JP3568711B2 - 紡績用回転リング - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、繊維機械、特にリング精紡機、リング撚糸機等、トラベラを用いて糸を巻取る形式の紡機に用いられる紡績用回転リングに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、特開昭58−92379号、特開平3−8821号等によって、リングレールにスピンドルの回転中心と同心に固定筒を設け、この固定筒のフランジ部にスピンドルの回転中心と同心で回転するように回転筒を軸受を介して回転自在に設け、その回転筒に、スピンドル上のボビンに巻取られる糸をガイドするトラベラを円周方向に周回自在に取付けて成る紡績用回転リングが提案されている。この種の回転リングにおいては、高速回転に耐えうる軸受構造や回転筒の回転速度を制御するブレーキ機構等の多数の提案が行われているが、回転筒の回転バランスの改善については何ら考慮されていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記紡績用回転リングの実用化に当たり、種々の実験や研究の結果、この種の回転リングにおいては、固定筒に回転筒を軸受を介して回転自在に設けているので、加工機械が高精度化されたものの、今だ加工誤差等により回転筒の重量中心が軸受中心と完全に一致せず、偏重心が存在して回転筒の振れ回りによる振動を発生していることが明らかになった。また、回転筒には糸をガイドする為のトラベラを周回自在に取付けているので、このトラベラの付設による偏荷重によって回転筒に軸受中心に対する偏重心が生じ、回転筒が高速回転したときに偏重心による振れ回りを生じて大きな振動を発生することも明らかになった。
上記のように回転筒が回転振動を発生すると、回転リングの軸受抵抗が大きく変動すると共に軸受抵抗そのものが増大して回転筒やトラベラの回転性能が悪化し、糸張力のばらつきによる糸品質の劣化を招いたり糸張力の増加により糸切れを招く問題があり、また大きな振動の発生や過大な軸受抵抗の発生により軸受部が損傷して回転リングの寿命を低下させる問題がある。
なお、回転筒の偏重心による振れ回りを抑制するために回転筒の質量を増大させることも考えられるが、回転筒の質量を増大させると回転の立上り時間や停止時間が長くなって作業能率を低下させ、また糸張力が大きくなって糸継が困難になったり、軸受抵抗が大きくなって軸受寿命が短くなる等の問題を生じ、回転リングの振れ回りを抑制する手段として好ましいものではない。
【0004】
この発明の課題は、トラベラによる回転筒の動的アンバランスや回転筒自体の動的アンバランスを解消して回転筒の回転を円滑にし、トラベラで案内している糸の張力を安定させて糸品質を良くすると共に糸切れを防止できる紡出用回転リングを提供することにある。
また、この発明の課題は、回転筒の回転を円滑にすることにより紡出速度の高速化を図って生産性を高くでき、また軸受抵抗の変動や抵抗そのものを小さくして回転リングの寿命を延長できる紡出用回転リングを提供することにある。
また、この発明の課題は、トラベラによる動的アンバランスを解消することにより、使用可能なトラベラの重量範囲を大幅に拡大して紡出可能糸の範囲を広くできる紡出用回転リングを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本願の請求項1の発明は、リングレールに、スピンドルの回転中心と同心に固定筒を設け、この固定筒に前記回転中心と同心で回転するように回転筒を回転自在に設け、その回転筒に糸をガイドするためのトラベラを周回可能に取付けて成る紡績用回転リングにおいて、前記回転筒にバランス部材の移動により動的アンバランスを解消するバランス機構を設けたものである。
本願の請求項2の発明は、回転筒に筒軸線を中心とする環状の案内路を設け、その案内路にバランス用の重り部材を案内路に沿って移動自在に設けたものである。
本願の請求項3の発明は、請求項2において、案内路を、筒軸線を中心とする環状の案内空間によって構成し、その案内空間内に重り部材としての重りを移動自在に設けたものである。
【0006】
本願の請求項4の発明は、請求項2において、案内路を、筒軸線を中心とする環状の密封状態の案内空間によって構成し、その案内空間内に重り部材としての流動体を流動自在に設けたものである。
本願の請求項5の発明は、請求項2において、案内路を複数設け、夫々の案内路にバランス用の重り部材を案内路に沿って移動自在に設けたものである。
本願の請求項6の発明は、回転筒に筒軸線を中心とする環状の案内空間を設け、その案内空間内にバランス用の流動体とバランス用の重りを移動自在に設けたものである。
本願の請求項7の発明は、回転筒に筒軸線を中心とする環状の案内路を設け、その案内路に環状のバランスリングを偏心移動自在に嵌合させたものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
図1において、繊維機械のリング精紡機1のスピンドルレール2には、長手方向に所定ピッチで多数のスピンドル3が回転自在に支持されている。各スピンドル3は主モータ4によりチンプーリシャフトを介して駆動されるプーリ5やベルト6を介して回転駆動される。なお、スピンドル3は各錘毎に設けた単独モータによって回転されるようにしても良い。7はリングレールで、図示しない昇降装置により一定量の上下動(チェース)を行いつつ、そのチェース運動中にチェース位置を僅かずつ上昇させる、いわゆるシェーパ送りを行うようになっている。リングレール7には、各スピンドル3に対応して、回転リング20が取り付けられている。回転リング20は、トラベラ8を周回可能に案内しており、このトラベラ8が主モータ4又は他のモータにより回転されるドラフトローラ9から送出されてスネールワイヤ11に案内されている糸10を案内しながらスピンドル3の回りを旋回し、スピンドル3の回転数とトラベラ8の回転数の差に相当する巻数分の糸をボビン12の外周に巻取るようになっている。
【0008】
図2、図3に基づいて、回転リング20を詳細に説明する。リングレール7には、各スピンドル3と対応して固定筒22の取付孔21が、スピンドル3の回転中心Cと同心に形成されている。各取付孔21には中空の固定筒22が嵌め込まれ、固定筒22の環状フランジ部22aがリングレール7上面に当て付けられた状態で、固定筒22のリングレール7より下方に突出した環状突出部22bに形成された環状係止溝23にゴム製のセットリング24を嵌め込んで、固定筒22がリングレール7に取り付けられている。固定筒22は合成樹脂から成っており、後述の回転筒26の回転に伴う回転衝撃を緩和し、また、回転筒の回転衝撃によりリングレール7表面の塗装が剥がれて錆びが発生する事態も防止される。
【0009】
固定筒22には、内側に回転自在に嵌め込まれた軸受としての摺接リング(摺動ベアリング)25を介して回転筒26が、固定筒22の中心軸線と同心に即ちスピンドル3の回転中心Cと同心に回転自在に支承されている。摺接リング25は、固定筒22の上面に取り付けられたカバー27により、上方へ抜けないように保持されている。摺接リング25は、耐摩耗性の高い、かつ、摩擦係数の小さなエンジニアリングプラスチック、エラストマー、あるいは、金属等から構成される。
【0010】
回転筒26は、環状の金属製又は樹脂製の回転筒本体28と、その回転筒本体28の下部に設けてある環状ブレーキ部29と、回転筒本体28の中間部外周に設けてある樹脂製の防塵カバー30とで構成されている。回転筒本体28は、上端部がフランジ部31に形成され、フランジ部31には、トラベラ8が円周方向に周回自在に案内されている。回転筒本体28のフランジ部31の下方には、前記カバー27の僅か上方の位置に防塵カバー30が一体に固着されている。環状ブレーキ部29は、回転筒本体28に固着されている図3の樹脂製のブレーキリング36によって構成されている。
【0011】
ブレーキリング36は、エアブレーキ部材を構成し、リング本体37の上部に円筒状の嵌合部38が形成され、嵌合部38の下部に外方へ張り出す円環状の上側遮断壁39が形成されている。ブレーキリング36は、嵌合部38が回転筒本体28の被嵌合部28aに嵌着され、上側遮断壁39が回転筒本体28の下端部に当接されて位置決めされている。ブレーキリング36の上側遮断壁39の下部には、多数のフィン41が設けられている。各フィン41は円周方向等角度間隔で回転中心Cを中心とする放射方向の縦板状に形成されている。
各フィン41の内側には、嵌合部38と連続する円筒状の風圧遮断壁42が形成され、各フィン41をボビン12側の空間から遮蔽している。各フィン41の下側には、半径方向に延びる円環状の下側遮断壁43が形成され、各フィン41の下側を外部空間から遮蔽している。下側遮断壁43は、風圧遮断壁42の下部から固定筒22の下部に対応する部分まで張出し、固定筒22の下部との間に狭い隙間44を設けている。
ボビン12(スピンドル3)が高速定常回転となったときに、トラベラ8が回転筒26とほぼ一体回転するように、回転筒本体28とトラベラ8間の摩擦抵抗、環状ブレーキ部31による周囲の空気に対する回転抵抗が設定されている。
【0012】
前記回転筒28には、バランス部材の移動により回転中心に対する動的アンバランスを解消するバランス機構50が設けられている。図2に示すバランス機構50は、回転筒本体26の中間部内周面に筒軸線を中心とする環状の案内路52を設け、その案内路52にバランス部材としての重り部材51を案内路52に沿って移動自在に設けて構成されている。案内路52は、筒軸線を中心とする環状の案内空間53によって構成されている。案内空間53は、回転筒本体28の内面に筒軸線を中心とする環状の案内溝54を形成し、案内溝53の内周側の開口部を回転筒本体28に固着した樹脂製の閉鎖リング55で塞いで形成されている。案内路52は、案内空間53に代えて、外周側又は内周側に向けて突出している環状の案内レールで構成しても良く、その場合、重り部材は案内レールにトラベラのように周回自在に取付ける。
【0013】
重り部材51は、案内空間52内にその内周面に沿って転動自在に設けた球形状の重り59(ボール59とも言う。)によって構成されている。この重り59は、金属製、樹脂製、セラミック製等の球を利用すれば良い。案内空間52内に入れるボール59の数は、1つでも、或いは複数でも良いが、1つの場合には予めバランスするように重量設定しておく必要があるので、予めそのような設定を必要としない2つ以上にすることが好ましい。また、案内空間52にボール59を複数入れる場合、各ボール59の大きさ、材質、重さは別々でも良く、同じにする必要はない。図4では、案内空間52内に同じ重り59を2個設けた場合を示している。
なお、重り部材51は、球状の重り59の代わりに、円弧状の丸棒又は角棒で構成しても良いし、円柱状のコロによって構成しても良い。重り部材51は、案内路52に沿って移動自在に設けた移動部材であればその形状に特定されるものではなく、案内空間や案内レールに摺動自在に設ける摺動片でも良い。
案内空間53内には、必要に応じて、ボール59の過渡応答を避けるためグリースを少量塗布しても良い。その場合、案内空間53は、外部空間に対して密封状態に閉鎖する。
【0014】
次に、上記紡績用回転リングの作用効果について説明する。精紡機1の主モータ4を起動し、スピンドル3を回転すると共に、リングレール7にチェースとシェーパ送りを与えて、ドラフトローラ9から送り出されてくる糸10を、スネールワイヤ11、トラベラ8を経てボビン12の外周に巻取り、管糸を形成していく。スピンドル3が回転されるとトラベラ8も回転し、トラベラ8と回転筒26の間の摩擦により回転筒26も回転する。スピンドル3の回転が高速の定常状態となると、トラベラ8に加わる遠心力により、トラベラ8が回転筒26のフランジ部31に強く接触した状態となるので、両者はほぼ一体に回転し、トラベラ8が回転筒26に対して殆ど相対回転しないため、高速回転してもトラベラ8の摩耗が小さく抑えられ、その寿命を長くできる。
【0015】
スピンドル3の回転が高速の定常状態となると、回転筒26もトラベラ8と一体になって高速回転されるが、回転筒26にはそれ自体の加工精度によって軸受中心Cとの間に偏重心が生じる上にフランジ部31に装着したトラベラ8による偏荷重により軸受中心Cとの間に偏重心が生じ、回転リング20に、回転筒26の動的アンバランスによって回転筒26の振れ回りによる振動を発生することになる。ところが、回転筒26には、回転筒本体28に筒軸線を中心とする環状の案内空間53を設け、その案内空間53内に球形状の2個の重り59を移動自在に設けたバランス機構50を備えているので、このバランス機構50の重り59が案内空間53内を移動して回転筒26の偏重心がバランスされ、回転筒26の動的アンバランスが解消されて回転筒26の回転が円滑になる。
【0016】
一般に、振動系の回転体に移動自在な球状の重り部材を同心に周回移動自在に設けて置くことにより、その回転体が偏重心により振れ回りする場合、その振動系の共振点を境にして共振点以下では偏重心が振れの外側に、共振点以上では偏重心が振れの内側に配されることになり、球状の重り部材は常に振れの外側に配されるので、共振点以上では回転体の偏重心と重り部材とに作用する遠心力が互いに相殺することが知られている。
回転リング20における回転筒26の回転はスピンドル3の回転によって例えば15,000回転以上の高速回転に立ち上げられるので、回転筒26の回転数は常に共振点以上で使用されると考えることができる。回転筒26が高速回転されると、案内空間53内の2個の重り59は回転筒26の偏重心側即ちトラベラ8が位置する側とは反対側に直ちに転動し、トラベラ8等に起因する回転筒26の偏重心に作用する遠心力を2個の重り59に作用する遠心力によってバランスさせて回転筒26の振れ回りを抑制して振動を軽減し、その結果回転筒26は振動の少ない円滑な安定した回転が持続されることになる。2個の重り59の重さは回転筒26の偏重心の大きさに対応した適宜のものを設定するが、2個の重り59が案内空間53内を適宜移動してバランスできる範囲内であれば任意の大きさにすれば良い。
【0017】
回転筒26が回転すると、ブレーキリング36の各フィン41が一体に回転し、回転筒26には、各フィン41と空気との間の空気摩擦抵抗によって適度な回転制動力を生じる。この場合、ブレーキリング36の内側部分に風圧遮断壁42が設けられているので、ボビン12の回転によって発生した旋回気流が各フィン41に作用しなくなり、回転筒26の減速が良好に行われる。従って、リングレール7が下降から上昇に切り変わって回転筒26の周速度(チェース運動するときボビン径が上部より下部の方が大きいのでトラベラ8の回転速度は上部より下部のときが速くなる。)が増速から減速に変わると、ブレーキリング36のブレーキ力によって回転筒26及びトラベラの回転速度が理想速度のように減速されることになる。その結果、チェース運動の度に回転筒26及びトラベラ8の減速が一時的に遅れてバルーニングが崩壊するのを防止でき、隣合うスピンドル3間を仕切っているセパレータ(図示なし)に糸10が接触するのを回避できて糸切れを防止できる。
【0018】
また、ブレーキ力により回転筒26の回転速度がトラベラ8の回転速度を越えてしまう現象を回避でき、スピンドル停止時においては、回転筒26とトラベラ8とを同期して停止でき、トラベラ8の近傍において糸10が乱れる所謂スナール現象を回避できる。
また、各フィン41が、上下側と半径方向内側を閉鎖されて半径方向外側が開放された状態で旋回し、しかも各フィン41が上側遮断壁39、下側遮断壁43、風圧遮断壁42及び固定筒22の内面によって囲まれた閉鎖空間で旋回されるので、各フィン41が空気を切りながら回転する度合いが抑制され、過度のブレーキ力が作用することがなくなり、その結果スピンドル3がボビン12、トラベラ8、回転筒26を回転させるのに要する駆動エネルギを節減でき、精紡機のランニングコストを低くできる。
【0019】
また、摺接リング25に接触する空間がブレーキリング36と固定筒26の間を経て放射方向の隙間44によって外部空間に連通しているので、ブレーキリング36の回転により隙間44に放射方向の空気の流れを起こして摺接リング25部分に空気の流れを生じ、その結果摺接リング部分で発生する熱を効率良く放熱できて回転筒26の円滑な回転を長期に亘って担保できる。
【0020】
図5は、第2実施形態を示し、案内筒本体28の内周面に形成した環状の嵌合溝70に環状の密封状態の案内空間53Eを形成している樹脂製の環状の案内部材71を嵌着し、その案内空間53E内に重り部材51としての流動体72を高さの半分程度迄流動自在に入れたものである。流動体72としては、水、塩水、油等で良いが、他の液体でも良く、液体以外の粉体又は粒子状物でも良い。
この実施形態では、回転筒26が回転すると、回転筒26の偏重心とは反対側に流動体72が流動し、その流動体72に作用する遠心力によって回転筒26の動的アンバランスを円滑にかつ静かに解消する。
【0021】
図6は、第3実施形態を示し、案内筒本体28の内周面に形成した環状の嵌合溝70Fに環状の密封状態の案内空間53Fを形成している樹脂製の環状の案内部材71を嵌着し、その案内空間53F内に重り部材51としての1つ以上の球状のボール59Fと水、油、粉体等の流動体72Fを高さの半分程度迄流動自在に入れたものである。
この実施形態では、回転筒26が回転すると、回転筒26の偏重心とは反対側にボール59Fと流動体59Fが流動し、そのボール59Fと流動体59Fに作用する遠心力によって回転筒26の動的アンバランスを円滑にかつ静かに解消する。その場合、ボール59Fの移動速度を流動体72Fによって小さくでき、その結果ボール59Fの過度応答を避けることができ、回転筒26が共振周波数近辺で回転する場合でも、回転筒26の回転を円滑にできる。
【0022】
図7は、第4実施形態を示し、案内筒本体28の内周面に形成した環状の嵌合溝70Gに仕切壁75を有する樹脂製の閉鎖リング76を回転筒本体28に固着して嵌合溝70G内に上下2つの案内空間53Gを形成している。2つの案内空間53Gには、夫々1つ以上のボール59Gが転動自在に入れられている。夫々の案内空間53Gに入れるボール59Gの重量は等しくても異なっても良い。
この実施形態では、回転筒26が回転すると、2つの案内空間53G内のボール59Gが夫々回転筒26の偏重心とは反対側に転動し、それらのボール59Gに作用する遠心力によって回転筒26の動的アンバランスを円滑に解消する。
【0023】
図8は、第5実施形態を示し、案内筒本体28の内周面に形成した環状の嵌合溝70Hに密封状態の案内空間53Hを上下2段に2つ形成している樹脂製の環状の案内部材71Hを嵌着し、これらの2段の案内空間53H内に流動体72Hを高さの半分以上程度迄等量ずつ流動自在に密封したものである。夫々の流動体72Hの粘度を異にし、流動速度を違えるようにしても良い。
この実施形態では、回転筒26が回転すると、2つの案内空間53H内の流動体72Hが回転筒26の偏重心とは反対側に別々に流動し、それらの流動体72Hに作用する遠心力によって回転筒26の動的アンバランスを円滑にかつ静かに解消する。
【0024】
図9は、第6実施形態を示し、案内筒本体28の内周面に形成した環状の嵌合溝70Iに密封状態の案内空間53Iを上下2段に2つ形成している樹脂製の環状の案内部材71Iを嵌着し、これらの2段の案内空間53I内に流動体72Iを夫々異なる量ずつ流動自在に密封したものである。
この実施形態では、回転筒26が回転すると、2つの案内空間53I内の流動体72Iが回転筒26の偏重心とは反対側に別々に異なる量ずつ流動し、それらの流動体72Iに作用する遠心力によって回転筒26の動的アンバランスを円滑にかつ静かに解消する。
【0025】
図10は、第7実施形態を示し、案内筒本体28の内周面に形成した環状の嵌合溝70J内に環状の断面丸形の案内空間53Jを形成する案内管78を充填剤79によって埋設し、その案内管78の案内空間53J内にボール59Jを転動自在に入れたものである。案内空間53Jの断面積の直径とボール59Jの直径とを調整してボール59Jの外周と案内管78内周との間の隙間を小さくすることによってボール59Jに働く過度応答を回避できる。
この実施形態では、回転筒26が回転すると、案内管78内のボール59Jが回転筒26の偏重心とは反対側に緩やかに転動し、そのボール59Jに作用する遠心力によって回転筒26の動的アンバランスを効率良く解消する。
【0026】
図11は、第8実施形態を示し、回転筒本体28の外周面に筒軸線を中心とする環状の案内溝54Kを形成し、案内溝53Kの外周側の開口部を回転筒本体28に固着した閉鎖リング55Kで塞いで環状の案内空間53Kが形成されている。案内空間53K内には1つ以上のボール59Kが転動自在に入れられている。この実施形態では、図2の実施形態と同様にボール59Kが回転筒26の偏重心とは反対側に転動して回転筒26の動的アンバランスを解消する。
【0027】
図12は、第9実施形態を示し、回転筒本体28の内周面に筒軸線を中心とする環状の案内溝54Lを外周側部程高くなるように斜めに傾斜させて形成し、その傾斜案内溝54Lの内周側の開口部を回転筒本体28に固着した閉鎖リング55Lで塞いで環状の傾斜案内空間53Lが形成されている。傾斜案内空間53L内には1つ以上のボール59Lが転動自在に入れられ、所定の回転速度迄はボール59Lが内周側の下端部に位置保持されるようにしている。
この実施形態では、回転筒26が共振点以上の回転速度になる迄はボール59Lが傾斜案内空間53Lの内壁と閉鎖リング55Lの外周面との摩擦力又は下端部のみに設けた図示しない係止片等によって円周方向の移動が阻止され、共振点以上になるとボール59Lが遠心力により上昇されて回転筒26の偏重心とは反対側に転動し、回転筒26の動的アンバランスを解消する。
【0028】
図13は、第10実施形態を示し、回転筒本体28の内周面に設けた環状の傾斜案内溝54Mの内周側の開口部を回転筒本体28に固着した閉鎖リング55Mで塞いで傾斜案内空間53Mが形成され、その傾斜案内空間53Mの底部に筒軸線を中心とする浅い環状凹溝80が複数本形成されている。傾斜案内空間53M内には1つ以上のボール59Mが転動自在に入れられ、所定の回転速度迄はボール59Mが所定の環状凹溝80に位置保持されるようにしている。
この実施形態でも、回転筒26が共振点以上の回転速度になる迄はボール59Mが傾斜案内空間53M内の環状凹溝80に位置保持され、共振点以上になるとボール59Mが遠心力により上昇されて回転筒26の動的アンバランスを解消する。
【0029】
図14は、第11実施形態を示し、回転筒本体28の下端部に環状の切欠部81を形成し、回転筒本体28の下端部に樹脂製のブレーキリング36を嵌着してブレーキリング36との間に環状の案内空間53Nが形成され、その案内空間53Nに1つ以上の金属製のボール59Nが転動自在に入れられている。
この実施形態では、案内空間53Nの底面が樹脂製であるので、金属製のボール59Nが転動するときに金属どうしの摺動を避けることができ、摩耗や騒音発生を少なくできる。また、案内空間53Nを形成するための専用の閉鎖リングを省くことができる。
【0030】
図15は、第12実施形態を示し、回転筒本体28のフランジ部31の上面に環状溝54Pを設け、その環状溝54Pの上側をフランジ部31に固着した閉鎖リング55Pによって閉鎖して環状の案内空間53Pが形成されている。案内空間53Pには1つ以上のボール59Pが転動自在に入れられている。
この実施形態では、回転筒26の偏重心の主な原因となっているトラベラ8の位置と同じ高さ位置で回転筒26の動的アンバランスをバランスさせることができ、回転筒26の振動を効率良く解消できる。
【0031】
図16は、第13実施形態を示し、防塵カバー30の上面に環状溝54Qを設け、その環状溝54Qの上側を防塵カバー30に固着した閉鎖リング55Qによって閉鎖して環状の案内空間53Qが形成されている。案内空間53Qには1つ以上のボール59Qが転動自在に入れられている。
この実施形態では、案内空間53Qを防塵カバー30に設けているので、回転筒26に対する加工を省くことができ、回転筒26の加工精度を高く維持でき、また防塵カバー30を樹脂製とすることで案内空間53Qを容易に設けることができる。
【0032】
図17は、第14実施形態を示し、防塵カバー30の上面に環状溝54Rを設け、その環状溝54Rの上側を防塵カバー30に固着した閉鎖リング55Rによって閉鎖して環状の案内空間53Rが水密に形成されている。案内空間53Rには流動体72Rが流動自在に密封されている。
この実施形態でも、案内空間53Rを防塵カバー30に設けているので、回転筒26に対する加工を省くことができ、また防塵カバー30を樹脂製とすることで案内空間53Rを容易に設けることができる。
【0033】
図18は、第15実施形態を示し、回転筒本体28の外周面に筒軸線を中心とする環状の案内溝54Sを形成し、案内溝54Sの外周側の開口部を回転筒本体28に固着した防塵カバー30で塞いで環状の案内空間53Sが形成されている。環状の案内空間53S内には筒軸線を中心とする環状のバランスリング85が円周方向移動可能でかつ偏心移動自在に嵌合されている。バランスリング85は案内空間53S内に移動自在に収容され、遠心力により移動して外周面又は内周面が案内空間53Sの内周面に当接するようになっている。
この実施形態では、回転筒26が回転すると、バランスリング85が回転筒26の偏重心とは反対側に移動し、そのバランスリング85に作用する遠心力によって回転筒26の動的アンバランスを解消する。また、案内空間53Sを形成するための専用の閉鎖リングを省くことができる。
【0034】
図19は、第16実施形態を示し、回転筒本体28の軸受部より下側の外周面に筒軸線を中心とする環状の案内溝54Tを形成し、開放状態の環状の案内空間53Tが形成されている。案内溝53Tの開口部は固定筒22の内周面によって囲まれ、外部に露出されることはない。環状の案内空間53T内には筒軸線を中心とする環状のバランスリング85Tが円周方向移動可能でかつ偏心移動自在に嵌合されている。バランスリング85Tは案内空間53T内に移動自在に収容され、遠心力により移動して内周面が案内空間53Tの内周面即ち回転筒本体28に当接するようになっている。
この実施形態では、回転筒26が回転すると、バランスリング85が回転筒26の偏重心とは反対側に移動して回転筒26の動的アンバランスを解消する。また、案内空間53Tを形成するための閉鎖リングを不要にできる。
【0035】
図20は、案内筒の案内空間内に設ける重り部材51とトラベラ8とのバランスの関係を模式的に示すもので、(a)は案内空間内にトラベラ8と等重量の重り59を1個設けた場合、(b)は案内空間内にトラベラ8と等重量の重り59を2個設けた場合、(c)は案内空間内にトラベラ8と等重量の重り59を3個設けた場合、(d)は案内空間内にトラベラ8と等重量の重り59とトラベラ8の半分の重量の重り59aとを設けた場合、(e)は1つの案内空間内に流動体(液体)72を密封した場合、(f)は2つの案内空間内に夫々異なる量の流動体(液体)72を密封した場合を示している。
【発明の効果】
以上のように請求項1の発明では、回転筒にバランス部材の移動により動的アンバランスを解消するバランス機構を設けたので、回転筒自体やトラベラの案内に起因する動的アンバランスを解消して回転筒の回転を円滑にでき、使用可能なトラベラの重量範囲を拡大できて紡出可能糸の範囲を広くでき、また、回転筒の振れ回りによる振動を防止できて糸張力を安定させることができ、その結果糸品質を良くできると共に巻取速度を高速化できて生産性を高くできる。また、回転筒の振動防止により軸受抵抗の変動や抵抗そのものを小さくできて回転リングの寿命を延長できる。
また、請求項2の発明では、回転筒に環状の案内路を設け、その案内路に重り部材を移動自在に設けているので、回転筒の回転によって重り部材が案内路に案内されて回転中心に対して偏重心とは反対側に容易に移動し、簡易な構成によって回転筒の動的アンバランスを効率良く解消できる。
また、請求項3の発明では、回転筒に設けた環状の案内空間に球状の重りを転動自在に設けているので、回転筒の動的アンバランスを重りの転動によって直ちに解消でき、回転筒の動的アンバランスを確実に解消できる。
また、請求項4の発明では、密封状態の案内空間内にバランス用の流動体を流動自在に設けているので、流動体の流動によって円滑にかつ静かに回転筒の動的アンバランスを効率良く解消できる。
また、請求項5の発明においては、案内路を複数設け、夫々の案内路にバランス用の重り部材を移動自在に設けているので、重り部材が各案内路を任意に移動して回転筒の動的アンバランスを効率良く解消できる。
また、請求項6の発明では、案内空間に流動体と重錘を移動自在に設けているので、流動体の流動と重錘の移動により回転筒の動的アンバランスを効率良く解消できる。
また、請求項7の発明では、回転筒に設けた環状の案内路に環状のバランスリングを偏心移動自在に嵌合させているので、バランスリングの偏心移動によって回転筒の動的アンバランスを解消できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】精紡機のスピンドル部を示す説明図である。
【図2】回転リングの第1実施形態を示す断面図である。
【図3】環状ブレーキ部を示す斜視図である。
【図4】バランス機構の案内空間を示す断面図である。
【図5】回転リングの第2実施形態を示す断面図である。
【図6】回転リングの第3実施形態を示す断面図である。
【図7】回転リングの第4実施形態を示す断面図である。
【図8】回転リングの第5実施形態を示す断面図である。
【図9】回転リングの第6実施形態を示す断面図である。
【図10】回転リングの第7実施形態を示す断面図である。
【図11】回転リングの第8実施形態を示す断面図である。
【図12】回転リングの第9実施形態を示す断面図である。
【図13】回転リングの第10実施形態を示す断面図である。
【図14】回転リングの第11実施形態を示す断面図である。
【図15】回転リングの第12実施形態を示す断面図である。
【図16】回転リングの第13実施形態を示す断面図である。
【図17】回転リングの第14実施形態を示す断面図である。
【図18】回転リングの第15実施形態を示す断面図である。
【図19】回転リングの第16実施形態を示す断面図である。
【図20】重り部材とトラベラとのバランスの関係を示す説明図である。
【符号の説明】
3 スピンドル
8 トラベラ
22 固定筒
26 回転筒
28 回転筒本体
29 環状ブレーキ部
30 防塵カバー
31 フランジ部
33 フィン
36 ブレーキリング
50 バランス機構
51 重り部材
52 案内路
53 案内空間
59 重り
72 流動体
85 バランスリング

Claims (7)

  1. リングレールに、スピンドルの回転中心と同心に固定筒を設け、この固定筒に前記回転中心と同心で回転するように回転筒を回転自在に設け、その回転筒に糸をガイドするためのトラベラを周回可能に取付けて成る紡績用回転リングにおいて、前記回転筒にバランス部材の移動により動的アンバランスを解消するバランス機構を設けて成る紡績用回転リング。
  2. リングレールに、スピンドルの回転中心と同心に固定筒を設け、この固定筒に前記回転中心と同心で回転するように回転筒を回転自在に設け、その回転筒に糸をガイドするためのトラベラを周回可能に取付けて成る紡績用回転リングにおいて、前記回転筒に筒軸線を中心とする環状の案内路を設け、その案内路にバランス用の重り部材を案内路に沿って移動自在に設けて成る紡績用回転リング。
  3. 案内路を、筒軸線を中心とする環状の案内空間によって構成し、その案内空間内に重り部材としての重りを移動自在に設けて成る請求項2記載の紡績用回転リング。
  4. 案内路を、筒軸線を中心とする環状の密封状態の案内空間によって構成し、その案内空間内に重り部材としての流動体を流動自在に設けて成る請求項2記載の紡績用回転リング。
  5. 案内路を複数設け、夫々の案内路にバランス用の重り部材を案内路に沿って移動自在に設けて成る請求項2記載の紡績用回転リング。
  6. リングレールに、スピンドルの回転中心と同心に固定筒を設け、この固定筒に前記回転中心と同心で回転するように回転筒を回転自在に設け、その回転筒に糸をガイドするためのトラベラを周回可能に取付けて成る紡績用回転リングにおいて、前記回転筒に筒軸線を中心とする環状の案内空間を設け、その案内空間内にバランス用の流動体とバランス用の重錘を移動自在に設けて成る紡績用回転リング。
  7. リングレールに、スピンドルの回転中心と同心に固定筒を設け、この固定筒に前記回転中心と同心で回転するように回転筒を回転自在に設け、その回転筒に糸をガイドするためのトラベラを回転可能に取付けて成る紡績用回転リングにおいて、前記回転筒に筒軸線を中心とする環状の案内路を設け、その案内路に環状のバランスリングを偏心移動自在に嵌合させて成る紡績用回転リング。
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