JP3574847B2 - 分子状酸素と光活性化型触媒とを用いる第1級アルコールの酸化方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は第1級アルコールの酸化方法に関し、より詳しくは、第1級アルコールを安価で安全な分子状酸素で、アルデヒド化合物又はヘミアセタール化合物に酸化する方法に関する。第1級アルコールの酸化は天然有機化合物の合成において重要であり、該天然有機化合物は医農薬品に使用できる。
【0002】
【従来の技術】
第1級アルコールの酸化反応は、有機合成にとって非常に重要であり、多くの遷移金属化合物がこの目的のために使用されてきた。この中でもルテニウム化合物が集中的に検討され、多くの手法がルテニウム化合物を用いて開発された。しかしながら、多くの場合、化学量論量の酸化剤を必要とするものであった。
【0003】
一方、経済的、環境的な観点からは、酸化剤として空気等の分子状酸素を利用することが望まれている。近年、幾つかのアルコールの空気酸化が報告された(Wang G−Z., Andreasson U., 及びBackvall J−E., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1994, 1037−1038)、(Lenz R., 及びLey S. V., J. Chem. Soc., Perlin Trans I, 1997, 3291−3292)、(Marko I. E., Giles P. R., Tsukazaki M., Chelle−regnaut I., Urch C. J., 及びBrown S. M., J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 12661−12662)、(Yamaguchi K., Mori K., Mizugaki T., Ebitani K., 及びKaneda K., J. Am. Chem. Soc., 2000, 122, 7144−7145)。しかし、多くの場合、第1級アルコールのみでなく第2級アルコールも酸化してしまうという欠点があった(Matsumoto M., 及びIto S., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1981, 907−908)、(Matsumoto M., 及びWatanabe N., J. Org. Chem., 1984, 49, 3436−3437)、(Rajendran S., 及びTrivedi D. C., Synthesis, 1995, 153−154)。
【0004】
また、化学量論量のRu(PPh3)3Cl2、又はRu(PPh3)3Cl2とTMSOOTMSとのシステムを用い、第2級アルコールの存在下、第1級アルコールを選択的に酸化する方法が報告された(Tomioka H., Takai K., Nozaki H., 及びOshima K., Tetrahedron Lett., 1981, 22, 1605−1608)、(Kanemoto S., Matsubara S., Takai K., Oshima K., Tetrahedron Lett., 1983, 24, 2185−2188)。更に、ハイドロキノンの存在下Ru(PPh3)3Cl2を触媒とした空気酸化が報告された(Hanyu A., Tazezawa E., Sakaguchi S., 及びIshii Y., Tetrahedron Lett., 2000, 41, 5119−5123)。この反応では、インサイチューでハイドロキノンが酸化されてベンゾキノンになりルテニウム化学種の再酸化に寄与しているものと考えられるが、メディエーターを利用している点で改善の余地がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、メディエーターを必要とせずに、分子状酸素を酸化剤として用い、第2級アルコールの存在下でも第1級アルコールのみを選択的に酸化できる方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、光活性化型の特定の(ニトロシル)ルテニウム(サレン)錯体を触媒とし、分子状酸素を用いることにより、第1級アルコールを選択的に酸化できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち本発明の第1級アルコールの酸化方法は、
(1)下記化学式[化5]で表される(ニトロシル)Ru(サレン)錯体を触媒として使用し、光照射下で、下記一般式[化6]又は[化7]で表される第1級アルコールを分子状酸素で酸化することを特徴とする。
【化5】
【化6】
R1 − CH2 − OH
(式中、R1は炭素数1から30の置換若しくは非置換のアルキル基、又は炭素数6から25の置換若しくは非置換のアリール基を示す。)
【化7】
(式中、R2は水素原子、又は炭素数1から30の置換若しくは非置換のアルキル基を示し、nは2から3の整数を示す。)
【0008】
また、本発明に係る第1級アルコールの酸化方法の好ましい態様には以下のものがある。
(2)前記光照射が、可視光照射である。
(3)前記光照射を、ハロゲンランプで行う。
(4)前記第1級アルコールを空気で酸化する。
(5)前記一般式[化6]で表される第1級アルコールが、1−デカノール、ベンジルアルコール、p−ニトロベンジルアルコール、p−メトキシベンジルアルコール、p−メトキシカルボニルベンジルアルコール、又はp−シアノベンジルアルコールである。
(6)前記一般式[化7]で表される第1級アルコールが、ヘキサン−1,5−ジオールである。
なお、特に矛盾しない限り、上記(2)から(6)の任意の組み合わせもまた本発明の好ましい態様である。
【0009】
更に、本発明の別の目的は、前記第1級アルコールの酸化方法に用いることができる触媒を提供することにあり、即ち、
(7)下記化学式[化8]で表される(ニトロシル)Ru(サレン)錯体を特徴とする。
【化8】
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の第1級アルコールの酸化方法について詳細に説明する。
本発明で触媒として使用する(ニトロシル)Ru(サレン)錯体は、前記化学式[化5]、[化8]で表される光活性化型の触媒である。このサレン錯体は、ルテニウムイオンとエチレンジアミン部からなる5員環キレートが半イス型配座をとり、下記化学式[化9]に示すようにエチレンジアミン部の4つのメチル基のうちの2つが擬アキシアル位をとるため、アルコールの嵩高さを区別でき、その結果、立体的な嵩高さの低い第1級アルコールのみが選択的に酸化され、対応するアルデヒド化合物又はヘミアセタール化合物を非常に選択性良く生成するものと考えられる。
【化9】
【0011】
また、本発明の反応メカニズムは次の様であると考えられる。本発明の(ニトロシル)Ru(サレン)錯体は2価のRu錯体であるが、該錯体から光照射によりニトロシル(NO)が解離し、Ru(III)(サレン)錯体が生成する。生成したRu(III)(サレン)錯体が酸素の1電子移動により酸化され、Ru(IV)(サレン)錯体となり、該Ru(IV)(サレン)錯体にアルコールが配位する。ここでRu(IV)(サレン)錯体に近づくアルコールは、1,3−ダイアキシアル反発を受け、第1級アルコールの方が第2級アルコールよりも反発力が小さいため、第1級アルコールが優先的にRu(IV)(サレン)錯体に配位し、続いて酸化される。こうして本発明の重要な効果の一つである選択性が発現したものと考えられる。本発明での触媒の使用量は、基質の第1級アルコールのモル量に対し、0.1から50mol%、好ましくは2から5mol%の範囲である。
【0012】
本発明で使用する第1級アルコールは、前記一般式[化6]又は[化7]で表される。一般式[化6]で表される第1級アルコールにおいて、式中R1は炭素数1から30の置換若しくは非置換のアルキル基、又は炭素数6から25の置換若しくは非置換のアリール基を示す。炭素数1から30のアルキル基としては、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、エイコシル、トリコンチル、i−ブチル、i−オクチル等が例示でき、その中でもノニル基が好ましい。炭素数6から25のアリール基としては、フェニル、トリル、キシリル、α−ナフチル、β−ナフチル、4−(t−ブチル)フェニル等が例示でき、その中でもがフェニル基が好ましい。また、アルキル基及びアリール基は置換されていてもよく、置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、エステル基、メトキシ基、シアノ基等が挙げられる。上記一般式[化6]で表される第1級アルコールの中でも、1−デカノール、ベンジルアルコール、p−ニトロベンジルアルコール、p−メトキシベンジルアルコール、p−メトキシカルボニルベンジルアルコール、又はp−シアノベンジルアルコールが好ましい。
【0013】
一方、前記一般式[化7]で表される第1級アルコールにおいて、式中R2は水素原子、又は炭素数1から30の置換若しくは非置換のアルキル基を示し、nは2から3の整数を示す。炭素数1から30のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、イソ−プロピル、イソ−ブチル、t−ブチル、ドデシル等が例示でき、その中でもメチル基が好ましい。また、該アルキル基は置換されていてもよく、置換基としてはメトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、ハロゲン原子、エステル基、フェニル基等が挙げられる。一般式[化7]で表される第1級アルコールは、分子内にアルコール基を2つ有する2価アルコールであり、一般にはジオールと呼ばれる。
【0014】
本発明の第1級アルコールの酸化方法は、最終生成物としてアルデヒド化合物又はヘミアセタール化合物を生成する。前記一般式[化6]で表される第1級アルコールを酸化した場合はアルデヒド化合物が生成するが、アルデヒド化合物は続いてカルボン酸に酸化されやすいものであるが、本発明の製造方法では、アルデヒドの段階までの酸化にとどめることができる。アルデヒド化合物としては、前記第1級アルコールに対応するアルデヒド化合物が挙げられ、例えば、1−デカノール、ベンジルアルコール、p−ニトロベンジルアルコール、p−メトキシベンジルアルコール、p−メトキシカルボニルベンジルアルコール、p−シアノベンジルアルコールに対し、デカナール、ベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、p−メトキシベンズアルデヒド、p−メトキシカルボニルベンズアルデヒド、又はp−シアノベンズアルデヒドが生成する。
【0015】
一方、前記一般式[化7]で表される第1級アルコールを酸化した場合はヘミアセタール化合物が生成する。前記一般式[化7]で表される第1級アルコール、即ちジオールの場合、本発明の酸化方法によりヒドロキシアルデヒド化合物が中間体として生成するが、該ヒドロキシアルデヒド化合物は環状ヘミアセタール化合物と平衡関係にあり、環状ヘミアセタール化合物の方がより安定なため、ヘミアセタール化合物が最終的に得られる。一般に、ヒドロキシアルデヒドのうちγ−位、δ−位に水酸基を有するものは環状ヘミアセタールを生成し、安定に単離できる。従って、前記一般式[化7]で表される第1級アルコールとして、ブタン−1,4−ジオール、ペンタン−1,5−ジオール、ヘキサン−1,5−ジオール等を用いた場合、本発明の酸化方法により、2−ヒドロキシ−テトラヒドロフラン、2−ヒドロキシ−テトラヒドロピラン、2−ヒドロキシ−6−メチルテトラヒドロピラン等が最終的に生成する。
【0016】
本発明では分子状酸素(O2)を酸化剤として用いる。分子状酸素は最も経済的な酸化剤であり、本発明はこの安価な酸化剤を用いる点で、他のアルコール酸化プロセスに比べて経済的であるとともに、環境に悪影響を及ぼすような物質を副生しない点で環境への負荷が小さい環境調和型反応である。本発明で用いる分子状酸素は、空気中に約21%含まれており、空気から分離した純酸素でもよいが、空気をそのまま用いるのが好ましい。空気を用いることができる点で、本発明は一層経済的な第1級アルコールの酸化方法といえる。本発明では、この分子状酸素が、前記(ニトロシル)Ru(サレン)錯体を触媒として、第1級アルコールを選択的に酸化する。
【0017】
本発明では、光照射下で第1級アルコールを酸化する。本発明の触媒である(ニトロシル)Ru(サレン)錯体は、光照射によりニトロシル(NO)が該錯体から解離して活性化する。光照射としては可視光照射が適当であり、460nm付近の光が望ましい。具体的には、ハロゲンランプ、白熱灯等の利用によって十分に反応を進行させることができ、その中でもハロゲンランプが好ましい。また、これらを光源として赤外線フィルターを通して実施することもできる。本発明は、完全な暗室では進行しないが、自然光照射でも反応は進行し、従って、通常の実験室の操作でも、反応はある程度進行する。
【0018】
本発明の方法によれば、前記一般式[化6]で表される第1級アルコールを酸化してアルデヒド化合物を製造できる。通常、第1級アルコールの酸化は、アルデヒド化合物を経由してカルボン酸まで酸化される傾向があり、アルデヒドで止めるために多大な研究が行われてきたが、本発明はカルボン酸を副生しない点でも有用なプロセスといえる。また、通常は第1級アルコールと第2級アルコールが共存する場合、一方のみを選択的に酸化するには困難が伴うが、本発明では第1級アルコールと第2級アルコールが共存しても、前記のように第1級アルコールが優先的に錯体に接近できるため、第1級アルコールのみが選択的に酸化される。従って、複雑な構造をもつ天然有機化合物の合成過程で、分子中に第1級アルコール部位と第2級アルコール部位とを有する分子の第1級アルコール部位のみを選択的に酸化する必要がある場合に、本発明は非常に有用である。
【0019】
本発明の第1級アルコールの触媒的酸素酸化反応は、メディエーターを必要としないといった特徴がある。これまでの第1級アルコールの触媒的酸素酸化反応は、触媒と酸素の他にメディエーターを必要とし、例えば、ハイドロキノンとベンゾキノンの酸化還元サイクルの助けを借りていた。本発明は、メディエーターを必要としない点で、従来技術に比べて反応系が簡略化されており、経済的にも利点がある。
【0020】
本発明の第1級アルコールの酸化方法は溶媒中で実施する。溶媒は特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジエチルエーテル等が例示できる。溶媒の使用量は、基質の第1級アルコール1mmolに対し、1から40ml、好ましくは5から10mlの範囲である。
【0021】
本発明の酸化反応は、光照射下、室温で行うことができる。温度は特に限定されず、5℃から50℃の範囲で実施できるが、室温で好適に実施できるため、温度調節にかかるコストが省け経済的にも有利である。
【0022】
本発明では、空気又は酸素下において、基質の第1級アルコールと前記(ニトロシル)Ru(サレン)錯体とを溶媒中で光照射の下に撹拌することによって、該第1級アルコールを酸化する。反応操作は光照射と撹拌のみでもよいが、空気又は酸素をバブリングしてもよく、バブリングにより分子状酸素を基質の第1級アルコールと前記(ニトロシル)Ru(サレン)錯体とに効率よく接触させることができる。反応時間は、基質の第1級アルコールに応じて適宜選択され、酸化されやすい第1級アルコールの場合は短く、酸化され難い第1級アルコールの場合は長くするのが好ましい。第1級アルコールと第2級アルコールが共存する場合に、第1級アルコールを酸化するのに十分な時間を超えて、光照射を行うと、第2級アルコールも徐々に酸化されてしまい好ましくない。
【0023】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0024】
錯体合成例1
2,3−ジメチル−2,3−ジニトロブタン[東京化成工業株式会社](5.00g, 28.4mmol)と10%水酸化パラジウム炭素[Aldrich Chem. Co.](150mg)を酢酸(15mL)に溶解し、オートクレーブ中水素雰囲気下(70気圧)で4日間撹拌した。反応混合物をセライトを通してろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、−30℃にて放置して結晶化させた。得られた混合物にジエチルエーテルを加えて希釈し、吸引ろ過して得られた固体をジクロロメタンで洗浄、次いでデシケーター中で1時間真空乾燥(70℃, 1mmHg)した。以上の操作により、2,3−ジアミノ−2,3−ジメチルブタンのニ酢酸塩(1.38g, 27.3%)を得た。
【0025】
2,3−ジアミノ−2,3−ジメチルブタンニ酢酸塩(200mg, 0.846mmol)を、水酸化カリウム[キシダ化学株式会社]のエタノール溶液(1.78M, 10mL)に溶解した。得られた溶液に3,5−ジ−t−ブチルサリチルアルデヒド[Aldrich Chem. Co.](397mg, 1.69mmol)を加えて、室温で3時間撹拌した。反応混合物を吸引ろ過し、得られた固体を水性エタノール(=1/1)とエタノールで順次洗浄した後、デジケーター中で1時間真空乾燥(70℃, 1mmHg)した。以上の操作により、サレン配位子(422mg, 91%)を得た。
【0026】
ルテニウムニトロシルクロリド・一水和物[STERM CHEMICALS Co.](0.51g, 2.0mmol)を無水エタノール(25mL)に溶かした溶液と、トリフェニルホスフィン[ナカライテスク株式会社](0.90g, 3.4mmol)を無水エタノール(25mL)に溶かした溶液を窒素気流下で混合した。混合物を撹拌しながら徐々に加熱し、80℃になったところでさらに撹拌を10分間続けた。反応混合物を室温まで放冷し、吸引ろ過して得られた個体をエタノールとヘキサンで順次洗浄した後、デシケーター中で1時間真空乾燥(70℃, 1mmHg)した。以上の操作により、錯体[Ru(NO)Cl3(PPh3)2](1.3g, 68%)を得た。
【0027】
水素化ナトリウム[キシダ化学株式会社](19mg, 0.8mmol)のTHF懸濁液(10mL)にサレン配位子(200mg, 0.36mmol)を加え、混合物を窒素雰囲気下70℃で1時間撹拌した。THFを真空蒸留にて留去し、得られた残渣に窒素気流下でトルエン(30mL)と[Ru(NO)Cl3(PPh3)2](366mg, 0.48mmol)を順次加えた。混合物を120℃で16時間撹拌した後、真空蒸留にてトルエンを留去した。次いでジエチルエーテルを加え、セライトろ過によって不溶物を取り除いた。ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、得られた残渣をヘキサン/エーテル(=1/1〜0/1)を展開溶媒としてシリカゲルカラムで分離し、[化5](119mg, 収率47%)を得た。
【0028】
実施例1
1−デカノール(15.8mg, 0.1mmol)及び2−デカノール(15.8mg, 0.1mmol)を丸底フラスコ(パイレックス(登録商標))に量り取り、次に内部標準としてペンタメチルベンゼン(14.8mg, 0.1mmol)及び溶媒としてd6−ベンゼン(1mL)を加えた。フラスコから部分採取し1H−NMR(400MHz)分析を行い、成分のモル比を調整した。溶液に前記化学式[化5]で表される錯体(1.4mg, 2μmol)を加え、混合物に、赤外線フィルターを通し、室温で12時間、ハロゲンランプ(15V, 150W)で光照射した。反応終了後、反応混合物をガスクロマトグラフィー(GC)及び1H−NMRで分析し、未反応アルコール、アルデヒド及びケトンの比を計算した。反応混合物の1H−NMRデータを以下に示す。
1H−NMR(400MHz, C6D6):δ9.32(1H, CH3(CH2)8CHO), 6.83(1H, C6H(CH3)5), 3.53(1H, CH3(CH2)7CH(OH)CH3), 2.16(6H, C6H(CH3)5), 2.06(3H, C6H(CH3)5), 2.04(6H, C6H(CH3)5), 1.81(2H, CH3(CH2)8CHO), 1.35−1.00(31H, CH3(CH2)8CHO及びCH3(CH2)7CH(OH)CH3), 0.91(6H, CH3(CH2)8CHO及びCH3(CH2)7CH(OH)CH3).
なお、上記1H−NMRデータ中、CH3(CH2)8CHO(デカナール)は酸化成績体、CH3(CH2)7CH(OH)CH3(2−デカノール)は未反応物、C6H(CH3)5(ペンタメチルベンゼン)は内部標準物質である。
その結果、デカナール(15.6mg, 0.1mmol)を定量的に得たが、2−デカノンは検知されなかった。なお、反応のマスバランスは非常に優れており、カルボン酸は検知されなかった。反応式を[化10]に示す。
【化10】
【0029】
実施例2
ベンジルアルコール(10.8mg, 0.1mmol)及び1−フェニルエタノール(12.2mg, 0.1mmol)を丸底フラスコ(パイレックス(登録商標))に量り取り、次に内部標準としてペンタメチルベンゼン(14.8mg, 0.1mmol)及び溶媒としてd6−ベンゼン(1mL)を加えた。フラスコから部分採取し1H−NMR(400MHz)分析を行い、成分のモル比を調整した。溶液に前記化学式[化5]で表される錯体(1.4mg, 2μmol)を加え、混合物に、赤外線フィルターを通し、室温で5時間、ハロゲンランプ(15V, 150W)で光照射した。反応終了後、反応混合物をガスクロマトグラフィー(GC)及び1H−NMRで分析し、未反応アルコール、アルデヒド及びケトンの比を計算した。反応混合物の1H−NMRデータを以下に示す。
1H−NMR(400MHz, C6D6):δ9.63(1H, C6H5CHO), 7.52−7.49(2H, C6H5CHO), 7.22−6.93(8H, C6H5CHO及びC6H5CH(OH)CH3), 6.83(1H, C6H(CH3)5), 4.51(1H, C6H5CH(OH)CH3), 2.16(6H, C6H(CH3)5), 2.06(3H, C6H(CH3)5), 2.04(6H, C6H(CH3)5), 1.26(3H, C6H5CH(OH)CH3).
なお、上記1H−NMRデータ中、C6H5CHO(ベンズアルデヒド)は酸化成績体、C6H5CH(OH)CH3(1−フェニルエタノール)は未反応物、C6H(CH3)5(ペンタメチルベンゼン)は内部標準物質である。
その結果、ベンズアルデヒド(10.6mg, 0.1mmol)を定量的に得たが、メチルフェニルケトンは検知されなかった。なお、反応のマスバランスは非常に優れており、カルボン酸は検知されなかった。反応式を[化11]に示す。
【化11】
【0030】
実施例3
1−デカノール(15.8mg, 0.1mmol)及び1−フェニルエタノール(12.2mg, 0.1mmol)を丸底フラスコ(パイレックス(登録商標))に量り取り、次に内部標準としてペンタメチルベンゼン(14.8mg, 0.1mmol)及び溶媒としてd6−ベンゼン(1mL)を加えた。フラスコから部分採取し1H−NMR(400MHz)分析を行い、成分のモル比を調整した。溶液に前記化学式[化5]で表される錯体(1.4mg, 2μmol)を加え、混合物に、赤外線フィルターを通し、室温で24時間、ハロゲンランプ(15V, 150W)で光照射した。反応終了後、反応混合物をガスクロマトグラフィー(GC)及び1H−NMRで分析し、未反応アルコール、アルデヒド及びケトンの比を計算した。反応混合物の1H−NMRデータを以下に示す。
1H−NMR(400MHz, C6D6):δ9.32(1H, CH3(CH2)8CHO), 7.77−7.73(0.58H, C6H5COCH3), 7.22−7.00(4.42H, C6H5CH(OH)CH3及びC6H5COCH3), 6.83(1H, C6H(CH3)5), 4.51(0.71H, C6H5CH(OH)CH3), 2.16(6H, C6H(CH3)5), 2.08(0.87H, C6H5COCH3), 2.06(3H, C6H(CH3)5), 2.04(6H, C6H(CH3)5), 1.81(2H, CH3(CH2)8CHO), 1.35−1.01(16.13H, CH3(CH2)8CHO及びC6H5CH(OH)CH3), 0.91(3H, CH3(CH2)8CHO).
なお、上記1H−NMRデータ中、CH3(CH2)8CHO(デカナール)(100%)及びC6H5COCH3(アセトフェノン)(29%)は酸化成績体、C6H5CH(OH)CH3(1−フェニルエタノール)(71%)は未反応物、C6H(CH3)5(ペンタメチルベンゼン)(100%)は内部標準物質である。
その結果、デカナール(15.6mg, 0.1mmol)は定量的に得られたが、メチルフェニルケトンは収率29%(3.5mg)にとどまった。この反応では、1−デカノールの酸化反応速度は、1−フェニルエタノールの酸化反応速度の12倍以上であった。なお、反応のマスバランスは非常に優れており、カルボン酸は検知されなかった。反応式を[化12]に示す。
【化12】
【0031】
実施例4; p− ニトロベンジルアルコールの酸化
p−ニトロベンジルアルコール(15.3mg, 0.1mmol)と前記化学式[化5]で表される錯体(1.4mg, 2μmol)を丸底フラスコ(パイレックス(登録商標))に量り取り、トルエン(1mL)に溶解させた。この混合物を、赤外線フィルターを通し、室温で24時間、ハロゲンランプ(15V, 150W)で光照射した。反応終了後、反応混合物を直接シリカゲルカラム上に析出させ、ヘキサン/酢酸エチル(9/1)混合液で溶出させることにより、p−ニトロベンズアルデヒド(15.1mg)を定量的に得た。反応式を[化13]に示す。
【化13】
【0032】
実施例5; p− メトキシベンジルアルコールの酸化
p−メトキシベンジルアルコール(13.8mg, 0.1mmol)と前記化学式[化5]で表される錯体(1.4mg, 2μmol)を丸底フラスコ(パイレックス(登録商標))に量り取り、トルエン(1mL)に溶解させた。この混合物を、赤外線フィルターを通し、室温で24時間、ハロゲンランプ(15V, 150W)で光照射した。反応終了後、反応混合物を直接シリカゲルカラム上に析出させ、ヘキサン/酢酸エチル(9/1)混合液で溶出させることにより、p−メトキシベンズアルデヒド(13.6mg)を定量的に得た。反応式を[化14]に示す。
【化14】
【0033】
実施例6; p− メトキシカルボニルベンジルアルコールの酸化
p−メトキシカルボニルベンジルアルコール(16.4mg, 0.1mmol)と前記化学式[化5]で表される錯体(1.4mg, 2μmol)を丸底フラスコ(パイレックス(登録商標))に量り取り、トルエン(1mL)に溶解させた。この混合物を、赤外線フィルターを通し、室温で24時間、ハロゲンランプ(15V, 150W)で光照射した。反応終了後、反応混合物を直接シリカゲルカラム上に析出させ、ヘキサン/酢酸エチル(9/1)混合液で溶出させることにより、p−メトキシカルボニルベンズアルデヒド(16.2mg)を定量的に得た。反応式を[化15]に示す。
【化15】
【0034】
実施例7; p− シアノベンジルアルコールの酸化
p−シアノベンジルアルコール(13.3mg, 0.1mmol)と前記化学式[化5]で表される錯体(1.4mg, 2μmol)を丸底フラスコ(パイレックス(登録商標))に量り取り、トルエン(1mL)に溶解させた。この混合物を、赤外線フィルターを通し、室温で24時間、ハロゲンランプ(15V, 150W)で光照射した。反応終了後、反応混合物を直接シリカゲルカラム上に析出させ、ヘキサン/酢酸エチル(9/1)混合液で溶出させることにより、p−シアノベンズアルデヒド(2.0mg, 収率15%)を得た。p−シアノベンジルアルコールの活性が低かったのは、ルテニウムイオンにシアノ基が強く配位しすぎたためであると考えられる。反応式を[化16]に示す。
【化16】
【0035】
実施例8;ヘキサン −1,5− ジオールの酸化
ヘキサン−1,5−ジオール(12μL, 0.1mmol)のベンゼン溶液(1mL)に、前記化学式[化5]で表されるルテニウム錯体(1.5mg)を加えた。得られた溶液を、ハロゲンランプを光源として光照射しながら、空気中室温で24時間した。反応液をそのままシリカゲルカラムにかけ、2−ヒドロキシ−6−メチルテトラヒドロピラン(11.6mg, 100%)を得た。この結果から、ジオールの酸化でも第1級アルコールが選択的に酸化されることが分かる。反応式を[化17]に示す。
【化17】
【0036】
【発明の効果】
以上に説明した様に、本発明の方法を用いることにより、第1級アルコールを選択的に酸化することができる。また、本発明は第2級アルコールが共存しても第1級アルコールのみを選択的に酸化できるという格別の効果を有する。更に、本発明は安価で環境に対しても安全な分子状酸素を用いているため、経済的であるとともに環境にも調和した製造方法でもある。また更に、従来技術と異なりメディエーターを必要としない酸素酸化法であり、反応系が簡略化されてもいる。
【発明の属する技術分野】
本発明は第1級アルコールの酸化方法に関し、より詳しくは、第1級アルコールを安価で安全な分子状酸素で、アルデヒド化合物又はヘミアセタール化合物に酸化する方法に関する。第1級アルコールの酸化は天然有機化合物の合成において重要であり、該天然有機化合物は医農薬品に使用できる。
【0002】
【従来の技術】
第1級アルコールの酸化反応は、有機合成にとって非常に重要であり、多くの遷移金属化合物がこの目的のために使用されてきた。この中でもルテニウム化合物が集中的に検討され、多くの手法がルテニウム化合物を用いて開発された。しかしながら、多くの場合、化学量論量の酸化剤を必要とするものであった。
【0003】
一方、経済的、環境的な観点からは、酸化剤として空気等の分子状酸素を利用することが望まれている。近年、幾つかのアルコールの空気酸化が報告された(Wang G−Z., Andreasson U., 及びBackvall J−E., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1994, 1037−1038)、(Lenz R., 及びLey S. V., J. Chem. Soc., Perlin Trans I, 1997, 3291−3292)、(Marko I. E., Giles P. R., Tsukazaki M., Chelle−regnaut I., Urch C. J., 及びBrown S. M., J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 12661−12662)、(Yamaguchi K., Mori K., Mizugaki T., Ebitani K., 及びKaneda K., J. Am. Chem. Soc., 2000, 122, 7144−7145)。しかし、多くの場合、第1級アルコールのみでなく第2級アルコールも酸化してしまうという欠点があった(Matsumoto M., 及びIto S., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1981, 907−908)、(Matsumoto M., 及びWatanabe N., J. Org. Chem., 1984, 49, 3436−3437)、(Rajendran S., 及びTrivedi D. C., Synthesis, 1995, 153−154)。
【0004】
また、化学量論量のRu(PPh3)3Cl2、又はRu(PPh3)3Cl2とTMSOOTMSとのシステムを用い、第2級アルコールの存在下、第1級アルコールを選択的に酸化する方法が報告された(Tomioka H., Takai K., Nozaki H., 及びOshima K., Tetrahedron Lett., 1981, 22, 1605−1608)、(Kanemoto S., Matsubara S., Takai K., Oshima K., Tetrahedron Lett., 1983, 24, 2185−2188)。更に、ハイドロキノンの存在下Ru(PPh3)3Cl2を触媒とした空気酸化が報告された(Hanyu A., Tazezawa E., Sakaguchi S., 及びIshii Y., Tetrahedron Lett., 2000, 41, 5119−5123)。この反応では、インサイチューでハイドロキノンが酸化されてベンゾキノンになりルテニウム化学種の再酸化に寄与しているものと考えられるが、メディエーターを利用している点で改善の余地がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、メディエーターを必要とせずに、分子状酸素を酸化剤として用い、第2級アルコールの存在下でも第1級アルコールのみを選択的に酸化できる方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、光活性化型の特定の(ニトロシル)ルテニウム(サレン)錯体を触媒とし、分子状酸素を用いることにより、第1級アルコールを選択的に酸化できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち本発明の第1級アルコールの酸化方法は、
(1)下記化学式[化5]で表される(ニトロシル)Ru(サレン)錯体を触媒として使用し、光照射下で、下記一般式[化6]又は[化7]で表される第1級アルコールを分子状酸素で酸化することを特徴とする。
【化5】
【化6】
R1 − CH2 − OH
(式中、R1は炭素数1から30の置換若しくは非置換のアルキル基、又は炭素数6から25の置換若しくは非置換のアリール基を示す。)
【化7】
(式中、R2は水素原子、又は炭素数1から30の置換若しくは非置換のアルキル基を示し、nは2から3の整数を示す。)
【0008】
また、本発明に係る第1級アルコールの酸化方法の好ましい態様には以下のものがある。
(2)前記光照射が、可視光照射である。
(3)前記光照射を、ハロゲンランプで行う。
(4)前記第1級アルコールを空気で酸化する。
(5)前記一般式[化6]で表される第1級アルコールが、1−デカノール、ベンジルアルコール、p−ニトロベンジルアルコール、p−メトキシベンジルアルコール、p−メトキシカルボニルベンジルアルコール、又はp−シアノベンジルアルコールである。
(6)前記一般式[化7]で表される第1級アルコールが、ヘキサン−1,5−ジオールである。
なお、特に矛盾しない限り、上記(2)から(6)の任意の組み合わせもまた本発明の好ましい態様である。
【0009】
更に、本発明の別の目的は、前記第1級アルコールの酸化方法に用いることができる触媒を提供することにあり、即ち、
(7)下記化学式[化8]で表される(ニトロシル)Ru(サレン)錯体を特徴とする。
【化8】
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の第1級アルコールの酸化方法について詳細に説明する。
本発明で触媒として使用する(ニトロシル)Ru(サレン)錯体は、前記化学式[化5]、[化8]で表される光活性化型の触媒である。このサレン錯体は、ルテニウムイオンとエチレンジアミン部からなる5員環キレートが半イス型配座をとり、下記化学式[化9]に示すようにエチレンジアミン部の4つのメチル基のうちの2つが擬アキシアル位をとるため、アルコールの嵩高さを区別でき、その結果、立体的な嵩高さの低い第1級アルコールのみが選択的に酸化され、対応するアルデヒド化合物又はヘミアセタール化合物を非常に選択性良く生成するものと考えられる。
【化9】
【0011】
また、本発明の反応メカニズムは次の様であると考えられる。本発明の(ニトロシル)Ru(サレン)錯体は2価のRu錯体であるが、該錯体から光照射によりニトロシル(NO)が解離し、Ru(III)(サレン)錯体が生成する。生成したRu(III)(サレン)錯体が酸素の1電子移動により酸化され、Ru(IV)(サレン)錯体となり、該Ru(IV)(サレン)錯体にアルコールが配位する。ここでRu(IV)(サレン)錯体に近づくアルコールは、1,3−ダイアキシアル反発を受け、第1級アルコールの方が第2級アルコールよりも反発力が小さいため、第1級アルコールが優先的にRu(IV)(サレン)錯体に配位し、続いて酸化される。こうして本発明の重要な効果の一つである選択性が発現したものと考えられる。本発明での触媒の使用量は、基質の第1級アルコールのモル量に対し、0.1から50mol%、好ましくは2から5mol%の範囲である。
【0012】
本発明で使用する第1級アルコールは、前記一般式[化6]又は[化7]で表される。一般式[化6]で表される第1級アルコールにおいて、式中R1は炭素数1から30の置換若しくは非置換のアルキル基、又は炭素数6から25の置換若しくは非置換のアリール基を示す。炭素数1から30のアルキル基としては、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、エイコシル、トリコンチル、i−ブチル、i−オクチル等が例示でき、その中でもノニル基が好ましい。炭素数6から25のアリール基としては、フェニル、トリル、キシリル、α−ナフチル、β−ナフチル、4−(t−ブチル)フェニル等が例示でき、その中でもがフェニル基が好ましい。また、アルキル基及びアリール基は置換されていてもよく、置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、エステル基、メトキシ基、シアノ基等が挙げられる。上記一般式[化6]で表される第1級アルコールの中でも、1−デカノール、ベンジルアルコール、p−ニトロベンジルアルコール、p−メトキシベンジルアルコール、p−メトキシカルボニルベンジルアルコール、又はp−シアノベンジルアルコールが好ましい。
【0013】
一方、前記一般式[化7]で表される第1級アルコールにおいて、式中R2は水素原子、又は炭素数1から30の置換若しくは非置換のアルキル基を示し、nは2から3の整数を示す。炭素数1から30のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、イソ−プロピル、イソ−ブチル、t−ブチル、ドデシル等が例示でき、その中でもメチル基が好ましい。また、該アルキル基は置換されていてもよく、置換基としてはメトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、ハロゲン原子、エステル基、フェニル基等が挙げられる。一般式[化7]で表される第1級アルコールは、分子内にアルコール基を2つ有する2価アルコールであり、一般にはジオールと呼ばれる。
【0014】
本発明の第1級アルコールの酸化方法は、最終生成物としてアルデヒド化合物又はヘミアセタール化合物を生成する。前記一般式[化6]で表される第1級アルコールを酸化した場合はアルデヒド化合物が生成するが、アルデヒド化合物は続いてカルボン酸に酸化されやすいものであるが、本発明の製造方法では、アルデヒドの段階までの酸化にとどめることができる。アルデヒド化合物としては、前記第1級アルコールに対応するアルデヒド化合物が挙げられ、例えば、1−デカノール、ベンジルアルコール、p−ニトロベンジルアルコール、p−メトキシベンジルアルコール、p−メトキシカルボニルベンジルアルコール、p−シアノベンジルアルコールに対し、デカナール、ベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、p−メトキシベンズアルデヒド、p−メトキシカルボニルベンズアルデヒド、又はp−シアノベンズアルデヒドが生成する。
【0015】
一方、前記一般式[化7]で表される第1級アルコールを酸化した場合はヘミアセタール化合物が生成する。前記一般式[化7]で表される第1級アルコール、即ちジオールの場合、本発明の酸化方法によりヒドロキシアルデヒド化合物が中間体として生成するが、該ヒドロキシアルデヒド化合物は環状ヘミアセタール化合物と平衡関係にあり、環状ヘミアセタール化合物の方がより安定なため、ヘミアセタール化合物が最終的に得られる。一般に、ヒドロキシアルデヒドのうちγ−位、δ−位に水酸基を有するものは環状ヘミアセタールを生成し、安定に単離できる。従って、前記一般式[化7]で表される第1級アルコールとして、ブタン−1,4−ジオール、ペンタン−1,5−ジオール、ヘキサン−1,5−ジオール等を用いた場合、本発明の酸化方法により、2−ヒドロキシ−テトラヒドロフラン、2−ヒドロキシ−テトラヒドロピラン、2−ヒドロキシ−6−メチルテトラヒドロピラン等が最終的に生成する。
【0016】
本発明では分子状酸素(O2)を酸化剤として用いる。分子状酸素は最も経済的な酸化剤であり、本発明はこの安価な酸化剤を用いる点で、他のアルコール酸化プロセスに比べて経済的であるとともに、環境に悪影響を及ぼすような物質を副生しない点で環境への負荷が小さい環境調和型反応である。本発明で用いる分子状酸素は、空気中に約21%含まれており、空気から分離した純酸素でもよいが、空気をそのまま用いるのが好ましい。空気を用いることができる点で、本発明は一層経済的な第1級アルコールの酸化方法といえる。本発明では、この分子状酸素が、前記(ニトロシル)Ru(サレン)錯体を触媒として、第1級アルコールを選択的に酸化する。
【0017】
本発明では、光照射下で第1級アルコールを酸化する。本発明の触媒である(ニトロシル)Ru(サレン)錯体は、光照射によりニトロシル(NO)が該錯体から解離して活性化する。光照射としては可視光照射が適当であり、460nm付近の光が望ましい。具体的には、ハロゲンランプ、白熱灯等の利用によって十分に反応を進行させることができ、その中でもハロゲンランプが好ましい。また、これらを光源として赤外線フィルターを通して実施することもできる。本発明は、完全な暗室では進行しないが、自然光照射でも反応は進行し、従って、通常の実験室の操作でも、反応はある程度進行する。
【0018】
本発明の方法によれば、前記一般式[化6]で表される第1級アルコールを酸化してアルデヒド化合物を製造できる。通常、第1級アルコールの酸化は、アルデヒド化合物を経由してカルボン酸まで酸化される傾向があり、アルデヒドで止めるために多大な研究が行われてきたが、本発明はカルボン酸を副生しない点でも有用なプロセスといえる。また、通常は第1級アルコールと第2級アルコールが共存する場合、一方のみを選択的に酸化するには困難が伴うが、本発明では第1級アルコールと第2級アルコールが共存しても、前記のように第1級アルコールが優先的に錯体に接近できるため、第1級アルコールのみが選択的に酸化される。従って、複雑な構造をもつ天然有機化合物の合成過程で、分子中に第1級アルコール部位と第2級アルコール部位とを有する分子の第1級アルコール部位のみを選択的に酸化する必要がある場合に、本発明は非常に有用である。
【0019】
本発明の第1級アルコールの触媒的酸素酸化反応は、メディエーターを必要としないといった特徴がある。これまでの第1級アルコールの触媒的酸素酸化反応は、触媒と酸素の他にメディエーターを必要とし、例えば、ハイドロキノンとベンゾキノンの酸化還元サイクルの助けを借りていた。本発明は、メディエーターを必要としない点で、従来技術に比べて反応系が簡略化されており、経済的にも利点がある。
【0020】
本発明の第1級アルコールの酸化方法は溶媒中で実施する。溶媒は特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジエチルエーテル等が例示できる。溶媒の使用量は、基質の第1級アルコール1mmolに対し、1から40ml、好ましくは5から10mlの範囲である。
【0021】
本発明の酸化反応は、光照射下、室温で行うことができる。温度は特に限定されず、5℃から50℃の範囲で実施できるが、室温で好適に実施できるため、温度調節にかかるコストが省け経済的にも有利である。
【0022】
本発明では、空気又は酸素下において、基質の第1級アルコールと前記(ニトロシル)Ru(サレン)錯体とを溶媒中で光照射の下に撹拌することによって、該第1級アルコールを酸化する。反応操作は光照射と撹拌のみでもよいが、空気又は酸素をバブリングしてもよく、バブリングにより分子状酸素を基質の第1級アルコールと前記(ニトロシル)Ru(サレン)錯体とに効率よく接触させることができる。反応時間は、基質の第1級アルコールに応じて適宜選択され、酸化されやすい第1級アルコールの場合は短く、酸化され難い第1級アルコールの場合は長くするのが好ましい。第1級アルコールと第2級アルコールが共存する場合に、第1級アルコールを酸化するのに十分な時間を超えて、光照射を行うと、第2級アルコールも徐々に酸化されてしまい好ましくない。
【0023】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0024】
錯体合成例1
2,3−ジメチル−2,3−ジニトロブタン[東京化成工業株式会社](5.00g, 28.4mmol)と10%水酸化パラジウム炭素[Aldrich Chem. Co.](150mg)を酢酸(15mL)に溶解し、オートクレーブ中水素雰囲気下(70気圧)で4日間撹拌した。反応混合物をセライトを通してろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、−30℃にて放置して結晶化させた。得られた混合物にジエチルエーテルを加えて希釈し、吸引ろ過して得られた固体をジクロロメタンで洗浄、次いでデシケーター中で1時間真空乾燥(70℃, 1mmHg)した。以上の操作により、2,3−ジアミノ−2,3−ジメチルブタンのニ酢酸塩(1.38g, 27.3%)を得た。
【0025】
2,3−ジアミノ−2,3−ジメチルブタンニ酢酸塩(200mg, 0.846mmol)を、水酸化カリウム[キシダ化学株式会社]のエタノール溶液(1.78M, 10mL)に溶解した。得られた溶液に3,5−ジ−t−ブチルサリチルアルデヒド[Aldrich Chem. Co.](397mg, 1.69mmol)を加えて、室温で3時間撹拌した。反応混合物を吸引ろ過し、得られた固体を水性エタノール(=1/1)とエタノールで順次洗浄した後、デジケーター中で1時間真空乾燥(70℃, 1mmHg)した。以上の操作により、サレン配位子(422mg, 91%)を得た。
【0026】
ルテニウムニトロシルクロリド・一水和物[STERM CHEMICALS Co.](0.51g, 2.0mmol)を無水エタノール(25mL)に溶かした溶液と、トリフェニルホスフィン[ナカライテスク株式会社](0.90g, 3.4mmol)を無水エタノール(25mL)に溶かした溶液を窒素気流下で混合した。混合物を撹拌しながら徐々に加熱し、80℃になったところでさらに撹拌を10分間続けた。反応混合物を室温まで放冷し、吸引ろ過して得られた個体をエタノールとヘキサンで順次洗浄した後、デシケーター中で1時間真空乾燥(70℃, 1mmHg)した。以上の操作により、錯体[Ru(NO)Cl3(PPh3)2](1.3g, 68%)を得た。
【0027】
水素化ナトリウム[キシダ化学株式会社](19mg, 0.8mmol)のTHF懸濁液(10mL)にサレン配位子(200mg, 0.36mmol)を加え、混合物を窒素雰囲気下70℃で1時間撹拌した。THFを真空蒸留にて留去し、得られた残渣に窒素気流下でトルエン(30mL)と[Ru(NO)Cl3(PPh3)2](366mg, 0.48mmol)を順次加えた。混合物を120℃で16時間撹拌した後、真空蒸留にてトルエンを留去した。次いでジエチルエーテルを加え、セライトろ過によって不溶物を取り除いた。ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、得られた残渣をヘキサン/エーテル(=1/1〜0/1)を展開溶媒としてシリカゲルカラムで分離し、[化5](119mg, 収率47%)を得た。
【0028】
実施例1
1−デカノール(15.8mg, 0.1mmol)及び2−デカノール(15.8mg, 0.1mmol)を丸底フラスコ(パイレックス(登録商標))に量り取り、次に内部標準としてペンタメチルベンゼン(14.8mg, 0.1mmol)及び溶媒としてd6−ベンゼン(1mL)を加えた。フラスコから部分採取し1H−NMR(400MHz)分析を行い、成分のモル比を調整した。溶液に前記化学式[化5]で表される錯体(1.4mg, 2μmol)を加え、混合物に、赤外線フィルターを通し、室温で12時間、ハロゲンランプ(15V, 150W)で光照射した。反応終了後、反応混合物をガスクロマトグラフィー(GC)及び1H−NMRで分析し、未反応アルコール、アルデヒド及びケトンの比を計算した。反応混合物の1H−NMRデータを以下に示す。
1H−NMR(400MHz, C6D6):δ9.32(1H, CH3(CH2)8CHO), 6.83(1H, C6H(CH3)5), 3.53(1H, CH3(CH2)7CH(OH)CH3), 2.16(6H, C6H(CH3)5), 2.06(3H, C6H(CH3)5), 2.04(6H, C6H(CH3)5), 1.81(2H, CH3(CH2)8CHO), 1.35−1.00(31H, CH3(CH2)8CHO及びCH3(CH2)7CH(OH)CH3), 0.91(6H, CH3(CH2)8CHO及びCH3(CH2)7CH(OH)CH3).
なお、上記1H−NMRデータ中、CH3(CH2)8CHO(デカナール)は酸化成績体、CH3(CH2)7CH(OH)CH3(2−デカノール)は未反応物、C6H(CH3)5(ペンタメチルベンゼン)は内部標準物質である。
その結果、デカナール(15.6mg, 0.1mmol)を定量的に得たが、2−デカノンは検知されなかった。なお、反応のマスバランスは非常に優れており、カルボン酸は検知されなかった。反応式を[化10]に示す。
【化10】
【0029】
実施例2
ベンジルアルコール(10.8mg, 0.1mmol)及び1−フェニルエタノール(12.2mg, 0.1mmol)を丸底フラスコ(パイレックス(登録商標))に量り取り、次に内部標準としてペンタメチルベンゼン(14.8mg, 0.1mmol)及び溶媒としてd6−ベンゼン(1mL)を加えた。フラスコから部分採取し1H−NMR(400MHz)分析を行い、成分のモル比を調整した。溶液に前記化学式[化5]で表される錯体(1.4mg, 2μmol)を加え、混合物に、赤外線フィルターを通し、室温で5時間、ハロゲンランプ(15V, 150W)で光照射した。反応終了後、反応混合物をガスクロマトグラフィー(GC)及び1H−NMRで分析し、未反応アルコール、アルデヒド及びケトンの比を計算した。反応混合物の1H−NMRデータを以下に示す。
1H−NMR(400MHz, C6D6):δ9.63(1H, C6H5CHO), 7.52−7.49(2H, C6H5CHO), 7.22−6.93(8H, C6H5CHO及びC6H5CH(OH)CH3), 6.83(1H, C6H(CH3)5), 4.51(1H, C6H5CH(OH)CH3), 2.16(6H, C6H(CH3)5), 2.06(3H, C6H(CH3)5), 2.04(6H, C6H(CH3)5), 1.26(3H, C6H5CH(OH)CH3).
なお、上記1H−NMRデータ中、C6H5CHO(ベンズアルデヒド)は酸化成績体、C6H5CH(OH)CH3(1−フェニルエタノール)は未反応物、C6H(CH3)5(ペンタメチルベンゼン)は内部標準物質である。
その結果、ベンズアルデヒド(10.6mg, 0.1mmol)を定量的に得たが、メチルフェニルケトンは検知されなかった。なお、反応のマスバランスは非常に優れており、カルボン酸は検知されなかった。反応式を[化11]に示す。
【化11】
【0030】
実施例3
1−デカノール(15.8mg, 0.1mmol)及び1−フェニルエタノール(12.2mg, 0.1mmol)を丸底フラスコ(パイレックス(登録商標))に量り取り、次に内部標準としてペンタメチルベンゼン(14.8mg, 0.1mmol)及び溶媒としてd6−ベンゼン(1mL)を加えた。フラスコから部分採取し1H−NMR(400MHz)分析を行い、成分のモル比を調整した。溶液に前記化学式[化5]で表される錯体(1.4mg, 2μmol)を加え、混合物に、赤外線フィルターを通し、室温で24時間、ハロゲンランプ(15V, 150W)で光照射した。反応終了後、反応混合物をガスクロマトグラフィー(GC)及び1H−NMRで分析し、未反応アルコール、アルデヒド及びケトンの比を計算した。反応混合物の1H−NMRデータを以下に示す。
1H−NMR(400MHz, C6D6):δ9.32(1H, CH3(CH2)8CHO), 7.77−7.73(0.58H, C6H5COCH3), 7.22−7.00(4.42H, C6H5CH(OH)CH3及びC6H5COCH3), 6.83(1H, C6H(CH3)5), 4.51(0.71H, C6H5CH(OH)CH3), 2.16(6H, C6H(CH3)5), 2.08(0.87H, C6H5COCH3), 2.06(3H, C6H(CH3)5), 2.04(6H, C6H(CH3)5), 1.81(2H, CH3(CH2)8CHO), 1.35−1.01(16.13H, CH3(CH2)8CHO及びC6H5CH(OH)CH3), 0.91(3H, CH3(CH2)8CHO).
なお、上記1H−NMRデータ中、CH3(CH2)8CHO(デカナール)(100%)及びC6H5COCH3(アセトフェノン)(29%)は酸化成績体、C6H5CH(OH)CH3(1−フェニルエタノール)(71%)は未反応物、C6H(CH3)5(ペンタメチルベンゼン)(100%)は内部標準物質である。
その結果、デカナール(15.6mg, 0.1mmol)は定量的に得られたが、メチルフェニルケトンは収率29%(3.5mg)にとどまった。この反応では、1−デカノールの酸化反応速度は、1−フェニルエタノールの酸化反応速度の12倍以上であった。なお、反応のマスバランスは非常に優れており、カルボン酸は検知されなかった。反応式を[化12]に示す。
【化12】
【0031】
実施例4; p− ニトロベンジルアルコールの酸化
p−ニトロベンジルアルコール(15.3mg, 0.1mmol)と前記化学式[化5]で表される錯体(1.4mg, 2μmol)を丸底フラスコ(パイレックス(登録商標))に量り取り、トルエン(1mL)に溶解させた。この混合物を、赤外線フィルターを通し、室温で24時間、ハロゲンランプ(15V, 150W)で光照射した。反応終了後、反応混合物を直接シリカゲルカラム上に析出させ、ヘキサン/酢酸エチル(9/1)混合液で溶出させることにより、p−ニトロベンズアルデヒド(15.1mg)を定量的に得た。反応式を[化13]に示す。
【化13】
【0032】
実施例5; p− メトキシベンジルアルコールの酸化
p−メトキシベンジルアルコール(13.8mg, 0.1mmol)と前記化学式[化5]で表される錯体(1.4mg, 2μmol)を丸底フラスコ(パイレックス(登録商標))に量り取り、トルエン(1mL)に溶解させた。この混合物を、赤外線フィルターを通し、室温で24時間、ハロゲンランプ(15V, 150W)で光照射した。反応終了後、反応混合物を直接シリカゲルカラム上に析出させ、ヘキサン/酢酸エチル(9/1)混合液で溶出させることにより、p−メトキシベンズアルデヒド(13.6mg)を定量的に得た。反応式を[化14]に示す。
【化14】
【0033】
実施例6; p− メトキシカルボニルベンジルアルコールの酸化
p−メトキシカルボニルベンジルアルコール(16.4mg, 0.1mmol)と前記化学式[化5]で表される錯体(1.4mg, 2μmol)を丸底フラスコ(パイレックス(登録商標))に量り取り、トルエン(1mL)に溶解させた。この混合物を、赤外線フィルターを通し、室温で24時間、ハロゲンランプ(15V, 150W)で光照射した。反応終了後、反応混合物を直接シリカゲルカラム上に析出させ、ヘキサン/酢酸エチル(9/1)混合液で溶出させることにより、p−メトキシカルボニルベンズアルデヒド(16.2mg)を定量的に得た。反応式を[化15]に示す。
【化15】
【0034】
実施例7; p− シアノベンジルアルコールの酸化
p−シアノベンジルアルコール(13.3mg, 0.1mmol)と前記化学式[化5]で表される錯体(1.4mg, 2μmol)を丸底フラスコ(パイレックス(登録商標))に量り取り、トルエン(1mL)に溶解させた。この混合物を、赤外線フィルターを通し、室温で24時間、ハロゲンランプ(15V, 150W)で光照射した。反応終了後、反応混合物を直接シリカゲルカラム上に析出させ、ヘキサン/酢酸エチル(9/1)混合液で溶出させることにより、p−シアノベンズアルデヒド(2.0mg, 収率15%)を得た。p−シアノベンジルアルコールの活性が低かったのは、ルテニウムイオンにシアノ基が強く配位しすぎたためであると考えられる。反応式を[化16]に示す。
【化16】
【0035】
実施例8;ヘキサン −1,5− ジオールの酸化
ヘキサン−1,5−ジオール(12μL, 0.1mmol)のベンゼン溶液(1mL)に、前記化学式[化5]で表されるルテニウム錯体(1.5mg)を加えた。得られた溶液を、ハロゲンランプを光源として光照射しながら、空気中室温で24時間した。反応液をそのままシリカゲルカラムにかけ、2−ヒドロキシ−6−メチルテトラヒドロピラン(11.6mg, 100%)を得た。この結果から、ジオールの酸化でも第1級アルコールが選択的に酸化されることが分かる。反応式を[化17]に示す。
【化17】
【0036】
【発明の効果】
以上に説明した様に、本発明の方法を用いることにより、第1級アルコールを選択的に酸化することができる。また、本発明は第2級アルコールが共存しても第1級アルコールのみを選択的に酸化できるという格別の効果を有する。更に、本発明は安価で環境に対しても安全な分子状酸素を用いているため、経済的であるとともに環境にも調和した製造方法でもある。また更に、従来技術と異なりメディエーターを必要としない酸素酸化法であり、反応系が簡略化されてもいる。
Claims (7)
- 前記光照射が、可視光照射であることを特徴とする、請求項1記載の第1級アルコールの酸化方法。
- 前記光照射を、ハロゲンランプで行うことを特徴とする、請求項1又は2記載の第1級アルコールの酸化方法。
- 前記第1級アルコールを空気で酸化することを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載の第1級アルコールの酸化方法。
- 前記一般式[化2]で表される第1級アルコールが、1−デカノール、ベンジルアルコール、p−ニトロベンジルアルコール、p−メトキシベンジルアルコール、p−メトキシカルボニルベンジルアルコール、又はp−シアノベンジルアルコールであることを特徴とする、請求項1乃至4の何れかに記載の第1級アルコールの酸化方法。
- 前記一般式[化3]で表される第1級アルコールが、ヘキサン−1,5−ジオールであることを特徴とする、請求項1乃至4の何れかに記載の第1級アルコールの酸化方法。
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