JP3598622B2 - 着色極細繊維構造物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、比較的少量の染料で表面の色濃度が高く、かつ堅牢度に優れたポリエステル系極細繊維を用いてなる立毛を有する人工皮革または立毛を有する織編物からなる着色極細繊維構造物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、 ポリエステル系極細繊維が種々の用途で使用されているが、この極細繊維においては、通常の太さの繊維に比べ、同じ染料吸尽率の場合、色濃度が大幅に薄く見えるという問題を有する。このためポリエステル系極細繊維においては染色液の染料濃度を高くして染色する必要があり、例えば単繊維繊度0.1デニールの繊維であれば、通常の太さの繊維(単繊維繊度2〜3デニール)に比べ、同じ色にするため染料の使用量は4〜6倍必要とされる。このような高濃度の染色液を用いた染色の場合、多くの染料の染着性は低くなり、高濃度の染色液を使用しても繊維に吸尽される染料はあまり増加しないことから十分な濃色が得られず、発色性の低い繊維構造物しか得られないという問題がある。
【0003】
一方、発色性を改善する方法として、繊維構造物に低屈折率のポリマーを付与する技術があり、特公昭58−51557号公報で提案されている。この技術は確かに発色性を改善するが、その耐久性や堅牢度低下に問題があった。
【0004】
また、無機微粒子と低屈折率ポリマーの組合せによる発色性改善効果を狙ったものとして、特開平1−92478号公報、特開平1−111072号公報、特開昭57−66184号公報、特開昭57−71475号公報に提案されている。これらの技術はいずれも無機微粒子としてシリカやアルミナを用いるため、発色性改善効果を有するが、摩擦、揉みに対して比較的弱く、白化現象が起こりやすいという問題があった。また、これらの技術は単繊維繊度2〜3デニールの繊維には効果があるが極細繊維には効果が小さく、さらに極細繊維を染色するために必要な染料量を低減することはできないものであった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、表面部の色濃度が高く、かつ堅牢度に優れたポリエステル系極細繊維を用いてなる立毛を有する人工皮革または立毛を有する織編物からなる着色極細繊維構造物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは極細繊維を用いてなる立毛を有する人工皮革または立毛を有する織編物からなる繊維構造物の色の見え方において、特に表層部の色の影響が大きいことに着目し本発明に至ったものである。すなわち、立毛を有する人工皮革または立毛を有する織編物からなる極細繊維構造物は、単繊維繊度2〜3デニールの繊維を用いてなる繊維構造物に比べ、同じ厚さあるいは目付であっても、それを構成する繊維本数は非常に多くなる。したがって、繊維表面積が増えるため布帛としては反射率が高く、透過率は低下するため、極細繊維を用いてなる立毛を有する人工皮革または立毛を有する織編物からなる繊維構造物の色が出にくいと考えられる。
【0007】
かかる観点から本発明は完成されたものであり、極細繊維を用いてなる立毛を有する人工皮革または立毛を有する織編物からなる繊維構造物を濃色化して前記課題を解決するため、本発明は次の構成を有する。
【0008】
すなわち、ポリエステル系極細繊維を用いてなる立毛を有する人工皮革または立毛を有する織編物からなる繊維構造物において、該繊維構造物の表面部の色濃度K/S値が、該繊維構造物の内層部の色濃度K/S値の1.5以上であり、かつ分散染料を用いて染色されていることを特徴とする着色極細繊維構造物である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の立毛を有する人工皮革または立毛を有する織編物からなる着色極細繊維構造物(以下、単に「着色極細繊維構造物」あるいは「極細繊維構造物}ということがある)は、ポリエステル系極細繊維を用いてなるものである。
【0011】
好ましくはポリエステル系繊維としてエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し成分とするものを用いるものであり、繰り返し単位の90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上がエチレンテレフタレートであるものが好ましく用いられる。
【0012】
イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAなどの脂環族または芳香族ジオールなどの成分が共重合されているものでも差し支えない。
【0013】
本発明の繊維構造物は極細繊維よりなるものであり、一般には単繊維繊度1デニール未満の繊維が極細繊維と言われる。本発明の繊維構造物は、単繊維繊度0.5デニール以下である極細繊維を用いてなることが好ましく、単繊維繊度0.3デニール以下である極細繊維を用いてなることがより好ましい。単繊維繊度の下限は通常0.001デニール以上が好ましく用いられる。
【0014】
本発明の着色極細繊維構造物は、繊維構造物の表面部が繊維構造物の内層部より濃色に染色されていることを特徴とし、繊維構造物の表面部の色濃度K/S値が繊維構造物の内層部の色濃度K/S値の1.5倍以上であることを必要とする。好ましくは2倍以上である。かかる色濃度の差を有することにより、使用した染料の総量が同一でありながら従来の染色法に比し濃染化した着色極細繊維構造物とすることができる。
【0015】
本発明においては、繊維構造物の表面層と内層部とで色濃度に勾配をもたせ、表面部を内層部より濃色化し、色に影響を与えないように内層部を淡色とすることにより、内層部と表層部とが均一に着色された染色物より染料吸尽の総量を少なくして同じ色濃度の染色物とすることができ、かつ洗濯やドライクリーニングに対する堅牢度を改善できる効果を奏する。特に、繊維構造物が立毛を有する人工皮革または立毛を有する織編物の場合において、従来の染色法に比し本発明の効果が顕著である。
【0016】
表層部と内層部のK/S値の差の上限は特に限定されないが、内層部の色濃度が表層部より過度に淡色化することにより裁断面が白っぽく見えたり、摩耗による変色を起こすのを防ぐ観点からは、繊維構造物の表面部の色濃度K/S値が繊維構造物の内層部の色濃度K/S値の8倍以下とすることが好ましい。より好ましくは6倍以下である。
【0017】
通常、ポリエステルの極細繊維構造物は分散染料を用いて液流染色機にて染色されるが、この場合には十分な発色と堅牢度、染着性が得られる標準的な条件では表面部と内層部が均一に染色されるため、表面部の色濃度K/S値と内層部の色濃度K/S値はほぼ等しくなっている。
【0018】
なお、ここでいう色濃度K/S値とはいわゆるKubelka−Munkの関数で定められるものであって、次式で表される。
【0019】
K/S=(1−R)/2R
ここで、Rは最大吸収波長での反射率を表す。
【0020】
本発明において、内層部の色濃度は、試料を厚さ方向のほぼ中央でスライスしその表面を測色することにより知ることができる。測色はいずれも超高感度瞬間マルチ測光システム(大塚電子(株)製)でセル2mmを用いて測定したものである。
【0021】
本発明の着色極細繊維構造物は、例えば次の方法により得ることができる。
【0022】
すなわち、通常の液流染色法における染色時に、アニオン性の分散染料とコンプレックスを形成するカチオン性の微粒子を添加し染色する。特に好ましいカチオン性微粒子としてカチオン性コロイダルシリカまたはアルミナゾルが用いられる。このように分散染料のコンプレックスを形成させて染色した場合、極細繊維構造物の表面がより濃色に染色され内層部がうすく染色することができる。この方法では、コンプレックスを形成している染料の見掛け粒子径が大きくなるとともにカチオン性を示すので、染色浴中でマイナスに帯電しているポリエステル系極細繊維構造物の表面部付近に、高濃度に存在することができ、表面部を濃色に染色せしめることができることと、見掛け粒子径が大きいため繊維構造物の内部に入りにくく表面部を効果的に染色できると考えられる。
【0023】
本発明の繊維構造物を染色する分散染料は特に限定されないが、上記方法で染色する場合は市販のアニオン性の分散染料の中から効果の高い染料を適宜選択して染色すればよい。分散染料は2〜30%owf、微粒子は純分で0.1〜10%owfの濃度で好ましく用いることができる。
【0024】
繊維構造物の表面部を濃色にするには、上記方法以外に通常の浸染法で表面部と内層部をほぼ均一に染めたのち、同じ染料で全面に色糊をコーティングし熱処理により発色させてもよい。この方法では工程が2工程になること、また糊をコーティングした後で熱処理するので極細繊維構造物の表面品位、特に立毛布帛の場合の立毛品位や風合いが変化し易いという観点からは、前者の方法の方が好ましく採用できる。
【0025】
以上のように本発明の着色極細繊維構造物は、従来の厚さ方向にほぼ均一に染色された染色物に比べ、同一色濃度で比較した場合、使用する染料量を約30〜80%に低減できる。また、使用した染料の総量が同じであれば、表面色濃度が約1.5〜6倍に濃い着色極細繊維構造物とすることが可能であり、堅牢度面でも従来より同等以上である特徴を有し、極細繊維構造物の染色における問題を大幅に改善できる。
【0026】
【実施例】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。
【0027】
なお、染色堅牢度の耐光性に関する評価はJIS L−0841、洗濯に関する評価はJIS L−0821に準じて行った。
【0028】
実施例1〜2、比較例1
ポリエステル系極細繊維(単繊維繊度0.19デニール)を用いてなるポリウレタンが付与された目付370g/mの不織布を、下記および表1に示す染色条件で染色し、次いで通常の還元洗浄を行い、黒色の着色極細繊維構造物を得た。
【0029】
<染色条件>
分散染料: TD Black D−ERF(ダイドーケミックス(株)製) 20%owf
無機微粒子:アルミナゾル100 (日産化学(株)製) 濃度は表1に記載。
【0030】
PH調整剤:イオネットPH−500(三洋化成(株)製)
染色温度・染色時間:120 ℃、60分
【表1】
Figure 0003598622
表1に示したように、表面部と内層部との色濃度比が約1.8である本発明の着色極細繊維構造物(実施例1,2)は、色濃度比が1.15である比較例に比し同じ染料使用量(染着量もほぼ同じ)でありながら、繊維構造物の表面部の色濃度が約25%高くなっており、濃色の着色極細繊維構造物であった。
【0031】
実施例3〜5、比較例2〜4
ポリエステル系極細繊維(単繊維繊度0.04デニール)を用いてなるポリウレタンが付与された目付170g/mの不織布を用い、染料にVitasil Black MBT (松浦産業(株)製)、無機微粒子にアルミナゾル 200を用いた以外は実施例1と同様の方法により、黒色の着色極細繊維構造物を得た。その結果を表2に示した。
【0032】
【表2】
Figure 0003598622
表2に示したように、本発明の着色極細繊維構造物(実施例3〜5)は、同一染料濃度で色濃度比が1.5以下である比較例に比し、表面部が著しく濃色化したものであった。
【0033】
色濃度比が1.5以下である比較例において、表面部の色濃度K/S値を実施例としてあげた本発明に係る着色極細繊維構造物と同一にするには、実施例3と比較例4がぼぼ同等になるが、その使用した染料濃度をみると実施例3の場合には比較例4の1/3でよく、少量の染料で高い発色性が得られることが明らかである。
【0034】
なお、本発明に係る着色極細繊維構造物は、染色堅牢度が普通の染色法と大差がなく、濃染化によって発色性が向上した優れた着色極細繊維構造物である。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、特に濃色染めでの発色性が大幅に増大し、しかも、染色堅牢度の低下がなく、染料利用効率の高い立毛を有する人工皮革または立毛を有する織編物からなる着色極細繊維構造物が提供できる。

Claims (2)

  1. ポリエステル系極細繊維を用いてなる立毛を有する人工皮革または立毛を有する織編物からなる繊維構造物において、該繊維構造物の表面部の色濃度K/S値が、該繊維構造物の内層部の色濃度K/S値の1.5以上であり、かつ分散染料を用いて染色されていることを特徴とする着色極細繊維構造物。
  2. 前記ポリエステル系極細繊維の単繊維繊度が0.5デニール以下であることを特徴とする請求項1記載の着色極細繊維構造物。
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