JP3595094B2 - 耐熱性ポリ−α,α−ジフルオロ−パラキシリレン膜 - Google Patents

耐熱性ポリ−α,α−ジフルオロ−パラキシリレン膜 Download PDF

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【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、耐熱性ポリ−α,α−ジフルオロ−パラキシリレン膜に関する。詳細には本発明は、実質的に純物質に製造されたテトラフルオロ−[2,2]−パラシクロファンを原料とする耐熱性ポリ−α,α−ジフルオロ−パラキシリレン膜、特に化学蒸着法により形成されたコーテイング膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
下記構造式(▲IV▼)
【化4】
Figure 0003595094
(化4中、Xは水素、塩素、臭素、フッ素、アルキル基の置換基を、mは0または1〜4の整数を示す。)で表される[2,2]−パラシクロファンおよびその誘導体は、化学蒸着法により以下化5の反応により基板上にポリパラキシリレン膜(核置換ポリパラキシリレン膜も含む。以下同じ)を形成する。化5中、nは重合数を示す。
【0003】
【化5】
Figure 0003595094
【0004】
このコーテイング法ではあらゆる形状の物体に、その形状通りのコーテイング膜形成が可能であり、このように形成されたポリマー薄膜はガス・バリヤー性、誘電特性に優れ電子部品材料、あるいは宇宙機器部品のコーテイングに広く用いられている。
【0005】
しかし、上記構造式(▲IV▼)からのポリパラキシリレン膜は、その優れた性能にかかわらず、使用に際し、一つの限界を有する。それはポリマー構造において、ベンゼン核を結びつけている−CH−CH−構造が酸化され易いため、真空中や窒素中では広い使用範囲を有するものの、空気中では使用温度が制限されることである。例えば、このポリパラキシリレン膜はベンゼン核の置換基の有無、置換基の種類によって多少相違するが空気中200℃、約30分以内で膜としての柔軟性や強度を無くし、軽く擦るだけでボロボロになる。この対策として酸化防止剤を混入する提案がなされているが本質的解決にならない(米国特許4,176,209、米国特許5,267,390および米国特許5,270,082参照)。
【0006】
【発明が解決しようとする問題点】
ポリ−p−キシリレン膜の更なる応用範囲拡大のためには酸素存在下における膜の耐熱性を高める必要がある。
ポリパラキシリレンのメチレン基の水素を全部フッ素で置き換えた下記構造
【化6】
Figure 0003595094
(化6中、nは重合度を示す。)を持つポリマーは耐熱性に優れていることは知られており、このポリマー製造のための出発物質であるオクタフルオロ−[2,2]−パラシクロファンの製造方法について数件の特許および特許出願がある(米国特許3,268,599、米国特許3,274,267、米国特許3,297,591および特開平5−255149参照)。しかし、この物質は工業的製造が難しく、またこのものより得られる膜は基板に対する接着性などの点で問題がある。
【0007】
本発明は製造容易で、かつ耐熱性のあるポリ−パラ−キシリレン膜を形成するために有用な実質的に純物質に製造された新規な化合物、構造式(▲II▼)(nは重合度を示す。)で表される耐熱性ポリ−α,α−ジフルオロ−パラキシリレン,高度に熱安定性の高い膜を提供することに目的がある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、下記化7の反応式に示されるように、従来のポリパラキシリレン構造(V)を、一方のメチレン基の水素二個をフッ素原子で置換した構造式(▲II▼)(nは重合度を示す。)に変えることで空気中での耐熱性あるポリマーとすることを意図し、そのポリマー製造のための出発原料としてテトラフルオロ−[2,2]−パラシクロファン〔構造式(I)〕の合成および化学蒸着法によるその重合を試みた。
【0009】
【化7】
Figure 0003595094
【0010】
すなわち、本発明は実質的に純物質に製造された上記構造式(I)で表されるテトラフルオロ−[2,2]−パラシクロファンより得られるポリ−α,α−ジフルオロ−パラキシリレン膜に関する。テトラフルオロ−[2,2]−パラシクロファンは実質的に純物質としての合成および化学蒸着はいまだ試みられたことはない。
この物質は一つの方法として下記化8のルートで合成した。
【0011】
【化8】
Figure 0003595094
【0012】
出発物質である[2,2]−パラシクロファン〔構造式(▲VI▼)〕は第三化成(株)から市販されている。
【0013】
下記化9の反応式に示されるように、テトラブロモ−[2,2]−パラシクロファン〔構造式(▲VII▼)〕は[2,2]−パラシクロファン〔構造式(▲VI▼)〕を不活性溶剤中、過酸化物触媒の存在下、紫外線照射下、あるいは両者作用のもと、Nーブロムこはく酸イミドなどのブロム化剤と反応することで得られる。ブロム化では目的物の外に、構造式(▲VIII▼)で示すブロム体なども生成するが、溶媒に対する溶解度の差で分離することができる。
【0014】
【化9】
Figure 0003595094
【0015】
ジケトン−[2,2]−パラシクロファン〔構造式(▲III▼)〕はテトラブロモ−[2,2]−パラシクロファンに酢酸溶媒中で酢酸ソーダ、酢酸銀などを作用させる等の手段で合成できる。
目的物であるテトラフルオロ−[2,2]−パラシクロファン〔構造式(I)〕は上記ケトン体に四フッ化イオウあるいはジエチルアミノ硫黄トリフルオリド(以下、DASTと表示する。)などのフッ素化剤を作用して製造することができた。
【0016】
テトラフルオロ−[2,2]−パラシクロファン〔構造式(I)〕の化学蒸着は[2,2]−パラシクロファンおよびその誘導体〔構造式(▲IV▼)〕に一般的に適用される条件で行ない、本物質のラジカルへの分解、その重合、成膜を試みた。
【0017】
【実施例】
以下に実施例を示し、かつ本発明の物質により形成された膜の耐熱性試験の結果を記載する。本発明は実施例により限定されるものではない。
【0018】
実施例1
(テトラブロモ−[2,2]−パラシクロファンの合成)
[2,2]−パラシクロファン40.0g、Nーブロモこはく酸イミド160.0g及び過酸化ベンゾイル1.1gを四塩化炭素溶媒1.5l中で紫外線を照射しながら50時間還流、反応した。熱時、不溶物濾過、四塩化炭素を蒸留回収、残留物をジクロロメタンで洗浄、さらにクロロホルムで再結晶してテトラブロモー[2,2]−パラシクロファン〔構造式(▲VII▼)〕14.4gを得た。(分解点:221〜223℃)
【0019】
(ジケトン−[2,2]−パラシクロファンの合成)
上で合成したテトラブロム体14.4g、および酢酸銀19.2gを酢酸200mlで4時間、還流下に反応、後に水14mlを加えさらに2時間、還流反応した。反応後熱時濾過、酢酸を濃縮、水を加え析出した沈殿を濾取、炭酸カリ水溶液、さらに水で洗浄後、乾燥しジケトン−[2,2]−パラシクロファンを得た。収量5.7g
【0020】
(テトラフルオロ−[2,2]−パラシクロファンの合成)
上で合成したジケトン体5.7g、DAST9.5gをジクロロメタン100ml中、30℃以下で攪拌、22時間反応した。水を加えて過剰のDASTを分解、ジクロロメタン溶液を水、炭酸カリ水溶液、さらに水にて洗浄した。ジクロロメタンを留去、残留物をメタノールより再結晶し、テトラフルオロ−[2,2]−パラシクロファンを得た。収量4.9g(融点:196〜197℃)。
構造は質量分析、核磁気共鳴分析などで確認した。
核磁気共鳴分析の結果は以下のとおりである。
H−NMR(CDCl
δ6.77ppm(d,4H,J=8.30Hz,Ar
6.67 (d,4H,J=8.30Hz,Ar
3.53 (t,4H,J=14.65Hz,C
【0021】
(化学蒸着法による重合膜の形成)
パラシクロファンおよびその誘導体〔構造式(▲IV▼)〕の一般的蒸着条件でガラス基板上へ蒸着を試みた。透明な薄膜の形成が認められた。
【0022】
(ポリマーの熱安定性試験)
上記化学蒸着によりガラス基板上に生成した薄膜を基板上から剥取り熱安定性試験に供した。熱安定性試験は下記三つの方法にて行った。
(1)試料を200℃に保った加熱炉の中に入れ、一定時間後、その膜の状態を調べる。
表1に構造式(▲IV▼)からの膜と本発明品からの膜との耐熱性の比較を示す。
(2)示差熱分析により膜の分解発熱の認められる温度を測定し、比較する。その結果を表2に示す。表2に記載の温度は発熱最大ピーク時の温度を示している。
(3)熱重量分析で50%ロス時の温度を表3に示す。
現在判明している文献(POLYMARIZATION OF TETRAFLUOROPARACYCLOPHANE 359〜363頁)の膜物性との相違は、示差熱分析において窒素中で300℃少し上で分解による発熱ピークが見られる(362頁の図3)が、本発明による膜では表3に見られるように、550℃以上までもこのようなことはない。熱重量分析の50%重量ロスは該文献では480℃(363頁4行)であるが、本発明では550℃以上である。なお、550℃の数値は本分析装置の上限である。
【0023】
【表1】
Figure 0003595094
【0024】
【表2】
Figure 0003595094
【0025】
【表3】
Figure 0003595094
【0026】
【発明の効果】
ポリ−p−キシリレン膜のさらなる応用範囲拡大のため、酸素存在下における膜の耐熱性を高めるとともに、その他の物性面すべてにバランスの期待できるコーティング膜生成のための新規化合物テトラフルオロ−[2,2]−パラシクロファンを実質的に純物質で提供することができる。本発明品の化学蒸着により生成する膜は従来品に比し、著しく耐熱性が向上し使用範囲の拡大を期待できる。

Claims (6)

  1. 高純度の、構造式(I)
    Figure 0003595094
    で表されるテトラフルオロ−[2,2]−パラシクロファンを原料として形成された、構造式(▲II▼)
    Figure 0003595094
    (化2中、nは重合数を示す。)で表される耐熱性ポリ−α,α−ジフルオロ−パラキシリレン膜。
  2. 実質的に純物質であるテトラフルオロ−[2,2]−パラシクロファンを原料として形成された請求項1の耐熱性ポリ−α,α−ジフルオロ−パラキシリレン膜。
  3. 上記テトラフルオロ−[2,2]−パラシクロファンが、下記構造式(▲III▼)
    Figure 0003595094
    で表されるジケトン−[2,2]−パラシクロファンをフッ素化することを特徴とする製造方法により製造されたものである請求項1または2の耐熱性ポリ−α,α−ジフルオロ−パラキシリレン膜。
  4. 高度に熱安定性の高い膜に形成された請求項1、2または3の耐熱性ポリ−α,α−ジフルオロ−パラキシリレン膜。
  5. 化学蒸着法により形成されたコーテイング膜である請求項4の耐熱性ポリ−α,α−ジフルオロ−パラキシリレン膜。
  6. 示差熱分析において、窒素中で550℃まで分解発熱ピークが見られないコーテイング膜である請求項5の耐熱性ポリ−α,α−ジフルオロ−パラキシリレン膜。
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