JP3575050B2 - 液晶組成物およびこれを含む液晶素子 - Google Patents
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【産業上の利用分野】
本発明は、新規な強誘電性カイラルスメクティック液晶組成物およびそれを用いた液晶素子に関する。さらに詳しくは、電界の変化に対する応答性の改良された新規な液晶組成物、およびそれを使用した光シャッターや表示素子などに使用できる液晶素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年情報化社会の進展に伴い、各種の表示装置はマンマシーンインターフェースの一つとして、その重要性がますます高まっている。そのような中で平面ディスプレイ、特に液晶ディスプレイ(LCD)は、薄型、軽量、低電圧駆動、低消費電力などの特徴を有し急速に普及してきた。液晶ディスプレイに代表される液晶素子のうち情報量の大きいマトリクス型液晶素子には、アクティブマトリクス方式と単純マトリクス方式と呼ばれている二つの駆動方法がある。
【0003】
アクティブマトリクス方式は、ポリシリコン、アモルファスシリコンなどの薄膜トランジスターまたはダイオードを画素毎に非線形素子として装着したものである。しかし、アクティブマトリクス方式は、複雑な製造プロセスと歩留まりの悪さから大面積化、低価格化、高密度化に関して課題を有しており、価格や生産性などを考え合わせると単純マトリクス方式の方が有利である。
【0004】
現在実用化されている単純マトリクス方式の液晶素子としてはTN型液晶またはSTN型液晶を用いたものが主流である。しかしこれらの素子の光学的な応答は、電界印加時に生じる液晶分子の誘電率異方性に基づく平均的な液晶分子軸の特定方向への配列を利用している。従ってこれらの素子の光学的な応答速度の限界は、ミリ秒のオーダーであり、情報量の増大を考えると不十分である。また情報量を増大するために走査線の数を増大するとコントラスト比の低下やクロストークが原理的に避けられない。これはTN型やSTN型の液晶がメモリー性(双安定性)を示さないことによる本質的な問題である。このことを改良するために、二周波駆動法、電圧平均化法、多重マトリクス法など種々の駆動法が提案されているが問題の本質的な解決ではなく、大容量化、高密度化は容易ではない。またこれらの液晶は視野角の制約や表示品質にも大きな問題がある。
【0005】
このような液晶素子の本質的な問題点を解決することを目標に、1980年にノエル・エー・クラークとスベン・テー・ラゲルバルは、双安定性を有する液晶を利用する液晶素子を提案した(米国特許第4367924号明細書、特開昭56−107216号公報等)。このような双安定性を示す液晶としてはカイラルスメクチックC相を発現する強誘電性液晶が主として用いられている。
【0006】
強誘電性液晶を用いることの特徴の一つは、強誘電性液晶が双安定性を示すことにある。双安定性とは、強誘電性液晶を透明電極を有する二枚のガラス基板間に狭持した場合に、印加する電界の向きに依存して二つの光学的な安定状態を有し、しかもこの二つの光学的安定状態は、印加した電界を除去しても維持される性質である。このような性質を有することから、強誘電性液晶を用いた液晶素子は走査線の数を増大させてもコントラスト比の低下やクロストークがないことが期待できる。
【0007】
もう一つの強誘電性液晶の特徴は、高速応答性にある。すなわち強誘電性液晶の光学的応答は、強誘電性液晶が有する自発分極と電場との直接的な相互作用によって生じる液晶分子の配列の変化を利用するため、前述したTN型液晶やSTN型液晶の場合の光学応答に比較して、その応答速度は100〜1000倍高速である。
【0008】
すなわち強誘電性液晶素子は、(1)二つの光学的安定状態を示し、その光学的安定状態が電界を除去してもそのまま保持され(双安定性、メモリー性)、(2)その二つの光学的安定状態をマイクロ秒オーダーでスイッチングする(高速応答性)という本質的な特徴を有する。さらに強誘電性液晶素子は、(3)液晶分子が基板に対して平行な面内で応答し、セル厚も薄いので表示の視角依存性が小さい(広視野角)という特徴も有している。従って強誘電性液晶素子は、アクティブマトリクス方式の場合のように高価な非線形素子を必要とせず、単純マトリクス方式で大表示容量と高表示品質を達成できる高品質大型ディスプレイとして期待されている。
【0009】
また最近、液晶のレスポンス時間が特定の電圧で最小値を示すように調整された液晶材料を用いたマトリクスアレイ型セルのアドレス方法(インバースモード又はτ−Vminモード)が、マシュウ・フランシス・ボーンにより報告された(特開平3−20715号公報)。このようなアドレス方法では液晶のレスポンス時間が特定の電圧で最小値を示すことを利用して、レスポンス時間の電圧依存性における正勾配部分を用いて液晶素子を駆動している。このような駆動法を用いることにより、ちらつきが少なく良好な画質が得られることが期待できる。
【0010】
このようなτ−Vminモードに適した液晶材料は良好な配向状態を得るために必要な相系列、すなわち等方相から徐冷したときにコレステリック相、スメクチックA相を経てキラルスメクチックC相に転移する相系列を有し、低粘度で高速応答性を示すという強誘電性液晶材料として従来から要求されている特性のほかに、誘電率異方性が少なくとも1kHz〜40kHzの周波数領域にわたって負であることが必要である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、誘電率異方性が負でτ−Vminモード駆動に適した強誘電性カイラルスメクチック液晶組成物および該組成物を用いた液晶素子を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明はつぎに記す発明からなる。
(1)一般式 化4(一般式(I)とする)
【0013】
【化4】
(式中、Ar11およびAr12は、化5
【0014】
【化5】
【0015】
で表される縮合環または単環から選ばれるものであり、m、nはそれぞれ独立に0または1であり、Ar11またはAr12が縮合環の場合はmとnの和が1であり、Ar11またはAr12が単環のときはmとnの和が1または2であり、R11、R12はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数3〜15のアルキル基、アルコキシ基またはアルコキシアルキル基を示す。)で表される化合物の少なくとも1種類、および一般式 化6(一般式(II)とする)
【0016】
【化6】
【0017】
(式中、kおよびlはそれぞれ独立に1または2でkとlの和が3であり、rは0〜10の整数であり、sは0または1であり、tおよびuはそれぞれ独立に0または1であり、X2 は−COO−または−OCO−であり、ベンゼン環の水素原子の少なくとも1つはフッ素原子に置換されており、R21は炭素数5〜15のアルキル基、アルコキシ基またはアルコキシアルキル基であり、R22はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜10のアルコキシアルキル基であり、R21およびR22の連続するメチレン鎖は二重結合または三重結合に置換されていてもよく、*は不斉炭素を示し、Zは水素原子またはフッ素原子を示す。)で表される化合物の少なくとも1種類を含み、一般式(II)で表される化合物が光学活性化合物でない場合には、他の光学活性化合物を含み、一般式(I)で示される化合物と一般式(II)で示される化合物の組成比(モル基準)が(I)/(II)=10/90〜90/10であることを特徴とする強誘電性カイラルスメクチック液晶組成物。
【0018】
(2)前記項(1)記載の強誘電性カイラルスメクチック液晶組成物を一対の電極基板間に狭持してなることを特徴とする液晶素子。
【0019】
本発明について詳細に説明する。
前記一般式(I)で示される化合物のうち好ましいものを、より具体的な化学構造のグループ〔(I−1)から(I−28)の化合物〕に分けて、以下の化7、化8および化9に記載する。
以下、(I−1)から(I−28)の化合物において、R11,R12はそれぞれハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数5〜15のアルキル基、アルコキシ基またはアルコキシアルキル基である。
【0020】
【化7】
【0021】
【化8】
【0022】
【化9】
【0023】
前記の一般式(II)で示される化合物のうち好ましいものを、より具体的な化学構造のグループ〔(II−1)〜(II−51)の化合物〕に分けて、以下の化10、化11、化12、化13および化14に記載する。
以下に示される(II−1)から(II−51)の化合物において、R21は炭素数5〜15のアルキル基、アルコキシ基またはアルコキシアルキル基、R22は炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基、または炭素数2〜10のアルコキシアルキル基であり、R21およびR22の連続するメチレン鎖は二重結合または三重結合に置換されてもよく、rは0〜10の整数であり、*は不斉炭素を示す。
【0024】
【化10】
【0025】
【化11】
【0026】
【化12】
【0027】
【化13】
【0028】
【化14】
【0029】
本発明の液晶組成物に用いられる他の光学活性化合物は、強誘電性液晶相における自発分極値の調整およびコレステリック相におけるラセンピッチの調整等を目的とするものである。他の光学活性化合物を1種類以上適当な割合で混合して用いる。一般式(II)で表される化合物が光学活性化合物である場合においても、さらに以下に示すような他の光学活性化合物を配合してもよい。ここで混合する光学活性化合物はそれ自身が液晶相を示す必要は必ずしもない。
【0030】
用いる光学活性化合物は特に限定されるものではないが、具体例としては、例えば、以下の化15および化16に記載するような化合物〔(III−1)から(III−19)〕が挙げられる。
以下の構造式〔(III−1)から(III−19)〕において、R31は炭素数5〜15のアルキル基、R32はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜10のアルコキシアルキル基を示し、mは0〜10の整数を示し、Zは水素原子またはフッ素原子を示し、*は不斉炭素を示す。
【0031】
【化15】
【0032】
【化16】
【0033】
また、本発明の液晶組成物には、液晶温度拡大および保持、粘度の低減等を目的に、他のノンキラル化合物を1種以上適当な割合で混合することもできる。ここで、添加する他のノンキラル化合物はそれ自身が液晶相を示す必要は必ずしもない。
本発明で用いることのできる他のノンキラル化合物の具体的を以下の化17および化18に例示するが〔(III−20)から(III−35)〕、これらの例に限定されるものではない。
【0034】
【化17】
【0035】
【化18】
【0036】
本発明の液晶素子は種々のタイプの液晶素子・表示装置として利用することができる。液晶素子の構造は特に限定されるものではない。図1に本発明の強誘電性液晶素子の一例の概略図を示す。図1において、1は偏光板、2はガラス基板、3は透明電極、4は絶縁性の配向制御膜、5は強誘電性液晶層、6はスペーサーである。
【0037】
図1に記載したような構造をもつ液晶素子の一つの例として表面安定化型強誘電性表示装置を挙げることができる。この表示装置は、二枚のガラス基板2の間の間隔を極めて薄くしたセルに強誘電性液晶を基板に平行配向するように封入したものである。強誘電性液晶層5の厚さは、二枚のガラス基板2の間隔とそれらの上で強誘電性液晶層5の方向に設置された透明電極3と絶縁性配向膜4の厚みで決定され、通常0.5〜20μm、好ましくは1〜5μmである。
【0038】
透明電極3は、液晶層側のガラス基板2上に被覆されており、通常ITO(Indium−Tin Oxide)、In2 O3 、SnO2 などが用いられている。
【0039】
透明透明電極3の液晶層側5には、絶縁性配向膜が設置されている。この際、配向膜がそれ単独で充分な絶縁性を有する場合には、配向膜のみでよいが、必要に応じて配向膜と配向膜の下に絶縁層を設置し、その両者で絶縁性配向膜としてもかまわない。
【0040】
配向膜としては、有機物、無機物、低分子、高分子など、公知のものを使用することができる。高分子物質としては、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエステルイミドや種々のフォトレジストなどを必要に応じて用いることができる。
【0041】
またこれらの高分子物質を配向膜として用いた場合には、必要に応じてこれら配向膜の表面を、ガーゼやアセテート植毛布などを用いて、一方向にこする、いわゆるラビング処理を行うことによって液晶分子の配向をより一層促進することができる。
【0042】
絶縁膜としては、例えば、チタン酸化物、アルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、シリコン酸化物、シリコン窒化物などを用いることができる。
【0043】
これらの配向膜や絶縁膜を形成する方法としては、必要に応じて、それら用いる物質よって最適な方法を用いることができる。例えば、高分子物質の場合には、その高分子物質またはその前駆体を、それらの物質を溶解できる溶媒に溶解後、スクリーン印刷法、スピンナー塗布法、浸漬法などの方法で塗布することができる。無機物質の場合には、浸漬法、蒸着法、斜方蒸着法などを用いることができる。これら絶縁性配向膜の厚みは特に限定されないが、10Å〜2μm、好ましくは20Å〜1000Åである。
【0044】
これら絶縁性配向膜4および透明電極3を設置した二枚のガラス基板2は、スペーサー6を介して所定の間隔に保持される。スペーサーは、例えば、シリカ、アルミナ、高分子よりなり、所定の直径または厚みを有するビーズ、ファイバーまたはフィルム状の絶縁性の材料を用いることができる。これらスペーサー6を二枚のガラス基板2で狭持し、周囲を例えばエポキシ系接着剤等を用いてシールした後、強誘電性液晶を封入することができる。
【0045】
二枚のガラス基板の外側には、通常一枚または二枚の偏光板1が設置されている。図1には二枚の偏光板を用いた場合が例示されている。この際二枚の偏光板は、互いの偏光軸を直交させた状態、すなわちクロスニコル状態となっている。
【0046】
透明電極3は、適当なリード線が接続されており外部の駆動回路に接続されている。
【0047】
【実施例】
以下、実施例により、本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1
一般式(I)、(II)で示される化合物およびその他のノンキラル化合物を表1に示す割合(モル%、以下同じ)で混合し、液晶組成物1を調製した。
【0049】
【表1】
【0050】
この液晶組成物1を、ガラス基板上に透明電極とポリイミド配向膜を塗布した、二枚のガラス基板間にスペーサーを用いてギャップが2μmになるように挟持し、この二枚のガラス基板のそれぞれ外側に偏光面が90゜回転した状態で二枚の偏光板を設置し液晶素子を作製した。この際光の入射側の偏光軸はポリイミド配向膜のラビング方向から液晶分子のチルト角に相当する角度を回転させて設置した。
【0051】
次にこの強誘電性液晶素子を用いて、最小パルス幅の電界依存性(τ−V特性)を次のように測定した。上記の液晶素子にデューティー比1:400のモノポーラーパルスを印加し、その時の透過光量の変化をフォトマルで電流電圧変換した後オシロスコープで観察した。ある電圧においてメモリー性が保持できる最小のパルス幅をその電圧における最小パルス幅とした。ここでメモリー性が保持できないとは2つの安定状態間のコントラスト比が低下する状態とした。25℃におけるτ−V特性を図2に示す。図2においてメモリー性を保持できる最小パルス幅をτmin、そのときの電界をEminと定義した。この液晶組成物1ではτminは53μs、Eminは29V/μmであった。
図2のτ−V特性から明らかなように、この液晶組成物1はτ−Vminモード用の液晶組成物として用いることができる。
【0052】
実施例2
一般式(I)および(II)で示される化合を表2に示す割合で混合し、液晶組成物2を調整した。
【0053】
【表2】
【0054】
この液晶組成物2について実施例1と同様の方法で測定したτ−V特性を図3に示す。この液晶組成物2ではτminは117μs、Eminは23V/μmであった。
図3のτ−V特性から明らかなように、この液晶組成物2はτ−Vminモード用の液晶組成物として用いることができる。
【0055】
比較例1
一般式(II)で示される化合物およびその他のノンキラル化合物を表3に示す割合で混合し、液晶組成物3を調整した。
【0056】
【表3】
【0057】
実施例1と同じようにτ−V特性を測定した結果を図4に示す。この液晶組成物3ではEminは30V/μm以上であった。
図4のτ−V特性から明らかなように、この液晶組成物3のEminは前記の実施例と比較して高電界のためτ−Vminモード用の液晶組成物として用いることは難しい。
【0058】
【発明の効果】
以上の結果より明らかなように、本発明の液晶組成物は誘電率異方性が負で、τ−Vminモード駆動に適した強誘電性カイラルスメクチック液晶組成物であり、高速応答可能な液晶素子として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】強誘電性液晶素子の一例の概略図を示す。
【図2】実施例1のτ−V特性を示す。
【図3】実施例2のτ−V特性を示す。
【図4】比較例1のτ−V特性を示す。
【符号の説明】
1.偏光板、2.ガラス基板、3.透明電極、4.絶縁性の配向制御膜、5.強誘電性液晶層、6.スペーサー
Claims (2)
- 一般式 化1(一般式(I)とする)
- 請求項1記載の強誘電性カイラルスメクチック液晶組成物を一対の電極基板間に狭持してなることを特徴とする液晶素子。
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