JP3593429B2 - 冬虫夏草の人工培養方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、十八種類のアミノ酸、カルシュウム、クロム、ニッケル、鉄、亜鉛、マンガン、アデニン、アデノシン、ウラシル、エイコサンアルコール、キノコ糖、エルゴスタン、アルカロイド、ビタミンB12などの成分を有し、主に中枢神経への作用(鎮静作用)、免疫作用や免疫調整、動脈硬化などの心血管への作用、喘息などの呼吸器系への作用、エネルギー代謝への作用、滋養強壮作用、その他抗がん作用などを有するとされ、医薬品、健康食品、化粧品などの分野に有効である冬虫夏草の人工培養方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
冬虫夏草は、中国古来から伝わる秘薬として一部の人に珍重されてきた。近年、秘薬としての冬虫夏草の効果並びに成分分析が行われ、特に制癌剤としての利用が注目を集めている。また、生活様式の変化や健康志向の高まりから、健康食品としての利用も進んでいる。
一方、冬虫夏草の供給状況を見ると、その多くは、現在においても自然界にあるものを採取することにより入手している。
しかし、冬虫夏草は、他のキノコのように植物に寄生するのではなく、昆虫に寄生するということからも、採取が困難であり、大量に供給することはできない。
そこで、以下のような人工培養の方法が提案されている。
まず第一の人工培養方法としては、冬虫夏草の菌糸又は子座胞子を、既成食品であるニンニク・醤油・砂糖を混合した培養液を殺菌し、常法により液体培養するか、又はこの液体培養液を米・麦・とうもろこし等の穀物又は蚕・セミ等の節足動物の昆虫類の成虫・蛹・幼虫等に吸着させて固体培養を行う方法が提案されている(特開昭54−80486号公報)。
第二の人工培養方法としては、冬虫夏草の菌糸体を、糖類、蛋白物質、ビタミン類、核酸類等の一種又は数種を主成分とし、これらの主成分に穀類を添加して立体固形培地に移植して培養し、この立体固形培地において培養した菌糸を糖類蛋白物質類、ビタミン類、核酸類等の一種又は数種を主成分とし、これにアミノ酸類の一種又は数種を添加し、水を基質としたpH4.0〜7.0の液体培地に移植して静置培養し、液体培地表面に菌座を形成させる方法が提案されている(特公昭61−53033号公報)。
第三の人工培養方法としては、生きている昆虫に冬虫夏草の菌糸体を直接に感染、接種するか、あるいは3分の1量の昆虫組織体を加えた寒天を基質とする純粋分離培地に冬虫夏草の菌糸体を接種する方法である(特開昭62年107725号公報)。なお、生きている昆虫を用いる場合としては、繭を形成する直前の蚕を用いている。
第四の人工培養方法としては、野外に存在する冬虫夏草を採取し、寒天培地、液体培地で菌糸、分生胞子を増殖させ、最終的な大量増殖を野外栽培で行う方法が提案されている(特開平6−233627号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記第三の人工培養方法を提案した発明者も、自己の提案した前記第二の人工培養方法について指摘しているように、前記第二の方法は、継続的な培養としては未だ十分とは言えず、かつ薬理活性の低下の問題も十分に考えられる。この最大の原因は、昆虫以外の成分を培地とすることにある。従って、前記第一の方法についても同様な問題が考えられ好ましいとは言えない。
一方、上記問題を解決すべく、第三の方法では、自然界と同様に生きた昆虫自体を培地組成とすることを提案している。しかし、野外昆虫の体表や体内には色々な雑菌が繁殖しており、冬虫夏草の感染率が低く、同一菌種を安定的に供給することは不可能である。
また、第四の人工培養方法においても、野外培地栽培を行うために、他の雑菌が混入する割合は低いとは言えず、第三の方法と同様に継続的な培養を安定的に行うことは容易なことではない。また、野外培地栽培を行うと胞子が飛散し、自然界にきわめて大きな影響を与えかねないという問題も有している。
一方、現在蚕が形成した繭の繰糸後の蛹は、洗浄、乾燥し、家畜の飼料などに利用されているが、洗浄処理中で生じた蛹の液の廃液が川に流され、汚染問題を引き起こしており、繰糸後の蛹の有効利用が望まれている。
【0004】
そこで本発明は、冬虫夏草の継続的な培養を安定的にかつ大量生産で行うことのできる冬虫夏草の人工培養方法を提案することを目的とする。
具体的には、昆虫自体の成分を有効に活用しつつ、薬理活性の低下を防止する冬虫夏草の人工培養方法を提案することを目的とする。
また、蚕の蛹自体の生存率を高めるとともに、薬理活性の低下を防止し、さらに冬虫夏草の感染率が高い冬虫夏草の人工培養方法を提案することを目的とする。
また本発明は、さらに自然界により近い状態の養分で安定的かつ大量に増殖培養及び継代培養を行う冬虫夏草の人工培養方法を提案することを目的とする。
さらに本発明は、繭の繰糸後の蚕の蛹や、繰糸に使えない不良繭の蛹を有効利用することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明の冬虫夏草の人工培養方法は、蚕の蛹の組成成分を主成分とする液体培地を用い、前記液体培地として、蚕の蛹の組成成分を水を用いて高温加熱下で抽出した抽出液を用いることを特徴とする。
また請求項2記載の本発明の冬虫夏草の人工培養方法は、請求項1に記載の冬虫夏草の人工培養方法において、前記蛹として、繰糸後の蛹を用いたことを特徴とする。
また請求項3記載の本発明の冬虫夏草の人工培養方法は、請求項1に記載の冬虫夏草の人工培養方法において、前記抽出液は、蛹に対して重量比で2〜50倍の水を用い、沸騰温度で2時間以上煮出すことにより抽出されたものであることを特徴とする。
また請求項4記載の本発明の冬虫夏草の人工培養方法は、請求項1に記載の冬虫夏草の人工培養方法において、前記抽出液は、蛹に対して重量比で2〜50倍の水を用い、沸騰温度より高い温度で20分以上煮出すことにより抽出されたものであることを特徴とする。
また請求項5記載の本発明の冬虫夏草の人工培養方法は、蚕の蛹の組成成分を主成分とする液体培地を用いて培養を行い、前記液体培地として、蛹を粉砕し、これに水を加えた液体培地を用いたことを特徴とする。
また請求項6記載の本発明の冬虫夏草の人工培養方法は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の冬虫夏草の人工培養方法において、前記液体培地に、炭素源、アミノ酸類、ミネラル類、又はビタミン類の中から少なくとも一種を添加したことを特徴とする。
また請求項7記載の本発明の冬虫夏草の人工培養方法は、請求項6に記載の冬虫夏草の人工培養方法において、前記添加量を、蚕の蛹の抽出液100に対して2〜8重量比としたことを特徴とする。
また請求項8記載の本発明の冬虫夏草の人工培養方法は、蚕が繭を形成した後に蛹を取り出し、前記蛹に冬虫夏草の子実体に形成された子嚢胞子又は分生胞子を接種することにより培養を行うことを特徴とする。
また請求項9記載の本発明の冬虫夏草の人工培養方法は、請求項8に記載の冬虫夏草の人工培養方法において、前記蛹として初化蛹を用いたことを特徴とする。
また請求項10記載の本発明の冬虫夏草の人工培養方法は、蚕の蛹の組成成分を主成分とする液体培地にて冬虫夏草を増殖培養し、その後、前記冬虫夏草の子実体に形成された子嚢胞子又は分生胞子を、無菌飼育した蚕の蛹に直接接種することにより、継代培養を行うことを特徴とする。
また請求項11記載の本発明の冬虫夏草の人工培養方法は、請求項1から請求項10のいずれかに記載の冬虫夏草の人工培養方法において、前記冬虫夏草として、ハナサナギタケを用いたことを特徴とする。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明で培養対象となる冬虫夏草としては、子嚢胞子(完全世代)をつくるコルジセプスタイプ(Cordyceps属)と、裸生の分生胞子(不完全世代)をつくるイザリアタイプ(Isaria属)のいずれでもよい。なお、あらかじめ種菌を得る必要があり、そのために野外で実際に成熟した冬虫夏草を採取し、寒天培地により常法に従って分離培養する。
【0007】
最初に、蚕の蛹の組成成分を主成分とする液体培地を用いた人工培養方法について以下に説明する。
まず、培地の主成分として用いる蚕の蛹は、繭を切って取り出した生きた状態の生蛹の他、繭の段階で乾燥させた乾燥蛹であってもよい。さらには、繰糸後の生蛹や乾燥蛹を用いることもできる。繰糸後の蛹は、粗蛋白質60%、全窒素9%のほか、灰分、グリコーゲンなど冬虫夏草の発育に必要な栄養成分はかなり含まれている。
【0008】
蛹の組成成分を抽出する方法としては、茹でる方法と高圧蒸気滅菌器によって抽出する方法がある。沸騰温度以下で抽出する場合には茹でる方法をとる。高圧蒸気滅菌器を用いる場合には、100℃より高温で抽出することができるので短時間で有効成分を抽出することができる。このようにして抽出した蚕の蛹の抽出液を、適宜水で希釈して培養液とする。高温のもとで蛹の成分を抽出するときには、蛹1に対して2〜5倍の重量の水を用いる。さらに、培養液として用いるときには、この抽出液を5倍から10倍の重量の水で希釈して用いるとよい。なお、希釈をしない場合には、蛹1に対して10〜50倍の重量の水で煮出してもよい。なお、蒸発によって失われる水分量は追加する。
【0009】
上記のようにして抽出した蛹の抽出液に、炭素源、アミノ酸類、ミネラル類、及びビタミン類のうち、冬虫夏草の種類により必要成分を加え、高圧蒸気滅菌器を用いて121℃で15分間滅菌処理を行い、自然冷却後に液体培地として用いる。これらの添加成分は、蛹の抽出液に対して2〜8%程度である。炭素源としては、グルコース、マンノース、マルトース、テクトース、スクロース、デンプンなどがある。またミネラル成分としては、リン、カルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウムなどがある。
次に、このようにして作った液体培地にあらかじめ分離培養した分離株を植え付け培養する。なお、人工培養によって形成された子嚢胞子や分生胞子を植え付けることによって継代培養を行うこともできる。
この時、培養条件としては、温度を15℃〜25℃、湿度を75%〜95%に保つことが好ましい。
本発明は、このように蚕の蛹の抽出成分を主成分とする培地を用いて培養を行うことにより、昆虫自体の成分を有効に活用しつつ、薬理活性の低下を防止することができ、継続的な培養を安定的に行うことができる。
【0010】
なお、蛹の組成成分を抽出する方法として、茹でる方法と高圧蒸気滅菌器によって抽出する方法について説明したが、これら煮出す方法においては、あらかじめ蛹を粉砕しておくことがさらに好ましい。
また、これら煮出す方法以外に、乾燥蛹を粉砕して滅菌処理を行い、これに滅菌水を加える方法でもよく、このとき単に水だけでなく炭素源、アミノ酸類、ミネラル類、及びビタミン類などの栄養分を適宜加えておくことが好ましい。
このように、蚕の蛹の抽出成分を主成分とつつ、これに炭素源、アミノ酸類、ミネラル類、ビタミン類などの冬虫夏草の培養にさらに好ましい成分を必要に応じて添加することにより、さらに継続的な培養を安定的に行うことができる。
【0011】
に、無菌蚕を用い、この蛹自体を培地とした人工培養方法について以下に説明する。
ここで無菌蚕とは、人工飼料無菌飼育法で飼育した蚕のことであり、卵表面を消毒し無菌的に孵化させた蚕に、蒸煮滅菌した飼料を与え、無菌装置等を用いて無菌環境下で飼育した蚕のことをいう。ここで、無菌とは本来ウイルスを含めてあらゆる微生物を含まないことではあるが、蚕が自然的に発病するウイルス量は、例えば5齢蚕では3000個以上で、3000個未満では発病しない(「人工飼料無菌飼育法をベースにしたわが国の新しい周年養蚕」京都工芸繊維大学繊維学部学術報告 第16巻別冊 平成4年3月16日発行 松原藤好著)ことからも、ここで言う無菌蚕とは、必ずしもジャームフリー(germ free))蚕とは限らない。すなわち、人工飼料無菌飼育法においても、蚕の体内の微生物までは充分制御されている訳ではないためである。従って、ここで言う無菌蚕とは、蚕の病気を起こす主な病原体を排除しているものを指している。人工飼料無菌飼育法に関しては、「人工飼料無菌飼育の育蚕体系への導入に関する研究」京都工芸繊維大学繊維学部学術報告、第15巻別冊、平成3年3月15日発行、「おからを主成分とした人工飼料による蚕5齢期の無菌飼育」日本蚕糸学雑誌、第60巻、第6号、の他、特願平7年260927号に示されている。
培地として利用するのは、上記のように無菌飼育された蚕が繭を形成した後の蛹である。蛹化直後の初化蛹が最も好ましい。ここで初化蛹とは、複眼が黒く変色する前の状態の蛹のことである。蛹は普通繭に覆われているために、蛹を繭から人工的に取り出す。
そしてこの蛹に、前述の液体培地により培養した冬虫夏草の子実体に形成された子嚢胞子又は分生胞子を直接接種する。このとき培養温度は、15℃〜25℃とし、無菌下で培養を継続する。なお、本発明の人工培養方法においては、例えば5齢期間中など、ある限られた一部の期間清浄育した蚕を利用してもよい。
【0012】
このように本発明は、無菌装置にて人工飼料を用いて飼育した蚕を用いることにより、雑菌の繁殖がなく、冬虫夏草の感染率や子実体の形成率が高く、継続的な培養を安定的に行うことができる。さらに、繭を形成した後の蛹に直接接種するため、幼虫段階に比べて蚕への菌の感染率が高く、培養を安定的に行うことができる。
また本発明は、液体培地にて冬虫夏草を増殖培養し、その後、無菌飼育した蚕の蛹に直接接種することによって継代培養を行うことにより、自然界と同じ状態の養分で培養を行うことができるとともに、培地の安定供給が容易でかつ雑菌の繁殖をなくし、安定した大量生産が可能となる。
【0013】
【実施例】
以下実施例を説明する。
実施例1
蛹抽出液を主成分とする液体培地を用いてハナサナギタケ(Isaria Japonica)の人工培養を行った。蛹抽出液は、繭の段階で乾燥させた乾燥蛹を繭から取り出し、5倍の重量の水を用いて、沸騰温度で2時間煮出した。そしてこの抽出液をさらに5倍の重量の水で希釈して液体培地とした。この液体培地を試験管内に3分の1程度入れ、これにハナサナギタケの分離株を植え付けた。植え付け後2〜3日で液体培地には菌糸が形成し始め、1週間で菌糸層が形成され、2週間後に子座形成をみた。また45日〜60日後には4〜8センチの子実体が形成され成熟した。なお、培養は、温度15℃〜25℃、湿度75%〜95%で日照で自然光のもとで行った。
また、蛹抽出液100に対してグルコースを1.5%、ペプトンを0.2%、MgSO4・7H2Oを0.4%を添加したものを液体培地として人工培養を行った。これらのものを加えた方が、加えない時に比べて、子実体の色が鮮やかになり成長もよかった。
また、コナサナギタケ(Isaria Farinosa)についても、上記ハナサナギタケの人工培養と同様にして抽出した蛹抽出液を液体培地として人工培養を行った。コナサナギタケの分離株を植え付け後3日後に白い菌糸が形成し始め、11日後に子座が形成され、45日〜50日後に成熟した。形成された子実体は、2〜3センチで細く淡黄色をしていた。また、この蛹抽出液に炭素源を添加したものを液体培地として人工培養を行ったところ、菌糸や子座の形成や成熟期間においては添加しないものと差異はなかった。ただし、炭素源を添加したものは、添加しなかったものと比較すると、3〜4センチと若干長く、ほうき状で淡褐色、色鮮やかな子実体が形成された。
【0014】
実施例2
上記で得られたハナサナギタケの胞子を回収し、この胞子をツイーン40の5000倍液に懸濁させ、無菌人工飼料育の蚕の蛹化直後の蛹を取り出し、この蛹の体表に直接接種した。培養温度は15〜25℃とした。接種後2〜3日後で蚕体は硬くなり、体表の関節膜や気門のところから菌糸が生じ、感染率は99.5%以上であった。12〜13日後に子座が形成され、30〜50日後には5〜7.5センチの子実体が形成され成熟した。また、コナサナギタケについても同様に子座が形成され、子実体が形成されて成熟した。
このようにして得られたハナサナギタケについての成分分析結果を表1に示す。比較例として中国チベット産の天然の冬虫夏草(Cordyceps Sinensis)を用いた。検体として、ハナサナギタケは、60℃前後の温度で乾燥させ、粉砕したものを用いた。天然の冬虫夏草は乾燥させたものを購入した。なお、分析試験項目としたセレンはガン防止効果があるとされ、β−グルカンは体の免疫機能を高める作用、エルゴステロールは免疫力を増進しガン抑制効果があるとされるものである。
【0015】
【表1】
Figure 0003593429
【0016】
表1における分析方法は、下記の通りである。
◎分析方法
1)セレン
2,3−ジアミノナフタレン−蛍光光度法による。
試料1gの中に硝酸(20ml)、過塩素酸(10ml)を加え、加熱分解を行った後、10%塩酸を入れ、沸騰水の中で30分間あたため、pHが1〜1.5になるように調整した。その後、2,3−ジアミノナフタレン溶液を加え、50℃であたためた後に振とうさせ、静置させた後、シクロヘキサン層を蛍光分光光度計で測定した。なお、励起波長378nm、蛍光波長は520nmである。
2)β−グルカン
酵素法による。
試料1gの中に0.08Mリン酸緩衝液、およびターマミルを加え、沸騰水で30分間暖め、pHを7.5に調整したのち、プロテアーゼ溶液を加え、60℃、30分間放置し、pHを4.3に調整したのち、アミログルコシダーゼ液を加え、95%エタノールで4倍定容した。その後室温で1h放置し、β−グルカンを沈殿させる。その後、ろ過、洗浄、加水分解、中和、定容、ろ過等の処理を行い、そのろ液をグルコースオキシダーゼ法によりブドウ糖を定量した。
β−グルカン(%)=ブドウ糖(%)×0.9
3)エルゴステロール
高速液体クロマトグラフ法による。
0.5g試料の中に1%塩化ナトリウム溶液、1%ピロガロール−エタノール溶液、60%水酸化カリウム溶液及び水酸化カリウムを加え、70℃の水の中で30分間けん化させ、1%塩化ナトリウム溶液を入れ抽出を行う。さらに酢酸エチル−ヘキサン混液を加え、溶媒留去させた後、アセトニトリル−メタノールで希釈定容しHPLCで測定した。なお、カラムは、Nova−Pak C18を用い、35℃ 1.0ml/min、UV282nm条件で行った。
【0017】
実施例3
次に無菌人工飼料育蚕の蛹を用いた場合の冬虫夏草の感染率について、桑葉育の蚕の蛹を用いた場合を比較例として実験した。冬虫夏草の菌種としてはハナサナギタケを用いた。サナギタケの胞子をツイーン40の5000倍液に懸濁させ、無菌人工飼料育の蚕及び桑葉育の蚕の蛹化直後の蛹を取り出し、この蛹の体表に直接接種した。培養温度は15〜25℃とした。この結果は表2に示す通りである。
【0018】
【表2】
Figure 0003593429
【0019】
無菌人工飼料育蚕の蛹を用いた場合の冬虫夏草の感染率は、100%に近い高い率で感染され、子実体が形成された。これに対し、桑育蚕蛹を用いた場合には、雑菌の感染率が85%と高い値であった。これら雑菌に感染したものは、ほとんどが細菌による敗血症で、組織は崩壊し、外皮のみを残した腐乱死体になった。従って、目的とする冬虫夏草菌が感染する前に死亡した。これは、桑葉や蚕具などに付着している細菌が蚕の気門や外傷から侵入するためと考えられる。特に晩秋蚕期は桑葉に付着している細菌量が多く、蚕自体への細菌の付着量も多くなる。水分、温度など条件が整えば、細菌は繁殖し、蚕病を起こす。なお、桑葉育の蚕の蛹の場合であっても、冬虫夏草菌に感染したものは子実体が形成された。
【0020】
実施例4
次に無菌人工飼料育蚕の初化蛹と、同じく無菌人工飼料育の熟蚕とに接種したときの比較実験を説明する。菌種としてサナギタケ(Cordyceps Militaris)を用い、接種方法は、上記実施例と同様にして行った。初化蛹に接種した場合には、感染率は100%、子実体形成率は99.5%であった。接種後12日後に子座が形成され、30日〜50日後に子実体が形成され成熟した。子実体は棍棒型で淡朱橙色で平均7センチぐらいであった。一方、熟蚕に接種した場合には、感染率は82%、子実体形成率は74%であった。接種後13日後に子座が形成され、50日〜60日後での子実体の成長は0.5〜1.5センチぐらいに過ぎなかった。
【0021】
実施例5
液体培地に用いる培養液について、抽出温度と抽出時間について実験を行った。この結果を表3に示す。なお、蛹1に対して5倍の重量比の水を用いて抽出し、蒸発分だけさらに水を加えた。また、蛹の抽出液をさらに8倍の水で希釈して液体培地とした。この液体培地を試験管内に3分の1程度入れ、これにハナサナギタケの分離株を植え付けた。乾燥重量比とは、各試料において形成された子実体及び菌糸体を乾燥させ、最も重量の重いもの(120℃で60分の条件で抽出した抽出液を用いたもの)を100としてあらわしたものである。
【0022】
【表3】
Figure 0003593429
【0023】
表3より、抽出温度が100℃の場合には、2時間以上の抽出が好ましく、5時間以上とすることがさらに好ましい。また、抽出温度が100℃を越える場合には、少なくとも10分以上で良好な結果が得られるが、20分以上とすることがさらに好ましい。
【0024】
実施例6
次に、繰糸後の水分を含んだ状態の蛹を用いた場合の液体培地に用いる培養液について、抽出温度と抽出時間について実験を行った。この結果を表4に示す。なお、蛹1に対して3倍の重量比の水を用いて抽出した。上記実施例5と同様に、蒸発分だけさらに水を加えた。また、蛹の抽出液をさらに2倍の水で希釈して液体培地とした。この液体培地を試験管内に3分の1程度入れ、これにハナサナギタケの分離株を植え付けた。
【0025】
【表4】
Figure 0003593429
【0026】
表4から、100℃の場合で1時間から4時間、107℃の場合で30分〜60分、120℃の場合で20分〜40分抽出したときに、冬虫夏草の感染率が100%、子実体の形成率が98%以上であり、45日〜60日後に4〜8cmの子実体が形成された。
【0027】
実施例7
液体培地を用いる場合の蛹の組成成分の抽出方法についての比較実験を行った。
乾燥蛹に水を加えて煮出す方法、乾燥蛹を粉砕した後水を加えて煮出す方法、及び粉砕した乾燥蛹に水を加える方法について実験を行った。
煮出す場合には、いずれも乾燥蛹1に対して5倍の重量の水を用い、蒸発分についてはさらに水を加えた。そして、この抽出液をさらに8倍の水で希釈して液体培地とした。その他培養方法は実施例1と同様にして行った。粉砕した乾燥蛹に水を加える方法については、まず乾燥蛹を粉砕し、この粉砕した蛹を高圧蒸気滅菌器を用いて摂氏121度で15分間滅菌処理を行い、これに乾燥蛹1に対して40倍の滅菌水を加えることにより行った。
上記いずれの方法も子実体は良好に形成されたが、粉砕した乾燥蛹に水を加える方法についての子実体の状態が最もよかった。また、乾燥蛹をそのまま煮出す方法より、乾燥蛹を粉砕して煮出す方法の方が子実体の状態はよかった。
【0028】
【発明の効果】
本発明は、蚕の蛹を培地として利用することにより、冬虫夏草の継続的な培養を安定的にかつ大量生産で行うことができる。特に、蚕の無菌人工飼料育は、高密度飼育が可能であり、季節に関係なく毎日のように一定量の蛹を供給することが可能である。その上、無菌人工飼料育蚕の蛹を用いた場合には、感染率が高く一定しており、感染後の子実体形成も雑菌の繁殖が認められないことから安定しており、冬虫夏草の生産効率は極めて高く、空間・時間当たりの収集率において他に匹敵するものがない。従って、その価格も安価で、大量に生産することが可能である。例えば、野外昆虫を利用する場合には年間に1ないし2回程度しか発生しないため生産も限定され、野外栽培システムと生産量を比較しても数万倍以上の生産が年間当たり可能になる。更に、生産された冬虫夏草は、そのまま乾燥または乾燥粉末にして供給でき、工業的製造方法として効率的かつ経済的である。もちろん、必要に応じて有効成分の抽出、精製などの操作により更に純度の高い製品を供給することもできる。また、液体培地での培養の場合には、子実体を回収した残渣及び培養液からの有効成分の抽出も可能である。
【0029】
また本発明は、繰糸後の蚕の蛹を利用できるため、安価で大量入手可能であるばかりか、現在汚染問題を引き起こしている蚕の蛹の有効な再利用を可能にすることができる。
このように本発明は、特には蛹抽出液を主成分とする液体培地で冬虫夏草の大量増殖源である子嚢胞子又は分生胞子を生産し、また更には、無菌人工飼料育蚕の蛹での大量生産システムを確立することにより、工業的に安価に、かつ大量に冬虫夏草を生産することが可能となるものである。

Claims (11)

  1. 蚕の蛹の組成成分を主成分とする液体培地を用いて培養を行い、前記液体培地として、蚕の蛹の組成成分を水を用いて高温加熱下で抽出した抽出液を用いることを特徴とする冬虫夏草の人工培養方法。
  2. 前記蛹として、繰糸後の蛹を用いたことを特徴とする請求項1に記載の冬虫夏草の人工培養方法。
  3. 前記抽出液は、蛹に対して重量比で2〜50倍の水を用い、沸騰温度で2時間以上煮出すことにより抽出されたものであることを特徴とする請求項1に記載の冬虫夏草の人工培養方法。
  4. 前記抽出液は、蛹に対して重量比で2〜50倍の水を用い、沸騰温度より高い温度で20分以上煮出すことにより抽出されたものであることを特徴とする請求項1に記載の冬虫夏草の人工培養方法。
  5. 蚕の蛹の組成成分を主成分とする液体培地を用いて培養を行い、前記液体培地として、蛹を粉砕し、これに水を加えた液体培地を用いたことを特徴とする冬虫夏草の人工培養方法。
  6. 前記液体培地に、炭素源、アミノ酸類、ミネラル類、又はビタミン類の中から少なくとも一種を添加したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の冬虫夏草の人工培養方法。
  7. 前記添加量を、蚕の蛹の抽出液100に対して2〜8重量比としたことを特徴とする請求項6に記載の冬虫夏草の人工培養方法。
  8. が繭を形成した後に蛹を取り出し、前記蛹に冬虫夏草の子実体に形成された子嚢胞子又は分生胞子を接種することにより培養を行うことを特徴とする冬虫夏草の人工培養方法。
  9. 前記蛹として初化蛹を用いたことを特徴とする請求項8に記載の冬虫夏草の人工培養方法。
  10. 蚕の蛹の組成成分を主成分とする液体培地にて冬虫夏草を増殖培養し、その後、前記冬虫夏草の子実体に形成された子嚢胞子又は分生胞子を、無菌飼育した蚕の蛹に直接接種することにより、継代培養を行うことを特徴とする冬虫夏草の人工培養方法。
  11. 前記冬虫夏草として、ハナサナギタケを用いたことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の冬虫夏草の人工培養方法。
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