JP3584585B2 - 電子楽器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、押鍵に応じた楽音の発音を行う電子楽器に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、押鍵に応じて楽音の発音を行う電子楽器として、たとえば特開平6−95676号公報に記載のものが知られている。かかる電子楽器は、鍵の移動距離(変位)を元にして仮想のハンマの位置を計算し、この計算されたハンマの位置に基づいて楽音を発音していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の電子楽器では、鍵の移動距離を基にして楽音を発音するので、速くて短い押鍵操作をした場合に当該鍵が発音すべき条件にあっても発音されないことがあった。
【0004】
図5は、鍵の変位または鍵に加えた押鍵力の推移を示す図であり、図中、縦軸は変位または押鍵力の大きさを示し、横軸は時間を示している。曲線A,Bは、ともに鍵の変位の推移を示すグラフであり、曲線Aは、押鍵し続けたときの鍵の変位を示し、曲線Bは、キーオフの時点KOFFで離鍵したときの鍵の変位を示している。また、曲線C,Dは、ともに押鍵力の推移を示すグラフであり、曲線Cは、曲線Aに対応する押鍵力の推移を示し、曲線Dは、曲線Bに対応する押鍵力の推移を示している。同図から分かるように、鍵が与えられた押鍵力と鍵の変位とは比例していない。これは、鍵が慣性を有し且つ鍵を含む系が完全な剛体でないために、鍵に与えられた力はすべて鍵の変位に用いられずに、その一部は鍵を変形させることに用いられるからである。したがって、鍵の変位を基に発音を行おうとすると、速くて短い押鍵操作、すなわち図5に示すように、押鍵力が鍵の変形に用いられている(図中、Eで示す部分)ときにキーオフされるような押鍵操作では、発音すべき条件に達している(図中、キーオフの時点KOFFは発音すべき条件に十分到達している)にも拘わらず、楽音の発音がなされないことがあった。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、発音すべき条件に到達している押鍵力が与えられたすべての鍵の楽音を発音させることが可能な電子楽器を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため本発明は、音高情報を入力するための鍵を備えた鍵盤と、該鍵盤の鍵に加えられた押鍵力を検出する押鍵力検出手段と、該検出された押鍵力を積分して仮想的なハンマの速度を算出するハンマ速度算出手段と、該算出されたハンマ速度に基づいて仮想的なハンマの動作位置を算出するハンマ動作位置算出手段と、該算出されたハンマ動作位置およびハンマ速度に基づいて当該鍵に対応する楽音を発音する楽音発音手段とを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の構成に依れば、押鍵力検出手段により、鍵盤の鍵に加えられた押鍵力が検出され、ハンマ速度検出手段により、その検出された押鍵力を積分することにより仮想的なハンマの速度が検出され、ハンマ動作位置算出手段により、その算出されたハンマ速度に基づいて仮想的なハンマの動作位置が算出され、楽音発生手段により、その算出されたハンマ動作位置およびハンマ速度に基づいて当該鍵に対応する楽音が発音されるので、鍵に与えられた押鍵力を正確に算出でき、この押鍵力に応じて楽音を発音させることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0009】
図1は、本発明の実施の一形態に係る電子楽器の概略構成を示すブロック図である。
【0010】
同図において、本実施の形態の電子楽器は、音高情報を入力するための鍵盤1と、各種パラメータ情報等を入力するためのスイッチ群や各種情報を表示するディスプレイ等が配設された操作パネル2と、時間を計時するとともに、予め設定された時間毎にCPU6に対してタイマ割り込み信号を出力するタイマ3と、鍵盤1の各鍵の押下状態を検出するための鍵インタフェース4と、操作パネル2の各スイッチの状態を検出したり、各種情報を前記ディスプレイに表示できるデータにデータ変換したりするためのパネルインタフェース5と、装置全体の制御を司るCPU6と、該CPU6が実行する制御プログラムやテーブルデータ等を記憶するROM7と、各種パラメータ情報、演算結果、および各種入力情報等を一時的に記憶するRAM8と、前記鍵盤1から入力された音高情報や各種パラメータに応じて楽音信号を合成する楽音合成回路9と、該楽音合成回路9からの楽音信号を音響に変換する、たとえばスピーカ等からなるサウンドシステム10とにより構成されている。そして、各構成要素4〜9は、バス11を介して相互に接続されている。
【0011】
図2は、前記鍵盤1の構造を示す断面図である。
【0012】
同図に示すように、鍵21は、たとえば樹脂により形成され、その後端部に設けられた鍵支持部21aを介して、鍵支持部材である鍵盤フレーム22に上下動自在に係合されている。鍵21には、ハンマ回転軸24を介してハンマ23が回転自在に連結されている。ハンマ23は、鍵21に加えられた押鍵力Fを押鍵力検出部25に伝達するための押鍵力伝達部23aを有し、また、ハンマ23の重心は長手方向の先端部23bにあるようにしている。
【0013】
フレーム22には、更に、演奏者が押鍵したときに鍵21が横揺れするのを防止するための鍵ガイド26、ハンマ23の回転範囲を規制するためのハンマ上限ストッパ27およびハンマ下限ストッパ28が配設されている。ハンマ下限ストッパ28は、本実施の形態では、たとえばクッション部材(図示せず)が内蔵された圧電センサにより構成され、位置センサとしての役割をも果たしている。ハンマ23には上述のように重心が与えられているため、鍵21に力が加わっていないときには、ハンマ23はハンマ下限ストッパ28に当接されている。したがって、ハンマ下限ストッパ28が位置センサとして機能するときには、CPU6は、その圧電センサの出力をチェックし、圧力が加わっていない場合に鍵21が押鍵されていると判別し、圧力が加わっている場合に鍵21が離鍵されていると判別する。
【0014】
押鍵力検出部25は、各鍵毎に独立した、一端(両端でもよい)が固定された梁25aと、ハンマ23の押鍵力伝達部23aを支持するために該梁25a上に設けたハンマ支持部25bと、ハンマ支持部24aに加わった押鍵力を算出するために、梁25aの歪み(変位でもよい)を検出するフォトリフレクタ25cとにより主として構成されている。本実施の形態では、梁25aはバネ定数kがかなり大きい板バネにより形成され、具体的には、たとえば2kg重の力を加えたときに0.5mm程度歪むものが用いられている。これは、ハンマ支持部25bには、押鍵力伝達部23aが常に当接され、実際に押鍵力伝達部23aに押鍵力Fが加えられたときにのみ、その押鍵力Fを検出するようにするためである。このように、押鍵力検出部25は、押鍵力Fを各鍵毎に独立に検出して、その検出信号を前記鍵インターフェイス4に送出する。
【0015】
鍵盤1の各構成要素からなる系は、たとえば鍵21が樹脂製であることから明らかなように、完全な剛体ではないため、前記図5で説明した鍵に与えられた押鍵力と鍵の変位とは比例関係ではないということは、この系でも成り立っている。
【0016】
以上のように構成された電子楽器が行う制御処理を、以下、図3および4を参照して説明する。
【0017】
図3は、CPU6が実行するタイマ割り込み処理の手順を示すフローチャートであり、本タイマ割り込み処理は、タイマ3が所定周期f(Hz)で発生する割り込み信号に応じて実行される。
【0018】
同図において、まず、ハンマ位置P[KC]が、所定値0.04mより小さいか否かを判別する(ステップS1)。ここで、ハンマ位置P[KC]は、前記RAMの所定位置に確保された領域の内容を示し、具体的には、キーコードKCの鍵のハンマの位置を示している。すなわち、RAM8には、鍵盤1に配設された鍵の個数のハンマ位置P[KC]記憶領域が確保されている。これは、本実施の形態では、鍵の押下状態に拘わらずすべての鍵について、本演算処理を行っているからである。また、所定値0.04mは、ハンマが鍵から離れたか否かを判別するための閾値である。ピアノ等のアコースティック鍵盤楽器では、所定の位置で鍵からハンマが離れ、そのときにハンマに与えられた力に応じた強さでハンマが弦に当たり、楽音が発音される。この所定の位置を各鍵ともに0.04mとしている。
【0019】
前記ステップS1の判別で、P[KC]<0.04mのとき、すなわちハンマが鍵から離れていないときにはステップS2に進み、前記フォトリフレクタ25cから検出された歪みに応じて押鍵力を検出し、前記RAM8の所定位置に確保された領域F(以下、この内容も「押鍵力F」という)に格納する。
【0020】
続くステップS3では、まず、次式により押鍵力Fからハンマ23に加わる力を算出し、この算出値を前記RAM8の所定位置に確保された領域F1(以下、この内容を「ハンマ印加力F1」という)に格納する。
【0021】
F1 = 0.2×F
ただし、値0.2は、押鍵力Fをハンマ23の位置に応じて換算し、ハンマ印加力F1を算出するための換算定数である。このような換算定数を用いるのは、ハンマ23が質点でない剛体であるとともに、その重心が、前述のように先端部23b(図2参照)にあるためである。
【0022】
次に、次式によりハンマ23の速度を算出し、前記RAM8の所定位置に確保された領域V[KC](以下、この内容を「ハンマ速度V[KC]」という)に格納する。
【0023】
V[KC] = V[KC]+(F1−0.147)/0.015f
ただし、値0.147(kg重)は、ハンマ23に加わる重力(ハンマ23の質量×重力加速度)を示し、値0.015(kg)は、ハンマの質量を示し、値f(Hz=1/s)は、前記割り込み周波数を示している。この数式で、(F1−0.147)を求めるのは、ハンマ23に加わっている実質的な力を算出するためであり、この実質的な力を値0.015fで除算するのは、1/f(s)間にハンマ23に加わったハンマ23の速度を算出するためである。そして、この算出した1/f(s)間の速度を前回のハンマ速度V[KC]に加算することにより、現在のハンマ速度V[KC]を算出することができる。
【0024】
さらに、この現在のハンマ速度V[KC]を用いて、次式により現在のハンマ位置P[KC]を算出し、この算出値でハンマ位置P[KC]を更新する。
【0025】
P[KC] = P[KC]+V[KC]/f
ただし、値f(Hz)は、前記割り込み周期を示している。この数式で、V[KC]/fにより、1/f(s)間にハンマ23が移動した位置が算出され、この算出した位置を前回のハンマ位置P[KC]に加算することにより、現在のハンマ位置P[KC]が算出される。
【0026】
続くステップS4では、ハンマ位置P[KC]が“0”以下か否かを判別し、P[KC]>0のときには直ちに本割り込み処理を終了し、一方、P[KC]≦0のときには、ハンマ位置P[KC]およびハンマ速度V[KC]を“0”で初期化した(ステップS5)後に、本割り込み処理を終了する。
【0027】
前記ステップS1の判別でP[KC]≧0.04mのとき、すなわちハンマが鍵から離れたときにはステップS6に進み、まず、次式によりハンマ速度V[KC]を更新する。
【0028】
V[KC] = V[KC]−9.8/f
ただし、値9.8(m/s2)は、重力加速度を示し、値f(Hz)は、前記割り込み周波数を示している。この数式で、9.8/fにより、1/f(s)間にハンマ23に加わった速度、すなわちハンマ23が1/f(s)間に自由落下したときに加わった速度が算出される。これは、ステップS6に移行したときにはハンマは鍵から離れて、ハンマ23には何の力も加えられていないものとみなされ、ハンマ23は自由落下したとみなせるからである。
【0029】
次に、前記ステップS3の第3番目の式と同様に、次式によりハンマ位置P[KC]を更新する。
【0030】
P[KC] = P[KC]+V[KC]/f
そして、ステップS7では、ハンマ位置P[KC]が値0.05m以上であるか否かを判別する。ここで、値0.05(m)は、仮想的な弦にハンマ23が当たるときのハンマ23の下限値(位置)を示している。
【0031】
ステップS7の判別で、P[KC]≧0.05mのとき、すなわちハンマ23が仮想的な弦に当たったときには、このときのハンマ速度V[KC]に応じたベロシティでキーオン(KON)信号を前記楽音合成回路9に送出し(ステップS8)、前記ステップS5と同様に、ハンマ位置P[KC]およびハンマ速度V[KC]を“0”で初期化した(ステップS9)後に、本割り込み処理を終了する。
【0032】
前記ステップS7の判別で、P[KC]<0.05mのとき、すなわちハンマ23が仮想的な弦に当たらないときには、このときのハンマ速度V[KC]が“0”より大きいか否かを判別する(ステップS10)。
【0033】
ステップS10の判別で、V[KC]>0のとき、すなわちハンマ23が垂直上方の速度を有し、仮想的な弦に当たる可能性があるときには直ちに本割り込み処理を終了する一方、V[KC]≦0のとき、すなわちハンマ23が垂直下方の速度しか有さず、仮想的な弦に当たる可能性がないときには前記ステップS9に進む。
【0034】
図4は、CPU6が実行するキーオフ(KOFF)処理サブルーチンの手順を示すフローチャートであり、本キーオフ処理サブルーチンは、メインルーチン中の一処理である。メインルーチンにはこれ以外の処理も行われるが、本発明の特徴を説明する上で必須の処理ではないため、この処理以外の処理の説明を省略する。
【0035】
図4において、まず、発音しているすべての鍵について、当該位置センサからの出力をチェックする(ステップS21)。
【0036】
次に、ステップS21のチェックで位置センサが離鍵を示したものがあれば、当該鍵に対応するキーコードの楽音、すなわち現在発音中の楽音の発音を中止するために、キーオフ(KOFF)信号を前記楽音合成回路9に送信した(ステップS22)後に、本キーオフ処理サブルーチンを終了する。
【0037】
以上説明したように本実施の形態では、ハンマ23に与えられた押鍵力を積分してハンマ23の速度を算出し、この速度に基づいてハンマ23の位置を算出し、この位置に基づいて当該鍵に対応する楽音を発音するように構成したので、発音すべき条件に到達している押鍵力が与えられたすべての鍵の楽音を発音させることができる。
【0038】
なお、本実施の形態では、すべての鍵についてハンマの位置を計算している、すなわちすべての鍵について図3の処理を実行しているが、これに限らず、前記位置センサからの出力をチェックすることにより、動作中のハンマを検出し、このハンマの位置のみを計算するようにすれば、CPU1の演算量を減少させることができる。また、検出された押鍵力Fが所定の閾値を所定期間超えたときに押鍵の開始を検出し、この押鍵が検出された鍵についてのみハンマの位置を計算するようにすれば、CPU1の演算量をさらに減少させることができる。
【0039】
また、仮想的なハンマの質量を、実際のピアノのように音高に応じて異なるようにし、これにより、演算に用いるパラメータを変更するようにしてもよい。
【0040】
さらに、図3のステップS6で説明したように、鍵と仮想的なハンマとの連携が離れると、重力加速度による演算、すなわちハンマ23に加わる力(変数)F1に影響されない演算によってハンマ位置P[KC]が計算されるようになるので、予めハンマ23が仮想的な弦に当たるタイミングを計算することができる。この計算されたタイミングに応じてCPU1の演算量を減少させたり、発音が予測されるキーオンイベントを発音チャンネルに割り当てる準備をしたりするようにしてもよい。
【0041】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に依れば、押鍵力検出手段により、鍵盤の鍵に加えられた押鍵力が検出され、ハンマ速度検出手段により、その検出された押鍵力を積分することにより仮想的なハンマの速度が検出され、ハンマ動作位置算出手段により、その算出されたハンマ速度に基づいて仮想的なハンマの動作位置が算出され、楽音発生手段により、その算出されたハンマ動作位置およびハンマ速度に基づいて当該鍵に対応する楽音が発音されるので、発音すべき条件に到達している押鍵力が与えられたすべての鍵の楽音を発音させることが可能となる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態に係る電子楽器の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1の鍵盤の構造を示す断面図である。
【図3】図1のCPUが実行するタイマ割り込み処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】図1のCPUが実行するキーオフ処理サブルーチンの手順を示すフローチャートである。
【図5】鍵の変位または鍵に加えた押鍵力の推移を示す図である。
【符号の説明】
1 鍵盤
6 CPU(押鍵力検出手段、ハンマ速度算出手段、ハンマ動作位置算出手段、楽音発音手段)
9 楽音合成回路(楽音発音手段)
21 鍵
25 押鍵力検出部(押鍵力検出手段)
Claims (1)
- 音高情報を入力するための鍵を備えた鍵盤と、
該鍵盤の鍵に加えられた押鍵力を検出する押鍵力検出手段と、
該検出された押鍵力を積分して仮想的なハンマの速度を算出するハンマ速度算出手段と、
該算出されたハンマ速度に基づいて仮想的なハンマの動作位置を算出するハンマ動作位置算出手段と、
該算出されたハンマ動作位置およびハンマ速度に基づいて当該鍵に対応する楽音を発音する楽音発音手段と
を有することを特徴とする電子楽器。
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