JP3614390B2 - 自動変速機のクラッチ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動変速機のクラッチ装置に関し、特に、その油圧サーボピストンの振れ止め構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動変速機のクラッチ装置の一形態として、クラッチドラムの背面側に油圧サーボピストンを配置し、該ピストンをクラッチドラムに対して引くことで、クラッチドラムに支持した摩擦部材(本明細書において、積層状態の摩擦材ディスクとセパレータプレートを総称して摩擦部材という)を押圧してクラッチを係合させるクラッチ構造が特開昭55−152946号公報及び特開平5−33816号公報において提案されている。この提案に係るクラッチ構造では、配置スペースを削減すべく2つのクラッチを組み合わせた構成が採られており、クラッチドラムを両クラッチに共通のサーボシリンダとし、背面配置のピストンは、前記のようにクラッチドラムの外側でドラムに嵌る配置としている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来のクラッチ構造では、クラッチドラムの背面側の油圧サーボのピストンは、クラッチドラムの全長を超えて、クラッチドラムの開口端部側まで延びる長尺な構造となるため、元々、Oリングなどのシール部材を介して心出し支持される支持位置と、ピストンの質量の中心で決まる重心位置に軸線方向のズレが存在する。このように支持位置と重心位置に大きなズレがあると、それにより、サーボピストンが傾いた状態で回転するため、クラッチドラム開口端部とサーボピストンが、周方向に長い範囲で接触する可能性がある。また、こうした接触状態は、クラッチドラムが遠心力により開口端部側で拡開することで、一層発生の可能性が大きくなる。そして、このような接触が起きると、サーボピストン作動時の摺動抵抗が大きくなり、クラッチ作動の応答性が損なわれ恐れがあった。
【0004】
そこで、本発明は、クラッチドラムとサーボピストンが径方向に重なる構造を持つものにおいて、サーボピストンの軸線に対する傾斜を防止した自動変速機のクラッチ装置を提供することを主たる目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、請求項1に記載のように、クラッチドラムに支持した摩擦部材をクラッチドラムの開口端部側から軸方向に押圧するサーボピストンが、少なくとも軸方向の一部でクラッチドラムと径方向に重ねて配置されてなる自動変速機のクラッチ装置において、前記クラッチドラムの開口端部近傍における周面とサーボピストンの周面とが対向する部分に、それら周面のいずれか一方から突出して、他方への当接部となる突部が設けられ、前記クラッチドラムの開口端部近傍は、クラッチドラムの拡開によりサーボピストンへの当接が生じる部分であり、前記クラッチドラムと前記サーボピストンとは、スプラインにより軸方向に相対移動し、前記突部は、前記スプラインの歯山部に形成された、ことを特徴とする構成により達成される。
【0007】
上記の構成において、請求項に記載のように、前記突部は、周方向に複数個配置された構成とするのが有効である。
【0008】
上記の構成において、請求項に記載のように、前記突部の周縁は、傾斜面を経て周面につながる構成とするのが望ましい。
【0009】
また、上記の構成において、請求項に記載のように、前記突部は、例えば、クラッチドラムに設けられ、サーボピストンの周面を支持する構成とすることができる。
【0010】
あるいは、上記の構成において、請求項に記載のように、前記突部は、サーボピストンに設けられ、クラッチドラムの周面に支持される構成とすることもできる。
【0011】
更に、上記いずれかの構成において、請求項に記載のように、前記突部は、プレスにより押出し形成されてなる構成とするのが有効である。
【0013】
更に、上記いずれかの構成において、請求項に記載のように、前記クラッチ装置は、有底筒状に形成され、底部を自動変速機の入力軸に連結されたクラッチドラムと、該クラッチドラムに対して軸方向に並べて配置された第1及び第2の摩擦部材と、第1の摩擦部材を係合させる第1のサーボピストンと、第2の摩擦部材を係合させる第2のサーボピストンと、を備え、第1の摩擦部材は、クラッチドラムの外径側に延びる第1のサーボピストンにより開口端部方向から押圧され、第2の摩擦部材は、クラッチドラムの内径側に配置された第2のサーボピストンにより押圧され、前記第1のサーボピストンは、その底部を貫通する部材と、クラッチドラムの筒状部の外周面とに対して油密状態で摺動可能に支持され、前記第2のサーボピストンは、その底部を貫通する部材と、クラッチドラムの筒状部の内周面とに対して油密状態で摺動可能に支持された構成とすることもできる。
【0014】
【発明の作用及び効果】
上記請求項1記載の構成では、クラッチドラムに対してサーボピストンが傾斜した場合に、クラッチドラムの開口端部近傍に設けられた突部を介する局部的な当接により、サーボピストンの支持部から遠い側で傾きが規制され、クラッチドラムとサーボピストンの周面間のクリアランスが確実に保持されるため、サーボピストンとクラッチドラム間のがた量を低減できる。
【0015】
請求項に記載の構成では、突部をクラッチドラムの拡開によりサーボピストンへの当接が生じる部分とすることで、遠心力によりクラッチドラムの開口端部側が拡開することによるクラッチドラムとサーボピストンの周方向に長い範囲での接触も防ぐことができる。更に、前記突部は、スプラインの歯山部に形成されているので、クラッチドラムに対してサーボピストンが傾斜した場合の上記局部的な当接面が小さい面積で足りると共に、トルクが作用するスプライン側面に対して上記突部が影響することがなく、スプラインによる相対移動に対する摺動抵抗を小さく抑えることができる。また、油抜き孔の形成を同時に行うことができるので、突部を設けることによる加工工数の増加とコスト増加を抑えることができる。
【0016】
次に、請求項に記載の構成では、突部が周方向に複数個配置されることで、周方向いずれの方向への傾斜にも対応することができる。
【0017】
次に、請求項に記載の構成によると、突部の周縁が傾斜面で周面につながることで、突部に鋭利な角部が形成されるのを防ぐことができるため、突部のエッジ当たりを防止でき、サーボピストンの傾斜により突部での接触が生じた場合でも、サーボピストンの摺動抵抗が少ない。したがって、クラッチ作動の応答性が損なわれることがない。
【0018】
更に、請求項記載の構成では、クラッチドラムに設けられた突部によりクラッチドラムにサーボピストンが支持されて、それにより周面間のクリアランスが保持される。
【0019】
また、請求項記載の構成では、サーボピストンに設けられた突部によりサーボピストンがクラッチドラムの周面に支持され、それにより周面間のクリアランスが保持される。
【0020】
また、請求項記載の構成では、突部の形成に関して、通常クラッチドラムに形成される油抜き用の孔のプレスによる抜きと同時に突部を押出し成形できるため、突部を設けることによる加工工数の増加とコスト増加を抑えることができる。
【0022】
また、請求項記載の構成では、自動変速機のコンパクト化のために2つのクラッチを組合せ配置としたものにおいて、クラッチドラムとサーボピストンの周面間のクリアランスの保持が可能となるほか、前記各効果が達成される。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿い、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明が適用される車両用自動変速機のギヤトレインの一形態をスケルトンで示す。このギヤトレインは、図示しないトルクコンバータを介してエンジン出力軸などに接続される入力軸Xと、車輪等に接続される出力軸Yに対して、それらの間に、フロントプラネタリギヤユニット(以下、実施形態の説明においてフロントプラネタリギヤと略記する)G1と、ミドルプラネタリギヤユニット(同じく、ミドルプラネタリギヤと略記する)G2と、リアプラネタリギヤユニット(同じく、リアプラネタリギヤと略記する)G3を配した構成とされている。
【0024】
フロントプラネタリギヤG1は、相互に噛合する対を成すピニオンP1,P1’を支持するキャリアC1と、一方のピニオンP1と噛合するサンギヤS1と、他方のピニオンP1’と噛合するリングギヤR1とを3要素とするデュアルプラネタリ構成とされている。そして、サンギヤS1は、クラッチC−3を介して入力軸Xに接続されると共に、直列に接続したワンウェイクラッチF−2及びブレーキB−3を介してギヤケースZに接続され、キャリアC1は、ワンウェイクラッチF−1及びブレーキB−1を介して並列にギヤケースZに接続され、リングギヤR1は、ミドルプラネタリギヤG2の後記するリングギヤR2に接続されている。
【0025】
ミドルプラネタリギヤG2は、サンギヤS2と、それに噛合するピニオンP2を支持するキャリアC2と、ピニオンP2と噛合するリングギヤR2とを3要素とするシンプルプラネタリ構成とされている。サンギヤS2は、クラッチC−1を介して入力軸Xに接続されると共に、リアプラネタリギヤG3の後記するサンギヤS3にも接続されている。キャリアC2は、クラッチC−2を介して入力軸Xに接続されると共に、リアプラネタリギヤG3の後記するリングギヤR3に接続され、更に、ワンウェイクラッチF−3を介してギヤケースZにも接続されている。
【0026】
リアプラネタリギヤG3は、サンギヤS3と、それに噛合するピニオンP3を支持するキャリアC3と、ピニオンP3と噛合するリングギヤR3とを3要素とするシンプルプラネタリ構成とされている。サンギヤS3は、サンギヤS2に接続されており、その接続関係から、クラッチC−1を介して入力軸Xに接続されている。キャリアC3は、出力軸Yに接続されている。リングギヤR3は、ミドルプラネタリギヤG2のキャリアC2に接続されると共に、ブレーキB−4を介してギヤケースZに接続され、先のキャリアC2との接続関係から、ワンウェイクラッチF−3を介してギヤケースZにも接続されている。
【0027】
かくしてこのギヤトレインでは、サンギヤS1、キャリアC1、相互接続の両リングギヤR1/R2、相互接続の両サンギヤS2/S3、及び相互接続のキャリア・リングギヤC2/R3を5つの入力又は反力支持に関わる変速要素とし、キャリアC3を出力要素とする構成とされている。
【0028】
次に、このギヤトレインの作動を、図1のギヤトレインと併せて、図2の速度線図と図3の係合図表を参照して説明する。なお、図2における各縦線は、3つのプラネタリギヤG1〜G3の各変速要素及び出力要素の関係を、横軸方向の間隔をギヤ比として表し、縦軸方向の長さは、入力回転を1とする速度比を表す。また、図3における○印は各クラッチ及びブレーキについては係合、ワンウェイクラッチについてはロックを表し、括弧付の○印はエンジンブレーキ時の係合、●印はトルク伝達に関与しない係合を表す。
【0029】
第1速(1ST)は、図3の係合図表に示すように、クラッチC−1を係合することで、入力軸XとサンギヤS2/S3が連結されると共に、キャリア・リングギヤC2/R3の逆回転がワンウェイクラッチF−3により阻止されることで、リアプラネタリギヤG3によるトルク伝達で達成される。この状態で、図2の速度線図に示すように、入力軸Xの回転がクラッチC−1を介して直接サンギヤS3に入力される。すると、停止状態にあるリングギヤR3に自転の反力を支持されるピニオンP3の公転がキャリアC3に出力され、これが出力軸Yの出力回転となる。この出力回転は、図2の速度線図上で、サンギヤS2/S3入力(速度比1)、キャリア・リングギヤC2/R3固定(速度比0)の2点を通る直線とキャリアC3を表す縦線との交点(図に○印で示す)の速度比で表される最大減速比の正回転である第1速(1ST)回転となる。この際、ミドルプラネタリギヤG2は、サンギヤS2の正回転(速度比1)に対してキャリアC2が固定となるため、リングギヤR2が減速逆回転で空転する。この際のギヤ比は、リアプラネタリギヤG3のギヤ比λ=Zs /ZR 3 (ただし、ZS 3 :サンギヤS3の歯数、ZR 3 :リングギヤR3の歯数)により定まり、
(1 +λ)/λ
となる。
【0030】
第2速(2ND)は、図3に示すように、クラッチC−1の係合に加えて、ブレーキB−3を係合することで達成される。この状態では、第1速時に空転状態にあったフロントプラネタリギヤG1のサンギヤS1の回転が、ブレーキB−3の係合によりワンウェイクラッチF−2のロックが有効とされることで阻止される。一方、第1速時と同様にサンギヤS2/S3に入る入力によりピニオンP2の回転を介してリングギヤR1/R2が逆回転方向のトルクを受けるが、このトルクがフロントプラネタリギヤG1においてサンギヤS1が係止されていることでキャリアC1を逆回転させる方向のトルクになるのに対してワンウェイクラッチF−1がロックしてその回転を阻止するため、結局、リングギヤR1/R2の回転は阻止される。この結果、ミドルプラネタリギヤG2は、サンギヤS2/S3入力、リングギヤR1/R2固定の状態となり、キャリア・リングギヤC2/R3は減速回転する。したがって、リアプラネタリギヤG3については、サンギヤS2/S3入力、キャリア・リングギヤC2/R3減速回転の状態が生じ、図2に示すように、このキャリア・リングギヤC2/R3減速回転よりは高速の減速回転がキャリアC3の回転となり、出力軸Yに第2速(2ND)回転が出力される。この際のギヤ比は、ミドルプラネタリギヤG2のギヤ比を、λ=ZS 2 /ZR 2 (ただし、ZS 2 :サンギヤS2の歯数、ZR 2 :リングギヤR2の歯数)とすると、
(1+λ)(1+λ)/(λ+λ+λλ
となる。
【0031】
第3速(3RD)は、図3に示すように、クラッチC−1とクラッチC−3の係合により達成される。この状態では、入力軸Xの回転は、クラッチC−1を介してサンギヤS2/S3に入力され、同時に、クラッチC−3の係合によりサンギヤS1に入力される。この場合、フロントプラネタリギヤG1では、サンギヤS1への入力によりワンウェイクラッチF−2がフリーとなり、代わってワンウェイクラッチF−1がロックし、キャリアC−1の逆回転がケースZへの係止により阻止されるため、リングギヤR1/R2が減速回転する。また、ミドルプラネタリギヤG2では、サンギヤS2/S3入力に対してリングギヤR1/R2が減速回転となるため、キャリア・リングギヤC2/R3は減速回転する。この結果、リアプラネタリギヤG3では、サンギヤS2/S3入力、キャリア・リングギヤC2/R3減速回転の状態が生じるため、これらの回転に拘束されてキャリアC3には、図2に示すように、キャリア・リングギヤC2/R3の回転よりは高く、サンギヤS2/S3の入力回転よりは低い減速回転が出力され、この回転が出力軸Yの第3速(3RD)回転となる。この際、ブレーキB−3は、ダウンシフト時の係合操作を不要とすべく、図3に●印で示すように係合状態に維持されるが、それと直列のワンウェイクラッチF−2がフリー状態なので、ブレーキB−3の係合は第3速の達成の妨げとはならない。この際の、ギヤ比は、フロントプラネタリギヤG1のギヤ比を、λ=ZS 1 /ZR 1 (ただし、ZS 1 :サンギヤS1の歯数、ZR 1 :リングギヤR1の歯数)とすると、
(1+λ)(1+λ)/{(1+λ)(1+λ)−(1−λ)}
となる。
【0032】
第4速(4TH)は、図3に示すように、クラッチC−1とクラッチC−2の係合により達成される。この状態では、入力軸Xの回転は、クラッチC−1からサンギヤS2/S3へ入力されると共に、クラッチC−2を介してキャリア・リングギヤC2/R3にも入力され、リアプラネタリギヤG3において、サンギヤS2/S3及びキャリア・リングギヤC2/R3同時入力による直結回転が生じる。この結果、キャリアC3接続の出力軸Yからは、入力軸Xと直結の第4速(4TH)が出力される。
【0033】
この際、クラッチC−3及びブレーキB−3は、図3に●印で示すように、係合状態となっているが、フロントプラネタリギヤG1は、サンギヤS1に入力軸Xの回転が伝達される一方で、ミドルプラネタリギヤG2が、入力軸Xと直結状態で正回転することから、そのリングギヤR2に連結されたリングギヤR1にも入力軸Xの回転が入力され、フロントプラネタリギヤG1は全体が直結状態で回転する。第4速状態のギヤ比は、上記のように全段直結状態の回転となるので、ギヤ比設定に関わりなく1となる。
【0034】
第5速(5TH)は、図3に示すように、クラッチC−2、クラッチC−3及びブレーキB−1の係合により達成される。この状態では、入力軸Xの回転は、クラッチC−2を介してリアプラネタリギヤG3のキャリア・リングギヤC2/R3に入力されると共に、クラッチC−3を介してフロントプラネタリギヤG1のサンギヤS1に入力される。これに対して、キャリアC1がブレーキB−1により係止されることで、リングギヤR1/R2は減速正回転となり、キャリア・リングギヤC2/R3には、入力軸Xの回転が入力されることで、サンギヤS2/S3は増速回転となる。この結果、リアプラネタリギヤG3において、キャリア・リングギヤC2/R3入力、サンギヤS2/S3増速回転の状態が成立するため、キャリアC3から出力軸Yへは、入力回転に対して増速の第5速(5TH)回転が出力される。この際、ブレーキB−3は、ダウンシフト時の係合操作を不要とすべく、図3に●印で示すように、係合状態を維持されるが、ワンウェイクラッチF−2がフリー状態となっているので、これらの係合は第5速達成の妨げとはならない。この際の、ギヤ比は、
λ(1+λ)/{λ(1+λ)+(1−λ)λ
となる。
【0035】
後進(REV)は、図3に示すように、クラッチC−3を係合すると共に、ブレーキB−4を係合することで達成される。この状態では、入力軸Xの回転が、クラッチC−3を介してフロントプラネタリギヤG1のサンギヤS1に入力され、それによりキャリアC1がワンウェイクラッチF−1のロックで係止されることから、デュアルプラネタリ構成のフロントプラネタリギヤG1のリングギヤR1/R2は減速の正回転となる。これに対して、キャリア・リングギヤC2/R3はブレーキB−4により係止されるので、これを反力要素としてサンギヤS2/S3は入力回転と同様の速度比で逆回転し、それにより減速逆回転するキャリアC3から出力軸Yへは、後進用の減速回転が出力される。この際のギヤ比は、
λ(1+λ)/λλ
となる。
【0036】
なお、前記の各変速段の達成状況から明らかなように、各ワンウェイクラッチは、入力回転に対する逆回転を阻止する要素として配置されているため、出力軸Y側から入力軸X側にトルクが伝達されるエンジンブレーキ(コースト)時には、これらのロックによるトルク伝達や反力支持はできない。そこで、このギヤトレインでは、ブレーキB−1又はブレーキB−2をワンウェイクラッチF−1に対する並列の係合要素、ブレーキB−4をワンウェイクラッチF−3に対する並列の係合要素として、図3に括弧付の○印で示すように、通常の作動に加えて、エンジンブレーキ(コースト)時に係合させている。
【0037】
前記構成のギヤトレインに対して、本発明の技術思想は、クラッチC−2とクラッチC−3を対象として適用されている。図4は本発明を適用した第1実施形態のクラッチ装置を備える自動変速機の軸方向部分断面を示し、図5はその一部を拡大して示し、図6は拡大部の周面形状を平面に展開して示す。このクラッチ装置は、クラッチドラム1に支持した摩擦部材3をクラッチドラム1の開口端部側から軸方向に押圧するサーボピストン4が、軸方向の大部分でクラッチドラム1と径方向に重合配置されてなるクラッチ装置を構成している。そして、本発明の特徴に従い、クラッチドラム1の開口端部近傍における周面とサーボピストン4の周面とが対向する部分に、それら周面のクラッチドラム1側から突出して、サーボピストン4への当接部となる突部19が設けられている。
【0038】
この形態では、突部19は、図6に示すように、クラッチドラム1のスプライン1aの歯山部に一定間隔(本形態において1つ置きに)周方向に複数個配置されている。また、図5に詳細を示すように、突部19の周縁は、傾斜面19aを経てクラッチドラム1のスプライン1aの歯山部の周面につながる形状とされている。ここに言う周縁とは、歯山部の外周面から傾斜周面に至る所定の範囲を言い、傾斜面19aの概念には周方向のみに曲率を持つ円錐面のみでなく傾斜方向にも曲率を持つ曲面を含むものであり、この形状は、エッジ当たりを生じないようにする形状である。この場合の突部19は、図5に示す断面形状からも分かるように、プレスにより押出し形成されてなる。サーボピストン4は、クラッチドラム1に対してスプライン係合による相対移動をするが、スプラインの歯山部に突部19が形成されているので、クラッチドラムに対してサーボピストンが傾斜した場合の突部による局部的な当接面が小さい面積で足りると共に、トルクが作用するスプライン側面に対して突部19が影響することがなく、スプラインによる相対移動の摺動抵抗を小さく抑えることができる。
【0039】
図4に戻って、この形態におけるクラッチ装置は、有底筒状に形成され、底部を自動変速機の入力軸7に連結されたクラッチドラム1と、クラッチドラム1に対して軸方向に並べて配置された第1及び第2の摩擦部材3,9と、第1の摩擦部材3を係合させる第1のサーポピストン4と、第2の摩擦部材9を係合させる第2のサーポピストン6とを備える。第1の摩擦部材3は、クラッチドラム1の外径側に延びる第1のサーポピストン4により開口端部方向から押圧され、第2の摩擦部材9は、クラッチドラム1の内径側に配置された第2サーポピストン6により押圧される構成とされている。第1のサーポピストン4は、その底部を貫通する部材11と、クラッチドラム1の筒状部12aの外周面とに対して油密状態で摺動可能に支持され、第2のサーポピストン6は、その底部を貫通する部材11と、クラッチドラム1の筒状部12aの内周面とに対して油密状態で摺動可能に支持されている。
【0040】
各部について更に詳述すると、このクラッチ装置のクラッチドラム1は、油圧サーボシリンダの内周側部材を構成する型成形品からなる軸状部材11と、外周側部材を構成するプレス品からなるカップ状部材12とで構成される。軸状部材11は、2つの油圧サーボシリンダの径方向位置をずらすべく、外径側を段付状とされ、その大径側が外側の油圧サーボのピストン4の内径側を貫通して、サーボピストン4の摺動面とされ、小径側が内側の油圧サーボのピストン6の内径側を貫通してサーボピストン6の摺動面とされている。軸状部材11の内径側は、変速機ケースボス部8への支持部を構成する中間の縮径部を挟んで、ボス部8の外周に嵌る側が平滑な円筒面の油路接続部とされ、ボス部8を超えて延びる部分が入力軸7に連結するスプライン係合部とされている。カップ状部材12は、カップの底部にあたる中心孔付の径方向フランジ部と、その外周側から軸方向に延びる短筒状部12aと、それに続く円錐部と、更にそれに続く長円筒部とを有する構造とされ、長円筒部はそのほぼ全長に渡って形成されたスプライン1aにより2組の摩擦部材3,9の外周側支持部を構成する。こうした構成からなる軸状部材11とカップ状部材12は、軸状部材11の外径側の段差部にカップ状部材12の中心孔を嵌めて溶接により固定一体化されている。
【0041】
両クラッチのハブ2,5は、中心孔を有する径方向フランジ部と、その外周側を軸方向に延びる筒状部を有するカップ状のプレス成形品で構成される。それぞれのハブ2,5の筒状部には、摩擦部材3,9の軸方向長に対応するスプラインが形成され、摩擦部材3,9の内周側支持部を構成する。両ハブ2,5の径方向フランジ部の内周側は、それぞれ異なる動力伝達軸に連結されている。
【0042】
2組の摩擦部材3,9は、それぞれ相互に積層された複数の摩擦材ディスク31,91とセパレータプレート32,92から構成され、各摩擦材ディスク31,91は、それらの内周側に形成されたスプライン歯(図の上半分は歯山部分、下半分は歯底部分の断面を示す)をハブ2,5のスプライン(同じく、上半分は歯底部分、下半分は歯山部分の断面を示す)に嵌合させてハブ2,5に軸方向可動に回り止め支持され、各セパレータプレート32,92は、それらの外周側に形成されたスプライン歯(同じく、上半分は歯山部分、下半分は歯底部分の断面を示す)をクラッチドラム1のスプライン(同じく、上半分は歯底部分、下半分は歯山部分の断面を示す)1aに嵌合させてクラッチドラム1に軸方向可動に回り止め支持されている。こうした構成からなる摩擦部材3,9は、それらの一端側のセパレータプレートをクラッチドラム1の内周周回溝に嵌めたスナップリング13,14に当接させることで、それぞれクラッチドラム1の閉鎖端側及び開口端側への軸方向移動を規制されている。そして、クラッチドラム1の開口端側の摩擦部材3については、他端側のセパレータプレートに押圧部42からのクラッチ係合力を受けることで相互に係合して、クラッチドラム−ハブ1,2間でトルクを伝達する。また、クラッチドラム1の閉鎖端側の摩擦部材9については、直接サーボピストン6からのクラッチ係合力を受けることで相互に係合して、クラッチドラム1とハブ5間でトルクを伝達する。
【0043】
外側の油圧サーボのピストン4は、軸方向にずれた2つの環状径方向フランジ部40a,40bを短筒部40cで連結したサーボピストン本体40と、一方の環状径方向フランジ部40bの外周に内径方向への屈曲部先端41dを連結した延出部41としてのアプライチューブで構成されている。短筒部40cを挟む他方の環状径方向フランジ部40aの外周と一方の環状径方向フランジ部40bの内周には、それぞれOリングが嵌合され、環状径方向フランジ部40bの内周側のOリングが、クラッチドラム1の短筒状部12aの外周に嵌り、軸状部材11の外径側大径部に嵌ったOリングと協動して、サーボピストン本体40を軸状部材部11とクラッチドラム1に対して封止状態に心出し支持している。他方の環状径方向フランジ部40aの外周のOリングは、カップ状のキャンセルプレート15の筒状部に嵌り、キャンセル室の外周側を封止している。アプライチューブ41には、そのサーボピストン本体40につながる根元部分から全長の概ね1/3の長さの範囲にスプライン41cが形成され、その内周側に位置するクラッチドラム1のスプライン1aとの嵌合(図の上半分の断面は、アプライチューブ41側の歯底とクラッチドラム1側の歯山との噛合断面、下半分の断面は、アプライチューブ41側の歯山とクラッチドラム1側の歯底との噛合断面を示す)によりサーボピストン4全体をクラッチドラム1に対して回り止めしている。
【0044】
本クラッチ構造では、クラッチドラム1の外径側に、軸方向に長尺のサーボピストン延出部41が配設されることになるため、Oリングを介して軸状部材11とクラッチドラム1の円筒状部12aの外周面に支持されたサーボピストン4の重心位置は、該支持部の軸方向位置よりクラッチドラム1の開口端部方向にずれた軸方向位置にあり、それにより軸線に対して傾きやすい構造となっている。そのため、前記のように、クラッチドラム1の開口端部近傍にドラム周面から外径方向に突出する突部19を設けて、この傾きを制限する構成が採られている。
【0045】
本形態では、図6に平面視の形状を示すように、突部19は円形の突起とされている。この突起19は、その周縁から山裾状に広がる傾斜面19aを持つ形状とされ、それによりサーボピストン4がクラッチドラム1に対して傾いた場合でも、サーボピストン4の内周面に対して突起19がエッジ当りしない配慮がなされている。
【0046】
こうした構成からなるクラッチ装置は、変速機ケースボス部8のそれぞれの周回油路から軸状部材11のそれぞれの油路を経て各シリンダ内に油圧を供給することで個別に係合作動する。本発明に係る外側のクラッチC−3(図1参照)、すなわち、クラッチドラム1、第1のサーボピストン4、第1の摩擦部材3及びハブ2からなるクラッチについては、油圧の供給でサーボピストン4がクラッチドラム1に対して押し出されることで、アプライチューブ41先端の押圧部42をスナップリング43を介してクラッチドラム1側に引張り、それにより、一端側をスナップリング13を介してクラッチドラム1に支持された摩擦部材3をスナップリング13と押圧部42との間で押圧して、摩擦部材3の摩擦材ディスク31とセパレータプレート32の係合によりクラッチ係合状態となる。また、シリンダ内からの油圧の排出で、リターンスプリング17の荷重でアプライチューブ41を押し戻すクラッチ解放操作時は、アプライチューブ41の戻りにつれてその先端の押圧部42もアプライチューブ41の内周側に張出す凸部との係合で押し戻されて、摩擦部材3との係合状態から引き離される。
【0047】
内側のクラッチC−2(図1参照)、すなわち、クラッチドラム1、第2のサーボピストン6、摩擦部材9及びハブ5からなるクラッチの作動については、特に従来の一般的クラッチの作動と異なるところがないので説明を省略する。
【0048】
こうしたクラッチの係合、解放作動に際して、この実施形態によれば、油圧サーボをクラッチドラム1の外側に配置した引き型クラッチC−3において、クラッチドラム1に対してサーボピストン4が傾斜した場合に、クラッチドラム1の開口端部近傍に設けられた突部19を介する当接により、サーボピストン4の支持部から遠い側で傾きが規制され、クラッチドラム1とサーボピストン4の周面間のクリアランスが確実に保持されるため、サーボピストン4とクラッチドラム1間のがた量を低減できる。また、突部19が周方向に複数個配置されることで、周方向いずれの方向への傾斜にも対応することができる。
【0049】
更に、突部19の周縁が傾斜面19aでクラッチドラム1の周面、詳しくはクラッチドラム1のスプライン1aの歯山部の周面につながることで、突部19に鋭利な角部が形成されるのを防ぐことができるため、サーボピストン4の内周面への突部19のエッジ当たりを防止でき、サーボピストン4の傾斜により突部19での接触が生じた場合でも、サーボピストン4の摺動抵抗が少ない。したがって、クラッチ作動の応答性が損なわれることがない。なお、この第1実施形態では、突部19をクラッチドラム1側に設けているが、サーボピストン4側に設けても、上記の各効果は同様に達成される。
【0050】
また、突部19の形成に関して、通常クラッチドラム1には、摩擦部材3を潤滑後の油を排出するために油抜き孔1bが必要とされ、この油抜き孔1bは、プレスによる打ち抜き加工とされるが、この孔抜き同時に突部19を押出し成形することで、突部19を設けることによる加工工数の増加とコスト増加を抑えることができる。
【0051】
次に、図7は、本発明の第2実施形態を示す。この第2実施形態では、前記第1実施形態と同様に、クラッチドラム1に支持した摩擦部材3をクラッチドラム1の開口端部側から軸方向に押圧するサーボピストン4が、少なくとも軸方向の一部でクラッチドラム1と径方向に重合配置されてなる自動変速機のクラッチ装置を前提として、クラッチドラム1の開口端部に、該開口端部のサーボピストン4周面へのエッジ当たりを防ぐ面取りRが設けられている。
【0052】
詳しくは、面取りRは、クラッチドラム1のカップ状部12におけるスプライン1aの歯山部がカップ状部材12の端部で終端する角部を曲面状に切欠くことで形成されている。こうした形態を採ることで、クラッチドラム1に対してサーボピストン4が傾斜した場合に、クラッチドラム1の開口端部に設けられた面取りRで当接が生じるため、面取りRの曲面の適宜の部分でクラッチドラム1の外周面とサーボピストン4の内周面が当接することになるため、鋭利な角部によるエッジ当たりを防止でき、サーボピストン4の傾斜により開口端部での接触が生じた場合でも、サーボピストン4の摺動抵抗が少ない。したがって、クラッチ作動の応答性が損なわれることがない。
【0053】
以上、本発明の技術思想の理解の便宜のために、2つの実施形態を例として説明したが、本発明は、例示の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の個々の請求項に記載の事項の範囲内で、種々に具体的な構成を変更して実施することができるものである。例えば、本発明の適用は、例示のような共通のクラッチドラム1に並べて2組の第1及び第2の摩擦部材を支持する2つのクラッチの一方への適用に限定されるものではなく、第1及び第2の摩擦部材を軸方向に並べて配置しながらも、第2の摩擦部材をクラッチドラムの内周側に支持するのに対して、第1の摩擦部材をクラッチドラムに対して背面配置のサーボピストンの内周側に支持し、クラッチドラムの背後側の油圧サーボへの油圧供給によりサーボピストンが引張られたときに、サーボピストンの外端側の支持部材の移動につれた第1の摩擦部材がクラッチドラムの開口端部と上記支持部材との間で押圧されることで係合状態となるクラッチへの適用も可能である。そして、こうした構成も当然に本発明の範疇に包含される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のクラッチ装置の適用に係る自動変速機のギヤトレインを示すスケルトン図である。
【図2】図1のギヤトレインの作動を示す速度線図である。
【図3】図1のギヤトレインにより達成される変速段と係合要素の作動をギヤ比設定例と共に示す係合図表である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るクラッチ装置の構成を適用した自動変速機の軸方向部分断面図である。
【図5】図4の部分拡大図である。
【図6】図4の拡大部分のクラッチドラム外周面を平面に展開して示す展開側面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るクラッチ装置の構成を適用した自動変速機の軸方向部分断面図である。
【符号の説明】
1 クラッチドラム
11 軸状部材
12a 筒状部
19 突起(突部)
19a 傾斜面
3 第1の摩擦部材
4 第1のサーボピストン
6 第2のサーボピストン
7 入力軸
9 第2の摩擦部材
R 面取り

Claims (7)

  1. クラッチドラムに支持した摩擦部材をクラッチドラムの開口端部側から軸方向に押圧するサーボピストンが、少なくとも軸方向の一部でクラッチドラムと径方向に重ねて配置されてなる自動変速機のクラッチ装置において、
    前記クラッチドラムの開口端部近傍における周面とサーボピストンの周面とが対向する部分に、それら周面のいずれか一方から突出して、他方への当接部となる突部が設けられ、
    前記クラッチドラムの開口端部近傍は、クラッチドラムの拡開によりサーボピストンへの当接が生じる部分であり、
    前記クラッチドラムと前記サーボピストンとは、スプラインにより軸方向に相対移動し、前記突部は、前記スプラインの歯山部に形成された、ことを特徴とする自動変速機のクラッチ装置。
  2. 前記突部は、周方向に複数個配置された、請求項1記載の自動変速機のクラッチ装置。
  3. 前記突部の周縁は、傾斜面を経て周面につながる、請求項1又は2記載の自動変速機のクラッチ装置。
  4. 前記突部は、クラッチドラムに設けられ、サーボピストンの周面を支持する、請求項1〜のいずれか1項記載の自動変速機のクラッチ装置。
  5. 前記突部は、サーボピストンに設けられ、クラッチドラムの周面に支持される、請求項1〜のいずれか1項記載の自動変速機のクラッチ装置。
  6. 前記突部は、プレスにより押出し形成されてなる、請求項1〜のいずれか1項記載の自動変速機のクラッチ装置。
  7. 前記クラッチ装置は、
    有底筒状に形成され、底部を自動変速機の入力軸に連結されたクラッチドラムと、
    該クラッチドラムに対して軸方向に並べて配置された第1及び第2の摩擦部材と、
    第1の摩擦部材を係合させる第1のサーボピストンと、
    第2の摩擦部材を係合させる第2のサーボピストンと、
    を備え、
    第1の摩擦部材は、クラッチドラムの外径側に延びる第1のサーボピストンにより開口端部方向から押圧され、
    第2の摩擦部材は、クラッチドラムの内径側に配置された第2のサーボピストンにより押圧され、
    前記第1のサーボピストンは、その底部を貫通する部材と、クラッチドラムの筒状部の外周面とに対して油密状態で摺動可能に支持され、
    前記第2のサーボピストンは、その底部を貫通する部材と、クラッチドラムの筒状部の内周面とに対して油密状態で摺動可能に支持された、請求項1〜のいずれか1項記載の自動変速機のクラッチ装置。
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