JP3563614B2 - 低水素系被覆アーク溶接棒 - Google Patents

低水素系被覆アーク溶接棒 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、490〜590N/mm級高張力鋼用の低水素系被覆アーク溶接棒に係り、電撃防止装置のついた溶接機において、アーク中断後の再アーク性に優れる低水素系被覆アーク溶接棒(以下、低水素系棒という)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
低水素系棒は、耐割れ性や機械的性質が優れているため、高張力鋼や低温用鋼を使用する重要構造物や厚板を使用する大型構造物などの溶接に適用されている。また、本溶接だけでなく本溶接前の仮付け溶接にも使用される頻度は高い。断続的に行われる仮付け溶接は、溶接途中でアークを中断し再度アークを発生させる場合、被覆筒を壊し心線を鋼板に接触させてアークを発生させるが、被覆が部分的に欠け落ちているとピットやブローホール等の溶接欠陥が発生しやすい。
【0003】
また、通常交流アーク溶接機の出力側には約60〜90Vの無負荷電圧がかかっている。このため、作業環境によっては感電防止のため電撃防止装置の使用が義務付けられているが、この電撃防止装置は、アークの発生と共に解除され、アーク中断後約1秒で作動し、約60〜90Vの無負荷電圧を約10〜25Vに下げる役割がある。しかし、電撃防止装置は安全面では有効であるが、無負荷電圧が低いため再アークの発生が非常に困難となることが知られている。
【0004】
このような状況に対し、低水素系棒の再アーク性を向上させる手段として、被覆に導電性を与えることを目的に被覆に鉄粉を添加することが各種提案されている。
例えば、特公昭58−47955号公報に開示されている溶接棒は、微粒の鉄粉を使用することにより再アーク性を良好にしているが、電撃防止装置のついた溶接機を使用すると再アーク性が劣化する。また、アークの吹付け状態もやや不満足である。
【0005】
また、特開平9−70690号公報には、被覆剤中の鉄粉の含有量と粒度を限定し、さらに鉄粉中の炭素と酸素量を限定することにより、低無負荷電圧の溶接機でも良好な再アーク性を確保する溶接棒が開示されている。しかしこの被覆アーク溶接棒も鉄粉含有が主であるため、アークの吹付けがやや弱く溶込み不足が生じることがある。また、電撃防止装置の付いた溶接機での再ア−ク性はアーク中断後30秒以上放置すると劣化する。
【0006】
さらに、本発明者らが先に特願平10−2581号明細書で提案した被覆アーク溶接棒では、鉄粉の含有量とセルロースの含有量、またその比率を限定することによって良好な再アーク性と深溶け込みを得たが、電撃防止装置のついた溶接機を使用するときに、これも再アーク性がやや不満足である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような実状に鑑み、従来の諸性能を確保すると共に、溶接作業性を劣化させることなく、電撃防止装置のついた溶接機においても優れた再アーク性が得られる低水素系棒を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明の要旨とするところは、金属炭酸塩を20〜50質量%(以下単に%という。)、金属弗化物を0.5〜3.5%、鉄粉を22〜55%、セルロースを0.90〜3.30%、デキストリンを0.20〜0.80%含み、かつセルロースとデキストリンの合計が1.10〜3.50%であり、他は脱酸剤、アーク安定剤、スラグ生成剤および固着剤と不可避不純物である被覆剤を用いて鋼心線に塗布したことを特徴とする電撃防止装置のついた溶接機に用いる低水素系被覆アーク溶接棒にある。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
低水素系棒の再ア−ク性を改善するには、溶接中の溶接棒先端部に形成される被覆筒の導電性を高めるため鉄粉を含有させることを基本とするが、単純に鉄粉を多量に含有すると再ア−ク性は改善されるが、スラグ生成剤やガス発生剤が減少するため溶接金属にピットやブローホールが発生しやすくなる。このように、鉄粉調整だけでは諸性能を満足できないため、鉄粉の他に被覆筒近傍で導電性を向上させることができ、その他の諸性能を劣化させない原材料を検討した結果、溶接中にア−クにより高温にさらされる被覆筒とその近傍では燃焼して導電性の良い炭化物を生成する有機物が、再ア−ク性改善に有効であることを見出した。
【0010】
すなわち、鉄粉の他に有機物を添加することにより再ア−ク性を向上させることができる。これら有機物は、例えば木粉、小麦澱粉、コーンスターチ、セルロース、デキストリン等があるが、これらは再アーク性を向上させる他に、溶接中の被覆剤中においては固着剤である水ガラスや他の被覆剤と混合しているため、単体状態で存在するよりも耐熱性を増し、絶縁体の役目も果たしている。これにより通常の使用においては溶接棒の横に鋼板が接触してもアークは発生しない。
【0011】
しかし、木粉、小麦澱粉、コーンスターチ等の天然に存在する有機物は、含有する水分量が多いため、溶接金属中の拡散性水素量が増加する。このため、再アーク性は向上するが低水素系棒としては適さない。そこで、拡散性水素量が増加せず電撃防止装置の付いた溶接機でも再ア−ク性が良好となる有機物を検討した結果、セルロースとデキストリンを併用して、被覆剤中に添加することが極めて有効であることを見出した。
【0012】
セルロースとデキストリンは、被覆剤中に添加しても拡散性水素量はさほど増加せず、特にセルロースは他の有機物と異なり、その形態が繊維状であるため被覆筒近傍で繊維状の炭化物を生成し、それらが複雑に連なった状態となるため導電性が良好になる。従って、セルロース単体での使用においても再アーク性は向上するが、電撃防止装置のついた溶接機においては、二次側の無負荷電圧が極端に低い場合であると繊維状の炭化物の僅かな境目で導電することができず、再アークの発生する確率がやや低くなる。また、アーク中断後の時間の経過に伴い、被覆筒近傍が自然冷却され再アークの発生する確率が更に低くなる。
【0013】
そこで、この欠点を克服するためにデキストリンに注目した。このデキストリンは粒度が細粒であるため、被覆筒内で繊維状に存在するセルロースや鉄粉の間に進入することによりセルロースと鉄粉のつながりをより良好にし、心線への密着性を高めることができる。また、炭化温度が他の有機物に比べ低いため被覆筒近傍で炭化しやすい。従って、溶接中アークにより高温にさらされる被覆筒とその近傍では、アーク中断後も良好なつながりを保持し続け、心線先端部と被覆筒先端部の間の導電性を格段に向上させることにより再ア−ク性が極めて向上する。
【0014】
被覆剤中にセルロースを0.90〜3.30%、デキストリンを0.20〜0.80%、かつセルロースとデキストリンの合計が1.10〜3.50%の範囲内であれば良好な溶接金属が得られ、溶接作業性を損なわず、かつ拡散性水素量を増加させずに電撃防止装置の付いた溶接機において二次側の無負荷電圧が極端に低い場合でも再ア−ク性が優れるが、セルロース、およびデキストリンをそれぞれ単体で適用しても再アーク性の向上に効果はなく、二つを複合添加することにより絶大な効果がもたらされる。
【0015】
セルロースが0.90%未満、デキストリンが0.20%未満、およびこの合計が1.10%未満では、再アーク性の向上に効果が無く、セルロースとデキストリンの合計が3.50%を超えると拡散性水素量が増加し低水素系棒には適さなくなる。また、アークの吹き付けが強くなりすぎるため、スパッタ発生量も多くなる。セルロースが3.30%を超えると被覆剤変質により耐棒焼け性が劣化する。デキストリンが0.80%を超えると耐棒焼け性が劣化し、さらに溶接棒製造工程において、被覆剤が柔らかくなりすぎ、溶接棒に傷、へこみを生じやすくなるため、生産歩留りが低下する。
【0016】
金属炭酸塩は、アーク中で分解しCOガスを発生するので、溶接金属や溶融スラグを大気から遮断し、窒素や酸素の侵入を防ぐと共に、アーク力を確保し、スラグの流動性や粘性を調整するもので、20〜50%必要である。20%未満ではガス発生量が少なく大気が侵入するため拡散性水素量が増加し、またスラグ剥離性も劣化する。50%を超えるとアークの吹き付けが強くなりすぎスパッタも増加する。なお、この金属炭酸塩は、炭酸石灰、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどがある。
【0017】
金属弗化物は、スラグの溶融点を下げ、流動性の良いスラグを作るために0.5〜3.5%含有させる。0.5%未満では適当な流動性が得られないためビード外観が悪く、3.5%を超えるとスラグの被包性が悪くなるためビード外観が劣化する。また、立向下進溶接が困難になると共にアークの安定性も劣化する。なお、金属弗化物は、蛍石、氷晶石、弗化ソーダなどがある。
【0018】
鉄粉は本発明の基盤的存在であり、被覆筒の導電性を良くするので再アーク性の改善には必須成分となる。また、スラグ量が少なくなることにより立向下進溶接を容易にするために22〜55%含有させる。22%未満では、再アーク性向上に効果が現れず、55%を超えるとアークの吹き付けが弱くなりすぎ、溶け込みが得られなくなる。
【0019】
なお、本発明においては、前記被覆剤以外の脱酸剤、アーク安定剤、スラグ生成剤、固着剤を下記の範囲で含むことが好ましい。
脱酸剤には、フェロシリコン、金属マンガン、フェロマンガン、フェロチタン等があり、これらは欠陥のない健全な溶接金属が得られ、良好な靭性と強度を確保する。これらの1種もしくは2種の組み合わせで使用でき、その含有量は6.5〜17.5%であることが好ましい。
【0020】
アーク安定剤には、ルチール、珪灰石などがあり、これらの1種もしくは2種の組合せで使用でき、その含有量は0.5〜4.5%であることが好ましい。 スラグ生成剤には、珪砂、長石、酸化マグネシウムなどがあり、1種または2種以上の組合せで使用でき、その含有量は0.2〜2.5%であることが好ましい。
【0021】
珪酸カリウムと珪酸ナトリウムの固着剤は、単独または2種合計の固質量が被覆剤中に3.5〜8.5%の範囲で用いることが好ましい。
また、本発明で使用する鋼心線は、Cを0.01〜0.08%、Siを0.05%以下、Mnを0.15〜1.00%、Pを0.03%以下、Sが0.03%以下の範囲で含有することが好ましい。
【0022】
【実施例】
表1に示す各種組成の被覆剤を、直径4.0mm、長さ400mmのJIS G3523 SWY11の鋼心線に被覆剤を塗装した後、最高温度400℃で乾燥して30種類の溶接棒を作成し、電撃防止装置の付いた交流溶接機を用いて、各種溶接試験を行った。
【0023】
【表1】
Figure 0003563614
【0024】
再アーク性の調査は、板厚9mm、幅100mm、長さ300mmのJIS G3106 SM490Bの鋼板に電流200Aで溶融棒長が300mmになるまで溶接を行い、残りの溶接棒をそれぞれ10秒、30秒、60秒、10分の間放置した。その後、この溶接棒の被覆筒を前述の鋼板をT型に組んだ試験体のすみ肉部へ軽く接触させ、直ちにアークが発生したものを合格と判定し、繰り返し10本の合計合格本数で評価した。評価基準は10本中の合格本数が8本以上を○印、6〜7本を△印、5本以下を×印とした。また、その総合判定は、10秒、30秒、60秒、10分間の放置で総て○印なら良好とし、一部でも△印、×印があれば不可とした。
【0025】
溶接作業性の調査では、前述の鋼板をT型に組み、電流200Aで水平すみ肉溶接、および立向下進溶接で溶接して、アーク状態、スラグ状態、ビード形状、耐棒焼け性などを調査した。その判定は、各溶接姿勢の総合判定とし、良好なものは○印、やや劣るものは△印、劣るものは×印とした。これらの調査結果と総合判定を表2にまとめて示す。
【0026】
【表2】
Figure 0003563614
【0027】
本発明例である溶接棒No.1〜No.15は、個々の成分が本発明の要件を満足しており、電撃防止装置の付いた溶接機においても優れた再アーク性が得られ、溶接作業性も良好であった。
【0028】
比較例中溶接棒No.16、およびNo.19は被覆剤中のセルロースの含有量が多いので耐棒焼け性が劣化した。また、溶接棒No.16は鉄粉の含有量が少ないため再ア−ク性が劣化し、さらにセルロースとデキストリンの合計含有量が多いためア−クの吹付けが強くなりすぎ、スパッタ発生量も多くなった。溶接棒No.19は、デキストリンの含有量が少ないため、繊維状の炭化物の僅かな境目で導電することができずに再ア−ク性も劣化した。
【0029】
溶接棒No.17、No.18、およびNo.26は被覆剤中のデキストリンが多いため、再ア−ク性は良好であるが耐棒焼け性が劣化した。また、溶接棒No.18はセルロースとデキストリンの合計含有量も多いため、吹付けが強くなりすぎスパッタ発生量も多くなった。溶接棒No.26は鉄粉の含有量が多いため、アークの吹付けがやや弱くなり溶込み不足も発生した。
【0030】
溶接棒No.20は被覆剤中のセルロース、およびデキストリン共に少なく、またその合計含有量も少ないため、炭化物の形成が少なくなり再ア−ク性が劣化した。溶接棒No.21は被覆剤中の金属弗化物が少ないためビード外観が劣った。
【0031】
溶接棒No.22、およびNo.27は被覆剤中のセルロースとデキストリンの合計含有量が多いため、再ア−ク性は良好だが、アークの吹付けが強くなりすぎスパッタ発生量も多くなった。
溶接棒No.23、およびNo.28は被覆剤中のセルロースの含有量が少ないため、被覆筒に繊維状の炭化物が十分に形成されずに再ア−ク性が劣化した。また、溶接棒No.28はデキストリンの含有量が多いため、耐棒焼け性も劣化した。
【0032】
溶接棒No.24は被覆剤中のデキストリンの含有量が少ないため、再ア−ク性が劣化した。溶接棒No.25は被覆剤中の金属炭酸塩が少ないためスラグ剥離性が劣化した。
【0033】
溶接棒No.29は被覆剤中の金属弗化物が多いため、スラグ被包性が悪く、立向下進溶接が困難となった。また、ア−ク安定性が劣化しビード外観も劣った。溶接棒No.30は被覆剤中の金属炭酸塩が多いため、ア−クの吹付けが強くなりすぎスパッタ発生量が多くなった。
【0034】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の溶接棒によれば良好な諸性能を満足しつつ、電撃防止装置の付いた溶接機においても優れた再ア−ク性が得られるので、仮付け溶接の作業能率の向上に大いに貢献するものである。

Claims (1)

  1. 金属炭酸塩を20〜50質量%、金属弗化物を0.5〜3.5質量%、鉄粉を22〜55質量%、セルロースを0.90〜3.30質量%、デキストリンを0.20〜0.80質量%含み、かつセルロースとデキストリンの合計が1.10〜3.50質量%であり、他は脱酸剤、アーク安定剤、スラグ生成剤および固着剤と不可避不純物である被覆剤を用いて鋼心線に塗布したことを特徴とする電撃防止装置のついた溶接機に用いる低水素系被覆アーク溶接棒。
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