JP3625625B2 - リン含有固形物からのリン回収方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、下水汚泥焼却灰等のリン含固形物からのリン回収方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
下水汚泥焼却灰は現在、その大部分が埋め立て処分されており、将来的には埋め立て処分地の不足が懸念されることもあって、建材等への有効利用が検討されているが、焼却灰中に含まれるリン成分によって建材等の品位が低くなるという問題が生じている。一方、日本は現在リンの全量を輸入に頼っているため、下水汚泥焼却灰からリンのみを選択的に分離回収できる技術が開発されれば、焼却灰の有効利用とリンの資源化の両面において非常に有用である。
【0003】
このような技術として、たとえば特開平7−251141号に、下水汚泥焼却灰からリン分を酸抽出し、このリン分(リン酸イオンとなっている)を含んだ酸抽出液に水と2相を形成する有機溶媒を混合して、酸抽出液中のリン分を有機溶媒中に移行させ、次いでこの有機溶媒に水を混合してリン酸を水側に逆抽出するようにした方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した方法では、酸抽出工程において、酸濃度1N〜6N、温度10〜90℃、抽出時間2時間の条件でリン回収率86%を達成しているものの、有機溶媒抽出工程においては、水系の溶媒と有機溶媒との混合比や、酸抽出液中のリン酸濃度がリン酸の回収率を決定する因子となり、リン回収率は50%にしか至っていない。またこの方法は、抽出の際のリン酸濃度を濃縮操作等によって調整する必要があるため操作が煩雑であり、さらに抽出の際に有機溶媒が水に溶解するため、抽出後の排水処理という問題もある。
【0005】
本発明は上記問題を解決するもので、下水汚泥焼却灰等のリン含有固形物からリンを高選択的かつ高回収率で回収できるリン回収方法を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記問題を解決するために、本発明のリン含有固形物からのリン回収方法は、下水汚泥焼却灰のリン含有固形物からのリン回収方法であって、酸抽出槽において前記リン含有固形物より酸溶液によってリン分を抽出し、固液分離装置において不溶物を分離した後、この酸溶液をリン吸着装置において両性イオン交換性を有する金属水和酸化物に接触させて、酸溶液中にリン酸イオンとして含まれるリン分を金属水和酸化物に吸着させ、リン酸イオンが吸着除去された酸溶液は酸抽出槽に返送し、リン分を吸着した金属水和酸化物にアルカリ溶液を接触させて金属水和酸化物よりリン酸イオンをアルカリ溶液側に移行させ、リン酸イオンが移行したアルカリ溶液を回収するようにしたものである。
【0007】
たとえば、下水汚泥焼却灰等、リンを含有する固形物に酸溶液を添加し、混合・攪拌することにより、固形物中のリン分を酸溶液中に抽出し、不溶物を遠心分離機などで分離して、リン分(リン酸イオンとなっている)を含んだ酸溶液を取り出す。
【0008】
そして、この酸溶液を、金属水和酸化物を充填した吸着装置に通液して、酸溶液中のリン酸イオンを金属水和酸化物に吸着させ、次いでこの吸着装置にアルカリ溶液を通液して金属水和酸化物に吸着したリン酸イオンをアルカリ溶液中に溶出させ、リン酸イオンを含んだアルカリ溶液を回収する。
【0009】
このとき、酸溶液によるリン抽出率は図3に示したような経時変化を示すので、1〜2時間程度抽出するのが好適である。また、酸溶液によるリン抽出率は図4に示したようにpH2を境に大きく変化するため、抽出後のpHが2以下になるのが望ましく、一方では金属水和酸化物への吸着率はpH2〜3が最も高いので、酸溶液のpHを1.5〜2.0に調節するのが好ましい。
【0010】
またこのとき、金属水和酸化物に接触させるアルカリ溶液は、このアルカリ溶液中に溶出されるリン酸イオンの塩が析出しない温度に上げて調節し、回収したアルカリ溶液は、リン酸イオンの塩が析出する温度に下げて調節し、それによりアルカリ溶液より析出したリン酸塩を分離回収するようにしてもよい。
【0011】
あるいは、回収したアルカリ溶液に、このアルカリ溶液に不溶性であって、かつこのアルカリ溶液中に含まれるリン酸イオンと反応して不溶性リン酸塩を生成する金属水酸化物を添加して、リン酸塩を析出させ、析出したリン酸塩を分離回収するようにしてもよい。
【0012】
酸溶液としては、たとえば塩酸、硫酸等の水溶液を使用することができる。リン酸イオンが吸着除去された後の酸溶液は再び抽出に使用できる。
金属水和酸化物としては、たとえばアルミニウム水和酸化物(Al/nHO,AlOOH等で表現される)、鉄水和酸化物(FeOOH等)、クロム水和酸化物、マンガン水和酸化物、チタン水和酸化物、スズ水和酸化物、ジルコニウム水和酸化物、あるいはその組み合わせを使用することができ、リン酸イオン選択吸着能の高いジルコニウム水和酸化物が好ましい。リン酸イオンが溶出された後の金属水和酸化物は再び吸着剤として使用できる。
【0013】
アルカリ溶液としては、NaOH、KOH、LiOH等の溶解度の高い水酸化物などを使用できる。
金属水酸化物としては、たとえばCa(OH),Mg(OH),Fe(OH),Fe(OH)を使用できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は下水汚泥焼却灰(以下、焼却灰という)よりリンを回収するリン回収施設の概略全体構成を示し、このリン回収施設は、酸抽出槽1と固液分離装置2とリン吸着装置3,4と結晶析出槽5と固液分離装置6とアルカリ貯溜槽7とを備えている。
【0015】
酸抽出槽1には、焼却灰8を供給する供給手段と希硫酸9を注入する注入手段と攪拌装置10とが設けられるとともに、後段から返送される希硫酸を注入する希硫酸注入管11が開口している。
【0016】
固液分離装置2は、酸抽出槽1の内容物を投入されて固液分離する遠心分離機などの装置であり、分離液側に送液管12が設けられている。
リン吸着装置3,4はそれぞれ、内部に吸着剤としてのジルコニウム鉄水和酸化物造粒体3a,4aが充填されており、上部に送液管12またはその分岐管13とアルカリ貯溜槽7からの送液管14またはその分岐管15とが開口し、下部に送液管16,17が設けられている。送液管16,17はそれぞれ分岐していて、一方の分岐管18,19は結晶析出槽5の上方で開口し、他方の分岐管20,21は上述した希硫酸注入管11に連通している。
【0017】
固液分離装置6は、結晶析出槽5の内容物を投入されて固液分離する遠心分離機などの装置であり、分離液側に送液管22が設けられている。
アルカリ貯溜槽7には、NaOH溶液23を供給する供給手段と攪拌装置24とが設けられるとともに、固液分離装置6から導かれた送液管22が開口しており、内部で適当濃度のNaOH溶液を調製して貯溜するようになっている。
【0018】
25,26,27,28は搬出手段、29,30,31,32,33,34,35,36はバルブである。
上記した施設におけるリン回収操作を説明する。
【0019】
酸抽出槽1の内部に焼却灰8と希硫酸9とを投入し、攪拌装置10により混合・攪拌しつつ槽内の希硫酸9のpH1.5〜2.0に調節することにより、焼却灰8中のリン分を希硫酸9中に抽出し、その後に槽内の混合物を搬出手段25により固液分離装置2に投入して焼却灰とリン含有硫酸とに分離する。
【0020】
そして、バルブ29,33を開け、バルブ30,31,32,34,35,36を閉じた状態で、固液分離装置2において分離されたリン含有硫酸を送液管12を通じてリン吸着装置3に通液し、リン含有硫酸中のリン酸イオン(リン分はリン酸イオンとなっている)をジルコニウム鉄水和酸化物3aに吸着させる。リン酸イオンが吸着除去された希硫酸は送液管16,分岐管20,希硫酸注入管11を通じて酸抽出槽1に返送する。
【0021】
リン含有硫酸の通液によってジルコニウム鉄水和酸化物3aが飽和に達し、リン吸着能が低下したら、バルブ31,34を開け、バルブ29,33を閉じて、アルカリ貯溜槽7内のNaOH溶液を送液管14を通じてリン吸着装置3に通液し、ジルコニウム鉄水和酸化物3aに吸着したリン酸イオンをNaOH溶液中に溶出させ、このリン酸イオンを含んだNaOH溶液を送液管16,分岐管18を通じて結晶析出槽5内に回収する。
【0022】
このとき、アルカリ貯溜槽7およびリン吸着装置3内のNaOH溶液の温度を、このNaOH溶液中で生成するリン酸ナトリウムの結晶が析出しないなるべく低い温度に維持する。そして、結晶析出槽5内において、回収したNaOH溶液を静置することによりリン酸ナトリウム結晶を析出させる。
【0023】
そして、結晶析出槽5内のリン酸ナトリウム結晶を含んだNaOH溶液を搬出手段27により固液分離装置6に投入して、リン酸ナトリウム結晶とNaOH溶液とに分離し、分離されたリン酸ナトリウム結晶を搬出手段28により回収する。
【0024】
分離されたNaOH溶液は送液管22を通じてアルカリ貯溜槽7に送るが、リン酸イオンの溶出と結晶化のためにNaOHが消費されているので、適当量のNaOH溶液23を補充し、攪拌装置24で均一に混合する。
【0025】
なお、リン吸着装置3においてNaOH溶液によりリン酸イオンを溶出させている間は、上記と同様にしてリン吸着装置4にリン含有硫酸を通液してジルコニウム鉄水和酸化物にリン酸イオンを吸着させる。リン吸着装置3のリン吸着能が回復し、リン吸着装置4のリン吸着能が低下したら、これと逆の操作を行う。
【0026】
次に本発明の実施例を示す。
1%希硫酸に、表1に示す組成の下水汚泥焼却灰を100g/L入れ、2時間攪拌してリンを抽出した後、濾過により焼却灰とリン酸含有硫酸溶液とに分離した。得られたリン酸含有硫酸溶液はpH2.0であり、リン抽出率85%を達成できた。リン酸含有硫酸溶液の成分を表2に示す。
【0027】
次に直径18mmのカラムに吸着剤(高さ40cm)を充填し、上記リン酸含有硫酸をSV(空間速度)0.7/hrで通水したところ、99%のリン酸が除去された。リン酸が除去された硫酸溶液の成分を表3に示す。
【0028】
上記のカラムに35℃の1%NaOH溶液をSV6/hrで5時間通水したところ、リン回収率は95%となり、回収されたNaOH溶液を15℃に冷却するとNaPO・HOの結晶が析出した。この結晶のリン含有率は16.4%−DSであり、NaPO・HOとしての純度は96%であった。また焼却灰からの回収率は80%であった。
【0029】
【表1】
Figure 0003625625
【0030】
【表2】
Figure 0003625625
【0031】
【表3】
Figure 0003625625
【0032】
なお、リン酸ナトリウムを結晶化させることなく、高濃度にリン酸ナトリウムを含んだNaOH溶液をそのまま取り出すようにしてもよい。
図2は他のリン回収施設の概略全体構成を示し、上記した結晶析出槽5に代えて、消石灰37を添加する添加手段,攪拌装置38を備えた沈殿槽39が設けられている。
【0033】
この施設では、リン酸イオンを含んだNaOH溶液を沈殿槽39内に回収し、消石灰37を添加し、攪拌装置38により攪拌・混合して、リン酸カルシウム沈殿を生成させた後、槽内の混合物を搬出手段27により固液分離装置6に投入して、固形リン酸カルシウムとNaOH溶液とに分離し、分離された固形リン酸カルシウムを搬出手段28により回収する。
【0034】
このような消石灰37を添加する方法によれば、図1を用いて説明した方法のようにNaOH溶液の温度操作が不必要であるため操作が簡便になる。
【0035】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、両性イオン交換性を有する金属水和酸化物を用いることにより、下水汚泥焼却灰等、リンを含有する固形物からリンを極めて高純度、高収率で分離回収することができ、焼却灰およびそれより製造される建材の高品位化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態におけるリン回収方法が行われるリン回収施設の概略全体構成を示した説明図である。
【図2】本発明の他の実施形態におけるリン回収方法が行われるリン回収施設の概略全体構成を示した説明図である。
【図3】焼却灰からのリン抽出率の経時変化を示したグラフである。
【図4】焼却灰からのリン抽出率のpH依存性を示したグラフである。
【符号の説明】
1 酸抽出槽
3 リン吸着装置
3a ジルコニウム鉄水和酸化物
4 リン吸着装置
4a ジルコニウム鉄水和酸化物
5 結晶析出槽
8 焼却灰
9 希硫酸
23 NaOH溶液
39 沈殿槽
37 消石灰

Claims (4)

  1. 下水汚泥焼却灰のリン含有固形物からのリン回収方法であって、酸抽出槽において前記リン含有固形物より酸溶液によってリン分を抽出し、固液分離装置において不溶物を分離した後、この酸溶液をリン吸着装置において両性イオン交換性を有する金属水和酸化物に接触させて、酸溶液中にリン酸イオンとして含まれるリン分を金属水和酸化物に吸着させ、リン酸イオンが吸着除去された酸溶液は酸抽出槽に返送し、リン分を吸着した金属水和酸化物にアルカリ溶液を接触させて金属水和酸化物よりリン酸イオンをアルカリ溶液側に移行させ、リン酸イオンが移行したアルカリ溶液を回収することを特徴とするリン含有固形物からのリン回収方法。
  2. 酸溶液のpHを1.5〜2.0に調節することを特徴とする請求項1記載のリン含有固形物からのリン回収方法。
  3. 金属水和酸化物に接触させるアルカリ溶液は、このアルカリ溶液中に溶出されるリン酸イオンの塩が析出しない温度に上げて調節し、回収したアルカリ溶液は、リン酸イオンの塩が析出する温度に下げて調節し、それによりアルカリ溶液より析出したリン酸塩を分離回収することを特徴とする請求項1記載のリン含有固形物からのリン回収方法。
  4. 回収したアルカリ溶液に、このアルカリ溶液に不溶性であって、かつこのアルカリ溶液中に含まれるリン酸イオンと反応して不溶性リン酸塩を生成する金属水酸化物を添加して、リン酸塩を析出させ、析出したリン酸塩を分離回収することを特徴とする請求項1記載のリン含有固形物からのリン回収方法。
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