JP3580070B2 - 耐硫酸性セメント組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、下水道、温泉地等の、硫酸根による腐食が問題になる箇所での使用に適した、および、耐酸性雨性が向上された耐硫酸性セメント組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
下水道、温泉地等の硫酸を含む環境に晒される箇所においては従来から、硫酸または硫酸塩によるセメント硬化体の腐食が問題になっていたが、近年における酸性雨による腐食は単に下水道、温泉地等の限定された箇所での問題に留まらず、セメントを使用した構造体全体の問題となっている。セメント組成物は硫酸に接触すると、難溶性石膏を形成すると共に、ケイ酸、アルミナ等が溶解して、シリカやアルミナゲルを生成する。硫酸のセメントに対するこの作用は、当然酸の濃度に依存する。pHが2より大である(硫酸濃度0.1%以下)軽度の場合には、炭酸ガス、硫酸塩または低濃度の酸による腐食に対する場合と同様に、セメント組成物を緻密化させることが腐食物質の内部への浸透を抑制する点から効果があり、高性能AE減水剤等の使用により作業性を確保しながら水セメント比を低下させることにより耐食性を向上させることが出来るが、重度の場合には対応が難しく、例えば、pHが2以下と非常に低くなると、セメント組成物に酸に対する抵抗性を期待することは困難であると言われている。pH が2以下(硫酸濃度0.1%以上)における酸による劣化防止法として、セメント組成物にポリマーを複合させたポリマーセメントや、セメント組成物表面を耐食性材料(例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂)で被覆し、化学的腐食性物質とセメント組成物の接触を防止する防食被覆(ライニング)材が用いられている。しかし、ポリマーセメントや防食被覆材は高価であるだけでなく、製造時または施工時に特殊な工程が入るため汎用的なものではなく、また、耐硫酸性であることが好ましくとも、そこまで費用を掛けて耐硫酸性を向上させる必要のない場合もある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来技術のこうした問題点を解決することにある。すなわち、本発明は、セメント組成物製造時またはセメント組成物を使っての施工時に特別な工程や大きなコスト負担を必要とせずに、耐硫酸性の向上した硬化体を与えるセメント組成物の提供を目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機化合物を、セメント100重量部に対して、0.96〜3.6重量部含む、pH2以下の硫酸酸性雰囲気に配設されるセメント硬化体製造用の耐硫酸性セメント組成物にる。以下に本発明を詳しく説明する。
【0005】
セメント組成物からセメント製品を製作する際、高い作業性を確保しながら水セメント比を低減する手段として、減水剤を添加することは従来良く行なわれている方法である。減水剤はそれを構成する主有機物成分の違いにより種々のものが存在するが、ナフタレンスルホン酸あるいは含窒素スルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機化合物もその中の一つである。しかし、この場合の水溶性有機化合物の添加目的は、水セメント比を小さくした場合におけるセメントを含むスラリーの流動性を確保することにあることから、その添加量は、当然、その目的を達成するのに必要な最少量とされ、セメント100重量部当たり、固形成分基準で1重量部以下の添加が一般的に行なわれている。例えば、花王社からマイティ150の商品名で市販されている減水剤はナフタレンスルホン酸塩を主有機物成分とするものであるが、セメント成分100重量部あたりの添加量は水溶液基準で0.6〜2.4重量部とするようにマニュアルに記載されている。マイティ150は、ナフタレンスルホン酸を主成分とする固形物成分を大凡40重量%含む水溶液であり、従って、固形成分基準での添加量はセメント成分100重量部あたり0.24〜0.96重量部となる。
【0006】
固形成分基準で量った減水剤の添加量をセメント100重量部あたり1重量部以下とするのは、過剰添加では硬化の遅延を招くことがあるからでもあるが、必要最少量以上添加しても流動性の向上は頭打ちになり、流動性確保の面からはメリットがないのに経済的にマイナス要因となるのが大きな要因である。すなわち、流動性確保の点から要求される必要最少量より過剰に添加することによりもたらされる利益が認識されていなかったのである。本発明者等は、ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機化合物を成分とする減水剤の添加量を、流動性確保を目的として一般に行なわれている量より大きくすることにより、硬化後の耐硫酸性が大幅に改善されたセメント組成物が得られることを知見し、本発明に至った。
【0007】
ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機物の添加によってもたらされるこの耐硫酸性改善の機構は、この物質の減水剤としての働き、すなわち、水セメント比低減による硬化体組織の緻密化だけでは説明できず、本来耐硫酸性を有しているナフタレンスルホン酸が、セメント粒子表面に被覆層を形成して硬化体の耐硫酸性が向上することに起因すると推定される。
【0008】
ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩は、一般にナトリウム塩として水溶液、または粉体の形態で市販されているが、それをそのまま使用することができる。
【0009】
ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機物の添加量は、セメント100重量部に対して0.96〜3.6重量部、好ましくは、1.0〜3.5重量部、更に好ましくは、1.7〜3.2重量部とするのが良い。尚、ここで言う添加量とは、水溶液の形態で市販されている添加剤全体の量を指すのではなく、その中に含まれ、水を除去した後に残る、スルホン酸のアルカリ金属塩を置換基として有する有機物を主成分とする固形成分の重量を言う。添加量が0.96重量部より少ないと、減水剤としての機能は有するが、耐硫酸性向上の効果は小さく、3.6重量部より大であると、コスト的に不利になるだけでなく、セメントの硬化の遅延を招き好ましくない。
【0010】
本発明で使用されるセメントとしては、ポルトランドセメント、普通セメント、中庸熱セメント、耐硫酸塩セメント、高炉セメント、フライアッシュセメント等を挙げることが出来る。
【0011】
セメントに、ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機物を添加したものに更に炭酸カルシウムを添加することにより、耐硫酸性が更に向上されたセメント組成物を得ることが出来る。炭酸カルシウムは、硬化体が硫酸根と接触した際にエトリンガイトが生成するのを抑制するだけでなく、硬化体組織を緻密化させることにより、耐硫酸性を向上させるものと推定される。本発明で使用する炭酸カルシウムは純粋なものでなくとも炭酸カルシウムを主成分とするもの、例えば工業用純度のものが使用できる。また、天然の鉱物を粉砕して製造した石灰石粉末、石灰石骨材、もしくは石灰石を一度焼成し炭酸ガスと反応させて製造した所謂軽質炭酸カルシウムも使用できる。炭酸カルシウムは、1μm〜1mmの粒径を有する粉末として使用するのが好ましい。
【0012】
炭酸カルシウムの添加量は、セメント100重量部に対して30〜100重量部とするのが好ましい。30重量部より少ないと耐硫酸性向上の効果が小さく、100重量部より多く添加しても、添加量に見合った耐硫酸性の改善効果の増進はほとんど認められず、逆に、セメント硬化体の強度が低下しマイナス要因となる場合があるからである。
【0013】
本発明のセメント組成物の調製は、混練に先立ち各成分を予め混合して置くこともできるが、水、骨材およびその他混和剤を加えて混練する際に各成分を添加する方法が最も好ましい方法である。
【0014】
また、本発明の耐硫酸性セメント組成物は、基本成分であるベースセメント、ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機化合物、炭酸カルシウムおよび水に加えて、砂や砂利等の骨材、硬化促進剤、硬化遅延剤、鉄筋防錆剤等、公知の添加剤を添加しても何等問題を生じず、ペースト、モルタル、コンクリートの材料として、従来公知の施行法で使用することができる。具体的適用例としては、コンクリート管、コンクリートU字溝、コンクリートパイル等のコンクリート製品の他、建築物、構築物およびそれ等の表面に塗布する防食被覆層等を挙げることが出来る。
【0015】
【発明の実施の形態】
【実施例】
以下に例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
(1)原料
各例の実施に当たっては以下の原料を使用した。
セメント:普通ポルトランドセメント、耐硫酸塩セメント、フライアッシュセメント、高炉セメントB 種[何れも宇部興産社製]
石灰石粉:ブレーン比表面積6400cm/g
軽質炭酸カルシウム:平均粒径1〜3μm[米庄石灰工業社製]
水溶性有機物:ナフタレンスルホン酸塩[商品名:マイティ150,花王社製]、含窒素スルホン酸塩[商品名:ポールファインMF 、竹本油脂社製]、カルボキシル基含有ポリエーテル商品名:マイティ3000H 、花王社製]、ポリカルボン酸エーテル[商品名:レオビルドSP8S 、NMB 社製]
何れも、セメントに対する減水剤として水溶液の形態で市販されているものをそのまま添加した。
骨材:豊浦標準砂JIS R5201対応品
【0016】
(2)セメントモルタルの調製
セメントに、豊浦標準砂、水、および所定量の水溶性有機物を混合してセメントモルタルを調製した。セメントと豊浦標準砂の重量比は1:2とした。水セメント比は例毎に異なるので、必要に応じて表示した。
(3)セメントペーストの調製
セメントに、水、および所定量の水溶性有機物を混合してセメントペーストを調製した。水セメント比はW /C=0.3である。
【0017】
(4)養生
縦4cm×横4cm×長さ16cmの型枠に上記(2)または(3)の方法で調製したセメントモルタルまたはセメントペーストを流し込み、先ず、20℃の恒温室で一昼夜気中養生した。一昼夜気中養生後の試料は、養生条件を各種変化させて追加の養生を行なった。追加の養生条件は例毎に異なるので、必要に応じて記載した。
(5)耐硫酸性の評価
養生終了後サンプルについての耐硫酸性の評価は、JIS原案の「コンクリート溶液浸漬による耐薬品性試験方法」に則って行なった。すなわち、養生終了後のセメントモルタルまたはセメントペーストを2%(pH約0.7)または5%(pH約0.3)硫酸水溶液に浸漬し、13週間経過後に硫酸水溶液から取り出した。取り出したモルタルまたはセメントペーストを切断し、明かに変色していない部分の長さを測定し、初期長さである4cmから、変色していない部分の長さを減じたものを2で除して、腐食深さを算出した。耐硫酸性指数は、次式に示すように、水溶性有機物添加時の腐食深さの、水溶性有機物無添加時の腐食深さに対する比の値の逆数として算出した。
耐硫酸性指数=有機物無添加時の腐食深さ/有機物添加時の腐食深さ
【0018】
実施例1〜9および比較例1〜4(但し、実施例1は参考例である)
先ず、セメントとして耐硫酸塩ポルトランドセメント、水溶性有機物としてスルホン酸塩を有するナフタレンスルホン酸塩[花王社製のマイティ150]を選んで調製したモルタルについて有機物添加量の影響を検討した。水セメント比はW/C=0.5(重量比)であり、追加養生は20℃の水中で材齢28日まで行なった。2%硫酸溶液に浸漬した場合の耐硫酸性評価結果を表1に示す。表1の結果から、セメント100重量部に対するナフタレンスルホン酸塩の添加量が固形成分換算で0.4重量部を超えると、耐硫酸性を示す耐硫酸性指数が2倍以上に向上することが分かる。
【0019】
【表1】
Figure 0003580070
【0020】
実施例10、11および比較例5
ここでは、耐硫酸塩ポルトランドセメントに水溶性有機物としてナフタレンスルホン酸塩[花王社製のマイティ150]を所定量添加・混合して調製したモルタルについて、試験硫酸溶液濃度を5%に上げた場合の例を示す。水セメント比はW/C=0.5(重量比)であり、追加養生は、蒸気養生(65℃、5時間)及びそれに続く水中養生(20℃、7日間)の条件で行なった。耐硫酸性評価結果を表2に示す。ナフタレンスルホン酸塩を添加することにより、硫酸濃度が5%と高い状態下でも、耐硫酸性指数が2倍に向上していることが分かる。
【0021】
【表2】
Figure 0003580070
【0022】
実施例12〜14および比較例6〜8ここでは、製品形態をモルタルからセメントペーストに変え、且つセメント種を変えた場合の例を示す。検討したセメントは、耐硫酸塩ポルトランドセメント、フライアッシュセメントB 種および、高炉セメントB種の3種であり、水溶性有機物としてナフタレンスルホン酸塩[花王社製のマイティ150]を使用した。水セメント比はW/C=0.3(重量比)であり、蒸気養生(65℃、5時間)及びそれに続く水中養生(20℃、7日間)による追加養生を行ない、耐硫酸性試験は5%硫酸溶液で行なった。結果を表3に示す。製品形態がセメントペーストの場合においても、セメント種を問わず、ナフタレンスルホン酸塩の添加により、耐硫酸性指数は無添加の場合の約2倍に向上することが分かる。
【0023】
【表3】
Figure 0003580070
【0024】
実施例15〜24および比較例9、10ここでは、ナフタレンスルホン酸塩に加えて更に炭酸カルシウムを加えた場合の例を示す。検討したセメント種は耐硫酸塩ポルトランドセメントと普通ポルトランドセメントの二種である。セメント100重量部に対してナフタレンスルホン酸塩[花王社製のマイティ150]0.96重量部(固形物換算)及び所定量の炭酸カルシウム分を添加してモルタルを調製した。水セメント比はW/C=0.45(重量比)であり、蒸気養生(65℃、5時間)及びそれに続く水中養生(20℃、7日間)による追加養生を行ない、耐硫酸性試験は5%硫酸溶液で行なった。結果を表4に示す。ナフタレンスルホン酸塩に加え、セメント成分100重量部に対し30重量部以上の炭酸カルシウムを添加することにより、炭酸カルシウムの種類を問わず、炭酸カルシウム無添加の場合に比べて耐硫酸性指数は2倍以上に向上し、ナフタレンスルホン酸塩および炭酸カルシウムを共に含まない場合の4倍以上に向上することが分かる。
【0025】
【表4】
Figure 0003580070
【0026】
実施例19、25および比較例9、11(但し、実施例25は参考例である)
ここでは添加有機物の種類を変えた場合の例を示す。耐硫酸塩ポルトランドセメント100重量部に、表5に示す水溶性有機物の水溶液を2.4重量部(水溶液として)加えてモルタルを調製した。水セメント比はW/C=0.45(重量比)であり、蒸気養生(65℃、5時間)及びそれに続く水中養生(20℃、7日間)による追加養生を行ない、耐硫酸性試験は5%硫酸溶液で行なった。結果を表5に示す。分子内にスルホン酸塩を置換基として有する、ナフタレンスルホン酸塩および含窒素スルホン酸塩が耐硫酸性向上効果を有しているのに対し、スルホン酸塩を有していない減水剤は、耐硫酸性向上にマイナスの効果を示すことが分かる。
【0027】
【表5】
Figure 0003580070
【0028】
【発明の効果】
本発明によるセメント組成物は、耐硫酸性に優れたセメント製品の製造を可能にするだけでなく、セメントにナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機化合物を添加する簡便な方法により調製可能であり、通常のセメント製品を製造する施設において容易且つ安価に調製することができる。従って、本発明によるセメント組成物は、温泉地、下水道施設等の、硫酸塩に晒される可能性の高い箇所において使用されるセメント製品への適用は勿論、近年問題になっている酸性雨にも高い耐久性を示すことから、一般のセメント製品用としての利用価値も大である。

Claims (2)

  1. ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機化合物を、セメント100重量部に対して、0.96〜3.6重量部含む、pH2以下の硫酸酸性雰囲気に配設されるセメント硬化体製造用の耐硫酸性セメント組成物。
  2. 更に炭酸カルシウム粉末をセメント100重量部に対して30〜100重量部添加して成る請求項1に記載の耐硫酸性セメント組成物。
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