JP3593926B2 - ポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色方法に関するものであり、アルカリ染色により、染めムラがなく、鮮明な発色性を有し、しかもオリゴマーによる染色機内の汚れがないため、工程通過性が優れるポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル系繊維あるいはポリアミド系繊維に代表される熱可塑性合成繊維は機械的強度、耐薬品性、耐熱性および強伸度特性などに優れるため、衣料用途や産業用途あるいは資材用途などを主体に広く使用されている。
【0003】
中でもポリエチレンテレフタレート系繊維(PET)はW&W(ウオッシュアンドウエア性)、寸法安定性および染色堅牢度に優れ、またアルカリ処理での減量加工により、種々の風合いが可能になり、衣料用として特に優れた特性を有している。
【0004】
反面、ポリエステル系繊維、特にポリエチレンテレフタレート繊維(PET)の場合は結晶化度が高く、難染性であるため、高温、高圧下での染色(125℃〜135℃)が必要になり、常圧下での染色では濃色や極濃色の染色ができないため、色相範囲が狭く、汎用面においてやや問題である。
【0005】
またポリエチレンテレフタレート繊維(PET)はヤング率が大きいため、カーペットやカーシートなどの資材分野においては、大荷重下でのヘタリおよび長時間の荷重でのヘタリが大きく、この分野ではヤング率が低いポリアミド系繊維が優れているといわれている。ポリエステル系繊維の中でもグリコール成分の炭素数が大きい、ポリプロピレンテレフタレート繊維(PPT)やポリブチレンテレフタレート繊維(PBT)はこの資材用途に適しているが、ポリエチレンテレフタレート同様、常圧可染性が十分でなく進出できない分野である。
【0006】
ポリプロピレンテレフタレート系繊維はグリコールの炭素数が3であり、繊維分子構造として屈曲構造を有し、優れた伸張回復性を示す。しかし一般の染色においてはオリゴマー発生が顕著であり、それが原因で染めムラ(ロープ状あるいはボカシ状のモヤモヤした染ムラ)や風合い面においては粗剛感が付与されるため、問題である。
【0007】
オリゴマーは製糸段階においては重合工程あるいは紡糸工程などの溶融状態で発生する。また染色工程においては熱水および乾熱処理でも発生し、しばしば問題になっている。
【0008】
またオリゴマーは2〜5量体の線状あるいは環状体であり、一般には2〜3量体が非常に多いと言われている。製糸段階でのオリゴマーの問題点は口金汚れであり、多量に発生すると糸切れが生じ、生産性が低下し好ましくない。
【0009】
一方、染色加工面においてもオリゴマーが繊維内部から浴中へ溶出し、種々のトラブルの原因になる。オリゴマーは常温では水に不溶、高温下では(100℃以上)少し溶解し、冷却時には析出する。またオリゴマーは染料と親和性を持ち、オリゴマーが核となり、染料の2次凝集(目づまり、ターリング)を誘発する。特に染色用の浴に金属イオン(カルシウム、マグネシウムなど)が存在すると、冷却時に析出しやすくなるといわれる。特にフィラメント(加工糸)糸やその織編物で問題になり、チーズ染色あるいはビーム染色などの浴比が小さい染色においては、しばしば目づまり、ターリングが発生し、それが繊維表面に析出して、染色物の鮮明性が低下し、逆にイラツキ感が増大し商品価値を損ねる。また糸あるいは紡績糸においても平滑性を損ね、紡績性の低下や、白粉事故の原因になるケースがある。
【0010】
この改善策として原糸関係においては、例えばポリプロピレンテレフタレート系繊維(PPT)においては、特開平11ー100768号公報にポリマー重合法あるいは紡糸条件を適正化についての提案がなされており、重合触媒の最適化でオリゴマーの減少できると記載されている。
【0011】
また染色加工での改善策としてはアルカリ染色と洗浄方法に大別される。
【0012】
ポリエチレンテレフタレート系繊維(PET)のアルカリ染色に関しては染色VOL.7 NO.4(1989)などに提案されているが、アルカリ染色によりオリゴマーが溶解されるため、好ましいとの記載がある。
【0013】
しかし、ポリエチレンテレフタレート系繊維の場合はオリゴマー量が少なく、あまり問題はないが、ポリプロピレンテレフタレート系繊維においては、オリゴマー量が多く、単にアルカリ染色だけで染色温度が高いため、使用染料が著しく限定されるため、まだ問題点も多い。
【0014】
他の改善方法である洗浄方法は、特開平8−113873号公報に提案されている。基本的にはアルカリ洗浄によるオリゴマー除去であるが、pHが12以上と高く、色相によっては変色が見られるため、染料種がかなり限定される。また洗浄工程を組み入れると一工程増加するためコスト高の要因になり、好ましくない。
【0015】
従って、現状ではポリプロピレンテレフタレート系繊維においてはポリエチレンテレフタレート系繊維に比較して、同一染色温度ではオリゴマー発生量が多く、発色性(鮮明性)の面で問題である。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、ポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色において特定なpH条件下でアルカリ吸尽染色することにより、オリゴマー発生を抑制し、優れた発色性(鮮明性)あるいは優れた伸長回復性を有する、ポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色方法を提供するものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)ポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色において、加圧下で、かつ染色温度が100℃〜120℃、染浴のpHが8.5〜10の範囲のアルカリで吸尽染色することを特徴とするポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色方法。
(2)ポリプロピレンテレフタレート系繊維が潜在捲縮型複合繊維であることを特徴とする前記(1)記載のポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色方法。
(3)ポリプロピレンテレフタレート系繊維が部分配向未延伸糸であることを特徴とする前記(1)記載のポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色方法。
(4)ポリプロピレンテレフタレート系繊維の含有量が20重量%以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色方法。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明は、前記課題について、鋭意検討した結果、ポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色において、pH範囲は8.5〜10、かつ染色温度は100℃〜120℃の加圧下でのアルカリ吸尽染色により、オリゴマーによる障害を防ぎ、ポリプロピレンテレフタレート系繊維本来の特性が維持でき、しかも十分な発色性(鮮明性)および優れた捲縮特性、かつ十分な伸長回復性が得られ、繊維物性を損なうことなく、高染色堅牢性を可能にし、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0019】
本発明のポリプロピレンテレフタレート系繊維とはテレフタル酸を主たる酸性分とし、トリメチレングリコール(プロピレングリコール)を主たるグリコール成分とするポリエステルを対象とする。またテレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン成分で置き換えた共重合系のものでもよく、たとえばイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、サバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1、4シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAなどの脂環族または芳香族ジオールなどが挙げられる。
【0020】
本発明のポリプロピレンテレフタレート系繊維は、ポリエチレンテレフタレート系繊維、同様な通常の溶融紡糸で製糸が可能である。ポリプロピレンテレフタレートの断面形状は特に限定されるものでなく、たとえば通常の丸断面および三角、四角、5葉(5角)、などの異形断面でも中空糸でもよい。
【0021】
また本発明においては、上記のポリプロピレンテレフタレート系繊維が潜在捲縮型複合繊維であることが好ましい。この潜在捲縮型複合繊維とは収縮差を利用して、捲縮発現させるものであり、熱水またはスチーム処理などの湿熱下で、しかも70℃〜130℃で収縮差の発現が生じるものであることが好ましい。特に熱水処理として90℃〜120℃が捲縮発現性が優れ好ましく用いられる。
【0022】
上記の潜在捲縮型複合繊維においてはサイドバイサイド型あるいは偏心型芯鞘構造などがあるが、特にバイメタル型(サイドバイサイド型)複合繊維が捲縮発現性あるいは伸縮性の面で好ましく用いられる。バイメタル型(サイドバイサイド型)複合繊維の場合、目的により組み合わせが異なるが、ポリプロピレンテレフタレートポリマー成分とポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートあるいはポリ乳酸などの他のポリエステル系ポリマー成分との組み合わせが好ましく採用でき、なかでもポリエチレンテレフタレートとの組み合わせが特に優れている。なお、芯鞘複合の場合は、芯成分、鞘成分のいずれにもポリプロピレンテレフタレートを用いることができるが、芯成分にポリプロピレンテレフタレートを用いる方が好ましい。
【0023】
複合比率は1:1近辺であるが、ポリプロピレンテレフタレートが重量比で20%以上含有されていることが、伸縮性の面で好ましい。また色相面ではポリプロピレンテレフタレートと染色性が近似しているポリブチレンテレフタレートとの組み合わせが、両者間の色差あるいは色のイラツキがなく落ち着いた色相付与が可能になり、好ましく用いられる。
【0024】
またポリプロピレンテレフタレート系繊維の中でも特に、染色性が高いPOY(部分配向未延伸糸)は最適温度は105℃〜120℃であり、低温染色が可能であり好ましく用いられる。
【0025】
ポリプロピレンテレフタレート系繊維は伸縮性および伸縮回復率が優れているため、混用品としては伸縮性があるナイロンあるいは通常の弾性繊維(ポリウレタン系繊維)あるいは弾性繊維のカバリング糸が好ましく用いられる。
【0026】
本発明でいう、表面オリゴマーとは基本的に繊維内部にあるオリゴマーでなく、繊維表面あるいは繊維の表層に析出されたものであり、顕微鏡あるいはSEMで十分観察できるものである。表面オリゴマー量が増大すると当然色相に悪影響を与える。
【0027】
すなわち、表面オリゴマーが均一に分散されていれば比較的問題にならないが、実状は不均一な分散状態であり、その結果イライラした蜘蛛の巣状、あるいはモヤモヤ感が付与されるため、商品価値を著しく低下させる。本発明者らの検討によれば鮮明な発色性を得るためには、表面オリゴマー量が600ppm未満さらに好ましくは300ppm以下である。
【0028】
表面オリゴマーの問題点は発色性面以外に風合い粗剛、白粉事故あるいは染色機の汚れなどにも支障をきたしている。
【0029】
染色・仕上加工においてオリゴマー発生が大きい工程としては、処理温度が高いリラックス・精練あるいは染色工程である。ポリプロピレンテレフタレート系繊維の染色温度は色相(染料濃度)にもよるが、ポリエチレンテレフタレート系繊維の染色温度より、約10℃〜30℃低めであり、染料のアルカリによる分解が少なく、使用染料が拡大できるため、非常に有利である。
【0030】
特にポリプロピレンテレフタレート系繊維においては繊維構造的に捲縮特性あるいは伸張回復性が優れるため、染色工程の温度低下はオリゴマー量の低下あるいは特性保持の面において非常に有効である。オリゴマー量は湿熱処理あるいは乾熱処理温度の上昇に伴い増加する傾向にあるため、染色温度の低下は好ましい方向にある。
【0031】
ポリプロピレンテレフタレート系繊維の染色温度は一般には100℃〜120℃の範囲であり、低温領域(100℃〜105℃近辺)では染料濃度が低い淡色系、また120℃の高温領域においては濃色あるいは極濃色系に適した染色温度であり、それぞれ染料濃度により使い分けられている。またオリゴマーの除去に必要なpH領域は8.5〜10.0の範囲であり、好ましくは8.5〜9.5である。pH領域が10を超えると、アルカリが強くなり、染料の分解が増大するため、染料の使用範囲が顕著に減少し好ましくない。またpH領域が8.5未満ではオリゴマーの除去が難しくなり、好ましくない。
【0032】
染色後は表面の未固着染料の除去を目的にあるいは染色堅牢度を向上させる目的で、通常行われている、ソーピングや還元洗浄などの洗浄工程、さらに他繊維と混用品たとえばナイロンなどの染色堅牢度向上を目的に通常行われている、フィックス処理などの工程を、必要に応じ、組み入れてもさしつかえない。
【0033】
また最終製品としてはたとえば制電剤、撥水剤、機能薬剤などの仕上げ剤などを付与してもさしつかえない。
【0034】
ポリプロピレンテレフタレート系繊維の糸状形態としては、フィラメント、ステープルのいずれでも良く、常法によって得ることができる。繊維構造物の形態としては、糸、織物、編物、不織布など目的に応じて適宜選択できる。
【0035】
またポリプロピレンテレフタレート繊維100%以外に他のポリエステル系繊維としてポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートあるいはナイロン、木綿、羊毛などの混用品を含む。この場合、ポリプロピレンテレフタレート繊維の混用率は20重量%以上であることが好ましい。
1.測定法
(1)測色
分光測色計(ミノルタ社製:CM−3700)でL*値は光源がD65、視野角度10度で測定した。L*値は数値が小さいぼど濃色を示す。
【0036】
(2)染色堅牢度
洗濯堅牢度はJIS−L0844のラウンダメータ法、摩擦はJIS−L0849の学振型法、また耐光性はJIS−L0842によるカーボンアーク灯法により評価した。
【0037】
(3)オリゴマー量の測定法(標準条件)
A.生機約4gを採取し、蒸留水を用い、所定温度でで30分間熱水処理を行う。
【0038】
B.生機を風乾する。
【0039】
C.生機約2gを採取し100mlのビーカーに採り、100mlのエタノールに浸す。
【0040】
D.超音波洗浄機で60分間洗浄し、繊維表面のオリゴマーを抽出する。
【0041】
E.生機を取り出し、エタノールを蒸発乾固する。
【0042】
F.内部標準(ビフェニール0.125mg/クロロホルム液2ml)2mlを加え、 抽出分を溶解し、高速液体クロマトグラフからオリゴマー量を求める(ppm)。
【0043】
ただし、処理前のデータはCからスタートする。
【0044】
【実施例】
以下本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
【0045】
実施例1〜実施例3、比較例1〜比較例9
ポリエチレンテレフタレート系繊維(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)をそれぞれ1300m/分で紡糸し、3.2倍で延伸した。いずれのポリエステル系繊維も繊度は150Dの48フィラメントである。
【0046】
その原糸を用い、ツイル織物を試作し、その生機を試料を準備した。
【0047】
下記の条件で熱水処理し(1)、オリゴマー量(PPM)を求め、結果を表1に示した。
【0048】
同じ織物を用い、精練・セット(160℃)した織物を下記の染色条件で染色し、発色性をもとめ、結果を表1に示した。また染色布に関して、染色堅牢度を測定し、合わせて表1に示した。
(1)熱水処理とpH
酢酸、ソーダー灰で下記のpHに調整
100℃:5.1、9.1、11.0で昇温後30分処理
110℃:5.1、9.1、11.0で昇温後30分処理
120℃:5.1、9.1、11.0で昇温後30分処理
130℃:5.1、9.1、11.0で昇温後30分処理
浴比1:10
(2)染色条件
Dianix Blue SPH 0.5%
(ダイスター(株)社製分散染料)
pH調は(1)項と同様な方法で調整した。
【0049】
温度、時間:昇温後130℃で30分処理
(3)水洗・乾燥後に測色した
表1に示したように、ポリプロピレンテレフタレート繊維(PPT)においてオリゴマー発生量は処理温度が上昇するほど、pHが低下するほど増加の傾向にある。
【0050】
一方、発色性はpHが低下するほど向上する傾向にあり、両者のバランスすなわち、発色性(L*)およびオリゴマー量より、本発明のpH範囲あるいは染色温度が望ましい(実施例1〜実施例3)。
【0051】
またポリエチレンテレフタレート繊維(PET)はオリゴマー量が少なく、130℃度の染色でもオリゴマー量は少なく、アルカリ染色で十分対応できる(比較例8〜9)。
【0052】
またその染色布について、染色堅牢度として、洗濯堅牢度、摩擦、耐光性を調べたが実施例1〜3および比較例1〜9で殆ど差がなく、いずれも良好であった。
【0053】
【表1】
【0054】
【発明の効果】
本発明によればポリプロピレンテレフタレート系繊維の染色において、ポリプロピレンテレフタレート系繊維本来の捲縮特性または伸縮回復特性を保持し、しかもオリゴマー発生、発色性低下がなく、しかも染色堅牢度に優れる染色方法であり、工業価値が極めて高い。
Claims (4)
- ポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色において、加圧下で、かつ染色温度が100℃〜120℃、染浴のpHが8.5〜10の範囲のアルカリで吸尽染色することを特徴とするポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色方法。
- ポリプロピレンテレフタレート系繊維が潜在捲縮型複合繊維であることを特徴とする請求項1記載のポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色方法。
- ポリプロピレンテレフタレート系繊維が部分配向未延伸糸であることを特徴とする請求項1記載のポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色方法。
- ポリプロピレンテレフタレート系繊維の含有量が20重量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリプロピレンテレフタレート系含有繊維構造物の染色方法。
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