JP3574937B2 - アスコルビン酸影響回避の方法及び組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、酸化還元反応(以下、レドックス反応と呼称する場合もある)を利用して体液中の物質を測定する際に、体液中に含まれるアスコルビン酸(以下、AsAと略する)が測定値に与える影響を少なくする方法と、それに用いる組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
AsAは、食物中に天然に存在するビタミンであり、人体にとって必要不可欠のものであるが、人の体内では生合成されないため、野菜や果物から摂取している。
【0003】
AsAが欠乏すると壊血病になるために、それを予防するために、一日に50〜60mg摂取することが望ましいとされている。しかし、今日の健康ブームによる大量摂取や、抗生物質・風邪薬などの医薬品中に処方されたり、AsAの強い還元力により食物の酸化を防止する目的の添加物として食物に添加されることが多く、一般の人々は、必要以上に過剰摂取しがちである。
【0004】
AsAの過剰摂取に対しては、人体には無害であるが、摂取した分だけ血液や尿中のAsA濃度が高まるため、レドックス反応を利用する体外診断薬による測定に対して妨害要因となり、結果的に誤判定となる。特に、人体にとって不必要な余剰分は尿中へ排泄されるため、尿中成分を測定する際には尿中のAsAには注意を要する。
【0005】
尿や血液などを測定する試験系において、AsAによる反応妨害を除去するための各種の方法が数多く報告されている。それらのほとんどは、目的物質の反応が進む以前にAsAを酸化することによりデヒドロアスコルビン酸に変化させてAsAの還元力を低下させるものである。
【0006】
例えば、ダニンガー(Danninger)らが報告したAsA酸化酵素によるAsAの除去がある(特公昭56−39198)。しかし、この方法は、AsA酸化酵素の安定性,温度影響,高濃度のAsA試料対策に対しては問題がある。この他、鉄,コバルト,セレン,銅,水銀,ニッケル等の有機錯体などによりAsAを酸化させるものが報告されている(特公平1−41223、特公昭63−67139、特公昭63−39871)。しかしこれらも、高濃度にAsAを含有する試料に対しては効果が薄い。
【0007】
さらに、ヨウ素酸塩などの過酸化物による方法は、ケーファー(Koever)らによって報告されている(特公平2−4861)。これは比較的効果はあるものの、やはり高濃度にAsAを含有する試料に対しては効果が不十分である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、AsAの影響を回避するための従来の方法である『AsAを酸化させて除去する方法』の効果を向上させることである。それに伴って、従来のままでは十分な効果を得られない高濃度AsAに対しても、その効果を上げることにより測定対象物を満足に測定することもまた、本発明の目的である。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、レドックス反応を利用した体液中の成分測定において、試料中のAsAの影響を回避するために通常使用されるAsA酸化剤のヨウ素酸塩と共に、補助剤として、水素結合におけるプロトン受容基を2個以上有する一定の化合物を添加すれば解決できる。
【0010】
すなわち本発明は、AsA酸化剤の効果を向上させるために、一定のAsA酸化剤と共に、一定の補助剤を添加することを特徴とするAsA影響回避の方法である。
【0011】
それらの補助剤となる物質(以下AsA耐性補助剤と呼称することもある)は、リン酸化合物,クエン酸化合物,ほう酸化合物のような、水素結合におけるプロトン受容基を2個以上もつ物質である。その水素結合におけるプロトン受容基の好ましい例は、水酸基(−OH)か又はカルボニル基(C=O)である。
【0012】
これら補助剤は、AsA影響を回避させるために単独で添加しても、AsAを回避する効果は得られない。しかし、本発明者らは、AsAを酸化させるに適当な酸化還元電位をもつヨウ素酸のようなAsA対策用の酸化剤中へこれらを適当量添加することにより、効果を上げることを発見した。
【0013】
つまり、グルコース,潜血,コレステロール,トリグリセライド,トランスアミナーゼ,尿酸,乳酸脱水素酵素,クレアチンホスホキナーゼ等を定量する際に、測定の誤差を与えやすいAsAの影響を少なくすることができる。本発明は、低濃度・中濃度のAsAの影響は言うに及ばず、非常に高濃度(一般的には、100mg/dl以上とされている)のAsAにも影響を受けない。
【0014】
これらの効果の理由について、原因は明確にされてはいないものの、次のような作用が考えられる。
【0015】
試料測定においては、脱酸素を目的に、AsAの還元力と発色剤(たとえばクロモーゲン)との反応が競合的に進む。AsAの酸化は一般的に発色剤の酸化より速いために、発色剤の発色阻害として試験系に出現する。よって、AsAの酸化よりも酸化反応の速い発色剤を使うことがひとつの方策だが、AsAほど酸化速度の速い発色剤は少ない上に、目標とする耐性も得られなかった。
【0016】
AsAは水に溶かす際、3位のOH基のHがはずれて水溶液となり、水溶液が酸性を示すことが知られている。このとき、2位のOH基からはHを放出しない。一方、還元作用に関与する原因は、2位のH放出による(図3を参照のこと)(FOODS & FOOD INGREDIENTS JOURNAL
No.158−1993,30−41)。
ここで、本発明の補助剤となる物質の種類の検討を行った際、種類によりAsAの影響度合いの変わるものがあった。たとえばリン酸化合物を添加した場合、AsAの影響度合が大きく減少することを見い出した。本発明は、その発見をさらに追求して完成されたものである。
【0017】
原因としては、リン酸化合物のようにOH基を二個以上持っており、構造的に立体障害もなく、その二個のOH基間の間隔と、AsAの2,3位のOH基間の間隔が近い物質が、水溶液中でAsAの2,3位のOH基の間に弱い水素結合をするためと考えられた。リン酸化合物であれば、Pのまわりの二つの「=0」がプロトン受容基となる。
水素結合については、水の沸点が分子量に比べ異常に高いことで示されるように、H−Oの分子間や、H−Nの分子間や,−O−Hとπ電子間で起こる弱い結合である。
【0018】
本発明は、上記発見に係わる物質を、AsA耐性補助剤へ応用したものである。つまり、試薬系にAsA耐性補助剤として、特定の緩衝液を加えておけば、AsAの混入した試料が入ってきた際、まずAsAと耐性補助剤が弱い水素結合をし、そのために本来AsAがもっている還元作用が一時的に遅れ、この間に目的とする主なる反応が進む。
【0019】
なお、耐性補助剤として例をあげたものは、殆どが溶液状態で強い緩衝能を有していることから、緩衝剤の形として反応系へ添加・導入すればよい。しかし、これら緩衝剤は多量に試薬中に処方すると、反応速度を遅くしてしまうことから得策ではない。そこで、緩衝剤としては、少量で緩衝作用の強いGood’s緩衝液を用いることが望ましい。
【0020】
本発明は、液系でも乾式でも作動する。グルコース測定を例に挙げれば、グルコースオキシダーゼとペルオキシダーゼが関連する反応系では、溶液中で同様の方法を試みても、効果は一応あるものの、顕著な効果は現れない。これは、上記反応系では、反応途中に酸素が必要な過程があるためである。つまり溶液状態では酸素供給源が少ないために目的の反応(水素結合)が微妙に遅くなり、結果的にAsAと脱酸素競合反応に打ち勝つことができないことによる。
よって、反応系に酸素が必要な系に限っては、本発明の方法及び組成物は、酸素が十分に供給される乾式試薬(いわゆるドライアッセイ)で特に有効である。もちろん、反応系に酸素を必要としない反応、或いはごく少量の酸素でよい反応(グルコース測定を例にとれば、ATPとグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼを使用する反応系)については、液系でも乾式でも問わない。
【0021】
【実施例】
以下に、本発明による組成物を乾式試薬へ加工した際の実験例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
尿中グルコース量を測定する試験系(グルコースオキシダーゼとペルオキシダーゼが関連)を組み、以下のような処方で試薬を調製し濾紙に含浸させて試験片とし、評価した。
評価は、比較例にAsA耐性補助剤を添加しないものを作製し、実施例1〜3において3種のAsA耐性補助剤を添加したものを作製し、比較評価した。図1と2に比較のグラフを示す。
【0023】
【比較例】
●AsA耐性補助剤を添加しない場合
(試薬Aの処方)
0.2M−ADA(※),NaOH緩衝液(pH6.0) 100ml
ヨウ素酸ナトリウム 300mg
1−ナフトール−3,6−ジ スルホン酸2ナトリウム 2.0g
ペルオキシダーゼ(PODと略) 4万 U
グルコースオキシダーゼ(GODと略) 16万 U
※注:N−(2−Acetamido)−2−aminoethanesulfonic acidの略称であり、Good’S緩衝液の一種。以下同じ。
(試薬Bの処方)
エタノール 100ml
4−アミノアンチピリン 2.0g
酢酸タリウム(※) 1.0g
※注:酢酸タリウムは、AsAを処理した際に発生するI対策として添加する。
●作製方法
i)原反作製
まず、試薬Aを30×20cmワットマン濾紙3MMChrに含浸させた後、すばやく50℃の乾燥炉(相対湿度;RH5%)に入れ、微風で15分間乾燥させた。次に、乾燥の終わった濾紙に試薬Bを含浸させ、さらに同条件で10分間乾燥させた。
ii)試験片への加工
乾燥の終わった上記原反の片面に両面テープを貼り付け、5mm幅に裁断し5mm幅の短冊を得た。これを、厚さ188μmの白色PETフィルムの先端に貼り付け、さらに、5mm幅に裁断した。こうして5mm×70mmのPETフィルムの先端に5mm×5mmの試験片がついたものを作製した。
iii)測定
グルコース濃度が100,500mg/dlの水溶液溶液に、AsAを0,20,50,100,200mg/dlの各濃度となるように添加したものを用意し、作製した試験片へ8μl点着後の発色を測定した。
測定は、色差計Σ90(日本電色製)を用い、測定は、点着後1分後の反射率を、400nmから700nmの波長まで求めた。比較するデータは、560nmにおける波長を用いて比較した。
iv)測定結果;表1に示す。(単位;反射率(%))
【表1】
Figure 0003574937
【0024】
【実施例1】
Figure 0003574937
【表2】
Figure 0003574937
【0025】
【実施例2】
Figure 0003574937
【表3】
Figure 0003574937
【0026】
【実施例3】
Figure 0003574937
【表4】
Figure 0003574937
【0027】
以上の実施例の結果では、各グルコース濃度(100,500mg/dl)においてAsA濃度が変化した際の反射率の変化を示している。反射率が低いほど、発色剤が正常に発色することを示す。
AsAの影響を受けない理想的な状態では、AsAの濃度が高くなっても反射率の変化はない。しかし、実際にはAsAの還元力により、濃度が高くなると試験片の反射率が順次高くなって現れる。
比較例においては本発明による処理を施していないため、グルコース濃度が100mg/dlの溶液でAsA濃度が100mg/dl以上になると発色をしないことが判る。一方実施例1〜3においては、耐性補助剤を添加しているため、グルコース濃度100mg/dlの溶液でAsA濃度が200mg/dl以上でも反射率が低く、発色剤が正常に発色していることが判る。
図1,2に比較例と実施例1〜3までを同時に示すが、比較例に比べて実施例1〜3の耐性補助剤の追加効果が現れていることが判る。
【0028】
【発明の効果】
本発明の補助剤を用いると、従来の酸化剤を用いてAsAの妨害を回避する方法の効果を上げることができ、酸化剤のみでは十分に除去できなかった高濃度AsAの妨害に対しても、確実な測定を行うことができる。
【0029】
【図面の簡単な説明】
図1は、比較例と実施例1〜3において、グルコース濃度100mg/dlの溶液に関してアスコルビン酸の影響を示すグラフである。
図2は、比較例と実施例1〜3において、グルコース濃度500mg/dlの溶液に関してアスコルビン酸の影響を示すグラフである。
図3は、アスコルビン酸がデヒドロアスコルビン酸に変化する際の模式図である。

Claims (2)

  1. 酸化還元反応を利用した体液中の成分測定において、試料中のアスコルビン酸の影響を回避するために、アスコルビン酸酸化剤のヨウ素酸塩と共に、該アスコルビン酸酸化剤の補助剤として、リン酸化合物、ほう酸化合物、クエン酸化合物、リンゴ酸化合物、酒石酸化合物、及びシュウ酸化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を添加することを特徴とする、アスコルビン酸影響回避の方法。
  2. 酸化還元反応を利用した体液中の成分測定において、試料中のアスコルビン酸の影響を回避するために用いられる、アスコルビン酸酸化剤のヨウ素酸塩と、該アスコルビン酸酸化剤の補助剤として、リン酸化合物、ほう酸化合物、クエン酸化合物、リンゴ酸化合物、酒石酸化合物、及びシュウ酸化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする、アスコルビン酸影響回避のための組成物。
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