JP3617039B2 - 低アルコール酒の製造方法及び低アルコール酒 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、低アルコール酒の製造方法及び低アルコール酒に関する。
【0002】
【従来の技術】
適度の飲酒が人の健康保持において効能を有することは、『酒は百薬の長』であると諺言されることからも、伝統的に是認されてきたのは勿論のこと、科学的にも種々の点から立証されていることは言うまでもない。そして、酒の生命は香りと飲んだ時の旨味と、飲んだ後の酔い心地にもある。したがって、これらを満足させる酒を製造することが常に製造者にとっては課題である。この酒類について、近時低カロリー、低アルコール度数で健康のために良いこと、或は下戸や女性などにも飲みやすいようにアルコール度数をおさえたヘルシーな低アルコール度数の清酒等が氷で冷やしたオンザロックや或は熱燗としても愛飲されている。例えば、低アルコール度の清酒等については、白米、麹、水を発酵させて生成されたもろみに加水してアルコール濃度を13%以下に落として市場に提供している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の低アルコール度の酒は、酒を飲み慣れた人にとっては軽い辛みとして味覚するものの、もともと酒を飲用したことがない女性や下戸の人等にとってはアルコール発酵飲料独特の単に苦くて辛いだけの飲料であり、飲用しにくいものである。また、低アルコール酒といっても通常のアルコール発酵工程を行なわねばならず、発酵工程だけでも2〜3週間程度が必要で、製造時間がかかり、製造効率が劣る問題があった。
【0004】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、酒を全く飲用したことのない女性や下戸の人でも清涼飲料の感覚で抵抗なく飲用できるとともに、酒独特の飲用後の酔い心地を得ることのできる新規な低アルコール酒の製造方法並びに低アルコール酒を提供することである。また、本発明の他の目的は、極めて短時間で製造でき発酵管理等が簡単で製造コストを大幅に低減し得る低アルコール酒の製造方法並びに低アルコール酒を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、穀物麹を主原料としてa)これに加水する工程、b)加水した原料液を加温して所要の時間維持させて原料を糖化させる工程、c)糖化後の原料液内の原料をアルコール発酵させるための酵母を添加してアルコール度数が1%〜3%に達した時点で生成されたもろみに所要の量のアルコール分副原料を添加し、次いでアルコール発酵を強制中断させるか、または低温冷蔵保持させて酵母活性を低下させる工程、の各工程を順次行なうことからなる低アルコール酒の製造方法から構成される。
【0006】
その際、もろみには、もろみ全体のアルコール度数が8%〜11%となる量のアルコール分副原料を添加するとよい。
【0007】
好適には、アルコール分副原料のアルコール度数が30%〜40%とするとよい。
【0008】
さらに、糖化後の原料液内の原料を温度20℃〜25℃で、12〜40時間アルコール発酵させるとよい。
【0009】
また、本発明は、上記の工程を行なって得られる低アルコール酒から構成される。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明は、穀物の麹を主原料とし、これらに加水した麹原料を加温糖化し、糖化後の原料液内の原料をアルコール発酵の途中の所定のアルコール度数の状態で、このもろみに、そのもろみ全体のアルコール分が8%〜11%となる程度に所要の量のアルコール分副原料を添加させ、さらに、発酵を強制中断させるか、または、低温冷蔵保持させて酵母活性を低下させ、発酵を強制中断させる場合には、そのまま殺菌後もろみを濾過して低アルコール度数のにごり酒を得る。または、低温冷蔵保持させる場合には、そのまま長期貯蔵させてねかせてアルコール発酵により生成される炭酸ガスを含ませた発泡性のにごり酒を得るものである。
【0011】
穀物は例えば米、麦、大豆、コウリャンその他の穀物でもよく、それらの穀物に着床する麹菌を介して麹原料が生成される。麹原料の作成についてはあらかじめ穀物を蒸したり、水等に浸漬させて麹菌の繁殖を促進させやすいようにあらかじめ調整するとよい。また、作成した麹にそれぞれの穀物を加えて麹原料としても良い。生成された麹原料を製造用タンク内に投入し、加水する。加水する水は例えば原料の1.5倍〜2倍程度の量が好ましい。加水した原料液を例えば50℃〜60℃程度に加温しこれを7〜10時間程度維持しデンプンを糖化させる。麹菌が分泌するアミラーゼにより穀物中のでんぷんが分解され、ブドウ糖や麦芽糖等の糖分を生成させる。この際、糖化を促進させるために糖化酵素を添加してもよい。糖化終了後、いわゆる甘酒と同様の甘みのある原料液が得られる。その後、アルコール発酵の発酵条件を整えるために例えば常温程度までに冷却させるとよい。そして、この冷却された原料液に雑菌による汚染防止のために少量の例えば乳酸を加える。これには例えばクエン酸、リンゴ酸等を用いてもよい。そして、この原料液にアルコール発酵のための酵母を添加してアルコール発酵させる。
【0012】
糖化後の原料液内の原料は、例えば、温度20℃から25℃の常温まで冷却するとその後のアルコール発酵工程での管理等を行ないやすい。アルコール発酵させる条件は、添加する酵母が死滅しない範囲で任意に設定してよい。例えば5℃、10℃などの低温下ではそれだけ発酵が進みにくく、発酵時間を要する。例えば温度20℃から25℃の常温である場合には、12〜40時間程度でもろみのアルコール度数が1〜3容量%に至る。そして、本格的なアルコール発酵を始める前のもろみ中のアルコール度数が所定のアルコール度数に達した時点で所定の量のアルコール分副原料を添加する。その後、アルコール発酵を強制中断させるか、あるいは、低温冷蔵保持させて酵母活性を低下させる。
【0013】
アルコール発酵を強制中断させる場合は、例えば、もろみ中のアルコール度数が所定のアルコール度数に達した時点で、アルコール発酵中のもろみ内にアルコール分副原料を添加し、そのまま65℃程度の低温殺菌を行なうことにより酵母を死滅させてアルコール発酵を中断させると良い。
【0014】
アルコール発酵中のもろみを強制中断させるのは、もろみのアルコール度数が1〜3容量%となったときである。糖化直後の原料液は、いわば甘酒と同じ状態であり、アルコール度数はなく、したがって、飲用後の酔感は生じない。また、未だ麹臭あるいは粉臭が残り、あっさりした飲み口を損なう。アルコール発酵中のもろみ内には、もろみのアルコール度数が1容量%以上となった際に添加させることにより、エチルアルコール1%以上の致酔飲料として我が国の法規に適合させ得る。また、アルコール度数が1%を越えると甘味な味覚を維持しながら麹臭等がなくなり飲みやすくなる。一方、もろみのアルコール度数が3%を越えると、アルコール発酵が進んで苦みや渋みが出てきてしまう。このアルコール発酵によるアルコール度数が1〜3%に至った際に添加されるアルコール分副原料は添加後のもろみのアルコール度数が8〜11容量%程度の量がよい。通常のアルコール分が15〜18%程度の清酒と比べて低アルコール酒とし、下戸の人や酒の飲用経験のない女性、その他の人でも気軽に飲用し深酔いが少なくなる。アルコール分副原料としては、例えばアルコール、しょうちゅう、清酒等が用いられる。その際のそれらのアルコール分副原料のアルコール度数は、30〜40容量%のものがアルコール分調整の上で好ましい。その他ブドウ等、水あめ、有機酸、アミノ酸等を適宜添加してもよい。
【0015】
アルコール分副原料を添加した後、モロミをすり潰して3mm方眼以下の網目で濾過させ、低アルコールの白濁した濁り酒を得る。上記のように、原料に加水して1〜3%アルコール度数のアルコール発酵終了までに要するのは、常温では例えば1日〜2日であり、発酵時の温度条件等により、長くとも3日程度で完了する。
【0016】
一方、もろみ中のアルコール度数が1〜3容量%に至った際にアルコール発酵中のもろみ内に上記と同様の量のアルコール分副原料を添加し、その後低温冷蔵保持させて酵母活性を低下させる場合には、例えば、2℃程度に温度管理し、この状態で20日〜40日程度、長期貯蔵させることにより、これを濾過することによりアルコール発酵により生成される炭酸ガスを含有する発泡性のにごり酒を得る。低温冷蔵温度は、例えば少なくとももろみの凍結温度以上で、かつ、5℃以内程度が良い。
【0017】
アルコール発酵を強制中断して得るにごり酒も、低温冷蔵による酵母活性を低下させて得る濁り酒も、いずれも甘酸っぱい味、しかもヨーグルト風味の味があり、下戸の人や酒自体を飲用した経験がない女性や人々も抵抗なく飲用でき、かつ、飲用後の酔感を十分に享受し得る。また、低温貯蔵して酵母活性を低下させて炭酸ガスを含むにごり酒では、にごり酒でありながら、シャンパン風の味覚があり、さらに興趣の異なる酒を得、特に女性等にも愛飲され得る風味と味を備える。
【0018】
次に、本発明の低アルコール酒の製造方法並びに低アルコール酒の実施例及び試験例を説明する。
【実施例】
[実施例]米麹1000g、汲み水1800ml、酵素剤スミチームS0.5gを容器内で混合して55℃で8時間糖化を行なう。糖化終了後冷却器で20℃まで冷却し、90%乳酸11mlと酵母を添加する。温度20℃を維持して15時間程度アルコール発酵を行なう。モロミのアルコール分が1.5%になった時点で40%アルコール700mlを添加する。そのもろみをミキサーにて粉砕し、さらに3mmの網を濾して65℃で火入れ殺菌させる。これにより、アルコール分9%の低アルコールにごり酒を精製させた。
[試験例]乾燥米麹172g、汲み水344ml、酵素剤スミチームSG0.1gを容器内で混合して55℃(品温)で6.5時間糖化を行なう。糖化終了後冷却器で20℃まで冷却し、リンゴ酸1.65gと酵母(協会701号)1.0gを添加する。温度20℃を維持して各時間ごとのサンプリングを行なった。アルコール発酵工程における糖化後からアルコール度数1%〜3%に達した時点でアルコール分副原料の添加前のもろみ成分と、アルコール度数1%〜3%に達した時点で40%アルコール分副原料添加後のもろみ成分について、それぞれ12時間ごとのボーメ計数値(日本酒度浮ひょうを用いてその度数を読み比重としたもの)、アルコール度数(容量%)、酸度、アミノ酸度を測定し、図1のようにそれぞれ表に示した。また、アルコール分副原料添加前のもろみ成分について、図2にその経時変化をグラフに示した。さらに、40%アルコール分副原料を添加して、各時間ごとのサンプルをパネル5名にて官能試験評価を行なった結果を図3に示す。
[試験例の結果]
ボーメ計数値を甘み成分とすると、図3の官能評価結果では、No.4のサンプルのものが甘味と酸味が調和したものとして最も良い評価であった。この場合、ボーメ度9.0、アルコール度数10.4、酸度4.80、アミノ酸度3.40である。このNo.4のサンプルのアルコール副原料添加前のもろみは、ボーメ値11.6、アルコール度数2.3、酸度6.2、アミノ酸度4.10である。官能評価結果並びに測定条件によるバラツキを考慮すると、サンプルNo.2〜No.4が甘味と酸味が調和し飲用に最適の飲料を製造し得ることが確認された。すなわち、図2のグラフからも分かる通り、糖化後の原料のアルコール発酵によるアルコール度数が1%〜3%に達した時点でアルコール分副原料を添加して得られるもろみから最適の低アルコール酒が得られることが確認された。また、もろみには、もろみ全体のアルコール度数が8%〜11%となる量のアルコール分副原料を添加すると、好適な低アルコール酒が得られることが分かった。なお、アルコール度数が1%〜3%に達した時点でアルコール分副原料を添加し、その後、2℃程度の低温冷蔵保持させて酵母活性を低下させる例は、示していないが、酵母を介したアルコール発酵で炭酸ガスが分解生成されることが自明である以上、低温長期貯蔵によりもろみ内に炭酸ガスが吸収されてそれによる発泡性の低アルコール酒が得られることは実施を待つまでもない。
【0019】
実施例では米麹を原料とした例を示しているが、大豆、大麦、コウリャン、とうもろこし、その他の任意の穀物を原料としても良い。その他、本発明の低アルコール酒の製造方法及び低アルコール酒は、上記の実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の本質を逸脱しない範囲で任意の改変を行なっても本発明に含まれる。
【0020】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の低アルコール酒の製造方法及び低アルコール酒によれば、簡単な工程で、短期間で製造でき、良好な生産効率を保持して低コストであり、しかも甘酸っぱい味でヨーグルト風味の口当たりの良いにごり酒が得られ、下戸の人や飲酒の経験が全くない女性、その他の人にも抵抗なく飲用でき、かつ、その後の酔い状態を確実に得ることが可能である。また、低アルコール酒で発泡性の清涼感あるにごり酒を得、新鮮な変わり風味の酒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の低アルコール酒の製造方法の試験例結果を表で示す図である。
【図2】図1の試験例結果の一部をグラフ化した図である。
【図3】図1の試験例の官能試験結果を示す図である。

Claims (5)

  1. 穀物麹を主原料として
    a)これに加水する工程、
    b)加水した原料液を加温して所要の時間維持させて原料を糖化させる工程、
    c)糖化後の原料液内の原料をアルコール発酵させるための酵母を添加してアルコール度数が1%〜3%に達した時点で生成されたもろみに所要の量のアルコール分副原料を添加し、次いでアルコール発酵を強制中断させるか、または低温冷蔵保持させて酵母活性を低下させる工程、の各工程を順次行なうことからなる低アルコール酒の製造方法。
  2. もろみには、もろみ全体のアルコール度数が8%〜11%となる量のアルコール分副原料が添加される請求項1記載の低アルコール酒の製造方法。
  3. アルコール分副原料のアルコール度数が30%〜40%である請求項1または2記載の低アルコール酒の製造方法。
  4. 糖化後の原料液内の原料を温度20℃〜25℃で、12〜40時間アルコール発酵させる請求項1ないし3のいずれかに記載の低アルコール酒の製造方法。
  5. 請求項1ないし5のいずれかの方法で製造された低アルコール酒。
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