JP4570761B2 - 摩擦攪拌接合方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるナットをアルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材に接合する方法で、ナットを回転させつつ母材に当接させ、ナットと母材との当接部分に摩擦攪拌を生じさせ、ナットと母材とを溶融させずに摩擦攪拌接合する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境保護あるいは省資源の観点から、自動車の排出ガスに含まれる有害成分や二酸化炭素生成の抑制、燃料経済性の向上が強く要請されている。これらの要請に応える方法の一つとして、自動車の軽量化が挙げられる。自動車の軽量化には、軽量材料の使用が有効であり、自動車の車体及び部品材料の鋼からアルミニウムへの置換が盛んに検討されている。即ち、自動車の車体構造において、鋼板プレス品に鋼鉄ボルト、鋼鉄ナット等の部品を取付ける際、一般に、スタッド溶接による鋼鉄ボルトの取付けやプロジェクション溶接による鋼鉄ナットの取付け等が広く行われている。従って、アルミニウム合金からなるプレス品を自動車の車体構造に用いる場合にも、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるプレス品にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるナットやボルトを接合する同様の溶接技術の転用が考えられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる部材のプロジェクション溶接は容易ではない。アルミニウム合金からなるプレス品にアルミニウム合金からなるナットを接合する方法として、MIG溶接(Metal Inert Gas Arc Welding)やTIG溶接(Tungsten Inert Gas Arc Welding)が用いられているが、それらの方法は溶接時間が長い上、入熱及び溶接による歪みが大きいという問題がある。このため、アルミニウム合金からなるナットに広いフランジ部を設け、そのフランジ部の数箇所をアルミニウム合金からなるプレス品に溶接しているのが現状である。鋼板のプロジェクション溶接の場合のように、数箇所の突起が下部に設けられた鋼鉄ナットを鋼板プレス品に近づけ、電流を流して抵抗発熱させ、短時間で接合する方法が望ましい。
【0004】
又、入熱が少なく、接合部材の硬度低下や歪みが少ないアルミニウム合金からなる部材の接合方法として、摩擦突合わせ溶接法が特許第2712838号公報に開示されている。この方法は、硬質の裏当ての上に接合するための軟質素材同士を突合わせて固定し、硬質のピン形状の工具を、回転させながら突合わせ部に挿入し移動させる方法で、接合部が溶融しないのが特長である。しかし、この方法は硬質の裏当てを必要とし、突合わせ溶接は可能であるが、ナット等をプレス品に接合する方法としては用いられていない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、自動車等のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる部材の使用部位において、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるナットをアルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材に短時間で接合し、所要の接合強度を有し、入熱、歪みが少なく、従ってナットや母材の材質劣化を伴わず、所要の接合寸法精度が得られ、母材の接合前の平面度、面粗度が維持でき、更に安定した接合条件が確保できる接合方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
上記目的を達成するため、本発明では、ナットの硬度が母材の硬度より高く、ナットを回転させつつ母材に当接させ、当接部分に摩擦攪拌を生じさせ、ナットと母材とを溶融させずに接合する摩擦攪拌接合方法を提供する。
【0007】
具体的には、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるナットをアルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材に接合する場合に、ナット自体又はナットを装着した治具を所定の回転数で回転させつつ母材に当接させ、ナットと母材との当接部分に摩擦発熱による摩擦攪拌を次の二段階で生じさせる。
【0008】
第一段階は、ナットと母材との当接部分の一部あるいはナットを装着した治具と当接する母材の当接部分の一部に局部的に生じさせる摩擦攪拌である。第二段階は、ナットの接合すべき面全域とナットの接合すべき面が当接する母材の当接部分との両方に生じさせる摩擦攪拌である。
【0009】
第一段階の摩擦攪拌は二つの方法で生じさせることができる。第一の方法は、ナットの一部に突起部を設け、前記突起部を母材に当接させるようにする方法である。ナットのネジ穴の母材に近い側を閉塞させる。この閉塞部の端面を母材と接合すべき面とし、その接合すべき面の中心部に円柱状の突起部を設ける。円柱状の突起部の大きさは、直径がナット下面の直径の1/3程度、高さが0.1mmから突起部の直径までの間とすることが好ましい。そして、この突起部が母材に当接するようにして、ナットと母材との当接部分に摩擦攪拌を生じさせる。その場合、ナットの硬度が母材の硬度より高くなるように材料を選択し、母材側により十分な摩擦攪拌を生じさせる。
【0010】
第二の方法は、ナットを装着した治具の一部に突出部を設け、前記突出部を母材に当接させるようにする方法である。即ち、治具の回転中心部に突出部を設け、前記突出部がナットのネジ穴を貫通して、ナットの接合すべき面より母材側に突出するようにする。前記突出部を円柱状に形成し、円柱状の突出部の大きさは、直径がナット下面の直径の1/3程度、ナットの接合すべき面からの突出部の高さが0.1mmから突出部の直径までの間とすることが好ましい。治具の突出部を鋼鉄で構成すると、鋼鉄の融点は1500℃程度であるので、当接によって治具が摩擦熱の影響を受けることはない。そして、この突出部が母材に当接するようにして、母材の当接部分に摩擦攪拌を生じさせる。
【0011】
次に、第二段階の摩擦攪拌を生じさせるために、前記治具を母材側に更に押し進めて、ナットの接合すべき面を母材に当接させる。そうすると、ナットの接合すべき面及びその付近とナットに当接する母材の当接部分との両方に摩擦攪拌が広がる。この時点で治具の回転を止め、母材から引離す。これにより接合が終了し、ナットと母材との当接部分に溶融していない塑性流動部が形成され、強固な固相接合領域が得られる。その場合、ナットの硬度が母材の硬度より高くなるように材料を選択し、母材側により十分な摩擦攪拌を生じさせる。接合の所要時間は、約1〜2秒間である。
【0012】
又、上記摩擦攪拌は、400〜450℃程度で生じているが、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる部材の融点はそれより高く500〜660℃程度である。このことは、ナット及び母材に融点以下の温度で摩擦攪拌が生じていることを示している。このため、ナットと母材とは溶融せずに接合する。従って、接合による母材の歪みやうねりが少なく、母材の接合前の平面度、面粗度等が維持される。又、材料の溶融に伴う材質の劣化が生じないので、ナット及び母材の接合による強度低下はない。
【0013】
更に、本発明では、母材に下穴等を加工する必要がないので、ナットを母材の任意の位置に容易に接合することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態としての具体例を、添付図面に基づいて説明する。最初に、図1から図4までを参照して、第一実施例について説明する。図1は、被接合部材としてのアルミニウム合金からなるナットを回転治具に装着した状態を示す部分断面図である。図2は、図1のナット装着状態の回転治具を下方(図1のX方向)から見た図である。図3、4は、図1のナットをアルミニウム合金からなる母材に接合する過程を示す部分断面図である。
【0015】
図1に示すように、被接合部材としてのナット1は、その中心軸が回転治具2の回転軸と同軸になるように、回転治具2に装着されている。回転治具2は、ナット1を回転させつつ、母材3の面に直角方向から近づくように直線運動することができる。又、ナット1はそのネジ穴の片側(図1のX方向)が閉塞しており、その閉塞側の端面が母材3との接合面1bとなっている。接合面1bの中心部には、高さH1の円柱状の突起部1aが設けられている。
【0016】
次に、ナット1を母材3に接合させる過程を図3、4に基づいて説明する。図3(a)に示すように、ナット1が装着された回転治具2を2000〜3000rpmの回転数で回転させつつ、ナット1の突起部1aを母材3の回転治具2に近い側の面に当接させる。この場合、ナット1と母材3の当接部分は、ナット1の接合面1bの中心部に設けられている円柱状の突起部1a一箇所のみであり、当接による摩擦熱は、突起部1aを中心に、図3(a)の当接部3a部分に集中的に発生する。この摩擦熱により、図3(a)の当接部3a部分は400〜450℃程度に加熱され、局部的に軟化する。
【0017】
更に回転治具2を下方(図3(b)のX方向)に移動させると、ナット1の突起部1aの先端が母材3の中に没入される。例えば、ナット1の材質にジュラルミンを、又、母材3の材質にアルミニウムを選択すると、それらの融点は510℃及び660℃程度であるので、ナット1の突起部1aとその周辺部の母材3の温度は前記融点以下であり、溶融状態には至らない。そうすると、図3(b)に示すように、ナット1の突起部1aの母材3の中に没入された部分及び周辺部の母材3の両方に、ナット1及び母材3の融点510℃及び660℃よりも低い温度で塑性流動即ち摩擦攪拌が発生し、図3(b)の3b部分が固相接合状態となる。
【0018】
この状態から、回転治具2を更に下方に移動させて、図4(a)に示すように、ナット1の接合面1bを母材3に当接させる。その状態では、ナット1の接合面1b付近及びそれに当接する部分の母材3の両方に塑性流動即ち摩擦攪拌が広がり、図4(a)の3c部分が固相接合状態となる。
【0019】
そして、この時点で回転治具2の回転を止め、回転治具2を図4(b)のY方向に移動させ母材より引離す。この段階で接合が終了し、図4(b)の3d部分に、溶融していない塑性流動部が形成され、強固な固相接合領域が得られる。又、溶接とは異なり、母材3が溶融していないので、母材3に歪みやうねりが少なく、母材3の接合前の平面度、面粗度が保たれる。なお、回転治具2は鋼鉄で構成されているので、その融点は1500℃程度であり、アルミニウム合金からなるナット1及び母材3の融点より高く、上記接合過程で変形等の摩擦熱による影響を全く受けない。
【0020】
実験例1
アルミニウム合金番号6111、質別記号T4、厚さ1mmの母材に、アルミニウム合金番号2024、外形16mm、呼びM10mm、長さ5mmで、底面中心部に直径5mm、高さ0.5mmの円柱状の突起部が設けられたナットを3000rpmの回転数で回転させつつ当接させ、約1秒間で接合を終了し、母材に歪みを生ずることなく、強固な接合結果を得た。
【0021】
次に、図5から図8までを参照して、第二実施例を説明する。図5は、第二実施例で、被接合部材としての異なる形状のナットを異なる形状の回転治具に装着した部分断面図である。図6は、図5のナット装着状態の回転治具を下方(図5のX方向)から見た図である。図7、8は、図5のナットを母材に接合する過程を示す部分断面図である。
【0022】
第二実施例では、ネジ穴が貫通しているナットを被接合部材として用い、ネジ穴を貫通する円柱状突出部を有する回転治具を用いて、母材に接合する。
図5において、ネジ穴が貫通しているナット10は回転治具20に装着されている。回転治具20の中心部には、ナット10のネジ穴径とほぼ等しいが若干小さい直径の円柱状の突出部20aが回転治具20と一体構造で設けられており、突出部20aはナット20を貫通して、その先端部20bがナット10の接合面10bより高さH2だけ突出している。
【0023】
回転治具20を2000〜3000rpmの回転数で回転させつつ、下方(図5のX方向)に移動させると、図7(a)に示すように、回転治具20の突出部20aの下端部20bが母材30に当接する。この場合、回転治具20の突出部20aとその先端部20bは鋼鉄で構成されているので、融点がアルミニウム合金より高く、変形等の摩擦熱による影響を全く受けない。従って、母材30側の30a部分のみが、当接によって生じる摩擦熱により局部的に軟化する。
【0024】
更に回転治具20を下方に移動させると、図7(b)に示すように、突出部20aの先端が母材30の中に没入され、突出部20aの先端部20b付近の母材30b部分に母材30の融点よりも低い温度で塑性流動即ち摩擦攪拌が発生する。
この状態から更に回転治具20を下方に移動させ、ナット10の接合面10bを母材30の回転治具20に近い側の面に当接させると、図8(a)に示すように、ナット10の接合面10b付近とそれに当接する部分の母材30との両方に塑性流動即ち摩擦攪拌が広がり、固相接合領域が図8(a)の30c部分全域に広がる。この時点で回転治具20の回転を止め、回転治具20を図8(b)のY方向に移動させて母材30より引離し接合が終了する。そうすると、図8(b)の30d部分に、溶融していない塑性流動部が形成され、強固な固相接合領域が得られる。
【0025】
実験例2
アルミニウム合金番号5052、質別記号O、厚さ2mmの母材に、アルミニウム合金番号7050、外形20mm,呼びM12mm、長さ8mmのナットを装着した。
その際、回転治具と一体に成形されている直径約10mmの円柱状の突出部を、ナットのネジ穴から母材側に高さ1mm突出させた。この回転治具を2000rpmの回転数で回転させつつ母材に当接させ、約2秒間で接合を終了し、母材に歪みを生ずることなく、強固な接合結果を得た。
【0026】
以上、被接合部材としてアルミニウム又はアルミニウム合金からなるナットをアルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材に摩擦攪拌接合する方法について説明した。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ナットを回転治具に装着した部分断面図である。
【図2】 図1の回転治具を下方から見た図である。
【図3】 図1のナットを母材に接合する過程を示す部分断面図である。
【図4】 図1のナットを母材に接合する過程を示す部分断面図である。
【図5】 ネジ穴が貫通したナットを回転治具に装着した部分断面図である。
【図6】 図5の回転治具を下方から見た図である。
【図7】 図5のナットを母材に接合する過程を示す部分断面図である。
【図8】 図5のナットを母材に接合する過程を示す部分断面図である。
【符号の説明】
1…ナット 1a…接合面
1b…突起部 2…回転治具
3…母材 3a…当接部分
3b、3c…摩擦攪拌部分
3d…固相接合領域
10…ナット 10b…接合面
20…回転治具 20a…突出部
20b…突出部先端 30…母材
30a…当接部分
30b、30c…摩擦攪拌部分 30d…固相接合領域
Claims (2)
- アルミニウム又はアルミニウム合金からなりネジ穴の一方が閉塞され、且つ該閉塞部の外面が突状に形成されたナットを、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材に接合する方法であって、前記ナットの硬度は前記母材の硬度より高く、前記ナットの前記突状外面が前記母材に向くように配置して前記ナットを回転させつつ前記母材に当接させることにより、当接部分に摩擦攪拌を生じさせ、次に前記ナットを前記母材側に更に押し進めて前記突状外面を塑性流動化せしめ、前記ナットの接合すべき面を前記母材に当接させ、当接部分に摩擦攪拌を生じさせ、前記ナットと前記母材とを溶融させずに接合する摩擦攪拌接合方法。
- アルミニウム又はアルミニウム合金からなるナットを、該ナットのネジ穴を貫通する突出部を有する治具を用いて装着し、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる母材に接合する方法であって、前記ナットの硬度は前記母材の硬度より高く、前記治具の前記突出部が前記ナットのネジ穴を貫通してその先端が外部に突き出すように、前記ナットを前記治具に装着し、前記ナットを装着した前記治具を回転させつつ前記母材に当接させ、前記治具の突出部と当接する母材側の当接部分に摩擦攪拌を生じさせ、次に前記治具を前記母材側に更に押し進めて前記突出部を前記母材に没入せしめることにより、前記ナットの接合すべき面と前記母材とを当接させ、前記ナットの接合すべき面と前記母材との当接部分に摩擦攪拌を生じさせ、前記ナットと前記母材とを溶融させずに接合する摩擦攪拌接合方法。
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