JP3569066B2 - 傾斜磁場パルスの設定方法および磁気共鳴イメージング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は被検体の原子核スピンの磁気共鳴(MR)現象を利用した磁気共鳴イメージング(MRI)に関し、特に、グラジェント・モーメント・ナリング(GMN)用およびフローエンコード用の傾斜磁場パルスの設定方法および磁気共鳴イメージング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の医用分野における磁気共鳴イメージングでは、被検体が置かれる3次元空間の位置情報をMR信号に付加するために、その3次元空間に設定されたスライス方向、位相エンコード方向、及び読出し方向に傾斜磁場パルスを印加するパルスシーケンスが多用されている。
【0003】
被検体の画像化しようとする領域に血流など動く物質が在る場合、傾斜磁場中を原子核スピンが移動することに因る動きの効果が生じる。この動きの効果は通常のMRI像においては画像上にアーチファクトを生じさせる一因になる。このアーチファクトの少ないMRI像を得たいとする要請から、傾斜磁場パルスは、グラジェント・モーメント・ナリング(Gradient Moment Nulling:GMN)法(例えば、Pradip M. Pattany et al., "Motion Artifact Suppression Tech-nique(MAST) for MR Imaging", Journal of Computer Assisted Tomography, 11(3):369-377, May/June 1987)を実施できるパルスであることが望ましい。
【0004】
このGMN法を実施するための傾斜磁場パルスは原子核スピンの0次(位置)モーメントを制御するとともに、1次以上の運動モーメントによる位相項を零に補償しようとするものである。
【0005】
一方、磁気共鳴イメージングにおける血流などのフローイメージングは、上記動きの効果を利用するものである。MRIにおけるフローイメージングの画像化法には大きく分けて、縦磁化の振幅によるもの(振幅法、あるいはtime-of-flight法)と、横磁化の位相によるもの(位相法)の2種類がある。それぞれ長所短所はあるが、特に、頭蓋内血管のような内径1mm以下の細かい血管の造影には位相法が適している。
【0006】
位相法は、静止スピンによる位相シフトと運動スピンによる位相シフトの差が傾斜磁場中で有意となる現象を利用したもので、その位相シフト差が一般に運動スピンのモーメント(例えば、速度)に比例するので、定量性も兼備えている。この位相法では、本来、振幅情報は無関係であるが、位相の計算精度を上げるには信号のS/N比向上が不可欠なので、エコー時間TEをできるだけ短くしてS/N比を上げる必要がある。
【0007】
この位相法を実施するには、傾斜磁場パルスの使用上の一態様を成すフローエンコードパルスを用いる。フローエンコードパルスは原子核スピンの特定の運動モーメント(例えば速度)による位相項のみを制御し、それ以外の位相項は補償する(零にする)ことで血流イメージングを行おうとするものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
血流が血管狭窄部や血管分岐部などの断面積が変わる部位を通って流れる場合、それらの部位では流れの方向や流速が複雑に変化するので、観測される位相シフト量には、1次モーメントである速度の位相項だけでなく、高次のモーメント(加速度項以上)が加算されることになる。このため、グラジェンド・モーメント・ナリング(GMN)法を精度良く実施したり、血流速度を高精度に測定したりするには、その高次モーメントによる位相項を補償する必要があり、そのためには、高次の傾斜磁場パルスを用いなくてはならない。高次の傾斜磁場パルスを用いるということは、GMN用のパルスやフローエンコードパルスの極性反転数がより増えて、全体のパルス長が時間方向により伸びるので、必然的にTEも長くなり、MR信号の振幅値が下がることに因り、S/N比の向上にも限界があった。つまり、位相の計算精度にも限界があり、画質や流速測定の精度が思うように上がらず、信頼性にも不満が残っていた。
【0009】
そこで、本発明の目的は、GMN用やフローエンコード用の傾斜磁場パルスを使用する場合、高次の運動モーメントによる位相項を補償でき、且つ、エコー時間TEを最短化できる傾斜磁場パルスの解析的な設定方法および磁気共鳴イメージング装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成させるため、この発明の傾斜磁場パルスの設定方法は、磁気共鳴(MR)イメージングのためのパルスシーケンスに組み込まれる傾斜磁場パルスとして時間的に前後して極性反転するように与えられた1番目から複数番目までの3つ以上の台形波パルスのうちの、第1番目の台形波パルスの振幅g,パルス幅t,及び極性反転側のパルス傾斜度kまたは立ち上がり時間を初期値として与え、この第1番目から複数番目の台形波パルスまでのそれぞれのパルス期間b1・t,b2・t,…を決める複数のパルス幅係数b1,b2,…に初期値を与え、かつ第2番目以降の台形波パルスの振幅a1・g,a2・g,…を決める傾斜磁場強度係数a1,a2,…を未知とするステップと、MR信号S(t)の位相項φ(t)の少なくとも静止している原子核スピンによる位相項φ0(t)、速度モーメントを有する原子核スピンによる位相項φ1(t)、及び加速度モーメントを有する原子核スピンによる位相項φ2(t)の各値を前記傾斜磁場パルスの使用目的に応じた所望値に制御又は補償するように上記位相項φ(t)に関係する式を解析的に解くステップと、この解析結果を満足させる前記複数のパルス幅係数b1,b2,…の組み合わせの中で最終番目の前記台形波パルスまでのパルス期間を規定する前記パルス幅係数が最小となるものを選択するステップと、を備えたものである。
【0011】
また、本発明の磁気共鳴イメージング装置は、上述の如く設定した傾斜磁場パルスをパルスシーケンスに組み込んでイメージングを行なう構成を有する。
【0012】
【発明の実施の形態】
最初に、本発明に係るGMN用およびフローエンコード用の傾斜磁場パルスの解析的な設定方法を基本概念、4次傾斜磁場パルス、および解法例の順に説明する。なお、この設定方法では血流イメージングのためのフローエンコード用傾斜磁場パルス(フローエンコードパルス)について例示するが、通常のMRI像を得るときのGMN用傾斜磁場パルスについても、制御および補償する位相項のモーメント次数が異なってくるだけであって、同様に解析的に設定できるものである。
【0013】
[1]基本概念
一般に、tを時間、rをスピンの位置ベクトルと置いた時、MR信号S(t)は次のように平衡磁化ベクトルMo(r)、位相項φ(t)、およびスピン−スピン緩和時間T2で決まる減衰項の積の体積積分として表わせる。なお、以下の説明では、各積分範囲のtはエコー時間TEと置くこととする。
【0014】
【数1】
【0015】
さらに、位相項φ(t)は傾斜磁場パルスの時間関数ベクトルである傾斜磁場G(t)とrとの内積の時間積分として次のように表わせる。
【0016】
【数2】
【0017】
以下の解析の簡単化のため、x方向成分のみを考えれば、位相項φx(t)は
【数3】
となる。x(t)を次のようにテーラー展開すると、
【数4】
【0018】
したがって、式(3)は次式のように表わせる。
【0019】
【数5】
【0020】
位相法の基本アイデアであるMoran等によるフローエンコードパルスは静止スピンの位相シフト量φ0(t)を0にして(補償して)、φ1(t)以降の位相シフト情報により動きのある血流のみを抽出したもので、一般にバイポーラ・グラジェント・パルス:Bipolar Gradient Pulse(以下、BGPと記す)と呼ばれている(図1(a)参照)。この手法は後にDumoulin等により種々のアプリケーションに展開されている。
【0021】
さて、ここで血流速度の定量性を考える上で問題となるのは、血管狭窄部や血管分岐部のように血流の加速度成分以上のモーメントが無視できない領域の場合である。この領域におけるBGPは、φ2(t),φ3(t)が観測されるべき速度位相シフトφ1(t)に加算されるため、定量性を失ってしまうことである。また、MRA(MRアンギオグラフィ)においても、上記の場合、φx(t)のコヒーレンス性が無くなるとも解釈できる。これは、いわゆるflow void現象の原因ともなる。
【0022】
したがって、図1(b),(c)のような3次(triple)、4次(quadruple)の傾斜磁場パルスを用いてφ2(t),φ3(t)を補償する必要がある。それぞれのパルスをスピンの位相の制御といった観点から考えると、以下のようにまとめることができる。
【0023】
(1)bipolarの場合:φ0(t),φ1(t)の値を制御できるが、φ1(t)は補償できない。
(2)tripleの場合:φ0(t),φ1(t),φ2(t)の値を制御できるが、φ2(t)は補償できない。
(3)quadrupleの場合:φ0(t),φ1(t),φ2(t),φ3(t)の値を制御できるが、φ3(t)は補償できない。
【0024】
図1から容易に分るように、エコー時間TEは高次のパルスほど大きくなるので、式(1)から信号S(TE)の強度が小さくなりS/N比が低下してしまう。したがって、いずれの場合も、傾斜磁場システムの電気的特性(傾斜磁場強度、パルスの立上がり時間)の範囲内で、TEの最小化が要求される。そこで、次に4次の台形傾斜磁場パルスにおけるパラメータ設定と解析手法について詳述する。
【0025】
[2]4次傾斜磁場パルス図2,3にスライス傾斜磁場と読出し傾斜磁場方向での3種類のフローエンコードパルスを示す。図1と異なり、実際の傾斜磁場パルスでは傾斜磁場システムの電気的特性から、有限のパルス立ち上がり時間が存在するので、図のように傾斜磁場パルスの形状は台形となる。図の斜線部分、すなわち図2では選択励起パルスの後半部分以降、図3では傾斜磁場パルスのエコー信号までの前半部分がフローエンコードに寄与する。このようにフローエンコード用傾斜磁場パルスと、選択励起パルス、又は読み出し傾斜磁場パルスを重ねることによりTEを短くすることができる。但し、この部分である量の位相シフトが生じるので、実際のパルス設定では、その位相シフトが実効的に0となるように図の破線の位置を調整する。
【0026】
Bipolar(2次)及びTriple(3次)は、Quadruple(4次)の場合の特殊ケースと考えることができるので、以下では4次の傾斜磁場パルスについてのみ説明を行う。
【0027】
図4に設計に用いるパラメータを示す(図4はスライス方向の場合だが、読み出し方向では左右逆になるだけであるので、以下の解析がそのまま利用できる)。与えられる条件と設計パラメータは次のようになる(図4参照)。
【0028】
【外1】
【0029】
さて、フローエンコードを行なうためには速度モーメントのみの位相シフト量φ1を制御し、他のモーメントによる位相を補償しなくてはならない。そのためには、上記のパラメータを用いて式(5)の積分計算を行い、運動スピンの各モーメントに対応する位相シフトφ0,φ1,φ2を求めて、次の連立方程式を解くことが第1の問題となる。
【0030】
【数6】
【0031】
位相法では本来、振幅情報は関係しないが、位相計算の精度について信号のS/Nが問題となるので、TEを最小化しなくてはならない。したがって、図4から明らかなように、上式を満たすb3の中で、最小のb3を見出すことが第2の問題となる。
【0032】
以上の2つの問題を解くに当たっては、傾斜磁場コイル・アンプ系の電気的性による条件と画像撮影設定による条件が前記「条件」に付加される。次に上記の解法例を述べる。
【0033】
[3]解法例図5のようにパラメータを定める。位相計算の際の積分は台形傾斜磁場パルスの基本関数(図6)である。
【0034】
【数7】
【0035】
を用いて、第1、および第2以降の台形部分の積分関数を各々part(t,p,t1,t2,t3,g),trapint(t,p,t0,t1,t2,t3,g)として以下のように定義する。
【0036】
【数8】
【0037】
【数9】
【0038】
この2つの関数により位相φn(n=0,1,2:モーメント数)は
【数10】
と計算できる。与えられた初期条件tをパルスの立ち上がり時間gkの倍数としてu・gkと置換える。図4、図5から上記のパラメータは以下のように置き換えられる。
【0039】
【数11】
【数12】
【0040】
式(10)の積分計算、式(12)の置換によりφ0,φ1,φ2はそれぞれ以下のように整理できる。
【0041】
【数13】
【数14】
【数15】
【0042】
式(13),(14),(15)について式(6)の連立方程式を解く場合、パルス幅係数b1,b2,b3が与えられたとして、傾斜磁場強度係数a1,a2,a3を未知数と考える。その解を以下に示す。
【0043】
【数16】
ここで、
【数17】
【数18】
ここで、
【数19】
【数20】
ここで、
【数21】
【数22】
【数23】
【0044】
前ページの各パラメータに対する条件は、数式上は図5および式(12)より以下の通りとなる。
【0045】
【数24】
【0046】
さらに、傾斜磁場システム固有の制限値から以下の制限条件が加わる。
【0047】
【数25】
【数26】
【0048】
【数27】
ここで、Max《list》はlist中の最大値を示す。
【0049】
実際の計算ではb1,b2,b3を(24)式の条件を利用して次のように置き換え、
【数28】
【0050】
係数Δb1,Δb2,Δb3の組合せに対して前記の条件を満たすa1,a2,a3を求める。次に、それらの組合せの中で、Δb1+Δb2+Δb3が最小となる1つの組合せを探索する手順をとる。
【0051】
3次および2次のフローエンコードパルスは、図4において、それぞれ(a3=0),(a3=0とa2=0)の4次のフローエンコードパルスの特殊ケースと考えられるので、上記手法は、3次および2次のフローエンコードパルスにも、そのまま適用できる。
【0052】
次いで、本発明の一つの実施形態を図面を参照して説明する。
【0053】
この実施形態にかかる磁気共鳴イメージング装置の概略構成を図7に示す。この磁気共鳴イメージング装置は、静磁場発生用の磁石部と、静磁場に位置情報を付加するための傾斜磁場部と、MR信号受信用の送受信部と、システムコントロール及び画像再構成を担う制御・演算部とを備えている。
【0054】
磁石部は、例えば超電導方式の磁石1と、この磁石1に電流を供給する静磁場電源2とを備え、被検体Pが遊挿される円筒状の開口部のZ軸方向に静磁場H0を発生させる。なお、この磁石部には、一次のシミング用のシムコイル14が設けられ、このシムコイル14に供給する電流を調整することで、シミングが行えるようになっている。
【0055】
傾斜磁場部は、磁石1に組み込まれたX、Y、Z軸方向の3組の傾斜磁場コイル3x〜3zと、この傾斜磁場コイル3x〜3zに電流を供給する傾斜磁場電源4と、この電源4を制御するためのシーケンサ5内の傾斜磁場シーケンサ5aとを備える。この傾斜磁場シーケンサ5aはコンピュータを備え、装置全体のコントローラ6(コンピュータを搭載)からGMN法やフローエンコードを実施するFE法、SE法などに係る収集パルスシーケンスを指令する信号を受ける。これにより、傾斜磁場シーケンサ5aは、指令されたパルスシーケンスにしたがってX、Y、Z軸方向の各傾斜磁場の印加及びその強度を制御し、それらの傾斜磁場が静磁場H0に重畳可能になっている。この実施形態では、互いに直交する3軸の内のZ軸方向の傾斜磁場をスライス用傾斜磁場Gsとし、X軸方向のそれを読出し用傾斜磁場Grとし、さらにY軸方向のそれを位相エンコード用傾斜磁場Geとする。
【0056】
送受信部は、磁石1内の撮影空間にて被検体Pの近傍に配設される高周波コイル7と、このコイル7に接続された送信機8T及び受信機8Rと、この送信機8T及び受信機8Rの動作を制御するためのシ−ケンサ5内のRFシーケンサ5b(コンピュータを搭載)とを備える。この送信機8T及び受信機8Rは、RFシーケンサ5bの制御のもと、核磁気共鳴(NMR)を励起させるためのプリパルスやラーモア周波数のRF電流パルスを高周波コイル7に供給する一方、高周波コイル7が受信したMR信号(高周波信号)を受信し、各種の信号処理を施して、対応するデジタル信号を形成するようになっている。
【0057】
さらに、制御・演算部は、上述したコントローラ6のほか、受信機8Rで形成されたMR信号のデジタルデータを入力し、画像データを演算する演算ユニット10と、演算した画像データを保管する記憶ユニット11と、画像を表示する表示器12と、入力器13とを備えている。演算ユニット10は、具体的には、メモリ空間であるフーリエ空間への実測データの配置、画像再構成のためのフーリエ変換などの処理を行う。コントローラ6は傾斜磁場シーケンサ5a及びRFシーケンサ5bの同期をとりながら、両者の動作内容及び動作タイミングを制御する。
【0058】
上述のシーケンサ5から指令される4次のフローエンコードパルスを読出し傾斜磁場パルスGrに適用した場合のパルスシーケンス(FE法)を図8に示し、そのときの位相ダイヤグラムを図9に示す。図8に示すように、RF信号とともにスライス用傾斜磁場パルスGsが被検体に印加された後、位相エンコード用傾斜磁場パルスGeが印加される。この位相エンコード用傾斜磁場パルスGeと並行して読出し用傾斜磁場パルスGrの印加が開始される。
【0059】
読出し用傾斜磁場パルスGrは4次のフローエンコードパルスGfeを最初に含んでいる。このフローエンコードパルスGfeは最初、正極性側から立ち上がり、その後、負、正、負と3度極性反転する4つの台形波パルス1〜4から成る。前述したパルス設定方法にしたがって、4つの台形波パルス1〜4の面積比は原子核スピンの0次(静止)の運動モーメント及び2次(加速度)の運動モーメントに拠る位相を補償し(0にし)、且つ1次(速度)の運動モーメントに拠る位相が血流をエンコードできるように傾斜磁場強度、面積比などが設定されるとともに、4つの台形波パルス1〜4の時間幅「b3×t」を決めるパルス幅係数b3が最小となるように設定されている。
【0060】
このため、4つの台形波パルス1〜4によって被検体内の血流の原子核スピンは、図9の位相ダイヤグラムに示す如く順次エンコードされ、4つ目の台形波パルス4の印加後は、1次(速度)の運動モーメントに拠る位相φ1が流れに応じた制御値P1を採り、それ以外のモーメントに拠る位相φ0、φ2=0となる。このため、血流をその速度にしたがってフローエンコードできる。
【0061】
フローエンコードパルスGfeによるフローエンコードの後、読出し用のパルスGr′が加わり、そのパルスGr′の途中のエコーピーク時に位相が揃ってFE法に係るエコー信号が収集される。このエコー信号は、高周波コイル7、受信機8Rを介してデジタル量の信号として演算ユニット10に送られ、フーリエ変換法にしたがって画像再構成される。
【0062】
このため、血管に分岐部、狭窄部などが在って、原子核スピンの2次モーメント以上の運動成分を無視できない血流においても、2次モーメントの高次のモーメントによる位相項を補償できるとともに、4次のフローエンコードパルスは最短時間で終わる。このため、エコー時間TE自体も与えられた撮影条件下で最短になることから、収集するエコー信号の振幅が、1次モーメントのみを補償する場合に比べてもそれほど低下せず、高い値に維持できる。この結果、速度成分に対するアーチファクトを減らす一方で、S/N比が改善し、位相の演算精度が上がって、血流速度の測定精度、信頼性を向上させることができる。
【0063】
なお、本発明者の評価によれば、前述した解析的なフローエンコードパルス(傾斜磁場パルス)の最適設定によって、エコー時間TEは従来の最適設定をしない場合に比べて約半分程度になることが分かっている。
【0064】
本発明に係る別の実施形態として、本発明の傾斜磁場パルスを4次のグラジェント・モーメント・ナリング(GMN)用パルスとして読出し方向に適用したパルスシーケンス(FE法)の例を図10に示す。このGMN用パルスにも前述した解析的な設定法を適用することで、静止スピン以外の、1次モーメント以降の位相を補償できる一方で、やはりエコー時間TEを最短化させることができる。したがって、画像上のアーチファクトを減らすことができ、かつS/N比を上げて画質を向上させることができる。
【0065】
本発明に係るさらに別の実施形態として、図11には3次のフローエンコードパルスを読出し方向にて実施した場合のパルスシーケンス(FE法)を、図12には3次のGMN用パルスを読出し方向にて実施した場合のパルスシーケンス(FE法)をそれぞれ示す。これらの3次のフローエンコードパルス及びGMN用パルスも前述した方法により解析的に設定しておくことで、それらのパルス本来の位相制御・補償機能を果たすと同時に、エコー時間TEを最短化でき、前述のS/N比向上に伴う効果を得ることができ、また撮影時間も減少させることできる。
【0066】
なお、本発明に係る位相制御・補償用のGMN用パルス、フローエンコードパルスは共に、上述した読出し方向の磁場に適用する場合のほか、スライス方向、位相エンコード方向の傾斜磁場にも同様に適用することができる。
【0067】
また、上記実施形態はパルス傾斜度kが一定の場合であるが、パルスの立ち上がり時間が一定の場合も、同様に適用することができる。
【0068】
また、本発明を実施可能な磁気共鳴イメージング装置で用いるパルスシーケンスは前述したFE法に限定されず、SE法であってもよい。
【0069】
さらに、以上の傾斜磁場パルスの解折的な設定は、磁気共鳴イメージング装置とは別体のコンピュータを用いて行ってもよいし、磁気共鳴イメージング装置のコントローラ部分を使って設定してもよい。
【0070】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る傾斜磁場パルスの設定方法及び磁気共鳴イメージング装置によれば、グラジェント・モーメント・ナリング(GMN)法又はフローエンコード法に適用する傾斜磁場パルスとして時間的に前後して極性反転するように与えられた1番目から複数番目までの3つ以上の台形波パルスのうちの、第1番目の台形波パルスの振幅g,パルス幅t,及び極性反転側のパルス傾斜度kまたは立ち上がり時間を初期値として与え、この第1番目から複数番目の台形波パルスまでのそれぞれのパルス期間b1・t,b2・t,…を決める複数のパルス幅係数b1,b2,…に初期値を与え、かつ第2番目以降の台形波パルスの振幅a1・g,a2・g,…を決める傾斜磁場強度係数a1,a2,…を未知とし、MR信号S(t)の位相項φ(t)の少なくとも静止している原子核スピンによる位相項φ0(t)、速度モーメントを有する原子核スピンによる位相項φ1(t)、及び加速度モーメントを有する原子核スピンによる位相項φ2(t)の各値を前記傾斜磁場パルスの使用目的に応じた所望値に制御又は補償するように上記位相項φ(t)に関係する式を解析的に解き、この解析結果を満足させる前記複数のパルス幅係数b1,b2,…の組み合わせの中で最終番目の台形波パルスまでのパルス期間を規定する前記パルス幅係数が最小となるものを選択するようにしたため、グラジェント・モーメント・ナリング時やフローエンコード時に、原子核スピンの高次の運動モーメントに対する位相補償を行うことができるとともに、エコー時間を最短化でき、エコー信号の振幅低下を抑えてS/N比を従来よりも向上させ、MR画像の画質向上、及び、測定精度の高いフローイメージング、流速測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】2次、3次、及び4次の傾斜磁場パルスを説明する波形図。
【図2】2次、3次、及び4次のフローエンコードパルスをスライス方向に適用したときの波形図。
【図3】2次、3次、及び4次のフローエンコードパルスを読出し方向に適用したときの波形図。
【図4】4次の傾斜磁場パルスを設計するときの波形全体を規制するパラメータを説明する図。
【図5】4次の傾斜磁場パルスを設計するときの傾斜磁場強度係数を時間変化とともに説明する図。
【図6】傾斜磁場パルスを設計するときの基本関数を説明する図。
【図7】本発明の一実施形態に係るイメージング方法を実施する磁気共鳴イメージング装置の全体ブロック図。
【図8】同実施形態に係るパルスシーケンスの一例を示す波形図。
【図9】各次数のモーメントの位相の変化を示す位相ダイヤグラム。
【図10】パルスシーケンスのほかの例を示す波形図。
【図11】パルスシーケンスのさらにほかの例を示す波形図。
【図12】パルスシーケンスのさらにほかの例を示す波形図。
【符号の説明】
1 磁石
2 静磁場電源
3x…3z 傾斜磁場コイル
4 傾斜磁場電源
5 シーケンサ
6 コントローラ
7 高周波コイル
8T 送信機
8R 受信機
10 演算ユニット
Claims (9)
- 磁気共鳴(MR)イメージングのためのパルスシーケンスに組み込まれる傾斜磁場パルスを設定する方法において、
前記傾斜磁場パルスとして時間的に前後して極性反転するように与えられた1番目から複数番目までの3つ以上の台形波パルスのうちの、第1番目の台形波パルスの振幅g,パルス幅t,及び極性反転側のパルス傾斜度kまたは立ち上がり時間を初期値として与え、この第1番目から複数番目の台形波パルスまでのそれぞれのパルス期間b1・t,b2・t,…を決める複数のパルス幅係数b1,b2,…に初期値を与え、かつ第2番目以降の台形波パルスの振幅a1・g,a2・g,…を決める傾斜磁場強度係数a1,a2,…を未知とするステップと、
MR信号S(t)の位相項φ(t)の少なくとも静止している原子核スピンによる位相項φ0(t)、速度モーメントを有する原子核スピンによる位相項φ1(t)、及び加速度モーメントを有する原子核スピンによる位相項φ2(t)の各値を前記傾斜磁場パルスの使用目的に応じた所望値に制御又は補償するように上記位相項φ(t)に関係する式を解析的に解くステップと、
この解析結果を満足させる前記複数のパルス幅係数b1,b2,…の組み合わせの中で最終番目の前記台形波パルスまでのパルス期間を規定する前記パルス幅係数が最小となるものを選択するステップと、
を備えた傾斜磁場パルスの設定方法。 - 前記傾斜磁場パルスは、速度モーメントを有する原子核スピンによる位相項φ1(t)以外の位相項を補償するフローエンコードパルスである請求項1記載の傾斜磁場パルスの設定方法。
- 前記フローエンコードパルスは前記台形波パルスの数が3つである3次のフローエンコードパルスであって、前記選択ステップで選択する前記パルス幅係数は第3番目の台形波パルスに対するパルス幅係数b2である請求請2記載の傾斜磁場パルスの設定方法。
- 前記フローエンコードパルスは前記台形波パルスの数が4つである4次のフローエンコードパルスであって、前記選択ステップで選択する前記パルス幅係数は第4番目の台形波パルスに対するパルス幅係数b3である請求請2記載の傾斜磁場パルスの設定方法。
- 前記傾斜磁場パルスは、静止している原子核スピンによる位相項φ0(t)以外の位相項を補償するグラジェント・モーメント・ナリング(GMN)用パルスである請求項1記載の傾斜磁場パルスの設定方法。
- 前記グラジェント・モーメント・ナリング(GMN)用パルスは前記台形波パルスの数が3つである3次のフローエンコードパルスであって、前記選択ステップで選択する前記パルス幅係数は第3番目の台形波パルスに対するパルス幅係数b2である請求請5記載の傾斜磁場パルスの設定方法。
- 前記グラジェント・モーメント・ナリング(GMN)用パルスは前記台形波パルスの数が4つである4次のフローエンコードパルスであって、前記選択ステップで選択する前記パルス幅係数は第4番目の台形波パルスに対するパルス幅係数b3である請求請5記載の傾斜磁場パルスの設定方法。
- 前記フローエンコードパルス及びグラジェント・モーメント・ナリング(GMN)用パルスはスライス方向、位相エンコード方向、又はリード方向における磁場による空間位置情報の印加に適用した請求請2又は5記載の傾斜磁場パルスの設定方法。
- 傾斜磁場パルスを含むパルスシーケンスを用いて被検体の磁気共鳴(MR)イメージングを行う磁気共鳴イメージング装置において、
前記傾斜磁場パルスに、
時間的に前後して極性反転するように与えられた1番目から複数番目までの3つ以上の台形波パルスのうちの、第1番目の台形波パルスの振幅g,パルス幅t,及び極性反転側のパルス傾斜度kまたは立ち上がり時間を初期値として与え、この第1番目から複数番目の台形波パルスまでのそれぞれのパルス期間b1・t,b2・t,…を決める複数のパルス幅係数b1,b2,…に初期値を与え、かつ第2番目以降の台形波パルスの振幅a1・g,a2・g,…を決める傾斜磁場強度係数a1,a2,…を未知とし、
MR信号S(t)の位相項φ(t)の少なくとも静止している原子核スピンによる位相項φ0(t)、速度モーメントを有する原子核スピンによる位相項φ1(t)、及び加速度モーメントを有する原子核スピンによる位相項φ2(t)の各値を前記傾斜磁場パルスの使用目的に応じた所望値に制御又は補償するように上記位相項φ(t)に関係する式を解析的に解き、
この解析結果を満足させる前記複数のパルス幅係数b1,b2,…の組み合わせの中で最終番目の台形波パルスまでのパルス期間を規定する前記パルス幅係数が最小となるものを選択する、ことにより設定したパルスを用いるように構成したことを特徴とした磁気共鳴イメージング装置。
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