JP3567892B2 - 熱接着性複合繊維とこれを用いた不織布及び成形体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱接着性複合繊維、及びこれを用いた不織布並びにこの不織布から得られる成形体である吸水性物品、及びワイパーに関する。
【0002】
【従来の技術】
風合い(触感)、不織布強力などの特性に優れた不織布が得られることから、種々の熱接着性複合繊維が紙おむつや生理用品などの衛生材料用途に好適に使用されてきた。しかし、近年、紙おむつや生理用品等の吸収性物品を構成する部材の数や種類が増え、一つの製品中に種々の素材(樹脂)の不織布やフィルムが混在するようになったことから、他素材との接着が可能な成分を繊維表面に有する複合繊維が注目され、利用されるようになってきた。なかでも、衛生材料用の不織布材料には、他素材とのヒートシール性(熱接着性)に優れているプロピレン共重合体からなる鞘成分がポリプロピレンからなる芯成分に被覆された形態を有する複合繊維(以下、co−PP/PP系複合繊維と略記する場合がある)が好まれて用いられている。
【0003】
最近、co−PP/PP系複合繊維からなる不織布に対して、他素材とのヒートシール性だけでなく、さらに嵩高性や風合いといった特性も強く求められるようになってきた。そのため、嵩高性や風合いを損なわせないように、熱処理温度を抑えた加工条件で不織布を製造することが余儀なくされている。しかし、このような加工条件で従来のco−PP/PP系複合繊維から不織布を製造すると、該複合繊維同士が熱接着し難くなるため、得られる不織布の強力が低くなるといった新たな問題が生じていた。このようなことから、比較的低い熱処理温度であっても、高い不織布強力、嵩高性、及び良好な風合い(柔らかな触感)の不織布が得られやすい熱風接着法が注目されており、この方法に適するco−PP/PP系複合繊維が望まれている。
【0004】
例えば、特開平5−9810号公報には、示差走査熱分析装置により得られる鞘芯型複合繊維のDSC曲線において鞘成分のプロピレン共重合体の融解ピークと芯成分のポリプロピレンの融解ピークとが、特定の関係式にある2つの融解ピーク(以下、ダブルピークという場合がある)を示すco−PP/PP系複合繊維が開示されている。該公報では、熱風融着法において該複合繊維を原料とすることで風合いや嵩高性に優れた不織布を得ることが可能であるとされている。しかし、この構成のco−PP/PP系複合繊維は、ポリプロピレン繊維(単一系繊維)に比べて、風合いと嵩高性に優れた不織布が得られるものの、co−PP/PP系複合繊維の中にあって、より実用的な高強力で、かつ嵩高性、風合いに優れた不織布を高い寸法安定性のもとに作製することは難しい。
具体的に説明すると、紡糸・延伸工程において、鞘成分と芯成分とを構成するプロピレン共重合体と結晶性ポリプロピレンの配向結晶化を抑制させて、複合繊維の製造を行う場合、得られる該複合繊維のDSC曲線には、それぞれの成分に起因する(該公報記載の技術である特定関係式を含む)ダブルピークが明確に現れる。しかし、このように配向結晶化を抑制した複合繊維は、強度、剛性が不足し、充分な嵩高性を有する不織布が得られにくい。
逆に、強度、剛性が充分に発現するように、紡糸・延伸工程において、鞘成分と芯成分とを構成するそれぞれの成分の配向結晶化を促進させて、複合繊維の製造を行う場合、得られる該複合繊維のDSC曲線には、それぞれの成分に起因する(該公報記載の技術である特定関係式を含む)ダブルピークが現れる。しかし、この場合、2つのピークの温度差が小さくなるので、加工温度を芯成分の融点近くまで上げなければ、該複合繊維を用いて実用的な強力を有する不織布を得ることができない上、たとえ加工温度が芯成分の融点未満であったとしても、芯成分が熱の影響を受けて繊維全体が軟化してしまい、満足できる嵩高な不織布は得られなくなる。また、該複合繊維は、熱収縮が起こり易いことから、不織布の寸法安定性が低下し、さらに、目付斑が発生する等の問題が起こり易くなるという問題点がある。
【0005】
また、特開2000−45125号公報には、融解ピーク温度が150℃以上の樹脂を芯成分とし、エチレン含有量の異なる2種類以上のco−PPの混合物を鞘成分とした熱接着性繊維により面反発性やクッション性に優れ、折れじわの発生しない柔軟性に富む不織布が得られることが開示されている。そして該公報では、該熱接着性繊維は示差走査熱分析装置により得られる融解ピークを3本以上有することが好ましいとされている。しかし、該熱接着性繊維は鞘成分である該混合物に起因する融解ピークが2本以上に分かれることによって、融解ピークが3本以上となるだけなので、弾性反発力には好適であるが、特開平5−9810号公報の場合と同様の理由により、高い不織布強力、嵩高性、及び良好な風合い(柔らかな触感)を有する不織布を得るという点において充分ではない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、高強力で、かつ嵩高性、風合い(触感)に優れた不織布を、高い寸法安定性のもとに作製することが可能な、低温加工性に優れる熱接着性複合繊維を提供すること、及び該複合繊維をウェブとして熱風接着法等により熱処理を施することで得られる高強力で、嵩高性や風合い(触感)に優れる不織布並びにそれより得られる良好な風合いを有する吸収体物品、及びワイピング性能に優れるワイパーを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、以下の構成を採用することにより、所期の目的が達成される見通しを得て、この知見に基づいて本発明を完成した。
(1)プロピレン共重合体を鞘成分とし、結晶性ポリプロピレンを芯成分とする鞘芯型複合繊維であって、該プロピレン共重合体は、エチレン含量3〜5重量%、プロピレン含量92〜96重量%、1−ブテン含量1〜3重量%のオレフィン系3元共重合体であり、示差走査熱分析法によって得られる該鞘芯型複合繊維のDSC曲線が、3つの融解ピークを示し、最も低温側の融解ピークを(P1)、最も高温側の融解ピークを(P2)、P1とP2の融解ピーク間の融解ピークを(P3)とするとき、融解ピーク(P1)のピーク温度(T1)と融解ピーク(P3)のピーク温度(T3)との温度差(T3−T1)が10℃以上、融解ピーク(P2)のピーク温度(T2)と融解ピーク(P3)のピーク温度(T3)との温度差(T2−T3)が4〜10℃の範囲であることを特徴とする熱接着性複合繊維。
(2)融解ピーク(P2)の融解熱量(ΔH2)に対する融解ピーク(P3)の融解熱量(ΔH3)の比(ΔH3/ΔH2)が0.4〜1であることを特徴とする前記(1)項記載の熱接着性複合繊維。
(3)前記(1)〜(2)項のいずれか1項記載の熱接着性複合繊維からなる不織布。
(4)前記(3)項記載の不織布を用いた吸収性物品。
(5)前記(3)項記載の不織布を用いたワイパー。
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の熱接着性複合繊維は、プロピレン共重合体を鞘成分とし、結晶性ポリプロピレンを芯成分として構成される鞘芯型複合繊維であって、該プロピレン共重合体は、プロピレンを主体とするオレフィン系3元共重合体である。本発明の熱接着性複合繊維は、図1に示されるように、示差走査熱分析法による鞘芯型複合繊維のDSC曲線(1)が、最も低温側の該プロピレン共重合体に起因する融解ピーク(P1)と、最も高温側の該結晶性ポリプロピレンに起因する融解ピーク(P2)との間に、該結晶性ポリプロピレンに起因すると考えられる融解ピーク(P3)が現れる3つの融解ピーク(以下、トリプルピークという場合がある)を基本ピークとして有し、融解ピーク(P1)のピーク温度(T1)と融解ピーク(P3)のピーク温度(T3)との温度差(T3−T1)が10℃以上であり、融解ピーク(P2)のピーク温度(T2)と融解ピーク(P3)のピーク温度(T3)との温度差(T2−T3)が4〜10℃の範囲である。該複合繊維は、DSC曲線におけるT3とT1との温度差(T3−T1)が10℃以上なければならず、該温度差(T3−T1)が10℃を大きく下回ると、良好な物性の不織布を製造するための加工温度幅が狭くなり、不織布製造時における熱風接着装置のわずかな加工温度のブレにより、得られる不織布の嵩や風合いにばらつきが生じ易くなる。該温度差(T3−T1)は、13℃以上であることがより好ましい。また、該複合繊維は、DSC曲線における温度差(T2−T3)が4〜10℃の範囲でなければならない。該温度差(T2−T3)が10℃を大きく上回ると、得られる不織布は嵩を得られにくくなる。一方、該温度差(T2−T3)が、4℃を下回ると、該複合繊維の剛性が高くなり過ぎ、さらに得られる不織布の風合いが低下する恐れがある。該複合繊維は、融解ピーク(P2)の融解熱量ΔH2に対する融解ピーク(P3)の融解熱量ΔH3の比であるΔH3/ΔH2が0.1以上であることが望ましい。この値が0.1未満であると、得られる不織布の強度や風合いが不良となる恐れがある。ΔH3/ΔH2は、0.1〜1であることが好ましく、さらに0.4〜1であることがより好ましい。このΔH3/ΔH2が、0.1〜1の範囲を大きく外れると、融解ピーク(P2)、及び融解ピーク(P3)のいずれかが小さくなり過ぎ、明確な融解ピークとして確認できなくなり指標としての価値が失われる恐れがある。該融解熱量ΔH3は、図1に示されるように、融解ピーク(P3)の斜線部の融解熱量であり、該融解熱量ΔH2は、融解ピーク(P2)の斜線部の融解熱量である。
【0009】
本発明の熱接着性複合繊維を得るためには、用いる原料樹脂を適宜選択する必要があり、それらの樹脂を用いて繊維を成形する際の製造条件を適宜調整する必要がある。本発明の熱接着性複合繊維の芯成分に使用される結晶性ポリプロピレンとしては、メルトフローレート(230℃、21.18N,以下、MFRと略記する場合がある)が、3〜50g/10分、融点が158℃以上の結晶性プロピレン単独重合体が好ましく用いられる。なお、このような結晶性ポリプロピレンは、チーグラー・ナッタ触媒や、メタロセン触媒を用いる公知のプロピレン重合方法によって容易に得られる。
【0010】
本発明の熱接着性複合繊維の鞘成分に使用されるプロピレン共重合体としては、プロピレンを主体とするオレフィン系3元共重合体が用いられる。ここで主体とは最も多い成分をいう。オレフィン系3元共重合体としては、エチレン含量1〜10重量%、プロピレン含量84〜98重量%、及び1−ブテン含量1〜15重量%のプロピレンを主体とするオレフィン系3元共重合体が利用でき、さらに、エチレン含量3〜5重量%、プロピレン含量92〜96重量%、1−ブテン含量1〜3重量%のオレフィン系3元共重合体が好ましく利用できる。ここで、これらプロピレン共重合体はMFRが3〜50g/10分、融点が120〜150℃の共重合体が望ましい。このようなプロピレン共重合体はチーグラー・ナッタ触媒や、メタロセン触媒を用いた公知のオレフィンの共重合によって得ることができる。また、これらプロピレン共重合体は、ブロック共重合体であってもよいが、ランダム共重合体であることが望ましい。該プロピレン共重合体のコモノマー(エチレン、1−ブテン)の含量が各々1重量%より少ないと、得られる熱接着性複合繊維は、熱接着性が不充分となり易く、また、該プロピレン共重合体の融点が前記の範囲外であると、不織布加工速度、強力、嵩高性、風合い等のいずれかが悪化し易くなる。また、結晶性ポリプロピレンとプロピレン共重合体との組み合わせは、融点差が20℃以上、好ましくは30℃以上であるように適宜組み合わせることが望ましい。
【0011】
本発明の熱接着性複合繊維の鞘成分と芯成分に用いるプロピレン共重合体と結晶性ポリプロピレンは、メルトフローレート比(鞘成分の紡糸後のメルトフローレート/芯成分の紡糸後のメルトフローレート)を考慮して選択するとよい。メルトフローレート比が大き過ぎると、延伸により鞘成分の配向結晶化が進み難く、芯成分の配向結晶化が進み易くなり、トリプルピークが得られにくくなる。また、繊維表面の摩擦が大きくなるため、カード機で均質なウェブを得ることが困難となる。逆に、メルトフローレート比が小さ過ぎると、延伸により鞘成分の配向結晶化が進み過ぎ、プロピレン共重合体の融解ピーク(P1)が高温側にシフトし、融解ピーク(P3)と重なり、ダブルピークとなる場合や、融解ピーク(P1),(P3)が結晶性ポリプロピレンの融解ピーク(P2)と重なり、シングルピークとなる場合がある。なお、本発明では、メルトフローレート比が1.8を超え4.0未満の範囲に設定することがよく、2.2以上、4.0未満の範囲が好ましく、さらに2.5〜3.8の範囲がより好ましい。該メルトフローレート比の調整には、プロピレン共重合体に過酸化物等の分子量降下剤を添加してMFRを変化させる方法や、プロピレン共重合体の紡糸温度を変化させる方法が容易に実施でき好ましい。ここでいう個々のメルトフローレート値は、熱接着性複合繊維を製造する際にノズルから押し出され熱履歴等を受けた単成分の樹脂の測定値である。
【0012】
本発明の熱接着性複合繊維は、公知の複合溶融紡糸法により同心鞘芯型、または偏心鞘芯型の複合繊維として紡糸され、適切な延伸倍率で延伸された後、捲縮が施され、所定の長さに切断され使用される場合が多い。複合溶融紡糸では、鞘成分に用いる樹脂と芯成分に用いる樹脂との複合重量比が、鞘成分/芯成分=20/80〜70/30重量%の範囲とすることが好ましい。鞘成分が20重量%を下回る場合には、得られる複合繊維の熱接着性が低下し、得られる不織布も充分な強力、及び低温接着性を得ることが困難となる。また、鞘成分が70重量%を上回る場合には、得られる複合繊維の熱接着性は充分となるものの、繊維の熱収縮率が高くなり、寸法安定性が低下する。なお、熱処理時のウェブの熱収縮が少ないことから同心鞘芯型が好ましく、偏心鞘芯型とする際には偏心率を小さくし、該複合繊維の収縮率を小さくすることが必要である。ウェブの熱収縮率(145℃、5分)が10%を超すと寸法安定性が低下することから、ウェブの熱収縮率は10%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明の熱接着性複合繊維を製造する際に、ノズルから押し出された未延伸の複合繊維を延伸する工程において、その延伸倍率を特定の範囲に調整することが望ましい。延伸倍率が特定の範囲よりも低すぎると、複合繊維のDSC曲線は、トリプルピークを示さず、複合繊維の強度や剛性が不足しウェブ製造時にウェブの嵩が低くなり易い。その結果、得られる不織布の嵩高性は失われる。逆に、延伸倍率が特定の範囲よりも高すぎると、DSC曲線においてプロピレン共重合体の融解ピーク(P1)は高温側にシフトし、トリプルピークを示さなくなる。延伸倍率は、前記メルトフローレート比とのバランスを考慮しながら調整する必要があるので特定しにくいが、2.2を超え4.0未満の範囲に実効延伸倍率を設定することが好ましく、さらに2.5〜3.7であることがより好ましい。
上記のように本発明では、鞘成分と芯成分との樹脂の組み合わせを前記メルトフローレート比となるように選択し、前記メルトフローレート比を有するように紡糸を行うことによって繊維化し、さらに上記のような適切な倍率で延伸することにより、融点の異なる実質的に2種類の樹脂から構成される熱接着性複合繊維でありながら、ダブルピークではなく、本発明の範囲である特定のトリプルピークのDSC曲線の形状を呈する熱接着性複合繊維を容易に得ることができる。なお、該複合繊維のDSC曲線の形状がトリプルピークとなるのは、上記に示すような特定の製造条件下で熱接着性複合繊維を製造することによって芯成分の融解ピークが2つに分かれ3つ目の融解ピークが発現するためであると考えられる。
【0014】
本発明の熱接着性複合繊維は、0.5〜11dtex/fの範囲の繊度、及び3〜60山/25.4mmの範囲の捲縮数であることが好ましい。また、ウェブへの加工性の点から、カード方式によってウェブを作製する場合には、25〜75mmの範囲の繊維長が好ましく、また、空気流開繊方式によってウェブを作製する場合には、3〜30mmの範囲の繊維長が好ましい。
【0015】
本発明の不織布を作製する場合には、本発明の効果を妨げない範囲で、他の繊維を混綿して用いることができる。他の繊維としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリアクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維等が例示できる。また、これら他の繊維と混綿する場合には、一般に、不織布中の本発明の熱接着性複合繊維量が20重量%未満であると、充分な不織布強力やヒートシール性が得られなくなる恐れがある。そのため、本発明の熱接着性複合繊維が不織布重量に対して20重量%以上、混合されていることが好ましい。
【0016】
本発明の不織布は、公知の方法で不織布とするとができる。例えば、カード方式あるいは空気流開繊方式によって、本発明の熱接着性複合繊維を所望の目付のウェブとし、これを熱風接着法によって不織布とする方法等が挙げられる。紙おむつや生理用ナプキン等の吸収性物品に用いられる衛生材料として本発明の不織布を使用する場合には、単糸繊度が0.5〜11dtex/fの熱接着性複合繊維から得られる不織布を用いることが好ましく、このとき、不織布の目付は8〜50g/m2が好ましく、10〜30g/m2がより好ましい。また、不織布の比容積が20〜150cm3/g、不織布強力が1〜500N/5cmの範囲であるとより好ましい。なお、熱接着性複合繊維の単糸繊度が0.5dtex/f未満であると、カード機で均質なウェブを得ることが困難となり、逆に、11dtex/fを超えていると、不織布の目が粗くなり、これを紙おむつ等の表面材として使用した場合には、肌触りが悪くなる傾向にある。また、目付が8g/m2未満では薄過ぎるため充分な不織布強力が得られにくく、逆に、50g/m2を超すと好ましい不織布強力は得られるものの、肌触りが悪く、さらにコスト高になる。不織布の比容積が20cm3/g未満であるとペーパーライクとなり嵩高性、風合い(触感)が悪く、150cm3/gを超すと、ウェブに充分な熱処理が施されないため、接着が不充分となり満足する不織布強力を得ることが困難となる。さらに、不織布強力が1N/5cm未満であると、衛生材料として使用する場合、加工、及び使用時に破れなどの問題が発生し、500N/5cmを超えるとペーパーライクとなり嵩高性、風合い(触感)が悪くなる傾向にある。
【0017】
本発明の不織布は、吸収性物品や、ワイパーの材料として好適に使用できる。このとき、他の不織布、フィルム、パルプシート、編み物、及び織物から選ばれた少なくとも1種を積層した複合化不織布として用いてもよい。
【0018】
【実施例】
以下、実施例、及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例、及び比較例における各種の物性値は、以下の方法によって測定した。
【0019】
(1)示差走査熱分析(DSCチャート)
複合繊維を測定試料とし、JIS K 7121に準じ、Dupont熱分析装置により試料量約4mg、昇温速度10℃/minの条件で測定した。得られた複合繊維のチャート曲線(DSC曲線)の形状が、1つの融解ピークであればシングルピーク、2つの融解ピークであればダブルピーク、3つの融解ピークであればトリプルピークと分類した。なお、DSC曲線に現れる明らかなノイズは融解ピークとしては数えずに除外した。また、融解ピークの値もJIS K 7121に準じて測定した。
融解熱量比ΔH3/ΔH2は、図1に示されるように、融解ピーク(P3)の斜線部の面積を求め、これより融解熱量を算出し、これをΔH3とし、同様に融解ピーク(P3)の斜線部の面積を求め、これより融解熱量を算出し、これをΔH2とし、ΔH3の値をΔH2の値で除することにより算出した。
【0020】
(2)メルトフローレート(MFR)
樹脂のMFRは、JIS K 7210に準じて測定を行った(試験条件はJIS K 7210 試験条件14に準拠した)。また、紡糸後のMFRは、表1に示した紡糸温度で個々単独紡糸し、得られた単一繊維をJIS K 7210に準じて測定を行った。さらにメルトフローレート比は、鞘成分の紡糸後のMFRを芯成分の紡糸後のMFRで除することにより算出した。
【0021】
(3)複合繊維の強度、及び伸度
総デシテックス数が888〜1333dtex(800〜1200d/f)の太さになるように複合繊維を採取し、これを試料として使用し、試験長100mm、引張速度100mm/minの条件で、引張試験機(島津製作所製オートグラフ AGS500D)により試験を実施し、次式に従って複合繊維の強度、及び伸度を算出した。
複合繊維の強度(cN/dtex)=F/Td
F :最大荷重時の荷重(cN)
Td:総デシテックス数(dtex)
複合繊維の伸度(%)=(L/L0×100)−100
L :最大荷重時のつかみ幅(mm)
L0 :もとのつかみ幅(mm)
【0022】
(4)ウェブ熱収縮率(%)
複合繊維をカード機により、約200g/m2のウェブとし、得られたウェブをカード機の流れ方向(MD)、カード機の流れに直角な方向(CD)に沿って、それぞれ25cm×25cmの長さにカットし、次いでそれを循環熱風式ドライヤーで145℃、5分間熱処理し、さらに室温で5分間放冷後、MDの長さを測定し、MDの熱処理前後の長さを次式に当てはめることによりウェブ熱収縮率を求めた。
ウェブ熱収縮率(%)=(L0−L)/L0×100
L0:熱処理前のウェブの長さ
L:熱処理後のウェブの長さ
【0023】
(5)不織布強力(23g/m2換算強力)
複合繊維を用いて作製された不織布のカード機の流れ方向(MD)、及びカード機の流れに直角な方向(CD)に対して、それぞれ150mm×50mmの長さの試験片を作製し、つかみ幅100mm、引張速度200mm/minの条件下で引張試験機(島津製作所製オートグラフ AGS500D)により各試験片を測定した。次に、得られた最大荷重を、23g/m2に換算し、不織布強力(MD強力、及びCD強力)とした。
【0024】
(6)比容積
複合繊維を用いて作製された不織布150mm×150mmの重量と厚みを測定し、次式により不織布の比容積を算出した。
比容積(cm3/g)=(T×150×150)/(W×1000)
T:不織布の厚み(mm)
W:不織布の重量(g)
【0025】
(7)風合い
複合繊維を用いて作製された不織布の触感試験を、10名のパネラーにより実施した。その結果を5段階に分類した。
10名全員が“柔らかな触感”であると判定した場合 「5」
9名が“柔らかな触感”であると判定した場合 「4」
7,8名が“柔らかな触感”であると判定した場合 「3」
5,6名が“柔らかな触感”であると判定した場合 「2」
6名以上が“柔らかな触感”ではないと判定した場合 「1」
触感試験の結果の分類が、「5」、「4」となった不織布は、特に柔らかい不織布であると判断した。「3」となった不織布は、従来の不織布並の柔らかさであると判断し、「2」、「1」となった不織布は、風合いが不良であると判断した。また、紙おむつの風合いも同様の方法、判定により評価判断を行った。
【0026】
実施例1
エチレン含量4.0重量%、プロピレン含量93.35重量%、及び1−ブテン含量2.65重量%からなるオレフィン系3元共重合体(MFRが16g/10min、融点が131℃)に分子量降下剤を0.03重量%添加し、これをプロピレン共重合体として鞘成分に用い、結晶性ポリプロピレン(MFRが10g/10分)を芯成分に用いて、ノズル(孔径0.8mm)を備えた複合紡糸装置により紡糸し、複合重量比(鞘成分/芯成分)が45/55、単糸繊度が4.4dtex/fである同心鞘芯型複合未延伸糸を得た。なお、鞘成分の紡糸温度は250℃、芯成分の紡糸温度は270℃であり、紡糸時の引き取り速度は、900m/minであった。次に、第一延伸機の熱ロールを60℃に、第二延伸機の熱ロールを90℃に温度設定し、第一延伸機/第二延伸機によって該未延伸糸を3.1倍に延伸し、スタッファボックスで機械捲縮を付与し、85℃で乾燥した後、これを切断して、1.7dtex/f×38mmの熱接着性複合繊維を得た。この熱接着性複合繊維をカード機でウェブとした後、加工温度(136℃、142℃)、風速(2m/sec)、コンベア速度(8.5m/min)に設定したコンベア付きサクションバンドドライヤー(熱風接着装置)によって、熱処理し、目付け約23g/m2の不織布とした。得られた複合繊維、及び熱風接着法にって得られた不織布の物性を表1に示す。
【0027】
実施例2
エチレン含量4.0重量%、プロピレン含量93.35重量%、及び1−ブテン含量2.65重量%からなるオレフィン系3元共重合体(MFRが16g/10分、融点が131℃)に分子量降下剤を添加せず、プロピレン共重合体として鞘成分に用いた点、及び鞘成分の紡糸温度を250℃から330℃に変更した点以外は、実施例1に準拠して複合繊維、及び不織布を製造した。これらの物性を表1に示す。
【0028】
実施例3
エチレン含量4.0重量%、プロピレン含量93.35重量%、及び1−ブテン含量2.65重量%からなるオレフィン系3元共重合体(MFRが39g/10分)をプロピレン共重合体として鞘成分に用いた以外は、実施例1に準拠して複合繊維、及び不織布を製造した。これらの物性を表1に示す。
【0029】
比較例1〜3
オレフィン系3元共重合体に分子量降下剤を添加せず、プロピレン共重合体として鞘成分に用い、表1に示すように延伸倍率をそれぞれ2.4倍(比較例1)、3.1倍(比較例2)、1.6倍(比較例3)として延伸した以外は、実施例1に準拠して複合繊維、及び不織布を製造した。これらの物性を表1に示す。なお、表1に示した以外に、比較例3の複合繊維を用いて、130℃の加工温度で不織布加工を行ったが、不織布は得られていない。
【0030】
比較例4、比較例5
表1に示すように延伸倍率をそれぞれ1.6倍(比較例4)、4.0倍(比較例5)に延伸した以外は、実施例1に準拠して複合繊維、及び不織布を製造した。これらの物性を表1に示す。なお、表1に示した以外に、比較例4の複合繊維を用いて、130℃の加工温度で不織布加工を行ったが、不織布は得られていない。
【0031】
実施例4
市販の紙おむつからバックシートを取外し、その部分に加工温度136℃で作製した実施例1と同様の不織布をホットメルトで貼り付け、評価用の紙おむつ(吸収性物品)を作製した。この紙おむつの風合いを評価したところ、「5」であった。なお、市販の紙おむつの風合いを評価したところ、「3」となったことから、本発明の吸収性物品は風合いに優れていると判断した。このことから、本発明の不織布は、紙おむつ等の吸収性物品の用途に好ましく利用できることがわかった。
【0032】
比較例6
加工温度136℃で作製した比較例1の不織布を用いた以外は、実施例4と同様の加工を行い、評価用の紙おむつを作製した。この紙おむつの風合いを評価したところ、「2」であった。このことから、比較例6の紙おむつは、ソフト感に欠け、風合いが不良であることがわかった。
【0033】
実施例5,比較例7
加工温度146℃で作製した実施例1の不織布をワイパーとし(実施例5)、加工温度146℃で作製した比較例5の不織布をワイパーとし(比較例7)、床面の拭き掃除を行ったところ、実施例1の不織布は嵩が高く空隙が大きいことから、毛髪などのゴミが良好に拭き取れた。また、不織布強力が高いことから形状保持に優れ、拭き取り時にワイパーから熱接着性複合繊維の脱落が見られなかった。しかし、比較例5の不織布は嵩が低いことから、毛髪の絡みが悪く拭き取り性能が劣っていた。
【0034】
【表1】
【0035】
表1の結果から、ウェブの材料として本発明の熱接着性複合繊維(実施例1〜3)を用い、融解ピーク(P1)のピーク温度(T1)よりも数℃低い加工温度(136℃)で不織布加工を行った場合には、良好な不織布強力を有する不織布が得られた。これに対して、ウェブの材料として比較例5の熱接着性複合繊維を用い該加工温度で不織布加工を行った場合には、ウェブは熱接着せず、その結果、不織布が得られなかった。また、ウェブの材料として比較例1の熱接着性複合繊維を用いた場合には、不織布は得られたものの、熱接着性が不充分であったために測定出来るだけの不織布強力を有していなかった。さらに、比較例2では得られた複合繊維のDSC曲線がシングルピークを示し、加工温度(136℃)との温度差が26.1℃と大きいため、接着が全く起こらず不織布は得られていない。また、ウェブの材料として比較例3,4の熱接着性複合繊維を用い約4℃低い加工温度(130℃)で不織布加工を行った場合には、不織布は得られなかった。従って、本発明の熱接着性複合繊維を用いることで、低い加工温度であっても、実用的な不織布強力を有し、嵩高性、風合いに優れた不織布が得られた。これより本発明の熱接着性複合繊維は低温加工性に優れていることがわかった。なおウェブの材料として実施例2の熱接着性複合繊維を用いて、136℃の加工温度で加工を行って得られた不織布は、実施例1,3の熱接着性複合繊維から得られた不織布と比べて、不織布強力(MD強力)が低い値を示している。
次に、ウェブの材料として熱接着性複合繊維(実施例1〜3、比較例1、2及び5)を用い、融解ピーク(P1)のピーク温度(T1)よりも数℃高い加工温度(142℃)で不織布加工を行った場合には、良好な不織布強力を有する不織布が得られた。しかし、熱接着性複合繊維(比較例1、2及び5)を用いて得られた不織布は、風合いに劣っていた。また、ウェブの材料として比較例3,4の熱接着性複合繊維を用い、融解ピーク(P1)のピーク温度(T1)よりも数℃高い加工温度(136℃、142℃)で不織布加工を行った場合にも、良好な不織布強力を有する不織布が得られたが、不織布の風合いは不充分であった。
【0036】
【発明の効果】
本発明の熱接着性複合繊維は、該熱接着性複合繊維をウェブとし、これを熱風接着法により鞘成分の融解ピークのピーク温度以上で熱処理することで、高い不織布強力と良好な風合いを有する不織布が製造でき、また、該ウェブを該ピーク温度未満で熱処理することで、高い寸法安定性(低いウェブ熱収縮率)のもとに実用的な不織布強力を有する不織布が製造できる、低温加工性に優れる複合繊維である。得られる不織布は、高強力で、嵩高性、風合い(触感)に優れている。さらに該不織布を用いて作られる吸収性物品は、良好な風合いを有している。また、該不織布を用いて作られるワイパーは、不織布強力が高いことから形状保持に優れ、拭き取り時にワイパーから熱接着性複合繊維の脱落が生じにくい良好な物性を有している。さらに該ワイパーは、嵩が高いことから、ワイピング性能に優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の熱接着性複合繊維のDSCチャートの模式図である。
【符号の説明】
1 :鞘芯型複合繊維(熱接着性複合繊維)のDSC曲線
P1 :プロピレン共重合体に由来する融解ピーク
P2 :結晶性ポリプロピレンに由来する融解ピーク
P3 :結晶性ポリプロピレンに由来する融解ピーク
T0 :プロピレン共重合体の軟化開始温度
T1 :融解ピーク(P1)のピーク温度
T2 :融解ピーク(P2)のピーク温度
T3 :融解ピーク(P3)のピーク温度
Claims (5)
- プロピレン共重合体を鞘成分とし、結晶性ポリプロピレンを芯成分とする鞘芯型複合繊維であって、該プロピレン共重合体は、エチレン含量3〜5重量%、プロピレン含量92〜96重量%、1−ブテン含量1〜3重量%のオレフィン系3元共重合体であり、示差走査熱分析法によって得られる該鞘芯型複合繊維のDSC曲線が、3つの融解ピークを示し、最も低温側の融解ピークを(P1)、最も高温側の融解ピークを(P2)、P1とP2の融解ピーク間の融解ピークを(P3)とするとき、融解ピーク(P1)のピーク温度(T1)と融解ピーク(P3)のピーク温度(T3)との温度差(T3−T1)が10℃以上、融解ピーク(P2)のピーク温度(T2)と融解ピーク(P3)のピーク温度(T3)との温度差(T2−T3)が4〜10℃の範囲であることを特徴とする熱接着性複合繊維。
- 融解ピーク(P2)の融解熱量(ΔH2)に対する融解ピーク(P3)の融解熱量(ΔH3)の比(ΔH3/ΔH2)が0.4〜1であることを特徴とする請求項1記載の熱接着性複合繊維。
- 請求項1〜2のいずれか1項記載の熱接着性複合繊維からなる不織布。
- 請求項3記載の不織布を用いた吸収性物品。
- 請求項3記載の不織布を用いたワイパー。
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