JP3566808B2 - 摺動性樹脂組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、摩擦係数が低く、耐摩耗性に優れた成形品を与える摺動性樹脂組成物に関する。この組成物は、ギヤ、軸受け、ローラーアイドラ等の摺動部品の成形材料に適している。
【0002】
【従来の技術】
摺動部品の樹脂化が進むなかで、使用する材料としてはポリアセタール、ポリアミド等の耐摩耗性に優れた樹脂材料が主流であるが、これらの樹脂材料は摩擦係数が高いという欠点があり、用途が限定されていた。また樹脂材料の摺動性を改良する手段として、例えばポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)にポリ四フッ化エチレン(PTFE)等の潤滑成分および、炭素繊維やチタン酸カリウムウィスカ、タルク等の補強成分を、使用して添加するなどが行われてきた(特公平5−48789、特開平4−178497等)。しかしながらこれらの組成物では過酷な使用条件に対して、必ずしも満足な性能が得られなかった。
【0003】
また、無機フィラー含有PPS組成物の耐衝撃性改良のために、アクリル酸エステル等のエラストマー成分及び無水マレイン酸で変性したポリエチレンを添加することが、提案されている(特開平5−202245)。しかし、エラストマー成分を併用すると摩擦係数が高くなるため、摺動性材料には適用できるものではなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記した従来の樹脂組成物に較べ、より高度の摺動性を有する樹脂組成物を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記の状況を踏まえて鋭意検討した結果、ポリフェニレンサルファイド樹脂に、エチレン性不飽和カルボン酸変性ポリエチレン及びエポキシ基を有するシランカップリング剤を特定量添加した特定の樹脂組成物が優れた摺動性を有することを見いだし、本発明に至った。
【0006】
即ち本発明は、
A ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部
B エチレン性不飽和カルボン酸及び/またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物により変性されたポリエチレン1〜70重量部、及び
C エポキシ基を有するシランカップリング剤0.1〜10重量部からなる組成物100重量部に、
D ポリ四フッ化エチレン3〜70重量部、及び
E 黒鉛0.1〜30重量部
を含有することを特徴とする摺動性樹脂組成物に存する。
【0007】
【本発明の実施の態様】
以下、本発明を詳細に説明する。
(ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下PPSと略称する))
本発明のA成分であるPPSは、次の一般式で示される繰り返し単位を主構成要素として含有する結晶性高分子である。
【0008】
【化3】
Figure 0003566808
(ここでArは、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基または1,2−フェニレン基を示す)
【0009】
本発明では、上記繰り返し単位を主成分要素とするもの、すなわち上記繰り返し単位からなるもの、またはこれを好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含むものが望ましい。
成分Aの実質的全量が上記繰り返し単位から成り立っていない場合、残りは共重合可能な、例えば下記のような繰り返し単位から成る成分で充足させることが出来る。
【0010】
【化4】
Figure 0003566808
(ここで、Rはアルキル基、アルコキシ基、ニトロ基またはフェニル基を示す)
【0011】
PPSの構造としては、線状構造、架橋構造のいずれでも使用できる。
PPSの粘度は、300℃ 20kg荷重での溶融粘度が3000ポイズ以上、さらに好ましくは6000ポイズ以上が耐摩耗性に優れる点で望ましい。
本発明におけるPPSは、市販のものを使用できる。
【0012】
(エチレン性不飽和カルボン酸及び/またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物により変性されたポリエチレン)
B成分であるエチレン性不飽和カルボン酸及び/またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物により変性されたポリエチレンとは、ポリエチレンにエチレン性不飽和カルボン酸及び/またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物またはその誘導体を、ラジカル発生剤の存在のもとにグラフト化したグラフト共重合体、エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸及び/またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物との二元共重合体である。
【0013】
上記エチレン性不飽和カルボン酸及び/またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物グラフト共重合体の調製に使用するポリエチレンとしては、低密度、直鎖状低密度、中密度、高密度ポリエチレンなどが使用できる。
【0014】
本発明において用いることができるエチレン性不飽和カルボン酸またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物の好ましい例としてはマレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸を挙げることができる。
【0015】
これ等のエチレン性不飽和カルボン酸またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物の含有量は変性ポリエチレン100重量部に対して0.05〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部が好ましい。
【0016】
本発明で使用するエチレン性不飽和カルボン酸及び/またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物変性ポリエチレンとしては無水マレイン酸グラフト共重合体が好適である。無水マレイン酸のグラフト量としては、変性ポリエチレン100重量部に対して0.05〜8重量部、特に0.05〜5重量部が好ましい。得られたエチレン性不飽和カルボン酸変性ポリエチレンの粘度は、190℃、荷重2.16kgにおけるMFRが0.01〜100g/10分、特に0.1〜50g/10分のものが好ましい。
【0017】
本発明におけるエチレン性不飽和カルボン酸及び/またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物変性ポリエチレンの含有量はPPS樹脂100重量部に対し、1〜70重量部、好ましくは1〜40重量部、とりわけ好ましくは3〜30重量部である。含有量がこれより多いと耐摩耗性が著しく低下し、これより少ないと摩擦係数が低下せず、発明の効果が現れない。
【0018】
(エポキシ基を有するシランカップリング剤)
成分Cのエポキシ基を有するシランカップリング剤は、特に限定されないが、好ましいものとしては、例えば、一般式
【0019】
【化5】
Figure 0003566808
【0020】
R1 、R2 :炭素数1〜6のアルキル基
Y:炭素数1〜6のアルキレン基または−R3 −O−R4 −
R3 、R4 :炭素数1〜6のアルキレン基
で表されるシラン化合物である。
この中でも、Xが
【0021】
【化6】
Figure 0003566808
【0022】
であり、R1、R2が炭素数1〜3のアルキル基であるシランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0023】
エポキシ基を有するシランカップリング剤の添加量としては、PPS100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。これより少ないとPPSとエチレン性不飽和カルボン酸変性ポリエチレンとの界面接着が充分でなく、耐摩耗性が得られない。また多いと、残留した未反応シランカップリング剤に起因して、成形時のガス焼けの原因となる。
上記A〜C成分よりなる樹脂組成物は優れた摺動性を有するが、以下の成分を添加することによりさらに優れた摺動性が得られる。
【0024】
(ポリ四フッ化エチレン(以下PTFEと略称する))
本発明で使用するPTFEは、例えばテトラフルオロエチレン(TFE)の懸濁重合や乳化重合によって得られるもので、好ましくは、粉砕、分級した粉末状のものを使用する。
上記粉末の平均粒径は、100μm以下が望ましく、1〜50μmの範囲が、摺動性の点で特に好ましい。
【0025】
PTFE粉末の配合量は、成分A〜Cの合計量100重量部に対して3〜70重量部、好ましくは5〜40重量部であり、これより少ないと摺動性改良効果が小さく、逆に、多いと耐摩耗性が低下するだけでなく、組成物の流動性が低下するため成形性が劣る。
【0026】
(黒鉛)
黒鉛は、人造黒鉛、天然黒鉛(鱗状、土状、塊状)などが使用できるが、なかでも平均粒径50μm以下、特に30μm以下の鱗状天然黒鉛が摺動性に優れる点で好ましい。
配合量はA〜C成分の合計量100重量部に対して0.1〜30重量部望ましくは0.5〜10重量部で、これより多いと耐摩耗性が著しく低下する。
【0027】
本発明に使用する黒鉛には、PPS及びエチレン性不飽和カルボン酸及び/またはカルボン酸無水物変性ポリエチレンとの親和性を高めるために、各種の表面改質を施すことができ、例えば各種シランカップリング剤、チタンカップリング剤、フェノール、アクリル酸、ステアリン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸、高級脂肪酸グリセリンエステル、アミド化合物、高級脂肪酸金属塩、高級アルコール、各種ワックス、極性基含有ポリオレフィン(無水マレイン酸変性ポリオレフィン、酸化ポリオレフィン等)などを用いることができる。
【0028】
(付加成分)
本発明の組成物は請求項の組成物から本質的に成るものであるが、さらに本発明では、発明の効果を著しく損なわない範囲でこれらの成分の他に付加的成分を、配合することが出来る。
例えば、二硫化モリデブン、窒化硼素、タルクなどの固体潤滑剤、鉱油、エステル油、シリコン油などの潤滑油、炭素繊維、アラミド繊維、各種ウィスカ(チタン酸カリウム、ほう酸アルミニウム、炭化ケイ素等)などの強化剤を挙げることができる。
【0029】
(混練組成物の製法及び成形法)
本発明組成物は、一軸押し出し機、二軸押し出し機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、ニーダーなどの通常の混練機を用いて製造する事ができる。
通常は押し出し機などで上記必須成分及び、所望により追加成分、架橋触媒等を混練してペレット状にした後、加工に供するが、各成分を直接成形機に供給し、成形機で組成物に混練しながら成形する事もできる。また、予めB成分あるいはC成分を高濃度に混練してマスターバッチとし、それをA成分等の他の成分で希釈しながらブレンドコンパウンドしたり直接成形したりできる。
【0030】
本発明の組成物は通常の熱可塑性樹脂用の成形機で成形できる。すなわち射出成形、押し出し成形、プレス成形などに適用できる。このなかでも射出成形が生産性に優れる点で望ましい。
【0031】
【実施例】
以下実施例にて本発明を詳しく説明する。
実施例および比較例の結果を表1〜2に示す。
【0032】
使用した各成分は次の通りである。
Figure 0003566808
【0033】
MMPE1(無水マレイン酸グラフトポリエチレン)
高密度ポリエチレン(密度0.97g/cm )をベンゾイルパーオキサイドの存在下で無水マレイン酸でグラフト処理し、無水マレイン酸含量0.8重量%、190℃、荷重2.16KgでのMFRが1.0g/10分の無水マレイン酸変性高密度ポリエチレンを得た。
MMPE2(無水マレイン酸グラフトポリエチレン)
直鎖状低密度ポリエチレン(密度0.93g/cm )をベンゾイルパーオキサイドの存在下で無水マレイン酸でグラフト処理し、無水マレイン酸含量0.8重量%、190℃、荷重2.16KgでのMFRが1.0g/10分の無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレンを得た。
【0034】
AMPE(エチレン/アクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体)
住友化学工業(株)社製 ボンタインLX4110
MFR(190℃、荷重2.16Kg) 5g/10分
HDPE(高密度ポリエチレン)
ダイヤポリマー(株)社製 HY540
密度0.96g/cm MFR(190℃、荷重2.16Kg)1.1g/10分
エポキシシランカップリング剤1
信越シリコーン(株)社製 KBM403
【0035】
【化7】
Figure 0003566808
【0036】
エポキシシランカップリング剤2
信越シリコーン(株)社製 KBM303
【0037】
【化8】
Figure 0003566808
【0038】
アミノシランカップリング剤
信越シリコーン(株)社製 KBM603
【0039】
【化9】
Figure 0003566808
【0040】
PTFE(ポリ四フッ化ポリエチレン)
喜多村(株)社製 KTL610
平均粒子径 10μm
黒鉛 日本黒鉛(株)社製 CP・B(鱗状天然黒鉛)
平均粒子径 5μm
【0041】
上記成分を、表1〜2に示す配合割合で混合し二軸混練押出機を用いて290℃にて混練してペレット状の組成物を得た。このペレットを射出成形機を用いて成形温度300℃、金型温度140℃にて、テストピースを作製した。
【0042】
摺動性評価
実施例の摺動性評価は、リングオンディスク式摩擦摩耗試験器(東京試験機製作所(株)社製)を使用した。摩擦相手のリング1としてはS45C鋼材製で図1,2に示すように外径D1 =23mm:内径D2 =20mmの環状体に巾W1=2.4mmの摺動部2が突設されたものを用いた。
【0043】
該リング1をサンプル片上に押し当てて、回転数300回転/分の速さで回転し、20kgの荷重を与えたときの摩耗量と摩擦係数を測定した。
以下に具体的試験条件を示す。
接触面積;0.216cm
回転数 ;300RPM
速度 ;33.8cm/sec
試験荷重;20kg(面圧93kg/cm
試験時間;1〜10時間
試験中のリングにかかる負荷トルクより摩擦係数を求めた。また試験時間と試験後の重量減少より、単位時間あたりの摩耗量を求めた。
【0044】
【表1】
Figure 0003566808
【0045】
【表2】
Figure 0003566808
【0046】
【表3】
Figure 0003566808
【0047】
実施例に示したように、本発明の樹脂組成物は低摩耗で低摩擦係数の極めて優れた摺動性を発現した。この原因として、ポリエチレン成分とPPS樹脂がカルボン酸及び/またはカルボン酸無水物、およびエポキシシランの作用によって強固に接着しており、その結果、ポリエチレンの潤滑性能とPPSの耐摩耗性が相乗効果的に発現したものと考えられる。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように本発明による樹脂組成物は、軸受け、ローラーなどの摺動部品、特に従来の樹脂材料では不可能であった厳しい要求性能の部品にも適用でき、更に成形性にも優れるため、射出成形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例と比較例で摩耗試験に用いた試験用リングの底面図
【図2】該試験用リングの側面図
【符号の説明】
1 リング
2 摺動部
3 サンプル

Claims (8)

  1. A ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部、
    B エチレン性不飽和カルボン酸及び/またはエチレン性不飽和カルボン酸無水物により変性されたポリエチレン1〜70重量部、及び
    C エポキシ基を有するシランカップリング剤0.1〜10重量部
    からなる組成物100重量部に、
    D ポリ四フッ化エチレン3〜70重量部、及び
    E 黒鉛0.1〜30重量部
    を含有することを特徴とする摺動性樹脂組成物。
  2. A ポリフェニレンサルファイド樹脂 100重量部
    B エチレン性不飽和カルボン酸 及び/又は エチレン性不飽和カルボン酸無水物により変性されたポリエチレン 1〜40重量部
    C エポキシ基を有するシランカップリング剤 0.5〜5重量部
    D ポリ四フッ化エチレン 5〜40重量部
    E 黒鉛 0.5〜10重量部
    を含有することを特徴とする摺動性樹脂組成物。
  3. Bのエチレン性不飽和カルボン酸 及び/又は エチレン性不飽和カルボン酸無水物が、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸から選ばれることを特徴とする請求項2記載の摺動性樹脂組成物。
  4. Cのエポキシ基を有するシランカップリング剤が、
    Figure 0003566808
    R1 、R2 :炭素数1〜6のアルキル基
    Y:炭素数1〜6のアルキレン基または−R3 −O−R4 −
    R3 、R4 :炭素数1〜6のアルキレン基で表されることを特徴とする請求項1記載の摺動性樹脂組成物。
  5. Xが
    Figure 0003566808
    であり、R1,R2が炭素数1〜3のアルキル基であることを特徴とする請求項4記載の摺動性組成物。
  6. ポリフェニレンサルファイド樹脂が、300℃、20kg荷重での溶融粘度が3000ポイズ以上であることを特徴とする請求項1記載の摺動性樹脂組成物。
  7. ポリ四フッ化エチレンが平均粒径100μm以下の粉末であることを特徴とする請求項1ないし6記載の摺動性樹脂組成物。
  8. 黒鉛が平均粒径50μm以下の粉末であることを特徴とする請求項1ないし7記載の摺動性樹脂組成物。
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