JP3597964B2 - 黄色無機顔料の製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、クロム、ニッケル、及びコバルトの酸化物のうちの一種、もしくは二種以上と、アンチモン、タングステン、及びニオブの酸化物のうちの一種、もしくは二種以上とが酸化チタンに固溶したルチル型構造である黄色無機顔料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
クロム、ニッケル、及びコバルトの酸化物のうちの一種、もしくは二種以上と、アンチモン、タングステン、及びニオブの酸化物のうちの一種、もしくは二種以上が酸化チ夕ンに固溶したルチル型構造である黄色無機顔料は、耐候性、耐熱性に優れていることから、窯業用の着色剤、塗料や合成樹脂の着色剤等に幅広く使われている。
【0003】
この黄色無機顔料の製造には、多くの手法が採用され、また、提案もされている。
【0004】
例えば、古くから、チタンと、(A)コバルト、クロム、ニッケル、及びコバルトとニッケルからなるグループのうちのいずれか一種、(B)アンチモン、タングステン、及びニオブからなるグループのうちのいずれか一種もしくは二種以上の種々の元素の酸化物、もしくは加熱後に酸化物となる化合物の粉砕物を、所定の割合で混合して焼成する方法が知られている。
【0005】
しかし、この方法では、均質で充分に発色した焼成物を得るためには、1100〜1300°C程度の高い焼成温度で、3〜6時間程度の長い焼成時間が必要であり、そのため、エネルギーコストが高くなるばかりでなく、焼成物の焼結が進み、粒子が粗大化してしまうために、焼成後、多大な機械的エネルギーをかけて再度粉砕する必要が生じてくる。
【0006】
また、配合原料を長時間かけて湿式混合粉砕することによって超微細化し、かつ混合状態をより均質化した後焼成する手法がある。これによって多少、焼成時間の短縮は可能となるが、湿式混合粉砕の欠点である粉砕タンクや粉砕媒体の摩耗から不純物が混入してしまうという問題も生じる。
さらに、焼成温度の低温化を目的として融剤を併用する方法もあるが、焼ムラがひどく、焼結による粒成長も著しい。
【0007】
さらには、共沈法を利用する方法もある。例えば特開平5−201732号公報、特開平4−170323号公報等には、出発原料を水性溶媒中で、溶解もしくは分散させ、適当なpHの条件により共沈させ得られた混合物を水洗、ろ過、乾燥、焼成する方法が開示されている。この共沈法による製造方法では、800°C程度の比較的、低い焼成温度によりルチル型複合酸化物顔料を得ることができる利点がある反面、製造工程が複雑でそのことが製造コストを跳ね上げる欠点がある。
【0008】
【発明が解決しようとしている課題】
本発明が解決しようとする課題は、簡単にルチル型複合酸化物を得ることができ、しかも、低い温度での短時間の焼成によって均質な黄色無機顔料を得るための製造方法を確立することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の黄色無機顔料の製造方法は、酸化チタンあるいはメタチタン酸、又はその両者と(A)コバルト、クロム、ニッケル、及びコバルトとニッケルからなるグループのうちのいずれか一種と、(B)アンチモン、タングステン、及びニオブからなるグループのうちのいずれか一種もしくは二種以上の種々の元素の酸化物、もしくは加熱後に酸化物となる化合物とを混合し、その混合物を容器駆動式ミル、媒体撹拌式ミル、剪断摩擦式ミル、高速回転衝撃剪断式ミル等の汎用の粉砕機を用いて乾式粉砕して微細化を進め、さらに、乾式での処理を続けることによって原料粉体に粉砕に必要なエネルギー以上のエネルギーを付加してメカノケミカル反応を生じさせる。これによって原料粒子が強固に接合し、複合化が起こると同時に、原料粒子表面から非晶質化(無定形化)が進む。
【0010】
もちろん、この処理は粉砕機による乾式粉砕の延長線上に存在するため、この複合化現象と同時に粉砕も平行して起こり、複合化による粒子径の増大を防ぐ作用も奏する。
【0011】
この複合化処理によって得られた個々の粒子は、チタン、(A)コバルト、クロム、ニッケル、及びコバルトとニッケルからなるグループのうちのいずれか一種(B)アンチモン、タングステン、及びニオブからなるグループのうちのいずれか一種もしくは二種以上のそれぞれの元素が原料配合比率で共存する複合粒子であり、かつ、結晶質に比べて反応性に富んだ非晶質への変化が進んだ複合粒子である。つまり、原料粒子同士が強固に接合し、固相反応速度の重要因子である粒子同士の接点、すなわち、反応点が著しく増加する上、複合粒子の非晶質化がさらなる反応促進に寄与しているため、従来の製造方法に比べて、高温、長時間の焼成を必要としない。従って、従来の製造方法よりも低温、かつ短時間の、焼結が過剰に進行しない焼成条件で、均質でかつ充分発色した顔料を得ることができる。
【0012】
このメカノケミカル反応による現象は、X線回折結果での非晶質化の進行、TG−DTA/DSCなどの熱分析での発熱、吸熱ピークの消滅や移動、又、複合化による比表面積の増加傾向から減少傾向への移行等で確認できる。
【0013】
このようなメカノケミカル反応自体は、久保輝一郎著「無機物のメカノケミストリ−」総合技術出版(1987)にも記載されているように公知であり、粉体の表面改質、高温超伝導物質の生成等に適応できることが知られているが、クロム、ニッケル、及びコバルトの酸化物のうちの一種、もしくは二種以上と、アンチモン、タングステン、及びニオブの酸化物のうちの一種、もしくは二種以上とが酸化チタンに固溶したルチル型構造の複合酸化物である黄色無機顔料をはじめとした無機顔料の製造方法への応用は勿論、これによって得られる無機顔料の特性については全く知られていない。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明で使用するチタン源には、酸化チタン、メタチタン酸等の酸化物または加熱後酸化物となるチタン化合物が使用できる。また、コバルト源には酸化コバルト、炭酸コバルト、水酸化コバルト等の酸化物または加熱後酸化物となるコバルト化合物が使用でき、クロム源には酸化クロム、水酸化クロム等の酸化物または加熱後酸化物となるクロム化合物が使用できる。ニッケル源には酸化ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等の酸化物または加熱後酸化物となるニッケル化合物が使用できる。アンチモン源には五酸化アンチモン、三酸化アンチモン等の酸化物または加熱後酸化物となるアンチモン化合物が使用できる。タングステン源には酸化タングステン、タングステン酸アンモニウム等の酸化物または加熱後酸化物となるタングステン化合物が使用できる。ニオブ源には酸化ニオブ等の酸化物または加熱後酸化物となるニオブ化合物が使用できる。
【0015】
このように本発明の複合化処理は、加熱後酸化物となるような粉体であれば本質的に全てが出発原料として適用可能であるが、コバルト源として水酸化コバルト、クロム源として水酸化クロム、ニッケル源として炭酸ニッケルを用いるのがより低いエネルギー付加で容易に非晶質化が進むことから都合が良い。
【0016】
さらに、各成分の構成割合についても、コバルト、クロム、ニッケル、アンチモン、タングステン、ニオブの各種金属がルチル型の酸化チタンに固溶可能な範囲内であれば、それぞれの組み合わせが、その組成を問わず適用可能である。この際、従来より色目の改善や、物性の向上のために、酸化剤、粒成長促進剤や酸化リチウム等、種々の添加剤を配合原料に加えて焼成することができるが、このような添加剤を加えても色目や物性の制御は可能である。
【0017】
配合原料を粉砕機によって乾式で処理する際の粉砕形態は特定されない。例えば、転動ボールミル、振動ミル、石臼型ミル、インパクトミル、ロール転動ミル、デイスクミル、ピンミル、媒体撹拌ミル(アトライター)、遊星ボールミルなどが挙げられる。ただ、振動ミル、媒体撹拌ミル、遊星ボールミルなどの摩砕による粉砕機構を含むものがメカノケミカル反応を誘発させやすい点から望ましい。また、粉砕媒体を使用する粉砕機の場合、粉砕媒体は、ロッド、シリンダー、ボールのいずれも使用可能であるが、摩砕効果が高まるよう粉砕媒体条件下で複合化処理を行うことが望ましい。例えば、振動ミルや遊星ボールミルの場合、微粉砕に適するボール径の1.1〜2.0倍のものを使用、もしくは、ボール量を1〜2割増しの状態で使用することによって、摩砕効果を高めることが容易にできる。
【0018】
また、粉砕媒体への付着防止のために少量の液体助剤を添加するのはメカノケミカル反応を起こすのに有効であり、例えば、一般に乾式粉砕の助剤として広く使われているエタノール、プロパノールなどがよい。添加量については、配合原料の総量に対し0.05〜5.0wt%の範囲での添加が望ましい。
【0019】
さらに複合化処理する際、粒子間の接合をより低いエネルギーで起こすための助剤としては、原料である無機物表面に吸着し、かつ、バインダーの役目を担うに充分な粘度をもつ有機物が特に有効である。例えば、無機物表面への吸着性から1分子中に水酸基もしくはカルボキシル基を複数有する有機物、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルコール系アミン類、もしくは、1分子中にカルボキシル基を複数有するジカルボン酸類、あるいはポリカルボン酸類などが挙げられる。もし、その有機物が常温で固体あるいはあまりに高粘度の場合は、水もしくはその他の溶剤で粘度を、必要に応じて水もしくはその他の溶剤で調整して、常温(20°C)下で、10〜500センチポイズの溶液として用いる。これは、原料粒子全体に均一分散させるのに適した範囲の粘度である。
【0020】
添加量については、配合原料の総量に対し0.05〜5.0重量%の範囲、望ましくは0.5〜2.0重量%の範囲である。添加量を5.0重量%以上にすると、大多数の原料が複合化処理の初期段階で粉砕タンク内壁や粉砕媒体に未処理のまま付着し、その付着物がその後の処理作用を阻害してしまう。また、0.05重量%以下では添加の効果がほとんど認められなくなる。これらの助剤を使用すると処理効率が向上し、場合によっては、ボールミル等の低エネルギ一型の粉砕機でも複合化処理が可能となる。
【0021】
【実施例】
実施例1
配合原料の組成を示す表1において、サンプル1に示した所定量を調合し、振動ボールミル(MB−1、中央化工機(株)社製)を用いて常温条件下で、3時間、乾式複合化処理を行った。この際、容器はナイロン製ポット(3.01)、粉砕メディアは、25mmφのアルミナボールを5.0kg、配合原料の投入量は100gとした。
【0022】
【表1】
【0023】
複合化処理後のサンプル1の結晶構造をX線回折装置(RAD−III/理学電機(株)社製)により調べたところ、図1に示したように、複合化処理により配合原料の非晶質化が進行したことが認められた。さらにその表面形態を電子顕微鏡観察(S−2300型走査電子顕微鏡/(株)日立製作所製)したところ、図2に示したような複数の粒子が強固に接合した、2次粒子を形成しているのが観察された。この二次粒子をEDX(エネルギー分散形X線マイクロアナライザーEMAX−3700/(株)堀場製作所製)によって元素マッピングしたところ、図3〜図5のようにチタン、コバルト、及びアンチモン元素すべてが共存する複合粒子であることが認められた。図6はこの複合粒子の形態を模式化して示す。
【0024】
従って、本発明の複合化処理を配合原料に施すことにより、非晶質化の進行した粒子同士が強固に接合し、かつ配合原料に含まれる全ての金属元素を含む複合粒子が得られた。次いでサンプル1の組成の複合粒子をローラーハース炉、もしくはSiC電気炉で、800°C〜1100°Cで1時間焼成し、得られた焼成品を1μm以下に解砕し、展色し、測色した。展色、測色の方法は以下に記すとおりである。測色結果はCIELAB表色系を用いて比較、評価した。
【0025】
測色方法
マヨネーズ瓶(70cc)に以下の重量比で混和し、ペイントシェイカー(レッド デヴィル社製)で20分間分散させる。そしてアート紙にアプリケーター(150μ)にて展色し、分光光度計(カラコムシステム/大日精化工業(株)社製)で測色する。
試料(1μm以下) 4部
ガラスビーズ(ユニビーズUB−2527L/ユニオン(株)社製) 45部
アクリル樹脂(ニッペアクリル オートクリアスーパー) 30部
シンナー 1部
表2にそれぞれの焼成温度、時間、それにCIELAB表色系による測色結果を示す。
【0026】
【表2】
【0027】
複合化処理を施すことで800°C、1時間の焼成条件で均一な赤味の黄色の発色が認められた。従来の製造方法ではこの焼成条件では全く発色は認められない。
【0028】
さらに高温で焼成するほど、得られる顔料の発色は強いものとなり、1000°C、1時間の焼成により、従来の製造方法においては1100°Cで6時間焼成しなければ得られない発色を有する赤味の黄色の顔料を得ることができた。さらに、1100°Cにて焼成すると同原料、同組成であるのにもかかわらず、従来の製造方法では6時間以上焼成しても得られない黄味、赤味共に濃い顔料をわずか1時間の焼成時間で得ることができた。
【0029】
比較例1
表1のサンプル1に示した所定量を調合し、へンシェルミキサー(サンプルミル、協立理工(株)社製)で混合した。混合処理後のサンプル1の結晶構造をX線回折装置により調べたところ、図1に示すように、混合処理をほどこしても配合原料の非晶質化は認められなかった。さらにその表面形態を電子顕微鏡観察したところ、実施例1において見られたような二次粒子は認められなかった。さらにEDX(エネルギ一分散形X線分析装置 EMAX−3700/堀場製作所)によって元素マッピングしたところ、チタン、コバルト、及びアンチモン元素がそれぞれ単独に存在しているのが認められた。図7に混合処理後の配合原料の形態を模式化したものを示す。従って、従来の製造方法における混合処理では、実施例1記載の処理により得られる複合粒子は得られなかった。
【0030】
次いでサンプル1の組成の混合物をローラーハース炉、もしくはSiC電気炉にて、800°C〜1100°Cで1〜6時間焼成して実施例1と同様に、粉砕、展色し、測色した。表2にそれぞれの焼成温度、時間、それにCIELAB表色系による測色結果を示す。
【0031】
得られた顔料は実施例1のそれと比較して焼成時間が1時間ではムラが目立った。さらに発色の程度も、実施例1と同じ焼成条件で比較すると黄味、赤味共に弱く、実施例1において1000°C、1時間の焼成条件にて得られる水準にまで発色させるためには1100°Cで6時間焼成しなければならなかった。
【0032】
実施例2
表1のサンプル2〜10に示した所定量を調合し、複合化処理を実施例1と同様に行った。複合化処理後のサンプル2〜10は、実施例1の場合と同様、非晶質化の進行した粒子同士が強固に接合し、かつ配合原料に含まれる全ての金属元素を含む複合粒子であった。次いでサンプル2〜10に示した組成の複合粒子をローラーハース炉、もしくはSiC電気炉にて、1000°Cで1時間焼成し、得られた焼成品を1μm以下に解砕し、実施例1と同様に展色し測色した。
【0033】
表3にそれぞれの組成、それにCIELAB表色系による測色結果を示す。サンプル2〜7のいずれにおいても、非常に均一な赤味の黄色の発色を有する顔料が得られた。即ちアンチモンの代わりに、タングステン及びニオブのいずれを用いても、もしくは組み合わせて用いた場合でも複合化処理の効果は実施例1と同様に認められた。
【0034】
【表3】
【0035】
さらにサンプル8〜10のいずれにおいても、非常に均一な赤味の黄色、もしくはレモンイエローの発色を有する顔料が得られた。即ちコバルトの代わりにクロム、ニツケル、及びコバルトとニッケルをルチル型の酸化チタンに固溶させる場合であっても複合化処理の効果は実施例1と同様に認められた。
【0036】
比較例2
表1のサンプル2〜10に示した所定量を調合し、混合処理を比較例1と同様に行なった。サンプル2〜10のいずれにおいても、比較例1の場合と同様に、混合処理では、実施例1のような複合粒子は得られなかった。次いでサンプル2〜10に示した組成の混合物をローラーハース炉、もしくはSiC電気炉で1000°Cで1時間焼成し、得られた焼成品を1μm以下に解砕し、実施例1と同様に展色し、測色した。
【0037】
表3にそれぞれの組成、それにCIELAB表色系による測色結果を示す。得られた顔料はサンプル2〜10のいずれの組成においても実施例2のそれと比較してムラが目立ち、かつ発色も不十分なものであった。
【0038】
実施例3
エタノール、プロピレングリコール、ポリカルボン酸(ディスパロン2150/楠本化成(株)製)、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンもしくはモノエタノールのいずれかをそのまま、あるいは、エタノールで希釈して、所定の粘度に調整し、それらを助剤A〜Hとした。次いで、表1に記載のサンプル1の組成の配合原料100gに、これらの助剤A〜Hをそれぞれ添加し、実施例1に記載の複合化処理を行った。ただし、処理時間は0.5〜2時間とし、助剤の添加量は助剤A〜Hについては投入総量の1重量%とし、助剤Hを10重量%添加したものを助剤H’とした。上記処理によって得られた複合粒子をローラーハース炉にて、800°Cで1時間焼成し、焼成条件での発色の程度を評価した。
【0039】
表4に、添加した助剤A〜H’の成分、その粘度(20°C/センチポイズ)及び上記焼成条件での発色の程度を示す。助剤D〜Hを添加した場合、つまり、助剤の粘度が10〜500センチポイズの範囲内で、かつ、分子中に水酸基もしくはカルボキシル基、又はその両者を2つ以上有する有機物を含む助剤を添加した場合、1.0時間もしくは1.5時間の処理で実施例1において3時間処理したときととほぼ同等の発色を呈した。従って、助剤D〜Hを添加することにより、助剤無添加の場合と比べ、より短時間で複合粒子が形成させることができた。助剤A,B,Cについては、助剤D〜Hほどは著しい効果は認められなかった。即ち、助剤A,Cのような、1分子中に水酸基を1つしか有さない有機物を含んだ溶液では、助剤の無機物表面への吸着力が不足してバインダーの役目が担えず、粒子間の接合には直接寄与しなかった。また、助剤A,Bのように1分子中に水酸基を2つ以上有する有機物を含んだ溶液であっても、バインダーとして働くのに必要な粘性を有さなければ、粒子間の接合には直接寄与しなかった。
【0040】
【表4】
【0041】
また、助剤Hを10重量%添加した、助剤H’は複合化処理を2時間行った場合でも充分な発色が得られなかった。これは、助剤を過剰添加したH’は、大多数の原料が複合化処理の初期段階でポット内壁やアルミナボールに未処理のまま付着し、この付着物が、その後の処理作用を阻害したからである。
【0042】
【発明の効果】
(1)上記黄色無機顔料が、従来の製造方法と比べ低温かつ短時間の焼成により製造が可能となる。
A.そのため、従来の製造方法と比べ、大幅なエネルギーコストの低減が期待できる。
B.そのため、従来の製造方法と比べ、焼成工程での大幅な生産性の向上が期待できる。
C.そのため、焼結による粒子の粗大化が起こることなく焼成が終了し、最終段階の粉砕工程がより簡素に、もしくは省略できる。
(2)従来の製造方法と比べ、高品質な顔料が安定して得られる。
(3)格別の設備を用いることなく実施できる。
(4)製造工程の簡略化により、低コストで従来通り、もしくはそれ以上の品質の顔料が得られる。
(5)配合原料のコバルト源として水酸化コバルト、クロム源として水酸化クロム、ニッケル源として炭酸ニッケルをそれぞれ用いれば、本発明の処理による効果が著しく表われる。
(6)本発明の処理をする際、1分子中に水酸基を2つ以上、又は1分子中にカルボキシル基を2つ以上、又は1分子中に水酸基とカルボキシル基の合計が2つ以上である有機物を、常温(20°C)で10〜500センチポイズの粘度となるように、必要に応じて水もしくはその他の溶剤で調整した溶液を、複合化処理促進のための助剤として、配合原料の総量に対し0.05〜5.0wt%の範囲で添加することによって、本発明の処理効率が向上する。
【図面の詳細な説明】
【図1】本発明の実施例1によって得た複合粒子と比較例1によって得た混合物のX線回折プロファイルを示す。
【図2】本発明の実施例1によって得た複合粒子表面の図面に代わる電子顕微鏡写真を示す。
【図3】本発明の実施例1によって得た複合粒子のチタン元素に対する面分析結果の図面に代わる電子顕微鏡写真を示す。
【図4】本発明の実施例1によって得た複合粒子のコバルト元素に対する面分析結果の図面に代わる電子顕微鏡写真を示す。
【図5】本発明の実施例1によって得た複合粒子のアンチモン元素に対する面分析結果の図面に代わる電子顕微鏡写真を示す。
【図6】本発明の実施例1によって得た複合粒子の面分析結果に基づいた模式図を示す。
【図7】本発明の比較例1によって得た混合物の面分析結果に基づいた模式図を示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、クロム、ニッケル、及びコバルトの酸化物のうちの一種、もしくは二種以上と、アンチモン、タングステン、及びニオブの酸化物のうちの一種、もしくは二種以上とが酸化チタンに固溶したルチル型構造である黄色無機顔料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
クロム、ニッケル、及びコバルトの酸化物のうちの一種、もしくは二種以上と、アンチモン、タングステン、及びニオブの酸化物のうちの一種、もしくは二種以上が酸化チ夕ンに固溶したルチル型構造である黄色無機顔料は、耐候性、耐熱性に優れていることから、窯業用の着色剤、塗料や合成樹脂の着色剤等に幅広く使われている。
【0003】
この黄色無機顔料の製造には、多くの手法が採用され、また、提案もされている。
【0004】
例えば、古くから、チタンと、(A)コバルト、クロム、ニッケル、及びコバルトとニッケルからなるグループのうちのいずれか一種、(B)アンチモン、タングステン、及びニオブからなるグループのうちのいずれか一種もしくは二種以上の種々の元素の酸化物、もしくは加熱後に酸化物となる化合物の粉砕物を、所定の割合で混合して焼成する方法が知られている。
【0005】
しかし、この方法では、均質で充分に発色した焼成物を得るためには、1100〜1300°C程度の高い焼成温度で、3〜6時間程度の長い焼成時間が必要であり、そのため、エネルギーコストが高くなるばかりでなく、焼成物の焼結が進み、粒子が粗大化してしまうために、焼成後、多大な機械的エネルギーをかけて再度粉砕する必要が生じてくる。
【0006】
また、配合原料を長時間かけて湿式混合粉砕することによって超微細化し、かつ混合状態をより均質化した後焼成する手法がある。これによって多少、焼成時間の短縮は可能となるが、湿式混合粉砕の欠点である粉砕タンクや粉砕媒体の摩耗から不純物が混入してしまうという問題も生じる。
さらに、焼成温度の低温化を目的として融剤を併用する方法もあるが、焼ムラがひどく、焼結による粒成長も著しい。
【0007】
さらには、共沈法を利用する方法もある。例えば特開平5−201732号公報、特開平4−170323号公報等には、出発原料を水性溶媒中で、溶解もしくは分散させ、適当なpHの条件により共沈させ得られた混合物を水洗、ろ過、乾燥、焼成する方法が開示されている。この共沈法による製造方法では、800°C程度の比較的、低い焼成温度によりルチル型複合酸化物顔料を得ることができる利点がある反面、製造工程が複雑でそのことが製造コストを跳ね上げる欠点がある。
【0008】
【発明が解決しようとしている課題】
本発明が解決しようとする課題は、簡単にルチル型複合酸化物を得ることができ、しかも、低い温度での短時間の焼成によって均質な黄色無機顔料を得るための製造方法を確立することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の黄色無機顔料の製造方法は、酸化チタンあるいはメタチタン酸、又はその両者と(A)コバルト、クロム、ニッケル、及びコバルトとニッケルからなるグループのうちのいずれか一種と、(B)アンチモン、タングステン、及びニオブからなるグループのうちのいずれか一種もしくは二種以上の種々の元素の酸化物、もしくは加熱後に酸化物となる化合物とを混合し、その混合物を容器駆動式ミル、媒体撹拌式ミル、剪断摩擦式ミル、高速回転衝撃剪断式ミル等の汎用の粉砕機を用いて乾式粉砕して微細化を進め、さらに、乾式での処理を続けることによって原料粉体に粉砕に必要なエネルギー以上のエネルギーを付加してメカノケミカル反応を生じさせる。これによって原料粒子が強固に接合し、複合化が起こると同時に、原料粒子表面から非晶質化(無定形化)が進む。
【0010】
もちろん、この処理は粉砕機による乾式粉砕の延長線上に存在するため、この複合化現象と同時に粉砕も平行して起こり、複合化による粒子径の増大を防ぐ作用も奏する。
【0011】
この複合化処理によって得られた個々の粒子は、チタン、(A)コバルト、クロム、ニッケル、及びコバルトとニッケルからなるグループのうちのいずれか一種(B)アンチモン、タングステン、及びニオブからなるグループのうちのいずれか一種もしくは二種以上のそれぞれの元素が原料配合比率で共存する複合粒子であり、かつ、結晶質に比べて反応性に富んだ非晶質への変化が進んだ複合粒子である。つまり、原料粒子同士が強固に接合し、固相反応速度の重要因子である粒子同士の接点、すなわち、反応点が著しく増加する上、複合粒子の非晶質化がさらなる反応促進に寄与しているため、従来の製造方法に比べて、高温、長時間の焼成を必要としない。従って、従来の製造方法よりも低温、かつ短時間の、焼結が過剰に進行しない焼成条件で、均質でかつ充分発色した顔料を得ることができる。
【0012】
このメカノケミカル反応による現象は、X線回折結果での非晶質化の進行、TG−DTA/DSCなどの熱分析での発熱、吸熱ピークの消滅や移動、又、複合化による比表面積の増加傾向から減少傾向への移行等で確認できる。
【0013】
このようなメカノケミカル反応自体は、久保輝一郎著「無機物のメカノケミストリ−」総合技術出版(1987)にも記載されているように公知であり、粉体の表面改質、高温超伝導物質の生成等に適応できることが知られているが、クロム、ニッケル、及びコバルトの酸化物のうちの一種、もしくは二種以上と、アンチモン、タングステン、及びニオブの酸化物のうちの一種、もしくは二種以上とが酸化チタンに固溶したルチル型構造の複合酸化物である黄色無機顔料をはじめとした無機顔料の製造方法への応用は勿論、これによって得られる無機顔料の特性については全く知られていない。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明で使用するチタン源には、酸化チタン、メタチタン酸等の酸化物または加熱後酸化物となるチタン化合物が使用できる。また、コバルト源には酸化コバルト、炭酸コバルト、水酸化コバルト等の酸化物または加熱後酸化物となるコバルト化合物が使用でき、クロム源には酸化クロム、水酸化クロム等の酸化物または加熱後酸化物となるクロム化合物が使用できる。ニッケル源には酸化ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等の酸化物または加熱後酸化物となるニッケル化合物が使用できる。アンチモン源には五酸化アンチモン、三酸化アンチモン等の酸化物または加熱後酸化物となるアンチモン化合物が使用できる。タングステン源には酸化タングステン、タングステン酸アンモニウム等の酸化物または加熱後酸化物となるタングステン化合物が使用できる。ニオブ源には酸化ニオブ等の酸化物または加熱後酸化物となるニオブ化合物が使用できる。
【0015】
このように本発明の複合化処理は、加熱後酸化物となるような粉体であれば本質的に全てが出発原料として適用可能であるが、コバルト源として水酸化コバルト、クロム源として水酸化クロム、ニッケル源として炭酸ニッケルを用いるのがより低いエネルギー付加で容易に非晶質化が進むことから都合が良い。
【0016】
さらに、各成分の構成割合についても、コバルト、クロム、ニッケル、アンチモン、タングステン、ニオブの各種金属がルチル型の酸化チタンに固溶可能な範囲内であれば、それぞれの組み合わせが、その組成を問わず適用可能である。この際、従来より色目の改善や、物性の向上のために、酸化剤、粒成長促進剤や酸化リチウム等、種々の添加剤を配合原料に加えて焼成することができるが、このような添加剤を加えても色目や物性の制御は可能である。
【0017】
配合原料を粉砕機によって乾式で処理する際の粉砕形態は特定されない。例えば、転動ボールミル、振動ミル、石臼型ミル、インパクトミル、ロール転動ミル、デイスクミル、ピンミル、媒体撹拌ミル(アトライター)、遊星ボールミルなどが挙げられる。ただ、振動ミル、媒体撹拌ミル、遊星ボールミルなどの摩砕による粉砕機構を含むものがメカノケミカル反応を誘発させやすい点から望ましい。また、粉砕媒体を使用する粉砕機の場合、粉砕媒体は、ロッド、シリンダー、ボールのいずれも使用可能であるが、摩砕効果が高まるよう粉砕媒体条件下で複合化処理を行うことが望ましい。例えば、振動ミルや遊星ボールミルの場合、微粉砕に適するボール径の1.1〜2.0倍のものを使用、もしくは、ボール量を1〜2割増しの状態で使用することによって、摩砕効果を高めることが容易にできる。
【0018】
また、粉砕媒体への付着防止のために少量の液体助剤を添加するのはメカノケミカル反応を起こすのに有効であり、例えば、一般に乾式粉砕の助剤として広く使われているエタノール、プロパノールなどがよい。添加量については、配合原料の総量に対し0.05〜5.0wt%の範囲での添加が望ましい。
【0019】
さらに複合化処理する際、粒子間の接合をより低いエネルギーで起こすための助剤としては、原料である無機物表面に吸着し、かつ、バインダーの役目を担うに充分な粘度をもつ有機物が特に有効である。例えば、無機物表面への吸着性から1分子中に水酸基もしくはカルボキシル基を複数有する有機物、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルコール系アミン類、もしくは、1分子中にカルボキシル基を複数有するジカルボン酸類、あるいはポリカルボン酸類などが挙げられる。もし、その有機物が常温で固体あるいはあまりに高粘度の場合は、水もしくはその他の溶剤で粘度を、必要に応じて水もしくはその他の溶剤で調整して、常温(20°C)下で、10〜500センチポイズの溶液として用いる。これは、原料粒子全体に均一分散させるのに適した範囲の粘度である。
【0020】
添加量については、配合原料の総量に対し0.05〜5.0重量%の範囲、望ましくは0.5〜2.0重量%の範囲である。添加量を5.0重量%以上にすると、大多数の原料が複合化処理の初期段階で粉砕タンク内壁や粉砕媒体に未処理のまま付着し、その付着物がその後の処理作用を阻害してしまう。また、0.05重量%以下では添加の効果がほとんど認められなくなる。これらの助剤を使用すると処理効率が向上し、場合によっては、ボールミル等の低エネルギ一型の粉砕機でも複合化処理が可能となる。
【0021】
【実施例】
実施例1
配合原料の組成を示す表1において、サンプル1に示した所定量を調合し、振動ボールミル(MB−1、中央化工機(株)社製)を用いて常温条件下で、3時間、乾式複合化処理を行った。この際、容器はナイロン製ポット(3.01)、粉砕メディアは、25mmφのアルミナボールを5.0kg、配合原料の投入量は100gとした。
【0022】
【表1】
【0023】
複合化処理後のサンプル1の結晶構造をX線回折装置(RAD−III/理学電機(株)社製)により調べたところ、図1に示したように、複合化処理により配合原料の非晶質化が進行したことが認められた。さらにその表面形態を電子顕微鏡観察(S−2300型走査電子顕微鏡/(株)日立製作所製)したところ、図2に示したような複数の粒子が強固に接合した、2次粒子を形成しているのが観察された。この二次粒子をEDX(エネルギー分散形X線マイクロアナライザーEMAX−3700/(株)堀場製作所製)によって元素マッピングしたところ、図3〜図5のようにチタン、コバルト、及びアンチモン元素すべてが共存する複合粒子であることが認められた。図6はこの複合粒子の形態を模式化して示す。
【0024】
従って、本発明の複合化処理を配合原料に施すことにより、非晶質化の進行した粒子同士が強固に接合し、かつ配合原料に含まれる全ての金属元素を含む複合粒子が得られた。次いでサンプル1の組成の複合粒子をローラーハース炉、もしくはSiC電気炉で、800°C〜1100°Cで1時間焼成し、得られた焼成品を1μm以下に解砕し、展色し、測色した。展色、測色の方法は以下に記すとおりである。測色結果はCIELAB表色系を用いて比較、評価した。
【0025】
測色方法
マヨネーズ瓶(70cc)に以下の重量比で混和し、ペイントシェイカー(レッド デヴィル社製)で20分間分散させる。そしてアート紙にアプリケーター(150μ)にて展色し、分光光度計(カラコムシステム/大日精化工業(株)社製)で測色する。
試料(1μm以下) 4部
ガラスビーズ(ユニビーズUB−2527L/ユニオン(株)社製) 45部
アクリル樹脂(ニッペアクリル オートクリアスーパー) 30部
シンナー 1部
表2にそれぞれの焼成温度、時間、それにCIELAB表色系による測色結果を示す。
【0026】
【表2】
【0027】
複合化処理を施すことで800°C、1時間の焼成条件で均一な赤味の黄色の発色が認められた。従来の製造方法ではこの焼成条件では全く発色は認められない。
【0028】
さらに高温で焼成するほど、得られる顔料の発色は強いものとなり、1000°C、1時間の焼成により、従来の製造方法においては1100°Cで6時間焼成しなければ得られない発色を有する赤味の黄色の顔料を得ることができた。さらに、1100°Cにて焼成すると同原料、同組成であるのにもかかわらず、従来の製造方法では6時間以上焼成しても得られない黄味、赤味共に濃い顔料をわずか1時間の焼成時間で得ることができた。
【0029】
比較例1
表1のサンプル1に示した所定量を調合し、へンシェルミキサー(サンプルミル、協立理工(株)社製)で混合した。混合処理後のサンプル1の結晶構造をX線回折装置により調べたところ、図1に示すように、混合処理をほどこしても配合原料の非晶質化は認められなかった。さらにその表面形態を電子顕微鏡観察したところ、実施例1において見られたような二次粒子は認められなかった。さらにEDX(エネルギ一分散形X線分析装置 EMAX−3700/堀場製作所)によって元素マッピングしたところ、チタン、コバルト、及びアンチモン元素がそれぞれ単独に存在しているのが認められた。図7に混合処理後の配合原料の形態を模式化したものを示す。従って、従来の製造方法における混合処理では、実施例1記載の処理により得られる複合粒子は得られなかった。
【0030】
次いでサンプル1の組成の混合物をローラーハース炉、もしくはSiC電気炉にて、800°C〜1100°Cで1〜6時間焼成して実施例1と同様に、粉砕、展色し、測色した。表2にそれぞれの焼成温度、時間、それにCIELAB表色系による測色結果を示す。
【0031】
得られた顔料は実施例1のそれと比較して焼成時間が1時間ではムラが目立った。さらに発色の程度も、実施例1と同じ焼成条件で比較すると黄味、赤味共に弱く、実施例1において1000°C、1時間の焼成条件にて得られる水準にまで発色させるためには1100°Cで6時間焼成しなければならなかった。
【0032】
実施例2
表1のサンプル2〜10に示した所定量を調合し、複合化処理を実施例1と同様に行った。複合化処理後のサンプル2〜10は、実施例1の場合と同様、非晶質化の進行した粒子同士が強固に接合し、かつ配合原料に含まれる全ての金属元素を含む複合粒子であった。次いでサンプル2〜10に示した組成の複合粒子をローラーハース炉、もしくはSiC電気炉にて、1000°Cで1時間焼成し、得られた焼成品を1μm以下に解砕し、実施例1と同様に展色し測色した。
【0033】
表3にそれぞれの組成、それにCIELAB表色系による測色結果を示す。サンプル2〜7のいずれにおいても、非常に均一な赤味の黄色の発色を有する顔料が得られた。即ちアンチモンの代わりに、タングステン及びニオブのいずれを用いても、もしくは組み合わせて用いた場合でも複合化処理の効果は実施例1と同様に認められた。
【0034】
【表3】
【0035】
さらにサンプル8〜10のいずれにおいても、非常に均一な赤味の黄色、もしくはレモンイエローの発色を有する顔料が得られた。即ちコバルトの代わりにクロム、ニツケル、及びコバルトとニッケルをルチル型の酸化チタンに固溶させる場合であっても複合化処理の効果は実施例1と同様に認められた。
【0036】
比較例2
表1のサンプル2〜10に示した所定量を調合し、混合処理を比較例1と同様に行なった。サンプル2〜10のいずれにおいても、比較例1の場合と同様に、混合処理では、実施例1のような複合粒子は得られなかった。次いでサンプル2〜10に示した組成の混合物をローラーハース炉、もしくはSiC電気炉で1000°Cで1時間焼成し、得られた焼成品を1μm以下に解砕し、実施例1と同様に展色し、測色した。
【0037】
表3にそれぞれの組成、それにCIELAB表色系による測色結果を示す。得られた顔料はサンプル2〜10のいずれの組成においても実施例2のそれと比較してムラが目立ち、かつ発色も不十分なものであった。
【0038】
実施例3
エタノール、プロピレングリコール、ポリカルボン酸(ディスパロン2150/楠本化成(株)製)、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンもしくはモノエタノールのいずれかをそのまま、あるいは、エタノールで希釈して、所定の粘度に調整し、それらを助剤A〜Hとした。次いで、表1に記載のサンプル1の組成の配合原料100gに、これらの助剤A〜Hをそれぞれ添加し、実施例1に記載の複合化処理を行った。ただし、処理時間は0.5〜2時間とし、助剤の添加量は助剤A〜Hについては投入総量の1重量%とし、助剤Hを10重量%添加したものを助剤H’とした。上記処理によって得られた複合粒子をローラーハース炉にて、800°Cで1時間焼成し、焼成条件での発色の程度を評価した。
【0039】
表4に、添加した助剤A〜H’の成分、その粘度(20°C/センチポイズ)及び上記焼成条件での発色の程度を示す。助剤D〜Hを添加した場合、つまり、助剤の粘度が10〜500センチポイズの範囲内で、かつ、分子中に水酸基もしくはカルボキシル基、又はその両者を2つ以上有する有機物を含む助剤を添加した場合、1.0時間もしくは1.5時間の処理で実施例1において3時間処理したときととほぼ同等の発色を呈した。従って、助剤D〜Hを添加することにより、助剤無添加の場合と比べ、より短時間で複合粒子が形成させることができた。助剤A,B,Cについては、助剤D〜Hほどは著しい効果は認められなかった。即ち、助剤A,Cのような、1分子中に水酸基を1つしか有さない有機物を含んだ溶液では、助剤の無機物表面への吸着力が不足してバインダーの役目が担えず、粒子間の接合には直接寄与しなかった。また、助剤A,Bのように1分子中に水酸基を2つ以上有する有機物を含んだ溶液であっても、バインダーとして働くのに必要な粘性を有さなければ、粒子間の接合には直接寄与しなかった。
【0040】
【表4】
【0041】
また、助剤Hを10重量%添加した、助剤H’は複合化処理を2時間行った場合でも充分な発色が得られなかった。これは、助剤を過剰添加したH’は、大多数の原料が複合化処理の初期段階でポット内壁やアルミナボールに未処理のまま付着し、この付着物が、その後の処理作用を阻害したからである。
【0042】
【発明の効果】
(1)上記黄色無機顔料が、従来の製造方法と比べ低温かつ短時間の焼成により製造が可能となる。
A.そのため、従来の製造方法と比べ、大幅なエネルギーコストの低減が期待できる。
B.そのため、従来の製造方法と比べ、焼成工程での大幅な生産性の向上が期待できる。
C.そのため、焼結による粒子の粗大化が起こることなく焼成が終了し、最終段階の粉砕工程がより簡素に、もしくは省略できる。
(2)従来の製造方法と比べ、高品質な顔料が安定して得られる。
(3)格別の設備を用いることなく実施できる。
(4)製造工程の簡略化により、低コストで従来通り、もしくはそれ以上の品質の顔料が得られる。
(5)配合原料のコバルト源として水酸化コバルト、クロム源として水酸化クロム、ニッケル源として炭酸ニッケルをそれぞれ用いれば、本発明の処理による効果が著しく表われる。
(6)本発明の処理をする際、1分子中に水酸基を2つ以上、又は1分子中にカルボキシル基を2つ以上、又は1分子中に水酸基とカルボキシル基の合計が2つ以上である有機物を、常温(20°C)で10〜500センチポイズの粘度となるように、必要に応じて水もしくはその他の溶剤で調整した溶液を、複合化処理促進のための助剤として、配合原料の総量に対し0.05〜5.0wt%の範囲で添加することによって、本発明の処理効率が向上する。
【図面の詳細な説明】
【図1】本発明の実施例1によって得た複合粒子と比較例1によって得た混合物のX線回折プロファイルを示す。
【図2】本発明の実施例1によって得た複合粒子表面の図面に代わる電子顕微鏡写真を示す。
【図3】本発明の実施例1によって得た複合粒子のチタン元素に対する面分析結果の図面に代わる電子顕微鏡写真を示す。
【図4】本発明の実施例1によって得た複合粒子のコバルト元素に対する面分析結果の図面に代わる電子顕微鏡写真を示す。
【図5】本発明の実施例1によって得た複合粒子のアンチモン元素に対する面分析結果の図面に代わる電子顕微鏡写真を示す。
【図6】本発明の実施例1によって得た複合粒子の面分析結果に基づいた模式図を示す。
【図7】本発明の比較例1によって得た混合物の面分析結果に基づいた模式図を示す。
Claims (3)
- 酸化チタンあるいはメタチタン酸と、コバルト、クロムあるいはニッケルの酸化物もしくは加熱後にそれらの酸化物となる化合物の中の一種または二種以上と、アンチモン、タングステンあるいはニオブの酸化物、もしくは加熱後にそれらの酸化物となるそれらの化合物の中の一種または二種以上を配合した配合原料を粉砕機を用いて乾式で粉砕処理したのち焼成する黄色無機顔料の製造方法において、
配合原料を粉砕機を用いて乾式で粉砕処理するに当たって、メカノケミカル反応を起こすのに充分なエネルギーをその配合原料に与えて粉砕粒子同士を接合せしめて、
この接合した粉砕粒子を、配合原料の原料がその混合比率の割合で共存する複合粒子とし、
さらに、
この複合粒子を800〜1100°Cの温度で焼成することを特徴とする黄色無機顔料の製造方法。 - 配合原料が、コバルト源として水酸化コバルトと、クロム源として水酸化クロムと、ニッケル源として炭酸ニッケルとの組合せから構成されていることを特徴とする請求項1に記載の黄色無機顔料の製造方法。
- 配合原料を粉砕機を用いて乾式で粉砕処理するに当たって、1分子中に水酸基を2つ以上、または1分子中にカルボキシル基を2つ以上、または1分子中に水酸基とカルボキシル基の合計が2以上である有機物を常温下で10〜500センチポイズの粘度となるように調整した溶液を、配合原料の総量に対し0.05〜5.0重量%添加することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の黄色無機顔料の製造方法。
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