JP3571899B2 - 香味劣化抑制剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、香味成分を含む食品又は口腔衛生剤に広く適用することができるフラボン誘導体を有効成分とする香味劣化抑制剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
食品や口腔内で使用される練り(液体)歯磨き剤、口臭防止剤のような口腔衛生剤(以下、食品等と略する)は口に入った瞬間にその味と匂いが感じられるので、食品等の香味は各種栄養成分と同様に重要な要素である。
こうした食品等の香味は製造、流通、保存等の各段階で徐々に劣化していくことはよく知られている。劣化に関係する要因として、主として熱、光、酸素、さらには水等が挙げられる。
そこで、従来、特に酸素による香味の劣化対策として、酸素透過性を低くした合成樹脂製の容器や袋の開発、また、脱酸素条件を組み入れた食品製造工程の導入、さらには酸化防止剤の添加等が施されていたが、他の劣化要因、特に光による劣化の対策はあまり考慮されていなかった。
【0003】
しかし、最近、店頭ディスプレイ時の商品イメージアップのため透明ガラス容器入り食品、半透明プラスチック容器入り食品、透明袋入り食品等の製造・販売が増加しつつある。さらに、それらをコンビニエンスストア等で長時間、蛍光灯下に陳列する販売形態が一般的になってきた。従って、以前よりもさらに光の影響を受けやすくなり、香味劣化などの結果を招くことになった。
そこで、光による香味の劣化に対して特に大きな抑制効果をもち、さらに加熱殺菌工程や加熱保存時の熱による劣化抑制効果をも併せもつような手段を開発することが必要となってきた。
【0004】
光による香味劣化は、香味成分が光照射によって分解され芳香・美味が消失し、また更に分解物が悪臭・異味成分に転化する要因となる。こうした光による劣化を主に抑制するために、ルチン、モリン又はケルセチンを添加して悪臭・異味物質の発生を防止し保存性の向上を図った乳含有酸性飲料(特公平4−21450号公報)やコーヒー生豆抽出物由来のクロロゲン酸、カフェー酸、フェルラ酸と、ビタミンC、ルチン、ケルセチンとを併用して日光によるフレーバー劣化を防止する方法(特開平4−27374号公報)、また、天然物由来の香料組成物にコーヒー豆由来のクロロゲン酸を添加して天然香料の劣化防止を図る方法(特開平4−345693号公報)が提案されている。
【0005】
しかし、従来技術における天然物由来の劣化抑制剤については、一般的に安全性が高く推奨できるが、その一方で、香味の劣化抑制効果を奏するためにはある程度多量に使用する必要があり、その結果、劣化抑制剤自体が有している味や匂いが食品そのものの味や香りに悪影響を与えるなど実用性に欠ける点があった。なお、光透過性を抑えた容器や袋を用いる食品等の包装手段改良による劣化抑制方法も提案されているが、これもコストと香味劣化抑制効果の両面から考えると十分ではなかった。
従って、食品等に添加した場合に安全性が高く、食品等本来の香味に影響を与えることなく少量の使用で十分な効果を奏し、かつ経済性に優れた香味劣化の抑制手段として、新たな天然物由来の劣化抑制剤が要望されていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来技術における問題点を解決し、安全性が高く、しかも食品等本来の香味に影響を与えることない香味劣化抑制剤の提供、すなわち、食品等の製造、流通、保存等の各段階で主として光、さらに熱や酸素等の影響による香味の劣化を抑制する香味劣化抑制剤、当該抑制剤が所定量添加されて安定的な品質を有する食品等並びに当該抑制剤を所定量添加して香味の劣化を抑制し品質の安定を図る方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、多種多様の植物由来の成分について香味劣化抑制活性を鋭意検討した結果、柑橘類由来の成分である特定のフラボン誘導体を使用することにより長期間、光に対しては顕著に、さらに熱、酸素等による食品等の香味劣化を抑制できることを見い出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の第一は、一般式(I)
【化2】
(式中、R1、R2、R3およびR4は水素又はメトキシ基である)で表わされるフラボン誘導体又はそのシクロデキストリン包接物を含有することを特徴とする香味劣化抑制剤である。
さらに、フラボン誘導体が、ヘプタメトキシフラボン、タンゲリチン及びノビレチンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第二は、上記の香味劣化抑制剤が、0.01〜100ppm添加されてなる食品又は口腔衛生剤である。
【0010】
また、本発明の第三は、上記の香味劣化抑制剤を食品又は口腔衛生剤に0.01〜100ppm添加して香味劣化を抑制する方法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(1) フラボン誘導体
本発明の香味劣化抑制剤の有効成分であるフラボン誘導体は、下記一般式(I)で表される化合物である。
【化3】
式中、R1、R2、R3およびR4は水素又はメトキシ基である。
【0012】
上記式(I)で表されるフラボン誘導体の中でもオレンジの果皮や精油中に多く含有され効率的に抽出できる点で、下記式(II)で表されるヘプタメトキシフラボン、下記式(III)で表されるタンゲリチン及び下記式(IV)で表されるノビレチンが好ましい。
【化4】
【0013】
かかるフラボン誘導体は、ミカンやオレンジ等の柑橘類系の果実、特に果実を搾汁した後に残る果汁搾り滓(果皮)、果汁中の精油を冷却して得られるワックス、さらに精油中に含まれるコールドプレスオイルを蒸留した後に残る不揮発性画分中に多量に含まれているので、かかるオレンジを始めとする柑橘類系の果実からフラボン誘導体を抽出し精製することによって得ることができる。
そして、従来は、果汁搾り滓、ワックス及び精油中の不揮発性画分のいずれも果汁や香料素材となる精油中の低〜高沸点画分を得た後の不要な残存物として廃棄されていたので、これらからフラボン類を得ることは廃棄物の有効利用に寄与し、又経済的にも有利である。
さらに、上記ワックスと不揮発性画分は精製のみで効率的に得られるので特に好ましい。
なお、フラボン誘導体の中でもタンゲリチンはミカンの一品種である Citrus nobikis f. deliciosaの果皮の精油を精製して得られ、また同様にノビレチンはCitrus nobilis Lour.の果皮から抽出することができ、ヘプタメトキシフラボンはCitrus sinensis L.の精油(スイートオレンジオイル)から得ることができる。
【0014】
果汁搾り滓(果皮)の抽出処理に使用する溶媒は、水又は極性有機溶媒であり有機溶媒は含水物であってもよい。
極性有機溶媒としては、アルコール、アセトン、酢酸エチル等が挙げられる。
中でも人体への安全性と取扱性の観点から水又はエタノール、プロパノール、ブタノールのような炭素数2〜4の脂肪族アルコールが好ましい。特に水又はエタノール又はこれらの混合物が好ましい。
なお、抽出は浸漬法や加熱還流法等の、精製は合成吸着剤や活性炭等の、いずれも一般的な手法で行うことができる。
【0015】
(2) シクロデキストリン包接物
上記のフラボン誘導体の中には特有の苦味を有する物質もあり、香味劣化抑制効果を期待できる量を添加した場合、その苦味により食品等の嗜好性を損なう場合もある。また、一般的にこれらのフラボン誘導体は脂溶性が高いため、添加濃度が高濃度になると溶解性が問題となるおそれもある。
従って、このような場合には、シクロデキストリンの環状構造の中空部分にフラボン誘導体を包接させることによりこうした問題点を解決することができる。シクロデキストリンとしては、グルコース6単位のα−シクロデキストリン、グルコース7単位のβ−シクロデキストリン、グルコース8単位のγ−シクロデキストリン、さらに重合度の高いδ−及びε−シクロデキストリン、さらにこれらの分岐体のいずれであってもよい。
フラボン誘導体のシクロデキストリン包接物は、例えば溶媒中でフラボン誘導体の存在下、加熱・撹拌混合して得ることができる。
【0016】
(3) 用法
上記の抽出処理で得られる香味劣化抑制剤は食品等の加工段階で適宜添加することができる。添加量は、抑制剤の濃度或いは食品等に含有されている香味成分の種類や香味閾値によっても多少異なるが、一般的に食品等に対して0.01〜100ppmの添加量が適当である。
食品等の本来の香味に影響を及ぼさない閾値の範囲内で添加する観点からは、0.1〜50ppmが好ましく、特に0.5〜20ppmが好ましい。
【0017】
【実施例】
参考例1(フラボン誘導体の抽出)
オレンジ精油を蒸留してリモネンやターペンレスオイルを除去した不揮発性のワックス様物質30gをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/0→0/1)にて分離精製し、分画分を得た。
分画分の一部をシリカゲル薄層クロマトグラフィー上で展開し、試料の移動率(Rf)=0.42、0.36および0.18(展開液:酢酸エチル)に相当する分画分を再結晶化し、それぞれ5.2g、2.3g、1.4gの白色結晶を得た。
核磁気共鳴スペクトル及び紫外線吸収スペクトルにて各々を標品と比較した結果、各々ヘプタメトキシフラボン、タンゲリチン、ノビレチンであることが判明した。
【0018】
参考例2(シクロデキストリン包接物の調製)
ヘプタメトキシフラボン10gとマルトシル−β−シクロデキストリン(塩水港精糖(株)製「イソエリート(商品名)」)80gに50%エタノール水溶液1000mlを加えた。これを加熱条件下、30分間攪拌した。次いで、減圧濃縮して溶媒を除去後、凍結乾燥してヘプタメトキシフラボンのシクロデキストリン包接物84gを得た。
【0019】
試験例1
砂糖35g、クエン酸0.35g及びオレンジやレモン等の柑橘類に特有の香味成分であるシトラール1gを含有する65%エタノール水溶液で全量を1000mlとした。この液を透明ガラス容器に入れ、香味劣化抑制剤として表1記載の各種フラボンを200ppm添加して試料とし、光安定性試験器(東京理化器械株式会社製「LST−300型」)にて光照射を行った。
照射条件は、温度10℃、白色蛍光ランプ40W×12および360nm近紫外線ランプ40W×3で、照度4000ルクスに調整し、近紫外線強度0.3mW/cm2(器内中央)で72時間照射である。
【0020】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて光照射後のシトラール含量を測定した。結果を表1に示す。
なお、測定条件は次のとおりである。
【0021】
表1におけるシトラール残存量(%)は以下の式にしたがって計算した。
シトラール残存量(%)=A/B×100
A:光照射後の試料中のシトラール含量
B:光照射前の試料中のシトラール含量
【0022】
【表1】
【0023】
実施例1(ヨーグルト飲料)
牛乳94g、脱脂粉乳6gを混合後、殺菌(90〜95℃、5分間)した。次いで、48℃に冷却した後、スターターを接種した。これをガラス容器に入れ、発酵(40℃、4時間、pH 4.5)させた。冷却後、5℃にて保存し、これをヨーグルトベースとした。
一方、糖液は白糖20g、ペクチン1g、水79gを混合後、90〜95℃、5分間加熱し、ホットパック充填したものを使用した。
上記ヨーグルトベース60g、糖液40g、香料0.1gを混合し、これをホモミキサー処理およびホモゲナイザー処理した。これに香味劣化抑制剤として表2に示す各種フラボン誘導体を5ppm添加したものと、無添加のものとをそれぞれ半透明プラスチック容器に充填した。なお、シクロデキストリン包接物の場合は包接物中のフラボン誘導体の濃度が5ppmとなるような配合量で添加した。
【0024】
それぞれ光安定性試験器に入れ、蛍光灯を照射した後(6000ルクス、10℃、5時間)、習熟した10名のパネラーを選んで官能評価を行った。そして、この場合、香味の変化の無い対照としては香味劣化抑制剤を添加していない蛍光灯の未照射のヨーグルト飲料を使用し、香味の変化(劣化)度合いを評価した。その結果は、表2のとおりである。
なお、表2中の評価の点数は、下記の基準で採点した各パネルの平均点である。
(採点基準)
異味、異臭が強い :4点
香味が非常に変化した:3点
香味が変化した :2点
香味がやや変化した :1点
香味が変化していない:0点
【0025】
【表2】
表2に示されるように無添加のものに比べ、抑制剤を添加したものは香味劣化抑制効果が高いことがわかった。
【0026】
実施例2(レモン飲料)
グラニュー糖10g、クエン酸0.1g、レモン香料0.1g、水にて全量100gに調製した。これに表3に示すフラボン誘導体を20ppm添加したものと、無添加のものとをそれぞれガラス容器に充填し殺菌した。なお、シクロデキストリン包接物の場合は、包接物中のフラボン誘導体の濃度が20ppmとなるような配合量で添加した。
それらを光安定性試験器にて光照射を行った後(15000ルクス、10℃、3日間)、習熟した10名のパネラーを選んで官能評価を行った。そして、この場合、香味の変化の無い対照としては香味劣化抑制剤を添加していない蛍光灯の未照射のレモン飲料を使用し、香味の変化(劣化)度合いを評価した。その結果は、表3のとおりである。
なお、表3中の評価の点数は、実施例1と同様の基準で採点した各パネラーの平均点である。
【0027】
【表3】
表3に示されるように無添加のものに比べ、抑制剤を添加したものは香味劣化抑制効果が高いことがわかった。
【0028】
実施例3(乳酸菌飲料)
乳酸菌飲料100gに表4に示す各種フラボン誘導体を10ppm添加したものと、無添加のものとをそれぞれガラス容器に充填し殺菌した。なお、シクロデキストリン包接物の場合は、包接物中のフラボン誘導体の濃度が10ppmとなるような配合量で添加した。
それらを光安定性試験器にて光照射を行った後(15000ルクス、10℃、12時間)、習熟した10名のパネラーを選んで官能評価を行った。そして、この場合、香味の変化の無い対照としては香味劣化抑制剤を添加していない蛍光灯の未照射の乳酸菌飲料を使用し、香味の変化(劣化)度合いを評価した。その結果は、表4のとおりである。
なお、表4中の評価の点数は、実施例1と同様の基準で採点した各パネラーの平均点である。
【0029】
【表4】
表4に示されるように、無添加のものに比べ、抑制剤を添加したものは香味劣化抑制効果が高いことがわかった。
【0030】
【発明の効果】
本発明に係る香味劣化抑制剤を食品等に使用することにより、光、熱、酸素等の影響を受けやすいものについて香味劣化の抑制作用を有する。
特に光に対しては顕著な劣化抑制効果を示し、長期間安定的に香味を持続させることができるので、光照射の影響を受け易い透明ガラス容器、半透明プラスチック容器、或いは透明袋等に充填された食品等について適用すれば、優れた効果が発揮される。
また、劣化抑制剤自体の味・匂いが食品等本来の香味に影響を及ぼすことがないので幅広く適用することができる。
Claims (5)
- フラボン誘導体が、ヘプタメトキシフラボン、タンゲリチン及びノビレチンから選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の食品又は口腔衛生剤。
- フラボン誘導体が、ヘプタメトキシフラボン、タンゲリチン及びノビレチンから選ばれる少なくとも1種である請求項3記載の方法。
- 香味劣化が光による劣化である請求項3または4記載の方法。
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