JP3589935B2 - 硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物および複合誘電体材料 - Google Patents
硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物および複合誘電体材料 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリビニルベンジルエーテル化合物と、カップリング剤により表面処理を施した誘電体粉末とを含有する硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物およびそれから得られた複合誘電体材料に関し、詳しくはポリビニルベンジルエーテル化合物から得られる樹脂の特徴である高周波特性、すなわち高耐熱で、誘電率、誘電正接が一定で、低吸水率等の特徴を損なわず、電子機器、電子部品、回路基板に要求される誘電特性を実現し、高温、高湿条件においても誘電率、誘電正接の変化の少ないものとすることに関するものである。さらに具体的には誘電体粉末に分解開始温度が250℃以上のアルコキシシラン、有機官能性シランにより表面処理することに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、通信情報の急増に伴い、通信機器の小型化、軽量化、高速化が強く望まれている。これに対し、高誘電率材料の要求があり、特に携帯電話等の携帯移動体通信、衛星放送に使用される電波の周波数領域はGHz帯の高周波領域のものが使用されている。
【0003】
これらの通信手段として、使用される通信機器の急速な発展の中で、筐体および基板、電子部品の小型高密度実装化等が図られている。これに対応するためには耐熱性、低吸水性に優れた有機絶縁材料に誘電体粉末を分散した複合高誘電率材料の開発が必要となる。
【0004】
一般的に、波長は、光速と周波数と誘電率との関係で下記式により表される。波長=光速/[周波数×(誘電率)1/2]
【0005】
すなわち、材料の誘電率が大きいほど、波長が短くなり、伝送線路の低減、ひいては基板、製品の小型化が可能となる。
【0006】
さらに、伝送損失は、周波数と誘電率と誘電正接との関係で下記式で表される。
伝送損失=係数×周波数×(誘電率)1/2×誘電正接
【0007】
したがって、高周波伝送線路においては誘電正接の低減が必要である。
【0008】
さらに、回路基板、部品の内部にコンデンサを内蔵する手法も考えられており、この場合においても複合高誘電率材料の開発が必要となる。
【0009】
一方で、有機電気絶縁材料は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂に大別されるが、ハンダリフロー等で要求される耐熱性という点で熱硬化性樹脂が電子機器、基板にて使用されることがほとんどである。
【0010】
その熱硬化性樹脂においても要求される特性も年々厳しくなってきているのが実情であり、その場合、従来から使用されている樹脂では対応できない場合が多々ある。
【0011】
例えば、プリント配線板においては伝播速度の高速化(高周波化)に伴う周波数に対する定誘電特性、鉛レス半田使用による高耐熱化、特性インピーダンスのドリフトを抑制するために誘電特性が温度、湿度に対して依存性の少ないことが要求されている。
【0012】
また、電子部品においても使用される携帯電話、パソコン等の高周波化に伴い、100MHz〜10GHzという周波数領域での製品、材料開発が求められており、プリント配線板と同じ理由で高耐熱化、特性インピーダンスのドリフトを抑制するために誘電特性が温度、湿度に対して依存性の少ないことが要求されている。
【0013】
現在、市場にて主に使用されている樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド(ポリフェニレンエーテル)樹脂、ビスマレイミドトリアジン(シアネートエステル)樹脂等が挙げられるが、これらの樹脂は電子部品、配線基板に要求される次の特性、すなわち、
i) 耐熱性
ii) 低吸水率
iii) 誘電特性の温度、湿度依存性(誘電率、誘電正接の高温、高湿下における変化)
を完全に満足するものではない。
【0014】
上記課題を解決するために特開平9−31006号公報には、「ポリビニルベンジルエーテル化合物およびその製造方法」が開示されており、広い周波数領域で良好で一定で、なおかつ温度や吸湿性に依存しにくい誘電特性をもち、さらに耐熱性に優れるポリビニルベンジルエーテル化合物の硬化物が提案されている。
【0015】
このようなポリビニルベンジルエーテル化合物に、誘電体粉末を分散させ硬化させることにより、複合誘電体有機材料の作成が可能となるが、こうして得られた複合誘電体有機材料では高温、高湿下において誘電率、誘電正接が変化してしまうことが判明した。これについて検討したところ、誘電体粉末をそのまま使用した場合のポリビニルベンジルエーテル化合物と誘電体粉末の界面の密着性に問題があることがわかった。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、硬化物としたとき、広い周波数領域で良好で一定で、かつ温度や吸湿性に依存しにくい誘電特性を示し、さらに耐熱性にも優れるポリビニルベンジルエーテル化合物と、誘電体粉末の特性をそのまま生かすことが可能であり、高温条件下あるいは高温・高湿条件下で経時させても、誘電率、誘電正接(すなわちQ値)の変化の少ない複合誘電体材料と、これを得るために用いられる硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物を提供することである。さらには、リフローのような高温条件下においても、誘電率、誘電正接(すなわちQ値)の変化の少ない複合誘電体材料と、これを得るために用いられる硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物を提供することである。また、さらには、これらにおいて、難燃化を図ることである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、下記の本発明によって解決することができる。
(1) ポリビニルベンジルエーテル化合物と、カップリング剤により表面処理を施した誘電体粉末とを含有する硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物であって、
ポリビニルベンジルエーテル化合物が式(1)で表され、
カップリング剤がアルコキシシラン系、有機官能性シラン系、またはチタネート系であり、
誘電体粉末に対し、質量百分率で0.1〜6%のカップリング剤を用いて表面処理することにより、カップリング剤の皮膜が形成された誘電体粉末を含有する硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物。
【0018】
【化2】
【0019】
(2) カップリング剤が熱分解開始温度250℃以上のアルコキシシラン系または有機官能性シラン系である上記(1)の硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物。
(3) 式(1)で表されるポリビニルベンジルエーテル化合物の重合ないし硬化物の2GHzでの比誘電率εが2.6で、誘電正接tanδが0.04であり、誘電体セラミックス粉末の誘電体セラミックス材料の2GHzでの比誘電率εが10〜20000で、誘電正接tanδが0.05以下である上記(1)または(2)の硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物。
(4) さらに、難燃剤を含有する上記(1)〜(3)のいずれかの硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物。
(5) 上記(1)〜(3)のいずれかの硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物を硬化して得られ、ポリビニルベンジルエーテル化合物から得られた樹脂中に誘電体粉末が分散された複合誘電体材料。
(6) 上記(4)の硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物を硬化して得られ、ポリビニルベンジルエーテル化合物から得られた樹脂中に誘電体粉末が分散され、かつ難燃化された複合誘電体材料。
(7) 100MHz〜10GHzの周波数領域で使用される上記(5)または(6)の複合誘電体材料。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物は、ポリビニルベンジルエーテル化合物と、カップリング剤により表面処理を施した誘電体粉末とを含有するものであり、本発明の複合誘電体材料は、この樹脂組成物を硬化させて得られたものである。
【0021】
このように、カップリング剤により表面処理を施した誘電体粉末を用いているため、複合誘電体材料において、誘電体粉末と樹脂材料との界面状態の改良を図ることができ、これらの密着性が良好になる。このため、高温条件下ないし高温・高湿条件下において経時させた場合にも、誘電率、誘電正接(すなわちQ値)の変化が少なくなる。特に、熱分解開始温度250℃以上のアルコキシシラン系または有機官能性シラン系のカップリング剤を用いることによっては、リフロー温度のような高温条件下においても、誘電率、誘電正接の変化が少なくなる。
【0022】
本発明に用いるポリビニルベンジルエーテル化合物は、式(1)で表されるものである。
【0023】
【化3】
【0024】
式(1)中、R1はメチル基またはエチル基を表す。
【0025】
R2は水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。R2で表される炭化水素基は、各々置換基を有していてもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基、等である。アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等であり、アラルキル基としてはベンジル基等であり、アリール基としてはフェニル基等である。
【0026】
R3は水素原子またはビニルベンジル基を表し、水素原子は式(1)の化合物を合成する場合の出発化合物に由来するものであり、水素原子とビニルベンジル基とのモル比は60:40〜0:100が好ましく、より好ましくは40:60〜0:100である。
【0027】
nは2〜4の数である。
【0028】
なお、R3の水素原子とビニルベンジル基とのモル比を上記範囲とすることにより、硬化反応を十分に進行させることができ、また十分な誘電特性を得ることができる。これに対し、R3が水素原子である未反応物が多くなると硬化反応が十分に進行しなくなり、十分な誘電特性が得られなくなる。
【0029】
式(1)で表される化合物の具体例をR1等の組合せで以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0030】
【化4】
【0031】
式(1)で表される化合物は、式(1)においてR3=Hであるポリフェノールと、ビニルベンジルハライドとを反応させることにより得られる。この詳細については、特開平9−31006号公報の記載を参照することができる。
【0032】
本発明のポリビニルベンジルエーテル化合物は単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0033】
本発明のポリビニルベンジルエーテル化合物は、それのみを樹脂材料として重合して用いてもよく、他のモノマーと共重合させて用いてもよく、さらには、他の樹脂と組み合わせて使用することができる。
【0034】
共重合可能なモノマーとしては、例えばスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、ジビニルベンジルエーテル、アリルフェノール、アリルオキシベンゼン、ジアリルフタレート、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニルピロリドン等が挙げられる。これらのモノマーの配合割合は、ポリビニルベンジルエーテル化合物に対して、質量百分率で2〜50%程度である。
【0035】
また、組み合わせて使用することが可能な樹脂としては、例えばビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、マレイミド樹脂、ポリフェノールのポリシアナート樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビニルベンジル化合物等の熱硬化性樹脂や、例えばポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアセタール、ジシクロペンタジエン系樹脂等の熱可塑性樹脂がある。その配合割合は、本発明のポリビニルベンジルエーテル化合物に対して質量百分率で5〜90%程度である。中でも好ましくは、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、マレイミド樹脂、ポリフェノールのポリシアナート樹脂、エポキシ樹脂およびこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0036】
本発明のポリビニルベンジルエーテル化合物と他のモノマーまたは熱硬化性樹脂とを含有する硬化性樹脂組成物の重合および硬化は、公知の方法で行うことができる。硬化は、硬化剤の存在下または不存在下のいずれでも可能である。硬化剤としては、例えば過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t−ブチルパーベンゾエート等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。使用量は、質量で、ポリビニルベンジルエーテル化合物100部に対して0〜10部である。
【0037】
硬化温度は、硬化剤の使用の有無および硬化剤の種類によっても異なるが、十分に硬化させるためには、20〜250℃、好ましくは50〜250℃である。
【0038】
また、硬化の調整のために、ハイドロキノン、ベンゾキノン、銅塩等を配合してもよい。
【0039】
本発明のポリビニルベンジルエーテル化合物自体の重合ないし硬化物は高周波領域において低誘電率(2GHzでの比誘電率ε=2.6程度)でかつ低誘電正接(2GHzでのtanδ=0.04程度)であり、しかも絶縁性および耐熱性に優れ、ガラス転移温度(Tg)が高く、かつ分解開始温度が高く、低吸水率の高分子材料である。
【0040】
ポリビニルベンジルエーテル化合物の重合ないし硬化物(VB)と、市販のFR−4、FR−5(住友ベークライト社製のエポキシ系樹脂)、BTレジン(三菱瓦斯化学製のビスマレイミド系樹脂)、およびポリフェニレンオキサイド(PPO)について、吸水率(85℃/85%RHで500時間)、示差走査熱量測定法(DSC法)によるガラス転移温度を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
本発明に用いる誘電体セラミックス粉末の誘電体セラミックス材料は特に限定されるものではないが、2GHzでの比誘電率(ε)は10〜20000のものを用いることが望ましく、誘電正接(tanδ)は0.05以下のものが好ましい。誘電正接の下限に特に制限はないが、0.0001程度である。このようなものとしては、例えば、チタン−バリウム−ネオジウム系セラミックス、チタン−バリウム−スズ系セラミックス、鉛−カルシウム系セラミックス、二酸化チタンセラミックス(TiO2系)、チタン酸バリウム系セラミックス(BaTiO3−BaZrO3系、BaO−TiO2−Nd2O3系、BaO−TiO2−SnO2系)、チタン酸鉛系セラミックス、チタン酸ストロンチウム系セラミックス(SrTiO3系)、チタン酸カルシウム系セラミックス(CaTiO3系)、チタン酸ビスマス系セラミックス、チタン酸マグネシウム系セラミックス(MgTiO3系)、チタン酸ジルコニウム系セラミックス、チタン酸亜鉛系セラミックス、ジルコン酸ストロンチウム系セラミックス等が挙げられる。さらにCaWO4系セラミックス、Ba(Mg,Nb)O3系セラミックス、Ba(Mg,Ta)O3系セラミックス、Ba(Co,Mg,Nb)O3系セラミックス、Ba(Co,Mg,Ta)O3系セラミックス、Sr(Zn,Nd)O3系セラミックス、Ba(Zn,Nd)O3系セラミックス、Ba(Zn,Ta)O3系セラミックス等も挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0043】
なお、前記二酸化チタン系セラミックスとは、組成的には二酸化チタンのみを含む系、または二酸化チタンに他の少量の添加物を含む系で、主成分である二酸化チタンの結晶構造が保持されているものである。他の系のセラミックスもこれと同様である。二酸化チタンはTiO2で示される物質で種々の結晶構造を有するものであるが、誘電体セラミックスとして使用されるのはその中のルチル構造のものである。
【0044】
誘電体セラミックス粉末の粒子径は、均一分散・混合および高充填率化を図る上で、平均粒子径0.1〜100μm のものを用いることができるが、より好ましくは0.1〜10μm の範囲のものである。すなわち、粒子径が大きくなると、ポリビニルベンジルエーテル化合物への均一な分散、混合が難しくなると同時に沈降が激しくなり、均一な材料が作成しにくい。反対に、粒子径が小さくなると、粉末の表面積が増大し、分散、混合時の粘度、チクソ性があがってしまうことと高充填化が困難となる。
【0045】
誘電体セラミックス粉末は、誘電体セラミックス粉末とポリビニルベンジルエーテル化合物の合計量を100体積%としたとき、5〜65体積%の配合量である。こうした配合量とすることにより、高誘電率化が可能となるとともに、ポリビニルベンジルエーテル化合物への誘電体セラミックス粉末の混合・分散が良好になる。これに対し、誘電体セラミックス粉末の配合量が多くなると、配合が困難になると同時に硬化物物性の低下が大きくなり、実用的でない。また、誘電体セラミックス粉末の配合量が少なくなると、誘電率の上昇がほとんどなく、誘電特性からみたメリットがなくなる。
【0046】
カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などがある。そして、シラン系カップリング剤は、さらに、クロロシラン系、アルコキシシラン系、有機官能性シラン系、シラザン系などに細分化される。本発明では、アルコキシシラン系、有機官能性シラン系、チタネート系を用いる。
【0047】
なかでも、熱分解開始温度が220℃以上であるものが好ましい。特に、電子部品、回路基板に使用する場合、半田による接続のため、最大260℃のリフローを数回(5〜6回程度)通す必要性があるのがほとんどであり、こうした耐熱性の要求特性を満たす上では、熱分解開始温度が250℃以上であることが好ましい。熱分解開始温度の上限に特に制限はないが、通常使用されるものに関していえば1000℃程度である。
【0048】
このようなものとして、
アルコキシシラン系としては、メチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルビニルメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、テトラメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルジメトキシシランなどがあり、
有機官能性シラン系としては、
γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトキシトリメトキシシラン
などがある。
【0049】
カップリング剤は必要とされる特性に応じて単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0050】
誘電体粉末へのカップリング剤の処理量は、質量百分率で0.1〜6%の間で適時選択すればよいが、具体的には、フィラーである誘電体粉末の表面に単分子膜が形成できるような表面処理方法が一番効果が高い。
【0051】
これに関しては、例えば、次式による算出方法がある。
カップリング剤添加量=(誘電体粉末の質量×誘電体粉末の比表面積)/カップリング剤の最小被覆面積
【0052】
表面処理方法は下記の4種類があり、必要に応じ、適時選択して処理を行う。
1)乾式法:Vブレンダーなどで、誘電体粉末を強制撹拌しながらカップリング剤(水溶液等でも可)を乾燥空気、窒素ガスで噴霧させて処理する方法である。
2)湿式法:誘電体粉末を水、溶剤に分散させ、スラリー状態になったところにカップリング剤(水溶液等でも可)を添加していき、撹拌後、静置して誘電体粉末を沈降分離し、乾燥させる方法である。
3)スプレー法:炉から取り出したばかりの高温の誘電体粉末にカップリング剤(水溶液等でも可)をスプレーする方法である。
4)インテグラルブレンド法:ポリビニルベンジルエーテルに誘電体粉末を添加する前後に撹拌しながら直接配合物にカップリング剤を希釈しないで添加する方法である。
【0053】
なお、カップリング剤による表面処理により、誘電体粉末にはカップリング剤の皮膜が形成されることになるが、一部皮膜形成のなされていない誘電体粉末が存在していてもよい。
【0054】
本発明では、複合誘電体材料の難燃化を図るために、硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物に、難燃剤を添加してもよい。難燃剤としては、添加型、反応型など、適宜、使い分けることができる。
【0055】
本発明に用いられる添加型難燃剤としては下記のものが挙げられる。
1)ハロゲン系難燃剤
2)リン系難燃剤
3)チッソ系難燃剤
4)金属塩系難燃剤
5)水和金属系難燃剤
6)無機系難燃剤
【0056】
この中で1)のハロゲン系難燃剤が誘電特性の面から好ましく、さらに臭素化芳香族系難燃剤が耐熱性、誘電特性に対する影響から考えると好ましい。
【0057】
代表的な臭素化芳香族系難燃剤としては、
デカブロモジフェニルオキサイド、
オクタブロモジフェニルオキサイド、
テトラブロモビスフェノールA、
ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、
テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、
エチレンビステトラブロモフタルイミド、
エチレンビスペンタブロモジフェニル、
トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、
テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、
ポリジブロモフェニレンエーテル、
臭素化ポリスチレン、
ヘキサブロモベンゼン、
テトラブロモビスフェノールS、
オクタブロモトリメチルフェニルインダン、
臭素化ポリフェニレンオキサイド、
が挙げられ、要求される各種特性から使い分けることができる。
【0058】
特に耐熱性に関しては電子部品、回路基板に関しては鉛フリー半田による接合の問題から最大260℃/10秒で数回(5〜6回)レベルの耐リフロー性、260〜350℃/数秒(10〜3秒)レベルの半田ディップ試験が要求されており、この温度領域において分解しにくい難燃剤が必要であり、この要求を満たす難燃剤としては下記のものが好ましい。
【0059】
デカブロモジフェニルオキサイド
テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー
エチレンビステトラブロモフタルイミド
エチレンビスペンタブロモジフェニル
トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン
トリブロモネオペンチルアルコール
臭素化ポリスチレン
オクタブロモトリメチルフェニルインダン
臭素化ポリフェニレンオキサイド
【0060】
このような臭素化芳香族系難燃剤の配合比は、得たい難燃性に応じて適時選択すればよいが、ポリビニルベンジルエーテル化合物に対し、質量百分率で5〜70%であることが好ましい。難燃剤量が少なくなると難燃効果および誘電特性の向上がほとんどなくなり、多くなるとポリビニルベンジルエーテル化合物の硬化物としての優れた物性を低下させる(例えば曲げ強度等の低下)と同時に、ペースト化する際粘度の上昇を伴い配合してペースト化するのが困難となる。
【0061】
具体例として回路基板を挙げると、難燃試験のUL94燃焼性試験のV−1〜0を満足させるためには質量百分率で20〜50%の配合比が好ましい。
【0062】
また、必要に応じ、上記難燃剤は2種類以上をブレンドして使用してもよい。
【0063】
本発明では、難燃剤とともに難燃助剤を用いてもよい。難燃助剤は難燃剤に分類されることもあるが、ある種の難燃剤と併用したとき、その難燃剤の難燃効果に相乗効果を示すものである。難燃剤として、本発明に好ましく用いられる臭素化芳香族系難燃剤との併用においては、先の無機系難燃剤に分類されるものを難燃助剤として用いることが好ましい。こうした無機系難燃助剤は、燃焼時に樹脂の脱水剤として作用し、炭化皮膜形成に寄与するものであり、具体的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、シリカ、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化タングステン等の金属酸化物、アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、亜鉛、モリブデン、コバルト、ビスマス、クロム、ニッケル、銅、タングステン、スズ、アンチモン等の金属粉、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、等が挙げられる。
【0064】
その中でも三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが難燃剤との併用による相乗効果が高く、適している。さらに先ほど記述したリフロー、半田ディップ等の耐熱性をクリアする材料としては三酸化アンチモンが融点が655℃と高く耐熱性に優れ、臭素化芳香族系化合物との難燃化相乗効果が高く、絶縁性等、要求される特性に特に適している。
【0065】
また、必要に応じ、上記難燃助剤は2種類以上ブレンドして使用してもよい。
【0066】
無機系難燃助剤は、臭素化芳香族系難燃剤との合計量での配合比が、ポリビニルベンジルエーテル化合物に対して質量百分率で5〜70%の範囲であることが好ましく、得たい難燃性に応じて適時選択することができる。上記合計量が少なくなると難燃効果および誘電特性の向上がほとんどなくなり、多くなるとポリビニルベンジルエーテル化合物の硬化物としての優れた物性を低下させると同時に配合してペースト化するのが困難となる。
【0067】
具体例として回路基板を挙げると、難燃試験のUL94燃焼性試験のV−1〜0を満足させるためには質量百分率で20〜40%の合計配合比が好ましい。
【0068】
なお、無機系難燃助剤とポリビニルベンジルエーテル化合物との配合比は、必要に応じ、適宜選択すればよく、特に限定されるものではなく、無機系難燃助剤/ポリビニルベンジルエーテル化合物の比が、質量で、5/95〜95/5である範囲から選択できる。
【0069】
また、難燃助剤は1)分散性向上、2)ポリビニルベンジルエーテル化合物との界面状態を改良するために表面処理を行ってもよい。
【0070】
具体的にはシラン化合物(クロロシラン、アルコキシシラン、有機官能性シラン、シラザン)、チタネート系、アルミニウム系カップリング剤等による表面処理が挙げられる。
【0071】
表面処理の方法は、乾式法、湿式法、インテグラルブレンド法などがあるが、必要とされる特性、工程、設備によって随時選択する。具体的には公知の方法に準じて行うことができる。
【0072】
添加型難燃剤と難燃助剤とを併用することによって、添加型難燃剤を単独使用する場合に比べて、本発明の組成物におけるポリビニルベンジル化合物の配合比を増しても、難燃効果のレベルを同等に保つことができる。
【0073】
本発明の反応型難燃剤は、ハロゲン化フェノールのビニルベンジルエーテル化合物であり、ハロゲン化フェノール化合物のフェノール性水酸基の少なくとも1つをビニルベンジルオキシ基としたものである。この場合のハロゲン化フェノール化合物は、フェノール性水酸基を1個有するハロゲン化モノフェノールであってもよいし、フェノール性水酸基を2個以上有するハロゲン化ポリフェノールであってもよい。また、ハロゲン化の度合も、目的とする難燃化の度合などに応じて、種々のものとすることができ、フェノール性水酸基が2個以上存在するとき、少なくとも1個がビニルベンジルオキシ基となっていればよく、残存するフェノール性水酸基が誘電特性などに悪影響を及ぼす場合は、後述のように、適宜の方法により、残存水酸基を封止(ブロック)するなどすればよい。
【0074】
このようなハロゲン化フェノールのビニルベンジルエーテル化合物は、例えば特開平6−116194号公報に記載されている方法を用いて合成することができる。具体的には、フェノール水酸基をもつ化合物とビニルベンジルハライドをアルカリ存在下で極性溶剤中、もしくは相間移動触媒の存在下、水/有機溶剤混合溶液中で反応させる方法により合成することができる。
【0075】
本発明で使用されるハロゲン化フェノール化合物としては、市販のハロゲン化フェノール化合物を用いることができ、例えばジクロロフェノール、トリクロロフェノール、ペンタクロロフェノール、テトラクロロビスフェノールAなどの塩素化物、ジブロモフェノール、トルブロモフェノール、ペンタブロモフェノール、テトラブロモカテコール、テトラブロモビスフェノールA、臭素化ノボラック等の臭素化物が挙げられる。
【0076】
本発明で使用されるハロゲン化フェノール化合物は、ハロゲン含有率が高いものほど得られるハロゲン含有ビニルベンジルエーテル化合物の難燃剤としての効果も高くなる。ハロゲン化フェノール化合物のハロゲン含有率は質量百分率で20%以上が好ましく、より好ましくは40%以上である。その上限に特に制限はないが、85%程度である。ハロゲン含有率が少なくなると得られるハロゲン含有ビニルベンジルエーテル化合物の難燃効果が低くなり、期待する性能が得られにくくなる。
【0077】
本発明で使用するビニルベンジルハライドとしてはp−ビニルベンジルクロライド、m−ビニルベンジルクロライド、p−ビニルベンジルブロマイド、m−ビニルベンジルブロマイドおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0078】
ビニルベンジルハライドの使用量は使用するハロゲン化フェノール化合物の種類により異なるため、一概には規定できないが、ハロゲン化フェノール化合物のフェノール性水酸基1当量に対して0.1から1.5当量が好ましく、より好ましくは0.5から1.2当量である。
【0079】
ハロゲン化ポリフェノールを使用する場合、ハロゲン含有ビニルベンジルエーテル化合物の残存水酸基が耐水性や誘電特性など硬化物の特性に影響を与える場合には、必要に応じて反応系に炭化水素ハロゲン化合物を加え、残存水酸基を封止することができる。炭化水素ハロゲン化合物としては炭素数1から10のアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基を含有するハロゲン化合物であり、例えば、ブチルアイオダイド、ネオペンチルブロマイド、シクロヘキシルブロマイド、ベンジルクロライド等が挙げられ、その使用量は残存水酸基1当量に対して1.2当量までである。
【0080】
反応溶媒としてはジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールメチルエーテル、1,3−ジメトキシプロパン、1,2−ジメトキシプロパン、テトラメチレンスルホン、ヘキサメチルホスホアミド、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、ブタノール、プロパノールおよびその混合物が挙げられ、これらの中から原料種や反応条件に応じて反応系が終始均一になるような溶剤種を選択すればよい。
【0081】
アルカリとしてはアルカリ金属あるいはアルカリ土類のアルコキサイド、水素化物、水酸化物であり、例えばナトリウムメトキサイド、ナトリウムエトキサイド、水素化ナトリウム、ホウ素化ナトリウム、水素化カリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、反応系を非水系とするか、含水系とするかでアルカリ種を選択すればよい。アルカリ金属水酸化物の配合割合は原料の水酸基1当量に対し、1.1から3.0当量程度がよい。当量数が小さくなると樹脂中に残存するOH基濃度が高くなり、誘電特性のような電気的特性に好ましくない。また、当量数が大きくなると残存アルカリの除去に多量の洗浄水等の除去溶剤が必要となり、経済性から考えると好ましくない。
【0082】
相間移動触媒を用いる方法で反応を行う場合に使用される相間移動触媒としては各種オニウム塩、例えばテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、トリカプリルメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム化合物、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウム化合物、ベンジルテトラメチレンスルホニウムブロマイド等の4級ホスホニウム化合物、ベンジルジテトラメチレンスルホニウムブロマイド等の3級スルホニウム化合物およびこれらの化合物が挙げられる。
【0083】
これらの相間移動触媒の使用量は触媒種、あるいは反応温度により効果が異なるため、一概に規定できないが、一般的には原料の水酸基1当量に対して0.01から0.2当量使用すればよい。
【0084】
反応速度、および反応時間はそれぞれ30から100℃、0.5から20時間であればよい。
【0085】
ビニルベンジルハライドのような高反応性化合物を使用する場合には必要に応じて熱重合禁止剤を反応系に添加してもよく、例えばt−ブチルカテコール、2,4−t−ブチルフェノール、2−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4−ニトロフェノール、2,4−ジニトロフェノール、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノンメチルエーテル、t−ブチルハイドロキノン、レゾルシン、ピロガロール、フェノチアジン、銅塩等が挙げられる。さらに空気の適量の使用も重合禁止には効果がある。
【0086】
反応生成物の回収、精製には公知の方法を用いればよい。例えば反応液から生成塩を濾過分離した後、水洗し、有機層にメタノール等の非水溶媒を添加し、生成した沈殿を分離、減圧乾燥することにより、容易に目的物を得ることができる。
【0087】
ポリビニルベンジルエーテル化合物に対するハロゲン化フェノールのビニルベンジルエーテル化合物の配合比は、ハロゲン化フェノールのビニルベンジルエーテル化合物/ポリビニルベンジルエーテル化合物の質量比で表して、5/95〜70/30の範囲であることが好ましい。
【0088】
その配合比は得たい難燃性に応じて適時選択すればよいが、上記配合比より難燃剤量が少なくなると難燃効果の向上がほとんどなくなり、多くなるとポリビニルベンジルエーテル化合物から得られる硬化物の優れた物性を低下させる。
【0089】
本発明では、前記の反応型難燃剤とともに、前記の添加型難燃剤を用いることができる。配合する添加型難燃剤は必要に応じ選択(1種類以上)すればよい。この中でも、一般的にはハロゲン化難燃剤と併用するのは水和金属系難燃剤、無機系難燃剤であり、これらは燃焼時に樹脂の脱水剤として作用し、炭化皮膜形成に寄与する。これらの難燃剤として、具体的には、先に、添加型難燃剤のところで、無機系難燃助剤として例示した化合物と同様のものが挙げられ、この場合と同様に、表面処理を行って用いることもできる。
【0090】
ポリビニルベンジルエーテル化合物に対するハロゲン化フェノールのビニルベンジルエーテル化合物と添加型難燃剤の配合比は難燃剤/ポリビニルベンジルエーテル化合物=5/95〜70/30(質量比)の範囲で行うのが好ましい。
【0091】
ハロゲン化フェノールのビニルベンジルエーテルと添加型難燃剤の配合比は特に限定されないが、ハロゲン化フェノールのビニルベンジルエーテル/添加型難燃剤=5/95〜95/5(質量比)の範囲であればよい。
【0092】
配合比は得たい難燃性に応じて適時選択すればよいが、上記配合比より難燃剤の全体量が少なくなると難燃効果の向上がほとんどなくなり、多くなるとポリビニルベンジルエーテル化合物から得られる硬化物の優れた物性を低下させる。
【0093】
反応型難燃剤と添加型難燃剤とを併用することによって、反応型難燃剤を単独使用する場合に比べて、本発明の組成物におけるポリビニルベンジルエーテル化合物の配合比を増しても、難燃効果のレベルを同等に保つことができる。
【0094】
本発明の組成物は、電子機器、電子部品、回路基板用の材料として使用されるが、成形用材料、粉体塗料としてはペレット(粉末)状で、接着材料、注型材料、レジスト等の絶縁材料としては、ワニスまたはペースト状で使用されるなど、種々の形態が可能である。
【0095】
さらに、電気的特性の向上や機械的、物理物性の改良、材料形態の必要性に応じ、誘電体粉末以外の各種充填剤を混練し、複合材料とすることができる。具体的にはフェライト、軟磁性金属等の磁性材料、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタン酸カリウムウイスカ、チタン酸バリウムウイスカ、酸化亜鉛ウイスカ、ガラス繊維、ガラスビーズ、カーボン繊維、酸化マグネシウム(タルク)等が挙げられ、必要とされる特性に応じて使い分ける。
【0096】
さらにガラスクロス等のクロス材料に上記ペーストを含浸することにより、プリプレグを得ることができ、さらにこれを用いて積層板、銅等の金属を貼りつけた金属箔付積層板とすることができる。
【0097】
クロス材料としてはガラス、アラミド、石英、ポリエチレン等が挙げられる。
【0098】
また、金型中にて加熱硬化することにより任意の形の成形品を作成することが可能であり、電子機器、電子部品、回路基板用材料として広範囲に使用することができる。
【0099】
上記充填剤、クロス材料は必要に応じ、絶縁コーティング処理やシラン化合物(クロロシラン、アルコキシシラン、有機官能性シラン、シラザン)、チタネート系、アルミニウム系カップリング剤等にて表面処理を行ってもよい。
【0100】
【実施例】
以下に、実施例を挙げ、本発明を詳しく説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0101】
実施例1
誘電体粉末(BaO−TiO2−Nd2O系、ε(2GHz)=95、tanδ(2GHz)=0.00077、平均粒径=0.3μm)400gを水500g の入った1リットルビーカ中に入れ、攪拌機により撹拌した。ここに、アルコキシシラン系のカップリング剤(メチルトリメトキシシラン)TSL−8113(東芝シリコーン)8g を添加し、1時間撹拌した。その後、1時間静置し、誘電体粉末を分離し、110℃で16時間乾燥した。このカップリング剤の熱分解開始温度は、TG(熱重量測定)やDSCにより450〜510℃程度であることがわかった。
【0102】
ポリビニルベンジルエーテル化合物55gとトルエン45gを同一容器中で完全に溶解するまで撹拌し、55質量%の固形分を含む溶液を調製した。
【0103】
なお、ポリビニルベンジルエーテル化合物は、式(1)において、R1がメチル基、R2が炭素数1〜10のアルキル基(ベンジル基等のアラルキル基などであってもよく、これらを含め、炭素数1〜10の範囲にあるアルキル基が混在したもの)、R3の水素原子とビニルベンジル基とのモル比が、水素原子:ビニルベンジル基=0:100、n=3のものである。
【0104】
上記溶液の中に、上記で作成した表面処理を行った誘電体粉末368.2g を入れて完全に分散するまで撹拌を行い、配合物スラリーを調製した。
【0105】
次に、ガラスクロス(1080タイプ、厚み50μm 、旭シュエーベル株式会社製)を上記で調製した配合物スラリーにより含浸塗工し、110℃2時間の仮硬化処理を行い、ガラスクロスを内蔵したプリプレグを得た。得られた厚みは100μm であった。
【0106】
さらに、上記のプリプレグを4枚重ね、温度プロファイル120℃30分、150℃30分、180℃6.5時間、圧力300MPaにて加熱、加圧硬化を行い、ガラスクロス入り積層板を得た。厚みは400μm であった。これを、サンプルNo.1とする。
【0107】
サンプルNo.1において、カップリング剤を有機官能性シラン系のカップリング剤(γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)TSL−8370(東芝シリコーン)にかえるほかは同様にしてサンプルNo.2を作成した。このカップリング剤の熱分解開始温度は、同様の測定により260〜350℃程度であることがわかった。
【0108】
サンプルNo.1において、カップリング剤をチタネート系のカップリング剤プレンアクトKR−46B(味の素)にかえるほかは同様にしてサンプルNo.3を作成した。このカップリング剤の熱分解開始温度は、同様の測定により220〜230℃程度であることがわかった。
【0109】
サンプルNo.1において、カップリング剤による表面処理を行わない誘電体粉末を用いるほかは、同様にしてサンプルNo.4を作成した。
【0110】
作成したガラスクロス入り積層板のサンプルNo.1〜4の各々を長さ90mm、幅0.7mm、厚み0.4mmに切り出し、評価サンプルとし、摂動法により、測定周波数:2GHzにて誘電率、誘電正接を測定し、Q値を求めた。
【0111】
さらに、下記の3種の高温ないし高湿条件下で、各々経時させたときの誘電率とQ値の初期値に対する変化について評価を行った。
1)85℃/85%RH…500時間
2)125℃…470時間
3)最高温度(MAX)260℃リフロー…3、6、9、12回
【0112】
初期値を表2に示す。誘電率εとQ値の変化率Δε、ΔQを%表示で図1〜6に示す。表2には組成物の配合も併記する。
【0113】
【表2】
【0114】
これらの結果より、カップリング剤により表面処理を行ったサンプルは、無処理のサンプルに比べ、125℃(高温放置)あるいは85℃/85%RH(耐湿定常)条件下ではいずれもε、Q値の変化率が少なくなっていることがわかる。特に、熱分解開始温度が250℃以上のアルコキシシラン系や有機官能性シラン系のカップリング剤を用いると、上記条件下のほか、リフロー条件下においても、ε、Q値の変化率を抑えることができて、好ましいことがわかる。一方、チタネート系では、85℃/85%RH条件下で特性変化が少なく、こうした条件下で有効であるといえる。したがって、条件に応じてカップリング剤を使い分けることができる。
【0115】
実施例2
実施例1のサンプルNo.2において、ポリビニルベンジルエーテル化合物のトルエン溶液のかわりに、この溶液に、添加型難燃剤サイテックスBT93(アルベマール社製:エチレンビステトラブロモフタルイミド)を加えたものを用いるほかは、同様にしてガラスクロス入り積層板のサンプルNo.21を得た。この場合、添加型難燃剤の添加量は、ポリビニルベンジルエーテル化合物に対して20%(質量百分率)となるようにした。
【0116】
このサンプルNo.21(127mm×12.7mm×0.8mmの大きさのもの)について、UL94難燃性試験を行ったところ、V−0を満たし、難燃性に優れることがわかった。また、難燃化による誘電特性の劣化はなかった。
【0117】
実施例3
実施例1のサンプルNo.2において、ポリビニルベンジルエーテル化合物のトルエン溶液のかわりに、このトルエン溶液に、反応型難燃剤テトラブロモビスフェノールAのポリビニルベンジル化合物の55%(質量百分率)トルエン溶液を用い、0.3%(質量百分率)のフェノチアジン(重合禁止剤)を加えたテトラブロモビスフェノールAのポリビニルベンジル化合物を30%(質量百分率)量加えたものを用いるほかは、同様にしてガラスクロス入り積層板のサンプルNo.22を得た。なお、テトラブロモビスフェノールAのポリビニルベンジル化合物は、テトラブロモビスフェノールAとビニルベンジルクロライド(セイミケミカル社製:m−/p−異性体50:50(質量比)混合物)とから得られたものである。
【0118】
このサンプルNo.22(127mm×12.7mm×0.8mm大きさのもの)について、UL94難燃性試験を行ったところ、V−0を満たし、難燃性に優れることがわかった。また、難燃化による誘電特性の劣化はなかった。
【0119】
【発明の効果】
本発明によれば、高温条件、高温・高湿条件下で経時させても、誘電率、誘電正接(Q値)の変化を少なくすることができる。さらには、リフローのような高温条件下においても、誘電率、誘電正接(Q値)の変化を少なくすることができる。また、難燃化も可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】高温条件下で経時させたときの誘電率εの変化を示すグラフである。
【図2】高温条件下で経時させたときのQ値の変化を示すグラフである。
【図3】高温・高湿条件下で経時させたときの誘電率εの変化を示すグラフである。
【図4】高温・高湿条件下で経時させたときのQ値の変化を示すグラフである。
【図5】リフロー条件下における誘電率εの変化を示すグラフである。
【図6】リフロー条件下におけるQ値の変化を示すグラフである。
Claims (7)
- ポリビニルベンジルエーテル化合物と、カップリング剤により表面処理を施した誘電体粉末とを含有する硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物であって、
ポリビニルベンジルエーテル化合物が式(1)で表され、
カップリング剤がアルコキシシラン系、有機官能性シラン系、またはチタネート系であり、
誘電体粉末に対し、質量百分率で0.1〜6%のカップリング剤を用いて表面処理することにより、カップリング剤の皮膜が形成された誘電体粉末を含有する硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物。
- カップリング剤が熱分解開始温度250℃以上のアルコキシシラン系または有機官能性シラン系である請求項1の硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物。
- 式(1)で表されるポリビニルベンジルエーテル化合物の重合ないし硬化物の2GHzでの比誘電率εが2.6で、誘電正接tanδが0.04であり、誘電体セラミックス粉末の誘電体セラミックス材料の2GHzでの比誘電率εが10〜20000で、誘電正接tanδが0.05以下である請求項1または2の硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物。
- さらに、難燃剤を含有する請求項1〜3のいずれかの硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物。
- 請求項1〜3のいずれかの硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物を硬化して得られ、ポリビニルベンジルエーテル化合物から得られた樹脂中に誘電体粉末が分散された複合誘電体材料。
- 請求項4の硬化性ポリビニルベンジルエーテル樹脂組成物を硬化して得られ、ポリビニルベンジルエーテル化合物から得られた樹脂中に誘電体粉末が分散され、かつ難燃化された複合誘電体材料。
- 100MHz〜10GHzの周波数領域で使用される請求項5または6の複合誘電体材料。
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