JP3584704B2 - 送風機の吸込流予旋回制御バイパス構造 - Google Patents

送風機の吸込流予旋回制御バイパス構造 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は送風機の吸込流予旋回制御バイパス構造に係り、詳しくは、遠心形・軸流形・斜流形の各送風機における羽根車へ流入する流体に誘起する予旋回の制御構造であって、送風機効率の向上および送風機騒音の低減を図るようにした予旋回制御バイパス機構に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポンプや送風機における羽根車へ流入する流体の予旋回を抑制する工夫が、従来からなされている。例えば、寺田進著「渦巻ポンプの設計と製図」第4版:昭和47年6月15日(理工図書発行)の第36頁、第66頁ないし第71頁や、生井武文著「遠心軸流送風機と圧縮機」第5版:昭和39年7月30日(朝倉書店発行)の第 222頁ないし第 225頁、さらに、生井武文・井上雅弘共著「ターボ送風機と圧縮機」昭和63年8月25日(コロナ社発行)の第 582頁ないし第 583頁には、吸込管内羽根車近寄り部に板状あるいは円筒状の遮蔽板を配置して羽根車へ流入する流体の予旋回を軽減したり、吸込管をテーパ状にして予旋回の影響を低減することが記載されている。
【0003】
ところで、予旋回の発生機構の考え方は、次に記す説明が一般的である。何らかの原因でポンプまたは送風機の吸込管内羽根車近寄り部に逆流(渦流れ)が生じ、その結果として予旋回が発生する。このような考え方をとると、従来の技術思想においては予旋回を持つ流れの旋回方向速度に起因するエネルギを合理的に制御する工夫がなされ得ない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
A.J.ステパノフ(Stepanoff)著「第2版遠心及び軸流ポンプ」(2nd Edition Centrifugal and Axial Flow Pumps) 1957 年(ジョン・ワイリー・アンド・サンズ・インコーポレイティッド(JOHN WILEY & SONS,INC.)発行)第38頁ないし第42頁や、A.J.ステパノフ著今市憲作他訳「ポンプとブロワ」昭和54年11月12日:初版(産業図書発行)第78頁ないし第 101頁に例示されているように、羽根車へ流入する流体の予旋回が次のように説明されている。
【0005】
ポンプや送風機の吸込管内羽根車近寄り部には、最小抵抗の原理によって予旋回が発生する。なお、この予旋回は、羽根車の羽根が直接流体へ力を伝達するために発生するわけではなく、したがって、羽根車の回転方向と予旋回の旋回方向とは一致するとはかぎらない。すなわち、設計流量を外れた過小流量(部分流量)では羽根車の回転と同じ向きの旋回方向速度を持ち、過大流量では羽根車の回転と逆向きの旋回方向速度を有する。吸込管内羽根車近寄り部の逆流(渦流れ)は予旋回が生じるゆえに発生するものであって、逆流のために結果として予旋回が発生するのではない。
【0006】
本発明は、上記ステパノフの主張に基づき、送風機の吸込管内羽根車近寄り部に発生する予旋回を持つ流れの旋回方向速度に起因するエネルギを合理的に制御することによって、送風機軸動力の低減あるいは送風機羽根車による昇圧量(ヘッド)の増大を導き、送風機効率を向上させること、さらに、吸込管内羽根車直近部における流れの改善を導き、送風機騒音の低減を図ることを目的とした送風機の吸込流予旋回制御バイパス構造を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、送風機の羽根車に吸入流体を導入するための吸込管が設けられている送風機の流体吸込部構造に適用される。その特徴とするところは、図8を参照して、吸込管2の羽根車近寄り部の直径d0 (図1を参照)が一定であり、その外周部にリング状の閉空間領域を形成する流体室3が併設される。この流体室は、吸入流体の流通方向に沿って配置された少なくとも三つの穿孔4(4B)からなる連通路列が全周に形成された吸込管周壁を介して吸込管2と連通される。そして、その連通路列における最上流側に位置する穿孔から最下流側に位置する穿孔までの距離Z1 −Z2 は、羽根車近寄り部吸込管2の内径d0 の0.4倍より大きく2.0倍以下となっていることである。
【0008】
【発明の効果】
本発明によれば、連通路列の孔を介して吸込管と流体室との間における圧力伝達ならびに流体の流出入が可能となるように、流体室と穿孔列とによって吸込管のバイパス経路を形成させることができる。したがって、吸入流体の一部にバイパス流を発生させることにより、送風機の吸込管内羽根車近寄り部に発生する予旋回を持つ流れの旋回方向速度に起因するエネルギが合理的に制御され、送風機軸動力の低減あるいは送風機羽根車による昇圧量の増大を導き、送風機効率を向上させることが可能となる。また、吸込管内羽根車直近部における流れの改善を導き、送風機騒音の低減を図ることができる。とりわけ、連通路列における最上流側に位置する穿孔から最下流側に位置する穿孔までの距離が、羽根車近寄り部吸込管の内径の0.4倍より大きく2.0倍以下となっているので、上記した効果を発揮させやすく、送風機を設計するうえでの大きな目安を与えることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係る送風機の吸込流予旋回制御バイパス構造を、その実施の形態を表した図面に基づいて詳細に説明する。図2は遠心形送風機11の概略図であり、羽根車1に吸入流体を導入するための吸込管2の羽根車近寄り部に、本発明の吸込流予旋回制御バイパス構造が適用されている。
【0010】
この吸込管2の羽根車近寄り部の外部に閉空間領域を形成する流体室3が併置されると共に、この流体室と吸込管2とが吸入流体の流通方向に沿って配置された複数の連通路4を介して接続されている。なお、この連通路は後述するが、吸入流体の流通方向に沿って少なくとも三以上設けられる。ちなみに、図2は、閉空間領域を形成する流体室3が吸込管2の外部に設けた筐体3Aであり、連通路4は筐体3Aと吸込管2とを接続するパイプ4Aとなっている例である。
【0011】
このような構造は、連通路4を介して吸込管2と流体室3との間における圧力伝達ならびに流体の流出入が可能となっていると共に、流体室3と連通路4とにより、吸込管2のバイパス経路を吸入流体の流通方向に沿って配置された各連通路の適宜な組み合わせにより複数形成させ、吸入流体の一部にバイパス流を発生させることができるようにした予旋回制御バイパス機構5が形成される。
【0012】
ところで、予旋回制御バイパス機構5と送風機羽根車1とは、図3に示すモデル図において定義される諸寸法記号を用いてZ1 とZ2 とにより規定される相対位置関係をとる。なお、図中の白抜き矢印21は吸入流体が、羽根車1に流れる方向を示している。
【0013】
まず、吸込管2の羽根車近寄り部が、吸入流体の流通方向に沿って異なった内径を有するn個の円筒部21 ,22 ,・・・,2n-1 ,2n と、隣り合う異なる内径の円筒部の間を接続する截頭円錐部2a1 ,2a2 ,・・・,2an-2 ,2an-1 とからなっているとした一般例について述べる。
【0014】
各円筒部21 ,22 ,・・・,2n の内径をd1 ,d2 ,・・,dn とし、その最大内径をdMAX 、最小内径をdMIN と表し、各截頭円錐部2a1 ,2a2 ,・・・,2an-1 の軸方向長さをBi (但しi=1,2,3,…,n−1)と定義したとき、送風機の後述する基準位置ZP から予旋回制御バイパス機構5の上流側点までの長さをZ1 とし、基準位置ZP から予旋回制御バイパス機構5の下流側点までの長さをZ2 としたとき、
【数1】
Figure 0003584704
を満たすような位置関係が、予旋回制御バイパス機構5と羽根車1との間に与えられることが好ましい。
【0015】
なお、予旋回制御バイパス機構5の上流側点とは、円筒部21 に設けられた連通路41 の開口4d1 の中心位置を意味し、バイパス機構5の下流側点とは、円筒部2n に設けられた連通路4n の開口4dn の中心位置を意味する。また、送風機の基準位置ZP とは、羽根車軸1aの方向において吸込管側にある羽根の端部の位置であり、羽根車側板に固定した口金が設けられている場合には、その口金の羽根車軸1aの方向における流れの最上流端部の位置であって、物理的には羽根車へ流入する流体が羽根から力を直接的に受け始める位置である。なお、この基準位置ZP については、送風機の種類ごとに異なるので、後にさらに詳しく説明する。
【0016】
上式(a) において、Z1 を2・dMAX +ΣBi 以下と選定しているのは、2・dMAX +ΣBi より大きい領域においては本発明でとり挙げている予旋回がほとんど生じないからであり、Z1 を2・dMAX +ΣBi より大きくしても本発明による効果を発揮させることのできないことが、本発明者らによって確認されているからである。
【0017】
一方、上式(b) においてZ2 の下限値を0.03・dMIN としているのは、羽根車1の吸込管最近接部とバイパス機構の存在領域との距離を極力小さくしておくことが、羽根車へ流入する流体の予旋回角速度を小さくするうえで必要であるとの理由である。しかし、Z1 よりも小さければ、次に述べる式(c) または式(d) の条件を満たすかぎり大きくても差し支えないことも、本発明者らの研究により判明している。反面、Z2 を0.03・dMIN より小さい値とする場合にはZ2 が基準位置ZP に接近しすぎることになり、後述する羽根車へ流入する流体が羽根から力を直接受けない限界位置であるZ3 より反吸込管側の位置となってしまうことが多くなるからである。
【0018】
上で触れたごとく、本発明においては以下の条件をも考慮すべきである。
まず、dMAX >100mm,dMIN >100mmの場合には、
【数2】
Figure 0003584704
を満たし、
MAX ≦100mmまたはdMAX >100mmであり、かつ、dMIN ≦100mmの場合には、
【数3】
Figure 0003584704
を満たす位置関係が、予旋回制御バイパス機構と羽根車との間に与えられることが適切であることも幾多の実験等により把握された。いずれも、適宜な領域を有したバイパス機構を実現し、バイパス流の発生を可能にしようとする意図のものである。
【0019】
以上は吸込管2の内径に変化がある場合を一般的に表示したものであるが、吸込管の羽根車近寄り部が吸入流体の流通方向に沿って一定内径d0 (図1を参照)の円筒部となっている場合には、dMAX =dMIN =d0 であり、Bi =0となるので、前記の式(a) と(b) とは、
【数4】
Figure 0003584704
と簡略化される。そして、d0 >100mmの場合には、
【数5】
Figure 0003584704
の条件が付加され、d0 ≦100mmの場合には、
【数6】
Figure 0003584704
が付加された条件によって規定される位置関係が、予旋回制御バイパス機構5と羽根車1との間に与えられることになる。
【0020】
ここで、上記の式(a'), (b'), (c')について、具体的な数値を与えた実例を挙げる。
(i)d0 =200mmの吸込管である場合、
【数7】
Figure 0003584704
となり、
(ii)d0 =150mmの吸込管である場合、
【数8】
Figure 0003584704
となる。その中からZ1 ,Z2 を選定すると、(i) の場合には表1の(A)のような組み合わせ例が、また(ii)の場合には表1の(B)のような組み合わせ例のあることが分かる(単位はいずれもmm)。
【表1】
Figure 0003584704
【0021】
次に、上記の式(a'), (b'), (d')について、具体的な数値を与えた実例を挙げる。
(iii) d0 =100mmの吸込管である場合、
【数9】
Figure 0003584704
となり、
(iv)d0 =50mmの吸込管である場合、
【数10】
Figure 0003584704
となる。その中からZ1 ,Z2 を選定すると、(iii) の場合には表2の(A)のような組み合わせ例が、また(iv)の場合には表2の(B)のような組み合わせ例のあることが分かる(単位はいずれもmm)。
【表2】
Figure 0003584704
【0022】
なお、送風機が図2のような遠心形送風機であって、その場合の前記した基準位置ZP は、図4の(c)に示したように遠心形羽根車の羽根1A1 の吸込管側に側板1pが、また反吸込管側に主板1qが取り付けられており、側板1pに固定した口金(マウスリング)1mが設けられているときは、口金1mの羽根車軸1aの方向における流れの最上流端部の位置ZPcに選定される。
【0023】
ところで、送風機には回転している羽根車1が存在し、かつ、羽根車手前に吸込管2が存在する。これら二者が存在してこそ、送風機羽根車へ流入する流体の流れに予旋回が発生する。したがって、羽根車1と吸込管2との位置関係が上記した構成を持つことが必須要件とされ、そのうえで予旋回を持つ流れの旋回方向速度に起因するエネルギを合理的に制御するための機構を実現することとなる。本発明の本質は、羽根車1,吸込管2,予旋回制御機構の三位一体構成の中にある。
【0024】
本発明の機構は羽根車1へ流入する流体の流れにおいて、流体を媒体とする羽根車の上流側に設置したエネルギのバイパス機構である。本機構の構成は吸込管の特定領域をバイパス機構の一部として共用し、さらに吸込管2の外部に流体の流動を可能とする閉空間領域を持ち、後述する図1に示すように、流体室3としての閉空間領域と吸込管2とは連通路4なる経路によって統合されるという構成となっている。なお、連通路4は吸込管2内の吸入流体の流通方向に三以上設けられるので、バイパス経路が複数確保されるようになっている。
【0025】
本機構の構成上、次の二点について配慮しておくことが好ましい。(1)バイパス機構の存在領域は、送風機羽根車との相対位置関係を表すにあたり、羽根車近寄り部における吸込管直径および截頭円錐部の軸方向長さを基準とした数値限定によって規定しておくこと、(2)閉空間領域と連通路とによって形成する吸込管のバイパス経路は単一ではなく複数存在させておくことである。この理由は後述する〔作用イ〕の記述中に示される。なお、いかなる連通路にせよ、そのそれぞれの連通路は、吸込管と閉空間領域の流体室とで圧力の伝達および流体の流動が可能であるような経路として存在することが必要である。
【0026】
本発明においては、以下の点について考慮しておく必要がある。第一には、吸込管2内の予旋回を持つ流れの旋回方向速度に起因するエネルギを有効な仕事へ変換する作用原理の定式化である。第二には、旋回方向速度に起因するエネルギを有効な仕事へ変換するとなぜ送風機軸動力が低減するかの定式化である。第三として、予旋回を持つ流れの旋回方向速度成分を減少させると、なぜ送風機羽根車による昇圧量(ヘッド)が増大するかの定式化である。最後に、予旋回制御バイパス機構の存在によりなぜ送風機騒音が低減されるかの定性的説明である。なお、以下においては、上記4点について、〔作用イ〕ないし〔作用ニ〕と表示した項において説明する。
【0027】
以上の各項目のそれぞれについて、吸込流予旋回制御バイパス構造のない場合とある場合とを対比しながら述べることにする。
【0028】
〔作用イ〕 吸込管2内の予旋回を持つ流れの旋回方向速度に起因するエネルギを有効な仕事へ変換する作用原理の定式化について述べる。
【0029】
図7および図8は送風機吸込側がダクト配管されるような場合であって、吸込管2が十分に長い直管である。バイパス機構のない場合が図7であり、バイパス機構のある場合が図8である。図9および図10は送風機吸込側にダクト配管がなく、大気開放状態にある吸込管2を有する。バイパス機構のない場合が図9であり、バイパス機構のある場合が図10である。
【0030】
送風機を設計流量外の或る流量点で定常運転すると、羽根車1へ流入する流体の流れにおいて羽根車の上流側位置Z0 (図9および図10ではZ0 ≒Z1 と推定される)から予旋回角速度を持ち始め、羽根車直近位置Z3 において角速度ω3 を持つまでに加速される。なお、羽根車直近位置Z3 とは、羽根車へ流入する流体が羽根車の羽根から力を直接受けない限界位置を意味している。ちなみに、Z3 は前述した基準位置ZP に極めて近似した値である。
【0031】
図8および図10において示されるω3'は、後述する式(5) で示すように、バイパス機構存在領域Z1 〜Z2 において旋回方向速度成分の1/2を消滅させた流れが、羽根車直近領域Z2 〜Z3 において再び角加速度の作用を受けてZ3 の位置で角速度ω3'を持つことを意味する。なお、Z0 とω3 とを結ぶ直線の勾配とω2'とω3'とを結ぶ直線の勾配とは等しいと考えられる。
【0032】
図8と図10との本質的な差異は距離Z0 〜Z3 の大小である。この差異はZ0 とω3 とを結ぶ直線の勾配の大小を生み、位置Z1 における予旋回角速度ω1 に対して、位置Z2 における予旋回角速度ω2 に対して、さらに位置Z3 における予旋回角速度ω3'に対して距離Z2 〜Z3 の大小にも従属しつつ影響を与えるところが大きいものである。
【0033】
念のために、ω1 は予旋回制御バイパス機構がない場合に位置Z1 で発生する予旋回角速度であるのに対して、ω1'は予旋回制御バイパス機構5があることにより発生するバイパス流5aによって軽減された位置Z1 における予旋回角速度である。同様に、ω2 は予旋回制御バイパス機構がない場合に位置Z2 で発生する予旋回角速度であるのに対して、ω2'は予旋回制御バイパス機構5があることにより発生するバイパス流5aによって軽減された位置Z2 における予旋回角速度である。さらに、ω3 は予旋回制御バイパス機構がない場合に位置Z3 で発生する予旋回角速度であるのに対して、ω3'は予旋回制御バイパス機構5があることにより発生したバイパス流5aによって軽減された位置Z3 における予旋回角速度である。
【0034】
図7および図9に示すように、バイパス機構のない場合では吸込管内壁近くに逆流31(渦流れ)が発生する。図8および図10に示すようにバイパス機構のある場合では、流体の流動を可能とする閉空間領域を介して逆流(循環流れ)としてのバイパス流5aが発生する。この作用原理は図8と図10に示すバイパス機構のあるモデルを用い以下に示すように定式化される。
【0035】
吸込管2内の予旋回は、羽根車1よりエネルギを与えられて旋回方向速度を持つので強制渦巻運動である。板谷松樹著「水力学」昭和49年2月15日:第14版(朝倉書店発行)第73頁ないし第75頁により、強制渦巻運動場での圧力エネルギの一般式は次式で与えられる。
【数11】
Figure 0003584704
なお、右辺第1項は動圧エネルギを意味し、第2項は遠心力による静圧エネルギを意味する。ρは流体の密度であり、uは強制渦巻運動の旋回方向速度である。そして、P=ρ・u2 を得る。
【0036】
また、前掲のA.J.ステパノフ著「第2版遠心及び軸流ポンプ」第40頁によれば、 予旋回流れ場において吸込管内壁近くでの遠心力による静圧は+ρ・u2 /2・1/2であって、吸込管内中心近くでの遠心力による静圧は−ρ・u2 /2・1/2である。したがって、上記両静圧の合計は、
【数12】
Figure 0003584704
であることが示されている。
【0037】
図8および図10に示されるバイパス機構5において強制渦巻運動である予旋回の圧力エネルギを有効に伝達できるのは、遠心力による静圧+ρ・u2 /2・1/2=ρ/4・u2 である。したがって、吸込管内壁バイパス機構部にて伝達される予旋回に起因した静圧は次式のように定式化される。図8および図10において示される位置Z1 における伝達静圧は、P1 =ρ/4・u1 2 であり、位置Z2 における伝達静圧は、P2 =ρ/4・u2 2 である。
【0038】
ここで、吸込管2の径はその管軸方向の位置Zによらず一定であるとし、吸込管内中心より管内壁までの半径をr0 、位置Z1 の旋回角速度をω1 、Z2 でω2 とすれば、u1 =r0 ・ω1 、u2 =r0 ・ω2 と表すことができ、P1 およびP2 は以下のようになる。
【数13】
Figure 0003584704
【0039】
図8および図10において示されるバイパス機構部の詳細モデル図として図1を提示する。図中のr0 は吸込管内中心より吸込管内壁までの半径、PC はバイパス機構部閉空間領域内の静圧、P1 は図に示される位置Z1 における伝達静圧、P2 は図に示される位置Z2 における伝達静圧、S1 は位置Z1 におけるバイパス機構開口部面積、S2 は位置Z2 におけるバイパス機構開口部面積、図中のv1 は位置Z1 におけるバイパス機構開口部より吸込管内へ流出する流体速度、v2 は位置Z2 における吸込管内よりバイパス機構開口部へ流入する流体速度である。
【0040】
古屋善正他共著「流体工学」昭和54年9月1日:初版第19刷(朝倉書店発行)第34頁ないし第35頁より次のことが知られる。すなわち、バイパス機構部閉空間領域内の流体に伝達静圧がなす仕事の総量は、バイパス機構部閉空間領域内の流体の持つ運動エネルギの変化量に等しい。
【0041】
以下に上記記述の定式化をする。単位時間内にバイパス機構部閉空間領域の流体に伝達静圧がなす仕事の総量をWとする。
【数14】
Figure 0003584704
ここで、連続の式からS2 ・v2 =S1 ・v1 であるので、W=(P2 −P1 )・S1 ・v1 が得られる。単位時間内のバイパス機構部閉空間領域内流体の持つ運動エネルギの変化量をEとし、流体の密度をρとすれば、
【数15】
Figure 0003584704
ここで、E=Wとすれば、
【数16】
Figure 0003584704
から、次の式(3) を得る。
【数17】
Figure 0003584704
式(3) に式(1) 式(2) を代入すると、
【数18】
Figure 0003584704
となり、次式(4) を得る。
【数19】
Figure 0003584704
式(4) の意味とすることろは次のように表現できる。すなわち、バイパス機構部において予旋回に起因する静圧エネルギを流体の持つ運動エネルギへ変換することが可能である。
【0042】
なお、式(4) の導出にあたっては、吸込管内中心より吸込管内壁までの半径は管軸方向の位置Zによらず一様であるとの前提に立っている。ところで、図3に示すような位置Zにより半径が異なる場合を考える。すなわち、位置Z1 における半径をr1 とし、位置Z2 における半径をr2 とし、r1 >r2 であるとする。式(4) の1/2・r0 2 ・(ω2 2 −ω1 2 )の項に着目すると、この項は、1/2・(r2 2 ・ω2 2 −r1 2 ・ω1 2 )と変形することができる。仮定したように、r1 >r2 であるが、その一方ω1 <ω2 と考えられるので、1/2・(r2 2 ・ω2 2 −r1 2 ・ω1 2 )の項は、正の値をとると保証できるものでない。
【0043】
換言すれば、このような状態にあるバイパス機構部においては、予旋回に起因する静圧エネルギを流体の持つ運動エネルギへ変換することが可能とは必ずしも保証することができない。したがって、送風機の吸込管2内の羽根車近寄り部の截頭円錐部2a1 ,2a2 ,・・・,2an-1 である異径連絡部の距離をバイパス機構部存在領域として有効な区間とみなすことはできない。
【0044】
以下の記述は本発明の技術的創作において基幹をなすところであって、従来の技術体系には存在しない新規な概念である。バイパス機構存在領域における予旋回を持つ流れの挙動は、以下のようであると考えられる。吸込管内中心より吸込管内壁までの半径r0 の位置においてバイパス機構5の閉空間領域内の流体へ伝達される静圧は、旋回角速度をωとすれば、ρ/4・r0 2 ・ω2 である。ここで、そもそも静圧エネルギの存在は予旋回を持つ流れの旋回方向速度が存在してこそ成立するわけであるから、ρ/4・r0 2 ・ω2 なる静圧がバイパス機構の閉空間領域内の流体へ仕事をなすことによって、予旋回を持つ流れの旋回方向速度の運動エネルギであるρ/2・r0 2 ・ω2 も消滅することになる。
【0045】
吸込管内中心より吸込管内壁までの半径r0 の位置において予旋回を持つ流れの旋回方向速度に起因する全エネルギは、本来ρ・r0 2 ・ω2 であるから、
【数20】
Figure 0003584704
なる旋回方向速度に起因するエネルギが、予旋回を持つ流れに保存されていると考えられる。ここで、
【数21】
Figure 0003584704
と二とおりの表現が可能となる。そして、その物理的意味は次のようになる。すなわち、式(5) の表現では吸込管内半径位置r=r0 において、旋回角速度は実際には観測されないが、潜在的にω/2なる旋回角速度を有するに相当するエネルギを持つ状態として旋回方向速度成分を持つ流れが存在している。
【0046】
一方、式(6) の表現では吸込管内半径位置r=r0 /2において、旋回角速度ωを持つ状態として旋回方向速度成分を持つ流れが存在し、吸込管内半径位置r0 /2<r≦r0 の領域において、流れは旋回方向速度成分を持たない状態として存在している。実際に観測されるのは式(6) により表現される状態である。
【0047】
以上を整理すると、バイパス機構存在領域において予旋回を持つ流れは、吸込管内半径位置0≦r≦r0 /2の領域では本来持っている旋回角速度ωを持つ流れであり、吸込管内半径位置r0 /2<r≦r0 の領域では、旋回角速度は持たないが式(4) で表現される羽根車1へ向かう流れ方向の速度方向を持つ速度v1 の流れとなる。
【0048】
ところで、吸込管内半径位置0≦r≦r0 /2の領域において旋回方向速度成分を持つ流れが存在しているために、吸込管内半径位置r=r0 /2付近に旋回方向速度に起因する静圧の上昇部が生じる。したがって、バイパス機構の開口4d1 より初速度v1 にて吸込管内へ流出した流れは、初速度が吸込管内中心へ向かう方向であるにもかかわらず吸込管内半径位置r=r0 /2付近での静圧の上昇部圧力に打ち勝ち、そのまま初速度の方向を維持することができなくなって、エアクッションにぶつかるようにして速度の方向を羽根車1へ向かうように変える。
【0049】
ここまでに記述した作用原理によって送風機の吸込管内羽根車近寄り部に発生する予旋回を持つ流れの旋回方向速度に起因したエネルギの一部(これを式(4) として定式化)を、羽根車1が流体になす有効な仕事へ変換できる。同時に式(5) による表現をとれば、予旋回を持つ流れが当初に持つ旋回角速度の1/2を消滅させた流れへと変化させることができる。
【0050】
これらの作用を効果的に実現するということ、換言すれば、予旋回制御バイパス機構の存在領域内全範囲にわたって上記作用を確実に行うということは、次のことを意味する。すなわち、その内部を送風機羽根車へ向かって流体が流れるバイパス機構の一部として共用する吸込管に、圧力伝達ならびに流体の流動を可能とするバイパス経路がバイパス機構存在領域内全範囲にわたってむらなく均一に存在すべきである。したがって、閉空間領域と連通路とによって形成する吸込管のバイパスは単一ではなく、図8や図10中にバイパス流を記入したごとく複数存在することが必要となることが分かる。
【0051】
なお、複数のバイパス流5aは、吸入流体の流通方向に沿って連通路4が三以上配置されることによって実現されるものであり、図8のように下流側の一つの連通路から上流側の二以上の連通路を介して流動するバイパス流もあれば、下流側の二つの連通路から上流側の一つの連通路を介して流動するバイパス流もあるはずである。要するに、下流側の幾つかの連通路から流体室3に流入し、上流側の幾つかの連通路から吸込管へ流出するという経路をたどるものであって、上記したごとく、均一に発生させるべきものである。したがって、流通方向に沿って連通路4が二つ配置される場合には均一なバイパス流は望み得ないということになる。
【0052】
〔作用ロ〕 旋回方向速度に起因するエネルギを有効な仕事へ変換すると、なぜ送風機軸動力が低減するかの定式化について述べる。
【0053】
図11および図12は、送風機吸込側がダクト配管されるような場合であって吸込管2が十分に長い直管である。バイパス機構のない場合が図11であって、バイパス機構のある場合が図12である。図中のZD は羽根車へ向かう方向の流体速度が0である位置、Z3 は羽根車直近位置、Z1Fはバイパス機構存在領域直前位置、Z1Bはバイパス機構存在領域直後位置、VD は位置ZD における羽根車へ向かう方向の吸込管内流体平均速度、V3 は位置Z3 における羽根車1へ向かう方向の吸込管内流体平均速度、VF は位置Z1Fにおける羽根車へ向かう方向の吸込管内流体平均速度、VB は位置Z1Bにおける羽根車へ向かう方向の吸込管内流体平均速度、v1 は位置Z1Bにおいてバイパス機構開口部より吸込管内へ流出したあと羽根車へ向かう方向へ速度の方向を変える流体の速度であり、図1における位置Z1 におけるバイパス機構開口部より吸込管内へ流出する流体速度v1 と同じものである。
【0054】
古屋善正他共著「流体工学」昭和54年9月1日:初版第19刷(朝倉書店発行)第34頁ないし第35頁より次のことが知られる。すなわち、位置ZD と位置Z3 との間で羽根車が流体になす仕事の総量は、位置Z3 における流体の持つ運動エネルギと位置ZD における流体の持つ運動エネルギとの差に等しい。
【0055】
ここで、図11に示すモデルにおいて羽根車が流体になす仕事の総量をE6 として、図12に示すモデルで羽根車が流体になす仕事の総量をE7 とすれば、
【数22】
Figure 0003584704
と表現されるΔEが、バイパス機構の存在ゆえに羽根車の流体になす仕事の減少分、換言すれば、羽根車を駆動するための動力である送風機軸動力の低減量である。
【0056】
以下に、上記記述の定式化をする。ここで、ρは流体の密度、Qは単位時間内に吸込管内を流れる流体流量、Q1 は位置Z1Bにおいてバイパス機構開口部より吸込管内へ流出したあと羽根車へ向かう方向へ速度の方向を変える流体速度v1 を持つ流体流量、Q2 はQよりQ1 を除いた流体流量である。
【数23】
Figure 0003584704
であり、定義より、VD =0であるゆえ次式のようになる。
【数24】
Figure 0003584704
【0057】
一方、E7 は、位置ZD から位置Z1Fまでの間と、位置Z1Bから位置Z3 までの間とに分けて考え、
【数25】
Figure 0003584704
定義より、VD =0であるゆえ
【数26】
Figure 0003584704
式(8) 式(9) を式(7) に代入して、
【数27】
Figure 0003584704
定義より、Q=Q1 +Q2 であるゆえ、
【数28】
Figure 0003584704
【0058】
ところで、図10に示すような吸込管2の開口部大気開放状態では、流体流量Q1 にかかわる領域でVF ≒0、流体流量Q2 にかかわる領域でVB ≒VF であるゆえ、式(10)は、ΔE=1/2・ρ・Q1 ・v1 2 となり、式(4) において表現される速度を持つ流体の運動エネルギすべてを送風機軸動力の低減へと役立たせることが可能となる。
【0059】
〔作用ハ〕予旋回を持つ流れの旋回方向速度成分を減少させると、なぜ送風機羽根車による昇圧量が増大するかの定式化について述べる。
【0060】
古屋善正他共著「流体工学」昭和54年9月1日:初版第19刷(朝倉書店発行)第 249頁ないし第 253頁より、送風機羽根車による昇圧量をΔPとすると、その一般式は次式であることが知られる。
【数29】
Figure 0003584704
なお、ρは流体の密度、UO は羽根車入口直前の流体の旋回方向速度、U3 は羽根車出口直後の流体の旋回方向速度、WO は羽根車入口直前の羽根車内流路に沿った方向の流体の相対速度、W3 は羽根車出口直後の羽根車内流路に沿った方向の流体の相対速度である。或る一定の流量にて送風機を運転する場合、羽根車入口直前での予旋回の有無にかかわらず、U3 、W3 、WO の値は一定であると考えられる。
【0061】
ここで羽根車入口直前において予旋回による旋回方向速度の値に差異がある場合を考えると、或る一定の流量において送風機を運転するかぎり、UO の値が小さいほど送風機羽根車による昇圧量ΔPは大きいと言うことが式(11)から自明である。すなわち、予旋回制御バイパス機構において予旋回を持つ流れが旋回角速度を半減された後に、羽根車入口直前における旋回方向速度成分が小さければ小さいほど送風機羽根車による昇圧量は大きいものとなる。
【0062】
〔作用ニ〕予旋回制御バイパス機構の存在により、送風機騒音が低減されることの定性的説明を以下に述べる。
【0063】
図7および図9において示されるような予旋回制御バイパス機構が存在しない場合を考えると、〔作用イ〕の説明において述べたように予旋回を持つ流れの旋回方向速度に起因する静圧の影響のために、吸込管内中心近くでは送風機羽根車によって作られる負圧圧力場の負圧の程度がより一層強くなる。
【0064】
一方、吸込管内壁面近くでは反対に負圧圧力場の負圧の程度が弱められる。したがって、吸込管内を羽根車へ向かって流れる流体は吸込管内中心近くでは負圧の程度が大きいために大きな加速度が与えられ、羽根車入口直前において大きな速度を持つ。一方、吸込管内壁面近くでは負圧の程度が小さいため、流体は加速度を十分与えられず、羽根車入口直前においても小さな速度を持つにすぎない。結果として羽根車入口直前において羽根車中心付近に過大な流体が押し寄せ、羽根車内の流路へ流体が入りきれずに留まり、羽根車中心付近に淀みが生じる。このときに乱流騒音としての騒音が発生するものと考えられる。
【0065】
他方、図8および図10において示されるような予旋回制御バイパス機構5が存在する場合、予旋回制御バイパス機構の存在は上記作用のいずれもがその作用を小さくするような効果を生む。すなわち、吸込管内の負圧圧力場が比較的均一な圧力場となる。したがって、羽根車入口直前において羽根車1へ向かって流れる流体の速度も比較的均一な流れとなり、ある箇所に過大な流体が押し寄せることはなくなる。その結果、流れの淀みが発生することなく、流体は羽根車内の流路へ無理なく流入する。それゆえ、予旋回制御バイパス機構の存在は吸込管内羽根車直近部における流れを改善し乱流騒音の発生を抑制する効果を発揮する。
【0066】
ところで、基準位置ZP に関して、前述の例は遠心形送風機であって、図4の(c)の羽根の吸込管側に側板が取り付けられ、側板に固定した口金が設けられている場合についてはZPcであると説明した。しかし、遠心形送風機の羽根の羽根車軸方向における吸込管側に側板がない場合は、以下の基準位置が採用される。もちろん、前記した式(a) ,(b) ,(c) ,(d) がそのまま適用できることは思想上当然であり、またその確認もなされている。
【0067】
まず、図4の(a)に示すように、遠心形羽根車の羽根1A1 の吸込管側に位置する側縁における羽根入口端pa1が羽根出口端pa2よりも羽根車軸1aの方向において吸込管側にあるときは、羽根車軸方向における羽根入口端pa1に対応する位置が基準位置ZPaとして選定される。一方、図4の(b)に示すように、羽根出口端pb2が羽根入口端pb1よりも羽根車軸1aの方向において吸込管側にあるときは、羽根車軸方向における羽根出口端pb2に対応する位置が基準位置ZPbとして選定される。
【0068】
送風機が図5の(a)に示す軸流形送風機12である場合には、軸流形羽根車の羽根1A2 の前縁1cにおける翼根pd1が翼端pd2よりも羽根車軸1aの方向において吸込管側にあるとき、羽根車軸方向における翼根pd1に対応する位置が基準位置ZPdとされる。一方、図5の(b)に示すように、羽根1A2 の前縁1cにおける翼端pe2が翼根pe1よりも羽根車軸1aの方向において吸込管側にあるときは、羽根車軸方向における翼端pe2に対応する位置を基準位置ZPeとされる。
【0069】
送風機が斜流形送風機の場合であって、斜流形羽根車の羽根1A3 の端部に側板1rが取り付けられており、図6の(c)のように、側板1rに固定した口金(マウスリング)1nが設けられているときは、口金1nの羽根車軸1aの方向における流れの最上流端部の位置が基準位置ZPhとして選定される。
【0070】
斜流形送風機の羽根端に側板がない場合であって図6の(a)に示すように、羽根1A3 の前縁1dにおける翼端pf2が翼根pf1よりも羽根車軸1aの方向において吸込管側にあるときは、基準位置は羽根車軸方向における翼端pf2に対応する位置ZPfとされる。一方、図6の(b)に示すように、羽根前縁1dにおける翼根pg1が翼端pg2よりも羽根車軸方向において吸込管側にあるときは、羽根車軸方向における翼根pg1に対応する位置が基準位置ZPgとして選定されることになる。
【0071】
ちなみに、閉空間領域を形成する流体室3は、図1に示した吸込管2の外部に設けられた筐体3Aであり、連通路4は筐体と吸込管とを接続するパイプ4Aであるとして説明してきたが、これに代えて、図13ないし図15に示すように、閉空間領域を形成する流体室3は、吸込管2の羽根車近寄り部の外周に形成されたリング状空間3Bであり、連通路4はリング状空間と吸込管とを画成する吸込管周壁2mに設けられた穿孔4Bであるという構造とした場合でも同様な効果を発揮させることができる。
【0072】
なお、流体室をリング状空間とする場合には、送風機を新規に製作する時からその機構の装着を念頭において設計することになるが、図2に示した筐体3Aとパイプ4Aからバイパス機構を形成させる場合は、既成の送風機に爾後的に装着することもできる利点がある。リング状空間を流体室とした場合の図にあるように、吸入流体の流通方向に沿って配置された連通路は三以上存在することはもとより、連通路を円周面に複数列配置すればバイパス機構による効果は一層増強される。したがって、図2においてはパイプが一列となっているが、三以上からなる連通路の列を多数配置するようにしてもよい。
【0073】
以上の説明から分かるように、連通路を介して吸込管と流体室との間における圧力伝達ならびに流体の流出入が可能となるように、流体室と連通路とによって吸込管のバイパス経路を形成させることができる。したがって、吸入流体の一部にバイパス流を発生させることによって、送風機の吸込管内羽根車近寄り部に発生する予旋回を持つ流れの旋回方向速度に起因するエネルギが合理的に制御される。
【0074】
本発明にしたがえば、送風機軸動力の低減あるいは送風機羽根車による昇圧量の増大を導き、送風機効率を2%ないし9%といったように向上させることが可能となる。また、吸込管内羽根車直近部における流れの改善を導き、送風機騒音が1.5dBないし4dBも低減させることができる。これについての具体的な説明を以下に記述する。ちなみに、2dBの低減といえども、室内等に設置される送風機においてはその減音効果は著しいものである。
【0075】
【実施例】
送風機の予旋回制御バイパス機構を具体的に適用したAないしEの例として図番に対照させた具体例主要諸元を表3として提示する。
【表3】
Figure 0003584704
なお、例Dは図15の送風機に直管を接続したものであり、図15から容易に想像できるので図面は割愛されている。
【0076】
送風機の予旋回制御バイパス機構を具体的に適用したAないしEの例として図番に対照させた具体的効果を表4に掲げる。
【表4】
Figure 0003584704
ここで、「送風機効率の差」とは〔バイパス機構ありの場合の送風機効率(%)〕−〔バイパス機構なしの場合の送風機効率(%)〕である。ただし、送風機吐出側での流量、圧力測定値において算出した最高効率点の値である。「送風機騒音の差」とは〔バイパス機構ありの場合の送風機騒音dB(A)〕−〔バイパス機構なしの場合の送風機騒音dB(A)〕である。ただし、最高効率点におけるものであって、大気開放状態の場合の騒音値は吸込管開口部正面1メートル位置での測定値であり、直管接続の場合は接続部側面1メートル位置での測定値である。なお、例Dは表3の場合と同様である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る送風機の吸込流予旋回制御バイパス構造における吸込管内の予旋回を持つ流れの旋回方向速度に起因するエネルギを有効な仕事へ変換する作用原理の定式化〔作用イ〕の説明に使用したモデル図。
【図2】送風機予旋回制御バイパス機構を具体的に適用した例Eとしての遠心形送風機の一例の斜視図。
【図3】吸込管の管内径を一般表示した解析用のモデル図。
【図4】遠心形送風機の各基準位置を示し、(a)は羽根に羽根車軸方向における吸込管側に側板および口金が設けられなく、羽根の吸込管側に位置する側縁における羽根入口端が羽根出口端よりも羽根車軸の方向において吸込管側にあるときのモデル図、(b)は羽根出口端が羽根入口端よりも羽根車軸の方向において吸込管側にあるときのモデル図、(c)は羽根の吸込管側に側板が取り付けられ、側板に固定した口金が設けられている場合のモデル図。
【図5】軸流形送風機の各基準位置を示し、(a)は羽根前縁における翼根が翼端よりも羽根車軸の方向において吸込管側にあるときのモデル図、(b)は翼端が翼根よりも羽根車軸の方向において吸込管側にあるときのモデル図。
【図6】斜流形送風機の各基準位置を示し、(a)は羽根に側板および口金が設けられなく、羽根前縁における翼端が翼根よりも羽根車軸の方向において吸込管側にあるときのモデル図、(b)は翼根が翼端よりも羽根車軸方向において吸込管側にあるときのモデル図、(c)は羽根の端部に側板が取り付けられ、側板に固定した口金が設けられているときのモデル図。
【図7】送風機吸込側がダクト配管された場合の〔作用イ〕の説明に使用したバイパス機構のない場合のモデル図。
【図8】送風機吸込側がダクト配管された場合の〔作用イ〕の説明に使用したバイパス機構のある場合のモデル図。
【図9】吸込側にダクト配管がなく大気開放状態にある吸込管の場合の〔作用イ〕の説明に使用したバイパス機構のない場合のモデル図。
【図10】吸込側にダクト配管がなく大気開放状態にある吸込管の場合の〔作用イ〕の説明に使用したバイパス機構のある場合のモデル図。
【図11】吸込側がダクト配管されるような場合であって、吸込管が十分に長い直管とした場合の旋回方向速度に起因するエネルギを有効な仕事へ変換するとなぜ送風機軸動力が低減するかの定式化〔作用ロ〕の説明に使用したバイパス機構のない場合のモデル図。
【図12】吸込側がダクト配管されるような場合であって、吸込管が十分に長い直管とした場合の〔作用ロ〕の説明に使用したバイパス機構のある場合のモデル図。
【図13】送風機予旋回制御バイパス機構を具体的に適用した例Aとしての軸流形送風機の一例の斜視図。
【図14】送風機予旋回制御バイパス機構を具体的に適用した例Bとしての遠心形送風機の一例の斜視図。
【図15】送風機予旋回制御バイパス機構を具体的に適用した例Cとしての遠心形送風機の一例の斜視図。
【符号の説明】
1…羽根車、1A1 …遠心形羽根車の羽根、1A2 …軸流形羽根車の羽根、1A3 …斜流形羽根車の羽根、1a…羽根車軸、1c,1d…前縁、1p…遠心形羽根車の側板、1m…遠心形羽根車の口金、1r…斜流形羽根車の側板、1n…斜流形羽根車の口金、2…吸込管、21 ,22 ,・・・,2n-1 ,2n …吸込管の円筒部、2a1 ,2a2 ,・・・,2an-2 ,2an-1 …吸込管の截頭円錐部、2m…吸込管の周壁、3…流体室、3A…筐体、3B…リング状空間、4…連通路、4A…パイプ、4B…穿孔、5…予旋回制御バイパス機構、5a…バイパス流、11…遠心形送風機、12…軸流形送風機、13…斜流形送風機、d0 …吸込管径を位置Zによらず一定であるとした場合の吸込管の内径、d1 ,d2 ,・・,dn …円筒部の内径、dMAX …円筒部の最大内径、dMIN …円筒部の最小内径、Z1 …基準位置から予旋回制御バイパス機構の上流側点までの長さ、Z2 …基準位置から予旋回制御バイパス機構の下流側点までの長さ、ZP ,ZPa,ZPb,ZPc,ZPd,ZPe,ZPf,ZPg,ZPh…基準位置。

Claims (1)

  1. 送風機の羽根車に吸入流体を導入するための吸込管が設けられている送風機の流体吸込部構造において、
    前記吸込管の羽根車近寄り部の直径が一定であり、その外周部にリング状の閉空間領域を形成する流体室が併設され、
    該流体室は、吸入流体の流通方向に沿って配置された少なくとも三つの穿孔からなる連通路列が全周に形成された吸込管周壁を介して吸込管と連通され、
    前記連通路列における最上流側に位置する穿孔から最下流側に位置する穿孔までの距離は、羽根車近寄り部吸込管の内径の0.4倍より大きく2.0倍以下となっていることを特徴とする送風機の吸込流予旋回制御バイパス構造。
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