JP3618699B2 - 自動変速機のクラッチ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動変速機のクラッチ装置に関し、特に、その摩擦部材を押圧する油圧サーボピストンの構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動変速機のクラッチ装置において、そのクラッチドラムとハブとに支持した摩擦部材(本明細書において、積層状態の摩擦材ディスクとセパレータプレートを総称して摩擦部材という)を押圧してクラッチを係合させる油圧サーボのピストンは、通常は、クラッチドラムの内周側をサーボシリンダとして、ドラムに軸方向可動に嵌め込み配置されることから、ドラムの閉鎖側端部と摩擦部材との間に位置する。これに対して、配置スペースを削減すべく2つのクラッチを組み合わせた構造のクラッチ装置においては、一方のクラッチのドラムを両クラッチに共通のサーボシリンダとする構造を採る場合があり、こうした場合は、他方のクラッチのピストンは、ドラムの外側でドラムに外嵌する構造となる。このような構造を採るクラッチとして、従来、特開平5−33835号公報や特開平5−33816号公報に記載のものがある。
【0003】
こうした構造のクラッチ装置におけるドラムの外側に構成される油圧サーボのピストンは、クラッチドラムの開口端側から摩擦部材を押圧する構造となるため、ピストンをクラッチドラムの外周側を通して開放端部までアプライチューブにより延長し、その先端に別体の押圧部材を支持し、ピストンをドラムに対して引くことでクラッチを係合するクラッチ構造が採られる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記クラッチ構造において、ピストンと別体の押圧部は、クラッチ係合時に係合反力を受ける方向には、スナップリングなどの部材によって軸方向規制される。しかし、その反対方向の、クラッチ係合力を伝達する方向に対する規制部材がないため、クラッチ解放時等において、押圧部は摩擦部材に近付く方向への軸方向移動が自由となる。また、アプライチューブは長尺であることで、これに僅かな傾きが生じても、それにより押圧部は相対的に大きく傾くことになる。そしてこれらの状態あるいはそれらの相乗で押圧部が摩擦部材側に寄ると、摩擦部材の解放時の摩擦材ディスクとセパレータプレートとの隙間が十分保てなくなることで、クラッチの引き摺り力が増加し、それにより燃費などに悪影響を及ぽす懸念があった。
【0005】
そこで、本発明は、ピストンに対してその押圧部が別体構成とされるものにおいて、押圧部の摩擦部材に対する傾きや寄りを防いだクラッチ構造を提供することを主たる目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記の目的は、請求項1に記載のように、クラッチドラムとハブとに支持された摩擦部材を軸方向に押圧してクラッチを係合させるピストンを備える自動変速機のクラッチ装置において、前記ピストンは、該ピストンから軸方向に延び出す延出部と、該延出部とは別体の押圧部とを有し、該押圧部は、その軸方向における摩擦部材に面する側に設けられた内側規制手段と、それとは反対側に設けられた外側規制手段とにより、延出部に対する軸方向両側への移動を規制して延出部に支持され、そして前記クラッチドラムは、軸方向に延びるスプラインを有し、前記内側規制手段は、前記延出部の周壁から径方向内側に突出する凸部であり、前記凸部は、前記クラッチドラムのスプラインの外周歯底部と位相を同じくすることを特徴とする。
【0007】
上記の構成において、請求項2に記載のように、前記クラッチドラムとピストンにより画定される油圧サーボが、クラッチドラムの背面側に位置し、前記ピストンの延出部は、クラッチドラムの外周側に延在し、前記押圧部は、クラッチドラムの開口端部側に配置された構成とすることができる。
【0008】
また、上記の構成において、請求項3に記載のように、前記外側規制手段は、筒状の延出部に嵌められたスナップリングであり、前記内側規制手段は、延出部の周壁から径方向内側に突出する凸部であり、該凸部は延出部の周壁の周方向に間隔を置いて複数個設けられている構成を採るのが有効である。
【0009】
また、上記の構成において、請求項4に記載のように、前記延出部は、前記クラッチドラムのスプラインとのスプライン係合によりクラッチドラムの外周に回り止めされてなる構成とするのが有効である。
【0010】
更に、上記いずれかの構成において、請求項5に記載のように、前記凸部は、延出部の周壁の押出し成形により形成され、前記延出部は、凸部と、スナップリングを嵌合する溝部において厚肉とされた構成とするのが有効である。
【0011】
【発明の作用及び効果】
上記請求項1記載の構成では、延出部の外側規制手段がクラッチ係合反力を受ける方向の押圧部の軸方向移動を規制し、内側規制手段がクラッチ解放時の延出部に対する押圧部の軸方向位置ずれを規制する。したがって、クラッチ解放時に、押圧部が傾いたり、摩擦部材側に寄ることで摩擦部材に接触するようなことがなくなり、摩擦部材の引き摺りが防止される。この結果、ピストンに対して押圧部を別体とすることに伴うクラッチの引き摺り力の増加が防がれ、燃費などへの悪影響を解消することができる。
【0012】
次に、請求項2に記載の構成によると、油圧サーボをクラッチドラムの外側に配置した引き型クラッチにおいて、上記のようなピストンに対して押圧部を別体とすることに伴うクラッチの引き摺り力の増加が防がれ、燃費などへの悪影響を解消することができる。
【0013】
更に、請求項3記載の構成では、ピストンの延出部へスナップリングを嵌め込む簡単な構成により、押圧部のクラッチ係合反力を受ける方向の軸方向移動を確実に規制できる。また、延出部の凸部により、押圧部の傾きや、摩擦部材方向への寄りを規制することができる。更に凸部が押圧部の周方向に複数あることで、ピストンのいかなる方向への傾斜に対しても、確実に押圧部の軸方向移動を規制できる。
【0014】
そして、請求項記載の構成では、ピストンの延出部とクラッチドラムとのスプライン係合に対して、延出部の凸部が干渉することがないため、クラッチ組付けの際、凸部の付設が障害とならず、容易に組み付けを行うことができる。また、延出部の凸部を、スプラインと同時に形成することができるため、工数低減となる。
【0015】
また、請求項5記載の構成では、凸部を延出部周壁の押出しにより形成することで、凸部の付設に伴う延出部の加工コストの増加を抑えることができる。更に、凸部と周方向溝形成部の強度をその部分の厚肉化により保ちながら、剛性の必要のない部分を薄肉化でき、それによりピストンの軽量化が達成される。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿い、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明が適用される車両用自動変速機のギヤトレインの一形態をスケルトンで示す。このギヤトレインは、図示しないトルクコンバータを介してエンジン出力軸などに接続される入力軸Xと、車輪等に接続される出力軸Yに対して、それらの間に、フロントプラネタリギヤユニット(以下、実施形態の説明においてフロントプラネタリギヤと略記する)G1と、ミドルプラネタリギヤユニット(同じく、ミドルプラネタリギヤと略記する)G2と、リアプラネタリギヤユニット(同じく、リアプラネタリギヤと略記する)G3を配した構成とされている。
【0017】
フロントプラネタリギヤG1は、相互に噛合する対を成すピニオンP1,P1’を支持するキャリアC1と、一方のピニオンP1と噛合するサンギヤS1と、他方のピニオンP1’と噛合するリングギヤR1とを3要素とするデュアルプラネタリ構成とされている。そして、サンギヤS1は、クラッチC−3を介して入力軸Xに接続されると共に、直列に接続したワンウェイクラッチF−2及びブレーキB−3を介してギヤケースZに接続され、キャリアC1は、ワンウェイクラッチF−1及びブレーキB−1を介して並列にギヤケースZに接続され、リングギヤR1は、ミドルプラネタリギヤG2の後記するリングギヤR2に接続されている。
【0018】
ミドルプラネタリギヤG2は、サンギヤS2と、それに噛合するピニオンP2を支持するキャリアC2と、ピニオンP2と噛合するリングギヤR2とを3要素とするシンプルプラネタリ構成とされている。サンギヤS2は、クラッチC−1を介して入力軸Xに接続されると共に、リアプラネタリギヤG3の後記するサンギヤS3にも接続されている。キャリアC2は、クラッチC−2を介して入力軸Xに接続されると共に、リアプラネタリギヤG3の後記するリングギヤR3に接続され、更に、ワンウェイクラッチF−3を介してギヤケースZにも接続されている。リングギヤR2は、フロントプラネタリギヤG1のリングギヤR1に接続されると共に、ブレーキB−2を介してギヤケースZに接続されている。
【0019】
リアプラネタリギヤG3は、サンギヤS3と、それに噛合するピニオンP3を支持するキャリアC3と、ピニオンP3と噛合するリングギヤR3とを3要素とするシンプルプラネタリ構成とされている。サンギヤS3は、サンギヤS2に接続されており、その接続関係から、クラッチC−1を介して入力軸Xに接続されている。キャリアC3は、出力軸Yに接続されている。リングギヤR3は、ミドルプラネタリギヤG2のキャリアC2に接続されると共に、ブレーキB−4を介してギヤケースZに接続され、先のキャリアC2との接続関係から、ワンウェイクラッチF−3を介してギヤケースZにも接続されている。
【0020】
かくしてこのギヤトレインでは、サンギヤS1、キャリアC1、相互接続の両リングギヤR1/R2、相互接続の両サンギヤS2/S3、及び相互接続のキャリア・リングギヤC2/R3を5つの入力又は反力支持に関わる変速要素とし、キャリアC3を出力要素とする構成とされている。
【0021】
次に、このギヤトレインの作動を、図1のギヤトレインと併せて、図2の速度線図と図3の係合図表を参照して説明する。なお、図2における各縦線は、3つのプラネタリギヤG1〜G3の各変速要素及び出力要素の関係を、横軸方向の間隔をギヤ比として表し、縦軸方向の長さは、入力回転を1とする速度比を表す。また、図3における○印は各クラッチ及びブレーキについては係合、ワンウェイクラッチについてはロックを表し、括弧付の○印はエンジンブレーキ時の係合、●印はトルク伝達に関与しない係合を表す。
【0022】
第1速(1ST)は、図3の係合図表に示すように、クラッチC−1を係合することで、入力軸XとサンギヤS2/S3が連結されると共に、キャリア・リングギヤC2/R3の逆回転がワンウェイクラッチF−3により阻止されることで、リアプラネタリギヤG3によるトルク伝達で達成される。この状態で、図2の速度線図に示すように、入力軸Xの回転がクラッチC−1を介して直接サンギヤS3に入力される。すると、停止状態にあるリングギヤR3に自転の反力を支持されるピニオンP3の公転がキャリアC3に出力され、これが出力軸Yの出力回転となる。この出力回転は、図2の速度線図上で、サンギヤS2/S3入力(速度比1)、キャリア・リングギヤC2/R3固定(速度比0)の2点を通る直線とキャリアC3を表す縦線との交点(図に○印で示す)の速度比で表される最大減速比の正回転である第1速(1ST)回転となる。この際、ミドルプラネタリギヤG2は、サンギヤS2の正回転(速度比1)に対してキャリアC2が固定となるため、リングギヤR2が減速逆回転で空転する。この際のギヤ比は、リアプラネタリギヤG3のギヤ比λ=Zs /ZR 3 (ただし、ZS 3 :サンギヤS3の歯数、ZR 3 :リングギヤR3の歯数)により定まり、
(1 +λ)/λ
となる。
【0023】
第2速(2ND)は、図3に示すように、クラッチC−1の係合に加えて、ブレーキB−3を係合することで達成される。この状態では、第1速時に空転状態にあったフロントプラネタリギヤG1のサンギヤS1の回転が、ブレーキB−3の係合によりワンウェイクラッチF−2のロックが有効とされることで阻止される。一方、第1速時と同様にサンギヤS2/S3に入る入力によりピニオンP2の回転を介してリングギヤR1/R2が逆回転方向のトルクを受けるが、このトルクがフロントプラネタリギヤG1においてサンギヤS1が係止されていることでキャリアC1を逆回転させる方向のトルクになるのに対してワンウェイクラッチF−1がロックしてその回転を阻止するため、結局、リングギヤR1/R2の回転は阻止される。この結果、ミドルプラネタリギヤG2は、サンギヤS2/S3入力、リングギヤR1/R2固定の状態となり、キャリア・リングギヤC2/R3は減速回転する。したがって、リアプラネタリギヤG3については、サンギヤS2/S3入力、キャリア・リングギヤC2/R3減速回転の状態が生じ、図2に示すように、このキャリア・リングギヤC2/R3減速回転よりは高速の減速回転がキャリアC3の回転となり、出力軸Yに第2速(2ND)回転が出力される。この際のギヤ比は、ミドルプラネタリギヤG2のギヤ比を、λ=ZS 2 /ZR 2 (ただし、ZS 2 :サンギヤS2の歯数、ZR 2 :リングギヤR2の歯数)とすると、
(1+λ)(1+λ)/(λ+λ+λλ
となる。
【0024】
第3速(3RD)は、図3に示すように、クラッチC−1とクラッチC−3の係合により達成される。この状態では、入力軸Xの回転は、クラッチC−1を介してサンギヤS2/S3に入力され、同時に、クラッチC−3の係合によりサンギヤS1に入力される。この場合、フロントプラネタリギヤG1では、サンギヤS1への入力によりワンウェイクラッチF−2がフリーとなり、代わってワンウェイクラッチF−1がロックし、キャリアC−1の逆回転がケースZへの係止により阻止されるため、リングギヤR1/R2が減速回転する。また、ミドルプラネタリギヤG2では、サンギヤS2/S3入力に対してリングギヤR1/R2が減速回転となるため、キャリア・リングギヤC2/R3は減速回転する。この結果、リアプラネタリギヤG3では、サンギヤS2/S3入力、キャリア・リングギヤC2/R3減速回転の状態が生じるため、これらの回転に拘束されてキャリアC3には、図2に示すように、キャリア・リングギヤC2/R3の回転よりは高く、サンギヤS2/S3の入力回転よりは低い減速回転が出力され、この回転が出力軸Yの第3速(3RD)回転となる。この際、ブレーキB−3は、ダウンシフト時の係合操作を不要とすべく、図3に●印で示すように係合状態に維持されるが、それと直列のワンウェイクラッチF−2がフリー状態なので、ブレーキB−3の係合は第3速の達成の妨げとはならない。この際の、ギヤ比は、フロントプラネタリギヤG1のギヤ比を、λ=ZS 1 /ZR 1 (ただし、ZS 1 :サンギヤS1の歯数、ZR 1 :リングギヤR1の歯数)とすると、
(1+λ)(1+λ)/{(1+λ)(1+λ)−(1−λ)}
となる。
【0025】
第4速(4TH)は、図3に示すように、クラッチC−1とクラッチC−2の係合により達成される。この状態では、入力軸Xの回転は、クラッチC−1からサンギヤS2/S3へ入力されると共に、クラッチC−2を介してキャリア・リングギヤC2/R3にも入力され、リアプラネタリギヤG3において、サンギヤS2/S3及びキャリア・リングギヤC2/R3同時入力による直結回転が生じる。この結果、キャリアC3接続の出力軸Yからは、入力軸Xと直結の第4速(4TH)が出力される。
【0026】
この際、クラッチC−3及びブレーキB−3は、図3に●印で示すように、係合状態となっているが、フロントプラネタリギヤG1は、サンギヤS1に入力軸Xの回転が伝達される一方で、ミドルプラネタリギヤG2が、入力軸Xと直結状態で正回転することから、そのリングギヤR2に連結されたリングギヤR1にも入力軸Xの回転が入力され、フロントプラネタリギヤG1は全体が直結状態で回転する。第4速状態のギヤ比は、上記のように全段直結状態の回転となるので、ギヤ比設定に関わりなく1となる。
【0027】
第5速(5TH)は、図3に示すように、クラッチC−2、クラッチC−3及びブレーキB−1の係合により達成される。この状態では、入力軸Xの回転は、クラッチC−2を介してリアプラネタリギヤG3のキャリア・リングギヤC2/R3に入力されると共に、クラッチC−3を介してフロントプラネタリギヤG1のサンギヤS1に入力される。これに対して、キャリアC1がブレーキB−1により係止されることで、リングギヤR1/R2は減速正回転となり、キャリア・リングギヤC2/R3には、入力軸Xの回転が入力されることで、サンギヤS2/S3は増速回転となる。この結果、リアプラネタリギヤG3において、キャリア・リングギヤC2/R3入力、サンギヤS2/S3増速回転の状態が成立するため、キャリアC3から出力軸Yへは、入力回転に対して増速の第5速(5TH)回転が出力される。この際、ブレーキB−3は、ダウンシフト時の係合操作を不要とすべく、図3に●印で示すように、係合状態を維持されるが、ワンウェイクラッチF−2がフリー状態となっているので、これらの係合は第5速達成の妨げとはならない。この際の、ギヤ比は、
λ(1+λ)/{λ(1+λ)+(1−λ)λ
となる。
【0028】
後進(REV)は、図3に示すように、クラッチC−3を係合すると共に、ブレーキB−4を係合することで達成される。この状態では、入力軸Xの回転が、クラッチC−3を介してフロントプラネタリギヤG1のサンギヤS1に入力され、それによりキャリアC1がワンウェイクラッチF−1のロックで係止されることから、デュアルプラネタリ構成のフロントプラネタリギヤG1のリングギヤR1/R2は減速の正回転となる。これに対して、キャリア・リングギヤC2/R3はブレーキB−4により係止されるので、これを反力要素としてサンギヤS2/S3は入力回転と同様の速度比で逆回転し、それにより減速逆回転するキャリアC3から出力軸Yへは、後進用の減速回転が出力される。この際のギヤ比は、
λ(1+λ)/λλ
となる。
【0029】
なお、前記の各変速段の達成状況から明らかなように、各ワンウェイクラッチは、入力回転に対する逆回転を阻止する要素として配置されているため、出力軸Y側から入力軸X側にトルクが伝達されるエンジンブレーキ(コースト)時には、これらのロックによるトルク伝達や反力支持はできない。そこで、このギヤトレインでは、ブレーキB−1又はブレーキB−2をワンウェイクラッチF−1に対する並列の係合要素、ブレーキB−4をワンウェイクラッチF−3に対する並列の係合要素として、図3に括弧付の○印で示すように、通常の作動に加えて、エンジンブレーキ(コースト)時に係合させている。
【0030】
前記構成のギヤトレインに対して、本発明の技術思想は、クラッチC−2とクラッチC−3を対象として適用されている。図4は本発明を適用したクラッチ装置を備える自動変速機の軸方向部分断面を示す。この第1実施形態に係るクラッチ装置は、クラッチドラム1とハブ2とに支持された摩擦部材3を軸方向に押圧してクラッチC−3(図1参照)を係合させるピストン4を備える。ピストン4は、ピストンから軸方向に延び出す延出部41と、延出部とは別体の押圧部42とを有する。押圧部42は、その軸方向における摩擦部材3に面する側に設けられた内側規制手段41aと、それとは反対側に設けられた外側規制手段43とにより、延出部41に対する軸方向両側への移動を規制して延出部41に支持されている。
【0031】
この形態では、クラッチドラム1とピストン4により画定される油圧サーボが、クラッチドラムの背面側に位置し、ピストン4の延出部41は、クラッチドラム1の外周側に延在し、押圧部42は、クラッチドラム1の開口端部側に配置されている。外側規制手段43は、筒状の延出部41の内周側に設けられた周方向溝41bに嵌められたスナップリングであり、内側規制手段41aは、延出部41の周壁から径方向内側に突出する凸部であり、この凸部は延出部41の周壁の周方向に間隔を置いて複数個、望ましくは等間隔に設けられている。
【0032】
延出部41は、クラッチドラム1とのスプライン係合によりクラッチドラム1の外周に回り止めされ、凸部41aは、クラッチドラム1のスプライン歯底部と位相を同じくしてなる。この場合の位相を同じくするとは、スプライン歯底部の数と凸部41aの数が必ずしも一致することを意味せず、凸部41aの数は、押圧部42の全周方向の傾きを防ぐ趣旨から自ずと必要数が定まることから、スプライン歯数が多い場合は、スプライン歯数に対して凸部41aの数が少ない設定、すなわち所定間隔ごとのスプライン歯底部に合わせて押圧部42が設けられる設定も当然にあり得る。このように、延出部41における凸部41aと、クラッチドラム1の外周に回り止めするためのスプライン41cの位相を合わせることで、加工に際して、回り止めのスプライン41cと同時に凸部41aを形成できるため、工数低減となる。
【0033】
凸部41aは、延出部41の周壁の押出し成形により形成され、延出部41は、凸部41aと、スナップリング43を嵌合する周方向溝41bの形成部を含む押圧部42を支持する部分において厚肉とされている。
【0034】
各部について更に詳述すると、クラッチ装置は共通のクラッチドラム1に対してハブ2,5を異にする2組のクラッチ(図にこれら2つのクラッチを構成する部材の断面にのみハッチングを付す)C−3,C−2(図1参照)で構成され、一方のクラッチC−2のキャンセル室付の油圧サーボは、クラッチドラム1の内側に、また本発明の適用に係る他方のクラッチC−3のキャンセル室付の油圧サーボは、クラッチドラム1の外側に配置されている。
【0035】
クラッチドラム1は、油圧シリンダの内周側部材を構成する型成形品からなるスリーブ状部11と、外周側部材を構成するプレス品からなるカップ状部12とで構成される。スリーブ状部11は、2つの油圧サーボのシリンダ内外径を異ならせるべく、外径側を段付状とされ、その大径側が外側の油圧サーボのピストン4の内径側の摺動面とされ、小径側が内側の油圧サーボのピストン6の内径側の摺動面とされている。スリーブ状部11の内径側は、変速機ケースボス部8への支持部を構成する中間の縮径部を挟んで、ボス部8の外周に嵌る側が平滑な円筒面の油路接続部とされ、ボス部8を超えて延びる部分が入力軸7に連結するスプライン係合部とされている。カップ状部12は、カップの底部にあたる中心孔付の径方向フランジ部と、その外周側から軸方向に延びる短筒部と、それに続く円錐部と、更にそれに続く長円筒部とを有する構造とされ、長円筒部はそのほぼ全長に渡って形成されたスプライン1aより2組の摩擦部材3,9の外周側支持部を構成する。こうした構成からなるスリーブ状部11とカップ状部12は、スリーブ状部11の外径側の段差部にカップ状部12の中心孔を嵌めて溶接により固定一体化されている。
【0036】
両クラッチのハブ2,5は、中心孔を有する径方向フランジ部と、その外周側を軸方向に延びる筒状部を有するカップ状のプレス成形品で構成される。それぞれのハブ2,5の筒状部には、摩擦部材3,9の軸方向長に対応するスプラインが形成され、摩擦部材3,9の内周側支持部を構成する。両ハブ2,5の径方向フランジ部の内周側は、それぞれ異なる動力伝達軸に連結されている。
【0037】
2組の摩擦部材3,9は、それぞれ相互に積層された複数の摩擦材ディスク31,91とセパレータプレート32,92から構成され、各摩擦材ディスク31,91は、それらの内周側に形成されたスプライン歯(図の上半分は歯山部分、下半分は歯底部分の断面を示す)をハブ2,5のスプライン(同じく、上半分は歯底部分、下半分は歯山部分の断面を示す)に嵌合させてハブ2,5に軸方向可動に回り止め支持され、各セパレータプレート32,92は、それらの外周側に形成されたスプライン歯(同じく、上半分は歯山部分、下半分は歯底部分の断面を示す)をドラム1のスプライン(同じく、上半分は歯底部分、下半分は歯山部分の断面を示す)1aに嵌合させてドラム1に軸方向可動に回り止め支持されている。こうした構成からなる摩擦部材3,9は、それらの一端側のセパレータプレートをドラム1の内周周回溝に嵌めたスナップリング13,14に当接させることで、それぞれドラム1の閉鎖端側及び開口端側への軸方向移動を規制されている。そして、ドラム1の開口端側の摩擦部材3については、他端側のセパレータプレートに押圧部42からのクラッチ係合力を受けることで相互に係合して、ドラム−ハブ1,2間でトルクを伝達する。また、ドラム1の閉鎖端側の摩擦部材9については、直接ピストン6からのクラッチ係合力を受けることで相互に係合して、ドラム1とハブ5間でトルクを伝達する。
【0038】
外側の油圧サーボのピストン4は、軸方向にずれた2つの環状径方向フランジ部40a,40bを短筒部40cで連結したピストン本体40と、一方の環状径方向フランジ部40bの外周に内径方向への屈曲部先端41dを連結した延出部41としてのアプライチューブで構成されている。短筒部40cを挟む他方の環状径方向フランジ部40aの外周と一方の環状径方向フランジ部40bの内周には、それぞれOリングが嵌合され、環状径方向フランジ部40bの内周側のOリングが、クラッチドラム1の短筒部外周に嵌り、スリーブ部11の外径側大径部に嵌ったOリングと協動して、ピストン本体40をスリーブ部11とドラム1に対して封止状態に心出し支持している。他方の環状径方向フランジ部40aの外周のOリングは、カップ状のキャンセルプレート15の筒状部に嵌り、キャンセル室の外周側を封止している。アプライチューブ41には、そのピストン本体40につながる根元部分から全長の概ね1/3の長さの範囲にスプライン41cが形成され、その内周側に位置するクラッチドラム1のスプライン1aとの嵌合(図の上半分の断面は、アプライチューブ41側の歯底とクラッチドラム1側の歯山との噛合断面、下半分の断面は、アプライチューブ41側の歯山とクラッチドラム1側の歯底との噛合断面を示す)によりピストン4全体をクラッチドラム1に対して回り止めしている。
【0039】
本クラッチ構造では、クラッチC−3の最外径側に、軸方向に長尺のピストン延出部41が配設されることになるため、クラッチC−3の回転による遠心力により、延長部としてのアプライチューブ41の、特に非円筒形部分が外周方向に膨らむ変形を生じやすい。そのため、本形態では、アプライチューブ41のピストン本体40側の根元部分にのみ、クラッチドラム1との相対回転規制のため変形に弱いスプライン41cを設け、中央部は遠心力に対する変形耐性の大きな円筒形状で軽量化のために薄肉構造とし、開口端部側を強度確保のために厚肉としている。なお、根元スプライン41c部分は、その配設ピッチを一定にすることで、クラッチ回転数(本形態では、クラッチのドラム1側が変速機の入力軸7に連結されていることから、この回転数は、変速機の制御に通常必要とされる入力回転数となる)検出センサ用の検出歯としても兼用できる。
【0040】
図5は図4のA−A断面を示すもので、摩擦部材3に面する側の内側規制手段としての凸部41aは、アプライチューブ41の厚肉部の周壁を円弧状に内径方向に押出し成形した構造とされている。なお、この押出し形状については、円弧状に限るものではなく、鋸刃状、矩形状とすることも当然に可能である。そして、この押出し形状に沿って、押圧部42側には切欠き42aが形成され、この凸部41aと切欠き42aの嵌合により押圧部42はアプライチューブ41に対して回り止めされ、結果的にピストン本体に対しても回り止めされている。したがって、本形態における凸部41aは、押圧部42の軸方向移動の規制と、回り止めの両機能を達成する。
【0041】
図4に戻って、内側の油圧サーボのピストン6は、環状径方向フランジ部の外周側から円錐状の押圧部が延び出す形状とされ、押圧部の先端を摩擦部材9の一方側のセパレータプレートに対峙させて、ピストン6の押出しで直接摩擦部材9を係合させる構成とされている。
【0042】
なお、両ピストン4,6及びキャンセルプレート15,16並びにドラム1のスリーブ部11で囲われるキャンセル室内には、それぞれのピストン4,6とキャンセルプレート15,16との間に圧縮荷重負荷状態で周方向に複数のリターンスプリング17,18が配置されている。
【0043】
こうした構成からなるクラッチ装置は、変速機ケースボス部8のそれぞれの周回油路からスリーブ部11のそれぞれの油路を経て各シリンダ内に油圧を供給することで個別に係合作動する。本発明に係る外側のクラッチC−3(図1参照)については、油圧の供給でピストン4がクラッチドラム1に対して押し出されることで、アプライチューブ41先端の押圧部42をスナップリング43を介してクラッチドラム1側に引張り、それにより、一端側をスナップリング13を介してクラッチドラム1に支持された摩擦部材3をスナップリング13とプレッシャプレート33との間で押圧して、摩擦部材3の摩擦材ディスク31とセパレータプレート32の係合によりクラッチ係合状態となる。また、シリンダ内からの油圧の排出で、リターンスプリング17の荷重でアプライチューブ41を押し戻すクラッチ解放操作時は、アプライチューブ41の戻りにつれてその先端の押圧部42も凸部41aとの係合で押し戻されて摩擦部材3との係合状態から確実に引き離される。したがって、図示のようなクラッチ解放状態で、遠心力や振動等で仮にアプライチューブ41が軸線に対して傾斜した場合でも、隙間を広げた摩擦部材3の外端側のセパレータプレートと押圧部42の隙間が確実に維持される。
【0044】
内側のクラッチC−2の作動については、特に従来の一般的クラッチの作動と異なるところがないので説明を省略する。
【0045】
かくして、この実施形態によれば、油圧サーボをクラッチドラム1の外側に配置した引き型クラッチC−3において、ピストン4の延出部41のスナップリング42がクラッチ係合反力を受ける方向の押圧部42の軸方向移動を規制し、凸部41aがクラッチ解放時の延出部41に対する押圧部42の軸方向位置ずれを規制する。したがって、クラッチ解放時に、押圧部42が傾いたり、摩擦部材3側に寄ることで摩擦部材3に接触するようなことがなくなり、摩擦部材3の引き摺りが防止される。この結果、ピストン4に対して押圧部42を別体とすることに伴うクラッチC−3の引き摺り力の増加が防がれ、燃費などへの悪影響を解消することができる。
【0046】
次に、図6及び図7は、参考例を示す。この参考例では、図6に部分断面を示すように、摩擦部材3に面する側とは反対側の外側規制手段43は、筒状の延出部41の内周側に設けられた周方向溝41bに嵌められたスナップリングであり、摩擦部材3に面する側の内側規制手段41aは、筒状の延出部41の先端に設けられたスリット41eの底部である。この形態のスリット41eは、押圧部42の全ての方向への傾斜を有効に防ぐ趣旨から、延出部41の周壁の周方向に間隔を置いて、望ましくは等間隔で、円周方向に4箇所設けられている。
【0047】
このように、内側規制手段41aが筒状の延出部41の内周面に対して第1実施形態とは逆に外周側に延びる面で構成されるため、この第2実施形態では、押圧部42の外周から径方向外側に、スリット41eの配設位置と合わせた位置に、外向きの突起42fが形成され、スリット41eとの嵌め合いにより、これら突起42fの軸方向面がスリット41eの軸方向面との係合により、押圧部42を延出部41に対して回り止めする。この形態では、押圧部42は、これらの突起42fとスリット41eの当接により摩擦部材3に近付く方向への移動を規制され、かつ、周方向溝41bに嵌められたスナップリングとの係合によりピストン作動時の係合力の伝達を行なう。
【0048】
こうした参考例の構成によっても、第1実施形態の場合と同様に、油圧サーボをクラッチドラム1の外側に配置した引き型クラッチC−3において、ピストン4の延出部41の外側規制手段としてのスナップリング42がクラッチ係合反力を受ける方向の押圧部42の軸方向移動を規制し、内側規制手段としてのスリット41eがクラッチ解放時の延出部41に対する押圧部42の軸方向位置ずれを規制する。したがって、この場合も、クラッチ解放時に、押圧部42が傾いたり、摩擦部材3側に寄ることで摩擦部材3に接触するようなことがなくなり、摩擦部材3の引き摺りが防止される。この結果、ピストン4に対して押圧部42を別体とすることに伴うクラッチC−3の引き摺り力の増加が防がれ、燃費などへの悪影響を解消することができる。
【0049】
以上、本発明の技術思想の理解の便宜のために、実施形態を例として説明したが、本発明は、例示の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の個々の請求項に記載の事項の範囲内で、種々に具体的な構成を変更して実施することができるものである。例えば、本発明の適用は、例示のようなドラム1を共通とする2つのクラッチの一方への適用に限定されるものではなく、摩擦部材と油圧サーボの配設位置が離れた単一のクラッチ装置にも適用可能なものであり、こうした場合、本発明における延出部がドラムの内側に配置され、押圧部がドラムの閉鎖端側に配置される構成もあり得る。そして、こうした構成も当然に本発明の範疇に包含される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のクラッチ装置の適用に係る自動変速機のギヤトレインを示すスケルトン図である。
【図2】図1のギヤトレインの作動を示す速度線図である。
【図3】図1のギヤトレインにより達成される変速段と係合要素の作動をギヤ比設定例と共に示す係合図表である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るクラッチ装置の構成を適用した自動変速機の軸方向部分断面図である。
【図5】図4のA−A断面図である。
【図6】参考例に係るクラッチ装置の構成を適用した自動変速機の軸方向部分断面図である。
【図7】図6のB−B方向側面である。
【符号の説明】
1 クラッチドラム
1a スプライン
2 ハブ
3 摩擦部材
4 ピストン
41 延出部
41a 凸部(内側規制手段)
41b 周方向溝
41c スプライン
41e スリット(内側規制手段)
42 押圧部
43 スナップリング(外側規制手段)

Claims (5)

  1. クラッチドラムとハブとに支持された摩擦部材を軸方向に押圧してクラッチを係合させるピストンを備える自動変速機のクラッチ装置において、
    前記ピストンは、該ピストンから軸方向に延び出す延出部と、該延出部とは別体の押圧部とを有し、
    該押圧部は、その軸方向における摩擦部材に面する側に設けられた内側規制手段と、それとは反対側に設けられた外側規制手段とにより、延出部に対する軸方向両側への移動を規制して延出部に支持され、
    前記クラッチドラムは、軸方向に延びるスプラインを有し、
    前記内側規制手段は、前記延出部の周壁から径方向内側に突出する凸部であり、
    前記凸部は、前記クラッチドラムのスプラインの外周歯底部と位相を同じくすることを特徴とする、自動変速機のクラッチ装置。
  2. 前記クラッチドラムとピストンにより画定される油圧サーボが、クラッチドラムの背面側に位置し、前記ピストンの延出部は、クラッチドラムの外周側に延在し、
    前記押圧部は、クラッチドラムの開口端部側に配置された、請求項1記載の自動変速機のクラッチ装置。
  3. 前記外側規制手段は、筒状の延出部の周方向溝に嵌められたスナップリングであり、
    前記凸部は、周方向に間隔を置いて複数個設けられている、請求項1又は2記載の自動変速機のクラッチ装置。
  4. 前記延出部は、前記クラッチドラムのスプラインとのスプライン係合によりクラッチドラムの外周に回り止めされてなる、請求項1ないし3のいずれか1項記載の自動変速機のクラッチ装置。
  5. 前記凸部は、延出部の周壁の押出し成形により形成され、前記延出部は、凸部と、スナップリングを嵌合する周方向溝の形成部において厚肉とされた、請求項3記載の自動変速機のクラッチ装置。
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