JP3580561B2 - 一重鎖ステムループdnaの合成法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は組換え体DNAの分野に関する。さらに詳しくは、本発明はステム−ループ配列(ss−slDNA)を有する新規で有用な一重鎖DNAの合成方法に関する。本発明はインビトロ及びインビボ合成方法に関する。さらに本発明はこれらのss−slDNAを製造する複製ビークル(replicating vehicle)に関する。さらに、本発明はこれらの新規な構造物に関し、これらの新規な構造物の使用を開示する。さらに、標的蛋白質をコードする遺伝子を用いた、または用いないss−slDNA増幅方法をも開示する。
【0002】
【従来の技術】
逆転写酵素によって相補的DNA(cDNA)へと逆転写されるRNA中間体を介して、ゲノムの一部の重複が生ずることが判明している。この点については、ワイナー(Weiner) 等のアン.レブ.バイオケム.(Ann. Rev. Biochem.) 55,631(1986)を参照されたい。結果として遺伝情報が逆流することは真核ゲノムの進化の多様化に重要な役割を果すと考えられる。細菌由来の逆転写酵素が最近発見されたことを考慮すると、同様な機構が原核生物におけるゲノム進化の原因であるとみなされるのも非常にもっともなことだと思われる。この点についてはイノウエ(Inoue)等のTIBS、16、18(1991a)とイノウエ等による、アン.レブ.マイクロバイオル.(Ann. Rev. Microbioli) 45、163(1991b)を参照されたい。逆転写酵素によるcDNA合成の結果生ずる遺伝子重複は進化中のゲノムの多様化に重要な役割を果していると考えられる。
【0003】
本発明はゲノム進化に関連する基礎研究に伴って生じたものである。プラスミドDNAの複製に特有のss−slDNAの合成が実証された。slDNAの形成は原核ならびに真核生物の染色体DNA複製時に広く行われる。IR構造を伴う染色体遺伝子要素は、IR構造の安定性とポリメラーゼの性質によっては常にslDNAへと複製しやすいと考えられる。
【0004】
反復遺伝子外パリンドローム塩基配列に対してはREPとして知られ、パリンドローム単位に対してはPUとして知られる多くの逆方向反復(IR)構造が存在する(大腸菌(E. coli.) 中には約1000コピー)ことが判明している〔ヒギンス(Higgins)等のネイチャー(Nature) 298、760(1982)、ギルソン(Gilson)等、EMBO.J.3,1417(1984)及びギルソン等、ヌクル.アシドス.レス.(Nucl. Acids. Res. )19、1375(1991)〕。これらの構造はDNAポリメラーゼIを含む特定の細胞成分と会合して、染色体組織に重要な役割を果すと考えられる〔ギルソン等、ヌクル.アシドス.レス.18、3941(1990)とギルソン等、EMBO.J.3 、1417(1984)参照〕。ヒトゲノムの約6%がAluと呼ばれる要素によって占められ、Aluの転写生成物は実質的な第二構造を含むことが判明している〔シメット(Simmett)等のジェイ.バイオル.ケム.(J. Biol. chem.) 266、8675(1991)参照〕。
【0005】
slDNA合成はcDNA合成とは対照的にRNA中間体も逆転写酵素活性も必要としないので、slDNAはcDNAよりも頻繁に形成される。従って、slDNAはゲノム内に分散または再配置された遺伝子要素を重複させることによって、原核生物を真核生物の両方のゲノム進化においてcDNAと同様な、重要な役割を果すと考えられる。
【0006】
【本発明の概要】
本発明によって、基本的な発見がなされた。ゲノムの一部はゲノムから直接複製されることが判明した。判明したこの遺伝子重複はRNA中間体も逆転写酵素も必要とせず、DNA複製中に生ずる。
【0007】
簡単に説明すると、本発明は新規で有用な一重鎖DNA(ssDNA)分子の合成方法(又はプロセス)を提供する。この方法は一重鎖構造の合成を開始するために、DNA逆方向反復(IR)と必要な成分との使用を含む。本発明はまた、DNA逆方向反復を含む必要な成分からのこのようなssDNAの合成系をも提供する。本発明はさらに、新規なssDNA分子の合成のための必要な成分の全てを含む適切な複製ビークルを提供する。本発明はまた特有の構造を形成する新規で有用なssDNA分子をも提供する。この構造は相補的塩基の二重鎖DNAからなるステムを含み、ステムはその端部の一つにおいて2個の末端、それぞれ3′と5′末端を有し、他方の端部ではループ形成ssDNAを有する。
【0008】
本発明はインビトロまたはインビボでの方法及び系の実施を含む。
【0009】
本発明はまた改良された又は新規な生物学的性質を有する蛋白質を形成する目的で遺伝子にランダムな突然変異を起こさせる方法を含めて、新しい分子の種々な使用を開示する。他の重要な考えられる使用法は、本発明ssDNA分子をDNAに加えて、安定性の高い三重鎖DNAを形成することである。他の使用法は単一プライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の適用である。
【0010】
本発明とその幾つかの実施態様を下記でさらに詳述する。
本発明の方法によるとssDNA内のアニールされた相補的塩基の二重鎖DNAのステム部分を含む構造を有するssDNA分子が製造される。このステムはその端部の一つにおいてssDNA分子の5′と3′末端を形成し、他端部において2本のステム一重鎖を結合する非アニール塩基の一重鎖からなるループを形成する。特定の実施態様では、3′末端を端部に有する鎖は他方の鎖よりも長い。slDNAは蛋白質をコードしうるDNAセグメント、特に遺伝子を含みうる。遺伝子はループと末端との間に配置される。遺伝子は突然変異を有する遺伝子でありうる。
【0011】
slDNA合成に対して仮定される機構を図6のAと図6のBに示す。この合成は概略的に下記の過程を含むと考えられる:DNAの合成は複製開始部位にて始まり、第1鎖(または“特定”もしくは“不特定”鎖)の複製は2本鎖DNAの鎖の一方を鋳型として進行する(染色体DNAの複製と同じ機構によって)〔トミザワ(Tomizawa) 等、プロク.ナトル.アカド.サイ.(Proc. Natl. Acad. Sci.)USA、74、1865(1977)参照〕、そしてプラスミドを用いる場合には、IR構造を通しての進行は全プラスミドの複製を生ずる。しかし、以下で詳述するように、第1鎖合成が中断するまたはIR内で終了した場合に、第1鎖の一部はループ構造を形成する(図6、工程2〜3)。このループは連続DNA合成のプライミング部位として機能する短い二重鎖部分を形成する。DNA鎖伸長は新たに形成された3′端部から再開し、テンプレートとして発生期の第1鎖を用いて第2鎖(または“他方の”鎖)を形成する。代替えの(または同時発生の)考えられる合成過程は以下で説明する。このようにして、テンプレート切換えによってDNA合成方向は逆になり、DNAフラグメントを二重にする(図6、工程1〜4)。新しく合成されたslDNA分子は親テンプレート鎖から解離され、親テンプレート鎖は他の複製ラウンドを受けて他のslDNAを形成する。slDNAを必要に応じて単離して精製する。
【0012】
本発明の他の実施態様では、DNA自己複製ビークル(self replicating vehicle) 、例えば逆方向反復(IR)構造を含むDNAフラグメントを挿入されたプラスミドを提供する。このDNAフラグメントはssDNA合成のテンプレートとして、及び適当なプライミング部位、例えば大腸菌におけるColE1の複製始点として働く。IRはORの下流に存在する。自己複製ビークルは適当なホスト(例えば大腸菌)中で複製される。ホストは少なくとも1種のポリメラーゼを含んでテンプレートからssDNAを合成する。この特定の実施態様では、2種のポリメラーゼ、ORからIRまでのssDNA部分、第1鎖の伸長に寄与する第1DNAポリメラーゼと、ssDNA鎖の残部もしくは第2鎖を合成する第2DNAポリメラーゼが存在すると推定される。第1鎖の合成が終了すると、相補的塩基がアニールされて一重鎖非アニールループを形成する。その後に第2鎖の合成が行われる。二重鎖DNAステムと反対端部の一重鎖ループ構造とからなる、新しいDNA構造が合成される。この新しいDNA構造に対して“ステム−ループ”または“slDNA”なる名称が設けられている。
【0013】
他の特定の実施態様はプロモーター、特にlacプロモーター−オペレーターが欠如した複製ビークルを提供する。それでもなお、以下で詳述するように、提案した合成モデルを支持して、slDNAが製造された。
【0014】
プライミング部位とIRとの間の蛋白質をコードしうる特定のDNA配列を含むようにプラスミドを構成することができ、合成されたslDNAはDNA塩基配列またはその突然変異を含むと考えられる。
【0015】
本発明のslDNAは自己複製ビークルによって合成される必要はなく、IRと、ssDNA合成に必要な要素とを含む、線状もしくは非線状のDNAセグメントから構成される適当なインビトロ系で合成されることができる。このような系を以下で説明する。
【0016】
図1は本発明のプラスミド、pUCK106の説明図。
図2はpUCK19のXbaI 部位に挿入された215−bpのDNA塩基配列を示す。
図3はpUCK106からのslDNAの形成とその特徴とを説明するポリアクリルアミドゲルの臭化エチジウム染色を示す。
図4はpUCK106からのslDNAのダイマー形成を説明するポリアクリルアミドゲルのオートラジオグラフを示す。
図5はpUCK106からのslDNA塩基配列決定を説明する図である。
(A) はslDNAの5′端部のDNA塩基配列決定を説明する乾燥ポリアクリルアミドゲルのオートラジオグラフである。
(B) はslDNAのループ部分の5′端部塩基配列決定を説明する乾燥ポリアクリルアミドゲルのオートラジオグラフである。
(C) はslDNAのループ部分の3′端部塩基配列決定を説明する乾燥ポリアクリルアミドゲルのオートラジオグラフである。
(D) はslDNAの3′端部のDNA塩基配列の乾燥ポリアクリルアミドゲルのオートラジオグラフである。
(E) はpUCK106からのslDNAの構造を説明する。
図6はslDNA合成の二つの可能なモデルを説明する図である。
図7のレーン1と3はサイズマーカーとしてのpBR322のHaeIII 消火体(digest)を示し、レーン2はpU7CからのslDNAを示す。
図8はslDNAを利用して、特定の遺伝子にランダムミューテーションを導入する具体例を示す。
【0017】
プラスミドpUCK106はアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)に受け入れ番号No.68679として寄託されている。
プラスミドpUCK106ΔlacPOはATCCによって受け入れ番号No.68680として寄託されている。
【0018】
【実施例】
下記実施例は説明のためのものであり、本発明の如何なる限定をも意図しないものである。これらの実施例では、全ての%は固体では重量%であり、液体では容量%であり、全ての温度は、他の注釈しないかぎり、摂氏度によるものである。
便利さと簡潔さのために、実施例は図面に関連し、図面の詳細な説明を提供する。
【0019】
実施例 1
図1はpUCK106(円形マップ)、以下に示すように製造した特定のプラスミドを説明する。円形マップ中の白抜きバー(open bar) はカナマイシン耐性遺伝子(Tn5)からを表す。上部右側に示す直線白抜きバーはXbaI 部位に挿入した215−bpDNAフラグメントを表し、これは35−bp逆方向反復(IR)塩基配列を示す。中実矢印(solid orrow)はIR構造を示す。中実円設定は複製の始点(Ori)である。長い白抜き矢印ORからのDNA複製の方向を示す。小さい白抜き矢印はlacプロモーター−オペレーター(lacPO)の位置を示す。
図2はpUCK19のXbaI 部位に挿入された、配列表の配列番号1及び配列番号2でそれぞれ表されるDNAより構成される215−bpDNAフラグメントの塩基配列を示す。このプラスミドはここではpUCK106と名づける。白抜き矢印はIR塩基配列を示す。HindIII (AAGCTT)部位はIRの中心を示す。
IR中の不適正位置はスペース内に挿入された不適正塩基CとTを含む矢印内の2個の白抜きスペースによって示す。
上記DNAフラグメント(IRを含む)は図2に示された配列を有する。
【0020】
実施例 2
この実施例はpUCK106からのslDNAの形成とその特徴とを説明する。
(A) 大腸菌CL83をpUCK19、pUCK106のいずれかとpUCK106ΔlacPOとによって形質転換し、プラスミドDNA画分を形成した。DNA標本(リボヌクレアーゼA処理後)を電気泳動のために5%アクリルアミドゲルに塗布した。ゲルを臭化エチジウムによって染色した。レーン1はサイズマーカーとしてのpBR322のHaeIII 消化体を示す。レーン2はpUCK19を収容する細胞からのDNA標本;レーン3はpUCK106;レーン4はpUCK106ΔlacPOを示す。pUCK19はpUC19のカナマイシン変異体である。
(B) pUCK106からのslDNAをポリアクルアミドゲル電気泳動によって精製し、次に種々の制限酵素消化を行った。消化体をポリアクリルアミド(5%)ゲル電気泳動によって分析し、ゲルを臭化エチジウムによって染色した。図3においてレーン1はサイズマーカーとしてのpBR322のHaeIII 消化体;レーン2は消化されないslDNA;レーン3はXbaI によって消化されたslDNA;レーン4はHindIII によって消化されたslDNA;レーン5はPvaIIによって消化されたslDNAを示す。
(C) pUCK106からのslDNAの熱変性。精製slDNA(上記のような)を10mM Tris−HCl(pH8.0)と1mM EDTA中に溶解した。このslDNA溶液を沸とう水浴中で3分間インキュベートし、氷浴中で急冷した。サンプルをAに述べたように分析した。図3においてレーン1はサイズマーカーとしてのpBR322のHaeIII 消化体;レーン2は熱処理なしのslDNA;レーン3は熱変性後に急冷したslDNAを示す。
【0021】
実施例 3
この実施例はpUCK106からのslDNAのダイマー形成を説明する。
(A) 図3について述べたようなpUCK106からの精製slDNAを10mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM MaCl及び10mM MgCl2 中に溶解した。このslDNA溶液を沸とう水浴中で3分間インキュベートしてから、徐々に冷却する。再結合(renatured)DNAをXbaI によって消化させ、このようにして生じたDNAフラグメントをそれらの末端において〔r−32P〕ATPとT4ポリヌクレオチドキナーゼによって標識した。これらの生成物を5%ポリアクリルアミドゲルに塗布した。電気泳動後に、ゲルを乾燥させ、このゲルにオートラジオグラフィーを実施した。
図4において、レーン1はサイズマーカーとしてのpBR322のHaeIII 消化体;レーン2はサイズマーカーとしてのλDNAのEcoRIとHinclIII 消火体;レーン3は処理なしのpUCK106からのslDNA;レーン4は非処理slDNAのXbaI 消化体;レーン5は熱変性後に徐冷したslDNA;レーン6はレーン5からのslDNAのXbaI 消化体を示す。帯を右手側において“a”から“e”までマークを付した。
(B) 図4のA中のフラグメント“d”の特性化。フラグメント“d”はゲルから精製した。レーン3は精製フラグメント“d”のHindIII 消化体;レーン4では精製フラグメント“d”は図3に関して述べたように熱変性し、急冷した。
(C) AとBに示した“a”〜“b”帯の概略図。XとHはそれぞれXbaI とHindIII を示す。XbaI 部位に非常に近接したバンド“a”中に2個の他のHindIII 部位があり、これはバンド“c”中にある。これらのHindIII 部位は図示せず。
【0022】
実施例 4
この実施例はpUCK106からのslDNAのDNA塩基配列の決定を説明する。
(A) slDNAの5′端部のDNA塩基配列の決定。単離、精製したslDNA0.2μgを鎖停止方法(chain termination method) による塩基配列決定に用いた。始点(図5のB参照)から下流の配列96−bpに相当する配列表の配列番号3で表されるプライマー“a”(5 ′GGTTATCCACAGAATCAG3 ′)をプライマーとして用いた。
(B) slDNAのループ部分の5′端部塩基配列の決定。slDNA0.5μgをSacIIによって消化させ、このようにして生じたDNAフラグメントを5′端部において〔r−32P〕ATPとT4ポリヌクレオチドキナーゼによって標識した。約40−bp移動したDNAフラグメントを単離し、マキサム−ギルバート(Maxam − Gilbert)法によって塩基配列を決定した。
(C) slDNAのループ部分の3′端部塩基配列の決定。SacII消化体slDNAを末端デオキシヌクレオチジル転移酵素を用いて3′端部において〔r−32P〕ジデオキシATPによって標識した。ループ部分を含むDNAフラグメントを単離し、マキサム−ギルバート法によって塩基配列を決定した。
(D) slDNAの3′端部のDNA塩基配列。slDNAをAflIII によって消化させた(図5のE参照)、5′端部を〔r−32P〕ATPとT4ポリヌクレオチドキナーゼによって標識した。標識生成物を塩基配列決定用ゲルによって分離した。76塩基移動した一重鎖DNAを単離し、マキサム−ギルバート法によって塩基配列決定した。図5のDを参照すると、数字はpUCK19の始点からの残基数を表す。
(E) pUCK106からのslDNAの構造。このslDNAは1137〜1139塩基の一重鎖DNAからなる。slDNAの5′端部は不均一であるように見える;一部は+1から開始し、他の部分は−1,+2,+3から開始する。+1位置はColEl DNA複製の始点に相当する。従って、種々のslDNAは異なる長さの5′末端鎖を有する。3′端部では16塩基の配列が5′末端の+1位置を越えて伸長する。このループはHindIII 部位(AAGCTT)が配置されるように設定されたIR構造の中心の配列に相当する4塩基配列(AGCT)によって形成されると考えられる。pUCK106中のIR構造中の不適正に相当する塩基対はC・T(pUCK106)からC・G(slDNA中)に変えられ、SacII部位とPstI 部位との間に示される。図5のAのDNA塩基配列決定に用いられるプライマー“a”の位置は矢印によって示す。
slDNAの分離と精製は、モレキュラー クローニング;ア ラボラトリーマニュアル(Molecular Cloning ;A laboratory Manual)、サムブルック(Sambrook) 等、第2版(セクション1.121〜1.40)(“サムブルック”)に述べられている方法に従って標準方法によって実施した。
【0023】
実施例 5
この実施例は二つの可能なslDNA合成方法を説明する(図6参照)。ColEl DNA複製の始点を中心とする二重鎖DNAを上部に示す。斜線入り円は始点からDNA複製を開始するDNA複製複合体を表す。DNA鎖上の白抜き矢印はDNA塩基配列中の35−bp逆方向反復(IR)構造(図2参照)の位置を示す。IR構造中の不適正塩基対(C・T)も矢印中に示す。
工程1において、DNA複製フォークは始点(+1位置)から斜線入り円によって示される位置にまで進行する。新たに合成された第1鎖が始点(中実円)から複製フォークまで伸長するのが示される。DNA複製複合体は中実矢印によって示されるIR構造中の不適正T残基の直前に達する。工程2では、この新たに合成された第1鎖の3′末端がDNA複製複合体から剥離して、2次構造がIR構造によって形成される。工程3では、DNA合成がこの新たに合成された第1鎖(モデルA)または上部の親鎖(モデルB)をテンプレートとして用いてステム−ループ構造の3′末端から再開する。工程4では、DNA合成が始点を越えて16塩基だけ進行する。
モデルAでは、DNAの5′末端に結合して残留するプライマーRNAがテンプレートRNAとして用いられる。続いて、RNAが除去されて、slDNAが形成される。モデルBでは、DNA合成が第2鎖DNA合成の停止のために知られた機構と同様な機構によってterH部位において停止する。
モデルAとBが合成を説明することができ、合成が両ルートによって、少なくとも一部の時間では、同時に進行しうることが考えられる。従って、第1鎖のテンプレートであった鎖以外の第2鎖に対しては適当なテンプレートが用いられる。
【0024】
実施例 6
pUCK106ΔlacPOの構成
lacプロモーター−オペレーターを含む199−bp PvuII−HincIIフラグメントがpUCK106(図1参照)から欠失すると、結果として生ずるpUCK106ΔlacPOは図3のA、レーン4の位置(b)に示すような、pUCK106からslDNAよりも迅速に移動する新しいslDNAを形成した。この新しいslDNAのサイズは360−bp長さであり、pUCK106slDNAよりも、pUCK106ΔlacPO中の欠失サイズに殆ど等しい長さだけ短い。
図3のAでは、レーン3はpUCK106ΔlacPOを収容する細胞からのDNA形成のslDNAを示す。
この実験は上記で提案したslDNA合成モデルを支持し、lacプロモーター−オペレーターがslDNA合成にとって本質的でないことをも実証する。この解釈はlac誘導物質であるイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシドの添加がpUCK106からのslDNAの形成に影響しないという事実によってさらに支持された。しかし、pUCK106ΔlacPOからのslDNA合成減少の理由は現在まだ不明である。
【0025】
実施例 7
slDNAの合成はpUCK106に用いられるIR構造の一次塩基配列に依存しなかった。興味あることには、ポリリンカー部位にIR構造を有するpUC7ベクター自体も、始点からポリリンカー中心までのDNAフラグメントに対応するslDNAを形成することができる。
pUC7から形成された単離精製されたslDNAは252bp長さであった。プラスミド画分を実施例2と同様に形成し、処理し、電気泳動のためにアクリルアミドゲルに塗布し染色した。
図7では、レーン1と3はサイズマーカーとしてのpBR322のHaeIII消化体を示す。レーン2はpCU7から形成されたslDNAを示す。
【0026】
実施例 8
slDNA構造の確認
上記slDNA構造と機構(図6に説明)は次のように確認した:
合成によって構築したDNAフラグメントに不適正塩基CTをCGの代りに故意に加えた。図2のIRの開放スペースを参照のこと。slDNA合成(第1鎖上にスナップ−バックした第2鎖を含む)後に、不適正は修正された。なぜなら図5のEでは、CGが出現している。もし構造がスナップ−バック構造でなかったとしたら、ポリメラーゼがIR領域を正しく読み、Tを鋳型として読みAが挿入されるはずである。すなわち;新しい鎖はまだ不適正を含むと思われる。不適正Tを置換するために、IR部分は第1鎖に必然的にスナップ−バックして、ポリメラーゼにテンプレートとして第1合成鎖を使わせて、第2鎖を合成させ、第2鎖が合成されるときに、不適正Tの代りに相補的Gを挿入させる。これは本発明のslDNAの合成機構と構造を決定的に確立する。
【0027】
本発明の種々の実施態様の詳細な説明
本発明者は、ゲノムの一部が直接ゲノムから複製されるという基本的な発見をした。開示する機構は周知のような、RNA中間体も逆転写酵素(RT)も必要としない。ワイナー等、アン.レブ.バイオケム.55,631(1986);コーンベルグ(Kornberg) 、DNA複製(DNA Replication)〔ダブリュ.エッチ.フリーマン アンド カンパニー(W. H. Freeman and Company)、カルフォルニア州サンフランシスコ、1980〕、101〜166頁参照。ステム−ループDNA(slDNA)と呼ばれる新しい、有用なDNA構造が発見された。
【0028】
はじめに、本発明は幾つかの実施態様を提供する。一実施態様は新規で有用なssDNA分子の合成方法(又はプロセス)である。他の実施態様は適当はプライミング部位と、逆方向反復(IR)と、slDNA合成の他の必要な成分とを有するDNAフラグメントを含む、このような分子を合成するためのインビボ及びインビトロ系である。
このような分子を合成するためのインビボ系はコンピテント自己複製ビークルと系の他の成分とを用いる。この実施態様の他の面は逆方向反復、slDNAの第1鎖の複製のためのテンプレートとして役立つDNA、逆配向のDNA合成をテンプレートに開始させるための適当なプライミング部位、及び必要な場合の親DNAの第2鎖と以下で述べる他の成分を含む自己複製ビークルである。
【0029】
もう一つの実施態様は新規なss−slDNA分子である。
本発明は新規な一重鎖DNA(ssDNA)分子の合成方法を提供する。この分子は、ステムがssDNA中のアニールされた相補的塩基の二重鎖DNAからなり、一端においてssDNA分子の5′と3′末端を形成し、他端において二重鎖DNAの反対端部を結合するDNAの一重鎖ループを形成するステム−ループ構造(slDNA)を含む。この方法はDNA合成の通常の成分と下記成分: (a) 適当なプライミング部位と、前記プライミング部位の下流の逆方向反復(IR)とを含むテンプレートDNA;
(b) テンプレートにDNA重合を開始させるためのプライマー;及び
(c) テンプレートからslDNAを複製するDNAポリメラーゼ
を含む系において実施される。
【0030】
この方法は次の工程:
(1) DNA重合を開始させるためのDNAテンプレートのプライミング工程;
(2) テンプレートとしてDNAの二重鎖の一つを用いてプライマーからssDNAを合成し、一つの鎖を形成し、IR塩基配列に入るまで鎖のDNA合成を続け、IR塩基配列内で合成を停止させる工程;
(3) 新しく合成された鎖内のIR塩基配列における相補的塩基がその端において非重複部分を重複部分とからなるループを形作するために、アニールし、重複部分を連続DNA合成のプライミング部位として機能させる工程;
(4) テンプレートとしてDNAの新たに合成された鎖及び/又は他の鎖を用いてDNA合成を再開する工程;
(5) slDNAを形成する工程;及び
(6) 必要に応じてslDNAを分離し、単離する工程
を含む。
【0031】
この方法はDNA合成のために必要な通常の成分の全てを含む系で実施される。これらの成分はインビボでこの方法が実施されるときに本質的に存在し;この方法をインビトロで実施するときに通常、系に導入される。
【0032】
この方法は、適当なプライミング部分と、このプライミング部位から下流の逆方向反復とを有するDNAの存在を必要とする。DNAはDNA複製を導くためのテンプレートとして機能する。プライマーは、DNA鎖に対して相補的であるプライマー伸長生成物の合成を開始させるように作用しうるオリゴヌクレオチド(天然に生成又は合成的の製造)でありうる。DNA複製の開始方法は当然周知である。ワトソン(Watson)、遺伝子の分子生物学(Molewlar Biology of the Gene)、第3版、ダブリュ.エイ.ベンジャミン社(W. A. Benjamin. Inc.);DNA合成:現在と今後(DNA Synthesis : Present and Future)、モリノイクス(Molineux) とコイヤマ(Kohiyama) 編集、(1977)第V 部、“インビトロにおけるG4とST−1DNA合成(G4とST−1DNA Synthesis in Vitro) ”ワーカー著;第VII 部、“サッカロマイセスセレヴィジェからの透過性細胞系におけるDNA合成(DNA Synthesis in Permeable Cell Systems from Saccharomyces cerevisiae)オエルテル(Oertel)とゴーリアン(Goulian) 著を参照のこと。第1鎖の合成に寄与するポリメラーゼに対して、第2鎖の合成には異なるポリメラーゼが寄与する。プライマーはDNA又はRNAプライマーのいずれでも良い。合成はヌクレオチドと、例えばDNAポリメラーゼのような重合剤との存在下、適当な温度及びpHにおいて誘導される。
【0033】
本発明の方法は、テンプレートに沿った鎖の合成を触媒する酵素のような重合剤を用いる。このための適当な酵素には、例えば大腸菌DNAポリメラーゼI もしくはIII 、大腸菌DNAポリメラーゼI のクレノフ(Klenow)フラグメント、T4DNAポリメラーゼ、T7DNAポリメラーゼ、逆転写酵素(RT);ウイルスポリメラーゼがあり、熱安定性酵素をも含まれる。そのDNA複製開始部位を認識するポリメラーゼが適当である。一般に、このプロセスをインビボで実施する場合に、これらの遺伝要素が存在すると考えられ;インビボで実施しない場合又はインビトロで実施する場合には、これらを系に加えることになる。
【0034】
開始部位を認識するポリメラーゼは重合を惹起させる又は重合に寄与する。発明者はこの場合に特定の理論にしばられるのを望むわけではないが、第1DNA鎖の合成に寄与するポリメラーゼが他方のすなわち第2DNA鎖の合成にも寄与することを除外することはできない。従って、この方法は第2鎖が第1合成鎖の5′末端を越えて3′末端において停止するまで、第2鎖の合成を続けることを含む。このように、slDNAの重複ステムが形成される。
【0035】
DNAポリメラーゼについての情報は入手可能である。例えば、コーンベルグによりるDNA複製(DNA Replication)(ダブリュ.エッチ.フリーマン アンド カンパニー、カルフォルニア州、サンフランシスコ)、101〜160頁、第4章、大腸菌のDNAポリメラーゼI (DNA Polymerase I of E. Coli)、第5章、他の原核生物ポリメラーゼ(Other Procaryotic Polymerases)、第6章、真核生物DNAポリメラーゼ(Eucaryotic DNA Polymerases)及び第7章を参照のこと。
cDNA中の第2鎖合成に有用であるポリメラーゼのような、他のポリメラーゼも考えられる。
【0036】
上記の特定の説明では、ポリメラーゼが2種類:DNAポリメラーゼIII とポリメラーゼI であることが考えれる。
もし蛋白質をコードしうる好ましいもしくは標的となる核酸塩基配列を例えば合成されたslDNA部分遺伝子として複製することが望ましい場合にはこの塩基配列をIRの上流に配置する。例えば、複製始点(OR)を有する、例えばpUCK106等のベクターのような、複製ビークル中で複製が行われる場合には、標的核酸配列はIRとORとの間に位置する。
【0037】
本発明の方法は、上述したように、プライミング部位と逆方向反復(IR)すなわち逆配向で存在する二つの同じ塩基配列を含む二重鎖DNAフラグメントを用いる。IRは塩基配列又は“パリンドローム”として存在しうる。
【0038】
後に述べるように、核酸配列へのランダム点突然変異の導入を容易にすることが好ましい場合には、例えばRTのような、ある特定の酵素が特に好ましい。
【0039】
第1鎖の合成がdsDNAテンプレートに沿って接触しながら、IRを通って進行して、全プラスミドゲノムの複製を生ずる。一定の周期で、DNA鎖の合成はIR内で停止して、それ自体に相補的である塩基配列の短い部分を形成し、ループを形成し、IR塩基配列においてそれ自体にアニールする。新たに合成された鎖内のこの二重鎖部分は第2鎖又は他のDNA鎖のプライミング部位として認識される。第2鎖の合成はDNAの最初に形成された鎖及び/又は他の親鎖をテンプレートとして用いて出発する。従って、テンプレート切換えが生ずると考えらる。
【0040】
ヌクレオチドを含むポリメラーゼによって第2鎖が合成されるので、アニールされた相補的塩基からステムが形成され、内部相補性を有する二重構造が生ずる。
【0041】
第2鎖の合成は第1合成鎖の第1ヌクレオチドをはるかに過ぎて、この第1鎖のRNAプライマーを通って進行する、第1鎖は結局は減成して、3′−オーバーハングを形成する。一つの特定の説明では、DNA合成はダスグプタ(Dasgupta)等、セル(Cell)51、1113(1987)に述べられている方法と同様な方法によってterH部位において停止すると考えられる。
【0042】
適当な処置によって、3′末端オーバーハングの長さは、例えば延ばすように、terH部位をプライミング位置から下流へ動かすことによって制御することができる。
【0043】
さらに、3′末端オーバーハングを有するステムの代りに、適当な停止部位、例えばterHをプライミング部位の上流に配置することによって、第1鎖の端部の前で第2鎖の合成をブロックすることが可能であると考えられる。従って、いずれかの鎖が他方に比べてかなりの長さで長くなると考えられる。
【0044】
第2鎖合成が停止したときに、テンプレートと形成されたslDNAが分離する。
【0045】
本発明の方法は望ましい頻度のサイクルでくり返すことができる。必要な成分のいずれかが欠乏すると、必要に応じて補充することができる。
【0046】
この方法をインビボで実施する場合には、プライミング部位とこのプライミング部位の下流のIRとを含む、適当なコンピテント複製ビークルが形成される。IRを有するDNAフラグメントは通常、ポリリンカー塩基配列中に特有の制限部位に挿入される。ポリリンカーがIR(及び対称的制限部位)を有するプラスミドが用いられている。本質的に存在しない場合には、DNAフラグメントにDNA塩基配列へのプライマーが供給される;ポリメラーゼはビークルに固有であっても固有でなくても良い。ビークルは複製とslDNA形成とに必要な、他の全ての成分を含む。
【0047】
上述したことから、テンプレートとして役立つDNAフラグメント、IR塩基配列、slDNAを形成する鎖の複製をプライムし、続けるために必要な要素を含む自己複製ビークルがslDNAの合成に適することが理解されるであろう。
【0048】
本発明の他の主要な実施態様は新しいslDNAを形成する。これらの構造はすでに上述した、以下では補足の説明を述べる。
“ステム−ループ”又は“slDNA”と名づけられた新しい構造は一重鎖である。slDNAの説明は図5のE(pUCK106から)と図7(pUC7から)に示す。
【0049】
典型的なslDNAはアニールされた相補的塩基の重複二重鎖ステムと、ステムの2鎖を結合する一重鎖ヌクレオチドのループとを含む。ループの一重鎖性は本発明のslDNAのもう一つの興味ある特徴である。slDNAはヌクレオチドの非常に短い配列またはかなり長い配列のループを含むことができる。slDNAはループを形成するために充分な長さのヌクレオチド配列と短い重複二重鎖を形成する塩基対合を含むことができる。最小サイズは第2鎖の合成開始のためのプライミング部位を形成するために充分な塩基対合を与えるものであるべきである。ループの最小サイズは安定構造になるための塩基対合を阻止する塩基上の歪み(strain)によって限定される。最大サイズはslDNAに予定された用途によって影響される。図5のBに図示したループは4塩基からなるが;10塩基、20塩基又はそれ以上の塩基のループも考えられる。slDNAループの一重鎖性はslDNAに提案される用途に非常に有用である特徴である。
【0050】
slDNAに考えられる他の興味ある構造は二重体slDNAである。この構造では、二つのslDNAの一重鎖の自由端部が結合する。この構造は非常に安定であると期待される。通常DNAを変性させるような条件に暴露されると、これらのssDNAはそれらのオリジナル構造に“スナップ−バック”しがちである。鎖の結合はDNA及び/又はRNAリガースによる通常の方法によって実施される。このような構造は蛋白質をコードするための特定の遺伝子をも有し、それによって興味ある新しい実用的可能性を提供する。
【0051】
slDNAの重要な性質である安定性は重複端部(tail) が長くなると共に増加する傾向があると考えられる;従って、このような構造はこのことが強調されるべき特性である場合に好ましい。同一の複製ビークルから形成されるslDNAの全てが必ずしも同じサイズでないことに注目すべきである。上記説明では、pUCK106からのslDNAにおいて、第1鎖の5′末端は不均一であるように思われ、一部の鎖は+1位置(ColEl複製の始点に相当)から出発するが〔トミザワ等、プロク.ナトル.アカド.サイ.USA、74、1885(1977)を参照のこと〕、他の鎖は−1,+2,+3から出発する。従って、DNAは類似したslDNAの類と見なすことができる。
【0052】
DNAフラグメント内にIRを越えて一つ以上の不適正が存在することがslDNAの合成にも構造にも不利な影響を与えないことが認められる。このことはこの場合にパリンドロームの中心から25ヌクレオチド離れたGに対する不適正Tによって説明される(図2参照)。この不適正はslDNAの合成において修復された。
端部の1末端の他方の末端をこえたssDNAオーバーハングを利用した、本発明のslDNAの幾つかの用途が提案される。それ故、このことが本発明の新しい構造の重要な特徴であることは理解されよう。
【0053】
図示したプラスミド内のslDNAの合成は本発明の最も良い形式(mode)を説明する。
しかし、IRとここに述べる他の成分とを含むベクターはslDNAの合成に適切である。
IRは原核生物と真核生物にしばしば出現する構造である。このようなIRは本発明に使用可能である。IR塩基配列は合成的に製造することもできる。1例は図2に示す合成IRである。
【0054】
IRの塩基配列又はパリンドローム塩基配列は大腸菌から得られている〔ギルソン(Gilson)等、ヌクル.アシドス.レス.18、3941(1990)〕;ギルソン等のヌクル.アシドス.レス.19、1375(1991)は大腸菌とサルモネラエンテリチカ(Salmonella enteritica) からのパリンドローム塩基配列を報告している(パリンドローム単位配列40ヌクレオチド長さ)。チャルカー(Chalher) 等のジーン(Gene)71、(1):201−5(1988)は大腸菌における571−bpパリンドロームの増殖を報告している;逆方向反復はルイス(Lewis) 等、ジェイ.モル.バイオル.(J. Mol. Biol)(イングランド)215、(1):73〜84(1990)によって枯草菌(Bacielus subtilis) において報告されている(26−塩基対反復)、サウリン(Saurin)のコンプト.アプル.バイオサイ.(Compt. Appl. Biosci.)3、(2):121−7(1987)は大腸菌における反復パリンドローム構造を系統的に研究するための新しいコンピュータープログラムの使用を考察している。下記米国特許はポリドンローム塩基配列を開示する:第4975376号;第4863858号;第4840901号;第4746609号;第4719179号;第4693980号及び第4693979号。
【0055】
パリンドロームは殆ど同じ(必ずしも同一ではない)塩基配列が逆方向にランする逆方向反復を含むと定義されている。一部は短いが(一方向に3〜10塩基)、他の配列は数百の塩基対を含めて、非常に長い。ワトソン(Watson)、遺伝子の分子生物学(Molecular Biology of Gene) 第3版、224〜225頁。
DNAフラグメント中のIRはサイズがかなり変化しうる。限定するわけではなく、10から30以上のヌクレオチドの逆方向反復を含むslDNAが考えらる。逆方向反復は300を越えるbpを含むと報告されている。カレント プロトコール(Current Protocols) 、セクション1.4.10.
【0056】
slDNAは原核生物又は真核生物のホスト表現(例えば細菌、酵母及び哺乳動物細胞)の合成生成物である。
【0057】
プラスミドのような適当なベクターの例とこれによって形質転換されるホスト細胞は、当業者に周知である。必要な成分を有するプラスミドの適当なホストには、原核生物と真核生物とが存在する。原核生物は、例えばエシエリキア(Escherichia) 属、特に大腸菌;バチルス(Bacillus)属;特に枯草菌のような微細物を含む。
【0058】
大腸菌を形質転換することのできるプラスミドは、例えばpUC型とColEl型プラスミドがある。米国特許第4910141号参照。大腸菌を形質転換することができるプラスミドは例えば、一般にColEl型プラスミドを含む。大腸菌の形質転換に適当な、他のプラスミドを下記に挙げる:pSC101、pSF2124、pMB8、pMB9、pACYC184、pACYC177、pCK1、R6K、pBR312、pBR313、pML2、pML21、ColElAP、RSF1010、pVH51、pVH153。
【0059】
枯草菌を形質転換することのできるプラスミドを下記に挙げる:pC194、pC221、pC223、pUB112、pT127、pE194、pUB110、pSA0501、pSA2100、pTP4、pTP5及びこれらの誘導体。
【0060】
枯草菌と大腸菌の両方を形質転換することのできるプラスミドは、ジェイ.バクテリオル.(J. Bacteriol.) 145、422〜428(1982);プロク.ナトル.アカド.サイ.USA、75、1433〜1436(1978)及び遺伝子操作の原理(Principles of Gene Manipulation) 第2版、カル(Carr)等編集、カリフォルニア大学出版局(バークレイ)、1981、48頁に述べられている。
【0061】
真核生物においてslDNA合成を実施するために特に重要であるのは、エス.セレヴィジェ(S. cerevisiae) を形質転換することのできるプラスミド:pMP78、YEp13、pBTI1、pLC544、YEp2、YRp17、pRB8(YIp30)、pBT17、pBT19、pBT110、pAC1、pSLe1、pJDB219、pDB248及びYRp7である。YIp5、pUC−URA3、pUC−LUE2及びpUC−HIS3も考えられる。酵素学における方法(Methods in Enzymology)194巻、285、373〜378頁「酵母遺伝学と分子生物学のガイド(Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology) 」、グスリー(Guthrie) とフィンク(Fenk)編集(1991)、アカデミック プレス社(Academic Press. Inc)を参照のこと。他の酵母ベクターは遺伝子表現の実験操作(Experimental Manipulation of Gene Expression)イノウエ マサノリ(Massayori Inouye)編集、アカデミック プレス社(1983)、100〜104頁に述べられている。
【0062】
さらに、大腸菌ならびに例えばエス.セレヴィジェのような酵母の形質転換に用いることができるシャトルベクターが特に重要である。このようなベクターはpkb42とpYC1を含む。他の例は分子クローニングの実用ガイド(A Practical Guide to Molecular Cloning)ベルナード ペルバル(Bernard Perbal)による第2版(ウイリーアンドサンズ)中の“下等及び高等真核生物のコスミドベクター(Cosmid Vector for Low and Higher Eucaryotes) ”に関するセクションに挙げられている。他の適当なベクターはカレント プロトコール、2巻、セクション13.4.1、13.4.2(1989)に述べられる。他の適当なビークルはYEp24〔ボトシュタイン(Botstein )等、ジーン、8、17(1879)〕とpJDB207〔ベッグ(Beggs) 、ゲネチック エンジニヤリング(Genetic Engineering) (ウィリアムソン(Williamson)編集)2巻、175頁、アカデミック プレス(1982)のような、一般のマルチコピーベクターを含む。選択可能な、他のベクターは、YEp51とYEp52のようなYIpクラスのプラスミドを含む。
【0063】
本発明の実施するための商業的に入手可能な真核ベクターの例は、例えばCOS、CHO及びHeLa細胞におけるpSVLとpKSV−10である。他の例は分子クローニング実用ガイドに挙げられている。
【0064】
形質転換ホストの培養と発酵は技術上公知の標準的な一般方法によって実施される。例えば、メソッズ イン エンザイモロジー、185巻、遺伝子表現テクノロジー〔編集者ゴッデル(Goeddel) 〕1990(特に細胞ラインの増殖)を参照、酵母に関しては、メソッズ イン エンザイモロジー、194巻、酵母遺伝学と分子生物学のガイドを参照;大腸菌の増殖条件は、カレント プロトコールイン モレキュラー バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)、1巻、1.1.1、1.1.2、1.1.3、1.1.4、1.3.1頁及びモレキュラー クローニング:ア ラボラトリー マニュアル(Moloecular Cloning :A Laboratory Manual)第2版、1.21頁に述べられており、プラスミドDNAの精製は1.23頁に述べられており、哺乳動物細胞に適した培養増殖条件がカレント プロトコール、1巻と2巻、9.0.4〜9.0.6、9.1.1、9.1.2、9.1.3、9.2.5、9.4.3、11.5.2、11.6.2及び11.7.3頁に述べられている。
【0065】
要約すると、一重第1鎖の複製開始と合成のために必要な成分、すなわち開始部位を含むDNAテンプレートフラグメントとIR(及びポリメラーゼ)を複製ビークル中に供給すると、slDNAが形成されると期待される。
本発明のslDNAの合成をインビトロで実施する場合に、合成はテンプレートとしてDNAフラグメントを用いるヌクレオチド鎖の合成のための通常の成分を含む培質中で実施する。一般に、合成は好ましくはpH7〜9の緩衝化水溶液中で行われる。DNAテンプレート鎖上にモル過剰量のオリゴヌクレオチドが存在することが好ましい、デオキシリボヌクレオシド三リン酸dATP、dCTP、dGTP及びTTPも合成混合物の成分である。溶液を加熱し、次に冷却する。次にポリメラーゼを加えると、合成が進行する。これらの成分はここに述べる本発明のための「通常成分」と呼ばれる。
【0066】
オリゴヌクレオチド合成は、米国特許第4415734号と、マットイシ(Matteuci)等ジェイ.アム.ケム.ソク.103(11):3185〜3191頁(1981);アダムス(Adams) 等、ジェイ.アム.ケム.ソク.105(3):661〜663頁(1983);及びベムケージ(Bemcage) 等、テトラヘドロンレタース(Tetrahedron Letters) 22(20):1859〜1867(1981)に述べられている。
【0067】
本発明の方法は遺伝子工学の技術と分子クローニングを利用する。遺伝子工学の一般的技術と分子クローニングは下記文献に含まれる:サムブロック(Sambrook)等、モノキュラー クローニング:ア ラボラトリー マニュアル、第2版、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory) 、1990、分子クローニング便覧、第2版、バーナード、ペルバル(1988);メソッズ イン エンザイモロジー、68巻、組換えRNA〔ウー(Wu)編集者〕、アカデミック プレス、N.Y.、1979;メソッズ イン エンザイモロジー、185巻、遺伝子表現テクノロジー〔ゴエデル(Goeddel) 編集者〕1990、カレント プロトコールス イン モレキュラー バイオロジー、1,2及び3巻。
【0068】
本発明のslDNAは幾つかの重要な用途を有する。本発明の方法は特定の遺伝子にライダム突然変異を導入するために利用することができる。このような系は形質転換ベクター中のβーガラクトシダーゼの遺伝子を示す図7に説明される。
【0069】
この方法は、ステム中の配置された重要な遺伝子を含むslDNAの合成、slDNAの単離、slDNAから遺伝子の切断、適当な複製ビークルへのそれのクローニング及びその遺伝子によってコードされる蛋白質の表現を含む。蛋白質は目的の活性に関して試験することができる。標準方法によって、コロニーを検査して、突然変異遺伝子を有するコロニーを確認することができる。
【0070】
突然変異の発生と確認の説明は次のように進める。lacZ遺伝子を収容するpUCK19(実施例1参照)中に、DNAフラグメントとOR(実施例1に示す)との間に35bpIR(実施例に説明)を含む前出の配列表の配列番号1及び2で構成され、図2で示す215bpDNAフラグメントを結合させる。このプラスミドを標準条件下で増殖するコンピテント大腸菌CL83に形質転換させる。その後、slDNAを単離し、lacZ遺伝子を切断して、pUC19中(IR含有フラグメントをもっていない)に挿入する。次いでこのプラスミドを大腸菌CL83に形質転換させる。突然変異の頻度をβ−gal、無色基質を用いて公知のインビボ試験によって評価する、前記無色基質は加水分解されると暗青色生成物を生ずる。コロニーが無色である場合には、このことがβ−ガラクトシダーゼが製造されないことを示唆する。
【0071】
lac遺伝子類の他の遺伝子、例えばlacYもしくはlacA又は他の適当な遺伝子をこのスクリーニング試験に用いることができる。重要な蛋白質(又はポリペプチド)をコードする遺伝子も、突然変異の頻度決定と、誘導蛋白質(又はポリペプチド)をコードする適当な遺伝子の選択とに用いることができる。
【0072】
スクリーニング方法は標的遺伝子に突然変異を導入し、突然変異率を増加させやすい、ポリメラーゼの選択を可能にする。従って、例えばlacZ遺伝子のような適当な遺伝子をスクリーニング遺伝子として用いることができる。複製確実度(replication fidelity)の低いことが知られる逆転写酵素は目的蛋白質をコードする標的遺伝子に突然変異を導入するために選択すべき酵素であるように思われる。
【0073】
好ましい標的蛋白質は、好ましい生物学的性質のために選択された、突然変異遺伝子を有する、特定のコンピテント形質転換ホストによって表現される。
【0074】
突然変異の頻度は、複製における確実度の低いことが知られる適当な酵素を選択することによって影響されやすいと考えられる。従って、標的DNAフラグメント又は遺伝子を増幅する場合に、系は複製確実度又は不確実度すなわち挿入DNAフラグメント又は遺伝子の複製におけるDNAポリメラーゼによってなされるエラー(error )頻度に依存する。このようにして、各複製エラーに対して、ランダム突然変異が遺伝子に導入される。DNAポリメラーゼの不確実度が高ければ高いほど、突然変異遺伝子類は大きくなる(この逆もいえる)。
【0075】
PolIII とPolI とが有効であると考えられる本発明の上記実施態様の一つでは、PolI が自己修正機能を有することが知られているので、PolIIが低い確実性を有すると考えられる。このようにして、系の複製確実度はDNAポリメラーゼの適当な選択によって調節することができる。一般に、ランダム突然変異は第2鎖を合成するポリメラーゼによって導入されやすいと考えられる。興味ある候補ポリメラーゼはRTである。
【0076】
好ましい突然変異を有する遺伝子は染色体交差(chromosomal crossover)に有用である。この方法によって、重要な遺伝子又は突然変異遺伝子を有するslDNAを用いて、同種の一つの分子からもう一つの分子への遺伝情報を融和させ、交換することができる。突然変異遺伝子はゲノム内にペクター塩基配列に類似した塩基配列を配置し、相同な遺伝子が突然変異遺伝子によって複製される。
【0077】
このようにして、突然変異遺伝子を含み、好ましい蛋白質を表現する微生物の新しい系統が発生することができる。突然変異遺伝子を有するslDNAはインビトロ又はインビボで製造することができる。
【0078】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)はDNAの特定セグメントをインビトロ酵素増幅するための迅速手段である。標準PCR方法は増幅すべき二重鎖DNAセグメント、セグメントと側面を接する常に二つの一重鎖オリゴヌクレオチドプライマー、DNAポリメラーゼ、適当なデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)、バッファー及び塩を必要とする。カレント プロトコール セクション15参照のこと。
【0079】
本発明のss−slDNAは単一プライマーによって増幅することができる。この特徴は増幅をかなり簡単化し、プライマーがその適当な複製開始部位を見出す問題の解決を助け、これをさらに経済的にし、従来のPCR方法に付随する問題の解決を助ける。
【0080】
slDNAの増幅はslDNAを変性して、一重鎖DNA(3′から5′末端まで)を形成することを含む。この反応は通常の順序:3′末端からのプライミング、ポリメラーゼ反応、変性とアニーリングに従って行われる。これが25サイクル実施されると、slDNAの100万倍増幅が生ずる。slDNAは標的蛋白質をコードする遺伝子を有することができる。
【0081】
エルリッヒ(Erlich)等による“ポリメラーゼ連鎖反応における最近の進歩(Recent Advances in Polymerase Chain Reaction)”なるタイトルのサイエンス(Science )252、1643〜1650(1991年6月21日)内の最近の報告はプライマーに関連する問題と、PCR方法に提案されている改良とを考察している。
【0082】
従って、本発明のss−slDNA構造を1プライマーを用いる方法によって増幅する方法は非常に重要である。slDNAは例えば改良された生物学的特性を有する突然変異遺伝子のような、重要な遺伝子を有することができる。
【0083】
本発明のslDNAのインビボ製造は目的の塩基配列を形成するように操作されることができる。このようにして製造されたslDNAを次に、アンチセンス(antisense )DNAとして用いることができる。
【0084】
現在考えられている魅力的な用途は、本発明のslDNAが三重鎖らせんDNA、すなわち三重鎖DNAを形成し、結果としての新しい三重鎖slDNAの形成に果たす役割である。サイエンス、252、1374〜1375(1991年6月27日)における最近の報告、“三重鎖DNAがついに完成(Triplex DNA Finally Comes of Age )”は本発明の適時性を強調している。三重鎖DNAは第3鎖を染色体DNA上の特定認識部位に結合させることによって製造することができる。好ましくは塩基の完全量(full complement )(例えば11〜15以上)を含むサイズの合成鎖を検討している。長い3′(又は5′)末端(及び非重複塩基のループ)を有する本発明のslDNAは良好な候補であるように思われる。結果として生ずる三重鎖DNAは大きな安定性と有用性とを有するように思われる。AIDS療法、選択的遺伝子阻害等を含めた三重鎖らせん形成に基づく新しい療法がこの報告に提案されている。
【0085】
本発明が技術と科学に有意な貢献をすることは認められるであろう。
【0086】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明のプラスミド、pUCK106の説明図。
【図2】図2はpUCK19のXba1I部位に挿入された215−bpのDNA塩基配列を示す図。
【図3】図3はpUCK106からのslDNAの形成とその特徴とを説明するポリアクリルアミドゲルの臭化エチジウム染色を示す。
【図4】図4はpUCK106からのslDNAのダイマー形成を説明するポリアクリルアミドゲルのオートラジオグラフを示す。
【図5】図5はpUCK106からのslDNA塩基配列決定を説明する図である。
【図6】図6はslDNA合成の二つの可能なモデルを説明する図である。
【図7】図7のレーン1と3はサイズマーカーとしてのpBR322のHaeIII 消化体(digest)を示し、レーン2はpUC7からのslDNAを示す。
【図8】図8はslDNAを利用して、特定の遺伝子にランダムミューテーションを導入する具体例を示す図である。
Claims (6)
- ステムがssDNA中のアニールされた相補的塩基の二重鎖DNAからなり、一端においてssDNA分子の5′と3′末端を形成し、他端において二重鎖DNAの反対端部を結合するDNAの一重鎖ループを形成するステム−ループ構造(slDNA)を含む、新規な一重鎖DNA(ssDNA)分子を合成する方法であって、次の工程:
(1) 適当なプライミング部位と前記プライミング部位の下流に逆方向反復配列(IR)とを含むテンプレートDNAを含有する自己複製DNAビークルを作成する工程;
(2) 前記自己複製DNAビークルでホスト細胞を形質転換する工程;
(3) 前記のホスト細胞を培養し、slDNAを生成せしめる工程;及び
(4) slDNAを分離する工程、を含む方法。 - 自己複製DNAビークルがプラスミドである請求項1記載の方法。
- プラスミドが大腸菌プラスミドである請求項2記載の方法。
- プラスミドがpUCK106である請求項2記載の方法。
- ステムがssDNA中のアニールされた相補的塩基の二重鎖DNAからなり、一端においてssDNA分子の5′と3′末端を形成し、他端において二重鎖DNAの反対端部を結合するDNAの一重鎖ループを形成するステム−ループ構造(slDNA)を含み、さらにアンチセンス核酸もしくは三重鎖DNAを形成しうる核酸を含有する新規な一重鎖DNA(ssDNA)分子を合成する方法であって、次の工程:
(1) 適当なプライミング部位と前記プライミング部位の下流に逆方向反復配列(IR)とを含むテンプレートDNAを含有する自己複製DNAビークルを作成する工程;
(2) 前記自己複製DNAビークルでホスト細胞を形質転換する工程;
(3) 前記のホスト細胞を培養し、slDNAを生成せしめる工程;及び
(4) 必要に応じてslDNAを分離する工程、を含む方法。 - slDNAが、その3′末端、5′末端、ループから選択される部位にアンチセンス核酸もしくは三重鎖DNAを形成しうる核酸を有する請求項5記載の方法。
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