JP3584827B2 - 塗工紙用樹脂及びそれを含む組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、塗工紙用樹脂、それが紙用塗工組成物に配合するのに適した形で調製された塗工紙用樹脂組成物並びに、それを顔料及び水性バインダーに混合した紙用塗工組成物に関するものである。さらに詳しくは、ホルムアルデヒドの発生がなく、紙に対して優れた印刷適性及び印刷効果を付与することができる塗工紙用樹脂、それを含む塗工紙用樹脂組成物及び紙用塗工組成物を提供しようとするものである。なお、本明細書で用いる「紙」という語は広義の意味であって、狭義の意味でいう紙のほか、いわゆる板紙をも包含する。
【0002】
【従来の技術】
顔料と水性バインダーを主体とした塗工組成物を紙に塗布し、乾燥、カレンダー処理などの必要な処理を施して得られる塗工紙は、その優れた印刷効果などの特長から、商業印刷物、雑誌、書籍などに広く用いられているが、品質要求の高度化、印刷の高速化などに伴って、塗工紙の品質改良努力が今もなお続けられている。とりわけ印刷の多くを占めるオフセット印刷においては、湿し水の影響下でのインキ受理性、ウェットピックなどの耐水性、及び輪転印刷での耐ブリスター性の改良・向上が、業界の重要な課題となっている。
【0003】
従来からこうした課題に対し、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、特公昭 44−11667 号公報や特開昭 55−31837 号公報(= USP 4,246,153 )に示されるようなポリアミドポリ尿素−ホルムアルデヒド樹脂、特開昭 63−120197号公報に示されるようなブロックグリオキザール樹脂などを、耐水化剤やバインダー用添加剤として添加する手法が知られている。しかし、これら従来の耐水化剤やバインダー用添加剤は、いずれも有効な長所を有する反面、一部の特性において重大な欠点又は効果の不十分さが認められることから、実用上必ずしも満足しうるものではない。
【0004】
例えば、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂や尿素−ホルムアルデヒド樹脂などのいわゆるアミノプラスト樹脂は、作業時の、あるいは塗工紙からのホルムアルデヒドの発生が多いのみならず、インキ受理性や耐ブリスター性の改良効果がほとんど得られないことや、塗工組成物のpHが高くなると耐水化効果も発揮されにくくなることなどの問題がある。一方、ホルムアルデヒド不含のバインダー用添加剤として知られているブロックグリオキザール樹脂は、湿し水に対する耐水性をある程度付与できるものの、インキ受理性や耐ブリスター性などの塗工紙品質の改良にはほとんど効果がない。
【0005】
このような状況のもとで、本発明者らは先に、塗工紙の高品質化を図るべく、特開平 10−77599 号公報において、紙用塗工組成物の樹脂成分として、脂肪族アミンと、アルデヒド類、グリシジル化合物及びイソシアネート化合物から選ばれる化合物との反応生成物である架橋アミン化合物を用いることを提案した。また特開平 11−140792号公報では、脂肪族アミンのなかでも複素環アミンを採用し、これをグリシジル化合物と反応させた架橋アミン化合物を紙用塗工組成物の樹脂成分として用いることを提案した。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、このようなアミンとグリシジル化合物との反応生成物である架橋アミン化合物を樹脂成分として用いた場合、他の成分との組合せや当該架橋アミン化合物の使用量などによっては、塗工組成物の増粘や流動特性の悪化などが起こり得ることを知見した。そこで、このような問題を解決すべくさらに研究を重ねた結果、本発明に至ったものである。
【0007】
したがって本発明の目的の一つは、塗工紙品質に対する要求に応え、紙に対して高度のインキ受理性及び耐水性が付与できるなど、塗工紙の高品質化を図ることができるとともに、ホルムアルデヒド由来成分を含まず、したがってホルムアルデヒドの発生のない塗工紙用樹脂を提供することにある。
【0008】
本発明のもう一つの目的は、顔料及び水性バインダーと混合して紙用塗工組成物としたときにも、増粘や流動特性悪化などの不都合を起こしにくく、したがって取扱いが容易な塗工紙用樹脂を提供することにある。
【0009】
さらに本発明の別の目的は、かかる塗工紙用樹脂が紙用塗工組成物とするのに適した形で調製され、ホルムアルデヒドを発生することがない塗工紙用樹脂組成物を提供し、さらにはそれを用いて、高い品質の塗工紙を与える紙用塗工組成物を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(a) 脂肪族アミン、(b) 分子内にグリシジル基を少なくとも2個有するグリシジル化合物、並びに(c) α,β−不飽和カルボニル化合物、α,β−不飽和ニトリル化合物及びα−ハロカルボン酸類から選ばれるカルボン酸系化合物
の反応生成物である架橋アミン化合物を有効成分とする塗工紙用樹脂、並びに、尿素、メチル尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン及び1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノンからなる群から選ばれる少なくとも1種の非重合体の不揮発性物質を含有する塗工紙用樹脂組成物である。
【0011】
この樹脂は、顔料及び水性バインダーと組み合わせて紙用塗工組成物とするために、通常は液状媒体に分散又は溶解した状態で調製される。そこでまた、上記の塗工紙用樹脂及び液状媒体を含有し、この樹脂が液状媒体に分散又は溶解している塗工紙用樹脂組成物も提供される。この塗工紙用樹脂組成物は、尿素などの不揮発性物質を含有するのが有利である。さらには、顔料及び水性バインダーとともに、上記の塗工紙用樹脂を含有し、所望によりさらに不揮発性物質を含有する紙用塗工組成物も提供される。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の塗工紙用樹脂となる架橋アミン化合物は、脂肪族アミン(a) 、分子内にグリシジル基を少なくとも2個有するグリシジル化合物(b) 並びに、α,β−不飽和カルボニル化合物、α,β−不飽和ニトリル化合物及びα−ハロカルボン酸類から選ばれるカルボン酸系化合物(c) の三成分を反応させて得られるものである。
【0013】
架橋アミン化合物の製造に用いる脂肪族アミン(a) は、1級又は2級のアミノ基が脂肪族炭素原子に結合する化合物であり、アミノ基が結合する脂肪族炭素原子は、非芳香族の環を形成するものであってもよい。このように、脂肪族アミンにおいてはアミノ基が脂肪族炭素原子に結合していればよく、分子内に脂肪族炭化水素残基以外の、例えば芳香族環を含んでいてもよい。また、アミノ基が分子内に複数あってもよい。具体的には、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、分子内に2個又はそれより多くのアミノ基を有するポリアミン、窒素原子を少なくとも一つの環構成原子とする脂肪族複素環アミンなどを挙げることができる。これらの脂肪族アミン(a) は、それぞれ単独で用いることも、また2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0014】
モノアルキルアミンは、アルキルに1級アミノ基が結合する化合物であって、そのアルキルは炭素数1〜10程度であることができる。具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなどが挙げられる。ジアルキルアミンは、2個のアルキルを2級アミノ基で結合する化合物であって、それぞれのアルキルは同じでも異なってもよく、それぞれ炭素数1〜10程度であることができる。具体例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、メチルエチルアミンなどが挙げられる。ポリアミンは、分子内に複数のアミノ基を有する化合物であって、ここでは、後述する複素環アミン以外のものを意味する。その具体例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミンなどが挙げられる。
【0015】
また、複素環アミンは、炭素原子に加えて少なくとも1個の窒素原子を環構成原子とする環状化合物であり、複素環を構成する原子は炭素と窒素に限られるわけではなく、他に酸素やイオウなどのヘテロ原子も環を構成しうる。この化合物は、窒素を環原子とする複素環を含んでいればよく、この複素環以外に、脂肪族炭化水素残基、脂環式炭化水素残基、芳香族炭化水素残基、アシル基などを含んでもよい。さらには、これらの炭化水素残基を介して、環状アミノ基とは別のアミノ基や、その他ハロゲンなどの置換基が存在してもよい。複素環アミンの具体例としては、ピロリジン、ピペリジン、2−、3−又は4−ピペコリン及び2,4−、2,6−又は3,5−ルペチジンのような複素環モノアミン類、ピペラジン、ホモピペラジン、N−アルキル(例えば、メチル、エチル又はプロピル)ピペラジン、N−メチルホモピペラジン、N−アシル(例えば、アセチル)ピペラジン、N−アシル(例えば、アセチル)ホモピペラジン及び1−(クロロフェニル)ピペラジンのような複素環ジアミン類、N−アミノアルキル(例えば、エチル又はプロピル)ピペリジン、N−アミノアルキル(例えば、エチル又はプロピル)ピペラジン、N−アミノアルキル(例えば、エチル又はプロピル)モルホリン、N−アミノプロピル−2−又は−4−ピペコリン、1,4−ビス(アミノエチル)ピペラジン及び1,4−ビス(アミノプロピル)ピペラジンのようなアミノアルキルが結合した複素環アミンなどが挙げられる。
【0016】
これらの脂肪族アミン(a) のなかでは、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、複素環アミンなどが工業的に好ましく、特に複素環アミンが有利である。なかでも好ましい複素環アミンには、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、N−アミノプロピルピペラジン、1,4−ビス(アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(アミノプロピル)ピペラジンなどが包含される。
【0017】
本発明で用いる脂肪族アミン(a) は、前述のとおり1級又は2級のアミノ基を少なくとも1個有するが、グリシジル化合物(b) 及びカルボン酸系化合物(c) との反応性を考慮すると、1級アミノ基を少なくとも1個有するのが有利であり、例えば複素環アミンの場合も、複素環を構成する2級又は3級アミノ基のほかに1級アミノ基を少なくとも1個有するのが有利である。なかでも、窒素を環原子とする複素環にアミノアルキルが結合した化合物、例えば、N−アミノエチルピペラジン、N−アミノプロピルピペラジン、1,4−ビス(アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(アミノプロピル)ピペラジンなどを、単独で又は他のアミンと組み合わせて用いた場合に、優れた効果が発揮される。
【0018】
グリシジル化合物(b) は、分子内にグリシジル基を少なくとも2個有するものである。複数のグリシジル基を結ぶ基は特に限定されず、脂肪族、芳香族、脂環式などのいずれでもよい。グリシジル化合物の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル及びプロピレングリコールジグリシジルエーテルのようなアルキレングリコールジグリシジルエーテル類、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル及びポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルのようなポリオキシアルキレングリコールジグリシジルエーテル類、レゾルシンジグリシジルエーテル及びビスフェノールAジグリシジルエーテルのような芳香族ジグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパンジ−又はトリ−グリシジルエーテル、ソルビトールジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−又はヘキサ−グリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジ−、トリ−又はテトラ−グリシジルエーテルなどが挙げられる。これらのグリシジル化合物(b) は、それぞれ単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、芳香族グリシジルエーテルが有利に用いられる。
【0019】
カルボン酸系化合物(c) は、アミノ基と反応性がある不飽和結合又はハロゲン原子を分子内に有し、さらにカルボニル基(−C(=O)−)を有するか、又は反応中にカルボキシル基(−COOH)を生成しうる化合物である。具体的には、α,β−不飽和カルボニル化合物、α,β−不飽和ニトリル化合物又はα−ハロカルボン酸が用いられる。
【0020】
ここでいうα,β−不飽和とは、官能基に隣接する炭素原子とその隣の炭素原子との間で不飽和結合、すなわち二重結合又は三重結合を形成する構造をいう。したがって、α,β−不飽和カルボニル化合物とは、不飽和結合を形成している炭素原子の少なくとも一方にカルボニル基(−C(=O)−)が結合した化合物であり、具体的には、アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、メタクリル酸、ソルビン酸、ケイ皮酸、フマル酸又はマレイン酸のようなα,β−不飽和カルボン酸、それらのメチル、エチル又はブチルエステルのようなα,β−不飽和カルボン酸エステル、アクロレイン、クロトンアルデヒド又はシンナムアルデヒドのようなα,β−不飽和アルデヒド、メチルビニルケトン、メシチルオキシド、ベンザルアセトン、ジベンザルアセトン、ベンザルアセトフェノン又はジプノンのようなα,β−不飽和ケトン、無水マレイン酸のようなα,β−不飽和ジカルボン酸無水物などが挙げられる。また、α,β−不飽和ニトリル化合物とは、不飽和結合を形成している炭素原子の少なくとも一方にシアノ基(−C≡N)が結合した化合物であり、具体的には、アクリロニトリル、クロトンニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。α,β−不飽和ニトリル化合物は、そのシアノ基が加水分解してカルボキシル基を生ずる。このように、α,β−不飽和カルボニル化合物及びα,β−不飽和ニトリル化合物においては、分子内にα,β−不飽和結合が存在していればよく、α−炭素、β−炭素、あるいはα−、β−両炭素に、さらに脂肪族炭化水素残基や芳香族炭化水素残基などが結合していてもよい。また、カルボニル基又はシアノ基が分子内に複数個あってもよい。
【0021】
一方、α−ハロカルボン酸類とは、分子内にカルボキシル基又はその誘導体を有するとともに、そのカルボキシル基又はその誘導体を構成するカルボニル基に隣接する炭素原子(α−炭素)に少なくとも1個のハロゲン原子が結合した化合物をいう。α−炭素に結合するハロゲン原子は、塩素、臭素、ヨウ素などでありうる。また、α−炭素にはこの他、脂肪族炭化水素残基や脂環式炭化水素残基、芳香族炭化水素残基などが結合していてもよい。具体的なα−ハロカルボン酸類としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ジクロロ酢酸、ジブロモ酢酸、トリクロロ酢酸、α−クロロプロピオン酸、α−ブロモプロピオン酸、α−クロロ酪酸又はα−ブロモイソ吉草酸のようなα−ハロカルボン酸、それらのメチル、エチル又はブチルエステルのようなα−ハロカルボン酸エステル、それらのナトリウム塩又はカリウム塩のようなα−ハロカルボン酸塩などが挙げられる。
【0022】
これらのカルボン酸系化合物(c) は、それぞれ単独で用いることも、また2種以上組み合わせて用いることもできる。これらのなかでも、α,β−不飽和カルボニル化合物、特にα,β−不飽和カルボン酸又はそのエステル、及びα−クロロカルボン酸類が工業的には有利である。とりわけ好ましいものは、アクリル酸及びクロロ酢酸である。
【0023】
本発明の塗工紙用樹脂を製造するにあたって、脂肪族アミン(a) 、グリシジル化合物(b) 及びカルボン酸系化合物(c) の反応順序は任意であり、例えば、三者を同時に反応させることもできるし、また、脂肪族アミン(a) に、グリシジル化合物(b) 又はカルボン酸系化合物(c) を反応させた後、グリシジル化合物(b) 及びカルボン酸系化合物(c) のうちの残りを反応させるといったように、反応を2段階で行うこともできる。また所望により、脂肪族アミン(a) にグリシジル化合物(b) を反応させ、次いでカルボン酸系化合物(c) を反応させた後、再度グリシジル化合物(b) を反応させたり、脂肪族アミン(a) にカルボン酸系化合物(c) を反応させ、次いでグリシジル化合物(b) を反応させた後、再度カルボン酸系化合物(c) を反応させたりする態様をとることもできる。これらの場合、2回用いるグリシジル化合物(b) 及び/又はカルボン酸系化合物(c) は、1回目と2回目とで同じであってもよいし、異なっていてもよい。一般には、脂肪族アミン(a) とグリシジル化合物(b) とを反応させた後、カルボン酸系化合物(c) を反応させる方法が有利である。
【0024】
この塗工紙用樹脂を製造するにあたって、グリシジル化合物(b) は、脂肪族アミン(a) 1モルに対し、一般には0.1〜1.5モルの範囲で、好ましくは0.3〜1.2モル、さらに好ましくは0.5〜1モルの範囲で用いられる。脂肪族アミン(a) 中に反応性の1級又は2級アミノ基が複数個ある場合でも、グリシジル化合物(b) の量をあまり多くすると、反応生成物がゲル化しやすくなるので、アミノ基の数にかかわらず、脂肪族アミン(a) に対するグリシジル化合物(b) のモル比を1.5以下にするのが適当である。
【0025】
また、カルボン酸系化合物(c) は、脂肪族アミン(a) 1モルに対し、一般には0.02〜1.5モルの範囲で、好ましくは0.05〜1モル、さらに好ましくは0.1〜0.5モルの範囲で用いられる。脂肪族アミン(a) とカルボン酸系化合物(c) との反応を最初に行う場合は、後に行うグリシジル化合物(b) との反応を考慮して、架橋アミン化合物を生成させるのに必要な1級又は2級アミノ基を残すように調節する必要がある。
【0026】
脂肪族アミン(a) 、グリシジル化合物(b) 及びカルボン酸系化合物(c) の反応は、三者を同時に反応させる場合及び2段階又は3段階に分けて反応を行う場合のいずれにおいても、無溶媒で又は溶媒中で行うことができる。これらの反応はいずれも、通常30〜100℃程度の温度で行われ、好ましい反応温度は、溶媒の有無や溶媒を用いる場合はその種類などによっても変動するが、溶媒が水/有機溶媒混合系の場合は40〜90℃程度であり、溶媒が水を含まない有機溶媒の場合は40〜70℃程度である。また反応時間は、いずれも通常、1〜20時間程度である。これらの反応は、無触媒でも進行するし、アンモニアや苛性ソーダのような塩基性触媒又は塩化アルミニウムのようなルイス酸触媒の存在下で行ってもよい。
【0027】
これらの反応に用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、1−又は2−プロパノール、1−又は2−ブタノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ヘキサノール、4−メチル−2−ペンタノール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−又は2−オクタノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール及びベンジルアルコールのようなアルコール類、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、β,β′−ジクロロジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル及びジエチレングリコールジブチルエーテルのようなエーテル類、ブチルアルデヒドのようなアルデヒド類、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン及びo−、m−又はp−キシレンのような炭化水素類、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、1−又は2−ブロモプロパン、1−ブロモブタン、臭化ラウリル、1−ブロモ−3−クロロプロパン、1,3−ジブロモプロパン、1,4−ジブロモブタン、1,5−ジブロモペンタン及び2,3−ジブロモ−1−プロパノールのような有機ハロゲン化合物、アセトン、2,4−ペンタンジオン、メチルエチルケトン、2−又は3−ペンタノン、3−メチル−2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、2,4−ジメチル−3−ペンタノン、シクロヘキサノン、イソホロン及び4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンのようなケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸 sec−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸ベンジル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸アミル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、マロン酸ジエチル、シュウ酸ジエチル、リン酸ブチル及びアセト酢酸エチルのようなエステル類などが挙げられ、それぞれ単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
また、これらの有機溶媒の1種又は2種以上と水との混合物を反応溶媒とすることもできる。ただし、脂肪族アミン(a) とグリシジル化合物(b) を反応させる場合や、脂肪族アミン(a) とカルボン酸系化合物(c) の反応物にグリシジル化合物(b) を反応させる場合のように、グリシジル化合物(b) がそれ自体で原料として反応系内に存在する場合は、反応系内に存在する水の量があまり多くなると、グリシジル化合物(b) 同士の重合により水にも有機溶媒にも不溶なエポキシ樹脂が生成してしまうため、反応系内の水の量は20重量%以下、さらには10重量%以下とするのが好ましい。脂肪族アミン(a) とカルボン酸系化合物(c) とを反応させる場合や、脂肪族アミン(a) とグリシジル化合物(b) の反応物にカルボン酸系化合物(c) を反応させる場合のように、グリシジル化合物(b) がそれ自体の形で反応系内に存在しない場合は、反応溶媒中の有機溶媒と水の割合は任意であり、水のみを反応溶媒とすることもできる。
【0029】
脂肪族アミン(a) 、グリシジル化合物(b) 及びカルボン酸系化合物(c) の反応において、各化合物の種類や三者の使用割合、さらには反応の順序などにより、反応生成物の構造は多岐にわたるが、一般には、脂肪族アミン(a) 中のアミノ基にグリシジル化合物中のグリシジル基が開環付加して架橋し、さらに当該アミノ基の一部に、カルボン酸系化合物(c) の不飽和結合がマイケル付加するか、又はカルボン酸系化合物(c) のハロゲン原子部分で脱ハロゲン化水素縮合した形の構造が主体となる。また通常は、ある程度の分子量分布を持った重合体となる。グリシジル化合物(b) がグリシジル基(Gly と略す)を2個有する Gly−R−Glyの構造であるとして、以下にごく単純化した主な反応形態を例示する。
【0030】
脂肪族アミン(a) が1級アミノ基を1個だけ有する1級モノアミンの場合、それを R1−NH2 と表すと、まずグリシジル化合物(b) との間で主に次のような反応が進行する。
【0031】
R1−NH2 + Gly−R−Gly → R1−NH−CH2CH(OH)CH2−R−Gly
R1−NH−CH2CH(OH)CH2−R−Gly + R1−NH2
→ R1−NH−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2−NH−R1
【0032】
また、この生成物中の2級アミノ基にグリシジル化合物が付加し、別のアミン分子を結合した構造にもなりうる。次に、カルボン酸系化合物(c) がα,β−不飽和カルボニル化合物又はα,β−不飽和ニトリル化合物である場合は、それを Q1CH=CQ2−X (式中、Xはカルボニル基で結合する基又はシアノ基を意味する)で表すと、その不飽和結合が上記生成物中の残りの2級アミノ基の少なくとも一部にマイケル付加し、一方、カルボン酸系化合物(c) がα−ハロカルボン酸類である場合は、それを Q3CHY−COOQ4(式中、Yはハロゲンを意味する)で表すと、そのハロゲン原子の部位が上記生成物中の残りの2級アミノ基の少なくとも一部に脱ハロゲン化水素縮合して、それぞれ主に次のような反応が進行する。
【0033】
α,β−不飽和カルボニル化合物又はα,β−不飽和ニトリル化合物の場合:
R1−NH−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2−NH−R1 + 2 Q1CH=CQ2−X
→ X−CHQ2−CHQ1−NR1−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2−NR1−CHQ1−CHQ2−X
α−ハロカルボン酸類の場合:
R1−NH−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2−NH−R1 + 2 Q3CHY−COOQ4
→ Q4OCO−CHQ3−NR1−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2−NR1−CHQ3−COOQ4 + 2 HX
【0034】
また、脂肪族アミン(a) が1級アミノ基と2級アミノ基をそれぞれ1個ずつ有する場合、それを R1−NH−A−NH2(2級アミノ基が複素環アミンの環を構成する場合は、R1とAとの間で環を形成しているとみればよい)と表すと、まずグリシジル化合物(b) との間で、例えば主に、次のような反応が進行する。
【0035】
(n+2) R1−NH−A−NH2 + (n+1) Gly−R−Gly
→ R1−NH−A−NH−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2−
−[NH−A−NR1−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2]n−NH−A−NH−R1
(式中、nは重合度を表す任意の数である)
【0036】
もちろん、先に述べた1級モノアミンの場合と同様、生成物の途中に存在する2級アミノ基にグリシジル化合物が付加し、別のアミン分子を結合した構造にもなりうる。そして次に、やはり先に述べた1級モノアミンの場合と同様、カルボン酸系化合物(c) が上記生成物中の主に末端2級アミノ基にマイケル付加又は脱ハロゲン化水素縮合して、主に次のような反応が進行する。
【0037】
α,β−不飽和カルボニル化合物又はα,β−不飽和ニトリル化合物の場合:
R1−NH−A−NH−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2−
−[NH−A−NR1−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2]n−NH−A−NH−R1 + 2 Q1CH=CQ2−X
→ X−CHQ2−CHQ1−NR1−A−NH−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2−
−[NH−A−NR1−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2]n−NH−A−NR1−CHQ1−CHQ2−X
α−ハロカルボン酸類の場合:
R1−NH−A−NH−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2−
−[NH−A−NR1−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2]n−NH−A−NH−R1 + 2 Q3CHY−COOQ4
→ Q4OCO−CHQ3−NR1−A−NH−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2−
−[NH−A−NR1−CH2CH(OH)CH2−R−CH2CH(OH)CH2]n−NH−A−NR1−CHQ3−COOQ4 + 2 HX
【0038】
さらに、脂肪族アミン(a) が複数の1級アミノ基を有する場合、3個以上のアミノ基を有する場合、2種以上の脂肪族アミン(a) を併用した場合、グリシジル化合物(b) がグリシジル基を3個以上有する場合、またカルボン酸系化合物(c) が複数のα,β−不飽和結合を有する場合やα−炭素に結合するハロゲン原子が複数の場合などでは、反応はさらに複雑になるが、いずれにしても、アミン分子が複数架橋した化合物であって、そこに残存するアミノ基、特に末端のアミノ基が、カルボン酸系化合物(c) によって封止された構造のものが主体的に生成することになる。
【0039】
脂肪族アミン(a) 、グリシジル化合物(b) 及びカルボン酸系化合物(c) を同時に反応させる場合や、脂肪族アミン(a) に予めカルボン酸系化合物(c) を反応させ、その後グリシジル化合物(b) を反応させる場合などであっても、上記したのと類似の構造、すなわち、アミン分子がグリシジル化合物(b) を介して複数架橋し、その中のアミノ基にカルボン酸系化合物(c) がマイケル付加又は脱ハロゲン化水素縮合した構造のものが主体的に生成する。このように架橋アミン化合物中のアミノ基、特に末端のアミノ基がカルボン酸系化合物(c) で封止された構造となるようにしたことによって、その架橋アミン化合物を顔料及び水性バインダーと混合して紙用塗工組成物とした場合に発生することがある増粘や流動特性の悪化といった悪影響をなくすことができる。
【0040】
以上のように、脂肪族アミン(a) 、グリシジル化合物(b) 及びカルボン酸系化合物(c) の反応により得られる架橋アミン化合物は、原料脂肪族アミン(a) の構造によってはある程度の分子量分布を持った重合体となりうる。その分子量の目安として、それを50重量%水溶液としたときの25℃における粘度は、一般に10〜100,000mPa・sの範囲をとりうる。特にこの粘度は、100mPa・s 以上、さらには1,000mPa・s以上、また50,000mPa・s以下であるのが、より好ましい。
【0041】
本発明では、以上説明したような脂肪族アミン(a) 、グリシジル化合物(b) 及びカルボン酸系化合物(c) の反応によって得られる架橋アミン化合物が、塗工紙用樹脂として用いられる。この架橋アミン化合物は、液状媒体に溶解又は分散された状態で用意するのが好ましい。脂肪族アミン(a) 、グリシジル化合物(b) 及びカルボン酸系化合物(c) の反応のうち、少なくとも最後の反応を液状媒体中で行うか、又は反応後に液状媒体を加えて溶解又は分散させることにより、架橋アミン化合物の溶液又は分散液が得られる。ここで用いる液状媒体は、架橋アミン化合物を溶解又は均一に分散するものであればよく、水及び/又は有機溶媒であることができる。先に架橋アミン化合物を得る際の反応溶媒として例示した各種のものが、この際の液状媒体ともなりうるが、特にアルコール類は、架橋アミン化合物に対する溶解性又は分散性に優れているので、液状媒体として有機溶媒を用いる場合は、アルコール類のいずれかを単独で若しくは2種以上混合して、又は他の有機溶媒と組み合わせて用いるのが有利である。
【0042】
本発明で規定する架橋アミン化合物の原料であるグリシジル化合物が水だけには溶けにくい場合は、グリシジル化合物(b) の反応段階で水と有機溶媒を混合して用い、この液状媒体をそのまま架橋アミン化合物のための液状媒体とすることができる。場合によっては、反応終了後に水を加えて、架橋アミン化合物を溶解又は分散する液状媒体中の有機溶媒の割合を低くすることもできる。架橋アミン化合物を溶解又は分散する液状媒体中の有機溶媒と水の割合は任意であるが、通常は水が1〜100重量%、そして有機溶媒が99〜0重量%の割合で使用される。水/有機溶媒混合系とする場合、好ましくは、水3〜50重量%、そして有機溶媒97〜50重量%の割合で使用される。
【0043】
また、グリシジル化合物(b) を用いた反応を有機溶媒中で行い、その反応終了後に、又はすべての反応が終わった後に、その有機溶媒を留去してから水を加えるという方法を採用することにより、架橋アミン化合物のための液状媒体を実質的に水のみとすることもできる。この場合は、グリシジル化合物(b) をケトン類に溶解させ、一方で脂肪族アミン(a) 又はそれとカルボン酸系化合物(c) との反応物をケトン類以外の親水性有機溶媒に溶解させ、両溶液を混合して反応させるのが有利である。グリシジル化合物(b) を溶解させるケトン類は、先に架橋アミン化合物を得る際の反応溶媒として例示した各種のものであることができるが、なかでも、アセトンが工業的には有利に使用される。一方、脂肪族アミン(a) 又はそれとカルボン酸系化合物(c) の反応物を溶解させるケトン類以外の親水性有機溶媒も、先に架橋アミン化合物を得る際の反応溶媒として例示したケトン類以外の各種親水性有機溶媒であることができるが、なかでもアルコール類、それもメタノールが、工業的には有利に使用される。
【0044】
反応終了後に行う溶媒の留去は、一般には常圧蒸留で行われるが、減圧蒸留や水蒸気蒸留で行うこともでき、また常圧蒸留の後に水蒸気蒸留を行うなど、2種又はそれ以上の方法を組み合わせてもよい。常圧蒸留の場合、あまり温度を上げすぎると、架橋アミン化合物が着色してしまうため、溶媒の沸点から100℃以内の範囲で、さらには60℃以内の範囲で昇温するのが好ましい。溶媒留去後の水の添加は、50〜120℃の範囲で行うのが好ましい。有機溶媒を留去した状態では、架橋アミン化合物が単独で存在し、粘性が極めて高いので、水を添加する際の温度があまり低いと、溶解不良を起こしやすい。また、水を添加する際の温度があまり高くなると、突沸などの危険があるため、防災上好ましくない。
【0045】
特に、脂肪族アミン(a) とグリシジル化合物(b) との反応を上記のような有機溶媒中で行い、反応終了後にその有機溶媒を留去し、次に水を加えて、架橋アミン中間体の水溶液とし、その水溶液中でカルボン酸系化合物(c) を反応させることにより、実質的に水のみからなる液状媒体に溶解又は分散された状態で架橋アミン化合物を調製するのが有利である。
【0046】
本発明の塗工紙用樹脂は、このように液状媒体に溶解又は分散された状態で塗工紙用樹脂組成物とされるが、この組成物はさらに、不揮発性物質を含有するのが好ましい。この不揮発性物質は、常温で揮発性がなく、この組成物中で架橋アミン化合物とともに溶解又は均一に分散した状態をとりうる有機又は無機の非重合体化合物である。ここでいう非重合体とは、一定の分子量を持つことを意味する。不揮発性物質は、架橋アミン化合物が本来具備する紙に対して優れた印刷適性及び印刷効果を付与する効果を損なうことなく、当該架橋アミン化合物を塗工組成物の成分として用いた場合に発生することがある増粘や流動特性の悪化といった悪影響をより一層軽減するために用いられるので、このような性質を持っていればよい。
【0047】
不揮発性物質として具体的には、尿素、メチル尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン及び1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノンのような尿素類などが挙げられる。尿素類のうち、1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノンは、ジエチレントリアミンと尿素との脱アンモニア反応によって得ることができ、この反応生成物には、1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノン以外の副生物も存在するが、通常、その副生物を含む混合物のまま使用できる。これらの不揮発性物質のなかでも、尿素類が、架橋アミン化合物との相溶性や種々の溶媒への溶解性などの点で好ましい。尿素類のなかでも好ましいものは、尿素及びイミダゾリジノン類であり、工業的な見地からは、特に尿素が好ましい。
【0048】
架橋アミン化合物と不揮発性物質の混合順序は特に制限されず、予め液状媒体に架橋アミン化合物を分散又は溶解させておき、そこに不揮発性物質を混合する方法や、予め液状媒体に不揮発性物質を分散又は溶解させておき、これを架橋アミン化合物に加える方法、架橋アミン化合物及び不揮発性物質をそれぞれ同一又は異なる液状媒体に分散又は溶解させたものを用意し、これらを混合して均一化する方法などによって、行うことができる。操作の簡便さからは、予め液状媒体に架橋アミン化合物を分散又は溶解させておき、そこに不揮発性物質を混合する方法が好ましい。また、架橋アミン化合物と不揮発性物質を混合する際の温度も特に制限されないが、使用する液状媒体への両者の溶解性又は混和性が十分でない場合は、必要により液状媒体が揮発しない程度まで加熱してもよく、逆に、架橋アミン化合物及び不揮発性物質の一方又は双方が液状媒体と溶媒和して激しく発熱するような場合には、凍結しない程度まで冷却してもよい。
【0049】
架橋アミン化合物は、前述のとおり、液状媒体中に溶解又は分散させた状態で用意するのが好ましい。したがって、不揮発性物質を存在させた塗工紙用樹脂組成物も、架橋アミン化合物とともに不揮発性物質が液状媒体に溶解又は分散された状態になっているのが有利である。架橋アミン化合物に加えて不揮発性物質を存在させ、塗工紙用樹脂組成物とする場合、両者の割合は重量比で、一般には前者/後者=1/99〜90/10の範囲、好ましくは5/95〜70/30の範囲である。
【0050】
架橋アミン化合物が液状媒体に溶解又は分散され、任意にさらに不揮発性物質を含有する樹脂組成物は、顔料及び水性バインダーと混合して、紙用塗工組成物とされる。この紙用塗工組成物の一成分として不揮発性物質を用いる場合、架橋アミン化合物と不揮発性物質を予め混合しておくことは必須ではないが、一般には、架橋アミン化合物と不揮発性物質を含有する樹脂組成物を調製したうえで顔料及び水性バインダーに配合するのが有利である。
【0051】
紙用塗工組成物の成分となる顔料は、紙の塗工に従来から一般に用いられているものでよく、白色無機顔料及び白色有機顔料が使用できる。白色無機顔料としては、例えば、カオリン、タルク、炭酸カルシウム(重質又は軽質)、水酸化アルミニウム、サチンホワイト、酸化チタンなどが挙げられる。また白色有機顔料としては、例えば、ポリスチレン、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。これらの顔料は、それぞれ単独で、又は2種以上混合して用いることができる。
【0052】
水性バインダーも、紙の塗工に従来から一般に用いられているものでよく、水溶性のバインダーや水乳化系のバインダーが使用できる。水溶性バインダーとしては、例えば、酸化でんぷんやリン酸エステル化でんぷんをはじめとする無変性の、又は変性されたでんぷん類、ポリビニルアルコール、カゼインやゼラチンをはじめとする水溶性プロテイン、カルボキシメチルセルロースをはじめとする変性セルロース類などが挙げられる。また水乳化系バインダーとしては、例えば、場合によりカルボキシル基やニトリル基を有することもあるスチレン−ブタジエン系樹脂(SBRラテックス)、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂(NBRラテックス)、クロロプレン系樹脂(CRラテックス)、メチルメタクリレート−ブタジエン系樹脂(MBRラテックス)、アクリル系モノマー2種以上の共重合樹脂、アクリル系モノマーと酢酸ビニルとの共重合樹脂、アクリル系モノマーとスチレンとの共重合樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレン−酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。なお、ここでいうアクリル系モノマーとは、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらのメチル、エチル、ブチル等のエステルから選ばれる化合物をいう。これらの水性バインダーは、それぞれ単独で、又は2種以上混合して用いることができる。
【0053】
本発明の紙用塗工組成物を調製するにあたり、顔料と水性バインダーの組成割合は、用途や目的に応じて決定され、当業界で一般に採用されている組成と特に異なるところはない。両者の好ましい組成割合は、顔料100重量部に対して、水性バインダーが1〜200重量部程度、より好ましくは5〜50重量部程度である。架橋アミン化合物及び任意に用いられる不揮発性物質は、顔料100重量部に対し、両者の合計固形分量で0.05〜5重量部程度とするのが好ましく、さらには、0.1重量部以上、また2重量部以下程度にするのが有利である。
【0054】
紙用塗工組成物を調製するにあたり、顔料、水性バインダー及び樹脂組成物の添加混合順序は任意であり、特に制限されない。例えば、液状媒体に溶解又は分散された樹脂組成物を顔料及び水性バインダーの混合物に添加混合する方法、液状媒体に溶解又は分散された樹脂組成物を予め顔料又は水性バインダーに添加混合しておき、これを残りの成分と配合する方法などが採用できる。
【0055】
本発明の紙用塗工組成物は、上記の架橋アミン化合物及び任意に用いられる不揮発性物質に加えて、他の耐水化剤や印刷適性向上剤などの樹脂成分を必要に応じて含有することもできる。さらには、その他の成分として、例えば、分散剤、粘度・流動性調整剤、消泡剤、防腐剤、潤滑剤、保水剤、また染料や有色顔料のような着色剤などを、必要に応じて配合することができる。
【0056】
この紙用塗工組成物は、従来より公知の方法、例えばブレードコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター、キャストコーターなど、公知の各種コーターを用いる方法により、紙基体に塗布される。その後必要な乾燥を行い、さらに必要に応じてスーパーカレンダーなどで平滑化処理を施すことにより、塗工紙を製造することができる。
【0057】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。例中、含有量又は使用量を表す%及び部は、特に断らないかぎり重量基準である。また、粘度及びpHは、25℃において測定した値である。
【0058】
合成例1:
予め、エポキシ当量182.6g/eq.のビスフェノールAジグリシジルエーテル140.6g(0.77モル)とアセトン120.0gを混合して溶液とした。別途、温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた四つ口フラスコに、N−(2−アミノエチル)ピペラジン90.4g(0.7モル)及びメタノール109.1gを仕込み、内温を45〜55℃に保って、そこへ、先に調製したビスフェノールAジグリシジルエーテルのアセトン溶液260.6gのうちの237.0gを5時間かけて滴下した。滴下終了後、内温45〜55℃でさらに4時間反応させた。次に還流冷却器をリービッヒ冷却器に取り替えた後、アセトン及びメタノールを系外に抜きながら、内温を120℃まで上げた。その後、水295.2gを徐々に加えながら冷却して、中間体の水溶液531.8gを得た。さらに、上で用いたのと同様の反応容器にこの中間体の水溶液141.2gを仕込み、内温を65〜75℃に保って、そこへ80%アクリル酸水溶液8.37g(0.093モル)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、内温65〜75℃でさらに4時間反応させて、不揮発分45.3%、pH9.1、粘度1,735mPa・sの架橋アミン化合物の水溶液を得た。
【0059】
合成例2:
予め、エポキシ当量184.0g/eq.のビスフェノールAジグリシジルエーテル637.6g(3.47モル)とアセトン542.6gを混合して溶液とした。別途、合成例1で用いたのと同様の反応容器に、N−(2−アミノエチル)ピペラジン426.4g(3.3モル)及びメタノール516.8gを仕込み、内温を48〜54℃に保って、そこへ、先に調製したビスフェノールAジグリシジルエーテルのアセトン溶液1,180.2gのうちの1,124.0gを5時間かけて滴下した。滴下終了後、内温48〜54℃でさらに4時間反応させた。次に還流冷却器をリービッヒ冷却器に取り替えた後、アセトン及びメタノールを系外に抜きながら内温を120℃まで上げた。その後、水1,285.7gを徐々に加えながら冷却して、中間体の水溶液2,384.0gを得た。さらに、上で用いたのと同様の反応容器に、この中間体の水溶液180.6gと水0.77gを仕込み、内温を65〜75℃に保って、そこへ80%アクリル酸水溶液6.76g(0.075モル)を5分間で滴下した。滴下終了後、内温65〜75℃でさらに約4時間反応させて、不揮発分45.1%、pH9.7、粘度3,660mPa・sの架橋アミン化合物の水溶液を得た。
【0060】
合成例3:
予め、エポキシ当量184.0g/eq.のビスフェノールAジグリシジルエーテル191.7g(1.042モル)とアセトン180gを混合して溶液とした。 別途、合成例1で用いたのと同様の反応容器に、N−(2−アミノエチル)ピペラジン129.2g(1.0モル)及びメタノール138.2gを仕込み、内温を48〜54℃に保って、そこへ、先に調製したビスフェノールAジグリシジルエーテルのアセトン溶液371.7gのうちの285.4gを、5時間かけて滴下した。滴下終了後、内温48〜54℃でさらに4時間反応させた。次に還流冷却器をリービッヒ冷却器に取り替えた後、アセトン及びメタノールを系外に抜きながら、内温を120℃まで上げた。その後、水339.9gを徐々に加えながら冷却して、中間体の水溶液637.8gを得た。 さらに、上で用いたのと同様の反応容器に、この中間体の水溶液127.6gを仕込み、内温を65〜75℃に保って、そこへ、80%アクリル酸水溶液3.6g(0.04モル)を5分間で滴下した。滴下終了後、内温65〜75℃でさらに約4時間反応させて、不揮発分44.4%、pH9.7、粘度1,049mPa・s の架橋アミン化合物の水溶液を得た。
【0061】
合成例4:
合成例1で用いたのと同様の反応容器に、合成例2の前半で得られた中間体の水溶液180.6g及び水13.8gを仕込み、内温を65〜75℃に保って、そこへクロロ酢酸7.2g(0.075モル)を5分間で滴下した。滴下終了後、内温65〜75℃でさらに4時間反応させて、不揮発分45.3%、pH8.2、粘度3,740mPa・sの架橋アミン化合物の水溶液を得た。
【0062】
参考例1:
合成例1で用いたのと同様の反応容器に、ジエチレントリアミン1,237.9g(12モル)及び尿素720.8g(12モル)を80℃で仕込み、145〜155℃に昇温した後、同温度で2時間保温した。次いで冷却して、1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノンを主体とする反応生成物1,563.0gを得た。この生成物は、常温で事実上不揮発性であった。
【0063】
配合例1:
合成例1で得られた架橋アミン化合物の45.3%水溶液100.0g、参考例1で得られた1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノン主体の反応生成物181.2g及び水271.2gを混合した後、十分に攪拌して、有効成分41%、pH10.5、粘度62.5mPa・s の架橋アミン含有水溶液を得た。これを樹脂組成物Aとする。
【0064】
配合例2〜9:
表1に記載の架橋アミン化合物、不揮発性物質及び水をそれぞれそこに記載の量用い、配合例1と同様の操作を行って、そこに記載の物性を有する架橋アミン含有水溶液を得た。それぞれ樹脂組成物B〜Iとする。なお、表1中の「AEI 」は、参考例1で得られた1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノン主体の反応生成物を意味する。
【0065】
【表1】
【0066】
評価例1〜9及び対照1〜2:
次に、以上の配合例で得られた架橋アミン含有組成物を用いて、紙用塗工組成物を調製し、評価した例を示す。これらの例ではまず、表2に示す組成で固形分濃度64.5%の水系マスターカラーを調製した。
【0067】
【表2】
【0068】
(表2の脚注)
*1クレー: 米国エンゲルハードミネラルズ社製の“ウルトラホワイト90”
*2炭酸カルシウム: 富士カオリン(株)製の“カービタル90”
【0069】
表2に示したマスターカラーへ、その中の顔料100部あたり、配合例1〜9で得たそれぞれの樹脂組成物を、その中の固形分が0.6部の割合となるように添加した。また対照1では、上記の樹脂組成物に代えて、特開昭 55−31837 号公報(= USP 4,246,153 )の実施例3に記載される方法に準じて製造された有効成分50%の熱硬化性ポリアミドポリ尿素ホルムアルデヒド樹脂水溶液(表中では「PAPU」と略す)を評価例1〜9と同量添加し、対照2では、樹脂成分を添加せずにマスターカラーをそのまま用いた。それぞれの混合物に水と10%苛性ソーダ水溶液を加えて濃度及びpHを調整し、総固形分64%の塗工組成物とした。得られたそれぞれの塗工組成物について、以下の方法で物性値を測定し、その結果を表3に示した。
【0070】
(1) pH:
ガラス電極式水素イオン濃度計〔東亜電波工業(株)製〕を用い、調製直後の塗工組成物のpHを25℃にて測定した。
【0071】
(2) 粘度:
B型粘度計〔(株)東京計器製、BL型〕を用い、60rpm 、25℃で、調製直後の塗工組成物の粘度を測定した。
【0072】
さらに、上で得られたそれぞれの塗工組成物を、米坪量80g/m2の上質紙の片面に、ワイヤーロッドを用いて塗工量が14g/m2となるように塗布した。塗布後ただちに、120℃にて30秒間熱風乾燥し、次いで温度20℃、相対湿度65%にて16時間調湿し、さらに温度60℃、線圧60kg/cmの条件で2回スーパーカレンダー処理を施して、塗工紙を得た。こうして得た塗工紙を耐水性及びインキ受理性の試験に供し、試験結果を表3に示した。なお、試験方法は以下のとおりである。
【0073】
(3) 耐水性:ウェットピック法(WP法)
RI試験機(明製作所製)を使用し、塗工面を給水ロールで湿潤させた後に印刷し、紙むけ状態を肉眼で観察して判定した。判定基準は次のように行った。
耐水性 (劣)1〜5(優)
【0074】
(4) インキ受理性
(4−1) A 法
RI試験機を使用して、塗工面を給水ロールで湿潤させた後に印刷し、インキの受理性を肉眼で観察して判定した。判定基準は次のように行った。
インキ受理性 (劣)1〜5(優)
【0075】
(4−2) B 法
RI試験機を使用して、金属ロールとゴムロールの間にわずかな間隙をあけ、その間隙に水を注いだ後速やかに印刷し、インキの受理性を肉眼で観察して判定した。判定基準は次のように行った。
インキ受理性 (劣)1〜5(優)
【0076】
【表3】
【0077】
【発明の効果】
本発明の塗工紙用樹脂は、ホルムアルデヒド由来の構造を持たないため、それを含む塗工紙用樹脂組成物がホルムアルデヒドを発生することはない。この塗工紙用樹脂は、液状媒体に溶解又は分散された状態で塗工紙用樹脂組成物とすることができ、これを顔料及び水性バインダーと組み合わせて紙用塗工組成物とすることができる。この塗工組成物は、増粘や流動性悪化などの不都合を起こしにくく、またインキ受理性や耐水性など、種々の性能が改良された塗工紙を与える。
Claims (11)
- (a) 脂肪族アミン、
(b) 分子内にグリシジル基を少なくとも2個有するグリシジル化合物、並びに
(c) α,β−不飽和カルボニル化合物、α,β−不飽和ニトリル化合物及びα−ハロカ
ルボン酸類から選ばれるカルボン酸系化合物
の反応生成物である架橋アミン化合物を有効成分とする塗工紙用樹脂、並びに、尿素、メチル尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン及び1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノンからなる群から選ばれる少なくとも1種の非重合体の不揮発性物質を含有する塗工紙用樹脂組成物。 - 脂肪族アミン(a) が複素環アミンである請求項1記載の塗工紙用樹脂組成物。
- 複素環アミンが、複素環を構成する2級又は3級アミノ基のほかに1級アミノ基を少なくとも1個有する請求項2記載の塗工紙用樹脂組成物。
- グリシジル化合物(b) が芳香族グリシジルエーテルである請求項1〜3のいずれかに記載の塗工紙用樹脂組成物。
- カルボン酸系化合物(c) が、α,β−不飽和カルボン酸、α,β−不飽和カルボン酸エステル、α,β−不飽和アルデヒド、α,β−不飽和ケトン及びα,β−不飽和ジカルボン酸無水物から選ばれるα,β−不飽和カルボニル化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の塗工紙用樹脂組成物。
- カルボン酸系化合物(c) が、α−ハロカルボン酸、そのエステル及び塩から選ばれるα−ハロカルボン酸類である請求項1〜4のいずれかに記載の塗工紙用樹脂組成物。
- カルボン酸系化合物(c) がアクリル酸又はクロロ酢酸である請求項1〜4のいずれかに記載の塗工紙用樹脂組成物。
- 塗工紙用樹脂組成物が、塗工紙用樹脂及び液状媒体を含有し、該樹脂が該液状媒体に分散又は溶解していることを特徴とする請求項1〜7に記載の塗工紙用樹脂組成物。
- 液状媒体が実質的に水からなる請求項8記載の塗工紙用樹脂組成物。
- (I) 顔料、
(II) 水性バインダー、及び
(a) 脂肪族アミン、
(b) 分子内にグリシジル基を少なくとも2個有するグリシジル化合物、並びに
(c) α,β−不飽和カルボニル化合物、α,β−不飽和ニトリル化合物及びα−ハロカ
ルボン酸類から選ばれるカルボン酸系化合物
の反応生成物である架橋アミン化合物を有効成分とする塗工紙用樹脂、並びに、尿素、メチル尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン及び1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノンからなる群から選ばれる少なくとも1種の非重合体の不揮発性物質と
を含有する紙用塗工組成物。 - 紙基体に請求項10に記載の塗工組成物を塗布してなる塗工紙。
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