JP3579306B2 - 突起付円筒体の外周面加工方法及びその加工装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、円環形状の端面を有するカップ形砥石の該端面で、円筒体の外周面に突起が設けられている突起付円筒体の該外周面を加工する突起付円筒体の外周面加工方法、及び加工装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ロータリー式圧縮機としては、例えば、図8に示すようなものがある。
この圧縮機50においては、ピストン51がシリンダ52内に組込まれており、ピストン51がモータ(図示せず)に直結したクランクシャフト53の偏心部分の回転により、シリンダ52の内面52aに対して公転運動を行う。このピストン51には、その外周面にブレード51aが設けられている。シリンダ52の内部は、ピストン51の外周面とシリンダ52の内面52aとが接触しているシール部59と、ブレード51aとにより、低圧室57と高圧室58とに仕切られている。シリンダ52の吸入口55より吸い込まれた冷媒ガスは、ピストン51の公転運動によって圧縮され、シリンダ52の吐出口56より冷凍サイクル(図示せず)に供給される。ブレード51aは、シリンダ52に回動自在に挿入された一対のシュー54により案内されている。なお、図8では説明の便宜のためにシリンダ52の両端面は開口させているが、実際には、この開口は、シャフト53を支持するする軸受け部材で塞がれている。
【0003】
このような円筒体の外周面に突起(以上では、ブレード51aに相当)が設けられている突起付円筒体を加工する方法として、特開平10−193242号公報に開示される方法が知られている。
【0004】
この方法は、図9に示すように、カップ形砥石60を用いて、突起付円筒体51の外周面51bを加工する方法である。
【0005】
カップ形砥石60は、その中心軸Eを中心として回転し、ピストン51は、円筒の中心軸Oを中心として回動する。ピストン51の外周面51bは、カップ形砥石60の端面61と、点Pで接触している。この際、カップ形砥石60は、その端面61が直線OPに対して垂直になっている。
【0006】
カップ形砥石60の外縁および内縁側の形状は、ピストン51のブレード51aが加工に必要な範囲で接近しても接触しない形状になっており、特に、内縁側はブレード51aを十分に収容できる凹部を成した形状としている。
【0007】
図10は、図9のA方向から見た際のカップ形砥石60の端面の軌跡、及びピストン51を示すものである。図10において、砥石60の端面61とピストン51の外周面51bの接触部は、ピストン51の円筒体の母線となる、直線P11−P12である。砥石60の端面61中であって、直線P11−P12を通過していく部分は、砥石60の中心軸Eを中心とし、点P11と点P12を通過する円弧Bと、中心を同じくし、直線P11−P12上の点であって中心軸Eまでの最短距離点P13を通過する円弧Cによって挟まれる範囲である。砥石60の端面61で円弧Bと円弧Cによってはさまれた範囲、つまり端面61中の実作業面が通過することで、P11−P12の部分が加工される。なお、同図において、砥石端面61の幅をW、砥石端面61の実作業面の幅をT、ピストン51の中心軸と平行な方向の寸法をLとしている。
【0008】
図9に示すような配置で、中心軸Oを中心としてピストン51を回動させると、ピストン51の外周面51bが加工される。ピストン51はブレード51aを備えており、同一方向に回動を続けようとするとブレード51aがカップ形砥石60に接触して干渉するので、加工が必要な範囲の始点と終点の間で、正転、逆転と回動方向を反転させながら、外周面51bの加工を行なう。カップ形砥石60の切り込み動作は、カップ形砥石60の中心軸Eに平行で且つカップ形砥石60がピストン51に接近する方向に、カップ形砥石60を移動させることで、実施される。
【0009】
一般的に、研削抵抗を小さくして加工精度を向上させるために、切り込みを小さくしていくと、砥石の実作業面の幅が小さくなっていく。一例として、ピストン51の円筒体の高さLが10mm、ピストン51の円筒体の直径が30mm、砥石60の外縁の直径が100mm、切り込み量が0.002mmの場合、砥石60の実作業面の幅Tは0.50mmとなる。また、スパークアウトと称される切り込み量がゼロで砥石60を回転させる加工では、切り込み量以外、以上と同じ条件で、実作業面の幅Tが0.25mmとなる。
【0010】
ところで、ピストン外周面の精度を良好にするには、砥石端面61の平面度を良好に維持する必要がある。砥石60は使用することで摩耗していくが、砥石端面の平面度を良好に維持するためには、砥石全体を均一に摩耗させる必要がある。このためには、加工中に砥石60の端面61の全面が使用されるように、砥石の端面幅Wを設定する方法が考えられる。この方法の場合、スパークアウトにおいても砥石端面61の全面を接触させるには、砥石60の端面幅Wは、前述したスパークアウト時の実作業面の幅Tと同じ、0.25mmの設定となる。端面幅0.25mmと非常に狭い幅の砥石は、砥粒を結合剤に混練して焼成した後に、成形する通常の砥石製作法では、破壊の恐れが高く、実質的に製作できない。また、破壊の問題を考慮しないとしても、端面幅0.25mmと狭いと、砥石60の寿命が極端に短くなり、実用的でない。このため、従来技術では、実作業面の幅Tよりも広い端面幅Wの砥石60を用いて、ピストン51を加工している。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来技術では、実作業面の幅Tよりも広い端面幅Wの砥石60を用いているため、砥石60の端面61で使用しない部分が存在することになり、砥石60の端面61中の実作業面のみが摩耗してしまい、砥石端面の平面度が悪化し易い。砥石端面の平面度が悪化すると、ピストン外周面の加工精度が低下する。このため、従来技術では、ダイヤモンド工具等で、砥石の端面を修正するツルーイング作業を頻繁に行うことになり、生産性を向上させることが困難であるという問題点がある。
【0012】
本発明は、このような従来の問題点に着目し、ツルーイングを作業を頻繁に行わずとも、砥石端面の平面度をある程度維持でき、突起付円筒体の生産性を向上させることができる加工方法、及び加工装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための第一の突起付円筒体の外周面加工方法は、
カップ形砥石の中心軸と突起付円筒体の中心軸とを垂直にして、該カップ形砥石の前記端面と該突起付円筒体の前記外周面とを接触させ、
前記カップ形砥石をその前記中心軸を中心として回転させつつ、前記突起付円筒体をその前記中心軸を中心として、前記突起が前記カップ形砥石と接触しないよう回動させ、
前記突起付円筒体の中心軸及び前記カップ形砥石の中心軸に垂直な方向へ、該カップ形砥石を該突起付円筒体に対して相対的に往復移動させることを特徴とするものである。
【0014】
前記目的を達成するための第二の突起付円筒体の外周面加工方法は、
前記第一の加工方法において、
前記カップ形砥石の前記端面と前記突起付円筒体の前記外周面とが接触し、且つ該突起付円筒体の前記突起と該カップ形砥石とが近接している状態から、再び、同じ状態になるよう、該突起付円筒体を一方向へ回転させた後に逆回転させる、往復回転を一回動とした場合、
前記カップ形砥石の前記突起付円筒体に対する相対的往復移動は、一回動に対して自然数回行うことを特徴とするものである。
【0015】
前記目的を達成するための第三の突起付円筒体の外周面加工方法は、
前記第一又は第二のいずれかの加工方法において、
前記カップ形砥石の相対的往復移動の移動経路の両端部側で、前記突起付円筒体の前記外周面から前記カップ形砥石の前記端面が離れるよう、該カップ形砥石を相対的往復移動させることを特徴とするものである。
【0016】
前記目的を達成するための第四の突起付円筒体の外周面加工方法は、
前記第三の加工方法において、
前記カップ形砥石の相対的往復移動で、前記突起付円筒体の前記外周面から前記カップ形砥石の前記端面が離れている間は、該突起付円筒体の正転時と逆転時とで、該カップ形砥石を基準とした該突起付円筒体の回動角度が異なることを特徴とするものである。
【0017】
前記目的を達成するための第五の突起付円筒体の外周面加工方法は、
前記第一から第四のいずれかの加工方法において、
前記カップ形砥石の切り込みを伴わずに前記突起付円筒体を回動させるスパークアウトでは、該突起付円筒体の回動中、該カップ形砥石の相対的往復移動を行わないことを特徴とするものである。
【0018】
前記目的を達成するための第六の突起付円筒体の外周面加工方法は、
前記第五の加工方法において、
前記スパークアウトで、前記突起付円筒体の正転から逆転への切替時、及び/又は逆転から正転への切替時に、該突起付円筒体の回動を一時的に止めて、該突起付円筒体の中心軸及び前記カップ形砥石の中心軸に垂直な方向へ、該カップ形砥石を該突起付円筒体に対して相対的移動させることを特徴とするものである。
【0019】
前記目的を達成するための第七の突起付円筒体の外周面加工方法は、
前記第一から第四のいずれかの外周面加工方法において、
前記突起付円筒体の円筒体外周面と前記突起との境界部に、該外周面から中心軸方向へ凹んだ逃げ部を形成し、
前記カップ形砥石の中心軸と平行な方向であって、前記突起付円筒体の中心軸へ近づく向きへの、該カップ形砥石の切り込み動作は、該カップ形砥石の前記端面が前記突起付円筒体の前記逃げ部と対面し、且つ該端面が該突起付円筒体の外周面から離れているときに行うことを特徴とするものである。
【0020】
また、ロータリー式圧縮機の構成部材であって、円筒体の外周面にブレードが設けられているピストンの製造方法は、
前記第一から第七のいずれかの突起付円筒体の外周面加工方法で、前記ピストンの前記外周面を加工することを特徴とするものである。
【0021】
また、前記目的を達成するための第一の突起付円筒体の外周面加工装置は、
カップ形砥石の中心軸を中心として、該カップ形砥石を回転させる砥石回転手段と、
前記カップ形砥石の中心軸に対して、突起付円筒体の中心軸が垂直な状態で、該突起付円筒体の該中心軸を中心として、該突起付円筒体を回動させる被加工物回動手段と、
前記カップ形砥石の前記中心軸と平行な第一の方向に、該カップ形砥石と前記突起付円筒体のうちの一方を他方に対して相対移動させる第一の移動手段と、
前記突起付円筒体の前記中心軸と平行な第二の方向に、前記カップ形砥石と該突起付円筒体とのうちの一方を他方に対しして相対移動させる第二の移動手段と、
前記カップ形砥石の前記中心軸及び前記突起付円筒体の前記中心軸に対して垂直な第三の方向に、該カップ形砥石と該突起付円筒体とのうち、いずれか一方を他方に対して相対移動させる第三の移動手段と、
前記第一の移動手段、前記第二の移動手段及び前記第三の移動手段を動作させて、前記突起付円筒体の外周面に前記カップ形砥石の前記端面を接触させ、前記砥石回転手段と前記被加工物回動手段とを動作させて、該突起付円筒体の外周面を該カップ形砥石の該端面で加工させる制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記突起付円筒体の外周面が前記カップ形砥石の前記端面で加工されている間に、前記第三の移動手段により前記第三の方向へ前記一方を相対的に往復移動させることを特徴とするものである。
【0022】
前記目的を達成するための第二の突起付円筒体の外周面加工装置は、
前記第一の加工装置において、
前記カップ形砥石の前記端面と前記突起付円筒体の前記外周面とが接触し、且つ該突起付円筒体の前記突起と該カップ形砥石とが近接している状態から、再び、同じ状態になるよう、該突起付円筒体を一方向へ回転させた後に逆回転させる、往復回転を一回動とした場合、
前記制御手段は、前記カップ形砥石の前記突起付円筒体に対する相対的往復移動は、一回動に対して自然数回行うことを特徴とするものである。
【0023】
前記目的を達成するための第三の突起付円筒体の外周面加工装置は、
前記第一又は第二の加工装置において、
前記制御装置は、前記第三の移動手段により、前記カップ形砥石の相対的往復移動の移動経路の両端部側で、前記突起付円筒体の前記外周面から前記カップ形砥石の前記端面が離れるよう、該カップ形砥石を相対的往復移動させることを特徴とするものである。
【0024】
前記目的を達成するための第四の突起付円筒体の外周面加工装置は、
前記第三の加工装置において、
前記カップ形砥石の相対的往復移動で、前記突起付円筒体の前記外周面から前記カップ形砥石の前記端面が離れている間は、該突起付円筒体の正転時と逆転時とで、該カップ形砥石を基準とした該突起付円筒体の回動角度が異なるよう、前記制御手段は、前記被加工物回動手段による前記突起付円筒体の回動周期に対する、前記第三の移動手段による前記カップ形砥石の相対的往復移動の相対的な周期を制御することを特徴とするものである。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0026】
まず、本発明に係る第一の実施形態としての加工装置及び加工方法について、図1、図2及び図7を用いて説明する。
【0027】
本実施形態における加工対象は、図1に示すように、中空円筒体2と、この中空円筒体2の外周面3に設けられているブレード4と、を有する、ロータリー圧縮機用のピストン1である。中空円筒体2の外周面3とブレード4との境界部には、中空円筒体2の中心軸Oの方向へ凹んだ逃げ部4aが形成されている。又、このピストン1の外周面3を加工する砥石は、従来技術の欄で述べたものと同じく、カップ形砥石20である。
【0028】
ピストン1の外周面3を加工するための加工装置30は、図7に示すように、加工対象であるピストン1が固定されるワークチャック37と、ワークチャック37と共にピストン1をその中心軸Oを中心として回動させるワークロータリテーブル34と、カップ形砥石20が固定される砥石主軸38と、砥石主軸38と共にカップ形砥石20をその中心軸Eを中心として回転させる砥石ロータリテーブル39と、ピストン1の中心軸O及びカップ形砥石20の中心軸Eに対して垂直な方向(以下、Y方向とする)にワークロータリテーブル34及びワークチャック37を移動させるY軸テーブル33と、ピストン1の中心軸Oと平行な方向(以下、X方向とする)にY軸テーブル33と共にワークロータリテーブル34及びワークチャック37を移動させるX軸テーブル32と、カップ形砥石20の中心軸Eと平行な方向(以下、Z方向とする)に砥石ロータリテーブル39及び砥石主軸38を移動させるZ軸テーブル35と、このZ軸テーブル35が塔載されるコラム36と、砥石20の端面を修正するドレッサ41と、これらを制御する制御盤40と、これらが塔載されるベース31と、を備えている。なお、X方向、Y方向、Z方向は、互いに垂直である。
【0029】
次に、以上で説明した加工装置30を用いた、ピストン1の外周面3の加工方法について説明する。
【0030】
まず、チャック37にピストン1を把持させると共に、砥石主軸38にカップ形砥石20を固定する。次に、制御盤40を操作して、X軸テーブル32及びY軸テーブル33を駆動させて、ピストン1を目的の加工点上に移動させる。次にワークロータリテーブル34を駆動させて、ピストン1を加工開始角度の位置に回動させる。次に、砥石ロータリテーブル39を駆動させて、砥石20を回転させる。以上の状態になると、Z軸テーブル35を駆動させて、砥石20をZ方向に移動させると共に、ワークロータリテーブル34を駆動させて、ピストン1を回動させて、ピストン1の外周面の加工を開始する。この加工時には、ピストン1の回動に同期させて、Y軸テーブル33を駆動して砥石20を往復移動させる、いわゆるオシレーション動作を行う。
【0031】
次に、図2を用いて、ピストン1の加工時における、ピストン1及び砥石20の動作について説明する。
【0032】
図2(a)(a’)は、ピストン1の加工開始時の状態を示している。これらの図に示すように、加工開始時には、ピストン1の外周面3の母線である直線P1−P2と、カップ形砥石20の端面21とが接しており、接点Pとピストン1の中心軸Oとを結ぶ線分OPは、砥石端面21と垂直、言い換えると、砥石20の中心軸Eと平行になっている。なお、接点Pは、直線P1−P2上の点である。また、図2(a’)に示す直線P1−P2は、ピストン1の外周面3で加工すべき範囲の始点である。この直線P1−P2は、ピストン1のブレード4と外周面3との境界部に形成した逃げ部4aと近接している。したがって、加工開始時には、ピストン1のブレード4とカップ形砥石20の外周面も、最も近接した状態である。この状態では、ピストン1のブレード4は、砥石20の中心軸E(Z方向に平行)に対して約30°の角度θを成している。この角度θ(加工開始角度)は、以下の加工過程において最小角度である。
【0033】
砥石端面21上の外縁22は、加工開始位置となる点P1,P2を通過する位置にある。砥石端面21中で外周面3に接触する範囲は、砥石20の中心軸Eを中心とし、点P1,P2を通過する円弧Aと、同じく、砥石20の中心軸Eを中心とし、直線P1−P2上の中点P3を通過する円弧Bとで挟まれた範囲である。上述したように、円弧Aは、砥石の外縁22上に位置している。このため、実作業面は、砥石20の端面21中の円弧Aと円弧Bとで挟まれた範囲、つまり端面21の外縁22側となる。従って、仮に、砥石20をY方向に移動させないで加工した場合には、砥石20の端面21中の外縁22側が摩耗することになり、円弧Bと砥石20の内縁23で挟まれた範囲は使用されないままとなる。なお、以上では、点P3は、点P1,P2の中点としているが、中点でなくてもよく、例えば、P3が点P1,P2のいずれかに近寄っている場合、円弧AはEP1もしくはEP2のどちらか距離が長い方を半径とする円弧を選択すればよい。この場合、直線P1−P2上で点Eから最も距離が短い点P3とし、EP3を半径とした円弧が円弧Bである点は変わらない。
【0034】
図2(a)(a’)に示した状態から、ピストン1をα方向(反時計回り方向)に約150°回動させると共に、砥石20をY方向に移動させた状態が、図2(b)(b’)の状態である。この際、砥石端面21中で、外周面3と接触する領域、つまり、実作業面は、円弧Aと円弧Bで挟まれた範囲であり、砥石端面全幅の中間に位置している。
【0035】
さらにピストン1をα方向に約150°回動させると共に、砥石20をY方向に移動させた状態が、図2(c)(c’)の状態である。この際、砥石端面21は、ピストン1の外周面3の母線である直線P1−P2と接する。この直線P1−P2は、ピストン1の外周面3で加工すべき範囲の終点である。この直線P1−P2は、ピストン1のブレード4と外周面3との境界部に形成した逃げ部4aと近接している。したがって、ピストン1のブレード4とカップ形砥石20の内周面も、最も近接した状態である。この状態では、ピストン1のブレード4は、砥石20の中心軸E(Z方向に平行)に対して約330°(=30+150+150)の角度θを成している。この角度θは、以上の加工過程において最大角度である。
【0036】
砥石端面21上の内縁23は、点P1,P2を通過する位置にある。砥石端面21中で外周面3に接触する範囲は、点P1,P2を通過する円弧Aと、中点P3を通過する円弧Bとで挟まれた範囲である。上述したように、円弧Aは、砥石20の内縁22上に位置している。このため、実作業面は、砥石20の端面21中の円弧Aと円弧Bとで挟まれた範囲、つまり砥石端面21の内縁23側となる。
【0037】
次に、図2(c)(c’)の状態から、ピストン1を−α方向に回動させつつ、砥石20を−Y方向へ移動させて、図2(b)(b’)の状態を経て、再び、図2(a)(a’)の状態に戻す。以下、ピストン1の±α方向への回動、砥石20を±Y方向への移動を繰り返して、ピストン1の外周面3を加工する。
【0038】
以上のように、ピストン1の外周面3の加工すべき始点から終点の全範囲に対して、砥石端面21の外縁22から内縁23が接することになるので、砥石端面21の全体がほぼ均等に摩耗することになり、砥石20に対するツルーイング作業の回数を少なくすることができる。
【0039】
ところで、切り込み量0のスパークアウトにおいて、ピストン1の回動中には、以上とは異なり、砥石20を往復移動させないことが好ましい。これは、最終仕上げであるスパークアウトでは高い精度が要求されるため、移動軸数を減らして、つまり、砥石20の往復移動を止めて、往復移動によるZ方向(切り込み方向)の砥石20の変位を無くすためである。
【0040】
このように、スパークアウトで砥石20を往復移動させないと、砥石20が偏摩耗してしまうが、スパークアウトは最後の数回動であり、砥石の摩耗は小さいので、スパークアウトによる砥石の偏摩耗は、実質的に無視できる。但し、連続的に多数のピストンの加工を行う場合には、スパークアウトでも、砥石20が変摩耗してしまう。このような場合は、スパークアウトにおいて、ピストンの正転から逆転及び/又は逆転から正転への切り替わり点で、ピストンの回動を一時的に止めて、砥石20をY方向に移動させ、砥石端面21中でピストン外周面3と接触する部分の位置を変えればよい。
【0041】
なお、以上では、ピストン1の±α方向への回転、つまり往復回転を一回動とした場合、砥石20の±Y方向への往復移動を一回行っているが、ピストン1の一回動に対して、砥石20の往復移動を二回、三回と、自然数回行うようにしてもよい。このように、ピストン1の一回動に対して、砥石20の往復移動が自然数回行なわれることを、本明細書では、ピストン1の回動と砥石20の往復移動とが同期している、としている。
【0042】
また、以上とは逆に、ピストン1の回動と砥石20の往復移動とを同期させなくてもよいが、この場合、ピストン1のブレード4と砥石20とが干渉してしまう可能性が高まるので、これを考慮して回動周期や往復移動周期を定める必要がある。例えば、以上の実施形態において、図2(c)(c’)の状態では、ピストン1が+α方向に最大回動角を成し、且つ砥石20が+Y方向に最大距離移動している状態であるが、同期を取らない場合、以上と同様に、ピストン1が+α方向に最大回動角を成しているときに、以上とは逆に、砥石20が−Y方向に最大距離移動している状態が起こり、ピストン1のブレード4と砥石20の内周面とが干渉してしまう可能性が高い。これを回避ためには、砥石端面21の幅Wを狭くすることであるが、これでは、砥石摩耗を小さく抑えることができない。
【0043】
次に、図3〜図5を用いて、本発明に係る第二の実施形態としての加工方法について説明する。なお、加工装置及び加工対象は、第一の実施形態と同じである。
【0044】
図3に示すように、本実施形態は、カップ形砥石20の往復移動の振幅を第一の実施形態よりも大きくして、往復移動経路の両端部側で、ピストン1の外周面3から砥石端面21が離れるようにしたものである。
【0045】
本実施形態では、図4及び図5に示すように、ピストン1が±α方向へ一回往復回転する間に、砥石20が±Y方向へ複数回往復移動する。ピストン1から砥石20の離脱は、ピストン1が+α方向へ回動(正転)するときには、まず、加工開始位置(基準位置から30°)から砥石20が+Y方向へ移動する過程で、+Y方向への最大移動距離になる直前、言い換えると、ピストン1が+α方向へ90°回動する直前に行われ、次に、砥石20が−Y方向へ移動する過程で、−Y方向への最大移動距離になる直前、言い換えると、ピストン1が+α方向へ180°回動する直前に行われ、次に、砥石20が+Y方向へ移動する過程で、+Y方向への最大移動距離になる直前、言い換えると、ピストン1が+α方向へ270°回動する直前に行われる。また、ピストン1が−α方向へ回動(逆転)するときの砥石20の離脱は、ピストン1の正転から逆転への折り返し位置(330°)から砥石20が+Y方向へ移動する過程で、+Y方向への最大移動距離になる直前、言い換えると、ピストン1が折り返し位置から位置から90°(基準位置からは240°)回動する直前に行われ、次に、砥石20が−Y方向へ移動する過程で、−Y方向への最大移動距離になる直前、言い換えると、ピストン1が折り返し位置から210°(基準位置からは120°)回動する直前に行われる。
【0046】
以上のように、カップ形砥石20の往復移動の振幅を第一の実施形態よりも大きくして、往復移動経路の両端部側で、ピストン1の外周面3から砥石端面21が離れるようにしたのは、砥石端面21の全体がピストン1の外周面3に確実に接触するようにするためである。例えば、設計レベルにおいて、砥石端面21の全体がピストン1の外周面3に接触するように、砥石20を往復移動させても、砥石端面21の幅Wに関する製造誤差や、ピストン1や砥石20の取付誤差等で、砥石端面21の外縁側の一部又は内縁側の一部がピストン1の外周面3と接触しない場合が考えられる。そこで、本実施形態では、このような場合を回避するために、砥石20の往復移動の振幅を大きくしている。
【0047】
ところで、以上のように、砥石20の往復移動で、砥石端面21がピストン1の外周面3から離れるようにすると、砥石端面21の全体がピストン1の外周面3に確実に接触するものの、逆に、ピストン1の外周面3中で砥石端面21と接触しない部分が生じる。そこで、本実施形態では、ピストン1の正転時と逆転時とで、ピストン1の外周面3中で砥石端面21と接触しない部分の位置を変えている。具体的には、前述したように、ピストン1の正転時には、基準位置から90°、180°、270°の近傍で砥石端面21が離れるようにし、ピストン1の逆転時には、基準位置から240°、120°の近傍で砥石端面21が離れるようにしている。但し、以上のような工夫をしても、ピストン1の外周面中で加工量の差が生じてしまうので、ピストン1の最後の往復回転の際に、砥石20の切り込み量を微小にすれば、ピストン1の外周面中の加工量の差を微小にでき、外周面の加工精度を目的の精度内に収めることができる。
【0048】
なお、以上の実施形態では、ピストン1の正転時には、90°、180°、270°の近傍で砥石端面21が離れるようにし、ピストン1の逆転時には、240°、120°の近傍で砥石端面21が離れるようにしているが、その他の角度で砥石端面21が離れるようにしてもよいことは言うまでもない。
【0049】
次に、図6を用いて、本発明に係る第三の実施形態としての加工方法について説明する。なお、加工装置及び加工対象は、第一の実施形態と同じである。
【0050】
この実施形態では、加工開始位置、及びピストン1の正転逆転開始位置で、砥石端面21がピストン1の逃げ部4aと対向するようにしたものである。
【0051】
砥石20の切り込み方向は、砥石端面21に直角でピストン1の中心軸Oに近づく向き、つまり+Z方向である。加工開始位置、及びピストン1の正転逆転開始位置で、砥石端面21が外周面3に対して切り込みを与える位置に移動しても、溝形状にげの部4aでは、外周面3よりも中心軸O側にくぼんでおり、ピストン1に接触することなく切り込み動作を行なうことができる。そして、切り込み動作を止めてから、ピストン1の回動を開始すると,切込みが直ちに発生し、ピストン1の外周面3の全周に渡り、一定の切り込み量を確保できる。
【0052】
砥石20を一定点で切り込んでいく切り込み動作中に、砥石20が外周面3に接触していると、発熱による研削焼け等の弊害が生じる。よって、以上のように、砥石20が逃げ部4aに対面した位置で、外周面3に接触しない範囲で切り込み動作を行なうことで、研削焼け等の障害を回避できる。
【0053】
また、外周面3に砥石20が接触して加工を行なっている過程で、切り込み動作を行なうことは、加工途中で付加変動が生じる結果となり、加工精度の低下を招く原因となる。そこで、本実施形態では、砥石20が外周面3に接触している間は、砥石20に切り込み動作を与えないで加工して、加工精度の向上を図っている。
【0054】
なお、以上の実施形態では、ピストン1の逃げ部4aを溝形状としたが、この逃げ部4aは、外周面3よりも中心軸O側に寄る形状であれば、如何なる形状でもよく、例えば、平面形状でもよい。
また、以上の実施形態では、砥石20を±Y方向に往復移動させたが、逆に、ピストン1を±Y方向に往復移動させてもよいことは言うまでもない。
【0055】
【発明の効果】
以上、発明の実施形態に述べてきた例のように、本発明によれば、突起付円筒体及びカップ形砥石が共に回転して、突起付円筒体の外周面を加工している際に、突起付円筒体に対してカップ形砥石を往復移動させているので、砥石端面の偏摩耗を抑制でき、形状修正を目的としたツルーイングを頻繁に行なう必要がなくなり、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る第一の実施形態におけるカップ形砥石とピストンの相対位置関係及び動作を説明するための説明図である。
【図2】本発明に係る第一の実施形態におけるカップ形砥石の移動と、この移動に伴う実作業面の位置変化を示す説明図である。
【図3】本発明に係る第二の実施形態におけるカップ形砥石の往復移動形態を示す説明図である。
【図4】本発明に係る第二の実施形態におけるカップ形砥石の往復移動とピストンの回動との関係を示す説明る図である。
【図5】本発明に係る第二の実施形態におけるピストンの回動角度とカップ形砥石の離脱位置との関係を示す説明図である。
【図6】本発明に係る第三の実施形態におけるカップ形砥石の切り込み動作を示す説明図である。
【図7】本発明に係る一実施形態における加工装置の斜視図である。
【図8】ロータリ圧縮機の要部斜視図である。
【図9】従来技術におけるカップ形砥石によるピストン外周面加工の形態を示す説明図である。
【図10】図9のA方向から見た際のカップ形砥石の端面の軌跡、及びピストンを示す説明図である。
【符号の説明】
1,51…ピストン、2…中空円筒体、3,51b…外周面、4,51a…ブレード、4a…逃げ部、20,60…カップ形砥石、21,61…砥石端面、22…外縁、23…内縁、30…加工装置、32…X軸テーブル、33…Y軸テーブル、34…ワークロータリテーブル、35…Z軸テーブル、36…コラム、39…砥石ロータリテーブル、40…制御盤。
Claims (12)
- 円環形状の端面を有するカップ形砥石の該端面で、円筒体の外周面に突起が設けられている突起付円筒体の該外周面を加工する突起付円筒体の外周面加工方法において、
前記カップ形砥石の中心軸と前記突起付円筒体の中心軸とを垂直にして、該カップ形砥石の前記端面と該突起付円筒体の前記外周面とを接触させ、
前記カップ形砥石をその前記中心軸を中心として回転させつつ、前記突起付円筒体をその前記中心軸を中心として、前記突起が前記カップ形砥石と接触しないよう回動させ、
前記突起付円筒体の中心軸及び前記カップ形砥石の中心軸に垂直な方向へ、該カップ形砥石を該突起付円筒体に対して相対的に往復移動させる、
ことを特徴とする突起付円筒体の外周面加工方法。 - 請求項1に記載の突起付円筒体の外周面加工方向において、
前記カップ形砥石の前記端面と前記突起付円筒体の前記外周面とが接触し、且つ該突起付円筒体の前記突起と該カップ形砥石とが近接している状態から、再び、同じ状態になるよう、該突起付円筒体を一方向へ回転させた後に逆回転させる、往復回転を一回動とした場合、
前記カップ形砥石の前記突起付円筒体に対する相対的往復移動は、一回動に対して自然数回行う、
ことを特徴とする突起付円筒体の外周面加工方法。 - 請求項1及び2のいずれか一項に記載の突起付円筒体の外周面加工方法において、
前記カップ形砥石の相対的往復移動の移動経路の両端部側で、前記突起付円筒体の前記外周面から前記カップ形砥石の前記端面が離れるよう、該カップ形砥石を相対的往復移動させる、
ことを特徴とする突起付円筒体の外周面加工方法。 - 請求項3に記載の突起付円筒体の外周面加工方法において、
前記カップ形砥石の相対的往復移動で、前記突起付円筒体の前記外周面から前記カップ形砥石の前記端面が離れている間は、該突起付円筒体の正転時と逆転時とで、該カップ形砥石を基準とした該突起付円筒体の回動角度が異なる、
ことを特徴とする突起付円筒体の外周面加工方法。 - 請求項1から4のいずれか一項に記載の突起付円筒体の外周面加工方法において、
前記カップ形砥石の切り込みを伴わずに前記突起付円筒体を回動させるスパークアウトでは、該突起付円筒体の回動中、該カップ形砥石の相対的往復移動を行わない、
ことを特徴とする突起付円筒体の外周面加工方法。 - 請求項5に記載の突起付円筒体の外周面加工方法において、
前記スパークアウトで、前記突起付円筒体の正転から逆転への切替時、及び/又は逆転から正転への切替時に、該突起付円筒体の回動を一時的に止めて、該突起付円筒体の中心軸及び前記カップ形砥石の中心軸に垂直な方向へ、該カップ形砥石を該突起付円筒体に対して相対的移動させる、
ことを特徴とする突起付円筒体の外周面加工方法。 - 請求項1から4のいずれか一項に記載の突起付円筒体の外周面加工方法において、
前記突起付円筒体の円筒体外周面と前記突起との境界部に、該外周面から中心軸方向へ凹んだ逃げ部を形成し、
前記カップ形砥石の中心軸と平行な方向であって、前記突起付円筒体の中心軸へ近づく向きへの、該カップ形砥石の切り込み動作は、該カップ形砥石の前記端面が前記突起付円筒体の前記逃げ部と対面し、且つ該端面が該突起付円筒体の外周面から離れているときに行う、
ことを特徴とする突起付円筒体の外周面加工方法。 - ロータリー式圧縮機の構成部材であって、円筒体の外周面にブレードが設けられているピストンの製造方法において、
請求項1から7のいずれか一項に記載の突起付円筒体の外周面加工方法で、前記ピストンの前記外周面を加工することを特徴とするピストンの製造方法。 - 円環形状の端面を有するカップ形砥石の該端面で、円筒体の外周面に突起が設けられている突起付円筒体の該外周面を加工する突起付円筒体の外周面加工装置において、
前記カップ形砥石の中心軸を中心として、該カップ形砥石を回転させる砥石回転手段と、
前記カップ形砥石の中心軸に対して、前記突起付円筒体の中心軸が垂直な状態で、該突起付円筒体の該中心軸を中心として、該突起付円筒体を回動させる被加工物回動手段と、
前記カップ形砥石の前記中心軸と平行な第一の方向に、該カップ形砥石と前記突起付円筒体のうちの一方を他方に対して相対移動させる第一の移動手段と、
前記突起付円筒体の前記中心軸と平行な第二の方向に、前記カップ形砥石と該突起付円筒体とのうちの一方を他方に対しして相対移動させる第二の移動手段と、
前記カップ形砥石の前記中心軸及び前記突起付円筒体の前記中心軸に対して垂直な第三の方向に、該カップ形砥石と該突起付円筒体とのうち、いずれか一方を他方に対して相対移動させる第三の移動手段と、
前記第一の移動手段、前記第二の移動手段及び前記第三の移動手段を動作させて、前記突起付円筒体の外周面に前記カップ形砥石の前記端面を接触させ、前記砥石回転手段と前記被加工物回動手段とを動作させて、該突起付円筒体の外周面を該カップ形砥石の該端面で加工させる制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記突起付円筒体の外周面が前記カップ形砥石の前記端面で加工されている間に、前記第三の移動手段により前記第三の方向へ前記一方を相対的に往復移動させる、
ことを特徴とする突起付円筒体の外周面加工装置。 - 請求項9に記載の突起付円筒体の外周面加工装置において、
前記カップ形砥石の前記端面と前記突起付円筒体の前記外周面とが接触し、且つ該突起付円筒体の前記突起と該カップ形砥石とが近接している状態から、再び、同じ状態になるよう、該突起付円筒体を一方向へ回転させた後に逆回転させる、往復回転を一回動とした場合、
前記制御手段は、前記カップ形砥石の前記突起付円筒体に対する相対的往復移動は、一回動に対して自然数回行う、
ことを特徴とする突起付円筒体の外周面加工装置。 - 請求項9及び10のいずれか一項に記載の突起付円筒体の外周面加工装置において、
前記制御装置は、前記第三の移動手段により、前記カップ形砥石の相対的往復移動の移動経路の両端部側で、前記突起付円筒体の前記外周面から前記カップ形砥石の前記端面が離れるよう、該カップ形砥石を相対的往復移動させる、
ことを特徴とする突起付円筒体の外周面加工装置。 - 請求項11に記載の突起付円筒体の外周面加工装置において、
前記カップ形砥石の相対的往復移動で、前記突起付円筒体の前記外周面から前記カップ形砥石の前記端面が離れている間は、該突起付円筒体の正転時と逆転時とで、該カップ形砥石を基準とした該突起付円筒体の回動角度が異なるよう、前記制御手段は、前記被加工物回動手段による前記突起付円筒体の回動周期に対する、前記第三の移動手段による前記カップ形砥石の相対的往復移動の相対的な周期を制御する、
ことを特徴とする突起付円筒体の外周面加工装置。
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