JP3566320B2 - 触媒組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、通常二塩化エチレン(EDC)と呼ばれている1,2−ジクロロエタンを製造するためのエチレンの流動床または固定床式触媒オキシ塩素化法に関し、また詳細には、エチレンのオキシ塩素化反応における改善された銅触媒とその使用に関する。
【0002】
【従来の技術】
オキシ塩素化法による塩素化炭化水素類の製造のための触媒は、かなりの年月にわたって十分に確立されている。エチレンをオキシ塩素化法で1,2−ジクロロエタンへ転化することは、世界中の工業設備で実施されている。その好ましい方法は、エチレンと、塩化水素と、酸素または酸素含有ガス(例、空気)との混合物を、流動触媒床で気相反応させる方法である。必要な条件の一例が、Harpringらの米国特許第 3,488,398号明細書に記載されている。
【0003】
オキシ塩素化反応に用いられる典型的な触媒は、銅化合物を約4〜17重量%含んで成る。典型的には、銅化合物は塩化第二銅であって、活性な触媒成分として、固定された流動性担体、例えばシリカ、多孔質珪藻土、粘土、フラー土またはアルミナ、の粒子表面に付着している。非固定床式触媒反応に用いるには、担体は、反応帯域からの触媒の過剰損失を伴うことなく容易に流動し、また該処理に有用である適当な粒子密度、耐摩耗性及び粒径分布を示さなければならない。本発明と最も密接に係わるオキシ塩素化処理では、アルミナ担体が用いられるが、これはガンマアルミナ、アルファアルミナ、いわゆるミクロゲルアルミナまたはその他の形態の「活性化された」アルミナであってもよい。標準的な固定床及び流動床式のアルミナ系オキシ塩素化触媒は、著しい点において改善されうる。
【0004】
オキシ塩素化触媒によってエチレンに対してEDCができるだけ高い収率で得られることが望ましい(すなわち、エチレンがより完全にEDCに転化し、炭素酸化物やより塩素化された物質にまで反応するエチレンがより少ないことが望ましい)。EDCを大量生産するビジネスでは、エチレンのEDCへの転化効率がわずかに増加しただけでも非常に価値がある。例えば、10億ポンド(約4.5億Kg)/年規模のEDCオキシ塩素化工場では、エチレン効率のわずか1%の増加が、年間で約50万〜100万ドルの節約をもたらしうる。さらに、エチレン効率の増加によって、副産物の量や、それに関連する炭化水素類及び塩素化炭化水素類の環境への放出の可能性が低減される。
【0005】
さらに、経済上及び環境上の理由から、オキシ塩素化触媒によって、反応に用いられる塩化水素(HCl)が高効率で転化されることも非常に望まれるようになっている。エチレンのEDCへの転化率をより高めようとして、エチレンに対して理論モル比率よりも高いHClを使用すると問題が生じる場合がある。未転化のHClを、例えばカ性アルカリ溶液で中和しなければならず、また生じる塩は廃棄しなければならない。さらに、プロセス中のHCl量が多いほど、反応器の下流におけるHClの漏出量も多くなりうるので、これが腐食の問題を引き起こしかねない。こうして、現在のオキシ塩素化法は、高いHCl転化率と共に、HCl対エチレンのモル比率を理論量の2対1(2:1)にできる限り近づけ、しかしこれを超えないようにして操作するようにしている。エチレンを触媒の中/上に1回だけ通す商業上の慣例では、一般にその比率は約1.93〜約1.97である。未反応のエチレンを分離して再循環させるプロセスでは、約1.88〜約1.92の低い比率を採用してもよい。いずれを適用するにしても、高いHCl転化率と高いエチレン効率とを組み合わせることが最も望ましい。
【0006】
最後に、典型的な塩化第二銅担持アルミナ流動床触媒は、HCl対エチレンのモル供給比が約1.9よりも高いと、オキシ塩素化反応の際に「粘着性」を発揮する傾向を示す。触媒の粘着性は、基本的には触媒粒子の凝集であるが、流動床オキシ塩素化プロセスにおいて最適なエチレン及びHClの供給原料効率を達成する上で重大な障壁となりうる。オキシ塩素化触媒から最高エチレン効率を得るには、HCl/エチレンモル供給比を理論値の2.0に近づけ、しかしこれを超えずに操作することを必要とする。しかしながら、商業プロセスにおいてHCl/エチレン供給比が約1.9を上回り増加すると、標準的な流動床オキシ塩素化触媒は次第に粘着性が高くなる場合がある。触媒の粘着性が増加すると、流動床の伝熱性が悪くなり、触媒床内部に高温部が発生し、供給原料転化率及び収率が低下し、また極端な場合、床が実際に壊れ落ち、床を抜ける蒸気流路を引き起こす。商業生産では、供給原料、温度変動、等に対する混乱は、好ましい比率を超えたHCl/エチレン比率をもたらしかねず、それゆえ、高性能オキシ塩素化触媒は、広い範囲のHCl/エチレン供給比(1.85〜2.2)にわたって操作できる性能が要求される。高性能触媒に対するその他の要件は、優れた流動化と、高い転化率、収率及び効率である。この触媒の粘着性の問題と、装置及びその部分制御のための手段については、Cowferらの米国特許第 4,226,798号明細書に記載されている。また、標準的なオキシ塩素化触媒における粘着性を制御する方法は、同じくCowferらの米国特許第 4,339,620号明細書に記載されている。これらの装置や方法は有用ではあるが、反応の際に粘着性を発生しないオキシ塩素化触媒を使用する方がより実用的且つ効率的である。
【0007】
アルカリ金属、アルカリ土類金属、または稀土類金属を塩化銅と一緒に使用することについて記載している文献がある。これらの触媒は本発明の触媒に組成が近いが、組成と性能をさらに改善することができる。これらの文献の中に、触媒性能を改善するために用いた金属の種類や量について教示または提案しているものはない。エチレンをオキシ塩素化してEDCを得るための触媒の改善には多大な努力が払われてきた。製造される製品の体積が大きいので、わずかな効率の増加が大きなコストの節約をもたらしうる。また、HCl転化率とエチレン効率の増加は環境にとっても有益である。
【0008】
オキシ塩素化反応用に改善された触媒の開発には、多大な努力が払われてきた。本発明の触媒及び方法に最も密接に係わる文献は、Edenらの米国特許第 4,740,642号及び米国特許第 3,205,280号明細書であり、着目する価値がある。米国特許第 4,740,642号明細書は、銅、アルカリ金属塩及び稀土類金属塩を含んで成る触媒組成物に関する。米国特許第 3,205,280号明細書は、Al 担体(その表面積を実質的に低下させる900℃で焼成したもの)の表面に、塩化カリウムのようなアルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属、銅のような遷移金属、及び/またはジジムのような稀土類金属を担持する触媒組成物について記載している。どちらの文献も、特定の限定された比率のアルカリまたはアルカリ土類金属対遷移または稀土類金属を要件としている。
【0009】
本発明の触媒は、いくつかの基準に対して評価される。それは、エチレン効率、エチレン転化率、HCl転化率、EDC選択率、二酸化炭素及び一酸化炭素選択率、トリアン(triane)(1,1,2−トリクロロエタン)選択率及び流動床触媒の流動化特性である。エチレンとHClの転化率は、反応器内で消費された反応体のモル%量で簡単に定量される。選択率は、生成した純粋な生成物のモル%収率である。エチレン効率はエチレン転化率とEDC選択率との積であり、例えばエチレン転化率が99%で、EDC選択率が95%である場合には、エチレン効率は94%となる。0.5%程度のわずかなエチレン効率の増加が、製造される製品体積が大きいために、非常に多大な節約をもたらしうる。また、廃棄物、例えばトリアン(1,1,2−トリクロロエタン)のような過塩素化副産物を低減することも、大きな節約をもたらしうる。これらの物質を環境的に安全に廃棄するためには、現在$500/トン程度のコストが製造業者にかかる場合がある。従って、この副産物を低減することは、公害に対する潜在的可能性を低減するだけでなく、コストの節約にもなりうる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の触媒組成物は、塩化銅、少なくとも1種のアルカリ金属、少なくとも1種の稀土類金属及び少なくとも1種の第IIA族金属を含んで成る。該触媒組成物は、該金属を担体に付着させることによって調製される。本発明の触媒組成物をエチレンのEDCへのオキシ塩素化に使用すると、触媒の粘着を示すことなく高い割合のエチレン効率と、高いEDC製品純度と、そして高い割合のHCl転化率が得られる。その上、これら触媒性能の利益のすべてが、別の利益のためにある利益を犠牲にすることなく同時に得られる。
【0011】
【課題を解決するための手段、作用及び効果】
本発明の触媒組成物は、容易に入手できる担体材料を使用する。流動床触媒反応のためには、金属類を大表面積担体に担持させる必要がある。流動床触媒反応において大表面積担体が必要である主な理由は、金属が大面積にわたり分散しうるので触媒の粘着性を低減するために必要だからである。固定床触媒反応では、担体は大表面積または小表面積のいずれを示してもよい。担体材料の例には、シリカ、マグネシア、多孔質珪藻土、粘土、フラー土、アルミナまたはそれらの混合物のような材料が含まれるが、これらには限定されない。好ましい触媒プロセスは、大表面積担体を使用する流動床触媒反応であり、また、便宜上、本発明を流動床触媒反応との関連で記載するが、これは単に例示的な意味をもつものであって、これによって本発明が限定されることはないことを理解されたい。
【0012】
流動性の大表面積担体の例には、シリカ、マグネシア、多孔質珪藻土、粘土、フラー土、アルミナまたはそれらの混合物にような材料が含まれるが、これらには限定されない。好ましい担体は大表面積アルミナ(しばしばγ−アルミナと称する)である。以降、本発明をアルミナ担体に関して記述する。これは例示を意味するものであって、限定するものではない。流動性アルミナ担体材料は、表面積が約30〜250m/gの範囲にあり、圧縮バルク密度が0.8〜1.1グラム/ccの範囲にあり、孔体積が0.2〜0.5cc/グラムの範囲にあり、また粒径分布は粒子の約70〜95重量%が直径80μm未満であり、約30〜50重量%が直径45μm未満であり、約15〜30重量%が直径30μm未満であり、そして200μmよりも大きな粒子は5重量%以下で、また20μmよりも小さな粒子は10重量%以下である。このようなアルミナ担体材料は、流動し易く、比較的安定であり、機械的強度があり、そして耐摩耗性である。
【0013】
ある種のアルミナ担体材料は、酸化アルミニウム(Al )の他に、別の金属、例えば酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、等のような金属酸化物を少量含有することができる。本発明では、これらのアルミナ担体が容易に使用できる。
【0014】
本発明で用いられるアルカリ金属は、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウムもしくはセシウム、またはこのような金属を1種以上含む混合物であってもよい。アルカリ金属は、水溶性塩の形態で用いられるが、好ましくはアルカリ金属塩化物の形態で用いられる。しかしながら、炭酸塩や臭化物塩のようなその他のハロゲン化物塩のように、オキシ塩素化処理中に塩化物塩に転化しうる別のアルカリ金属塩を使用してもよい。アルカリ金属は、触媒組成物の全重量に対して(金属として)約0.2〜約2.0重量%の範囲で用いられる。好ましいアルカリ金属はカリウム、リチウム及びセシウムである。最も好ましいアルカリ金属はカリウムであり、また好ましいアルカリ金属塩は塩化カリウムである。アルカリ金属の必要最少量は約0.2%である。アルカリ金属の好ましい最少量は、触媒の全重量に対して約0.25重量%である。アルカリ金属の最も好ましい最少量は、触媒の全重量に対して約0.5重量%である。アルカリ金属の好ましい最大量は、触媒の全重量に対して約2.0重量%である。アルカリ金属の最も好ましい最大量は、触媒の全重量に対して約1.5重量%である。
【0015】
本発明に用いる稀土類金属は、周期律表の第57番〜第71番に記載されている元素及び疑似稀土類元素のイットリウム及びスカンジウムのうちのいずれであってもよい。稀土類金属の例には、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジムまたはジジムのような金属を1種以上含む天然混合物、が含まれる。稀土類金属は、稀土類金属塩化物の形態で用いられる。しかしながら、炭酸塩、硝酸塩または臭化物塩のような別のハロゲン化物塩のように、オキシ塩素化処理中に塩化物に転化しうる別の稀土類金属塩を使用してもよい。
【0016】
稀土類金属は、触媒組成物の全重量に対して(金属として)約0.1〜約9重量%の範囲で用いられる。稀土類金属の好ましい最少量は、触媒の全重量に対して約0.1重量%である。稀土類金属の最も好ましい最少量は、触媒の全重量に対して約0.5重量%である。稀土類金属の最大量は、触媒の全重量に対して約9重量%である。稀土類金属の好ましい最大量は、触媒の全重量に対して約6重量%である。稀土類金属の最も好ましい最大量は、触媒の全重量に対して約3重量%である。典型的に用いられる稀土類金属は、塩化物塩の形態のセリウムまたはジジムである。
【0017】
驚くべきことに、ランタンとセリウムを主成分とする混合物であって、ランタンのパーセントがセリウムのパーセントよりも高い稀土類金属混合物を使用すると、活性の増大した触媒が得られることを発見した。この増大した触媒活性によって、改善されたEDC選択率が得られるが、これはエチレン転化率がより低い操作温度で維持されうるためである。セリウムのパーセントに対するランタンのパーセントの好ましい比率は少なくとも2.0である。より高温で操作することが望まれる場合には、稀土類金属の混合物を用いた触媒組成物は、セリウムのパーセントがランタンのパーセントよりも大きくなければならない。
【0018】
第IIA族金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムである。第IIA族金属は、好ましくは、マグネシウム及びバリウムである。最も好ましい第IIA族金属はマグネシウムである。第IIA族金属の好ましい最少量は、触媒の全重量に対して金属として約0.05重量%である。第IIA族金属の好ましい最少量は、触媒の全重量に対して約0.25重量%である。第IIA族金属の好ましい最大量は、触媒の全重量に対して約4.0重量%である。第IIA族金属のより好ましい最大量は、触媒の全重量に対して約3.0重量%である。第IIA族金属の最も好ましい最大量は、触媒の全重量に対して約2.0重量%である。
【0019】
金属塩は、適当ないずれかの溶媒に溶解した塩の溶液を加えることによって、担体表面に付加することができる。溶液を形成できるいずれの金属塩でも適当であるが、好ましい金属塩は塩化物塩である。好ましい溶媒は水である。
【0020】
アルミナ担体表面へ金属を付加する方法の一つは、銅化合物の水溶性塩と一緒に金属の水溶性塩を含む水溶液に担体を含浸させた後に、その濡れた担体を乾燥する方法によって行われる。流動性触媒を製造するために、銅化合物の付着前に、アルカリ金属、稀土類金属及び第IIA族金属を担体上で焼成してもよいが、しかし必要ではない。
【0021】
特定範囲の配合量の銅、アルカリ金属、稀土類金属及び第IIA族金属のみが、上記のすべての高性能特性をもたらすことを発見した。活性金属の特定の配合量を外れると、すべての点における高性能は実現されない。
【0022】
銅化合物は、水溶性塩の形態でも用いられ、好ましくは塩化第二銅として用いられる。しかしながら、硝酸塩、炭酸塩または臭化物塩のような別のハロゲン化物塩のように、オキシ塩素化処理中に塩化物に転化しうる別の銅塩を使用してもよい。銅塩は、上記した同じ技法によってアルミナ担体表面に付着させる。付着させる銅金属の量は、流動床触媒用途に対する担体の特別な流動特性や望まれる活性を基準とする。使用する銅金属の量は、触媒組成物の全重量に対して、金属銅として約2〜約8重量%、または例えば塩化銅(II)塩として約4〜約17重量%の範囲にある。好ましい銅塩は塩化銅である。銅金属の好ましい最少量は、触媒の全重量に対して約2.0重量%である。銅金属の最も好ましい最少量は、触媒の全重量に対して約3.0重量%である。銅金属の好ましい最大量は、触媒の全重量に対して約8.0重量%である。銅金属の最も好ましい最大量は、触媒の全重量に対して約6.0重量%である。銅を塩化銅(II)塩として定量する場合には、銅塩の最少量は、触媒の全重量に対して約4.0重量%である。銅塩の最も好ましい最少量は、触媒の全重量に対して約6.0重量%である。銅塩(塩化銅(II)として)の好ましい最大量は、触媒の全重量に対して約17重量%である。銅塩の最も好ましい最大量は、触媒の全重量に対して約13重量%である。アルカリ金属、稀土類金属、第IIA族金属及び銅化合物を含有する最終触媒組成物は易流動性である。
【0023】
例として、表面積や孔体積のような特定の特性は、金属塩の付着によってもちろん改変される。こうして、本発明の触媒組成物は、約20〜約220m/gの範囲にある最終表面積を示すが、これは金属付着前のアルミナ担体の表面積よりも約10〜30%小さくなっている。流動床触媒にとって好ましい表面積の範囲は、約70〜約170m/gである。流動床触媒にとって最も好ましい表面積の範囲は、約80〜約130m/gである。
【0024】
本発明の触媒組成物には、別の金属が比較的少量存在してもよい。例えば、アルカリ土類金属及び/または遷移金属が、触媒組成物の全重量に対して約1重量%以下で存在することができる。このような別の金属の例として、鉄、亜鉛、鉛、等が挙げられる。
【0025】
本発明の触媒組成物は、上記のように、所望の金属の塩を含む水溶液でアルミナ担体材料を湿潤させることによって容易に調製される。次いで、その濡れているアルミナを約80℃〜150℃でゆっくりと乾燥させて水分を除去する。金属塩の量は、最終触媒が、約2〜約8重量%の銅、約0.2〜約2.0重量%の内蔵されたアルカリ金属及び約0.1〜約9重量%の稀土類金属、並びに約0.05〜約4.0重量%の第IIA族金属(上記重量%はすべて触媒組成物の全重量を基準とする)を含有するように選定される。水溶液に用いる金属塩は、カリウム、ナトリウム、リチウム、ルビジウムもしくはセシウムの塩化物塩または炭酸塩、またはランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム及びジジム(これはプラセオジムとネオジムを一緒に含有する稀土類金属の混合物である)の塩化物塩または炭酸塩、及びマグネシウム、バリウム、カルシウムもしくはストロンチウムの塩化物塩または炭酸塩、並びに銅の塩化物塩または炭酸塩のように、先に記載したようないずれの水溶性塩であってもよい。固定床触媒反応については、触媒の粘着性は重要な因子ではないため、金属類のパーセントや全重量を増加してもよいことに着目すべきである。
【0026】
本発明はまた、エチレンをオキシ塩素化して二塩化エチレン(EDC)を形成させるための方法にも関する。該方法は、エチレンと、酸素または酸素含有ガスと、塩化水素(HCl)とを反応帯域内で触媒組成物と接触させて、その反応帯域の流出体を回収する工程を含んで成る。用いる触媒は、銅、アルカリ金属、稀土類金属及び第IIA族金属を含んで成る。金属類は、流動床用の大表面積担体か、または固定床用の大表面積もしくは小表面積担体に付着させる。
【0027】
このプロセスは、未反応のエチレンをすべてガス抜きまたはそれ以外で除去する一過式プロセスとして実施するか、あるいは未反応エチレンを反応器内へ再循環させる再循環プロセスで実施することができる。再循環プロセスでは、エチレンに対するHClの比率は低くなる傾向があり、約1.88〜約1.92のモル比率である。
【0028】
本発明の触媒組成物は、エチレンをEDCへオキシ塩素化する効率の高い触媒である。反応工程温度は約190℃〜約260℃の範囲にあるが、より好ましくは約220℃〜約250℃の範囲である。反応圧力は周囲圧から約1.38×10 Pa(約200 psig 程度の高圧までの範囲にある。流動床及び固定床触媒反応における接触時間は、約10秒〜約50秒間の範囲にあることができ、またより好ましくは約20〜35秒間である(ここで接触時間は、反応器の制御温度及び最高圧力における供給ガスの体積流速に対する触媒が占める反応器体積の比率として定義される)。反応器に供給されるHClのモル数を基準としたエチレン、HCl及び酸素反応体の比率は、2.0のHClに対してエチレンが約1.0〜約1.1モル、また酸素が約0.5〜約0.9モルの範囲にある。先に述べたように、現在のオキシ塩素化法は、エチレン1モルに対してHClが約1.89〜約2.0モルの理論比の範囲内で操作しようとしている。
【0029】
本発明の新規触媒組成物を、エチレンをEDCへオキシ塩素化する商業生産条件である温度約215℃〜約260℃、流動床接触時間約30秒で使用すると、エチレンの転化率は99%以上となり、またエチレン効率は約96%よりも高くなる。この効率は、従来の既知の触媒組成物を使用して得られる通常の商業エチレン効率約93〜95%に匹敵する。本発明の触媒を使用すると、HClの転化率もまた非常に高くなって99%を上回り、従来の既知の触媒組成物を用いて達成される転化率を上回る。さらに、本発明の触媒組成物は、商業生産のオキシ塩素化反応条件下で用いた場合に「粘着性」にならない。従って、本発明は、改善された触媒組成物の他に、エチレンをEDCへオキシ塩素化する改善された流動床プロセスを提供する。エチレン、塩化水素及び(一過式反応器で空気として供給されたか、あるいはベント−ガス−再循環反応器で酸素ガスとして供給された)酸素をEDCへ転化する流動床式または固定床式オキシ塩素化プロセスにおいて本発明の触媒組成物を使用すると、優れた流動化特性を維持しながら、より高いエチレン効率と、より高いEDC製品純度と、より高いHCl転化率とを組み合わせた利益を含む、従来技術のすべての触媒を上回る実質的な性能改善が得られる。その上、これら触媒性能の利益のすべてが、ある利益を別の利益のために犠牲にする必要をまったく伴うことなく同時に得られる。
【0030】
【実施例】
以下に記載する特別な実施例は、本発明の触媒組成物の特異で且つ予期されなかった特徴を例示するものであって、本発明を限定する意図はまったくない。これらの実施例は、塩化銅、稀土類金属、アルカリ金属及び第IIA族金属の組合せを使用する詳細について特に指摘する。すべての実施例において、流動床オキシ塩素化反応は実験室規模の流動床反応器を用いて行った。反応器体積、反応器へ装填する触媒量、流体密度、反応体流速、温度及び圧力は、すべて反応体と触媒の間の接触時間に影響を与える。反応器の高さ対直径の比率もまた反応の転化率、選択率及び効率に影響を与える場合がある。それゆえ、測定された触媒性能結果の差異が、反応器の形状や条件の差異ではなく触媒特性固有の差異に厳密によるものであることを確実にするため、すべての触媒性能評価は、同じ反応接触時間、同じ組合せの供給条件及び同じ反応器制御法を採用して、実質的に同等な実験室規模の反応器内で行った。反応器には、気体状のエチレン、酸素(空気として)及びHClを反応器帯域中に送るための手段と、反応体量及び反応条件を制御するための手段と、そして流出ガスの組成を測定し且つ確認して、HCl転化率、EDC収率、エチレン効率及びEDC製品純度を決めるための手段とが具備されている。
【0031】
ここで本発明を実施例によって例示する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定する意図をもつものではない。上記の一般的な及び詳細な記述と共に、これらの実施例は本発明のさらなる理解を提供し、また本発明の好ましい実施態様の一部を例示する。例1、例2、例3及び例4は比較例であって、当該技術分野では文献に記載されている既知の触媒について示すものである。例5〜例9は、本発明の触媒組成物について記載している。
【0032】
本発明の触媒組成物の特徴を示すために一連の実験を行った。これらの実験では、気体状の反応体、エチレン、酸素(空気として)、及び塩化水素を、エチレン1.0モル、酸素0.8モル、及び塩化水素1.9〜2.0モルのモル比で反応器へ供給した。下記のデータは、エチレン1モル当たり塩化水素約1.96〜1.98モルの範囲のモル供給比で得られ、またエチレン1モル当たり塩化水素1.97モルの一定供給比で比較するために補間してある。これにより、触媒を同じ条件下で比較することができ、その結果、下記の実施例で観測された化学性能の差異は、実験の設計の差異にはよらず、触媒性能の固有の差異を反映していることになる。
【0033】
約215℃〜約240℃の温度範囲で反応体を触媒床中を通過させて反応させて、EDCを生成させた。各触媒について採用した温度は、その触媒により最良の性能が観測されうることを基準に選定した。実験に用いた触媒は、それぞれ約5重量%の(塩化第二銅として添加した)銅金属を主触媒金属として含有した。用いた流動性アルミナ担体は、表面積150〜165平方メートル/グラム(m/g)を示すガンマアルミナとした。用いた金属類は、対応する塩化物、すなわち塩化第二銅、アルカリ金属塩化物、稀土類金属塩化物及び第IIA族金属塩化物を含む水溶液とアルミナ担体とを十分に混合した後、その濡れている素材を加熱で乾燥して流動体にすることによって、流動性アルミナ担体表面に付着させた。流動性触媒組成物は、最初のアルミナ担体よりも約10〜30%低下した表面積を示した。
【0034】
例1
この例では、触媒組成物には5%の銅を大表面積アルミナ担体に担持したものを用いた。稀土類金属、アルカリ金属または第IIA族金属は使用しなかった。反応は215℃、220℃及び225℃の温度で行った。表1に結果を示す。
【0035】
【表1】
Figure 0003566320
【0036】
例2
この例では、触媒組成物には4.9%の銅と1.6%のマグネシウムを大表面積アルミナ担体に担持したものを用いた。反応は220℃、225℃及び230℃の温度で行った。表2に結果を示す。
【0037】
【表2】
Figure 0003566320
【0038】
例3
この例では、Edenの米国特許第 4,446,249号明細書に記載されている触媒組成物を使用した。この組成物は、5%の銅と、0.6%のバリウムと、0.5%のカリウムとを含んで成るものである。反応は215℃、220℃、225℃及び230℃の温度で行った。表3に結果を示す。
【0039】
【表3】
Figure 0003566320
【0040】
例4
この例では、Edenらの米国特許第 4,740,642号明細書に記載されている触媒組成物を使用した。この組成物は、5.0重量%の銅と、0.8%のアルカリ金属(カリウム)と、2.1%の稀土類金属(セリウム)とを含有した。上記の例に詳述したように、220℃、225℃、230℃及び235℃の温度で触媒を試験した。すべての触媒が良好な流動化を示した。表4に結果を示す。
【0041】
【表4】
Figure 0003566320
【0042】
例5
この例では、触媒組成物には、4%の銅と、1.0%のカリウムと、2.3%のセリウムと、1.2%のマグネシウムとを大表面積アルミナ担体に担持したものを使用した。反応は220℃、225℃、230℃、235℃及び240℃の温度で行った。表5に結果を示す。
【0043】
【表5】
Figure 0003566320
【0044】
例6
この例では、米国特許第 4,740,642号明細書に従い調製した(この調製法は例4と同様である)、4.5%の銅と、0.7%のカリウムと、2.0%の稀土類金属混合物とを含んで成る触媒組成物を使用した。次いで、この触媒を塩化マグネシウムの溶液で処理して、マグネシウムの量を1.2%とした。これらの反応の結果を表6に示す。
【0045】
【表6】
Figure 0003566320
【0046】
例7
この例は、例5と類似するが、但しランタンのパーセントが高い稀土類金属の混合物を用いた。金属の配合量は、銅3.9%、カリウム1.0%、稀土類金属の混合物2.25%、及びマグネシウム1.3%とした。稀土類金属混合物は、ランタン52%、セリウム20%、ネオジム21%及びプラセオジム7%とした。反応は225℃、230℃及び235℃の温度で行った。表7に結果を示す。
【0047】
【表7】
Figure 0003566320
【0048】
例8
この例は、例5と類似するが、但しマグネシウムの代わりにバリウムを使用した。金属の配合量は、銅4%、カリウム0.5%、セリウム1.5%及びバリウム0.7%とした。反応を数種の温度で行ったが、該触媒はエチレンとHClをEDCへ転化する上で良好な結果を与えた。
【0049】
例9
この例は、例5と類似するが、但しマグネシウムの代わりにカルシウムを使用した。金属類の配合量は、銅4.7%、カリウム1.2%、セリウム2.9%及びカルシウム1.2%とした。反応を数種の温度で行ったが、該触媒はエチレンとHClをEDCへ転化する上で良好な結果を与えた。
【0050】
図面のグラフの説明
すべての触媒は、約5%の銅金属を二塩化物として付着して含有する。第一の触媒(●)は、銅のみをアルミナ担体に担持させた触媒である。第二の触媒(▲)は、銅にマグネシウムを添加した触媒である。第三の触媒(◆)は、銅、バリウム及びカリウムを含む触媒である。この触媒は、Edenの米国特許第 4,446,249号明細書に記載されている触媒組成物を代表する触媒である。第四の触媒(■)は、銅、カリウム及び稀土類金属混合物を含む触媒である。この触媒は、Edenらの米国特許第 4,740,642号明細書に記載されている触媒組成物を代表する触媒である。最後の組のデータ(○)は、本発明の触媒を表す。
【0051】
上記の好ましい実施態様及び例は、本発明の精神及び範囲を例示するために記載したものである。これらの実施態様及び例によって、当業者にはその他の実施態様や例が明白となる。こうしたその他の実施態様や例もまた本発明の範囲内にある。従って本発明は、特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【図1】温度に対して二塩化エチレン(EDC)選択率をプロットしたグラフである。
【図2】温度に対してHCl転化率をプロットしたグラフである。
【図3】温度に対してトリアン(副産物)選択率をプロットしたグラフである。

Claims (16)

  1. 2〜8重量%の銅、0.2〜2重量%のアルカリ金属、0.1〜9重量%の稀土類金属及び0.05〜4重量%のマグネシウムとバリウムとからなる群より選ばれた第IIA族金属を含んで成る活性金属組成物を担体上に付着して成る触媒組成物であって、前記重量%はすべて触媒組成物の全重量に対するものであり、また該触媒の表面積は20〜220 m 2 /g である、エチレンのオキシ塩素化用触媒組成物。
  2. 該活性金属組成物が、触媒組成物全重量に対して、3〜6重量%の銅、0.25〜1.5重量%のアルカリ金属、0.5〜6重量%の稀土類金属及び0.25〜3重量%の第IIA族金属を含んで成り、該金属のすべてが該担体上に付着している、請求項1記載の触媒組成物。
  3. 担体の表面積が30〜250 m 2 /gである、請求項1記載の触媒組成物。
  4. 担体がアルミナ担体である、請求項3記載の触媒組成物。
  5. 第IIA族金属が、触媒組成物全重量に対して0.25〜3重量%存在している、請求項1記載の触媒組成物。
  6. 第IIA族金属が、触媒組成物全重量に対して0.5〜2重量%存在している、請求項5記載の触媒組成物。
  7. 該アルカリ金属がカリウムであり、該稀土類金属が、ランタン、セリウム、ネオジム及びプラセオジムの混合物であって、ランタンのパーセントとセリウムのパーセントとの比率が少なくとも2:1であり、かつ、該第IIA族金属がマグネシウムである、請求項1記載の触媒組成物。
  8. 該第IIA族金属を付着させる前に、該銅、該アルカリ金属及び該稀土類金属を該担体に付着させた、請求項記載の触媒組成物。
  9. 第IIA族金属がマグネシウムである、請求項8記載の触媒組成物。
  10. アルカリ金属が、カリウム、リチウム、ナトリウム、ルビジウム及びセシウムから成る群より選択された少なくとも1種の金属である、請求項1記載の触媒組成物。
  11. アルカリ金属がカリウムである、請求項10記載の触媒組成物。
  12. 稀土類金属が、ランタン、セリウム、ネオジム、プラセオジム、イットリウム及びスカンジウムから成る群より選択された少なくとも1種の金属である、請求項1記載の触媒組成物。
  13. 稀土類金属が、セリウム、ランタン、ネオジム及びプラセオジムの混合物であって、セリウムのパーセントがランタンのパーセントよりも高い、請求項12記載の触媒組成物。
  14. 稀土類金属が、ランタン、セリウム、ネオジム及びプラセオジムの混合物であって、ランタンのパーセントがセリウムのパーセントよりも高い、請求項12記載の触媒組成物。
  15. 稀土類金属が、ランタン、セリウム、ネオジム及びプラセオジムの混合物であって、ランタンのパーセントとセリウムのパーセントとの比率が少なくとも2:1である、請求項14記載の触媒組成物。
  16. アルカリ金属がカリウムであり、稀土類金属がセリウムであり、また第IIA族金属がマグネシウムである、請求項1記載の触媒組成物。
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