JP3571445B2 - シリルエノールエーテルの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、応用用途の広い反応性有機ケイ素化合物の製造方法に関し、特にシリルエノールエーテルの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、シリコーンと呼ばれる高分子ケイ素化合物は、その優れた耐熱性と加工性のためにシリコーン油、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、或いはトランジスターのような電気材料に至るまで多くの分野で使用されている。これらは、低分子有機ケイ素化合物の反応性の研究の結果生じた工業的成果の例である。
【0003】
一方、反応性有機ケイ素化合物は、種々の条件で他の化学薬品と反応され、近年、これを利用するための有機合成技術が発達している。すなわち、反応性有機ケイ素化合物は、医薬、農薬、工業薬品として有用な種々の化合物を合成するための中間体として注目され、実用化されている。
【0004】
式
【化3】
[式中、R2は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してよいアルキル基、置換基を有してよいアルケニル基、置換基を有してよいアルキニル基又は置換基を有してよいアリール基であり、R3及びR4はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有してよいアルキル基、置換基を有してよいアルケニル基、置換基を有してよいアルキニル基又は置換基を有してよいアリール基であり;又はR2及びR4は、互いに結合して置換基を有してよい環状基を形成する基であり;又はR3及びR4は、互いに結合して置換基を有してよい環状カルボニル化合物を形成する基である。]
で示すシリルエノールエーテルもこのような有機ケイ素化合物の一つである。
【0005】
シリルエノールエーテルは、種々の化合物と反応させることにより、産業上有用な有機化合物を提供する。例えば、以下の式に示す反応が挙げられる。
【0006】
【化4】
【0007】
[式中、R及びR’はアルキル基のような有機基であり、Xはハロゲンである。]
【0008】
このようなシリルエノールエーテルの合成について記している文献/総説としては、
(1)G.Stork, P.F.Hudrlik, J.Am.Chem.Soc., 90, 4462, 4464(1968)、
(2)H.O.House et al, J.Org.Chem., 34, 2324(1969)、
(3)S.Danishefsky, T.Kitahara, J.Am.Chem.Soc., 96, 7807(1974)、
(4)Synthesis 1−28, 85−104(1983)、
(5)Synthesis 91−110(1977)及び
(6)E.W.Colvin, Silicon Reagents in Organic Synthesis, Academic Press., (1988)
等がある。
【0009】
上記の報告での最も一般的な合成方法としては、トリエチルアミン等の有機塩基とトリアルキルシランの存在下、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)を還流する方法、及び極低温(−78℃)でLDA(リチウムジイソプロピルアミド)等のような特異な強塩基反応剤を使用する方法がよく知られている。
【0010】
しかしながら、前者の方法では、100℃前後の高温で比較的長時間(5〜24時間)反応を行う必要があり、反応混合物が黒褐色化し、生成物のシリルエノールエーテルの単離も容易でなく、一般に収率も低い。また、後者の方法では、強塩基反応試剤の調製が容易でなく、高価である。さらに、取扱に特別の注意を要し、極低温の反応であるため反応操作も煩雑である。
【0011】
このように、従来のシリルエノールエーテルの製造方法は、操作が繁雑で、高温又は極低温の反応では温度制御に大きなエネルギーとコストを要し、製造コストが高く、工業的規模で実施するには極めて不利である。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、簡便な操作により安価かつ高収率で行いうるシリルエノールエーテルの製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、エノールを形成可能なカルボニル化合物と、式
【化5】
(R1)3SiCl [I]
[式中、R1はそれぞれ独立してアルキル基またはアリール基である。]
で示すクロロシランとを、非プロトン性極性溶媒中、マグネシウム、アルミニウム及び亜鉛からなる群から選択される金属触媒の存在下に反応させる工程を包含するシリルエノールエーテルの製造方法を提供するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明で用いるエノールを形成可能なカルボニル化合物は、一般に、以下の式で示す構造を有する。
【化6】
【0015】
式[II]中、R2は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してよいアルキル基、置換基を有してよいアルケニル基、置換基を有してよいアルキニル基又は置換基を有してよいアリール基である。R3及びR4はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有してよいアルキル基、置換基を有してよいアルケニル基、置換基を有してよいアルキニル基又は置換基を有してよいアリール基である。R2及びR3は、一般に炭素数30まで、好ましくは20まで、更に好ましくは10までの直鎖もしくは分岐鎖基である。
【0016】
上述のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリール基は置換基を有し得る。置換基は、例えばN、S、O、C及びHから選ばれる原子で構成され、カルボニル基と共存しうるものであれば特に限定されない。置換基は20個まで、好ましくは12個まで、更に好ましくは6個までの炭素原子を有する。この置換基にはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基のような炭化水素基及びアルコキシ基、アリールオキシ基及びハロゲン原子等が含まれる。
【0017】
置換基の例には、メチル基、エチル基及びプロピル基のような炭素数12までのアルキル基、フェニル基及びナフチル基のような炭素数10までのアリール基、メトキシ基及びエトキシ基のような炭素数5までのアルコキシ基、フェノキシ基及びナフトキシ基のような炭素数10までのアリールオキシ基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子及びフッ素原子のようなハロゲン原子、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アシルアミノ基、アミド基、及びイミド基等が挙げられる。
【0018】
これらの置換基も、ここで説明したいずれかの置換基を有してよい。
【0019】
このようなエノールを形成可能なカルボニル化合物の様態及び具体例を以下に列挙する。
【0020】
【化7】
X−L−CH2−CO−CH2−R10
[式中、XはH、ハロゲン、CN、アルコキシ基又はアリールオキシ基であり、Lは飽和又は不飽和の直鎖または分岐鎖アルキレン基であり、R10は飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖アルキル基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はハロアルキル基で置換されていてもよいアリール基又はHである。]
【0021】
更に具体的には以下の化合物である。
【0022】
【化8】
【0023】
【化9】
【0024】
[式中、R11及びR12は独立してCH3、OCH3、CF3、ハロゲン原子又はHであり、R及びR’は独立してH又はアルキル基であり、p及びqは独立して1〜5の数である。]
【0025】
更に具体的には以下の化合物である。
【0026】
【化10】
【0027】
式[II]中、R2及びR4は、互いに結合して環状基を形成する基であってもよい。この環状基は、一般に炭素数30まで、好ましくは20まで、さらに好ましくは10までのものである。
【0028】
好ましい環状基には、炭素原子と水素原子とからなる単環もしくは多環脂環式基、及び窒素原子、酸素原子及び硫黄原子のようなヘテロ原子を含む単環もしくは多環複素脂環式基が挙げられる。環状基は不飽和結合を有してよいが、αβ不飽和結合は有しない。また、環状基が多環式の場合は、α炭素を含む環が脂環式であれば足り、これに結合する環は芳香環でもよい。R3が水素であるアルデヒド化合物が好ましい。
【0029】
脂環式基の好ましい例としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデカシル基、シクロウンデカシル基、シクロドデカシル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基及びシクロオクテニル基のような炭素数4〜12のものが挙げられる。
【0030】
複素脂環式基の好ましい例としては、窒素原子を有するピロリジニル基及びピロリニル基、酸素原子を有するフリル基、及び窒素原子及び硫黄原子を有するチアゾリル基のようなヘテロ原子数3までで炭素数20までのもの、特にヘテロ原子数が2までで炭素数10までのものが挙げられる。
【0031】
上述の環状基は一般に置換基を有し得る。置換基には、上述のものが含まれる。
【0032】
環状基を有するエノールを形成可能なカルボニル化合物の態様及び具体例を以下に列挙する。
【0033】
【化11】
【0034】
[式中、YはO、S、N、−CH2−、−(CH2)m−、(m=2〜10)、
【0035】
【化12】
【0036】
である。]
【0037】
更に具体例には以下の化合物である。
【0038】
【化13】
【0039】
式[II]中、いずれか一方のR2及びR3は、互いに結合して環状カルボニル化合物を形成する基であってもよい。この環状カルボニル化合物は、一般に炭素数30まで、好ましくは20まで、さらに好ましくは10までのものである。
【0040】
好ましい環状カルボニル化合物には、単環もしくは多環脂環式カルボニル化合物及び単環もしくは多環複素脂環式カルボニル化合物が挙げられる。環状カルボニル化合物は不飽和結合を有してよいが、αβ不飽和結合は有しない。また、環状カルボニル化合物が多環式の場合は、α炭素を含む環が脂環式であれば足り、これに結合する環は芳香環でもよい。
【0041】
脂環式カルボニル化合物及び複素脂環式カルボニル化合物の好ましい態様及び具体例を以下に列挙する。
【0042】
【化14】
【0043】
[式中、YはO、S、N、−CH2−、−(CH2)m−、(m=2〜10)、
【0044】
【化15】
【0045】
である。]
【0046】
更に具体的には以下の化合物である。
【0047】
【化16】
【0048】
本発明に好適に用いうるクロロシランとしては、トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン、ジメチルプロピルクロロシラン、tert−ブチルジメチルクロロシラン、トリプロピルクロロシランのようなトリアルキルクロロシラン、およびフェニルジメチルシラン、フェニルジエチルシラン、ベンジルジメチルシラン等が挙げられる。反応性、製造コスト等の観点から好ましくは、トリメチルクロロシランである。クロロシランの使用量は、カルボニル化合物に対して2〜24倍当量、特に8〜16倍当量が好ましい。
【0049】
非プロトン性極性溶媒としては、反応物を良好に溶解するものであれば特に限定されない。一般に、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、1,1,3,3,−テトラメチルユリヤ(TMU)、2−ピロリジオン、1−メチル−2−ピロリジオン、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスホキシド(DMSO)、テトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)及びスルホラン等を用いうる。収率、反応性等の観点から、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)が好ましい。
【0050】
金属触媒としては、マグネシウム、アルミニウム及び亜鉛のような金属を用いうる。収率、反応性等の観点から、マグネシウムが好ましい。本発明では容易に入手できる削状又は粉末マグネシウムや一般に広く市販されているグリニャール反応用のマグネシウムを用いることができる。活性化マグネシウム等の特別のものである必要はない。金属媒体の使用量はカルボニル化合物に対して2〜12倍当量、特に4〜8倍当量が好ましい。
【0051】
本発明の好ましい実施態様では、非プロトン性極性溶媒と金属触媒と式[I]で示されるクロロシランと式[II]で示されるカルボニル化合物との混合液を室温(20〜35℃)で、約20時間撹拌することにより反応を行う。反応の追跡は、原料であるカルボニル化合物の存在量を定量することにより行いうる。
【0052】
反応の完結後、抽出(例えばエーテル抽出)、洗浄、常法による単離精製(例えばショートパスシリカゲルクロマトグラフィー又は真空蒸留等)を行うことにより、シリルエノールエーテルを得る。
【0053】
【作用】
トリアルキルシリル基は、電子的、立体的にユニークな存在であり、α位の陰電荷を安定化すると共に、β位の陽電荷を安定化する。また、一方で累積立体効果の作用を有する。このようなケイ素原子団の特徴を生かしたシリルエノールエーテルは、興味ある物性とその選択性を利用して、医薬、農薬の中間体として、高選択的有機反応のための重要な基質となる。
【0054】
また、従来の方法は反応条件が厳しいため、例えば、後記実施例4に見られるようなカルボニル化合物を用いる場合には、脱ハロゲン化水素反応等の副反応が起こり、分子内官能基を残したまま、上記カルボニル化合物のシリルエノールエーテル化反応を行うことが不可能であった。
【0055】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0056】
実施例1
1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロオクテンの合成
C11H22OSi=198
DMF60ml、シクロオクタノン1.26g(10mmol)、トリメチルクロロシラン13.1g(120mmol)及び(削状又は)粉末マグネシウム1.47g(60mmol)の混合液を室温で20時間撹拌し、シクロオクタノンが存在しないことをガスクロマトグラフィーで確認した後、反応液を、水300ml及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液300mlの混合液へ撹拌下注いだ。この溶液を、エチルエーテル150mlを用いて3度有機物を抽出した。集めた有機層を飽和食塩水100mlを用いて2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウム上で乾燥した。エチルエーテル留去した後、真空蒸留によって精製することによって、1.63gの1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロオクテンを82%の収率で得た。この化合物のH−NMRスペクトルを図1に、C−NMRのスペクトルを図2に、また、IRスペクトルを図3に示した。加えて、GC−MSスペクトルの結果からm/e=198の分子イオンピークを与えた。GC−MSスペクトルを図4に示した。
【0057】
実施例2
トリメチルシリルオキシメチレンシクロヘキサンの合成
C10H20OSi=184
DMF60ml、シクロヘキシルアルデヒド1.12g(10mmol)、トリメチルクロロシラン13.1g(120mmol)及び(削状又は)粉末マグネシウム1.47g(60mmol)の混合液を室温で20時間撹拌し、シクロヘキシルアルデヒドが存在しないことをガスクロマトグラフィーで確認した後、反応液を、水300ml及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液300mlの混合液へ撹拌下注いだ。この溶液を、エチルエーテル150mlを用いて3度有機物を抽出した。集めた有機層を飽和食塩水100mlを用いて2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウム上で乾燥した。エチルエーテル留去した後、真空蒸留によって精製することによって、1.41gのトリメチルシリルオキシメチレンシクロヘキサンを77%の収率で得た。実施例1と同様に分析し、目的の化合物の生成を確認した。この化合物のH−NMRスペクトルを図5に、IRスペクトルを図6に示した。また、GC−MSスペクトルの結果からm/e=184の分子イオンピークを与えた。
【0058】
実施例3
1,3−ジフェニル−2−(トリメチルシリルオキシ)−1−プロペンの合成
C18H22OSi=282
DMF60ml、1,3−ジフェニル−2−プロパノン2.10g(10mmol)、トリメチルクロロシラン13.1g(120mmol)及び(削状又は)粉末マグネシウム1.47g(60mmol)の混合液を室温で20時間撹拌し、1,3−ジフェニル−2−プロプロパノンが存在しないことをガスクロマトグラフィーで確認した後、反応液を、水300ml及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液300mlの混合液へ撹拌下注いだ。この溶液を、エチルエーテル150mlを用いて3度有機物を抽出した。集めた有機層を飽和食塩水100mlを用いて2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウム上で乾燥した。エチルエーテル留去した後、真空蒸留によって精製することによって、2.81gの1,3−ジフェニル−2−(トリメチルシリルオキシ)−1−プロペンを100%の収率で得た。実施例1と同様に分析し、目的の化合物の生成を確認した。この化合物のH−NMRスペクトルを図7に、IRスペクトルを図8に示した。また、GC−MSスペクトルの結果からm/e=282の分子イオンピークを与えた。
【0059】
実施例4
5−クロロ−2−(トリメチルシリルオキシ)−2−ペンテン及び5−クロロ−2−(トリメチルシリルオキシ)−1−ペンテンの合成
C8H17OClSi=192.5
DMF60ml、5−クロロ−2−ペンタノン1.21g(10mmol)、トリメチルクロロシラン13.1g(120mmol)及び(削状又は)粉末マグネシウム1.47g(60mmol)の混合液を室温で20時間撹拌し、5−クロロ−2−ペンタノンが存在しないことをガスクロマトグラフィーで確認した後、反応液を、水300ml及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液300mlの混合液へ撹拌下注いだ。この溶液を、エチルエーテル150mlを用いて3度有機物を抽出した。集めた有機層を飽和食塩水100mlを用いて2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウム上で乾燥した。エチルエーテル留去した後、真空蒸留によって精製することによって、1.38gの5−クロロ−2−(トリメチルシリルオキシ)−2−ペンテン及び5−クロロ−2−(トリメチルシリルオキシ)−1−ペンテンの異性体混合物を72%の収率で得た。実施例1と同様に分析し、目的の化合物の生成を確認した。この化合物のH−NMRスペクトルを図9に、IRスペクトルを図10に示した。また、GC−MSスペクトルの結果からm/e=192の分子イオンピークを与えた。
【0060】
実施例5
2−メチル−1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロヘキセン(a)及び6−メチル−1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロヘキセン(b)の合成
C10H20OSi=184
DMF60ml、2−メチル−1−シクロヘキサノン1.12g(10mmol)、トリメチルクロロシラン13.1g(120mmol)及び(削状又は)粉末マグネシウム1.47g(60mmol)の混合液を室温で20時間撹拌し、2−メチル−1−シクロヘキサノンが存在しないことをガスクロマトグラフィーで確認した後、反応液を、水300ml及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液300mlの混合液へ撹拌下注いだ。この溶液を、エチルエーテル150mlを用いて3度有機物を抽出した。集めた有機層を飽和食塩水100mlを用いて2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウム上で乾燥した。エチルエーテル留去した後、真空蒸留によって精製することによって、1.72gの2−メチル−1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロヘキセン及び6−メチル−1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロヘキセン異性体混合物を92%の収率で得た。実施例1と同様に分析し、目的の化合物の生成を確認した。この化合物のH−NMRスペクトルを図11に、IRスペクトルを図12に示した。また、GC−MSスペクトルの結果からm/e=184の分子イオンピークを与えた。
【0061】
実施例6
5,6−ジヒドロ−4−(トリメチルシリルオキシ)−2H−ピランの合成
C8H16OSi=172
テトラヒドロ−4H−ピラン−4−オン1.00g(10mmol)、DMF60ml、トリメチルクロロシラン13.1g(120mmol)及び(削状又は)粉末マグネシウム1.47g(60mmol)の混合液を室温で20時間撹拌し、テトラヒドロ−4H−ピラン−4−オンが存在しないことをガスクロマトグラフィーで確認した後、反応液を、水300ml及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液300mlの混合液へ撹拌下注いだ。この溶液を、エチルエーテル150mlを用いて3度有機物を抽出した。集めた有機層を飽和食塩水100mlを用いて2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウム上で乾燥した。エチルエーテル留去した後、真空蒸留によって精製することによって、0.96gの5,6−ジヒドロ−4−(トリメチルシリルオキシ)−2H−ピランを60%の収率で得た。実施例1と同様に分析し、目的の化合物の生成を確認した。この化合物のH−NMRスペクトルを図13に、IRスペクトルを図14に示した。また、GC−MSスペクトルの結果からm/e=172の分子イオンピークを与えた。
【0062】
上記実施例で用いたカルボニル化合物と得られるシリルエノールエーテルの構造を表1にまとめて示す。
【0063】
【表1】
【0064】
比較例1
2−メチル−1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロヘキセン(a)及び6−メチル−1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロヘキセン(b)の合成
C10H20OSi=184
文献 ”Silicon Reagents in Organic Synthesis”, E.W.Colvin, 1988, Academic Press, PP.100 記載の方法にしたがって、従来、よく知られるトリエチルアミン/DMF/加熱の条件で実施例5に相当する化合物の合成を行い、文献記載と同じ結果を得た。2−メチル−1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロヘキセン及び6−メチル−1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロヘキセンの異性体混合物の収率は83%であった。実施例5との対比を表2に示す。
【0065】
比較例2
2−メチル−1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロヘキセン(a)及び6−メチル−1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロヘキセン(b)の合成
文献 ”Silicon Reagents in Organic Synthesis”, E.W.Colvin, 1988, Academic Press, PP.100 記載の方法にしたがって、従来、よく知られるLDA(リチウムジイソプロピルアミド)/反応温度−78℃の条件で実施例5に相当する化合物の合成を行い、文献記載と同じ結果を得た。2−メチル−1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロヘキセン及び6−メチル−1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロヘキセンの異性体混合物の収率は97%であった。実施例5との対比を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表中、TMSClはトリメチルクロロシラン、DMFはジメチルホルムアミド、THFはテトラヒドロフラン、Et3Nはトリエチルアミン、LDAはリチウムジイソプロピルアミド、「a」は2−メチル−1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロヘキセン、「b」は6−メチル−1−(トリメチルシリルオキシ)−1−シクロヘキセンを表す。
【0068】
【発明の効果】
本発明は、カルボニル化合物とクロロシランとを非プロトン性極性溶媒中で、金属触媒、特に好ましくはMgの存在下、室温で直接反応さすことができ、さらに反応選択性がよいため分離精製が容易である。また、反応装置が極めてが簡便で、原料は入手しやすいため低コストで製造できる。さらにまた、高収率で目的の化合物が得られ、医薬、農薬、工業薬品として重要で、かつ安価な中間体としてのシリルエノールエーテルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた化合物のH−NMRスペクトルを示す。
【図2】実施例1で得られた化合物のC−NMRスペクトルを示す。
【図3】実施例1で得られた化合物のIRスペクトルを示す。
【図4】実施例1で得られた化合物のGC−MSスペクトルを示す。
【図5】実施例2で得られた化合物のH−NMRスペクトルを示す。
【図6】実施例2で得られた化合物のIRスペクトルを示す。
【図7】実施例3で得られた化合物のH−NMRスペクトルを示す。
【図8】実施例3で得られた化合物のIRスペクトルを示す。
【図9】実施例4で得られた化合物のH−NMRスペクトルを示す。
【図10】実施例4で得られた化合物のIRスペクトルを示す。
【図11】実施例5で得られた化合物のH−NMRスペクトルを示す。
【図12】実施例5で得られた化合物のIRスペクトルを示す。
【図13】実施例6で得られた化合物のH−NMRスペクトルを示す。
【図14】実施例6で得られた化合物のIRスペクトルを示す。
Claims (10)
- 前記エノールを形成可能なカルボニル化合物が、式
で示す構造を有する請求項1記載の方法。 - 前記R2が水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してよい炭素数30までの直鎖もしくは分岐鎖アルキル基、置換基を有してよい炭素数30までの直鎖もしくは分岐鎖アルケニル基、置換基を有してよい炭素数30までの直鎖もしくは分岐鎖アルキニル基又は置換基を有してよい炭素数30までのアリール基である請求項2記載の方法。
- 前記置換基の炭素数が20までである請求項2記載の方法。
- 前記置換基がハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基及びアリールオキシ基からなる群から選択される請求項2記載の方法。
- 前記環状基が炭素数30個までの単環もしくは多環脂環式基である請求項2記載の方法。
- 前記環状基が炭素数30個までの単環もしくは多環複素脂環式基である請求項2記載の方法。
- 前記環状カルボニル化合物が炭素数30個までの単環もしくは多環脂環式カルボニル化合物である請求項2記載の方法。
- 前記環状カルボニル化合物が炭素数30個までの単環もしくは多環複素脂環式カルボニル化合物である請求項2記載の方法。
- 前記金属触媒がマグネシウムである請求項1記載の方法。
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