JP3608602B2 - 摩擦圧接用スタッドボルト - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼やアルミニウム合金などの母材表面上に接合されて他の部材を取付けるのに用いられるスタッドボルトに係わり、とくにスタッドボルトを回転させながら母材に押圧することによる摩擦熱および塑性変形を主として接合される摩擦圧接用のスタッドボルトに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
上記したようなスタッドボルトは、母材とスタッドボルトの頭部との間にアークを発生させてアーク熱によって溶接する方法(アークスタッド)、あるいはスタッドボルトを高速で回転させながら母材に押し付け、このときの摩擦熱によって母材およびスタッドボルトの頭部を加熱して接合する(摩擦圧接)方法などによって母材表面に接合される。
【0003】
このとき、スタッドボルトあるいは母材の接合表面に、水や油(防錆油等)、酸化被膜、錆、ごみなどの異物が付着していると接合部の品質に種々の悪影響が生じることになるが、溶融接合であるアークスタッドの場合には接合部が一旦溶融されていることからこれらに起因するブローホールなどが発生しやすいのに対して、固相接合である摩擦圧接においては、これらの異物に対して比較的鈍感であって、さほど深刻な影響はないとされていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、摩擦圧接によるスタッドボルトの接合においては、ブローホールのような欠陥は発生しにくいものの、接合に際して毎分5000回転を超える高速でスタッドボルトが母材表面に押圧されることから、母材表面に水や油が比較的大量に付着している場合には、これらの流体力学的な圧力によって母材との間の接触が絶たれる結果、非常に滑りやすくなるという、いわゆるハイドロプレーニング現象が生じることによって、母材との間に摩擦熱が発生しにくくなって接合不良が生じることがあるという問題点が判明し、このような問題点を解消することが摩擦圧接によるスタッドボルトの接合部の品質を常時良好に保持するための課題となっていた。
【0005】
【発明の目的】
本発明は、摩擦圧接によるスタッドボルト接合における上記課題に着目してなされたものであって、母材の接合面に水や油などが付着していたとしてもハイドロプレーニング現象の発生を防止することができ、もってスタッドボルトの良好な接合品質を確保することができる摩擦圧接用スタッドボルトを提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係わる摩擦圧接用スタッドボルトは、スタッドボルトを回転させながら、スタッド頭部を母材に押圧して接合する摩擦圧接用のスタッドボルトにおいて、スタッド頭部の母材との圧接面に、回転軸の中心を通って当該頭部の外周面まで連続する溝が設けてある構成としたことを特徴としており、摩擦圧接用スタッドボルトにおけるこのような構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0007】
本発明による摩擦圧接用スタッドボルトの実施態様として請求項2に係わるスタッドボルトにおいては、スタッドボルトの回転方向後方側の溝壁面の高さが回転方向前方側溝壁面よりも高くしてある構成としたことを特徴としており、同じく実施態様として請求項3に係わる摩擦圧接用スタッドボルトにおいては、溝がスタッドボルトの回転軸を中心とする放射状に形成してある構成としたことを特徴としており、このような摩擦圧接用スタッドボルトの構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0008】
【発明の作用】
本発明の請求項1に係わる摩擦圧接用スタッドボルトにおいては、スタッド頭部の母材との圧接面に、その回転中心を通って頭部の外周面に連続する溝が形成されているので、母材表面に水や油などが付着していたとしても、スタッドボルトが回転しながら母材表面に当接した際に、これらの水や油がスタッド頭部に形成された溝を通って接合部の外側に排除されることから、水や油によるハイドロプレーニング現象が防止され、母材との間に十分な摩擦熱が発生することによって、信頼性の高い良好な品質の接合部が得られることになる。なお、このとき、スタッド頭部の圧接面に形成される溝の断面形状としてはとくに限定されず、四角形、V形、U形、レ形、半円形など種々の形状を採用することができる。
【0009】
本発明による摩擦圧接用スタッドボルトの実施態様として請求項2に係わるスタッドボルトにおいては、前記溝の相対向する溝壁面の高さが、スタッドボルトの回転方向前方側よりも回転方向後方側の方が高くなるようにしてあるので、回転方向後方側の溝壁面先端部が母材の表面に確実に当接するようになり、母材表面に付着した水や油、さらには他の異物の接合部外側への排除がより確実に行われることになる。
【0010】
同じく実施態様として請求項3に係わる摩擦圧接用スタッドボルトにおいては、スタッド頭部の母材との圧接面に形成される溝がスタッドボルトの回転軸を中心として放射状に形成してあるので、溝内に収納された水や油などの異物が遠心力によってより確実かつ速やかに接合部外に排除されることになる。
【0011】
【発明の効果】
本発明の請求項1に係わる摩擦圧接用スタッドボルトは、上記構成、すなわちスタッド頭部の母材との圧接面に、回転軸の中心を通って外周面に連続する溝を設けたものであるから、この溝を通して母材表面の水や油などを接合部外に排除することができ、水や油によるハイドロプレーニング現象が生じなくなることから、母材表面の水や油などを完全に除去しなくても信頼性の高い良好な品質の接合部を得ることができ、スタッドボルトの摩擦圧接作業の工数削減が可能になるという極めて優れた効果をもたらすものである。
【0012】
本発明による摩擦圧接用スタッドボルトの実施態様として請求項2に係わるスタッドボルトにおいては、スタッドボルトの回転方向後方側の溝壁面高さが回転方向前方側よりも高くした構成のものであるから、回転方向後方側の溝壁面先端部が母材の表面に確実に当接して、母材表面の水や油などの異物を容易に溝内に導き入れることができ、これら異物の排除をより確実なものにすることができ、同じく実施態様として請求項3に係わる摩擦圧接用スタッドボルトにおいては、スタッド頭部の溝をスタッドボルトの回転軸を中心とした放射状に形成した構成のものであるから、溝内に導き入れた水や油などの異物を遠心力によってより確実かつ速やかに接合部の外側に排除することができるというさらに優れた効果がもたらされる。
【0013】
【実施例】
以下、本発明を図面に基づいて具体的に説明する。
【0014】
図1(a)および(b)は、本発明に係わる摩擦圧接用スタッドボルトの実施例として、スタッド頭部の母材との圧接面に断面矩形状の4本の溝を回転軸を中心とする十字状(放射状)に備えたスタッドボルトの構造および寸法を示す説明図である。
【0015】
すなわち、摩擦圧接用スタッドボルト1は、アルミニウム合金からなるものであって、図1(a)に示すように、ねじ山を備えたおねじ部2と、摩擦熱により加熱された状態で母材との間で塑性変形して母材に接合されるスタッド頭部3とを一体的に備えたものである。
【0016】
当該スタッドボルト1のスタッド頭部3は、図1(b)の断面図に示すように、この実施例においては直径D=6mmの円筒状をなし、その上端面、すなわち母材との圧接面に、深さd=1.0mm、幅w=1.0mmの矩形断面を備えた溝4が十字状に形成してある。
【0017】
このようなスタッドボルト1は、圧接スタッドガンのラム先端部に備えたチャック部にセットされたのち、例えば油圧等によって軸廻り方向の高速回転が開始される。
【0018】
スタッドボルト1の回転数が所定の回転速度に達したら、ラム圧を増してラムを下降(前進)させ、スタッドボルト1の頭部3を母材に押圧させる。
【0019】
スタッドボルト1の頭部3が母材に当接した後、ラム圧は一定となり、スタッドボルト1と母材との間に発生する摩擦熱によってスタッド頭部3が所定の圧接温度に達した時に回転を停止すると、スタッド頭部3がラム圧によって塑性変形し、スタッドボルト1が母材に接合される。
【0020】
このとき、母材表面に、油や水などの異物があったとしても、このような異物は、スタッド頭部3が母材に当接した時点でスタッド頭部3に形成した溝4内に流れ込み、回転による遠心力によって瞬時に接合部の外側に排出されることから、これらの油や水によるハイドロプレーニング現象が発生しなくなり、母材との間に十分な摩擦熱が発生するようになるので、煩わしい油や水の洗浄作業や払拭作業を行わなくても信頼性の高い良好な品質の接合部を得ることができるようになる。
【0021】
表1は、回転速度:6000rpm、ラム圧:300psi(2.1MPa)の条件のもとに、母材として板厚1.8mmのアルミニウム合金板材の表面に上記した寸法および形状の摩擦圧接用スタッドボルト1を摩擦圧接したときの接合品質に及ぼす油付着量の影響をスタッド頭部3に溝4の形成されていない従来タイプのスタッドボルトの場合と比較調査した結果を示すものである。
【0022】
【表1】
Figure 0003608602
【0023】
なお、表1において、油付着量:0とは、母材表面を有機溶媒によって洗浄した状態、油付着量:0.5g/mとは、母材表面に防錆油を塗布したのちペーパーウエスによって拭き取った状態のものである。また、油付着量:2.5g/mは、防錆油をべったりと、十分に塗布したものである。さらに、接合品質については、接合したスタッドボルトを軸方向に引っ張り破断したときに、母材で剥離破断したものを◎、接合部で破断したものを○で示した。
【0024】
表1から明らかなように、防錆油の付着量が比較的多い場合、溝のない平面状のスタッド頭部を備えた従来タイプのスタッドボルトでは、いわゆるハイドロプレーニング現象によって摩擦熱が発生せず、接合が不可能であったのに対し、スタッド頭部3に溝4を十字状に備えた本発明のスタッドボルト1においては、ハイドロプレーニング現象が発生せず、接合部破断ではあるものの、最適条件下の強度とほぼ同程度の接合品質が得られることが確認された。
【0025】
なお、上記実施例においては、スタッド頭部3の母材との圧接面に十字状に溝4を形成した例を示したが、本発明に係わる摩擦圧接用スタッドボルトにおいては、溝4の数や配置についてとくに限定されず、例えば図2(a)および(b)に示すような配置を採用することができる。
【0026】
また、溝4の断面形状についても限定はなく、例えば図3(a)ないし(d)に示すように、三角形(V字形),レ形,U字形、さらには半円形断面とすることができる。
【0027】
さらに、溝4の壁面先端部と母材との接触を確保し、母材表面の異物を溝4内に確実に導き入れ、接合部外側へ確実に排出してハイドロプレーニング現象の防止をさらに確実なものとする観点からは、図4(a)ないし(c)に示すように、スタッド頭部3の母材との圧接面に、溝4の回転方向後方側の壁面に沿ってエッジ状の突起5を形成し、図中に矢印で示すスタッドボルト回転方向後方側の溝壁面4aの高さを回転方向前方側の溝壁面4bよりも高くなるようにすることが望ましい。
【0028】
このときの溝4の断面形状についても、図5に示すような各種の形状を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a) 本発明の一実施例に係わる摩擦圧接用スタッドボルトの形状を示す斜視説明図である。(b) 図1(a)に示したスタッドボルトの頭部に形成した溝の断面形状および寸法を示す断面説明図である。
【図2】(a)および(b)は本発明に係わる摩擦圧接用スタッドボルトの他の形状例を示す斜視説明図である。
【図3】(a)ないし(d)は本発明に係わる摩擦圧接用スタッドボルトの頭部に形成する溝の断面形状例を示す断面説明図である。
【図4】(a)ないし(c)は本発明に係わる摩擦圧接用スタッドボルトのさらに他の形状例を示す斜視説明図である。
【図5】(a)ないし(d)は本発明に係わる摩擦圧接用スタッドボルトの頭部に形成する溝の他の断面形状例を示す断面説明図である。
【符号の説明】
1 摩擦圧接用スタッドボルト
3 スタッド頭部
4 溝
4a 溝壁面(回転方向後方側)
4b 溝壁面(回転方向前方側)

Claims (3)

  1. スタッドボルトを回転させながら、スタッド頭部を母材に押圧して接合する摩擦圧接用のスタッドボルトにおいて、
    スタッド頭部の母材との圧接面に、回転軸の中心を通って当該頭部の外周面まで連続する溝が設けてあることを特徴とする摩擦圧接用スタッドボルト。
  2. スタッドボルトの回転方向後方側の溝壁面の高さが回転方向前方側溝壁面よりも高くしてあることを特徴とする請求項1記載の摩擦圧接用スタッドボルト。
  3. 溝がスタッドボルトの回転軸を中心とする放射状に形成してあることを特徴とする請求項1または請求項2記載の摩擦圧接用スタッドボルト。
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