JP3586258B2 - 積層セラミック電子部品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、積層セラミックコンデンサなどの積層セラミック電子部品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサは、たとえば、セラミックグリーンシートと、所定パターンの内部電極層とを交互に重ね、その後一体化して得られるグリーンチップを、同時焼成して製造される。
【0003】
このような積層セラミックコンデンサの内部電極層は、焼成によりセラミック誘電体と一体化されるために、セラミック誘電体と反応しないような材料を選択する必要があった。
【0004】
従来、内部電極層を構成する材料としては、白金やパラジウムなどの貴金属が用いられてきた。しかし、貴金属は高価であるために製造されるコンデンサのコスト高の原因となっていた。
【0005】
これに対し、近年、ニッケルなどの安価な卑金属を内部電極の構成材料として使用することが可能となり、大幅なコストダウンが実現した。
【0006】
従来、内部電極の材料として卑金属を用いることができる誘電体磁器組成物として種々の提案がなされている。たとえば、特開平10−335169号公報では、組成式(Sr1−x Cax )m (Ti1−y Zry )O3 で示される誘電体酸化物(ただし、0≦x≦1.00、0.9≦y≦1.00、0.75≦m≦1.04)を主成分とする誘電体磁器組成物が開示してある。
【0007】
一方、近年の電子機器の小型化に伴い、積層セラミックコンデンサの小型化および大容量化が求められてきている。積層セラミックコンデンサの小型化および大容量化を実現するには、1層あたりの誘電体層の厚みをできるだけ薄くし(薄層化)、所定サイズにおける誘電体層の積層数をできるだけ増やす(多層化)ことが必要である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、誘電体層の薄層化および多層化が進むに連れ、得られるコンデンサにクラック(特に内部クラック)が発生しやくなった。コンデンサ内部にクラックを生じると、コンデンサとしての使用に耐えなくなる。
【0009】
本発明の目的は、誘電体層の薄層化や多層化が進んでも、クラックなどの構造欠陥の発生が抑制された特定組成の誘電体層を持つ積層セラミックコンデンサなどの積層セラミック電子部品の製造方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係る積層セラミック電子部品の製造方法は、焼成後に、組成式{(Sr1−x Cax )O}m ・(Ti1−y Zry )O2 で示され、前記組成式中の各モル比を示す記号m、記号xおよび記号yが、0.75≦m<1.08、0≦x≦1.00、0.5≦y≦1.00の関係となるような原料を含む誘電体層と、卑金属を含む内部電極層とが交互に複数配置された焼成前素子本体を焼成する焼成工程を有する積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記焼成工程が、焼成温度まで昇温させる昇温工程を有し、
前記昇温工程の途中から水素を導入することを特徴とする。
【0011】
前記昇温工程は、焼成温度まで昇温させればよく、その過程は特に限定されない。たとえば、焼成温度まで所定の昇温速度で昇温させてもよいし、あるいは、一旦、所定温度(たとえば焼成温度より低い温度)まで昇温させ、この所定温度から(たとえば室温にまで)降温させた後に、前記水素を導入し、焼成温度まで昇温し、焼成を行ってもよい。
なお、通常、前記焼成工程の前に、焼成前素子本体の脱脂を行う脱バインダ工程を、さらに有する。
【0012】
所定温度(たとえば焼成温度より低い温度)まで昇温させ、この所定温度から(たとえば室温にまで)降温させた後に、前記水素を導入し、焼成温度まで昇温し、焼成を行う場合は、前記所定温度は、800℃超であることが好ましい。
【0013】
好ましくは、前記水素を導入する前の雰囲気が、加湿した窒素ガス雰囲気下である。したがって、水素の導入を開始した後の雰囲気は、加湿した窒素と水素との混合ガス雰囲気である。
【0014】
好ましくは、前記水素を導入する温度が800℃超であり、より好ましくは1050℃以上である。
【0015】
好ましくは、前記水素を導入する温度が、前記焼成温度以下である。
好ましくは、水素を導入する温度において、水素導入前後の酸素分圧の差が6桁以上となるように水素を導入する。
【0016】
前記焼成工程が、焼成温度で保持する温度保持工程と、前記焼成温度から降温させる降温工程とをさらに有し、前記降温工程の途中から水素の導入を停止してもよい。
【0017】
前記降温工程の途中から水素の導入を停止する場合において、前記水素の導入を停止する温度が1200℃以下であることが好ましい。
【0018】
好ましくは、前記焼成前素子本体が、50層以上の誘電体層を持つ。
【0019】
好ましくは、前記卑金属が、ニッケルまたはニッケル合金である。
【0020】
好ましくは、前記積層セラミック電子部品が積層セラミックコンデンサである。
【0021】
【作用】
従来、積層セラミックコンデンサなどの積層セラミック電子部品を製造するに際し、特定組成の誘電体層と内部電極層とを有するグリーンチップなどの焼成前素子本体を焼成する工程では、昇温工程の初期段階(室温付近)から、加湿した窒素と水素との混合ガス雰囲気下で酸素分圧を精密に制御していた。すなわち、昇温工程の初期段階から水素を導入することで、酸素分圧を低くして還元状態を強めておき、これによって内部電極に含まれる卑金属(たとえばNiなど)の酸化を防止していた。このような従来の焼成方法では、誘電体と内部電極という異材質を同時に焼成することから、焼成過程における収縮挙動の違いや収縮率の差が原因の応力が積層セラミック電子部品の内部に発生していた。この応力が原因で積層セラミック電子部品にクラックが生じる場合があった。
【0022】
これに対し、本発明では、特定組成の誘電体層を持つ焼成前素子本体を焼成するに際し、焼成温度まで昇温させる昇温工程の途中から水素を導入することを特徴とする。
【0023】
昇温工程の途中から水素を導入することにより、昇温途中での内部電極および内部電極に挟まれた有効誘電体層の焼結がそれぞれ促進される。このような焼成過程を経たセラミック誘電体は、焼成温度を所定時間保持する温度保持工程において可塑性が増加し、その結果、昇温から温度保持工程までの間で発生したチップ内部の応力が解放されやすくなる。これにより、クラックなどの構造欠陥の発生が抑制された特定組成の誘電体層を持つ積層セラミック電子部品を製造することができる。
【0024】
なお、特開平5−283278号公報では、焼成前素子本体を焼成するに際し、加湿した窒素と水素との混合ガス雰囲気下で焼成温度まで昇温させる昇温工程の途中からウェッターの水温を変えることで、前記加湿した窒素と水素との混合ガス雰囲気下での酸素分圧を下げることが開示してある。ウェッターとは、加湿した窒素と水素との混合ガス雰囲気を作るときに用いる加湿用の水を意味している。
【0025】
しかしながら、この公報記載の技術では、内部電極に含まれる卑金属の酸化を防止するために昇温工程の当初から水素を導入しているので、ウェッター温度を変更しても、酸素分圧の変化は非常に小さく、3桁以内である。
【0026】
積層セラミック電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0028】
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図、
図2は水素の導入開始温度とクラック発生率との関係を示すグラフである。
【0029】
まず、積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサを説明した後、これの製造方法を説明する。
【0030】
図1に示すように、積層セラミック電子部品としての積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に複数配置してあるコンデンサ素子本体10を有する。コンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に複数配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。
【0031】
内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0032】
誘電体層2は、誘電体磁器組成物を含有する。誘電体磁器組成物は、組成式{(Sr1−x Cax )O}m ・(Ti1−y Zry )O2 で示される誘電体酸化物を含む主成分を有する。この際、酸素(O)量は、上記式の化学量論組成から若干偏倚してもよい。
【0033】
上記組成式中、記号xは、0≦x≦1.00である。xはCa原子数を表し、x、すなわちCa/Sr比を変えることで、容量温度係数や比誘電率を任意に制御することができる。ただし、本発明においては、SrとCaとの比率は任意であり、一方だけを含有するものであってもよい。
【0034】
上記組成式中、記号yは、0.5≦y≦1.00、好ましくは0.93≦y≦1.00である。yを0.5以上とすることで、静電容量や誘電損失の周波数依存性が小さくなる。yはZr原子数を表すが、TiO2 に比べ還元されにくいZrO2 を置換していくことにより耐還元性がさらに増加する傾向がある。
【0035】
上記組成式中、モル比mは、0.75≦m<1.08、好ましくは0.75≦m≦1.04、より好ましくは0.970≦m≦1.030である。mを0.75以上とすることで、静電容量や誘電損失の周波数依存性を小さくできる。mを1.08未満にすることにより焼成温度を高くしなくても緻密な焼結体を得ることができる。
【0036】
誘電体磁器組成物には、V、Nb、W、TaおよびMoの酸化物および/または焼成後にこれらの酸化物になる化合物から選ばれる少なくとも1つを含む第1副成分が所定量添加してあってもよい。こうした第1副成分を所定量添加することにより、誘電特性を劣化させることなく低温焼成が可能となり、誘電体層を薄層化した場合でも絶縁抵抗の加速寿命(高温負荷寿命)を向上しうる。第1副成分を添加する場合において、前記主成分100モルに対する第1副成分の比率は、酸化物中の金属元素換算で、0.01モル≦第1副成分<2モル、好ましくは0.02モル≦第1副成分≦1.5モルである。
【0037】
誘電体磁器組成物には、Mnの酸化物(たとえばMnO)および/または焼成によりMnの酸化物になる化合物(たとえばMnCO3 )を含む第2副成分が所定量添加してあってもよい。この第2副成分は、焼結を促進する効果と耐還元性を付与する効果を有する。第2副成分を添加する場合において、前記主成分100モルに対する第2副成分の比率は、酸化物中の金属元素換算で、0モル≦第2副成分<10モル、好ましくは0.05モル≦第2副成分≦5モルである。
【0038】
誘電体磁器組成物には、SiO2 、MO(ただし、Mは、Ba、Ca、SrおよびMgから選ばれる少なくとも1つの元素)、Li2 OおよびB2 O3 から選ばれる少なくとも1つを含む第3副成分が所定量添加してあってもよい。この第3副成分は、主として焼結助剤として作用する。第3副成分を添加する場合において、前記主成分100モルに対する前記第3副成分の比率は、酸化物換算で、0モル<第3副成分<15モル、好ましくは0.2モル≦第3副成分≦6モルである。
【0039】
誘電体磁器組成物には、Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第4副成分が所定量添加してあってもよい。この第4副成分は、静電容量や誘電損失の周波数依存性を小さくする効果を有する。第4副成分を添加する場合において、前記主成分100モルに対する前記第4副成分の比率は、酸化物中のR換算で、0.02モル≦第4副成分<2モル、好ましくは0.02モル≦第4副成分≦0.6モルである。
【0040】
なお、誘電体層2の積層数や厚み等の諸条件は、目的や用途に応じ適宜決定すればよいが、本実施形態では、各誘電体層2の厚みは、好ましくは30μm以下、より好ましくは0.2〜10μm程度である。各誘電体層2の積層数は、好ましくは50層以上、より好ましくは100層以上、さらに好ましくは300層以上である。また、誘電体層2は、グレインと粒界相とで構成され、誘電体層2のグレインの平均粒子径は、1〜5μm程度あることが好ましい。この粒界相は、通常、誘電体材料あるいは内部電極材料を構成する材質の酸化物や、別途添加された材質の酸化物、さらには工程中に不純物として混入する材質の酸化物を成分とし、通常ガラスないしガラス質で構成されている。
【0041】
内部電極層3に含有される導電材は、特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、卑金属を用いることができる。卑金属としては、ニッケルまたはニッケル合金が好ましい。合金中のニッケル含有量は90重量%以上であることが好ましい。なお、ニッケルまたはニッケル合金中には、リン、鉄、マグネシウムなどの各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層3の厚さは、用途などに応じて適宜決定すればよいが、通常0.5〜5μm、好ましくは0.5〜2μm程度である。
【0042】
外部電極4の材質も特に限定されないが、通常、銅や銅合金、ニッケルやニッケル合金などが用いられるが、銀や銀とパラジウムの合金なども使用することができる。外部電極4の厚みも特に限定されないが、通常10〜50μm程度である。
【0043】
積層セラミックコンデンサ1の形状やサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよく、コンデンサ1が直方体形状の場合は、サイズは、通常、縦0.6〜5.7mm×横0.3〜5.0mm×高さ0.1〜3.0mm程度である。特に、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、後述する本発明の焼成方法を用いて製造されるので、クラックの発生が抑制される。具体的には、たとえば、330層の誘電体層を持ち、サイズが縦4.5mm×横3.2mm×高さ2.3mm程度の積層セラミックコンデンサの場合には、クラック発生率を90%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは5%以下に抑制できる。なお、従来の焼成方法を用いて、330層の誘電体層を持つ同サイズの積層セラミックコンデンサを製造した場合、クラック発生率は100%であった。
【0044】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例を説明する。
【0045】
まずは、誘電体層用ペースト、内部電極層用ペースト、外部電極層用ペーストを準備する。
【0046】
誘電体層用ペーストは、誘電体層2(図1参照)を形成するためのものであり、誘電体原料と結合剤とを混練して得られた有機溶剤系塗料、または水溶性溶剤系塗料で構成される。
【0047】
誘電体原料としては、複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。誘電体層用ペースト中の誘電体原料の含有量は、15〜50重量%程度とすればよい。
【0048】
結合剤としては、特に限定されず、セルロース系樹脂、ブチラール系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂などの各種バインダが用いられる。誘電体層用ペースト中の結合剤の含有量は、特に限定されず、1〜15重量%程度とすればよい。
【0049】
誘電体層用ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤などから選択される添加物が含有してあってもよい。
【0050】
内部電極層用ペーストは、内部電極層3(図1参照)を形成するためのものであり、上述した導電材などと、上述した結合剤とを混練して調製される。内部電極層用ペースト中の結合剤の含有量は、特に限定されず、通常の含有量、たとえば1〜15重量%程度とすればよい。内部電極層用ペースト中の導電材の含有量は、40〜60重量%程度とすればよい。内部電極層用ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体などから選択される添加物が含有してあってもよい。
【0051】
外部電極用ペーストも、内部電極層用ペーストと同様にして調製される。
【0052】
印刷法を用いる場合は、誘電体層用ペースト、および所定パターンの内部電極層用ペーストをポリエチレンテレフタレート等の基板上に積層印刷し、所定形状に切断したのち基板から剥離することでグリーンチップとする。これに対して、シート法を用いる場合は、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを所定パターンで印刷した後、積層してグリーンチップとする。なお、形成される誘電体グリーンシートの厚さは、上述した誘電体層2の厚みに応じて適宜決定される。内部電極パターンの厚さは、上述した内部電極層3の厚みに応じて適宜決定される。
【0053】
次に、得られたグリーンチップを、脱バインダおよび焼成する。
【0054】
グリーンチップの脱バインダ処理の雰囲気は、特に限定されないが、たとえば大気中、 加湿した窒素ガス雰囲気中、または加湿した窒素と水素の混合ガスなどの各種雰囲気で行なうことができる。焼成前に脱バインダ処理が不完全であると、本焼成時に残留カーボンによってクラック等の構造欠陥が発生しやすくなる。このため、焼成に先立って脱バインダ処理を十分に行っておく必要がある。なお、脱バインダ処理の目的は、あくまでもグリーンチップからバインダを除去することであって誘電体を焼結することではない。このため、通常は誘電体が焼結を始める温度までは温度を上げず、具体的には、たとえば800℃以下の温度でバインダは十分に除去される。脱バインダは、通常、0.5〜24時間程度、所定の温度にて保持することが行なわれる。そうすることによってバインダが十分に除去されるので好ましい。脱バインダの後、一旦室温等まで冷却して、それから焼成工程に入っても良く、または、脱バインダ後引き続き焼成工程に連続して入っても良い。本発明の特徴とするところは、これらの脱バインダ処理後の、焼成工程に属するものである。
【0055】
そして、脱バインダ後のグリーンチップは、焼成工程に供される。
【0056】
本実施形態では、焼成工程は、昇温工程と、温度保持工程と、降温工程とを有する。
【0057】
昇温工程は、雰囲気温度を焼成温度まで昇温させる工程である。昇温工程は、焼成温度まで昇温させればよく、その過程は特に限定されない。本発明の効果を得るためには、焼成温度まで所定の昇温速度で昇温させてもよいし、あるいは一旦、所定温度(たとえば焼成温度より低い温度)まで昇温させ、この所定温度から(たとえば室温にまで)降温させた後に、焼成温度まで所定の昇温速度で昇温させてもよい。この場合における所定温度は、800℃超であることが好ましく、より好ましくは1050℃超である。
【0058】
昇温工程の初期段階では、加湿した窒素ガス雰囲気下で昇温する。この雰囲気下では、内部電極および電極間の誘電体の焼結が促進され、さらに温度保持工程における誘電体の可塑性が増加すると考えられる。
【0059】
そして、昇温工程の途中から水素を導入して、焼成雰囲気での酸素分圧を急激に低下させて還元状態を一気に強める。これにより内部電極の酸化が防止される。この方法で焼成した場合、昇温から温度保持工程までの間で発生する内部電極と誘電体との収縮挙動の差が原因の応力を誘電体の塑性変形により解放させることができる。このため、クラックの発生が抑制されると考えられる。
【0060】
なお、酸素分圧は、温度、水素濃度、ウェッターの温度によって大きく変わるので、これらを綿密に制御することが重要である。たとえば500℃において、水素が0%の場合と5%導入した場合とでは、酸素分圧はそれぞれ、約3×10−6Pa、約6×10−24 Paであり、10桁以上の違いがある。さらに1100℃においても同様に、水素が0%の場合と5%導入した場合とでは、酸素分圧はそれぞれ、約2×10−1Pa、約2×10−9Paであり、8桁の違いがある。
【0061】
本発明の焼成方法では、ある特定の温度範囲において酸素分圧を6桁以上、急激に変化させることが特徴である。すなわち、水素を導入する温度において、水素導入前後の酸素分圧の差が6桁以上となるように水素を導入することが好ましい。
【0062】
なお、従来の焼成方法のように、昇温工程で水素ガスと窒素ガスの混合ガスを加湿して使用する場合は、ウェッターの温度を変更することによっても酸素分圧を変化させることはできる。しかしながら、この方法では、特に1000℃以上の高温において、酸素分圧を6桁以上変化させることは困難であり、本発明のような効果は得られない。
【0063】
なお、水素導入後の雰囲気は、窒素を主成分とし、水素:0.1〜10容量%、0〜70℃における水蒸気圧によって加湿されていることが好ましい。加湿するには、たとえばウェッターなどを用いることができる。ウェッター温度は、水素の導入開始前後において同一であってもよいし、あるいは異なっていてもよい。
【0064】
このように、本発明では、昇温工程の初期段階を加湿した窒素ガス雰囲気下とし、内部電極および誘電体の焼結を促進し、誘電体の可塑性が増加する。その後、水素を導入して、卑金属内部電極の酸化を防止する。これにより、クラックなどの構造欠陥の発生が抑制された特定組成の誘電体層を持つ積層セラミックコンデンサ1を製造することができる。
【0065】
水素を導入する温度は、好ましくは800℃超、より好ましくは1050℃以上、さらに好ましくは1200℃以上である。水素を導入する温度の下限を800℃超とすることで、コンデンサ1の内部クラックなどの構造欠陥の減少が期待できる。積層数が多いほど内部クラックの発生が増加する傾向があるが、800℃超で水素の導入を開始することで、多層品においても内部クラックの発生が抑制される。すなわち、水素の導入開始温度を800℃超とすることで、誘電体層数が多い場合にその効果をより顕著にすることができる。
【0066】
その反面、温度保持工程に入ってから水素を導入すると、内部電極に多くの途切れが発生したり、内部電極成分が誘電体層へ拡散したりして、特性の劣化に繋がりうる。したがって、水素の導入開始温度の上限は、焼成温度(昇温工程で焼成温度に達した時点であって、温度保持工程に入る前)であることが好ましい。
【0067】
昇温速度は、好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間である。昇温速度が遅すぎると、焼成に時間がかかりすぎ、生産性が低下するおそれがある。昇温速度が早すぎると、デラミネーションなどの欠陥が生じうる。
【0068】
温度保持工程は、前記焼成温度で保持する工程である。温度保持工程では、前記雰囲気を変更せずに、加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成温度を一定時間保持することが好ましい。
【0069】
焼成温度は、通常、誘電体の焼結温度であり、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1200〜1380℃である。焼成温度が低すぎると、焼結体の緻密化が不十分となる。焼成温度が高すぎると、内部電極の異常焼結による電極の途切れ、または内部電極を構成する材質の拡散により、得られる積層セラミックコンデンサ1の電気特性が劣化する。
【0070】
焼成温度の保持時間は、好ましくは0.5〜16時間、より好ましくは1〜12時間である。
【0071】
降温工程は、前記焼成温度から降温させる工程である。降温工程では、前記温度保持工程での雰囲気を変更せずに、加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気下で降温させてもよいが、降温工程の途中から雰囲気を変更してもよい。雰囲気を変更する場合は、前記昇温工程の途中から導入されている水素を、降温工程の途中から停止することにより、加湿した窒素ガス雰囲気下に変更する。すなわち、降温工程の途中までは、加湿した窒素と水素との混合ガス雰囲気下で降温を行い、途中からは水素の導入を停止して、加湿した窒素ガス雰囲気下で降温させてもよい。こうすることで、酸素分圧を増加させて誘電体層のアニール効果を得ることができる。
【0072】
水素の導入を停止する場合、その温度は、好ましくは1200℃以下、より好ましくは1000℃以下である。水素の導入を停止する温度の上限を1200℃とすることで、内部電極の酸化や誘電体層への内部電極成分の拡散を防止することができる。
【0073】
降温速度は、好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間である。降温速度が遅すぎると、生産性が低下するおそれがある。降温速度が早すぎると、ヒートショックなどが原因でクラックが発生しうる。
【0074】
本発明では、焼成工程後にチップ焼結体にアニール(熱処理)を施すことが望ましいが、これを行わなくてもよい。なお、上述した降温工程でアニール効果を得た場合には、その後のアニールは必要ない。アニールは誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりコンデンサ1の絶縁抵抗を増加させることができる。
【0075】
アニール雰囲気の酸素分圧は、好ましくは10−4Pa以上、より好ましくは10−1〜10Paである。酸素分圧が低すぎると誘電体層2の再酸化が困難となり、酸素分圧が高すぎると内部電極層3が酸化されるおそれがある。
【0076】
アニールの際の保持温度は、1200℃以下、より好ましくは500〜1100℃である。保持温度が低すぎると誘電体層の再酸化が不充分となって絶縁抵抗が悪化し、その加速寿命も短くなる傾向がある。また、保持温度が高すぎると内部電極が酸化されて容量が低下するだけでなく、誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性、絶縁抵抗およびその加速寿命が悪化する傾向がある。なお、アニールは昇温行程および降温行程のみから構成することもできる。この場合には、温度保持時間はゼロであり、保持温度は最高温度と同義である。
【0077】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を0〜20時間、より好ましくは1〜10時間、冷却速度を50〜500℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間とし、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、窒素ガスを加湿して用いることが望ましい。
【0078】
なお、上述した焼成と同様に、前記脱バインダおよびアニールにおいて、窒素ガスや混合ガスを加湿するためには、たとえばウェッター等を用いることができ、この場合の水温は5〜75℃とすることが望ましい。
【0079】
また、これら脱バインダ処理、焼成およびアニールは連続して行ってもよいし、あるいは互いに独立して行っても良い。
【0080】
得られたチップ焼結体に、たとえば、バレル研磨やサンドブラストにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極4を形成する。外部電極用ペーストの焼成条件は、たとえば、加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス中で600〜800℃にて10分〜1時間程度とすることが好ましい。そして、必要に応じて一対の外部電極4の表面にメッキ等により被覆層(パッド層)を形成する。
【0081】
このようにして製造される積層セラミックコンデンサ1は、はんだ付け等によってプリント基板上に実装され、各種電子機器に用いられる。
【0082】
本実施形態によれば、多層時に顕著である積層方向への膨張が効果的に抑制され、内部クラックなどの構造欠陥の少ない特定組成の誘電体層を持つ積層セラミックコンデンサ1を製造することができる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0084】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る積層セラミック電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る積層セラミック電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、誘電体層と内部電極とが交互に積層してある素体を有するものであれば何でも良い。
【0085】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。
【0086】
実施例1
誘電体層用ペーストを次に示すようにして作製した。
【0087】
まず、原料として、CaZrO3 、SrZrO3 、CaTiO3 、MnCO3 、Al2 O3 、BaCO3 、CaCO3 、およびSiO2 の各粉末を用意した。これらの粉末を、焼成により、組成式{(Ca0.7 Sr0.3 )O}(Ti0.03Zr0.97)O2 として100モル%、MnOに換算して1モル%、Al2 O3 に換算して0.2モル%、{(Ba0.6 Ca0.4 )O}SiO2 として2.8モル%の組成となるように混合し、ボールミルにより16時間湿式混合し、次いで、スプレードライヤーで乾燥させて誘電体原料とした。次いで、得られた誘電体原料100重量部と、アクリル樹脂5.4重量部、塩化メチレン45重量部、酢酸エチル16重量部、ミネラルスピリット6重量部およびアセトン4重量部とをボールミルで混合してペースト化した。
【0088】
内部電極層用ペーストを次に示すようにして作製した。
【0089】
平均粒径0.8μmのNi粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース樹脂8重量部をブチルカルビトール92重量部に溶解したもの)35重量部およびブチルカルビトール7重量部とを3本ロールにより混練し、ペースト化した。
【0090】
外部電極用ペーストを次に示すようにして作製した。
【0091】
平均粒径0.5μmのCu粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース樹脂8重量部をブチルカルビトール92重量部に溶解したもの)35重量部およびブチルカルビトール7重量部とを混練し、ペースト化した。
【0092】
次いで、上記誘電体層用ペーストを用いてPETフィルム上に、厚さ6.5μmのグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを所定パターンで印刷したのち、PETフィルムからグリーンシートを剥離した。
【0093】
次いで、得られたグリーンシートと保護用グリーンシート(内部電極層用ペーストを印刷しないもの)とを複数枚積層し、加圧接着してグリーン積層体を得た。内部電極を有するシートの積層数は330層とした。
【0094】
次いで、このグリーン積層体を所定の大きさに切断してグリーンチップとし、これに、脱バインダ工程および焼成工程を行って、チップ焼結体を得た。
【0095】
脱バインダ処理は、次の条件で行った。
【0096】
昇温時間:15℃/時間、
保持温度:260℃、
保持時間:8時間、
雰囲気:空気中。
【0097】
焼成は、次の条件で行った。
【0098】
まず、昇温速度:300℃/時間にて、加湿した窒素ガス雰囲気(酸素分圧=10−2〜1Pa程度)下で、室温(25℃)から焼成温度:1050℃まで昇温した。雰囲気ガスの加湿には水温を20℃としたウェッターを用いた。そして、1050℃の時点で水素の導入を開始し、加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガスの雰囲気(H:5容量%、酸素分圧=10−6Pa程度)に変更した。この雰囲気下で焼成温度:1325℃まで昇温させた。
【0099】
次いで、雰囲気を変更しないで、焼成温度:1325℃を2時間維持して焼成を行った。
【0100】
次いで、雰囲気を変更しないで、降温速度:300℃/時間にて、室温(25℃)まで降温させた。
【0101】
次に、得られたチップ焼結体の端面を、バレル研磨したのち、上記外部電極用ペーストをチップ端面に転写し、加湿した窒素ガス雰囲気下で、800℃にて30分間焼成して外部電極を形成し、図1に示す構成の積層セラミックコンデンサ試料を得た。
【0102】
得られたコンデンサ試料は、サイズが4.5mm×3.2mm×2.3mmであり、2つの内部電極層の間に挟まれる誘電体層の数は330、その厚さは4μmであり、内部電極層の厚さは1.7μmであった。
【0103】
得られたコンデンサ試料のクラックの発生率を評価した。
クラックの発生率(%)は、以下のようにして算出した。まず、200個のコンデンサ試料の外観を、光学顕微鏡(Nikon社製、UFX−II)により、それぞれ観察してクラックの有無を確認し、クラックの発生していないコンデンサ試料を30個、選び出した。次に、これら30個のコンデンサ試料に対し、樹脂埋めし、4.5mm方向に2mm研磨した後、光学顕微鏡により内部クラックの有無を調べ、内部クラックの発生したコンデンサ試料の個数を、全体個数(30個)で割って、パーセンテージで示した。その結果、クラックの発生は86.7%であった。
【0104】
実施例2
焼成工程において、1100℃まで昇温した時点で水素の導入を開始して加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気下にし、この雰囲気下で焼成温度:1325℃まで昇温させた以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズ、誘電体層数、その厚さおよび内部電極層の厚さは、実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様にして評価した。その結果、得られたコンデンサ試料のクラックの発生率は、56.7%であった。
【0105】
実施例3
焼成工程において、1150℃まで昇温した時点で水素の導入を開始して加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気下にし、この雰囲気下で焼成温度:1325℃まで昇温させた以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を得た。そして、実施例1と同様にして評価した。得られたコンデンサ試料のサイズ、誘電体層数、その厚さおよび内部電極層の厚さは、実施例1と同様であった。その結果、得られたコンデンサ試料のクラックの発生率は、3.3%であった。
【0106】
実施例4
焼成工程において、1200℃まで昇温した時点で水素の導入を開始して加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気下にし、この雰囲気下で焼成温度:1325℃まで昇温させた以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズ、誘電体層数、その厚さおよび内部電極層の厚さは、実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様にして評価した。その結果、得られたコンデンサ試料のクラックの発生率は、0%であった。
【0107】
実施例5
焼成工程において、1250℃まで昇温した時点で水素の導入を開始して加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気下にし、この雰囲気下で焼成温度:1325℃まで昇温させた以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズ、誘電体層数、その厚さおよび内部電極層の厚さは、実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様にして評価した。その結果、得られたコンデンサ試料のクラックの発生率は、0%であった。
【0108】
実施例6
焼成工程において、1280℃まで昇温した時点で水素の導入を開始して加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気下にし、この雰囲気下で焼成温度:1325℃まで昇温させた以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズ、誘電体層数、その厚さおよび内部電極層の厚さは、実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様にして評価した。その結果、得られたコンデンサ試料のクラックの発生率は、3.3%であった。
【0109】
実施例7
焼成工程において、1325℃まで昇温した時点で水素の導入を開始して加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気下にし、この雰囲気下で焼成温度:1325℃とした以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズ、誘電体層数、その厚さおよび内部電極層の厚さは、実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様にして評価した。その結果、得られたコンデンサ試料のクラックの発生率は、0%であった。
【0110】
比較例1
焼成工程において、800℃まで昇温した時点で水素の導入を開始して加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気下にし、この雰囲気下で焼成温度:1325℃まで昇温させた以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズ、誘電体層数、その厚さおよび内部電極層の厚さは、実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様にして評価した。その結果、得られたコンデンサ試料のクラックの発生率は、100%であった。これにより、実施例1〜7の優位性が確認できた。
【0111】
比較例2
焼成工程において、昇温開始時の室温(25℃)から水素の導入を開始して加湿した窒素と水素との混合ガス雰囲気下とし、この雰囲気下で焼成温度:1325℃まで昇温させた以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズ、誘電体層数、その厚さおよび内部電極層の厚さは、実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様にして評価した。その結果、得られたコンデンサ試料のクラックの発生率は、100%であった。これにより、実施例1〜7の優位性が確認できた。
【0112】
これらの結果を、表1および図2に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
表1および図2より、脱バインダ温度を260℃、グリーンシートの厚みを6.2μmとした場合において、水素の導入開始温度を800℃超とすることで、クラックの発生が抑制され初め、1050℃超にすることで、クラックの発生が顕著に防止された。
【0115】
実施例8
まず、昇温速度:300℃/時間にて、加湿した窒素ガス雰囲気(酸素分圧=10−1Pa程度)下で、室温(25℃)から1200℃まで昇温し、この温度を3分保持した後、室温(25℃)まで降温させた。その後、水素の導入を開始し、加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガスの雰囲気(H2 :5容量%)に変更した。この雰囲気下で昇温速度:300℃/時間にて、焼成温度:1325℃まで昇温させた。そして、雰囲気を変更しないで、焼成温度:1325℃を2時間維持して焼成を行った後、降温速度:300℃/時間にて、室温(25℃)まで降温させた。これら以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズ、誘電体層数、その厚さおよび内部電極層の厚さは、実施例1と同様であった。そして、実施例1と同様にして評価した。その結果、得られたコンデンサ試料のクラックの発生率は、0%であった。
【0116】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、誘電体層の薄層化や多層化が進んでも、クラックなどの構造欠陥を生じにくい特定組成の誘電体層を持つ積層セラミックコンデンサなどの積層セラミック電子部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は水素の導入開始温度とクラック発生率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極
Claims (11)
- 焼成後に、組成式{(Sr1−x Cax )O}m ・(Ti1−y Zry )O2 で示され、前記組成式中の各モル比を示す記号m、記号xおよび記号yが、0.75≦m<1.08、0≦x≦1.00、0.5≦y≦1.00の関係となるような原料を含む誘電体層と、卑金属を含む内部電極層とが交互に複数配置された焼成前素子本体を焼成する焼成工程を有する積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記焼成工程が、焼成温度まで昇温させる昇温工程を有し、
前記昇温工程の温度が1050℃以上になった時点から水素を導入することを特徴とする積層セラミック電子部品の製造方法。 - 誘電体層と、卑金属を含む内部電極層とが交互に複数配置された焼成前素子本体を焼成する焼成工程を有する積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記焼成工程が、焼成温度まで所定の昇温速度で昇温させる昇温工程を有し、
前記昇温工程の温度が1050℃以上になった時点から水素を導入することを特徴とする積層セラミック電子部品の製造方法。 - 前記焼成工程の前に、焼成前素子本体の脱脂を行う脱バインダ工程を、さらに有する請求項1または2に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
- 焼成後に、組成式{(Sr1−x Cax )O}m ・(Ti1−y Zry )O2 で示され、前記組成式中の各モル比を示す記号m、記号xおよび記号yが、0.75≦m<1.08、0≦x≦1.00、0.5≦y≦1.00の関係となるような原料を含む誘電体層と、卑金属を含む内部電極層とが交互に複数配置された焼成前素子本体の脱脂を行う脱バインダ工程と、
脱脂後の焼成前素子本体を焼成する焼成工程とを、有する積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記焼成工程が、所定温度まで昇温させ、この所定温度から降温させた後に、焼成温度まで昇温させる昇温工程を有し、
前記降温後から水素を導入することを特徴とする積層セラミック電子部品の製造方法。 - 前記所定温度が1050℃以上である請求項4に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
- 前記水素を導入する前の雰囲気が、加湿した窒素ガス雰囲気下である請求項1〜5のいずれかに記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
- 前記水素を導入する温度が、前記焼成温度以下である請求項1〜6のいずれかに記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
- 前記水素を導入する温度において、水素導入前後の酸素分圧の差が6桁以上となるように水素を導入する請求項1〜7のいずれかに記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
- 前記焼成前素子本体が、50層以上の誘電体層を持つ請求項1〜8のいずれかに記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
- 前記卑金属が、ニッケルまたはニッケル合金である請求項1〜9のいずれかに記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
- 前記積層セラミック電子部品が積層セラミックコンデンサである請求項1〜10のいずれかに記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
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