JP3574795B2 - γ線耐性を有するポリカーボネート樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はγ線耐性を有するポリカーボネート樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、γ線照射による物性低下や黄変を防止し得るポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
特開昭63―213553号公報には、芳香族ポリカーボネート樹脂および殺菌のための照射に曝露されたときの黄変の防止に有効な量の少くとも1種の有効なエポキシ化合物を含む組成物が開示されている。このエポキシ化合物はオキシラン環に少くとも1個の4級炭素原子を有する点で構造的特徴を有する。
【0003】
米国特許第4,804,692号明細書には、ポリカーボネート樹脂および両末端にシリル基を有するポリオキシアルキレングリコールとからなるγ線耐性を有するポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
【0004】
特開平2―38450号公報には、芳香族ポリカーボネート樹脂および両末端特定の置換フェニル基または窒素原子含有基を有するポリオキシアルキレングリコールとからなるγ線照射に耐えるポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
【0005】
米国特許第5,274,009号明細書には、ポリカーボネート樹脂、(1)特定の末端基を有するポリオキシアルキレングリコールおよび(2)芳香族スルホン酸エステル化合物とからなるγ線照射に対して安定なポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
【0006】
しかし、これらの化合物を添加して得られたポリカーボネート樹脂組成物は、黄変防止効果が十分でないとか、効果を発現させるために十分な量を添加するとポリカーボネート樹脂自体の物性が低下する等の欠点を有する。
【0007】
特開平5―132552号公報には、ハイドロカルビル基またはハイドロカルビルオキシ基を有するp―ヒドロキシベンジルアルコールでエンドキャップされた芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する熱可塑性成形用組成物から成形された、電離線により滅菌処理された物品が開示されている。しかしながらこのエンドキャップポリカーボネート樹脂はその製造が煩雑であり、また黄変防止効果を高めるため多くのエンドキャップ剤を用いるとポリカーボネート樹脂自体の物性が低下するという問題点がある。
【0008】
特開平2―55062号公報および特開平2―68068号公報には、ハロゲン化ビスフェノールから誘導される構成単位を分子鎖中に含む芳香族ポリカーボネートのポリマーまたはオリゴマーを含有する放射線照射滅菌用ポリカーボネート医療用成形品が開示されている。しかしながら、これらハロゲン化物を用いる方法は、空気中、脱酸素中いずれの雰囲気下でγ線照射した場合でも黄変防止効果に優れるものの、ハロゲンを含有するため、廃棄時に環境問題が生じるといった問題点を有する。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、空気中あるいは脱酸素雰囲気中のいずれにおいてγ線照射を行っても黄変が極めて少なく、しかも物性低下や廃棄時の問題の少ない、医療材料として有用なポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、(A)末端にγ線照射により開裂し得る炭素―炭素不飽和結合を実質的に持たないポリカーボネート100重量部、および(B)下記式(1)
【0011】
【化7】
で表わされる化合物0.5〜2.0重量部とからなるγ線耐性を有するポリカーボネート樹脂組成物によって達成される。
【0012】
また、(A)末端にγ線照射により開裂し得る炭素―炭素不飽和結合を実質的に持たないポリカーボネート100重量部、および(B)下記式(1−a)
【0013】
【化8】
で表わされる化合物0.5〜1.5重量部とからなるγ線耐性を有するポリカーボネート樹脂組成物によって達成される。
【0014】
また(A)末端にγ線照射により開裂し得る炭素―炭素不飽和結合を実質的に持たないポリカーボネート100重量部、および(B)下記式(1−b)
【0015】
【化9】
で表わされる化合物1.0〜2.0重量部とからなるγ線耐性を有するポリカーボネート樹脂組成物によっても達成される。
【0016】
本発明において対象とするポリカーボネートは、末端にγ線照射により開裂し得る炭素―炭素不飽和結合を実質的に持たない。末端にγ線照射により開裂し得る炭素―炭素不飽和結合を有するポリカーボネートを使用した場合には、γ線照射により滅菌する際に該炭素―炭素不飽和結合が開裂して架橋構造を生成するなどの不都合が生まれる。
【0017】
本発明で用いられるポリカーボネートは、例えば、下記式(2)
【0018】
【化10】
【0019】
[ここで、R4 およびR5 は互いに独立に、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数5〜6のシクロアルキル基であるか、あるいはR4 とR5は互いに結合してそれらが結合している炭素原子と一緒になって5または6員環を形成していてもよい。R6 とR7 は互いに独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜5のア
ルキル基またはフェニル基であり、そしてmおよびnは互いに独立に0、1または2である。]で表わされる繰返し単位より実質的になる。
【0020】
また、ポリカーボネートは、例えば下記式(3)
【0021】
【化11】
【0022】
[ここで、R8はフェニル基、炭素数1〜12のアルキル置換フェニル基である。]または下記式(4)
【0023】
【化12】
【0024】
[ここで、R4 、R5 、R6 、R7 、mおよびnの定義は上記式(2)に同じである。]で表わされる末端基を有する。
【0025】
上記式(2)において、R4 およびR5 は互いに独立に、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数5〜6のシクロアルキル基である。
【0026】
炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、例えばメチル、エチル、n―プロピル、iso―プロピル、n―ブチル、iso―ブチル、sec―ブチル、tert―ブチル、n―ペンチルである。
【0027】
炭素数5〜6のシクロアルキル基としては、例えばシクロペンチル、シクロヘキシルを挙げることができる。
【0028】
また、R4 とR5 は互いに結合してそれが結合している炭素原子と一緒になって5または6員環を形成していてもよい。かかる5または6員環の基としては、例えばシクロペンチリデン、シクロヘキシリデンを挙げることができる。
【0029】
上記式(2)において、R6 とR7 は互いに独立に炭素数1〜5のアルキル基、フェニル基またはハロゲン原子である。
【0030】
炭素数1〜5のアルキル基としては、R4 とR5 について例示した上記例と同じものを例示することができる。
【0031】
mおよびnは互いに独立に0、1または2である。
【0032】
上記式(2)において、mおよびnはともに0にあることが好ましく、1または2の場合は、上記R6 とR7 はハロゲン原子でないことが、廃棄時の環境問題の面から好ましい。
【0033】
本発明で用いるポリカーボネートは、上記式(2)におけるR4 とR5 がともにメチルであり、mとnがともに0であるビスフェノールA型ポリカーボネートが特に好ましい。
【0034】
さらに、上記式(3)において、R8はフェニル基または炭素数1〜12のアルキルで置換されたフェニル基であるか、または上記式(4)で表わされる基である。
【0035】
炭素数1〜12のアルキルで置換されたフェニル基としては、例えばトリル、エチルフェニル、n―プロピルフェニル、iso―プロピルフェニル、n―ブチルフェニル、tert―ブチルフェニル、n―オクチルフェニル、n―デシルフェニルあるいはn―ラウリルフェニルを挙げることができる。
【0036】
上記式(4)におけるR4 、R5 、R6 、R7 、mおよびnの定義は上記式(2)に同じであり、従ってそれらの例としても上記式(2)について例示したものと同じものを挙げることができる。
【0037】
上記ポリカーボネートは、上記式(2)で表わされる繰返し単位の単独あるいは2種以上の組合せから実質的になる。上記式(2)で表わされる繰返し単位以外の繰返し単位は、例えば全繰返し単位の多くとも10モル%含有することができる。
【0038】
また、本発明で用いられるポリカーボネートは単独であっても2種以上のブレンドであってもよい。
【0039】
ポリカーボネートの粘度平均分子量は好ましくは15,000〜35,000であり、より好ましくは20,000〜30,000である。
【0040】
本発明で用いられるポリカーボネートは、従来公知の方法である界面重縮合法およびエステル交換法のいずれの方法によっても製造することができる。
【0041】
界面重縮合法によれば、上記(2)の繰返し単位は、下記式(2)―1
【0042】
【化13】
【0043】
[ここで、R4 、R5 、R6 、R7 、mおよびnの定義は上記式(2)に同じである。]で表わされるビスフェノールをホスゲンと酸捕捉剤の存在下で反応させることに
より形成される。
【0044】
またエステル交換法によれば、上記式(2)―1で表わされるビスフェノールをジアリールカーボネート、例えばジフェニルカーボネートとエステル交換触媒の存在下で加熱溶融反応せしめることにより形成される。
【0045】
上記式(2)―1で表わされるビスフェノールとしては、例えばビス(p―ヒドロキシフェニル)メタン、2,2―ビス(p―ヒドロキシフェニル)プロパン、9,9―ビス(p―ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2―ビス(4―ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1―ビス(4―ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2―ビス(3―メチル―4―ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5―ジメチル―4―ヒドロキシフェニル)メタン、2,2―ビス(3,5―ジメチル―4―ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1―ビス(3,5―ジメチル―4―ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンを挙げることができる。
【0046】
この中で、最も好適なビスフェノールは2,2―ビス(4―ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノール―A)である。
【0047】
上記式(3)で表わされる末端基は、ポリカーボネートをエステル交換法で製造する場合には、R8がフェニル基または上記式(4)で表わされる末端基として生成し易く、またポリカーボネートを界面重縮合法で製造する場合には、R8がフェニル基またはm―およびp―メチルフェニル基、m―およびp―isoあるいはn―プロピルフェニル基、m―およびp―tertあるいはn―ブチルフェニル基等の炭素数1〜12のアルキル置換フェニル基として生成し易い。かかる炭素数1〜12のアルキル置換フェニル基は、重縮合系中に、それらに対応する炭素数1〜12のアルキル置換フェノールを存在させることにより生成させることができる。
【0048】
本発明において用いられる安定剤は、下記式(1)
【0049】
【化14】
で表わされる。
【0050】
本発明において用いられる安定剤は、下記式(1−a)
【0051】
【化15】
で表わされる。
【0052】
また本発明において用いられる安定剤は、下記式(1−b)
【0053】
【化16】
で表わされる。
【0054】
上記式(1−a)および(1−b)で表わされる化合物は単独であるいは2種以上組合せて使用する
ことができる。
【0055】
上記式(1)で表わされる化合物は、ポリカーボネート100重量部当り0.5〜2.0重量部の割合で用いられることが好ましい。また上記式(1−a)で表わされる化合物は、ポリカーボネート100重量部当り0.5〜1.5重量部の割合で用いられることが好ましい。また上記式(1−b)で表わされる化合物は、ポリカーボネート100重量部当り1.0〜2.0重量部の割合で用いられることが好ましい。上記範囲より少ないと、γ線照射時の黄変の抑制効果が小さい組成物しか得られず、他方上記範囲より多いと物性低下の大きい組成物となり不都合である。
【0056】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造するには、溶融したポリカーボネートに、上記式(1−a)または(1−b)で表わされる化合物を混合することが好ましい。この場合の方法としては、従来公知の混合方法が使用可能である。例えば2軸押し出し機等の溶融混練機を使用して、ポリカーボネートと上記式(1−a)または(1−b)で表わされる化合物を同時に練り込む方法が好ましい。この際の混合の温度は、通常250〜320℃程度とすることが好ましい。250℃より低いとポリマーが充分溶融しないため混合が充分でないことがあり、320℃より高いと該化合物やポリマーの熱劣化が起こりやすくなるためである。さらに好ましくは混合の温度は260〜300℃である。
【0057】
また、上記式(1−a)または(1−b)で表わされる化合物を高濃度に含むポリカーボネート樹脂組成物を調製し、これと該化合物を含まないポリカーボネートとを、上記式(1−a)または(1−b)で表わされる化合物をポリカーボネート100重量部当り0.5〜2.0重量部となるように混合調製して、目的とするポリカーボネート樹脂組成物を得ることもできる。
【0058】
この場合従来公知の混合方法が使用可能である。例えば2軸押し出し機を使用してポリカーボネートと、上記式(1−a)または(1−b)で表わされる化合物を高濃度で含むポリカーボネート樹脂組成物とを同時に混合する方法がより好ましい。混合の温度は、通常250〜320℃である。250℃より低いとポリマーが十分溶融しないため混合が十分でないことがあり、320℃より高いと添加剤やポリマーの熱劣化が起こりやすくなるためである。混合の温度は260〜300℃がさらに好ましい。
【0059】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、γ線照射に対して高い安定化作用を有しており、上記式(1−a)または(1−b)の化合物以外にも従来公知の耐γ線性改良用の添加剤を含有することもできる。これらの添加剤には特に制限はなく、上記式(1−a)または(1−b)で示される化合物と併用することにより、得られる組成物の物性低下を引き起こすことなく、γ線に対する耐性が向上するものであればよい。
【0060】
上記添加剤としては、例えばシクロヘキサンジメタノールテレフタレート等の各種ポリエステル、ポリアルキレングリコール類、エポキシ化合物、チオエーテル等のイオウ化合物等が好ましく用いられる。廃棄時の環境問題の観点からハロゲン含有化合物を含まないことが望ましい。
【0061】
上記添加剤は、上記式(1−a)または(1−b)で表わされる化合物と合わせた全体の化合物の量として、ポリカーボネート100重量部当り大略2.0重量部を超えないことが望ましい。
【0062】
また必要に応じ、他の添加剤を本発明のポリカーボネート樹脂組成物に添加することもできる。これらの添加剤は離型剤、可塑剤、熱的安定剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、充填剤、補強剤等が含まれる。
【0063】
【発明の効果】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、透明性、衛生性、寸法安定性、衝撃強さ、耐熱性といったポリカーボネートの持つ優れた特性を失うことなく、空気中、脱酸素中における照射のいかんを問わずγ線照射後の黄変の少ないポリカーボネート樹脂組成物である。したがって、かかる組成物はγ線照射による滅菌に対して安定であり、医療材料用途に特に好適である。また、本発明の組成物は、廃棄時の環境へ与える影響も改善されたものである。
【0064】
【実施例】
以下実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例中、「部」は「重量部」を意味する。
【0065】
未照射時の黄色度(YI)およびγ線照射後の黄変度(ΔYI)は、日本工業規格K7103に従って、日本電色工業(株)製 Z―300Aにより、サンプル厚2mmで、透過法により測定した。
【0066】
サンプルのγ線の照射は、空気中および脱酸素中それぞれにおいて、照射量2.5Mradで行った。
【0067】
[実施例1〜7]
表1に示す化合物の所定量、およびビスフェノールA型のポリカーボネート(帝人化成(株)製「パンライト」L―1225)100部を、30mmφ2軸エクストルーダー(池貝鉄工(株)製PCM―30)を用いて、ポリマー温度280℃、平均滞留時間約3分の条件下で溶融混練し、これをペレット化した。
【0068】
次に射出成型機(名機製作所(株)製M―50B)を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度60℃にて射出成形を行い、2mm厚のサンプル(試験片)を得た。これに対し脱酸素中、空気中それぞれで、γ線照射を行い、照射前後の黄色度を測定し黄変度を求めた。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
[比較例1〜2]
前記実施例で用いたビスフェノールA型のポリカーボネート(帝人化成(株)製「パンライト」L―1225)のみ、および表2に示す化合物の所定量、および該ポリカーボネート100部を用いて、前記実施例と同様の操作を行い、黄変度を測定した。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
以上の結果より、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、空気中および脱酸素中を問わず、γ線照射による黄変度が小さく、γ線に対して極めて高い安定性を有することがわかる。
Claims (6)
- 請求項1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物より形成された医療用成形品。
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JP2001184672A JP3574795B2 (ja) | 1994-01-19 | 2001-06-19 | γ線耐性を有するポリカーボネート樹脂組成物 |
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JP4397594 | 1994-03-15 | ||
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JP28194494 | 1994-11-16 | ||
JP6-266898 | 1994-12-20 | ||
JP31635794 | 1994-12-20 | ||
JP6-108255 | 1994-12-20 | ||
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JP2006199847A (ja) * | 2005-01-21 | 2006-08-03 | Mitsubishi Engineering Plastics Corp | ポリカーボネート樹脂組成物及びそれよりなる医療用器具 |
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