域における誘電損失が概ね20×10-4以上と高く、高周波用基板材料として実用化し得るに十分な特性を有していない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、Ag、Au、Cu等の低抵抗金属と同時焼成が可能であり、しかも低誘電率及び高周波領域で低誘電損失を実現する低温焼成磁器組成物、及び低温焼成磁器の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題点を解決するべく検討した結果、ZnとSiとを特定比率で含有する複合酸化物にBi2O3とLi2Oを添加した組成物は、800〜1000℃以下の温度で焼成可能であり、かかる組成物を焼成して得られる低温焼成磁器は、低い比誘電率と低い誘電損失を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の低温焼成磁器組成物及び低温焼成磁器の製造方法を提供する。
(1) ZnOとSiO2とを合計量で88〜94質量%、Bi2O33〜10質量%及びLi2O 1〜4質量%を含み、ZnOとSiO2の含有比が0.6:1〜1.7:1(モル比)の範囲であり、その少なくとも一部をZnとSiとの複合酸化物として含有する低温焼成磁器組成物。
【0009】
(2) 前記複合酸化物がウイレマイト系結晶相であり、Bi2O3及びLi2Oの少なくとも一部をBi2O3-SiO2系結晶相及びLi2O-SiO2系結晶相として含む前記1記載の低温焼成磁器組成物。
(3) 20GHzでの誘電率(εr)が7以下、誘電損失(tanδ)が10×10-4以下である前記1または2記載の低温焼成磁器組成物。
(4) ZnOとSiO2とを0.6:1〜1.7:1のモル比で含有するZnOとSiO2の混合物及び/または複合酸化物88〜94質量%と、Bi2O33〜10質量%及びLi2O 1〜4質量%とを含む原料粉を所定形状に成形後、800℃〜1000℃で焼成する低温焼成磁器の製造方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
(A)磁器組成物
本発明の低温焼成磁器組成物は、ZnOとSiO2を合計量で88〜94質量%、Bi2O33〜10質量%及びLi2O 1〜4質量%を含み、ZnOとSiO2の含有比が0.6:1〜1.7:1(モル比)の範囲であり、ZnとSiの少なくとも一部をZnとSiとの複合酸化物として含有する低温焼成磁器組成物である。
Zn、Siを含有する複合酸化物に対してBi2O3とLi2Oとを含有させることにより、加熱時、Bi2O3-SiO2系液相とLi2O-SiO2系液相とが形成され、この液相反応を介して800〜1000℃以下の温度で焼成できる。
【0011】
ZnOとSiO2の含有量は組成物全体の88〜94質量%であり、Bi2O3含有量は3〜10質量%、Li2O含有量は1〜4質量%の範囲である(合計で100質量%とする)。Bi2O3が3質量%未満あるいはLi2Oが1質量%より少ないと、800〜1000℃の焼成では磁器を十分に緻密化することができない。一方、Bi2O3の量が10質量%より多いか、あるいはLi2Oの量が4質量%より多いと、20GHzの高周波領域における誘電損失が10×10-4以上と高くなる。
【0012】
ZnOとSiO2の含有比は0.6:1〜1.7:1(モル比)の範囲とする。ZnO/SiO2が0.6未満ではSiO2相が過剰となり焼結性が劣化し、磁器が緻密化しなくなる。一方、ZnO/SiO2が1.7を超えるとZnO相が過剰となり誘電特性が劣化する。望ましい範囲は、1.0〜1.7である。
ZnとSiの複合酸化物は、ZnOとSiO2の量比が上記範囲を満たすものであればよいが、nZnO・SiO2と表わしたときに0.6≦n≦2.0を満足する複合酸化物を主成分とする。n=2.0の複合酸化物結晶はウイレマイト(ケイ亜鉛石)と知られる。
【0013】
従って、本発明の低温焼成磁器は、ZnとSiとを含むウイレマイト系結晶相を主体とし、さらにBi2O3-SiO2系結晶相及びLi2O-SiO2系結晶相から主として構成されるものである。ここで、「ウイレマイト系結晶相」とはウイレマイト及びこれに類する結晶相であり、磁器組成物の成分から構成される同型の結晶相(例えば、Li2ZnSiO4)を含んでもよい。Bi2O3-SiO2系結晶相及びLi2O-SiO2系結晶相についても同様である。
目標とする物性値を実現するものであれば各相の具体的な含有比は限定されないが、通常は、ウイレマイト系結晶相を磁器の全体積の60%以上含み、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上を含む。
なお、発明の効果を損なわない限りにおいて、SiO2系結晶相等や非晶質等を含んでも良い。
本発明の低温焼成磁器は、20GHzでの誘電率(εr)が7以下、誘電損失(tanδ)が10×10-4以下であり、800℃〜1000℃の温度範囲での焼成によって相対密度95%以上まで緻密化されたものである。
【0014】
(B)低温焼成磁器の製造方法
本発明の低温焼成磁器は、ZnOとSiO2を0.6:1〜1.7:1のモル比で含有するZnOとSiO2の混合物及び/または複合酸化物88〜94質量%と、Bi2O33〜10質量%及びLi2O 1〜4質量%とを含む組成物を所定形状に成形後、800℃〜1000℃で焼成することにより製造できる。
主原料であるZnOとSiO2は各金属酸化物の混合物でもよいが、好ましくはウイレマイト(Zn2SiO4)等の複合酸化物にSiO2とZnOを必要量混合したものである。出発原料として用い得るZnOとSiO2は、各金属の酸化物粉末のほかに、焼結過程で酸化物を形成し得る炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩等の形態で添加できる。
【0015】
上記の主成分原料に対して、焼結助剤としてBi2O3粉末、Li2O粉末を、主成分原料88〜94質量%、Bi2O33〜10質量%、Li2O 1〜4質量%の範囲となるように添加混合する。Bi2O3とLi2Oも、各金属の酸化物粉末のほかに、焼結過程で酸化物を形成し得る炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩等の形態で添加できる。
Zn2SiO4、SiO2、ZnO、Bi2O3、Li2O等の原料粉末は分散性を高め、望ましい誘電率や低誘電損失を得るために2.0μm以下、特に1.0μm以下の微粉末とすることが望ましい。
【0016】
上記の割合で添加混合した混合粉末に適宜バインダーを添加した後、例えば、金型プレス、押し出し成形、ドクターブレード法、圧延法等により任意の形状に成形後、酸化雰囲気中または、N2、Ar等の非酸化性雰囲気中において800℃〜1000℃、特に850℃〜950℃の温度で3時間焼成することにより相対密度95%以上に緻密化することができる。この時の焼成温度が800℃より低いと、磁器が十分に緻密化せず、1000℃を越えると緻密化は可能であるが、Ag、Au、Cu等の低融点な導体を配線材料として用いることが難しくなる。
【0017】
本発明の方法によれば、複合酸化物から生成するZnを主とする液相とBi2O3-SiO2系液相及びLi2O-SiO2系液相とのより活性な液相反応が生じる結果、少ない焼結助剤量で磁器を緻密化することができる。そのために、誘電損失を増大させる要因となる粒界の非晶質相の量を最小限に抑えることができる。このように本発明の製造方法によれば、磁器中に、少なくともZnとSiを含むウイレマイト系結晶相、Bi2O3-SiO2系結晶相及びLi2O-SiO2系結晶相を析出させることにより比誘電率を7以下に制御できるとともに、誘電損失の低い高周波用磁器を得ることができる。
【0018】
(C)磁器組成物の用途
本発明における磁器組成物は、800〜1000℃で焼成可能であることから、特にAg、Au、Cuなどを配線する配線基板の絶縁基板として用いることができる。かかる磁器組成物を用いて配線基板を作製する場合には、例えば、上記のようにして調合した混合粉末を公知のテープ成形法、例えばドクターブレード法、押し出し成形等に従い、絶縁層形成用のグリーンシートを作製した後、そのシートの表面に配線回路層用として、Ag、Au及びCuのうちの少なくとも1種の金属、特に、Ag粉末を含む導体ペーストを用いて、グリーンシート表面にスクリーン印刷法等によって配線パターンを回路パターン状に印刷し、場合によってはシートにスルーホールやビアホール形成後、上記導体ペーストを充填する。その後、複数のグリーンシートを積層圧着した後、上述した条件で焼成することにより、配線層と絶縁層とを同時に焼成することができる。
【0019】
【実施例】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
実施例1〜11
平均粒径が1μm以下のZn2SiO4、ZnO、SiO2、Bi2O3、Li2CO3を酸化物換算の含有比が表1の割合となるように混合した。これらの混合物に有機バインダー、可塑剤、トルエンを添加し、ドクターブレード法により厚さ150μmのグリーンシートを作成した。そして、このグリーンシートを5枚積層し、70℃の温度で150kg/cm2の圧力を加えて熱圧着した。得られた積層体を大気中で、500℃で脱バインダーした後、大気中で表1の条件下に焼成して多層基板用磁器を得た。
【0020】
得られた焼結体について誘電率、誘電損失を以下の方法で評価した。測定はJIS R1627「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電率特性の試験方法」に準じて行った。すなわち、上記の多層基板用磁器を直径1〜5mm、厚み2〜3mmの試料の円盤状に切り出し、円盤状試料の両端面を2枚の平行導体板で短絡して誘電体共振器を構成し、この誘電体共振器のTE011モードの共振特性と無負荷Qを20GHzでネットワークアナライザー(ヒューレット・パッカード社製8722C)を用いて測定し、誘電率と誘電損失(tanδ)を算定した。測定結果を表1に示す。また、原料混合物中のZn及びSiの含有量合計(酸化物換算値)及びZnO/SiO2比を表2に示す。
また、各試料についてX線回折測定を行い、標準試料のX線回折ピークとの比較によって磁器の構成相を同定したところ、ウイレマイト系結晶相(Zn2SiO4、Li2ZnSiO4)、Bi2O3-SiO2系結晶相、Li2O-SiO2系結晶相の各相の存在が確認された。各相の有無についても表2に併せて示す。
【0021】
表1及び表2の結果から明らかなように、ZnO、SiO2、Bi2O3及びLi2Oを本発明の範囲で含み、結晶相として、ウイレマイト系結晶相、Bi2O3-SiO2系結晶相、Li2O-SiO2系結晶相が主として析出した本発明の磁器は、いずれも誘電率が7以下、20GHzでの誘電損失が10×10-4以下の優れた値を示した。
【0022】
比較例1〜8
平均粒径が1μm以下のZn2SiO4、ZnO、SiO2、Bi2O3、Li2CO3を各酸化物換算の組成が表1の割合となるように混合し、実施例1〜11と同様にして、表1の条件下に焼成して多層基板用磁器を得た。結果を表1及び表2にまとめて示す。
Bi2O3量を添加していない試料では低温焼成が不可能であり(比較例1,6,7)、Bi2O3量を3質量%未満添加した試料(比較例4)及びLi2O量が1質量%未満である試料(比較例5)では、過剰なSiO2の結晶化が不十分で誘電損失が10×10-4以上となり、Bi2O3量が10質量%、Li2O量が4質量%を越える試料(比較例8)では液相量が多いため焼成温度も低く、形状が維持できず誘電特性が評価できなかった。また、原料混合物中のZnO/SiO2比が0.6未満の試料(比較例3)では焼結性が悪く嵩密度の劣化として結果に現れている。さらに、原料混合物中のZnO/SiO2比が1.7より大きい試料(比較例2)では、誘電損失が大きい。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の低温焼成磁器組成物は、誘電率が低く、20GHzの高周波においても誘電損失が小さいので、高周波用途のマイクロ波用回路素子等において最適である。しかも、800℃〜1000℃で焼成できるため、Cu、Au、Ag等による配線を同時焼成により形成することができる。
Claims (2)
- ZnOとSiO2とを合計量で88〜94質量%、Bi2O33〜10質量%及びLi2O 1〜4質量%を含み、ZnOとSiO2の含有比が0.6:1〜1.7:1(モル比)の範囲であり、その少なくとも一部をZnとSiとの複合酸化物として含有する低温焼成磁器組成物であって、前記複合酸化物がウイレマイト系結晶相であり、Bi2O3及びLi2Oの少なくとも一部をBi2O3-SiO2系結晶相及びLi2O-SiO2系結晶相として含み、20GHzでの誘電率(εr)が7以下、誘電損失(tanδ)が10×10-4以下である低温焼成磁器組成物。
- ZnOとSiO2とを0.6:1〜1.7:1のモル比で含むZnOとSiO2の混合物及び/または複合酸化物88〜94質量%と、Bi2O33〜10質量%及びLi2O 1〜4質量%とを含む原料粉を所定形状に成形後、800℃〜1000℃で焼成する低温焼成磁器の製造方法であって、複合酸化物から生成するZnを主とする液相とBi2O3-SiO2系液相及びLi2O-SiO2系液相との液相反応を生じさせ、磁器中に、少なくともZnとSiを含むウイレマイト系結晶相、Bi2O3-SiO2系結晶相及びLi2O-SiO2系結晶相を析出させることにより20GHzでの誘電率(εr)を7以下に制御できるとともに、誘電損失(tanδ)が10×10-4以下である誘電損失の低い高周波用磁器を得ることができる低温焼成磁器の製造方法。
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