JP3582242B2 - 発電装置および電子機器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転錘などによって得られる運動エネルギーによりローターを回転して発電を行う腕時計装置などの小型の電子機器の動力源として適した発電装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
腕時計装置のような小型で携帯に適した電子機器において、発電装置を内蔵することによって電池の交換のなくし、あるいは電池自体を無くすことができる携帯型の電子機器が考案され、実用化されている。図11に、その一例として発電装置10を内蔵した腕時計装置1の概略構成を示してある。この携帯型電子機器(腕時計装置)1においては、腕時計装置のケース内で旋回運動を行う回転錘11と、回転錘11の回転運動を発電装置10のローター13に伝達する伝達手段である輪列機構12と、発電装置10を備えている。発電装置10は、2極の永久磁石を備えたディスク状のローター13と、このローター13を収納するステータ14を備えており、ローター13が回転するとステータ14の出力用コイル15に起電力が発生し、交流出力が取り出せるようになっている。さらに、この携帯型電子機器は、発電装置10から出力された交流を整流する整流回路2と、発電装置10から得られた電力を蓄積するコンデンサ5などによって構成された供給部4と、この供給部4からの電力によって動作する計時装置7などの処理装置6を備えている。
【0003】
図12に発電装置10の概略構成を示してある。この発電装置10は、2極磁化された円盤状のローター13と、このローター13を回転可能に収納し、ローター13の回転エネルギーを電気エネルギーに変換して出力するステーター14を備えている。ステーター14は、長い板状の磁性体からなるヨーク板20と、このヨーク板20と並列に配置され、ヨーク板20の両端21aおよび21bに接続された出力用コイル15を備えている。ヨーク板20のほぼ中央には、ローター13を収納するための円形の開口22が設けられており、ローター13が所定のギャップ23を保持しながら開口22の内部で回転できるようになっている。ヨーク板20の出力コイル15の接続された端21aおよび21bの方向を長手方向とすると、開口22の周囲のヨーク板20は、長手方向とほぼ直角な幅方向が狭くなっており、この狭くなった第1および第2のヨーク部25および26のそれぞれに外縁27および28から凹んだ外ノッチ30および31が形成されている。さらに、本例のヨーク板20は、出力コイル15に隣接する第2のヨーク部26の側の外縁28が直線的に構成されており、こちらの側を下側あるいは下ヨーク部と称することにする。また、下ヨーク部に対峙する第1のヨーク部(以降においては上ヨーク部)25の側の外縁28は、ヨーク板20の中央部に開口22が形成できる程度の幅を確保し、一方、周囲の長手方向の領域24aおよび24bはヨーク板20の幅を狭くしてスペースメリットがでるように開口22の近傍が出力コイル15を反対側に突出した湾曲に形成されている。
【0004】
上下のヨーク部25および26は、磁性体部分の幅が狭くなっているために、磁路幅も狭くなっており、さらに、これらのヨーク部25および26に外ノッチ30および31が形成されているので、ヨーク部25および26は磁束密度が増加するとすぐに飽和する部分となっている。従って、上下のヨーク部25および26を設けることにより、ローター13の回転によってヨーク板20に励起される磁束を出力用コイル15を横切る方向に広げることができ、ローター13の回転エネルギーを電気エネルギーに変えて出力できるようになっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ローターを回転して発電を行う上記のような発電装置において発電効率を向上するためには、ローターの回転によって励起される出力コイルを横切る方向の磁束密度(鎖交磁束密度)を増やすことが望ましく、このためには、上下のヨーク部の磁路幅を狭くすることが考えられる。一方、上下のヨーク部の磁路幅を狭くするとすぐに磁束が飽和するので、コギング現象が強く現れ、ローターがスムーズに回転しなくなる。発電装置にトルクムラや回転ムラがあると、回転錘の運動エネルギーをローターに効率良く伝達することができず、また、機械的な損失が増加するのでローターの回転エネルギーを効率よく電気エネルギーに変換できなくなる。従って、コギング現象の原因となるコギングトルク(無励磁保持トルク、ディテントトルク)はローターの回転角によって大きく変動せず、さらに、全体として小さいことが望ましい。
【0006】
そこで、本発明においては、外ノッチなどのヨーク部の形状による鎖交磁束密度およびコギングトルクの影響を把握し、鎖交磁束密度が大きく、一方、コギングトルクは小さな発電装置を提供することを目的としている。さらに、携帯型の装置などにコンパクトに収納可能な出力コイルと一体型の発電装置において、鎖交磁束密度を大きくでき、コギングトルクは小さくできる発電装置を提供することも目的としている。また、鎖交磁束密度が大きくコギングトルクを小さくすることによって発電効率の高い発電装置を実現し、発電装置と共に収納された処理装置の機能を何時でも何処でも充分に発揮させることが可能な携帯に適した電子機器を提供することも目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このため、本発明において発明者らは外ノッチと上下ヨーク部の形状を幾つか変えながらコギングトルクと鎖交磁束密度の変化を測定することにより、外ノッチを一方のヨーク部にのみ設けることにより、コギングトルクを大幅に削減でき、鎖交磁束密度も高く保持できることを見いだした。すなわち、本発明の2極の永久磁石などを用いて構成された多極磁化された円盤状のローターと、円形の開口を有するヨーク板と、前記円形の開口を挟んで前記ヨーク板に接続された出力用コイルとを備え、前記ローターが前記円形の開口に回転可能に収納された発電装置であって、 前記ヨーク板の前記円形の開口の周辺部のうち、前記出力用コイルの接続された方向と異なる方向に対峙した部分が、幅の狭い第1および第2のヨーク部となっており、前記ヨーク板の前記第2のヨーク部の側の外縁は、前記出力コイルに対して直線的に構成されると共に、前記第2のヨーク部の側の外縁に沿って前記出力用コイルが配置され、前記ヨーク板の前記第1のヨーク部の側の外縁は前記ヨーク板の前記円形の開口の形成された領域が周囲の領域に対して広がるように湾曲しており、この第1のヨーク部の前記ヨーク部の外縁の側が凹んだ外ノッチが形成されていることを特徴とする。
この構成により、外ノッチの効果を有効に生かしながらコギングトルクを低減できることが判った。このため、コギングトルクがさらに小さく、鎖交磁束密度を高くできる発電装置を提供できる。このような発電装置は、第2のヨーク部の側の外縁に沿って出力用コイルを隣接して配置でき、さらに、第1のヨーク部の側の外縁が湾曲させることにより、コンパクトに発電装置を纏めることができるので携帯機器に適した発電装置に提供できるというメリットもある。
【0009】
さらに、外ノッチの両側の第1のヨーク部の外縁を外側に突き出すことにより、コギングトルクは低減され、一方、鎖交磁束密度の低下はほとんど見られない。
【0010】
従って、このようなローターおよびステータを備えた発電装置に対し、回転錘の回転運動を輪列などの伝達手段によって伝達することにより、効率良く回転エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。このため、腕時計装置などの携帯型の電子機器に収納できるコンパクトで発電能力の高い発電装置を提供できる。そして、このような発電装置と、この発電装置からの電力によって動作可能な処理装置と備えた電子機器においては、ユーザーの動きなどによって何時でも何処でも充分な電力が得られるので、電池交換などの心配なく処理装置の機能を充分に発揮させることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に図面を参照しながら本発明をさらに詳しく説明する。発明者らは図12に基づき説明した発電装置10において、ヨーク板20に設けられた外ノッチ30および31と上下ヨーク部25および26の形状がコギングトルクと鎖交磁束密度に与える影響を調査するために、幾つかの形状のヨーク板20を用いて発電装置10を構成し、その動作をシミュレーションすることによりコギングトルクおよび鎖交磁束密度の変化を測定した。図1に、発明者らが構成した幾つかの代表的な発電装置10の構成を示してある。なお、それぞれの発電装置10の主要な構成は図12に基づき説明した発電装置と同一であるので省略し、図1にはローター13回りのヨーク板20の構成を主に示してある。
【0012】
上下ヨーク部の外ヨークの影響
(比較例1)
図1(a)に示した発電装置10は、図12に基づき説明した従来の発電装置であり、以降において基準となるモデルである。本例の発電装置10をモデル1とする。本例の発電装置10は、直径が約2mmのローター13を備えており、このローター13が、約0.2mmのギャップ23が確保できるヨーク板20の開口22の内部で回転できるようになっている。このヨーク板20の幅方向に図12に基づき説明したような幅の狭い上下のヨーク部25および26が設けられており、ローター13を中心としたほぼ対称な位置に外ノッチ30および31が形成されている。本例の上下のヨーク部25および26に形成された外ノッチ30および31は、半径Rが0.4mmに設定されている。
【0013】
図2に、このモデル1で得られたコギングトルクカーブを黒丸の破線51で示してある。得られたコギングトルクカーブ51は、ローターの回転角50〜150度付近の1組の第1のピークと、0〜50度および130〜180度付近にある1組の第2のピークによって主に構成されている。このコギングトルクカーブの傾向は、以降のモデルにおいても共通するので第1のピークを主ピークと呼び、第2のピークをサブピークと呼ぶことにする。モデル1で得れたコギングトルクカーブ51は、主ピークが+/−0.015gfcmと大きく、回転角50〜150度の付近で大きな回転ムラが発生することが判る。
【0014】
図3に、このモデル1で得られた鎖交磁束密度を黒丸の破線61で示してある。鎖交磁束密度はローターの回転角が80〜100度付近で最大値となり、モデル1では15000Gを越える非常に大きな鎖交磁束密度が得れること判る。
【0015】
(実施例1)
図1(c)に示した発電装置10は、図1(a)のモデル1とほぼ同じであるが、上下のヨーク部25および26に形成された外ノッチ30および31は、半径Rが0.3mmに設定されている。以降において、本例の発電装置10をモデル2と呼ぶことにする。
【0016】
図2に、このモデル2で得られたコギングトルクカーブを黒四角の実線52で示してある。モデル2のコギングトルクカーブ52は、モデル1と比較して主ピークの大きさが1/3程度に低下し、曲率も滑らかになっている。一方、サブピークの大きさはモデル1の2倍程度に増加している。このように、モデル2のコギングトルクカーブは全体として平均化され、主ピークの値は小さくなっている。従って、ローターの回転ムラはモデル1よりも小さくスムーズに回転することが判る。
【0017】
図3に、このモデル2で得られた鎖交磁束密度を黒四角の実線62で示してある。モデル2の鎖交磁束密度の最大値は13000G程度であり、モデル1よりも低下していることが判る。これは、外ノッチ30および31を小さくすることにより、磁路幅が大きくなるためであると考えられる。
【0018】
(実施例2)
図1(e)に示した発電装置10は、図1(a)のモデル1と異なり、上下のヨーク部25および26に外ノッチを形成してないモデルである。以降において、本例の発電装置10をモデル3と呼ぶことにする。
【0019】
図2に、このモデル3で得られたコギングトルクカーブを黒三角の一点鎖線53で示してある。モデル3のコギングトルクカーブ53は、モデル2と比較して主ピークの大きさは低くなり曲率も滑らかになっているが、サブピークの大きさはモデル2よりも大きくなっている。従って、モデル2と同様にローターの回転ムラはモデル1よりも小さくスムーズに回転するが、モデル3とモデル2との差は大きくは現れないことが判る。
【0020】
図3に、このモデル3で得られた鎖交磁束密度を黒三角の一点鎖線63で示してある。モデル2の鎖交磁束密度の最大値は11000G程度であり、モデル2よりもさらに低下していることが判る。これは、外ノッチを設けていないため、上下のヨーク部25および26における磁束の絞り込みが小さく、ローターの回転により発生した磁束がローターと共に回転し、出力用コイル15に作用していないためと考えられる。
【0021】
(実施例3)
図1(b)に示した発電装置10は、図1(a)のモデル1とほぼ同様であるが、上ヨーク部25にのみ外ノッチ30を形成し、下ヨーク部26には外ノッチを形成してないモデルである。また、本例の発電装置においては、半径Rが0.4mmの外ノッチ30を形成してある。以降において、本例の発電装置10をモデル1Aと呼ぶことにする。
【0022】
図2に、このモデル1Aで得られたコギングトルクカーブを白丸の破線54で示してある。モデル1Aのコギングトルクカーブ54は、モデル1と比較して主ピークの大きさは1/4以下と大幅に減少し曲率も滑らかになっている。これと共に、サブピークの大きさもモデル1とほぼ同様に小さな値を示す。従って、モデル1Aのコギングトルクカーブ54は上下の変動が小さく平均化されており、全体として非常に小さな値となっている。
【0023】
図3に、このモデル1Aで得られた鎖交磁束密度を白丸の破線64で示してある。モデル1Aの鎖交磁束密度の最大値は13000G程度であり、モデル1に続いて大きな値を示し、モデル2とほぼ同じ程度である。
【0024】
(実施例4)
図1(d)に示した発電装置10は、図1(b)のモデル2とほぼ同様であるが、上ヨーク部25にのみ外ノッチ30を形成し、下ヨーク部26には外ノッチを形成してないモデルである。また、本例の発電装置においては、半径Rが0.3mmの外ノッチ30を形成してある。以降において、本例の発電装置10をモデル2Aと呼ぶことにする。
【0025】
図2に、このモデル2Aで得られたコギングトルクカーブを白四角の実線55で示してある。モデル2Aのコギングトルクカーブ54は、モデル2と比較しモデル1Aと同程度まで主ピークの大きさが減少し曲率も滑らかになるが、サブピークの大きさはモデル2と同程度であり、モデル1Aよりも大きな値を示す。従って、コギング現象はモデル2と比較すれば小さいが、モデル1Aよりも大きく現れ、回転ムラもモデル2よりも小さくなるがモデル1Aよりは大きくなることが判る。
【0026】
図3に、このモデル2Aで得られた鎖交磁束密度を白四角の実線65で示してある。モデル2Aの鎖交磁束密度の最大値は12500G程度であり、磁路幅が広い分、モデル1Aおよびモデル2よりも小さな値を示す。
【0027】
(実施例5)
図1(f)に示した発電装置10は、図1(e)のモデル2とほぼ同様であるが、下ヨーク部26にのみ外ノッチ30を形成し、上ヨーク部25には外ノッチを形成してないモデルである。また、本例の発電装置においては、半径Rが0.3mmの外ノッチ30を形成してある。以降において、本例の発電装置10をモデル3Aと呼ぶことにする。
【0028】
図2に、このモデル3Aで得られたコギングトルクカーブを白三角の一点鎖線56で示してある。モデル3Aのコギングトルクカーブ55は、モデル3とほぼ同じ値を示し、主ピークの大きさがモデル3よりも若干大きくなる程度である。従って、サブピークの大きさはモデル3と同様に大きくなる。モデル1Aと比較すると、主ピークの大きさではモデル3Aの方が若干小さいが、サブピークの大きさはモデル1Aがモデル3Aの半分以下の値になる。従って、モデル1Aの方がモデル3Aに比較し、回転ムラが少なくスムーズに回転すると考えられる。
【0029】
図3に、このモデル3Aで得られた鎖交磁束密度を白三角の一点鎖線66で示してある。下ヨーク部26に外ノッチ31を形成してある分、磁路幅が狭くなるので鎖交磁束密度は上昇するが、その最大値は12000G程度であり、モデル2Aよりさらに小さな値となる。
【0030】
以上のような結果より、上下ヨーク部25および26に設けられた外ノッチ30および31をモデル2のように小さくし、あるいは、モデル3のように外ノッチ30および31をなくすことにより、コギングトルクの主ピークは非常に小さくでき、コギングトルクを平均化できることが判る。しかしながら、両方の外ノッチを小さくすると、コギングトルクのサブピークは大きくなり、さらに、鎖交磁束密度は低下してしまう。特に、モデル3のように外ノッチを削除した場合は鎖交磁束密度は大きく低下してしまう。
【0031】
これに対し、外ノッチ30あるいは31のいずれか一方を削除した場合は、モデル1Aのようにコギングトルクの主ピークは大幅に低減され、サブピークの大きさも殆ど増加しない。従って、両方の外ノッチを削除したモデル3よりも全体としてコギングトルクは平均化され小さくなる。その一方、鎖交磁束密度はモデル1に比較すれば若干の低下は見られるものの、外ノッチ30および31を若干小さくして残したモデル2と同程度の鎖交磁束密度を得ることができる。
【0032】
従って、コギングトルクを低減し、鎖交磁束密度をできるかぎり保持するには、上下のヨーク部25および26に設けられた外ノッチを小さくしたり、あるいは、上下のヨーク部25および26から外ノッチを無くすのではなく、モデル1Aのように上下ヨーク部25および26のいずれか一方に外ノッチを通常の大きさで設けておくことが望ましいことが判る。
【0033】
さらに、上ヨーク部25にのみ外ノッチ30を設けたモデル2Aと、下ヨーク部26にのみの外ノッチ31を設けたモデル3Aを比較すると、コギングトルクの大きさはそれほど差はないと判断されるが、鎖交磁束密度を比較するとモデル2Aの方が大きいことが判る。従って、ヨーク板20の外側に膨らんだ上ヨーク部25にのみ外ノッチ30を設けることにより、コギングトルクが小さく、トルクムラがなくローター13の回転がスムーズであり、さらに、鎖交磁束密度の高い発電装置10を実現できることが判る。このような発電装置10は、ローター13に回転錘などからの運動エネルギーを伝達し易く、さらに、ローター13の回転エネルギーを効率良く電気エネルギーに変換することができる。従って、非常に発電効率が高い発電装置10を提供することができる。
【0034】
外ノッチ周辺のヨーク形状の影響
(実施例6)
図4(a)に、上記の上ヨーク部に半径Rが0.3mmの外ノッチ30が形成されたモデル2Aの発電装置において、上ヨーク部25の外ノッチ30の両側の外縁27を下ヨーク部26の外縁28と平行に、外ノッチ30の部分の磁路幅が確保できるようにカットした発電装置10を示してある。この発電装置をモデル2Bとする。
【0035】
図5に、モデル2Bのコギングトルクカーブを黒四角の実線72で示してある。また、図6に、モデル2Bの鎖交磁束密度を黒四角の実線76で示してある。図5および図6には、モデル2Aのコギングトルクカーブを黒三角の実線71および75で示してある。モデル2Aとモデル2Bのコギングトルクカーブを比較すると、主ピークは両者とも殆ど変化がなく、サブピークにおいては、モデル2Bの方が値が若干大きく、また、急激に変化していることが判る。一方、図6に示した鎖交磁束密度については、モデル2Aとモデル2Bで殆ど変化は見られない。
【0036】
(実施例7)
図4(b)に、上記のモデル2Aの発電装置の上ヨーク部25の外ノッチ30の両側の外縁27をローター13の中心を中心点とした円で、外ノッチ30の磁路幅が確保できるようにカットした発電装置10を示してあり、この発電装置をモデル2Cとする。
【0037】
図5に、モデル2Cのコギングトルクカーブを黒丸の実線73で示してある。また、図6に、モデル2Cの鎖交磁束密度を黒丸の実線77で示してある。図5に同時に示したモデル2Aおよびモデル2Bのコギングトルクカーブと比較すると、主ピークについては大きな差はないが、サブピークの差は明らかであり、サブピークの大きさがモデル2Aの3倍程度に増加していることが判る。一方、図6に示した鎖交磁束密度については、モデル2Aとモデル2Bと比較し、モデル2Cの値も殆ど変化は見られない。
【0038】
(実施例8)
図4(c)に、上記の上ヨーク部に半径Rが0.4mmの外ノッチ30が形成されたモデル1Aの発電装置において、上ヨーク部25の外ノッチ30の両側の外縁27を下ヨーク部26の外縁28と平行に、外ノッチ30の部分の磁路幅が確保できるようにカットした発電装置10を示してあり、この発電装置をモデル1Bとする。
【0039】
図5に、モデル1Bのコギングトルクカーブを白丸の実線74で示してある。また、図6に、モデル2Cの鎖交磁束密度を白丸の実線78で示してある。図5に同時に示したモデル2A、モデル2Bおよびモデル2Cのコギングトルクカーブと比較すると、主ピークについては若干大きくなっているがそれほど大きな差はなく、これに対し、サブピークはモデル2Cよりさらに大きくなっていることが判る。一方、図6に示した鎖交磁束密度については、モデル2A、モデル2Bおよびモデル2Cと比較し、若干大きくなっているもののそれほどの差は見られない。
【0040】
以上の結果より、上記のモデル2A、2Bおよび2Cでは、上ヨーク部25の磁路幅は同じにして上ヨーク部25の外ノッチ30の両側の面積を変化させることにより、コギングトルクの主ピークには大きな影響は現れないが、副ピークについては外ノッチ30の周囲の上ヨーク部25の面積が小さくなると共に非常に大きくなることが判る。副ピークに対する外ノッチの周辺の形状の影響は、モデル1Bの結果から判るように、外ノッチ30の半径Rが大きい程、すなわち、磁路幅が狭いほど大きい。従って、コギングトルクを平均的に小さくするには、外ノッチの周辺のヨーク部の面積を十分に確保することが望ましいことが判る。また、外ノッチの周辺のヨーク部の面積を大きくしても、外ノッチ30の部分の磁路幅は変わらないので鎖交磁束密度は確保できることが判る。
【0041】
上記の実施例により、次のことが言える。コイルヨーク20の鎖交磁束密度を確保するためには、ローター13の上下に位置する上下ヨーク部25および26の磁路幅をできるだけ小さくすることが望ましい。しかしながら、これによりコギングトルクが増加するので、鎖交磁束密度の若干の低下は見られるが出力用コイル15の側の下ヨーク部26は無くすことが望ましい。これにより、ローター13の全角度領域でコギングトルクが小さくでき、さらに、コイル鎖交磁束密度を高くすることができる。さらに、コギングトルクの副ピークを小さくしてコギングトルクを全体的にさらに小さくするには、外ノッチ30の形成された上ヨーク部25の外縁27を外側に突き出して上ヨーク部25の上部の面積を広く確保することが望ましい。
【0042】
図7に、このような方針に基づいて設計された発電装置10のローター回りを示してある。本例の発電装置10においては、図9に実線で示すような主ピークが低く、サブピークもゆるやかなコギングトルクカーブを得ることができる。同時に破線で示した上下のヨーク部25および26に外ノッチが形成された従来の発電装置(モデル1)のコギングトルクカーブと比較すると、主ピークの大きさはほぼ1/4程度に削減されており、また、サブピークもほぼ半分程度の大きさになっている。一方、図10に実線で示したように、鎖交磁束密度は13000G程度を確保することができ、同図に破線で示したモデル1よりも若干低下するとはいうものの十分に高い鎖交磁束密度を得ることができる。
【0043】
これらの結果は、図8に示したようなローター13によってヨーク20に発生する2つの種類の磁束を考えることによって定性的に説明することができる。図8に示したタイプ1の磁束は、ローターに巻きついた状態の磁束であり、ローターが回転して上ヨーク部25あるいは下ヨーク部26の磁路幅の狭くなったところに入り込んでいくときにローター13の運動を妨げる方向に作用し、逆に広い部分に出ていくときはその運動を促進する方向に力が働く。一方、タイプ2の磁束は、ヨーク20に沿って延びた磁束であり、できるかぎり短くなろうとするのでローター13が90度方向、すなわち、ヨーク板20の長手方向を向いたときが最も安定する。従って、ローター13が90度方向から離れる向きに回転するとそれを妨げる方向に作用し、一方、90度方向に近づく向きに回転するとそれを促進する方向に作用する。
【0044】
上下のヨーク部25および26にそれぞれ外ノッチ30および31が形成された従来のモデルであるモデル1について考えると、ローター13の回転角が0度のとき、すなわち、ローター13の極が幅方向を向いているときは、ローター13によって形成された磁力線はコイルヨークにほとんど流れ込まず、タイプ1の磁束としてローター13の周辺に巻きついている。ローター13が回転すると、タイプ1の磁束が上下のヨーク部25および26の磁路幅の狭い部分に流入していくので、回転方向に対し反対側の力が発生する。一方、ローター13が回転するにつれて、タイプ1の磁束の一部がタイプ2に遷移し、タイプ2の磁束による90度方向に引っ張る力が働く。これらにより、回転角が0〜50度程度の範囲では、若干マイナス側(引っ張る側)のコギングトルクが発生し、副ピークを形成する。
【0045】
回転角が50度を越えると、タイプ1の磁束からタイプ2の磁束への遷移は減少し、その傾向は鎖交磁束密度の増加率が低下することから推測できる。回転角が50度を越えるとタイプ2による90度方向に引っ張る力が主体となる正のコギングトルクが増大し、回転角が70度付近で主ピークを形成する。
【0046】
さらに回転角が大きくなり70度を越えると、タイプ1の磁束からタイプ2の磁束への遷移は無くなり、タイプ2の磁束が回転角が90度になるように縮むだけになるのでコギングトルクも減少する。そして、回転角が90度において安定する。また、タイプ1の磁束は外ノッチ30および31の形成された磁路幅の狭いところに位置することになるが、エネルギー的な変化が殆ど起きないためにコギングトルクへの寄与は見られない。これらの考え方は回転角が90度を越えた領域でも適用でき、コギングトルクの現れ方は反転するがほとんど同じ傾向を示す。
【0047】
これに対し、両方の外ノッチを省いたモデル3においては、回転角が0〜50度付近で上下の外ノッチがないためにタイプ1の磁束からタイプ2の磁束への遷移量が少なく、タイプ2の磁束による90度方向に引っ張る力が小さい。このため、タイプ1の磁束が狭い磁路に引き込まれることに対する反発する方向の力が主体となり、この結果、大きなサブピークが現れると考えられる。また、回転角が60度付近でタイプ1からタイプ2の磁束への遷移が殆ど終わるが、タイプ2の磁束へのトータルの遷移量も少ないので、タイプ2の磁束による90度方向に引っ張る力が小さい。このため、回転角70度付近においても、タイプ1の回転方向に反発する力とタイプ2の90度方向に引っ張る力が拮抗し、この結果、コギングトルクの主ピークの大きさも小さくなる。タイプ1の磁束からタイプ2の磁束への遷移量が小さくなることは、モデル1に比べて鎖交磁束密度が小さいことからも推測できる。
【0048】
これらに対し、上下ヨーク部25および26の一方にのみ外ノッチを設けたモデル1Aにおいては、コギングトルクのサブピークがモデル1と同程度になっている。このため、一方に外ノッチを設けることにより、タイプ1の磁束からタイプ2の磁束への遷移が比較的早い段階から順調に起きていることが判る。従って、タイプ1の磁束による回転方向に反発する力と、遷移したタイプ2の磁束による90度方向の力が拮抗し、サブピークの小さなコギングトルクカーブが得られる。一方、回転角が40から90度の範囲では、外ノッチの形成されていない方のヨーク部の磁路に引き込まれるタイプ1の磁束密度がモデル1と比較し、かなり大きい。このため、タイプ1の反発力によりタイプ2の90度方向に引っ張る力を殆どキャンセルすることができるため、主ピークの小さなコギングトルクカーブを得ることができる。従って、トータルのコギングトルクカーブは滑らかであり、全体としてコギングトルクの小さな発電装置を得ることができる。また、鎖交磁束密度は、一方のヨーク部に外ノッチが設けられていることにより、タイプ1の磁束からタイプ2の磁束への遷移は効率良く行われ、その結果、十分に大きな鎖交磁束密度を得ることができる。
【0049】
上ヨーク部25に外ノッチ30が設けられたモデル2Aと、下ヨーク部26に外ノッチ31が設けられたモデル3Aを比較すると、モデル2Aの方がサブピークが小さく、鎖交磁束密度も大きい。従って、上ヨーク部25に設けられた外ノッチ30の方がタイプ1の磁束からタイプ2の磁束への遷移を促進する効果を備えているものと考えられる。これは、上ヨーク部25と下ヨーク部26の形状に起因するものと考えられ、上ヨーク部25は面積が広くなるように盛り上げられているのに対し、下ヨーク部26は直線的な磁路を形成してある。この傾向は、実施例7〜9にも現れており、外ノッチの周辺の面積を広くとることによりサブピークを小さくできている。従って、外ノッチの周辺の面積を広くとることにより、タイプ1の磁束からタイプ2の磁束への遷移効率を高くでき、コギングトルクカーブのサブピークの値を小さくできることが判る。これは、外ノッチ周囲の面積変化率が大きくすることにより、外ノッチにおいて磁束が絞られやすくなり、磁気的なエネルギーが高まり易く、磁力線が切れやすくなるためと考えられる。
【0050】
このように、本例においては、一方のヨーク部にのみ外ノッチを形成することにより、コギングトルクが平均的に小さく、鎖交磁束密度は高い発電装置を提供することができる。コギングトルクを平均化することにより、ローターのトルクムラがなくなるので、回転はスムーズとなり、また、トルク全体の値を小さくできるので、回転錘などの運動エネルギーの伝達効率を向上することができる。さらに、熱などに変換されて放失されるローターの機械的なエネルギー損失を低減することもできる。一方、鎖交磁束密度を高く保つことにより、出力用コイルを横切る磁束密度を大きくできるので、出力電力を大きくとることができる。従って、本例の発電装置により、発電効率が高く、さらに発電能力の十分な発電装置を提供することができる。また、ヨーク板20に設ける外ノッチが一方だけで良くなるので、外ノッチを形成するヨーク板20の加工上の手間や、外ノッチ同士の位置合わせ、面積の調整などの手間を省くこともできる。このため、発電装置を安価に提供することができるというメリットもある。もちろん、上記のモデルでは、半円形の外ノッチを例に説明しているが、外ノッチの形状は三角形や四角形あるいは楕円などであっても良く、上記と同様の結果が得られる。
【0051】
出力電力をさらに増加するには、出力用コイル15の周囲にスペースを確保し、コイルの巻数を増加することも可能である。例えば、下ヨーク部26の幅をさらに削減して、隣接した出力用コイルの巻線の数を増やすスペースを確保することも有効であると考えられる。
【0052】
本例の発電装置は、図11に示した腕装着型の計時装置に限定されることはなく、ユーザーの脚部に装着されたり、さらに、車両に搭載され、その振動などによってローターを回転させて発電を行う機器などのように様々な機器に適応することができる。また、本発明の発電装置から電力を供給されて処理を行う処理装置として、上述した計時装置に限らず、例えばページャー、電話機、無線機、補聴器、万歩計、電卓、電子手帳などの情報端末、ICカード、ラジオ受信機などがあり、これらの携帯型機器に本発明の発電装置を適用することによって、これらの処理装置に対し十分な電力を供給することが可能である。そして、これらの携帯型の電子機器に本発明の発電装置を採用することにより、人間の動きなどを捉えて効率良く発電を行い、電池の消費を抑制したり、あるいは電池その物を不要にすることも可能である。従って、ユーザーは電池切れを心配せずに、これらの携帯型機器を使用することができ、電池切れによってメモリーに記憶した内容が失われるなどのトラブルも未然に防止できる。さらに、電池や充電装置が容易に入手できない地域や場所、あるいは災害などによって電池の補充が困難な事態であっても電子機器の機能を発揮させることが可能となる。
【0053】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明においては、従来、ローターの両側のヨーク部に設けられていた外ノッチを片側にのみ設けることにより、コギングトルクを大幅に低減でき、それと共に十分な磁束密度が得られることを見いだした。従って、本発明の発電装置においては、一方の側に外ノッチを設けるといった非常に簡易な方法によりトルクムラなどによる機械的なロスを低減することができ、発電効率の高い発電装置を提供することができる。そして、この発電装置を用いることにより、発電装置と共に収納された処理装置の機能を何時でも何処でも充分に発揮させることが可能な携帯型に適した電子機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例において特性を調査した発電装置のモデルのローター回りを示す図である。
【図2】図1に示した各モデルで得られたコギングトルクカーブを示す図である。
【図3】図1に示した各モデルで得られた鎖交磁束密度を示す図である。
【図4】実施例において、さらに特性を調査した発電装置のモデルのローター回りを示す図である。
【図5】図4に示した各モデルで得られたコギングトルクカーブを示す図である。
【図6】図4に示した各モデルで得られた鎖交磁束密度を示す図である。
【図7】上記の実施例により設定された本発明に係る発電装置のローター回りの概要を示す図である。
【図8】図7に示す発電装置における磁束の分布状態を模式的に示す図である。
【図9】図7に示したモデルで得られたコギングトルクカーブを示す図である。
【図10】図7に示したモデルで得られた鎖交磁束密度を示す図である。
【図11】発電装置および発電装置を用いた電子機器の概要を示す図である。
【図12】ローターおよびステーターを備えた発電装置の概要を拡大して示す図である。
【符号の説明】
1・・電子機器
2・・整流回路
4・・供給部
5・・大容量キャパシタ
6・・処理装置
7・・計時装置
10・・発電装置
11・・回転錘
12・・輪列
13・・ローター
14・・ステーター
15・・出力用コイル
20・・ヨーク板
21・・コイルとの接続部
22・・円形の開口
23・・ギャップ
24・・開口領域の両側(長手方向の領域)
25・・上のヨーク部
26・・下のヨーク部
27・・上のヨーク部側のヨーク板の外縁
28・・下のヨーク部側のヨーク板の外縁
30・・上のヨーク部の外ノッチ
31・・下のヨーク部の外ノッチ
Claims (4)
- 多極磁化された円盤状のローターと、
円形の開口を有するヨーク板と、
前記円形の開口を挟んで前記ヨーク板に接続された出力用コイルとを備え、
前記ローターが前記円形の開口に回転可能に収納された発電装置であって、
前記ヨーク板の前記円形の開口の周辺部のうち、前記出力用コイルの接続された方向と異なる方向に対峙した部分が、幅の狭い第1および第2のヨーク部となっており、
前記ヨーク板の前記第2のヨーク部の側の外縁は、前記出力コイルに対して直線的に構成されると共に、前記第2のヨーク部の側の外縁に沿って前記出力用コイルが配置され、
前記ヨーク板の前記第1のヨーク部の側の外縁は、前記ヨーク板の前記円形の開口の形成された領域が周囲の領域に対して広がるように湾曲しており、この第1のヨーク部の前記ヨーク部の外縁の側が凹んだ外ノッチが形成されていることを特徴とする発電装置。 - 請求項1において、前記外ノッチの両側の前記第1のヨーク部の外縁が外側に突き出ていることを特徴とする発電装置。
- 請求項1において、回転錘と、この回転錘の回転運動を前記ローターに伝達する伝達手段とを有することを特徴とする発電装置。
- 請求項1ないし3のいずれかに記載の発電装置と、前記出力用コイルから出力された電力によって動作可能な処理装置とを有することを特徴とする電子機器。
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-
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