JP3606731B2 - 動圧軸受装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、潤滑流体に動圧を発生させ、その潤滑流体の動圧により固定部材に対して回転部材を軸支するように構成した動圧軸受装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、モータ等の各種装置において、特に高速回転に対応し得るようにオイル等の潤滑流体の動圧を利用した動圧軸受装置が種々検討され提案されている。この動圧軸受装置においては、固定部材側の動圧面と回転部材側の動圧面とが対向配置されているととともに、これら両対向動圧面のうちの少なくとも一方側に動圧発生用溝が形成されており、上記回転部材と固定部材との両対向面間に介在された所定のオイル等の潤滑流体が、回転部材の回転時に動圧発生用溝のポンピング作用により昇圧され、当該潤滑流体の動圧によって回転部材の回転支持が行われるようになっている。
【0003】
本件発明者は、このような動圧軸受装置において、以下述べるように固定部材と回転部材との間における「なじみ」の程度が動圧軸受装置の特性・寿命等に大きな影響を与えており、装置の信頼性を支配する重要な因子となっていることを見出した。
まず一般的に、「なじみ」は、高い圧力状態にて摺動接触関係にある部材どうしが、組立精度や面粗度等の影響によって初期摩耗し、平滑な接触面状態となって面圧が低下することをいうが、高硬度部材と低硬度部材との組み合わせでは、高硬度部材の面粗度が摩耗によって所定の平滑状態となるまで面圧は低下しない。
【0004】
このような「なじみ」現象を動圧軸受装置について考察してみると、まず、高速回転時では、固定部材と回転部材との間に形成される楔形状部分に完全な油膜が形成されて流体潤滑状態が構築されることとなり、回転部材が浮上状態に維持される。これに対して、起動停止時や低速回転時には、上記楔形状部分における油膜は破れて境界潤滑状態に遷移する。この境界潤滑状態では、部分的に機械的金属接触を生じることとなるため、そこに「なじみ」の影響が発生する。完全な油膜形成が行われる否かは、上述した楔形状を構成する軸と軸受部材との組立て精度や、動圧面の面粗度が重要な因子となるから、これらを如何に設定するかで、動圧軸受装置における「なじみ」の良否が決定されることとなる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の動圧軸受装置、特にスラスト動圧軸受部におけるスラストリングと軸受部材との関係では、上述したような「なじみ」を考慮した設計はなされておらず、「なじみ」の進行を軽度に抑え、かつ早期に安定した状態とするようにした構造にはなっていないのが現状である。すなわち、スラスト動圧軸受部を構成しているスラストリングが軸部材に対して一定以上に傾いた状態で取付固定されてしまうと、そのスラストリングの外周部分が、特に起動・停止時において長期にわたって接触することとなり、接触負荷により生じる初期摩耗、すなわち「なじみ」作用が比較的長期にわたって継続することとなる。その結果、動圧発生用溝の加圧機能や潤滑流体の潤滑機能が低下あるいは劣化して早期に摺動寿命に至るおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、スラスト動圧軸受部における「なじみ」作用の影響を極力低減し、必要な動圧を長期にわたって安定して得ることができるようにした動圧軸受装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するための手段を説明するにあたって、まず、一般の滑り軸受に対する動圧軸受装置における「なじみ」の特異性を述べる。
一般の滑り軸受では、使用回転領域での諸特性を安定させるために「なじみ」は不可欠な過程であり、「なじみ」の進行によって軸受駆動力が明らかに低減するとともに、他の特性も目に見えて改善されることが多い。
【0008】
これに対して、動圧軸受装置では、上述したように、定常回転域において完全な流体潤滑状態となって回転部材が浮上していることからすれば、「なじみ」の影響は軽微であって軸受特性及び寿命とは無関係であるように思われる。しかしながら、以下のような動圧軸受装置特有のデリケートさの観点から、「なじみ」の程度は動圧軸受装置の寿命・信頼性に大きな影響を与えている。
【0009】
(1) 油量の観点
コンピュータの周辺機器として用いられるハードディスク駆動装置(HDD)や、レーザプリンタ(LBP)の書込装置等におけるモータの軸受装置に動圧軸受装置を採用した場合には、動圧軸受装置からの油漏れによって汚染を生じると致命的な問題となってしまう。そのため、軸受油の飛散を生じさせないように、毛細管力等を利用して確実に保油機能を持たせる設計がなされているが、その場合には、動圧軸受装置内に保持し得る油量が極めて少なくなり、摩耗粉が僅かでも発生して混入すれば、スラッジが生成されることとなって潤滑流体の物性が低下し、故障の原因となることがある。一般の滑り軸受では当たり前に起こっている「なじみ」が、動圧軸受装置では特に重要視しなければならない最大の理由がここにある。
【0010】
(2) 動圧発生用溝の深さの観点
動圧軸受装置では、へリングボーンなどの形状を有する動圧発生用溝が、例えば数μmの深さで形成されている。この動圧発生用溝は、加工容易性の観点からすれば軟らかい材質の部材側に形成するのが普通であるが、軟らかい材質は、「なじみ」による摩耗が進行し易いため、動圧発生用溝の加圧作用の機能低下を考慮しなければならない。「なじみ」の進行は、硬い側の部材の面が平滑化されて面粗度が改善され、面圧が低下するまで継続することとなるが、動圧発生用溝を形成した部材に大きな摩耗を生じると、それに伴って動圧発生用溝の特性が低下することとなる。つまり、一般の滑り軸受では問題にならない数μmの初期摩耗が、動圧軸受装置では致命傷となることもある。
【0011】
(3) 軸受部材の材質及び使用環境温度の観点
動圧軸受装置には、加工精度を得やすい軸受材料として、リン青銅などの銅合金が一般に採用されているが、このような銅合金は、ステンレス鋼(SUS)等と異なり、摩耗率が温度によって大きく左右される。すなわち、動圧軸受装置は、本来高速回転用として開発されているために、粘性ロス等による発熱が大きい上、周辺に配置される集積IC(CPU)などの部品からの発熱によって、高温の環境下に曝されることが多い。例えば、ハードディスク駆動装置(HDD)では、70度Cのスペックが設定されることがあり、それに自己の発熱温度を加えて考えると、動圧軸受装置の使用環境としては極めて高温な状態を想定する必要がある。
【0012】
一方、図2に示されているように、上述した動圧軸受装置に用いられているリン青銅(C5191)は、ステンレス鋼(SUS430F)等に比して、横軸の温度が70度C以上となったときに、縦軸の摩耗率(μm)が急激に増大する傾向がある。そのため、上述したような高温環境下においては、潤滑流体や動圧発生用溝に対してしばしば損傷を与えることがある。リン青銅の摩耗率が急増する原因は定かではないが、銅表面に化学的に吸着している潤滑流体のオイル成分の熱的性質が関わっていることが推定されており、銅系金属に共通する性質と思われる。このように、軸受部材の材質と高温環境との関係からも、動圧軸受装置における所謂「なじみ」負荷を軽減しなければならないことが解る。
【0013】
以上のように動圧軸受装置では、「なじみ」負荷を軽減することが極めて重要であり、対向する一対の動圧面どうしの間の隙間精度を向上させて、偏った接触状態を極力なくし、硬い側の部材の面粗度を十分に小さくしておくこと等が、軸受特性及び信頼性を向上させる上で必要となる。
【0014】
そこで、本発明では、軸部材に取付固定された円盤状のスラストリングの端面に設けられた動圧面と、このスラストリングの動圧面に対向するように配置された軸受部材側の動圧面との間にスラスト軸受空間が設けられているとともに、当該スラスト軸受空間内に所定の潤滑流体を有し、上記スラスト軸受空間を構成しているスラストリング及び軸受部材における両対向動圧面の少なくとも一方側に、前記潤滑流体に対して動圧を発生させる動圧発生用溝が形成された動圧軸受装置において、上記軸部材の中心軸に対して、前記スラストリングの動圧面が、90°±tan-1(1/2500)の範囲内の角度となるようにスラストリングが軸部材に固定されているものであって、前記スラストリング及び軸受部材が互いに異なる硬度を備え、高い硬度を有する部材がステンレス系合金から形成されているとともに、低い硬度を有する部材が銅又は銅系合金から形成され、前記高い硬度を有する部材の動圧面における面粗度が、中心線山高さRpに関して0.5μm以下の平均値を備えるように形成され、かつ前記低い硬度を有する部材の動圧面における面粗度を表す中心線山高さRpが、高い硬度を有する部材の面粗度を表す中心線山高さRpの2倍以上となるように形成されている。
【0018】
このような本発明の手段によれば、特に、起動時又は停止時においてスラストリングの一部が偏って軸受部材側に長期接触するような事態が回避されることとなり、これによって、動圧発生用溝の溝深さが長期にわたって所定量以上に維持され、当該動圧発生用溝による加圧機能も良好に維持されて、「なじみ」の影響が極力排除されるようになっている。そして、「なじみ」作用が完了した状態に極力近づけられた状態が得られることとなり、高硬度部材による低硬度部材の摩耗が急激に進行することがなくなって動圧軸受装置に必要な寿命が得られる。換言すれば、動圧軸受装置に必要な寿命を得るように、各部材における動圧面の平均面粗度Rp(中心線山高さ)が選定されることとなり、さらに、低硬度部材からなるスラストリングに対して動圧発生用溝が良好に形成されるようになっている。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかる動圧軸受装置を、いわゆる両端軸固定型のHDDスピンドルモータに適用した実施形態について図面により詳細に説明する。
まず、図1に示されたHDDスピンドルモータの全体構造を説明すると、このHDDスピンドルモータは、固定部材としてのステータ組1と、このステータ組1に対して図示上側から組み付けられた回転部材としてのロータ組2とから構成されている。このうちステータ組1は、図示省略した固定基台側にネジ止めされるフレーム11を有しているとともに、このフレーム11の略中央部分に立設された固定軸12が、図示上方に向かって延在している。この固定軸12の先端部(図示上端部)は、図示を省略した固定基台に対して螺子止めされる。
【0022】
また、上記フレーム11は、中空円筒状の支持ホルダー13を有しており、この支持ホルダー13の外周にステータコア14が嵌着されており、当該ステータコア14の突極部に対して巻線15が巻回されている。
【0023】
一方、上記ロータ組2では、図示を省略した所定の記録媒体を支持するためのハブ21が、軸受基体22の外周側に固着されている。上記ハブ21は、磁気ディスク等の磁気記録媒体を外周部に装着する略円筒形状の胴部21aを有しているとともに、この胴部21aの内周側に、バックヨーク21bを介して駆動マグネット21cが環状に装着されている。この駆動マグネット21cは、前述したステータコア14の外周端面に対して環状に対向するように近接配置されている。
【0024】
また、上記軸受基体22の中心側部分に設けられた中心穴には、軸受部材としての軸受スリーブ23が固着されている。この軸受スリーブ23の内周壁部には、一組の軸受突部23a,23bが軸方向に所定間隔離して形成されており、これらの各軸受突部23a,23bが、上記固定軸12の外周面に近接するようにして対向配置されている。そして、これらの各軸受突部23a,23bの内周面に設けられた動圧面と、上記固定軸12の外周面に形成された動圧面とにより、隣接した一組のラジアル動圧軸受部RBa,RBbが、軸方向に並列するように形成されている。そして、これら一組のラジアル動圧軸受部RBa,RBbによって、上記ハブ21が固定軸12に対してラジアル方向に回転自在となるように支承されている。
【0025】
すなわち、上記各ラジアル動圧軸受部RBa,RBbにおいては、軸受スリーブ23側の動圧面と固定軸12側の動圧面とが、数μmの狭小隙間を介して周状に対面配置されており、その軸方向に所定間隔離して一組の狭小隙間からなる軸受空間が連続するように形成されており、それらの両軸受空間内に、オイル、磁性流体、エアー等からなる所定の潤滑流体が連続するようにして充填されている。
【0026】
また、少なくとも上記軸受スリーブ23側の動圧面には、図示を省略したヘリンボーン形状をなす一対のラジアル動圧発生用溝が各々環状に並列するように凹設されており、前記ハブ21の回転時に、これら両ラジアル動圧発生用溝のポンピング作用により潤滑流体が昇圧されて動圧が生じ、この潤滑流体に生じさせられた動圧によって、ハブ21がラジアル方向に軸支持されるように構成されている。
【0027】
このとき、本実施形態における固定軸12は、高い硬度を有する部材、例えばステンレス鋼(SUS430F)のようなクロムを含有する合金鋼である鉄鋼材料から形成されている。この高硬度部材としての固定軸12の動圧面における面粗度は、面粗度Rp(中心線山高さ)に関して、0.5μm以下の平均値を備えるように形成されており、次に述べるような低硬度部材からなる軸受スリーブ23に対する摩耗を極力防止し、「なじみ」作用が完了した状態に極力近づけた状態に構成されている。
【0028】
これに対して、前記軸受スリーブ23は、上記固定軸12より低い硬度を有する材料、例えば、Cu(銅)、Cu−Al系合金(アルミニウム青銅等)、Cu−Sn合金(青銅)、Cu−Sn−P系合金(りん青銅等)、Cu−Si−Sn系合金(珪素青銅系)、Cu−Ni−Zn(洋白等)、Cu−Ni−Fe系合金(白銅等)、Cu−Be系合金(ベリリウム銅等)、Cu−Zn系合金(青銅等)などの銅又は銅系合金銅系が採用されており、この低硬度部材からなる軸受スリーブ23に対して、上述したラジアル動圧発生用溝が容易に加工形成されている。
【0029】
また、この低硬度部材からなる軸受スリーブ23における動圧面の面粗度は、面粗度Rp(中心線山高さ)に関して、上述した高硬度材からなる固定軸12の面粗度(0.5μm)よりも2倍以上(1μm)に大きく設定されており、高硬度材からなる固定軸12による摩耗が多少進んでも、動圧発生用溝の溝深さが所定量以上に維持されるように構成されている。
【0030】
一方、本実施形態における上記潤滑流体としては、当該潤滑流体の寿命と良好な軸受特性とを両立し得るように、トリメチロールプロパン(TMP)またはペンタエリスリトール(PE)と、炭素数5〜18の直鎖または分岐脂肪酸とをエステル化した構造のオイルが使用されており、その中でも、特に蒸発率が10−7g /h ・cm2 (at40°C)以下で、粘度が30cP(at40°C)以下のオイルが用いられている。
【0031】
なお、このような潤滑流体としては他の多種多様な潤滑流体を同様に用いることも可能であるが、潤滑流体を軸受内部に注入するにあたっては、組立が完了したモータを一旦真空室内に入れ、その真空引きした状態で毛細管力または外部大気圧を利用して行う。このようにすれば、含有空気率が低い状態で軸受内部全体に潤滑流体を満たすことが可能となる。
【0032】
上述したように、隣接する一組のラジアル動圧軸受部RBa,RBbを構成する軸受空間は、軸方向に連続して延びるように形成されているが、その一組のラジアル動圧軸受部RBa,RBbどうしの間部分に、軸受スリーブ23を半径方向外方に向かって窪ませた拡大空間からなるオイル溜め部30が形成されている。このオイル溜り部30の隙間寸法は、ラジアル動圧軸受部RBa,RBbにおける軸受空間における隙間寸法の3倍以上または40μm以上に設定されている。これは、軸受空間に対して潤滑流体に量的余裕をもたせるように一定量以上の潤滑流体を潤滑流体溜り部33内に確保して長寿命化を図るためである。
【0033】
また、それらの各ラジアル動圧軸受部RBa,RBbを構成する軸受空間の軸方向両端側部分には、毛細管シール部31a,31bが、各ラジアル動圧軸受部RBa,RBbを軸方向両側から挟むように設けられている。これらの各毛細管シール部31a,31bは、軸受スリーブ23側に形成された傾斜面によって、当該軸受スリーブ23と前記固定軸12との間の隙間を軸受外方に向かって徐々に拡大したものであって、軸受内方側に配置された毛細管シール部31bは、上述したオイル溜め部30に連通している。これら毛細管シール部31a,31bにおいて連続的に拡大している狭小隙間の寸法は、20μmから300μmになされており、潤滑流体の液面位置が、モータ回転・停止のいずれの場合にも、各毛細管シール部31a,31bの内部所定位置となるように設定されている。
【0034】
さらに、上記固定軸12の先端側部分(図示上端側部分)には、円板状のスラストリング16が固定されている。このスラストリング16は、上述した軸受基体22の図示上側中心部分に凹設された円筒状の窪み部内に収容するように配置されており、当該軸受基体22の窪み部の底壁部22aに設けられた動圧面に対して、上記スラストリング16の図示下面側に設けられた動圧面が軸方向に近接配置されていることによって、下側のスラスト動圧軸受部SBaが構成されている。
【0035】
このとき、上記スラストリング16は、固定軸12に対して所定の直角度を備えるように取付固定されており、より具体的には、上記スラストリング16の両端面に設けられた動圧面が固定軸12の中心軸となす角度θを、
θ=90°±tan−1(1/2500)
の範囲内とする取付精度が採用されている。例えば、上記スラストリング16の外径を10mmとしたとき、当該スラストリング16の直径方向の両端位置が、軸方向に4μmの誤差以内となるように取付固定が行われている。
【0036】
また、上記スラストリング16の図示上面側の動圧面に近接するようにして、大型の円盤状部材からなるカウンタープレート25が、上記軸受基体22の外周面上に取り付けられており、このカウンタープレート25の図示下面側に設けられた動圧面と、上記スラストリング16の図示上面側に設けられた動圧面とにより上側のスラスト動圧軸受部SBbが構成されている。
【0037】
すなわち、隣接するようにして配置された一組のスラスト動圧軸受部SBa,SBbのそれぞれにおいては、軸受基体22及びカウンタープレート25側の各動圧面と、スラストリング16の両端面における両動圧面とが、数μmの狭小隙間を介して軸方向にそれぞれ対面配置されており、上記スラストリング16の外周側通路を介して軸方向に所定間隔離して配置された一組の狭小隙間からなる各軸受空間内に、オイル、磁性流体、エアー等からなる所定の潤滑流体が連続的に充填されている。
【0038】
また、本実施形態においては、上記スラストリング16の両端面に設けられた各動圧面に対して、図示を省略したヘリンボーン形状をなすスラスト動圧発生用溝が環状に並列するように凹設されており、前記ハブ21の回転時に、これらの両スラスト動圧発生用溝のポンピング作用によって、潤滑流体が昇圧されて動圧が生じ、この潤滑流体に生じさせられた動圧によって、ハブ21がスラスト方向に軸支持されるように構成されている。
【0039】
このとき、本実施形態における軸受部材を構成している軸受基体22及びカウンタープレート25は、高い硬度を有する部材、例えば銅合金より熱膨張係数が低いニッケル合金等の磁性鉄鋼材料からなり、当該ニッケル合金である鉄鋼材料としては、Fe−Ni(インバー)や、Fe−Ni−Co(スーパーインバー)等が採用される。この高硬度部材としての軸受基体22及びカウンタープレート25の各動圧面における面粗度は、面粗度Rp(中心線山高さ)に関して、0.5μm以下の平均値を備えるように形成されており、次に述べるような低硬度部材からなるスラストリング16に対する摩耗を極力防止し、「なじみ」作用が完了した状態に極力近づけた状態に構成されている。
【0040】
これに対して、前記スラストリング16は、上記軸受基体22より低い硬度を有する材料、例えば、Cu(銅)、Cu−Al系合金(アルミニウム青銅等)、Cu−Sn合金(青銅)、Cu−Sn−P系合金(りん青銅等)、Cu−Si−Sn系合金(珪素青銅系)、Cu−Ni−Zn(洋白等)、Cu−Ni−Fe系合金(白銅等)、Cu−Be系合金(ベリリウム銅等)、Cu−Zn系合金(青銅等)などの銅又は銅系合金銅系が採用されており、この低硬度部材からなるスラストリング16の両端面における各動圧面に対して、上述したスラスト動圧発生用溝が容易に加工形成されている。
【0041】
また、この低硬度部材からなるスラストリング16における動圧面の面粗度は、面粗度Rp(中心線山高さ)に関して、上述した高硬度材からなる軸受基体22及びカウンタープレート25の面粗度(0.5μm)よりも2倍以上(1μm)に大きく設定されており、高硬度材からなる軸受基体22及びカウンタープレート25による摩耗が多少進んでも、動圧発生用溝の溝深さが所定量以上に維持されるように構成されている。
【0042】
さらに、上述した一組の各スラスト動圧軸受部SBa,SBbを構成する軸受空間の半径方向両端側部分には、毛細管シール部32a,32bが、各スラスト動圧軸受部SBa,SBbを半径方向両側から挟むように設けられている。
【0043】
これらの各毛細管シール部32a,32bは、スラストリング16側に形成された傾斜面によって、当該スラストリング16と前記軸受基体22との間の隙間を半径方向の内外方向に向かって徐々に拡大したものであって、半径方向内方側に配置された毛細管シール部32bが、上述したラジアル動圧軸受部RBa側及びモータ外部側の大気にそれぞれ連通している。なお、当該毛細管シール部32a,32bにおいて連続的に拡大している狭小隙間の寸法は、20μmから300μmとなっており、潤滑流体の液面位置が、モータ回転・停止のいずれの場合にも、各毛細管シール部32a,32bの内部所定位置となるように設定されている。
【0044】
また、前述したスラストリング16の外周面は、当該スラストリング16の外周面を半径方向内側に窪ませられており、半径方向外側から対面する軸受基体22の窪み部内周面との間に、潤滑流体溜り部34が形成されており、所定の油量が確保されている。
【0045】
なお、上述したカウンタープレート25は、上述した各動圧軸受部の組付後に軸受基体に対して接合されるが、前記潤滑流体の充填部分に臨む接合部は、このカウンタープレート25による接合部のみであって、潤滑流体の充填部分に対するその他の部位は一体に成形されて密閉性を確保している。
【0046】
さらに、上記カウンタープレート25と軸受基体22との接合部は、潤滑流体の注入前に、接着剤によって完全密閉構造となるように接合され、これによって潤滑流体に対する密閉性が良好に確保されている。この接合部に充填される接着剤は、当該接合部に形成された環状案内溝(図示省略)の毛細管力によって、接合部全周にわたって切れ目なく連続的に充填されるようになっており、これによって密閉構造が完全化される。
【0047】
また、上記カウンタープレート25には、外側(図示上側)から吸収布26を介して薄板状のストッパー板27が設けられており、これら吸収布26及びストッパー板27によって、最悪の場合でも、潤滑流体の外部飛散が防止されるようになっている。また、図示下端側のラジアル動圧軸受部RBbの外側部分に対しても、同様な吸収布26を介して薄板状のストッパー板27が設けられており、これら吸収布26及びストッパー板27によって、最悪の場合でも、潤滑流体の外部飛散が防止されるようになっている。
【0048】
このような実施形態装置によれば、スラストリング16の固定軸12に対する取付直角度が所定の範囲内に設定されていることから、スラストリング16の外周側部分が、特に起動時又は停止時において軸受基体22及びカウンタープレート25側に偏って長期接触するような事態が回避されることとなり、動圧発生用溝の溝深さが長期にわたって所定量以上に維持され、当該動圧発生用溝による加圧機能も良好に維持されて、「なじみ」の影響が極力排除されるようになっている。
【0049】
また、低硬度部材からなる軸受スリーブ23及びスラストリング16に対して動圧発生用溝が容易に加工形成されるとともに、高硬度部材からなる固定軸12、軸受基体22及びカウンタープレート25との「なじみ」作用によって、低硬度部材からなる軸受スリーブ23及びスラストリング16が摩耗されていっても、その軸受スリーブ23及びスラストリング16の面粗度が元々大きく設定されているので、動圧発生用溝の溝深さは長期にわたって所定量以上に維持され、当該動圧発生用溝による加圧作用も良好に発揮されて、「なじみ」の影響が極力排除されるようになっている。
【0050】
さらに本実施形態では、高硬度部材からなる固定軸12、軸受基体22及びカウンタープレート25における動圧面の平均面粗度Rp(中心線山高さ)が、「なじみ」を完了した状態に極力近づけられた状態に形成されているとともに、低硬度部材からなる軸受スリーブ23及びスラストリング16における動圧面の面粗度が、固定軸12、軸受基体22及びカウンタープレート25側の2倍以上に大きく設定されているため、高硬度部材(固定軸12、軸受基体22及びカウンタープレート25)による低硬度部材(軸受スリーブ23及びスラストリング16)の摩耗が急激に進行しなくなって、動圧軸受装置に必要な寿命が得られる。換言すれば、動圧軸受装置に必要な寿命を得るように、各部材における動圧面の平均面粗度Rp(中心線山高さ)が選定される。
【0051】
例えば、図3には、軸受部材を構成する高硬度材料としてステンレス鋼(SUS)を用いるとともに、スラストリングを構成する低硬度材料としてリン青銅を用いた場合のモデル化による摩耗試験の結果を示している。この摩耗試験は、低硬度材料からなるスラストリングの平均面粗度Rp(中心線山高さ)を約1.0μmに設定し、高硬度材料からなる軸受部材の面粗度(図3横軸;Rp)を種々変化させた場合のスラストリングの摩耗深さ(図3横軸;μm)を調べたものであって、モデル化にあたっては、実機に対する荷重、接触速度、接触距離の各条件を加味した。このモデル化条件のうちの接触距離は、実機における浮上回転数(A)の半分の回転数(A/2)における周速を平均接触速度(x)とし、その平均接触速度(x)と、実機仕様における最大起動停止回数(n)との積を上記接触距離としたものである。
【0052】
そして、実機における動圧発生用溝の深さが10μm程度であることから、摩耗後の溝深さを5μm〜7μm以上残すには、摩耗量を溝深さの半分以下、好ましくは1/3以下に抑える必要がある。そのためには、図3から解るように、高硬度材料からなる軸受部材の面粗度(図3横軸;Rp)を、上述した実施形態におけるように、5μm以下(Rp≦0.5μm)とする必要がある。
【0053】
以上、本発明者によってなされた発明の実施形態を具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能であるというのはいうまでもない。
【0054】
例えば、本発明を適用する動圧発生用溝は、上述した実施形態におけるようなヘリングボーン形状のものに限定されることはなく、その他の多種多様な形状を有する動圧発生用溝に対しても本発明は同様に適用することができる。
【0055】
また、上述した実施形態は、いわゆる軸固定型のモータに対して本発明を適用したものであるが、軸回転型のモータに対しても本発明は同様に適用することができる。
【0056】
さらに本発明は、上述したHDDモータ以外に用いられる動圧軸受装置に対しても同様に適用することができる。
【0057】
【発明の効果】
以上述べたように本発明にかかる動圧軸受装置は、スラストリングにおける軸部材に対する取付直角度を所定の範囲内に設定することによって、特に起動時又は停止時におけるスラストリングの軸受部材側に対する偏った長期接触を回避し、動圧発生用溝の溝深さを長期にわたって所定量以上に維持して当該動圧発生用溝による加圧機能を良好に維持し、「なじみ」の影響を極力排除するように構成したものであるから、軸受に必要な動圧を長期にわたって安定して得ることができ、動圧軸受装置の信頼性を向上させることができる。
また、高硬度部材における動圧面の平均面粗度Rp(中心線山高さ)を、「なじみ」が完了した状態に極力近づけ、又は、低硬度部材における動圧面の面粗度を高硬度部材側の2倍以上に大きく設定したものであるから、上記効果に加えて高硬度部材による低硬度部材の摩耗を急激に進行させないようすることができ、動圧軸受装置に必要な寿命を容易に得ることができ、動圧軸受装置の信頼性を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態における動圧軸受装置を備えたHDDスピンドルモータを表した横断面図である。
【図2】リン青銅(C5191)の温度(横軸)/摩耗率(縦軸)特性を、ステンレス鋼(SUS430F)等に対する比較で表した線図である。
【図3】軸受部材(高硬度材料)とスラストリング(低硬度材料)との摩耗試験の結果を示した線図である。
【符号の説明】
12 固定軸(固定部材)
16 スラストリング(固定部材)
22 軸受基体(回転部材)
23 軸受スリーブ(回転部材)
RBa,RBb ラジアル動圧軸受部
SBa,SBb スラスト動圧軸受部
Claims (1)
- 軸部材に取付固定された円盤状のスラストリングの端面に設けられた動圧面と、このスラストリングの動圧面に対向するように配置された軸受部材側の動圧面との間にスラスト軸受空間が設けられているとともに、当該スラスト軸受空間内に所定の潤滑流体を有し、
上記スラスト軸受空間を構成しているスラストリング及び軸受部材における両対向動圧面の少なくとも一方側に、前記潤滑流体に対して動圧を発生させる動圧発生用溝が形成された動圧軸受装置において、
上記軸部材の中心軸に対して、前記スラストリングの動圧面が、
90°±tan-1(1/2500)
の範囲内の角度となるようにスラストリングが軸部材に固定されているものであって、
前記スラストリング及び軸受部材が互いに異なる硬度を備え、高い硬度を有する部材がステンレス系合金から形成されているとともに、低い硬度を有する部材が銅又は銅系合金から形成され、
前記高い硬度を有する部材の動圧面における面粗度が、中心線山高さRpに関して0.5μm以下の平均値を備えるように形成され、かつ
前記低い硬度を有する部材の動圧面における面粗度を表す中心線山高さRpが、高い硬度を有する部材の面粗度を表す中心線山高さRpの2倍以上となるように形成されていることを特徴とする動圧軸受装置。
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JP03369898A JP3606731B2 (ja) | 1998-01-30 | 1998-01-30 | 動圧軸受装置 |
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JPH11218127A JPH11218127A (ja) | 1999-08-10 |
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Country | Link |
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JP (1) | JP3606731B2 (ja) |
-
1998
- 1998-01-30 JP JP03369898A patent/JP3606731B2/ja not_active Expired - Lifetime
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