JP3568561B2 - 安定化金属層を備えた酸化物超電導導体の構造 - Google Patents

安定化金属層を備えた酸化物超電導導体の構造 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、安定化金属層を備えた酸化物超電導導体の製造方法に関するもので、この種の酸化物超電導導体は、超電導マグネット、超電導発電機、エネルギー貯蔵、電力輸送などへの応用開発が進められているものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、レーザ蒸着法やCVD法などの成膜法により、テープ状の基材上に酸化物超電導層を形成して超電導導体を形成することがなされている。そして、この種の成膜法によって形成した薄膜状の酸化物超電導層は、従来知られている酸化物超電導体の構成元素の粉末を銅パイプに充填し、それに縮径加工を施し、更に熱処理を施して得られる形式の超電導導体よりも高い臨界電流密度(Jc)を示すことが知られている。また、この種の超電導導体は、液体窒素温度(77K)で冷却して超電導状態とした上で磁場を作用させた場合に、磁場による超電導特性の劣化割合も少ないとされているので、この種のテープ状の酸化物超電導導体を用いてコイル加工を施し、小型で軽量の超電導マグネットを製造する試みがなされている。
【0003】
ところが、金属テープなどの長尺の基材の上に酸化物超電導層を直接成膜すると、金属テープが多結晶体であり、金属テープの結晶構造が、酸化物超電導層の結晶構造と大きく異なり、しかも、結晶の配向性も揃っていない関係から、その上に成膜される酸化物超電導層の結晶配向性も乱れたものになり、結晶配向性が乱れた酸化物超電導層では、良好な超電導特性が得られない問題がある。
また、金属テープと酸化物超電導層では熱膨張係数が大きく異なるので、酸化物超電導層を形成する際に施す熱処理時の加熱冷却処理の際に、熱膨張係数の違いに起因する熱歪が蓄積され、場合によっては酸化物超電導層にクラックを生じさせてしまい、臨界電流密度が大幅に低下する問題がある。
更に、前記熱処理の際に、金属テープと酸化物超電導層との間に元素の拡散現象を生じると、金属テープの構成元素の一部が酸化物超電導層側に拡散するか、酸化物超電導層の構成元素の一部が金属テープ側に拡散することになり、いずれにしても酸化物超電導層の組成が崩れて超電導特性が劣化する問題がある。
【0004】
そこで従来、金属テープの上に結晶配向性の優れた中間層、例えば、MgOやSrTiO、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)などのような酸化物超電導体と結晶構造の類似した中間層を形成し、この中間層上に酸化物超電導層を成膜することで、金属テープなどの長尺の基材上に結晶配向性の優れた酸化物超電導層を形成することがなされている。
このような中間層を金属テープと酸化物超電導層の間に形成するならば、熱膨張係数の差異に起因する熱歪の蓄積を緩和することができ、酸化物超電導層と金属テープとの間の元素拡散も抑制できるので、特性の優れた酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体を得ることができる。
【0005】
そこで本発明者らは、ハステロイからなる金属テープの上にイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)の中間層を形成し、この中間層上に酸化物超電導体の中でも安定性に優れたYBaCuO系の超電導体からなる超電導層を形成することで超電導導体を製造し、この超電導導体についてコイル加工を施してみた。
まず、幅10mm、厚さ0.1mmのハステロイからなる金属テープを用い、この金属テープ上に厚さ0.5μmのYSZの中間層をスパッタ装置によって形成し、この中間層上にレーザ蒸着装置によって厚さ約1.0μmのYBaCu7−xなる組成の酸化物超電導層を形成して超電導導体を得た。
この超電導導体の臨界電流密度(Jc)は、特にコイル加工を施していない直線状態のままにおいて、液体窒素温度(77K)、磁場0テスラの条件において1×10A/cmの値を示した。
【0006】
次にこの試料を複数用意し、これらについて種々の曲げ半径で曲げ加工を施し、得られた各コイルについて液体窒素温度(77K)、磁場0テスラの条件で臨界電流密度を測定した結果を図8に示す。なお、この曲げ加工時においては、所定の径の巻胴に対し、基材を内側に位置するように、かつ、酸化物超電導層を外側に位置するように巻回して曲げ加工したものは酸化物超電導層に対して引張歪を負荷するものとし、その逆に、基材を外側に位置するように、かつ、酸化物超電導層を内側に位置するように巻回して曲げ加工したものは酸化物超電導層に対して圧縮歪を負荷するものとして評価した。
【0007】
ところで、種々の曲げ半径(r)に伴って酸化物超電導層に負荷される歪は、以下の計算式を採用して算出することが一般的である。
歪(ε%)=(t/2r)×100
なお、この式において、εはテープ表面に加わる歪、tはテープ全体の厚み、rは曲げ半径の値を示す。
【0008】
更に、図8の縦軸は、コイル加工前の状態における超電導テープの臨界電流密度をJc(0)とし、所定の歪を負荷した場合の臨界電流密度をJcとして、両者の比、Jc/Jc(0)の値を求めた結果を示す。従って、歪が0の場合、即ち、超電導テープをコイル加工していない直線状態では、データは1.00を示している。
【0009】
図8に示す結果から明らかなように、コイル加工を施した場合の臨界電流密度の変化状態を見ると、歪が0.2%までは臨界電流密度の低下割合は小さいが、歪が0.2%を超えると大きく低下し始め、歪が0.25%を超えた場合、コイル加工していない試料の80%を割ってしまい、歪が0.3%の場合ではコイル加工前の臨界電流密度の50%以下に低下してしまう問題を生じた。
【0010】
一方、本発明者らは、ハステロイテープなどの金属テープの上にYSZの中間層を形成し、この中間層上に酸化物超電導体の中でも安定性に優れたYBaCuO系の超電導体からなる超電導層を形成することで超電導特性の優れたテープ状の超電導導体を製造する試みを種々行なっている。
【0011】
このような試みの中から本発明者らは先に、結晶配向性に優れた中間層を形成するために、あるいは、超電導特性の優れた超電導導体を得るために、特願平3ー126836号、特願平3ー126837号、特願平3ー205551号、特願平4ー13443号、特願平4ー293464号などにおいて特許出願を行なっている。
これらの特許出願に記載された技術によれば、ハステロイテープなどの金属テープの基材上にスパッタ装置により中間層を形成する際に、スパッタリングと同時に基材成膜面の斜め方向からイオンビームを照射しながら中間層を成膜することにより、結晶配向性に優れた中間層を形成することができるものである。この方法によれば、中間層を形成する多数の結晶粒のそれぞれの結晶格子のa軸あるいはb軸で形成する粒界傾角を30度以下に揃えることができ、結晶配向性に優れた中間層を形成することができる。そして更に、この配向性に優れた中間層上に酸化物超電導層を成膜するならば、酸化物超電導層の結晶配向性も優れたものになり、これにより、結晶配向性に優れた臨界電流密度の高い酸化物超電導層を形成することができる。
【0012】
次に本発明者らは、このような優れた超電導特性を有するテープ状の超電導導体を用いて超電導コイルを製造するために、前記良好な結晶配向性を有する超電導導体について曲げ加工を施す試験を行なった。
まず、幅10mm、厚さ0.1mmのハステロイからなる金属テープを用い、この金属テープ上に、厚さ0.5μmのYSZの中間層をスパッタ装置とイオンビーム照射装置を用いて前述の特許出願に係る方法で形成した。
具体的には、YSZのターゲットを用いて金属テープ上にスパッタリングを行なって中間層を形成する際に、基材上面に対して55度の角度からイオンビーム照射装置によりアルゴンと酸素の混合イオンを照射しながら成膜し、次いで得られた中間層上にレーザ蒸着装置によって厚さ約1.0μmのYBaCu7−xなる組成の酸化物超電導層を形成して超電導導体を得た。
【0013】
この超電導導体の臨界電流密度(Jc)は、特にコイル加工を施していない直線状態のままにおいて、液体窒素温度(77K)、磁場0テスラの条件において1×10A/cmの値を示し、特に優れた超電導特性を有している。
【0014】
次に、前記のように結晶配向性を整えた中間層を有する超電導導体を複数用意し、これらについて種々の曲げ半径で曲げ加工を施し、得られた各超電導コイルについて液体窒素温度(77K)、磁場0テスラの条件で臨界電流密度を測定した結果を図9に示す。なお、曲げ加工条件や歪の算出方法は、前記の例の場合と同等である。
【0015】
図9に示す結果から明らかなように、コイル加工を施した場合の臨界電流密度の変化状態を見ると、歪が大きくなる毎に少しずつ臨界電流密度が低下し始め、歪が0.3%を超えた場合、コイル加工していない試料の90%を下回り、更に歪が0.45%を超えた場合、コイル加工していない試料の80%を割って76%程度になってしまう問題を生じた。
【0016】
以上のことから、中間層の結晶を配向させていない酸化物超電導導体は勿論、中間層を結晶配向させた酸化物超電導導体においても、いずれにしても曲げ加工を施す超電導特性の劣化を生じることが明かになった。
【0017】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、基材と中間層と酸化物超電導層と安定化金属層を有する構造のテープ状の酸化物超電導導体を曲げ加工した場合に酸化物超電導層に負荷される歪を低減して酸化物超電導導体の臨界電流密度の低下割合を少なくすることができ、臨界電流密度を高くできる構造を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は前記課題を解決するために、テープ状の基材上に中間層を介して酸化物超電導層を形成し、この酸化物超電導層上に良導電性の安定化金属層を形成するとともに、前記基材と中間層を合わせた部分の厚さに対する、前記安定化金属層の厚さを同一または9 . 5%以下の差異の厚さに形成してなるものである。
【0019】
請求項2記載の発明は前記課題を解決するために、テープ状の基材上に中間層を介して酸化物超電導層を形成し、この酸化物超電導層上に、Ag、Ptなどの貴金属またはその合金製の良導電性の下地安定化薄膜と、CuまたはAlなどの良導電製の安定化層からなる安定化金属層を形成するとともに、前記基材と中間層を合わせた部分の厚さに対する、前記安定化金属層を合わせた部分の厚さを同一または9 . 5%以下の差異にしてなるものである。
【0020】
【作用】
本発明においては、基材上に中間層を介して酸化物超電導層を形成し、その上に基材と中間層を合わせた厚さと同一または9 . 5%の差異以内の厚さの安定化金属層を設けているので、全体をコイル加工などのように曲げ加工する際に、基材の上に設けられた酸化物超電導層に対しては基材から見ると引張歪が負荷されるが、安定化金属層から見るとその下側に酸化物超電導層が設けられていて安定化金属層から酸化物超電導層に対して圧縮歪が負荷されるので、両者の負荷がバランスする結果、酸化物超電導層に対する実際の応力負荷が軽減される結果として、酸化物超電導層に歪がかかりにくい構成であり、酸化物超電導層に曲げ加工を施しても超電導特性の劣化を生じにくい。
【0021】
また、下地安定化薄膜と安定化層を酸化物超電導層上に形成した構造の酸化物超電導導体においても、基材と中間層を合わせた部分の厚さと、下地安定化薄膜と安定化層を合わせた安定化金属層部分の厚さを同一または9 . 5%の差異以内の厚さにすることで前記と同等の効果を得ることができる。即ち、この構造においても、全体をコイル加工などのように曲げ加工する際に、基材の上に設けられた酸化物超電導層に対しては基材と中間層から見ると引張歪が負荷されるが、下地安定化薄膜と安定化層からなる安定化金属層から見るとその下側に酸化物超電導層が設けられていて安定化金属層から酸化物超電導層に対して圧縮歪が負荷されるので、両者の負荷がバランスする結果、酸化物超電導層に対する実際の応力負荷が軽減される結果として、酸化物超電導層に歪がかかりにくい構成であり、酸化物超電導層に曲げ加工を施しても超電導特性の劣化を生じにくい。
更に、基材上に中間層を介して酸化物超電導層を設け、かつ、前記の如くAgなどの貴金属やその合金の下地安定化薄膜と良導電性金属材料製の安定化層を酸化物超電導層上に形成した構造を採用すると、酸化物超電導層の熱処理時において、酸化物超電導層の構成元素と基材の構成元素が相互拡散することを中間層が抑制するとともに、酸化超電導層の構成元素と安定化層の構成元素が相互拡散することを安定化薄膜が抑制するので、熱処理によって酸化物超電導層の超電導特性が劣化することがない。
【0022】
【実施例】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
図1は本発明の第1実施例を示すものであって、この例の酸化物超電導導体Aは、テープ状の基材1の上面に中間層2が形成され、この中間層2上に酸化物超電導層3が形成され、この酸化物超電導層3上に安定化金属層4が形成されてなる。そして、前記の構造において、基材1と中間層2から基材部5が構成され、この基材部5の厚さと、安定化金属層4の厚さが同等にされている。
【0023】
前記基材1は、ステンレス鋼、銅、または、ハステロイ(ハステロイC−276等)などのニッケル合金などに代表される各種金属材料から、あるいは、各種のガラスまたはセラミックスなどから構成されるもののいずれを用いても良い。前記の中間層2を形成する材料は、後に中間層2の上に形成される酸化物超電導層の結晶に近い結晶構造(例えば、立方晶系の結晶構造)を有し、酸化物超電導層の熱膨張率に近い熱膨張率を有するものが好ましい。よって、中間層2を構成する材料は、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、SrTiO、MgOなどのセラミックス系の材料が好ましい。
【0024】
前記の酸化物超電導層3は、YBaCu7−x、YBaCu、YBaCuOxなる組成、あるいは(Bi,Pb)CaSrCu、(Bi,Pb)CaSrCuなる組成、あるいは、TlBaCaCu、TlBaCaCu、TlBaCaCuなる組成などに代表される臨界温度の高い酸化物超電導体のいずれからなるものを用いても良い。
前記安定化金属層4は、Ag、Pt、Auなどの貴金属あるいはそれらの合金、または、CuやAlなどの良導電性金属材料からなる。
【0025】
前記構造の酸化物超電導導体Aにあっては、例えば基材部5の厚さが0.05〜0.1mm程度であり、酸化物超電導層3の厚さが1〜2μm程度であり、安定化金属層4の厚さが0.05〜0.1mm程度に形成されている。
このように同等の厚さの基材部5と安定化金属層4で酸化物超電導層3が挟まれて酸化物超電導導体Aが構成されている場合、この酸化物超電導導体Aを多少曲げ加工しても酸化物超電導層3の臨界電流特性の劣化を生じない。よって、臨界電流密度の高い超電導コイルを得ることができる。
この理由は、前記構造の酸化物超電導導体Aを曲げ加工すると、基材部5の上に設けられた酸化物超電導層3に対しては基材部5から見ると引張歪が負荷されるが、安定化金属層4から見るとその下側に酸化物超電導層3が設けられていて安定化金属層4から酸化通超電導層3に対して圧縮歪が負荷されるので、両者の負荷がバランスする結果、酸化物超電導層3に対する実際の応力負荷が軽減されることに起因しているものと思われる。
【0026】
図2は本発明の第2実施例を示すものであり、この実施例の酸化物超電導導体Bにおいて先の実施例の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付してそれらの部分の説明は省略する。この第2実施例において先の第1実施例と異なっているのは、安定化金属層4’が、下地安定化薄膜4aと安定化層4bとから構成されている点である。
前記下地安定化薄膜4aは、Ag、Au、Ptなどの貴金属またはそれらの合金からなり、安定化層4bは、CuやAlなどのように貴金属よりも安価な良電導性金属材料から構成されている。
【0027】
次にこの第2実施例の酸化部超電導導体Bを製造する方法について説明する。
この例の酸化物超電導導体Bを製造するには、まず、図3に示すようなテープ状の基材1を用意する。
前記基材1を用意したならば、図3に示すように、この基材1上に拡散バリアとしての中間層2を成膜法により形成する。
この中間層2を形成する具体的方法は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、化学気相成長法(CVD)などのいずれの成膜法を用いても良い。基材1として長尺のものを用いる場合は、使用する成膜装置の真空チャンバの内部にテープの送出装置と巻取装置を設け、送出装置から送り出した基材を真空チャンバの内部で連続的に所定の速度で移動させながら巻取装置で巻き取り、移動中の基材に連続成膜処理を行なえば良い。なお、ここで行なう成膜処理においては長尺の基材1を用いることを想定しているので、均質な膜を連続的に長時間成膜することが可能なレーザ蒸着法を用いることが好ましい。
【0028】
基材1上に中間層2を形成したならば、次に中間層2上に酸化物超電導層3を図4に示すように形成する。
この酸化物超電導層3の成膜においても前記と同様の種々の成膜法を用いることができるが、均質な膜を連続的に長時間成膜することが可能なレーザ蒸着法を用いることが好ましい。このレーザ蒸着を行なうには、ターゲットとして例えばYBaCu7−xなる組成の酸化物あるいは酸化物超電導体ターゲットを使用し、基材を500〜800℃程度の所望の温度に加熱し、真空チャンバの内部を酸素を含む減圧雰囲気とし、基材1を1時間に数10cm程度の速度で移動させながら成膜処理を行えば良い。この処理によって数時間〜数10時間の処理で1〜数μm程度の厚さの酸化物超電導層3を長さ数10cm〜数mにわたり形成することができる。
【0029】
次に前記の酸化物超電導層3の上に下地安定化薄膜4aを形成して図5に示す素導体15を形成する。前記下地安定化薄膜4aは、銀、金、白金などの貴金属あるいはそれらの合金からなり、厚さ数μm〜数10μm程度のものである。ここで用いる下地安定化薄膜4aの構成材料として、酸素の拡散係数が高い銀あるいは白金などを用いることが特に好ましい。この下地安定化薄膜4aは、後述する酸素雰囲気中で行なう熱処理時において、雰囲気中の酸素を酸化物超電導層3側に導く必要があるので必要以上に厚く形成する必要はない。また、この下地安定化薄膜4aは酸化物超電導層3を保護し、後述する最終熱処理時に酸化物超電導層3の元素が外部に拡散しないように保護する役割をはたすので、薄く形成し過ぎることも好ましくない。よって数μm〜20μm程度の厚さにすることが好ましい。
【0030】
下地安定化薄膜4aを形成する方法は、前述の各種成膜法のいずれを用いても良い。この下地安定化薄膜4aの厚さは、前述のように数μm〜20μm程度であるので、前述のいずれの成膜法を用いても前記の範囲の厚さで支障なく十分な厚さの下地安定化薄膜4aを長尺の酸化物超電導層3上に形成できる。よってこの下地安定化薄膜4aの形成のために長い時間を要することはない。
【0031】
素導体15を形成したならば、これを酸素ガスを含む雰囲気中において500〜600℃の温度で数時間加熱する熱処理を施す。この熱処理により雰囲気中の酸素を下地安定化薄膜4aを介して酸化物超電導層3に供給し、酸素不足を補う処理を施す。この熱処理により、酸化超電導層3の酸素不足を補なって結晶構造を整え、超電導特性の向上を図ると同時に、酸化物超電導層3とAgなどからなる下地安定化薄膜4aとの界面抵抗値を低減する。
【0032】
次に、前記下地安定化薄膜4aの上にメッキ法により良導電性の金属材料からなる厚さ数10〜数100μm程度の安定化層4bを形成して酸化物超電導導体Bを得る。前記のメッキ法によれば、長尺の基材1上の下地安定化薄膜4aの上にも厚い層を容易に被覆できるので、超電導特性の安定化のための層として十分な厚さを有する安定化層4bを容易に形成できる。
【0033】
安定化層4bを形成したならば、全体をNあるいはArガスなどの不活性ガス雰囲気中において500〜600℃の温度において数時間加熱する最終熱処理を施す。この最終熱処理は、下地安定化薄膜4aと安定化層4bとの界面の抵抗値を下げるために行なう。また、不活性ガス雰囲気中で行なうのは、安定化層4bを構成する金属元素の酸化を防止するためである。
なお、この最終熱処理を行なう場合に、安定化層4bの構成元素が酸化物超電導層3側に拡散するおそれがあるが、それらの間に下地安定化薄膜4aを設けているので、酸化物超電導層3に対する不用元素の拡散を抑制できる。よって最終熱処理により酸化物超電導層3の特性が劣化することはない。
以上の方法を実施することで十分な厚さを有する良導電性の安定化層4bを備えた超電導特性に優れた酸化物超電導導体Bを得ることができる。
【0034】
前記構造の酸化物超電導導体Bは、基材1上に中間層2を介して酸化物超電導層3を形成し、その上に貴金属などからなる下地安定化薄膜4aを介してメッキ法により良導電性金属材料の安定化層4bを形成し、熱処理を施して製造するものであるので、メッキ法により厚い安定化層4bを容易に短時間で形成できる。よって、十分な厚さの安定化層4bを具備する長尺の超電導導体Bを容易に製造できるので、超電導特性の安定性に優れた長尺の超電導導体Bを従来の成膜法による場合に比べて短時間で容易に製造することができる。
【0035】
また、酸化物超電導層3を中間層2上に形成し、その後に貴金属またはその合金からなる下地安定化被膜4aを形成した後に酸素雰囲気中で1次熱処理し、酸素拡散係数が高く、薄い下地安定化被膜4aを介して酸化物超電導層3に雰囲気中の酸素を供給するので、この熱処理により酸化物超電導層3に十分な酸素を補給して酸素不足を補うことができ、超電導特性を向上させる効果を得ることができる。
更に、安定化層4bと酸化物超電導層3との間に貴金属またはその合金からなる下地安定化被膜4aを形成するので、熱処理時に安定化層4bの元素と酸化物超電導層3の元素が相互拡散することを下地安定化被膜4aで防止することができ、熱処理を施しても超電導特性が劣化しない酸化物超電導導体Bを得ることができる。
【0036】
更にまた、酸化物超電導層3上に下地安定化被膜4aを形成した後に1次熱処理を施し、下地安定化被膜4a上に安定化層4bを形成した後に最終熱処理するので、1次熱処理により酸化物超電導層3と下地安定化被膜4aの界面の接触電気抵抗を低減できるとともに、最終熱処理により下地安定化被膜4aと安定化層4bの界面の接触電気抵抗を低減できるので、酸化物超電導層3と下地安定化被膜4aと安定化層4bがそれらの界面の低い接触電気抵抗を介して連続されることになる。よって酸化物超電導層3に通電中に酸化物超電導層3の一部領域に常電導の芽の部分を生じてもこの部分に流れる電流を下地安定化被膜4aを介して安定化層4bに円滑に流すことができ、これにより酸化物超電導層3の安定性を高めることができる。よって、安定化層付きの臨界電流特性の優れた酸化物超電導導体Bを製造できる。
【0037】
【実施例】
(実施例1)
ハステロイC−276からなる金属テープ基材(幅5mm、厚さ0.1mm、
長さ1000mm)を用い、この金属テープ基材上に、拡散バリアとしての厚さ0.5μmのYSZの中間層をRFスパッタ法により形成した。中間層を形成するには、2×10−3Torrに減圧した真空チャンバの内部で金属テープ基材を0.2m/時間の割合で移動させて室温にて30ccMのArガスを導入し、250WのRFパワーで成膜する方法を行なった。次に、エキシマレーザをターゲットに照射するレーザ蒸着法を用いて中間層上にYBaCu7−xなる組成の酸化部超電導層を形成した。この際のターゲット組成とレーザ蒸着条件は、以下の表1の通りである。
(以下、余白)
【0038】
【表1】
Figure 0003568561
【0039】
真空チャンバの内部で中間層付きの金属テープ基材を0.2m/時間の割合で移動させて表1の条件でレーザ蒸着を行ない、厚さ1.0μmの酸化物超電導層を形成した。
次に、スパッタリングにより前記の酸化物超電導層上に厚さ約0.1mmの銀の安定化金属層を形成した。次いで全体を酸素雰囲気中において500℃で2時間加熱し、安定化金属層と酸化物超電導層の界面抵抗を低減するとともに、酸化物超電導層に安定化金属層を介して酸素を供給するための熱処理を施した。
【0040】
得られた酸化物超電導導体から長さ50cmの部分を切り出し、これに引張歪を加えた場合の臨界電流値の変化を測定した。この測定方法は、先に説明した場合と同様に、所定の径の巻胴に対し、基材を内側に位置するように、かつ、酸化物超電導層を外側に位置するように巻回してコイル加工して酸化物超電導層に対して引張歪を負荷するものとした。また、この場合の歪の計算方法は、先に説明したε=(t/2r)×100の関係式に基づいて算出した。その結果を図7に示す。
図7に示す結果から、本発明構造を採用することで0.8%まで引張歪を負荷しても臨界電流値が劣化しなかった。なおまた、この結果は、負荷する歪を圧縮歪とした場合も同等であった。なお、この例の酸化物超電導導体にあっては、前記した如く金属テープ基材の厚さが0 . 1mm、YSZ中間層の厚さが0 . 5μm(0 . 0005mm)、安定化金属層の厚さ0 . 1mmであるので、金属テープ基材と中間層の合計厚さ0 . 1005mmに対して安定化金属層の厚さ0 . 1mmとして、厚さの差異は0 . 5%に相当する。
【0041】
(実施例2)
ハステロイC−276からなる金属テープ基材(幅5mm、厚さ0.1mm、長さ2000mm)を用い、この金属テープ基材上に、拡散バリアとしてのYSZの中間層と酸化物超電導層を実施例1と同等の方法で形成した。
【0042】
次に、スパッタリングにより酸化物超電導層上に厚さ10μmの銀の下地安定化薄膜を2時間かけて形成した。この際に、スパッタ装置の真空チャンバの内部を1×10−5Torrに減圧し、銀のターゲットを用いた。
次いで全体を500℃で2時間加熱する1次熱処理を施し、下地安定化薄膜と酸化物超電導層の界面抵抗を低減する1次熱処理を施した。
【0043】
続いて全体をメッキ液に浸漬した後に引き上げるメッキ処理を施して下地安定化薄膜上に厚さ100μmの銅の安定化層を形成した。この際に、メッキ液としてシアン系の組成のものを用い、電流密度10A/dmとして1時間の処理を行なった。
最後に、Nガス雰囲気において500℃で2時間加熱する最終熱処理を施した。
【0044】
得られた酸化物超電導テープを液体窒素で冷却してその臨界電流密度(Jc)を測定したところ、Jc=1×104A/cm2(77K、0T)の優れた特性を得ることができた。
次に、前記と同等の手段によりこの酸化物超電導導体に引張歪を負荷する試験を行なったところ、実施例1と同様に優れた特性を得ることができた。
これにより、Y1Ba2Cu37-xなる組成の酸化物超電導層上に銀の下地安定化被膜と銅の安定化層を形成した超電導テープは、優れた歪特性を発揮することを確認できた。なお、この例の酸化物超電導導体にあっては、前記した如く金属テープ基材の厚さが0 . 1mm、YSZ中間層の厚さが0 . 5μm、下地安定化薄膜の厚さ10μm(0 . 01mm)と安定化層の厚さ100μm(0 . 1mm)の合計厚さである安定化金属層の厚さ0 . 11mmであるので、金属テープ基材と中間層の合計厚さ0 . 1005mmに対して安定化金属層の厚さ0 . 11mmとして、厚さの差異は9 . 5%に相当する。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、基材上に中間層を介して酸化物超電導層を設け、その上に基材と中間層の合計厚さと同一か9 . 5%以内の差異の厚さの安定化金属層を設けているので、曲げ加工した場合に、基材の上に設けられた酸化物超電導層に対しては基材から見ると引張歪が負荷されるが、安定化金属層から見るとその下側に酸化物超電導層が設けられていて安定化金属層から酸化物超電導層に対して圧縮歪が負荷されるので、両者の負荷がバランスする結果、酸化物超電導層に対する実際の応力負荷が軽減される結果として、酸化物超電導層に負荷される応力の影響を小さくすることができ、臨界電流特性の優れた酸化物超電導導体を提供できる効果がある。よって、臨界電流特性の優れた酸化物超電導コイルを提供できる効果がある。
【0046】
また、下地安定化薄膜と安定化層を酸化物超電導層上に形成した構造の酸化物超電導導体においては、基材と中間層を合わせた部分の厚さと、下地安定化薄膜と安定化層を合わせた安定化金属層部分の厚さを同一または9 . 5%以下の差異にしているので、曲げ加工した場合に、基材の上に設けられた酸化物超電導層に対しては基材と中間層から見ると引張歪が負荷されるが、下地安定化薄膜と安定化層からなる安定化金属層から見るとその下側に酸化物超電導層が設けられていて安定化金属層から酸化物超電導層に対して圧縮歪が負荷されるので、両者の負荷がバランスする結果、酸化物超電導層に対する実際の応力負荷が軽減される結果として、酸化物超電導層に負荷される応力の影響を小さくすることができ、臨界電流特性の優れた酸化物超電導導体を提供できる効果がある。よって、臨界電流特性の優れた酸化物超電導コイルを提供できる効果がある。
更に、基材上に中間層を介して酸化物超電導層を設け、かつ、Agなどの貴金属やその合金の下地安定化薄膜と良導電性金属材料製の安定化層を酸化物超電導層上に形成した構造を採用すると、酸化物超電導層の熱処理時において、酸化物超電導層の構成元素と基材の構成元素が相互拡散することを中間層が抑制するとともに、酸化物超電導層の構成元素と安定化層の構成元素が相互拡散することを安定化薄膜が抑制するので、熱処理を施したものであっても超電導特性が劣化していない酸化物超電導導体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の第1実施例の断面図である。
【図2】図2は本発明の第2実施例の断面図である。
【図3】図3は基材上に中間層を形成した状態を示す断面図である。
【図4】図4は図3に示す中間層上に酸化物超電導層を形成した状態を示す断面図である。
【図5】図5は図4に示す酸化物超電導層上に下地安定化被膜を形成した状態を示す断面図である。
【図6】図6は得られた酸化物超電導テープを示す断面図である。
【図7】図7は本発明に係る酸化物超電導導体の歪と臨界電流密度の関係を示すグラフである。
【図8】図8は特に結晶配向させていない中間層を用いた場合の酸化物超電導導体の歪と臨界電流密度の関係を示すグラフである。
【図9】図9は結晶配向させた中間層を用いた場合の酸化物超電導導体の歪と臨界電流密度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
A、B…酸化物超電導導体、
1…基材、 2…中間層、 3…酸化物超電導層、
4、4’…安定化金属層、 4a…下地安定化薄膜、4b…安定化層、
5…基材部、

Claims (2)

  1. テープ状の基材上に中間層を介して酸化物超電導層が形成され、この酸化物超電導層上に良導電性の安定化金属層が形成されるとともに、前記基材と中間層を合わせた部分の厚さに対する、前記安定化金属層の厚さが、同一または9 . 5%以下の差異にされてなることを特徴とする安定化金属層を備えた酸化物超電導導体の構造。
  2. テープ状の基材上に中間層を介して酸化物超電導層が形成され、この酸化物超電導層上に、Ag、Ptなどの貴金属またはその合金製の良導電性の下地安定化薄膜と、CuあるいはAlなどの良導電性金属材料製の安定化層とからなる安定化金属層が形成されるとともに、前記基材と中間層を合わせた部分の厚さに対する、前記安定化金属層の厚さが、同一または9 . 5%以内の差異にされてなることを特徴とする安定化金属層を備えた酸化物超電導導体の構造。
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