JP3587613B2 - 転がり軸受とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、一対の軌道輪と転動体と保持器とを含み、且つ両軌道輪間に区画される領域に、樹脂と潤滑成分との混合物からなる固形の潤滑性組成物が充填された転がり軸受、及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、転がり軸受の潤滑には、潤滑油やグリース等の潤滑成分が用いられる。これらの潤滑成分は流動性を有するので、転がり軸受の回転時に飛散する。その結果、潤滑成分を頻繁に補給しなければならないという問題がある。
また、潤滑油やグリース等の潤滑成分は、転がり軸受の外部からの水や塵埃等の侵入に対しては全く無力である。したがって、特に、上記水や塵埃等が侵入しやすい環境下で使用される転がり軸受の場合は、複雑な構造のシール部材を、必ず、設けなければならない。
【0003】
そこで、これらの問題を解決すべく、ポリエチレン等の樹脂と上記潤滑成分との混合物を固形化させて形成した潤滑性組成物が提供されている(たとえば特開昭54−22415公報、特公昭63−23239号公報、及び特公平3−67559号公報等参照)。上記の固形化された潤滑性組成物は、転がり軸受の内部の領域に、上記混合物を流動状で充填した後、この混合物を、上記樹脂の融点以上に加熱し、次いで冷却することにより、得るようにしている。
【0004】
上記固形化された潤滑性組成物は、転がり軸受の使用時の遠心力や熱によって潤滑成分が除々ににじみ出る結果として潤滑性を発揮する。したがって、転がり軸受の回転時に潤滑成分が飛散するおそれがなく、長期間に亘って潤滑成分を補給する必要がない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記潤滑性組成物を、転がり軸受の内部の領域いっぱいに充填して固形化する場合には、外部からの水や塵埃等に対して防壁として機能するので、シール部材を廃止することも可能となると考えられる。
ところが、この場合、固形化された潤滑性組成物と、転がり軸受を構成する各部材(即ち内輪、外輪、転動体及び保持器のそれぞれ)との間で摩擦を生じ、回転時における転がり軸受全体としての摩擦が大きくなる結果、転がり軸受の回転トルクが大きくなるという問題が予想される。
【0006】
一方、転がり軸受の回転トルクを小さくすべく、上記潤滑性組成物を、たとえば保持器と転動体との隙間等に部分的に充填した場合には、外部からの水や塵埃等に対する防壁としての機能が失われるため、複雑な構造のシール部材を設けることが、絶対必要となる。
本発明の目的は、必ずしも複雑な構造のシール部材を設ける必要がなく、しかも回転トルクが小さい、新規な構造の転がり軸受と、その効率的な製造方法とを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための、本発明の転がり軸受は、互いの間に環状の領域を区画する一対の軌道輪と、上記領域に配置され、各軌道輪に対して転動する複数の転動体と、上記領域に配置され、各転動体を保持するためのポケットを有する保持器と、樹脂と潤滑成分との混合物からなり、上記領域に充填された固形の潤滑性組成物とを備え、上記ポケットと転動体との間には、固形の潤滑性組成物の介在を回避した状態で、潤滑成分の膜が形成されており、上記潤滑成分の膜の動粘度を50〜200mm2 /s(100mm2 /s以上を除く)の範囲に設定してあり、各軌道輪は、上記潤滑性組成物の両側にそれぞれ配置されて上記領域を密封する一対のシール部材のそれぞれと関連するシール部をそれぞれ含み、上記潤滑性組成物は、上記シール部との干渉を回避するべく削られていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の転がり軸受では保持器のポケットと転動体との間の隙間に、動粘度が50〜200mm2 /s(100mm2 /s以上を除く)である潤滑成分の膜を形成することにより、この隙間に固形の潤滑性組成物が介在することを回避しているので、転動体の摩擦抵抗を小さくできる。このため、固形の潤滑性組成物を、外部からの水や塵埃等に対する防壁としての機能を十分に発揮すべく転がり軸受の内部の領域にフルに充填しても、回転トルクを小さくできる。また、複雑な構造のシール部材を不要にすることも可能となる。
【0009】
上記の転がり軸受は、潤滑剤の補給が困難な場合、潤滑剤の長寿命化が要求される場合、防塵、防水性が要求される場合、軸受自体が公転し潤滑剤の飛散が問題となる場合、潤滑剤の流出が問題となる場合、軸受の回転トルクが問題となる場合等に好適に使用できる。上記の軸受自体が公転する場合としては、撚り線機のガイドローラ用の転がり軸受がある。
【0010】
また、上記各軌道輪及び転動体は、それぞれ潤滑性組成物と接する表面にも、潤滑成分の膜を形成することが、回転トルクをより小さくする点で好ましい。
また、固形化された潤滑性組成物が連続していることが好ましく、その理由は、潤滑性組成物が領域内の局所に不連続に存在する場合と比較して、潤滑性組成物の容積を大きくできることから、領域内に保持される潤滑成分を多くすることができ、その結果、軸受寿命を長くすることができるからである。この観点から、撚り線機のガイドローラ用の転がり軸受としても、固形化された潤滑性組成物が連続した形状をしていることが好ましい。
【0011】
また、上記の転がり軸受は、一対の軌道輪と、両軌道輪間に転動可能に配置された複数の転動体と、各転動体を保持すべく両軌道輪間に配置された保持器とを備えた、種々の形式の転がり軸受に適用可能であるが、とくに前述したように、複雑な構造のシール部材を有しない形式の転がり軸受に好適に適用できる。しかし、これに限定されるものではなく、他の理由でシール部材を必須とする転がり軸受に適用することは無論可能であり、また、密封性をより高めるうえでシール部材を用いることも無論可能である。
【0012】
例えば、本発明の転がり軸受は、互いの間に環状の領域を区画する一対の軌道輪と、上記領域に配置され、各軌道輪に対して転動する複数の転動体と、上記領域に配置され、各転動体を保持するためのポケットを有する保持器と、樹脂と潤滑成分との混合物からなり、上記領域に充填された固形の潤滑性組成物と、上記ポケットと転動体との間に、固形の潤滑性組成物の介在を回避した状態で形成された潤滑成分の膜と、上記潤滑性組成物の両側にそれぞれ配置されて何れか一方の軌道輪に固定され、上記領域を密封する一対のシール部材とを備え、各軌道輪は、各シール部材のそれぞれと関連するシール部をそれぞれ備え、上記固形化された潤滑性組成物は、上記シール部との干渉を回避するべく削られていることを特徴とするものであっても良い。
【0013】
この場合、下記の利点がある。即ち、固形化の際に潤滑性組成物に生じたバリ等が、シール部に侵入していると、シール性能に悪影響を与えるが、本発明では、固形化された潤滑性組成物が削られていて上記のバリ等が除去されているので、シール性能が低下しない。
また、本発明の転がり軸受の製造方法は、上記保持器と転動体との間に、潤滑成分の膜を形成するステップと、上記領域内に、樹脂と潤滑成分との混合物を充填するステップと、上記混合物を樹脂の融点以上に加熱した後、冷却して、上記固形化された潤滑性組成物を得るステップとを含むこと特徴とする。
【0014】
本発明の転がり軸受の製造方法によれば、転がり軸受の内部の領域に、ペースト状の潤滑性組成物を充填するステップに先立って、転がり軸受に潤滑成分を供給して油膜を形成するだけで、前記のように特性のすぐれた本発明の転がり軸受を製造できるという利点がある。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態を添付の図に基づいて説明する。
図1を参照して、本転がり軸受は、▲1▼互いの間に環状の領域3を区画する一対の軌道輪としての環状の内輪1及び外輪2と、▲2▼領域3に配置され、内輪1及び外輪2に対して転動する複数の転動体としてのボール4と、▲3▼領域3に配置され、各ボール4を保持するためのポケット5aを有する保持器5と、▲4▼樹脂と潤滑成分との混合物からなり、領域3に充填された連続状の固形の潤滑性組成物6と、▲5▼潤滑性組成物6を挟んだ両側に配置され、外輪2に固定されて内輪1と摺接する一対の環状のシール部材7,8を備えている。
【0016】
固形化された潤滑性組成物6は、両輪1,2間に一対のシール部材7,8で区画された領域3内に略一杯となるように充填されている。各シール部材7,8と潤滑性組成物との間に隙間が形成されているのは、固形化の際に、潤滑性組成物6が収縮したからである。シール部材を取り外した状態での転がり軸受の正面図である図2を参照して、固形化した潤滑性組成物6は全体が連続して形成されている。
【0017】
そして、本実施形態の特徴は、上記内輪1、外輪2、ボール4及び保持器5は、それぞれ潤滑性組成物と接する表面に、潤滑成分の膜9を形成しており、また、上記ポケット5aとボール4との間には、固形の潤滑性組成物の介在を回避した状態で、潤滑成分の膜9が形成されていることにある。
内輪1及び外輪2に形成される潤滑成分の膜は、少なくとも軌道面1a,2aに形成されていれば良い。
【0018】
各シール部材7,8は、環状の芯金10と、この芯金10に焼き付けられた環状のゴム体11とを有している。各シール部材7,8は、その外周部が外輪2の両端面にそれぞれ形成した溝部からなるシール部2bに嵌められて固定されており、その内周部が内輪1の両端面に形成した凹面状のシール部1bに弾力的に接触している。
【0019】
次いで、本実施形態の転がり軸受を製造する工程について説明する。
まず、内輪1、外輪2、ボール4及び保持器5を組み立ててユニットとする。次いで、このユニットを、図3(a)に示すように、潤滑成分を満たした槽11に所定時間沈めた後、引き上げると、内輪1、外輪2、ボール4及び保持器5の表面に潤滑成分の膜が形成され、また保持器5とボール4との間にも、潤滑成分の膜が形成される。
【0020】
なお、潤滑成分の膜を形成は、上記のように槽11に沈めて行う他、注射器等を用いて潤滑成分を所要の部分に塗布しても良い。
次いで、図3(b)に示すように、一方のシール部材7を装着して領域3が上方にのみ開放する状態でユニットを配置し、上方から領域3内に流動状の潤滑性組成物を充填した後、図3(c)に示すように、他方のシール部材8を装着して、領域3を密封する。
【0021】
次いで、混合物を樹脂の融点以上に加熱した後、冷却すると、流動状の潤滑性組成物が固形化する。
その後、一旦、シール部材7,8を取り外して、図4に示すように潤滑性組成物6のバリ6cをカッタ10によって切断して除去する。これは、上記のシール部材7,8と、これが取り付けられている内輪1や外輪2との間に、流動状の潤滑性組成物が侵入したまま固形化される場合があり、この場合、侵入した部分がバリ6cとなって残存する。このバリ6cが、上記のシール部材7,8やこれと共に密封機能を達成する内輪1や外輪2のシール部1b,2bと干渉すると、密封性が低下するおそれがある。そこで、ナイフ等を用いて、潤滑性組成物6のバリ6cを削りとっておくことが好ましい。
【0022】
なお、本実施形態では、シール部材7,8を用いたが、内輪1と外輪2の間に介在して、領域3を密封することのできる一対の環状のシール治具(シール部材と同様の形状のものであっても良いし、他の形状のものであっても良い)を用いて、領域3内に流動状の潤滑性組成物を充填し、加熱、冷却して固形化することができる。
【0023】
本実施形態において、転がり軸受の内部の領域3に充填される潤滑性組成物6としては、樹脂と潤滑成分との混合物からなり、流動状で供給され、充填後、樹脂の融点以上に加熱し、ついで冷却すると固形化する、従来公知の種々の潤滑性組成物が、いずれも使用可能である。
樹脂としては、以下のものに限定されないが、たとえば超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等があげられ、中でも超高分子量ポリエチレンが、機械的性質等にすぐれるため、好適に使用される。かかる超高分子量ポリエチレンとしては、平均分子量が100万〜600万程度、とくに200万以上であって、かつ融点が100〜140℃程度のものが好適に使用される。
【0024】
上記樹脂には、必要に応じて、酸化防止剤や安定剤、着色剤等の、従来公知の種々の添加剤を、従来と同程度の割合で配合しておくこともできる。
樹脂は、粉粒体として供給されることが好ましい。樹脂の粉粒体の粒径はとくに限定されないが、通常は平均粒径で5〜100μm程度が好ましく、10〜30μm程度がより好ましい。
【0025】
樹脂とともに潤滑性組成物6を構成する潤滑成分としては、従来公知の種々の潤滑油が、いずれも使用可能であるが、とくに潤滑性組成物を固形化する際の加熱によって樹脂と反応して、当該樹脂の機械的性質を低下させるおそれのない、安定な潤滑成分が好適に使用される。
上記潤滑成分のうち潤滑油としては、以下のものに限定されないが、たとえば鉱油、ポリ−α−オレフィン油、ジエステル油、ポリオールエステル油、アルキルジフェニルエーテル油、シリコーン油、パラフィン油、ふっ素油等があげられる。
【0026】
また上記潤滑油には、潤滑性、安定性その他の特性を改善するために、各種の添加剤を配合することもできる。
潤滑成分としては、上記潤滑油を、それぞれ単独で使用できる他、2種以上を併用することもできる。
潤滑性組成物6を構成する樹脂と潤滑成分との配合量は、本発明ではとくに限定されないが、潤滑性組成物の総量に占める樹脂の割合が10〜50重量%となるように、両者を配合するのが好ましい。
【0027】
樹脂の割合が10重量%未満では、樹脂の融点以上に加熱し、冷却しても、潤滑性組成物が固形化しないおそれがある。また樹脂の割合が50重量%を超えた場合には、固形化前の流動性が低下して、軸受内部の空間の隅々まで充填するのが困難になるおそれがある。
なお上記樹脂の割合は、潤滑性組成物6の潤滑性を考慮すると、上記範囲内でもとくに20〜40重量%程度が好ましい。
【0028】
転がり軸受の内部の領域3に充填した潤滑性組成物6を固形化するための処理のうち加熱の条件は従来と同じでよい。つまり樹脂の融点以上の温度で、樹脂同士が十分に融着する時間、加熱すればよい。たとえば融点が136℃の超高分子量ポリエチレンを20〜40重量%の割合で含有する潤滑性組成物の場合は、当該潤滑性組成物を軸受内空間に充填した転がり軸受を、160〜170℃程度の温度で5分〜数10分間程度、好ましくは5分〜15分間程度加熱することにより、固形化することができる。
【0029】
上記潤滑性組成物の充填に先立って転がり軸受に供給され、上記膜を形成するための潤滑成分としては、潤滑性組成物で使用したのと同じか、または別の潤滑油や、あるいはグリースがあげられる。かかる潤滑成分の特性についてはとくに限定されないが、当該潤滑成分の動粘度は、転がり軸受の上述した各部位に形成される膜の厚み等を左右し、その結果として転がり軸受を構成する各部と、軸受内空間に充填後、固形化された潤滑性組成物との間の摩擦を小さくする作用に影響を及ぼす重要な要因である。本発明においては、動粘度が50〜200mm2 /s(100mm2 以上を除く)の範囲内にあるのが好ましい。
【0030】
潤滑成分の動粘度が上記範囲未満では、転がり軸受の上述した各部位に、十分な厚みをもった潤滑成分の膜を形成することができず、固形化された潤滑組成物との間の摩擦を小さくする作用が不十分となって、転がり軸受の回転トルクが大きくなるおそれがある。
【0031】
潤滑成分の動粘度を上記範囲内に調整するには、たとえば潤滑油とグリースとを混合する際に、両者の配合割合を調整すればよい。また、転がり軸受の前述した各部位に潤滑成分の膜を形成すべく、転がり軸受に潤滑成分を供給する方法は種々考えられるが、上記のように、転がり軸受を潤滑成分中に浸漬するのが最も簡単な方法である。また、注射器等を用いて、潤滑成分を転がり軸受の内部の領域に注入してもよい。
【0032】
本実施形態の転がり軸受では、転がり軸受を構成する各部材1,2,5と、固形の潤滑性組成物6との間の摩擦が小さい。特に、保持器5のポケット5aとボール4との間の隙間に、潤滑成分の膜を形成することにより、この隙間に固形の潤滑性組成物が介在することを回避しているので、ボール4の摩擦抵抗を小さくできる。このため、固形の潤滑性組成物6を、外部からの水や塵埃等に対する防壁としての機能を十分に発揮すべく転がり軸受の内部の領域にフルに充填しても、回転トルクを小さくできる。本実施形態では、よりシール性を高めるうえで、シール部材を採用している。
【0033】
また、本実施形態の製造方法によれば、転がり軸受の内部の領域3に、流動状の潤滑性組成物6を充填する工程に先立って、転がり軸受に潤滑成分を供給して潤滑成分の膜を形成するだけで、前記のように特性のすぐれた本実施形態の転がり軸受を製造できるという利点がある。
本実施形態のような固形の潤滑性組成物を有する転がり軸受は、撚り線機のガイドローラを回転支持するための転がり軸受への適用に適している。というのは、このような転がり軸受は、軸受自体が公転されるので、流動性を有する潤滑剤では、遠心力によって飛散してしまうからである。また、撚り線機では、適宜に施される酸洗い処理のための酸洗い水が、転がり軸受の内部に侵入するおそれがあり、この場合にも、流動性を有する潤滑剤では、流出してしまうからである。なお、酸洗い水等の軸受内部への流入を防止する観点からは、撚り線機のガイドローラ用の転がり軸受としては、シール部材を装着したものが好ましい。しかしながら、この場合のシール部材も、流動性を有する潤滑剤を密封する場合のシール部材と比較して簡単な構造で良いことになる。無論、複雑な構造のシール構造を採用しても構わない。
【0034】
また、本発明は、針状ころ軸受や自動調心ころ軸受その他のころ軸受に適用して実施することができる。
【0035】
【実施例】
実施例1
波型保持器を有する軸受鋼製のラジアル玉軸受(JIS呼び番号6306ZZ)を、潤滑成分であるポリ−α−オレフィン(動粘度148mm2 /s)中に浸漬した後、引き上げて、当該玉軸受の各部の表面に油膜を形成した。
【0036】
つぎに、超高分子量ポリエチレン粉末30重量部と、ポリ−α−オレフィン(動粘度148mm2 /s)70重量部とからなる流動状の潤滑性組成物を、上記玉軸受の内輪と外輪との間に区画される環状の領域一杯に充填した。次いで、170°Cで15分間、加熱した後、冷却して潤滑性組成物を固形化して、実施例1の転がり軸受を製造した。
比較例1
玉軸受を潤滑成分中に浸漬して、当該玉軸受の各部の表面に油膜を形成する作業を省略したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の転がり軸受を製造した。
【0037】
上記実施例1、比較例1の転がり軸受の回転トルクを、下記の方法にて測定したところ、図5に示すように、実施例1の転がり軸受の初期の回転トルクは5.72×10−2N・m、比較例1の転がり軸受の初期の回転トルクは10.84×10−2N・mであった。
このことから、油膜を形成することで、回転トルクを約1/2に軽減できることがわかった。また図にみるように、実施例1の転がり軸受の回転トルクは、30分間、連続回転させてもほぼ一定であったが、比較例1の転がり軸受の回転トルクは、一旦低下した後、除々に上昇して、30分後には実施例1の転がり軸受の回転トルクの、約3倍まで達した。
回転トルクの測定方法
室温(20℃)条件下、転がり軸受の内輪を3500r.p.m.の速度で回転させた際に、外輪が、上記内輪の回転によって受ける力を、ロードセルにて測定した。
【0038】
【発明の効果】
以上、詳述したように、請求項1記載の転がり軸受は、保持器と転動体との間は、動粘度が50〜200mm2 /s(100mm2 /s以上を除く)の潤滑成分の膜で占められていて、固形の潤滑組成物が介在しないので、転動体が受ける摩擦抵抗を格段に少なくできる。したがって、上記潤滑性組成物を、外部からの水や塵埃等に対する防壁としての機能を十分に発揮すべく軸受内の領域いっぱいに充填しても、回転トルクが大きくなることはない。よってこの発明の転がり軸受は、必ずしも複雑な構造のシールを設ける必要がなく、しかも回転トルクが小さい。
【0039】
請求項2記載の転がり軸受では、当該転がり軸受を構成する各部材が、固形の潤滑性組成物と接する表面に、潤滑成分の膜を形成しているので、各部材と固形の潤滑性組成物との摩擦を小さくできる。その結果、軸受の回転トルクをより小さくすることができる。
また、請求項3記載の転がり軸受では、領域内に保持される潤滑成分を多くすることができる結果、軸受寿命を長くすることができる。この場合、特に、撚り線機のガイドローラ用の転がり軸受への適用に適している。
【0040】
また、請求項4記載の発明では、固形化の際に潤滑性組成物に生じたバリ等が除去されているので、シール性能が低下しない。
また、請求項5記載の転がり軸受の製造方法によれば、固形の潤滑性組成物を形成するための工程に先立って、転がり軸受に潤滑成分を供給して油膜を形成するたけで、上記のように特性にすぐれた転がり軸受を、効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図2】シール部材を取り外した状態の転がり軸受の正面図である。
【図3】(a),(b)及び(c)はは転がり軸受の製造方法を工程順に示す概略図である。
【図4】固形化された潤滑性組成物のバリを取る様子を示す転がり軸受の概略断面図である。
【図5】本発明の実施例、比較例の転がり軸受における、回転トルクの測定結果を示すグラフである。
【符合の説明】
1 内輪
2 外輪
1b,2b シール部
3 領域
4 ボール(転動体)
5 保持器
5a ポケット
6 潤滑性組成物
7,8 シール部材
9 潤滑成分の膜
Claims (5)
- 互いの間に環状の領域を区画する一対の軌道輪と、
上記領域に配置され、各軌道輪に対して転動する複数の転動体と、
上記領域に配置され、各転動体を保持するためのポケットを有する保持器と、 樹脂と潤滑成分との混合物からなり、上記領域に充填された固形の潤滑性組成物とを備え、
上記ポケットと転動体との間には、固形の潤滑性組成物の介在を回避した状態で、潤滑成分の膜が形成されており、
上記潤滑成分の膜の動粘度を50〜200mm2 /s(100mm2 /s以上を除く)の範囲に設定してあり、
各軌道輪は、上記潤滑性組成物の両側にそれぞれ配置されて上記領域を密封する一対のシール部材のそれぞれと関連するシール部をそれぞれ含み、
上記潤滑性組成物は、上記シール部との干渉を回避するべく削られていることを特徴とする転がり軸受。 - 請求項1記載の転がり軸受において、上記各軌道輪、転動体及び保持器は、それぞれ潤滑性組成物と接する表面に、潤滑成分の膜を形成していることを特徴とする転がり軸受。
- 請求項1又は2記載の転がり軸受において、上記固形化された潤滑性組成物は連続していることを特徴とする転がり軸受。
- 互いの間に環状の領域を区画する一対の軌道輪と、
上記領域に配置され、各軌道輪に対して転動する複数の転動体と、
上記領域に配置され、各転動体を保持するためのポケットを有する保持器と、 樹脂と潤滑成分との混合物からなり、上記領域に充填された固形の潤滑性組成物と、
上記ポケットと転動体との間に、固形の潤滑性組成物の介在を回避した状態で形成された潤滑成分の膜と、
上記潤滑性組成物の両側にそれぞれ配置されて何れか一方の軌道輪に固定され、上記領域を密封する一対のシール部材とを備え、
各軌道輪は、各シール部材のそれぞれと関連するシール部をそれぞれ備え、
上記固形化された潤滑性組成物は、上記シール部との干渉を回避するべく削られていることを特徴とする転がり軸受。 - 請求項1ないし3の何れか一つに記載の転がり軸受を製造する方法において、上記保持器と転動体との間に、潤滑成分の膜を形成し、次いで上記領域内に、樹脂と潤滑成分との混合物を充填し、次いで上記混合物を樹脂の融点以上に加熱した後、冷却して、上記固形化された潤滑性組成物を得ることを特徴とする転がり軸受の製造方法。
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