JP3576603B2 - 電気化学セル及びその作動方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、電解質にカチオン交換膜を使用した電気化学セルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
カチオン交換膜、さらに詳細には水素イオン導電性のカチオン交換膜を用いる電気化学セルには、燃料電池、水電解セル、電気化学的酸素移動セル、電気化学的水素移動セル等がある。
【0003】
燃料電池においては、カチオン交換膜の片面に正極としての多孔性電極、他面に負極としての多孔性電極が、それぞれ一体に接合され、純酸素もしくは空気が電池外部から正極に供給され、水素が電池外部から負極に供給されて、次の反応により発電される。
【0004】
正極:O2+4H++4e− → 2H2O (1)
負極:2H2 → 4H++4e− (2)
水電解セルにおいては、カチオン交換膜の両面に、主として白金電極が一体に接合され、その片方の電極が陰極となり、他方の電極が陽極となり、次の反応により、水の電解が起こる。
【0005】
陽極:2H2O → O2+4H++4e− (3)
陰極:4H++4e− → 2H2 (4)
水素移動セルの場合には、上述の燃料電池における負極と同様の電極が陽極となり、水電解セルの場合と同様の陰極が用いられる。この場合の電極反応は次のようになる。
【0006】
陽極:H2 → 2H++2e− (5)
陰極:2H++2e− → H2 (6)
すなわち、陽極に供給された水素が、陽極から陰極にあたかも移動するような形となる。
【0007】
燃料電池は、水素の供給及び循環系が必須であるため、電池系が一般に複雑かつ大がかりになる。この点を解決するためのひとつの手段は、負極材料に水素貯蔵合金を用いることである。水電解セルは、その反応によって水素及び酸素が発生するが、その用途によっては、酸素のみが利用され、水素が不要なことがある。この場合にも、上述の水電解セルの陰極を、水素貯蔵合金を主体にした電極で構成すれば、陽極では(1)式の反応が起こり、陰極では次の反応により水素が発生しないことになる。
陰極:xH++M+xe− → MHx (7)
(M:水素貯蔵合金)
同様に、上述の水素移動セルにおいて、陽極に水素貯蔵合金を用いれば、(8)式の反応が起こり、セル外部からの水素の供給が不要となるという意味で、系は簡素となる。
【0008】
陽極:MHx → xH++M+xe− (8)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
水素吸蔵合金としては、LaNi5、MmNixAlyMnz(Mm:ミッシュメタル)、TiNi系等が知られているが、これらの水素貯蔵合金を上述の目的に使用した場合、すなわち強酸性を示すカチオン交換膜に一体に接合した際、一般にその腐食がおこり、現実には使用不能である。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、電解質にカチオン交換膜を使用した電気化学セルにおける上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、寿命のきわめて長い電気化学セルを提供することにある。
【0011】
本発明においては、電気化学セルの水素吸蔵合金電極の代わりに、水素の解離吸着に有効に作用する金属触媒を担持したフラーレンを含む電極、もしくは前記触媒を担持したフラーレンと前記触媒を担持しない炭素を含む電極、もしくは前記触媒を担持したフラーレンと前記触媒を担持した炭素を含む電極、もしくは前記触媒を担持しないフラーレンと前記触媒を担持した炭素を含む電極を接合し、前記カチオン交換膜の他面に、フラーレンを含まない電極を接合したものである。
【0012】
【作用】
最近注目を集めているフラーレン(Fullerenes)は、分子式としてはC60、C70、C120などで表わされる、炭素のみからなる分子の総称である。これらの分子は、炭素で形成される正五角形および正六角形が多数集まった多面体であり、これらの化合物のうち最も有名なC60は、正五角形12個と正六角形32個からなり、バックミンスターフラーレン(Buckminsterfullerene)あるいはバッキーボール(Buckyball)と呼ばれている。フラーレン族の化学的性質としては、アルカリ金属(M)が格子間にドーピングしてM3C60(M=K、Rbなど)が形成されることや、フラーレンの球中にLaやCaを内包してLaC82、La2C82、CaC60を形成することが明らかになている。
【0013】
一方、本願発明者等は、フラーレン単独では水素を物理的にも電気化学的にも吸蔵しないが、白金族金属のように、一般に水素の解離吸着作用を示すような触媒を添加するか、これらの触媒を担持したフラーレン以外のカーボンと混合すると、水素を吸蔵すること、及びこれらの材料によって電極を構成すると、電気化学的に水素を吸蔵したり、脱離することを発見した。しかも、フラーレンは、カチオン交換膜に対して強い耐食性を示すことを見い出した。本発明はこのような発見に基づいてなされたものである。
【0014】
本発明は、上述のさまざまな電気化学セルに適用できるが、フラーレンを含む電極は、フラーレンに白金のごとき触媒を通例の方法で担持したもの、あるいは、通常の燃料電池に使用されるような活性炭に白金のごとき触媒を担持したものとフラーレンとの混合物をポリ4フッ化エチレンの如き結着剤との混合物で構成され、従来公知の方法でプロトン導電性の電解質であるカチオン交換膜に一体に接合される。また、このフラーレンを含む電極をカチオン交換膜に接合する際、電極の中にあるいは電極と膜との接合面に、カチオン交換樹脂の有機溶媒と水との混合溶液をそれぞれ混入したり、介在させることが有効である。
【0015】
カチオン交換膜としては、パーフルオロカーボンもしくはスチレン−ジビニルベンゼン共重合体を骨格とし、イオン交換基としてスルフォン酸基あるいはカルボン酸基を有するものが有効である。
【0016】
燃料電池の場合には、正極に従来公知の酸素電極もしくは空気電極を用い、負極にフラーレン電極を用いると、酸素(空気)−フラーレン電池が構成される。フラーレン電極への水素の吸蔵は、電極を構成する前でも後でもよい。電池系は密閉系にし、放電によってフラーレン中の水素が消費されたら廃棄するような一次電池タイプにすることも、電池に水素供給口を設け、水素を電池外部から間欠的に供給して、繰り返し放電することもできる。このようにすれば、複雑で大ががりな循環系を常時電池に付設しておかなくてもすむという点で、実用上、極めて便利である。また、フラーレン電極への水素の補給は、酸素電極(正極)として、例えば、白金触媒を担持したカーボンを主体とする材料で構成し、いわゆる水素電極としても機能するような電極を用い、この正極に酸素もしくは空気を供給する代わりに、電池外部から水素を供給し、この正極とフラーレン電極(負極)との間に通電すれば、次の反応により、フラーレン電極に水素が電気化学的に吸蔵される。
【0017】
正極(実際には陽極として作動):x/2・H 2→xH++xe− ・・・・・(9)
負極(実際には陰極として作動):CF1+xH++xe−→CF1・HX ・・・(10)
(CF1:フラーレン)
この反応は、変則的ではあるが、一種の充電ということができる。(9)式及び(10)式による充電時のセル電圧は、極めて低い、という点で有利である。
【0018】
水電解セルの陰極に、水素発生電極の代わりに、フラーレン電極を用いると、陰極からの水素発生を阻止し、陽極からの酸素発生だけが起こる。このようなセルは、従来、全く存在しなかった。これは、カチオン交換膜に対して耐食性を有するフラーレン電極の適用によってはじめて可能になった。このような電気化学セルは、陽極で水の電解反応が起こるという意味では、水電解セルということができるが、従来のように、酸素と水素が発生する、いわゆる水電解セルと若干趣を異にして、むしろ電気化学的酸素発生セルというべきものである。この酸素発生セルは、酸素ボンベの代わりに、オンサイトで高濃度の酸素が必要とされるような用途、例えば、医療用にたいへん有用である。
【0019】
陽極にフラーレン電極を配し、陰極に水素発生電極を配した水素移動セルは、あらかじめフラーレン電極に水素を吸蔵しておけば、この電気化学セルへの通電によつて、いつでもどこでも、水素を得ることができる。また、この場合の水素発生電極に、いわゆる無電解メッキ法によつて、カチオン交換膜の表面に析出する白金から構成されるが、前述の燃料電池の場合と同様に、水素ガスのイオン化が可能なガス拡散電極にし、このガス拡散電極を陽極とし、上述のフラーレン電極を陰極とするとともに、ガス拡散電極に水素を供給しつつ、両電極間に直流電流を通電すれば、、前述の(9)式及び(10)式と同じ反応が起こり、フラーレン電極に水素が吸蔵され、繰り返し水素発生セルとして使用することができる。このような機能をもった電気化学セルもまた従来なかったものであり、本発明者等の発明にかかるものである。
【0020】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0021】
[実施例1]
カチオン交換膜の片面に、正極としての白金を担持した多孔性カーボン電極を接合し、他面に負極としての白金触媒を担持したフラーレンを含む電極を接合して構成した、燃料電池を作製した。図1はその断面構造を示したもので、図において、1は電解質としてはたらくカチオン交換膜で、ここでは直径50mm、厚み約0.2mmのパーフルオロカーボンスルフオン酸(商品名:ナフィオン117)を使用した。2は正極であり、金属触媒としての白金を2%担持した活性炭に、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極、3は負極であり、10%の白金触媒を担持したフラーレンC60と、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極である。なお、電極の大きさは、正極・負極ともに直径40mmとした。4は正極集電体としてのチタン網、5は正極端子、6は負極端子、7はガス入口、8はガス出口、9は水素供給口、10は活栓、11は電池ケースである。なお、電池を組み立てる場合には、フラーレンC60中に水素はほとんど存在しない。
この燃料電池を使用するにあたっては、まず負極のフラーレン中に水素を吸蔵させる必要がある。そのひとつの方法は、フラーレンに直接水素を接触させて吸蔵させる方法であり、活栓10を開いて、水素供給口9から水素を導入して、必要量の水素をフラーレンに吸蔵させた後、活栓10を閉じて、電池として使用する。もう一つの方法は、電気化学的方法であり、正極のガス入口6に水素を供給し、同時に電子が外部回路を通って正極から負極に移動する方向に、100mAの直流電流を通電した場合、正極では(9)式の反応が、また、負極では(10)式の反応が起こり、負極のフラーレンC60中に水素が電気化学的に吸蔵される。この過程は一種の充電であり、電池の構造としては、図1の水素供給口9と活栓10は不必要である。
【0022】
次に、正極のガス入口6に酸素を供給し、正極と負極間に負荷をつなぐと、正極では(1)式の反応が起こり、負極では次の反応(11)が起こって、電圧0.8Vで50mAの電流を取り出すことができる。
【0023】
負極:CF1・HX → CF1+xH++xe− (11)
(CF1フラーレン)
この燃料電池の容量は、負極のフラーレン中に吸蔵されている水素の量で決定される。もちろん、正極のガス入口6に、酸素の代わりに空気を供給した場合も同様の特性が得られる
[実施例2] 負極以外の使用材料および構造は実施例1とまったく同じである燃料電池を作製した。負極としては、白金触媒を担持したフラーレンの代わりに、白金触媒をあらかじめ表面積のきわめて大きい炭素に2%担持しておき、白金触媒を担持した炭索とフラーレンC60とを混合し、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極を使用した。この燃料電池の特性は、実施例1とほとんど同じであった。
【0024】
[実施例3] カチオン交換膜の片面に、陽極としての白金電極を接合し、他面に陰極としての10%の白金触媒を担持したフラーレンを含む電極を接合して構成した、水電解セルを作製した。図2はその断面構造を示したもので、図において、1は電解質としてはたらくカチオン交換膜で、ここでは直径50mm、厚み約0.2mmのパーフルオロカーボンスルフオン酸(商品名:ナフィオン117)を使用した。2は陽極であり、無電解メッキ法で接合した白金電極、3は陰極であり、10%の白金触媒を担持したフラーレンC60と、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極である。なお、電極の大きさは、陽極・陰極ともに直径40mmとした。4は陽極端子、5は陰極端子、6は電解される水、7はガス出口、8はセルケースである。なお、セルを組み立てる場合には、フラーレンC60中に水素はほとんど存在しない。
【0025】
この水電解セルに外部回路から、セル当り100mAの直流電流を通電した場合、陽極では(3)式の反応が起こり、水が分解して1時間当り25℃、1気圧の酸素約23mlがガス出口9から発生し、いっぽう同時にできた水素イオンは、ナフィオン117膜を通って陰極側に達し、陰極では(10)式の反応が起こって、フラーレンC60中に吸蔵され、陰極からはガスは発生しない。この水電解セルは、電気化学的酸素発生セルということができる。
[実施例4] 陰極以外の使用材料および構造は実施例3とまったく同じである水電解セルを作製した。陰極としては、白金触媒を担持したフラーレンの代わりに、白金触媒をあらかじめ表面積のきわめて大きい炭素に2%担持しておき、白金触媒を担持した炭素とフラーレンC60とを混合し、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極を使用した。この水電解セルの特性は、実施例3とほとんど同じであった。
【0026】
[実施例5] 実施例1で述べた燃料電池と類似の構造の、水素移動セルを作製した、図3はその断面構造を示したもので、図において、1は電解質としてはたらくカチオン交換膜で、ここでは直径50mm、厚み約0.2mmのパーフルオロカーボンスルフオン酸(商品名:ナフィオン117)を使用した。2は陰極であり、金属触媒としての白金を2%担持した活性炭に、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極、3は陽極であり、10%の白金触媒を担持したフラーレンC60とC70の混合物と、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極である。なお、電極の大きさは、陰極・陽極ともに直径40mmとした。4は陰極端子、5は陽極端子、6は水素ガス出口、7は水素供給口、8は活栓、9はセルケースである。なお、セルを組み立てる場合には、フラーレン中に水素はほとんど存在しない。
【0027】
この水素移動セルを使用するにあたっては、まず陽極のフラーレン中に水素を吸蔵させる必要がある。そのひとつの方法は、フラーレンに直接水素を接触させて吸蔵させる方法であり、活栓8を開いて、水素供給口7から水素を導入して、必要量の水素をフラーレンに吸蔵させた後、活栓8を閉じて、水素移動セルとして使用する。もう一つの方法は、電気化学的方法であり、陰極2(この場合には陽極として作動する)のガス入口6に水素を供給し、同時に電子が外部回路を通って陰極2から陽極3(この場合には陰極として作動する)に移動する方向に、100mAの直流電流を通電した場合、陰極2では(9)式の反応が、また、陽極3では(10)式の反応が起こり、陽極のフラーレン(C60とC70の混合物)中に水素が電気化学的に吸蔵される。セルの構造としては、図3の水素供給口7と活栓8は不必要である。
【0028】
次に、外部回路からセル当り50mAの直流電流を通電した場合、陽極3では(11)式の反応が起こり、フラーレン中の水素が水素イオンと電子に解離し、水素イオンはナフィオン117膜を通って陰極2側に達し、陰極2では(6)式の反応が起こって、水素ガスが発生する。この水素移動セルは、電気化学的水素発生セルということができる。
【0029】
なお、陰極2としては、無電解メッキ法によって接合した多孔性白金電極を使用することも可能であるが、この場合は、フラーレンに水素を吸蔵させる方法としては、フラーレンに直接水素を接触させる方法に限られ、電気化学的方法は使用できない。
【0030】
[実施例6] 陽極以外の使用材料および構造は実施例5とまったく同じである水素移動セルを作製した。陽極としては、白金触媒を担持したフラーレンの代わりに、白金触媒をあらかじめ表面積のきわめて大きい炭素に2%担持しておき、白金触媒を担持した炭素とフラーレンC60とを混合し、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極を使用した。この水素移動セルの特性は、実施例5とほとんど同じであった。
【0031】
【発明の効果】
本発明になる電気化学セルは、一方の電極の活物質にフラーレンを使用し、フラーレンに水素の解離吸着に有効に作用する金属触媒を混合して使用するものである。すなわち、フラーレンはただ単に水素と接触させただけでは、水素をまったく吸蔵しないが、フラーレンに白金のような触媒を混合することによって、電気化学的に水素を吸蔵する能力を示すようになる。その機構は明らかになっていないが、水素がいったん触媒に吸着し、水素分子が水素原子に解離し、そのあと水素原子を吸蔵するような機構が推定される。
【0032】
このように、本発明になる電気化学セルのフラーレンを含む電極においては、フラーレンは炭素のみから構成されており、ナフィオン117のような強酸性の固体高分子イオン導電体によって腐食を受けないので、サイクル寿命のきわめて長い電気化学セルが得られるものである。
【0033】
したがって、本発明になる電気化学セルを、燃料電池に利用すれば、正極に酸素あるいは空気を供給するだけで、負極側へのガスの供給が不用となり、構造が簡単になるし、また、水電解セルに利用すれば、酸素のみを発生して、水素がまったく外部に出ない酸素発生器となるし、さらに、水素移動セルに利用すれば、水素ガス貯蔵容器が不必要な、密閉容器中の脱水素装置もしくは水素発生装置となる。
【0034】
また、フラーレンは現時点ではその合成方法が困難であり、高価な物質ではあるが、炭素のみからなる物質であるために、大量に生産されるようになれば安価になる可能性は大きいし、もちろん資源的な心配はまったく不必要である。
【0035】
なお、フラーレンとしては、実施例で述べたC60以外にも、C70などの分子量の異なるフラーレンを使用することも可能であるし、もちろん2種類以上のフラーレンの混合物の使用も可能である。また、水素の解離吸着に有効に作用する金属触媒としては、実施例で述べた白金以外にも、パラジウムやニッケルなどの多くの金属の使用も可能である。また、触媒を担持する炭素の種類も、表面積の大きい活性炭などの、いろいろな種類の炭素の使用が可能である。さらに、多孔性電極の材質としては、実施例で述べた白金以外にも、固体高分子イオン導電体と反応しない各種金属や炭素粉末等、種々の材料の使用が可能である。
【0036】
以上のように、本発明になる電気化学セルは、寿命のきわめて長い、しかも資源としは極めて豊富な炭素を使用するもので、従来の電気化学セルの問題点を取り除くことができるものであり、その工業的価値はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明になる実施例1にかかる燃料電池の、断面構造を示した図である。
【図2】本発明になる実施例3にかかる水電解セルの、断面構造を示した図である。
【図3】本発明になる実施例5にかかる水素移動セルの、断面構造を示した図である。
【符号の説明】
1 カチオン交換膜
2 正極
3 負極
【産業上の利用分野】
本発明は、電解質にカチオン交換膜を使用した電気化学セルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
カチオン交換膜、さらに詳細には水素イオン導電性のカチオン交換膜を用いる電気化学セルには、燃料電池、水電解セル、電気化学的酸素移動セル、電気化学的水素移動セル等がある。
【0003】
燃料電池においては、カチオン交換膜の片面に正極としての多孔性電極、他面に負極としての多孔性電極が、それぞれ一体に接合され、純酸素もしくは空気が電池外部から正極に供給され、水素が電池外部から負極に供給されて、次の反応により発電される。
【0004】
正極:O2+4H++4e− → 2H2O (1)
負極:2H2 → 4H++4e− (2)
水電解セルにおいては、カチオン交換膜の両面に、主として白金電極が一体に接合され、その片方の電極が陰極となり、他方の電極が陽極となり、次の反応により、水の電解が起こる。
【0005】
陽極:2H2O → O2+4H++4e− (3)
陰極:4H++4e− → 2H2 (4)
水素移動セルの場合には、上述の燃料電池における負極と同様の電極が陽極となり、水電解セルの場合と同様の陰極が用いられる。この場合の電極反応は次のようになる。
【0006】
陽極:H2 → 2H++2e− (5)
陰極:2H++2e− → H2 (6)
すなわち、陽極に供給された水素が、陽極から陰極にあたかも移動するような形となる。
【0007】
燃料電池は、水素の供給及び循環系が必須であるため、電池系が一般に複雑かつ大がかりになる。この点を解決するためのひとつの手段は、負極材料に水素貯蔵合金を用いることである。水電解セルは、その反応によって水素及び酸素が発生するが、その用途によっては、酸素のみが利用され、水素が不要なことがある。この場合にも、上述の水電解セルの陰極を、水素貯蔵合金を主体にした電極で構成すれば、陽極では(1)式の反応が起こり、陰極では次の反応により水素が発生しないことになる。
陰極:xH++M+xe− → MHx (7)
(M:水素貯蔵合金)
同様に、上述の水素移動セルにおいて、陽極に水素貯蔵合金を用いれば、(8)式の反応が起こり、セル外部からの水素の供給が不要となるという意味で、系は簡素となる。
【0008】
陽極:MHx → xH++M+xe− (8)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
水素吸蔵合金としては、LaNi5、MmNixAlyMnz(Mm:ミッシュメタル)、TiNi系等が知られているが、これらの水素貯蔵合金を上述の目的に使用した場合、すなわち強酸性を示すカチオン交換膜に一体に接合した際、一般にその腐食がおこり、現実には使用不能である。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、電解質にカチオン交換膜を使用した電気化学セルにおける上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、寿命のきわめて長い電気化学セルを提供することにある。
【0011】
本発明においては、電気化学セルの水素吸蔵合金電極の代わりに、水素の解離吸着に有効に作用する金属触媒を担持したフラーレンを含む電極、もしくは前記触媒を担持したフラーレンと前記触媒を担持しない炭素を含む電極、もしくは前記触媒を担持したフラーレンと前記触媒を担持した炭素を含む電極、もしくは前記触媒を担持しないフラーレンと前記触媒を担持した炭素を含む電極を接合し、前記カチオン交換膜の他面に、フラーレンを含まない電極を接合したものである。
【0012】
【作用】
最近注目を集めているフラーレン(Fullerenes)は、分子式としてはC60、C70、C120などで表わされる、炭素のみからなる分子の総称である。これらの分子は、炭素で形成される正五角形および正六角形が多数集まった多面体であり、これらの化合物のうち最も有名なC60は、正五角形12個と正六角形32個からなり、バックミンスターフラーレン(Buckminsterfullerene)あるいはバッキーボール(Buckyball)と呼ばれている。フラーレン族の化学的性質としては、アルカリ金属(M)が格子間にドーピングしてM3C60(M=K、Rbなど)が形成されることや、フラーレンの球中にLaやCaを内包してLaC82、La2C82、CaC60を形成することが明らかになている。
【0013】
一方、本願発明者等は、フラーレン単独では水素を物理的にも電気化学的にも吸蔵しないが、白金族金属のように、一般に水素の解離吸着作用を示すような触媒を添加するか、これらの触媒を担持したフラーレン以外のカーボンと混合すると、水素を吸蔵すること、及びこれらの材料によって電極を構成すると、電気化学的に水素を吸蔵したり、脱離することを発見した。しかも、フラーレンは、カチオン交換膜に対して強い耐食性を示すことを見い出した。本発明はこのような発見に基づいてなされたものである。
【0014】
本発明は、上述のさまざまな電気化学セルに適用できるが、フラーレンを含む電極は、フラーレンに白金のごとき触媒を通例の方法で担持したもの、あるいは、通常の燃料電池に使用されるような活性炭に白金のごとき触媒を担持したものとフラーレンとの混合物をポリ4フッ化エチレンの如き結着剤との混合物で構成され、従来公知の方法でプロトン導電性の電解質であるカチオン交換膜に一体に接合される。また、このフラーレンを含む電極をカチオン交換膜に接合する際、電極の中にあるいは電極と膜との接合面に、カチオン交換樹脂の有機溶媒と水との混合溶液をそれぞれ混入したり、介在させることが有効である。
【0015】
カチオン交換膜としては、パーフルオロカーボンもしくはスチレン−ジビニルベンゼン共重合体を骨格とし、イオン交換基としてスルフォン酸基あるいはカルボン酸基を有するものが有効である。
【0016】
燃料電池の場合には、正極に従来公知の酸素電極もしくは空気電極を用い、負極にフラーレン電極を用いると、酸素(空気)−フラーレン電池が構成される。フラーレン電極への水素の吸蔵は、電極を構成する前でも後でもよい。電池系は密閉系にし、放電によってフラーレン中の水素が消費されたら廃棄するような一次電池タイプにすることも、電池に水素供給口を設け、水素を電池外部から間欠的に供給して、繰り返し放電することもできる。このようにすれば、複雑で大ががりな循環系を常時電池に付設しておかなくてもすむという点で、実用上、極めて便利である。また、フラーレン電極への水素の補給は、酸素電極(正極)として、例えば、白金触媒を担持したカーボンを主体とする材料で構成し、いわゆる水素電極としても機能するような電極を用い、この正極に酸素もしくは空気を供給する代わりに、電池外部から水素を供給し、この正極とフラーレン電極(負極)との間に通電すれば、次の反応により、フラーレン電極に水素が電気化学的に吸蔵される。
【0017】
正極(実際には陽極として作動):x/2・H 2→xH++xe− ・・・・・(9)
負極(実際には陰極として作動):CF1+xH++xe−→CF1・HX ・・・(10)
(CF1:フラーレン)
この反応は、変則的ではあるが、一種の充電ということができる。(9)式及び(10)式による充電時のセル電圧は、極めて低い、という点で有利である。
【0018】
水電解セルの陰極に、水素発生電極の代わりに、フラーレン電極を用いると、陰極からの水素発生を阻止し、陽極からの酸素発生だけが起こる。このようなセルは、従来、全く存在しなかった。これは、カチオン交換膜に対して耐食性を有するフラーレン電極の適用によってはじめて可能になった。このような電気化学セルは、陽極で水の電解反応が起こるという意味では、水電解セルということができるが、従来のように、酸素と水素が発生する、いわゆる水電解セルと若干趣を異にして、むしろ電気化学的酸素発生セルというべきものである。この酸素発生セルは、酸素ボンベの代わりに、オンサイトで高濃度の酸素が必要とされるような用途、例えば、医療用にたいへん有用である。
【0019】
陽極にフラーレン電極を配し、陰極に水素発生電極を配した水素移動セルは、あらかじめフラーレン電極に水素を吸蔵しておけば、この電気化学セルへの通電によつて、いつでもどこでも、水素を得ることができる。また、この場合の水素発生電極に、いわゆる無電解メッキ法によつて、カチオン交換膜の表面に析出する白金から構成されるが、前述の燃料電池の場合と同様に、水素ガスのイオン化が可能なガス拡散電極にし、このガス拡散電極を陽極とし、上述のフラーレン電極を陰極とするとともに、ガス拡散電極に水素を供給しつつ、両電極間に直流電流を通電すれば、、前述の(9)式及び(10)式と同じ反応が起こり、フラーレン電極に水素が吸蔵され、繰り返し水素発生セルとして使用することができる。このような機能をもった電気化学セルもまた従来なかったものであり、本発明者等の発明にかかるものである。
【0020】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0021】
[実施例1]
カチオン交換膜の片面に、正極としての白金を担持した多孔性カーボン電極を接合し、他面に負極としての白金触媒を担持したフラーレンを含む電極を接合して構成した、燃料電池を作製した。図1はその断面構造を示したもので、図において、1は電解質としてはたらくカチオン交換膜で、ここでは直径50mm、厚み約0.2mmのパーフルオロカーボンスルフオン酸(商品名:ナフィオン117)を使用した。2は正極であり、金属触媒としての白金を2%担持した活性炭に、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極、3は負極であり、10%の白金触媒を担持したフラーレンC60と、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極である。なお、電極の大きさは、正極・負極ともに直径40mmとした。4は正極集電体としてのチタン網、5は正極端子、6は負極端子、7はガス入口、8はガス出口、9は水素供給口、10は活栓、11は電池ケースである。なお、電池を組み立てる場合には、フラーレンC60中に水素はほとんど存在しない。
この燃料電池を使用するにあたっては、まず負極のフラーレン中に水素を吸蔵させる必要がある。そのひとつの方法は、フラーレンに直接水素を接触させて吸蔵させる方法であり、活栓10を開いて、水素供給口9から水素を導入して、必要量の水素をフラーレンに吸蔵させた後、活栓10を閉じて、電池として使用する。もう一つの方法は、電気化学的方法であり、正極のガス入口6に水素を供給し、同時に電子が外部回路を通って正極から負極に移動する方向に、100mAの直流電流を通電した場合、正極では(9)式の反応が、また、負極では(10)式の反応が起こり、負極のフラーレンC60中に水素が電気化学的に吸蔵される。この過程は一種の充電であり、電池の構造としては、図1の水素供給口9と活栓10は不必要である。
【0022】
次に、正極のガス入口6に酸素を供給し、正極と負極間に負荷をつなぐと、正極では(1)式の反応が起こり、負極では次の反応(11)が起こって、電圧0.8Vで50mAの電流を取り出すことができる。
【0023】
負極:CF1・HX → CF1+xH++xe− (11)
(CF1フラーレン)
この燃料電池の容量は、負極のフラーレン中に吸蔵されている水素の量で決定される。もちろん、正極のガス入口6に、酸素の代わりに空気を供給した場合も同様の特性が得られる
[実施例2] 負極以外の使用材料および構造は実施例1とまったく同じである燃料電池を作製した。負極としては、白金触媒を担持したフラーレンの代わりに、白金触媒をあらかじめ表面積のきわめて大きい炭素に2%担持しておき、白金触媒を担持した炭索とフラーレンC60とを混合し、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極を使用した。この燃料電池の特性は、実施例1とほとんど同じであった。
【0024】
[実施例3] カチオン交換膜の片面に、陽極としての白金電極を接合し、他面に陰極としての10%の白金触媒を担持したフラーレンを含む電極を接合して構成した、水電解セルを作製した。図2はその断面構造を示したもので、図において、1は電解質としてはたらくカチオン交換膜で、ここでは直径50mm、厚み約0.2mmのパーフルオロカーボンスルフオン酸(商品名:ナフィオン117)を使用した。2は陽極であり、無電解メッキ法で接合した白金電極、3は陰極であり、10%の白金触媒を担持したフラーレンC60と、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極である。なお、電極の大きさは、陽極・陰極ともに直径40mmとした。4は陽極端子、5は陰極端子、6は電解される水、7はガス出口、8はセルケースである。なお、セルを組み立てる場合には、フラーレンC60中に水素はほとんど存在しない。
【0025】
この水電解セルに外部回路から、セル当り100mAの直流電流を通電した場合、陽極では(3)式の反応が起こり、水が分解して1時間当り25℃、1気圧の酸素約23mlがガス出口9から発生し、いっぽう同時にできた水素イオンは、ナフィオン117膜を通って陰極側に達し、陰極では(10)式の反応が起こって、フラーレンC60中に吸蔵され、陰極からはガスは発生しない。この水電解セルは、電気化学的酸素発生セルということができる。
[実施例4] 陰極以外の使用材料および構造は実施例3とまったく同じである水電解セルを作製した。陰極としては、白金触媒を担持したフラーレンの代わりに、白金触媒をあらかじめ表面積のきわめて大きい炭素に2%担持しておき、白金触媒を担持した炭素とフラーレンC60とを混合し、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極を使用した。この水電解セルの特性は、実施例3とほとんど同じであった。
【0026】
[実施例5] 実施例1で述べた燃料電池と類似の構造の、水素移動セルを作製した、図3はその断面構造を示したもので、図において、1は電解質としてはたらくカチオン交換膜で、ここでは直径50mm、厚み約0.2mmのパーフルオロカーボンスルフオン酸(商品名:ナフィオン117)を使用した。2は陰極であり、金属触媒としての白金を2%担持した活性炭に、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極、3は陽極であり、10%の白金触媒を担持したフラーレンC60とC70の混合物と、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極である。なお、電極の大きさは、陰極・陽極ともに直径40mmとした。4は陰極端子、5は陽極端子、6は水素ガス出口、7は水素供給口、8は活栓、9はセルケースである。なお、セルを組み立てる場合には、フラーレン中に水素はほとんど存在しない。
【0027】
この水素移動セルを使用するにあたっては、まず陽極のフラーレン中に水素を吸蔵させる必要がある。そのひとつの方法は、フラーレンに直接水素を接触させて吸蔵させる方法であり、活栓8を開いて、水素供給口7から水素を導入して、必要量の水素をフラーレンに吸蔵させた後、活栓8を閉じて、水素移動セルとして使用する。もう一つの方法は、電気化学的方法であり、陰極2(この場合には陽極として作動する)のガス入口6に水素を供給し、同時に電子が外部回路を通って陰極2から陽極3(この場合には陰極として作動する)に移動する方向に、100mAの直流電流を通電した場合、陰極2では(9)式の反応が、また、陽極3では(10)式の反応が起こり、陽極のフラーレン(C60とC70の混合物)中に水素が電気化学的に吸蔵される。セルの構造としては、図3の水素供給口7と活栓8は不必要である。
【0028】
次に、外部回路からセル当り50mAの直流電流を通電した場合、陽極3では(11)式の反応が起こり、フラーレン中の水素が水素イオンと電子に解離し、水素イオンはナフィオン117膜を通って陰極2側に達し、陰極2では(6)式の反応が起こって、水素ガスが発生する。この水素移動セルは、電気化学的水素発生セルということができる。
【0029】
なお、陰極2としては、無電解メッキ法によって接合した多孔性白金電極を使用することも可能であるが、この場合は、フラーレンに水素を吸蔵させる方法としては、フラーレンに直接水素を接触させる方法に限られ、電気化学的方法は使用できない。
【0030】
[実施例6] 陽極以外の使用材料および構造は実施例5とまったく同じである水素移動セルを作製した。陽極としては、白金触媒を担持したフラーレンの代わりに、白金触媒をあらかじめ表面積のきわめて大きい炭素に2%担持しておき、白金触媒を担持した炭素とフラーレンC60とを混合し、ディスパージョンポリ4フッ化エチレンと、ナフィオン117のアルコールと水との混合溶液を加えて結着して、ナフィオン117膜に接合した電極を使用した。この水素移動セルの特性は、実施例5とほとんど同じであった。
【0031】
【発明の効果】
本発明になる電気化学セルは、一方の電極の活物質にフラーレンを使用し、フラーレンに水素の解離吸着に有効に作用する金属触媒を混合して使用するものである。すなわち、フラーレンはただ単に水素と接触させただけでは、水素をまったく吸蔵しないが、フラーレンに白金のような触媒を混合することによって、電気化学的に水素を吸蔵する能力を示すようになる。その機構は明らかになっていないが、水素がいったん触媒に吸着し、水素分子が水素原子に解離し、そのあと水素原子を吸蔵するような機構が推定される。
【0032】
このように、本発明になる電気化学セルのフラーレンを含む電極においては、フラーレンは炭素のみから構成されており、ナフィオン117のような強酸性の固体高分子イオン導電体によって腐食を受けないので、サイクル寿命のきわめて長い電気化学セルが得られるものである。
【0033】
したがって、本発明になる電気化学セルを、燃料電池に利用すれば、正極に酸素あるいは空気を供給するだけで、負極側へのガスの供給が不用となり、構造が簡単になるし、また、水電解セルに利用すれば、酸素のみを発生して、水素がまったく外部に出ない酸素発生器となるし、さらに、水素移動セルに利用すれば、水素ガス貯蔵容器が不必要な、密閉容器中の脱水素装置もしくは水素発生装置となる。
【0034】
また、フラーレンは現時点ではその合成方法が困難であり、高価な物質ではあるが、炭素のみからなる物質であるために、大量に生産されるようになれば安価になる可能性は大きいし、もちろん資源的な心配はまったく不必要である。
【0035】
なお、フラーレンとしては、実施例で述べたC60以外にも、C70などの分子量の異なるフラーレンを使用することも可能であるし、もちろん2種類以上のフラーレンの混合物の使用も可能である。また、水素の解離吸着に有効に作用する金属触媒としては、実施例で述べた白金以外にも、パラジウムやニッケルなどの多くの金属の使用も可能である。また、触媒を担持する炭素の種類も、表面積の大きい活性炭などの、いろいろな種類の炭素の使用が可能である。さらに、多孔性電極の材質としては、実施例で述べた白金以外にも、固体高分子イオン導電体と反応しない各種金属や炭素粉末等、種々の材料の使用が可能である。
【0036】
以上のように、本発明になる電気化学セルは、寿命のきわめて長い、しかも資源としは極めて豊富な炭素を使用するもので、従来の電気化学セルの問題点を取り除くことができるものであり、その工業的価値はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明になる実施例1にかかる燃料電池の、断面構造を示した図である。
【図2】本発明になる実施例3にかかる水電解セルの、断面構造を示した図である。
【図3】本発明になる実施例5にかかる水素移動セルの、断面構造を示した図である。
【符号の説明】
1 カチオン交換膜
2 正極
3 負極
Claims (8)
- カチオン交換膜の片面に、水素の解離吸着に有効に作用する金属触媒を担持したフラーレンを含む電極、もしくは前記触媒を担持したフラーレンと前記触媒を担持しない炭素を含む電極、もしくは前記触媒を担持したフラーレンと前記触媒を担持した炭素を含む電極、もしくは前記触媒を担持しないフラーレンと前記触媒を担持した炭素を含む電極を接合し、前記カチオン交換膜の他面に、フラーレンを含まない電極を接合したことを特徴とする、電気化学セル。
- フラーレンが、Cx(x=60〜120)の群から選ばれた一つもしくは混合物であることを特徴とする、請求項1記載の電気化学セル。
- 水素の解離吸着に有効に作用する金属触媒が、白金族金属であることを特徴とする、請求項1もしくは2記載の電気化学セル。
- 電気化学セルが燃料電池であることを特徴とする、請求項1、2もしくは3記載の電気化学セル。
- 電気化学セルが水電解セルであることを特徴とする、請求項1、2もしくは3記載の電気化学セル。
- 電気化学セルが水素移動セルであることを特徴とする、請求項1、2もしくは3記載の電気化学セル。
- フラーレンを含む電極に直接水素ガスを接触させることによって、該フラーレンを含む電極に水素を吸蔵させることを特徴とする、請求項1、2、3、4もしくは6記載の電気化学セルの作動方法。
- フラーレンを含まない電極に水素ガスを供給し、電気化学的にフラーレンを含む電極に水素を吸蔵させることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5もしくは6記載の電気化学セルの作動方法。
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