JP3563160B2 - 延縄 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、漁獲性能に優れ、かつ、環境汚染のない安全性の高い延縄に関する。
【0002】
【従来の技術】
スケソウ、マグロ漁等に用いられる延縄の材料として、天然繊維であるラミ−が使用されている。ラミ−は水に濡れると膨潤して繊維間の締まりが高まり易く、また高強力で腰があり、さらに比重も大きいことから、水中で水の流れを受けても移動しにくい延縄を形成することができる。しかし、この種の延縄は、材料のラミ−が高価であり、またラミ−の供給が不安定である。このため、最近では延縄用資材として、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維が使用されるようになってきている。
【0003】
しかしながら、合成繊維からなる延縄は、ラミ−製の延縄に比較して強力、比重、腰等に関して満足する特性を実現することが困難である。とくに、延縄を構成する枝縄は繊維の比重が軽いと、海流に対する形態安定性が不十分で漁獲性能が満足出来るものではなく、また枝縄同士が互いに絡み合う、あるいは幹縄に枝縄が巻き付くなど操業性にも問題がある。したがって、種々の改良がなされている。
【0004】
たとえば、釣針の上に鉛の重りを取り付けることが一部行われているが、上記問題を十分に解決するには至っていない。
また、延縄(枝縄)を構成する繊維の比重を高めることが提案されてはいるが、従来の高比重繊維は強度が低く、それ自身では使用に耐えないためにテンションメンバーと交撚せざるを得ず加工性に乏しいこと、あるいは比重を高めるために用いられる鉛またはその化合物が環境問題を引き起こすなどの欠点があり、極く一部しか実用化されていないのが実情である。
【0005】
従来、漁業用の高比重繊維として、比較的比重の大きな塩化ビニリデン系繊維が広く用いられているが、製糸・製網技術の発達にともない高速製糸・製網に安定して供し得る高強度の繊維が求められるようになっている。
この要求に対して、(1)樹脂中に高比重物質を均一分散させてなる繊維(例えば特公昭51−37378号公報)、(2)低軟化点樹脂中に高比重物質を分散混合し、さらにこれに強度付与のために別の樹脂を混合した繊維(特公昭57−20407号公報)、(3)低軟化点樹脂と高比重物質の混合物を芯、強度付与を目的とする樹脂を鞘とする芯鞘繊維(特開昭58−4819号公報)、通常の繊維に高比重物質をコーティングした繊維等が提案されている。
【0006】
しかるに、このような従来の高比重繊維は、いずれも上記要求特性のうち比重のみを満足するもので物性的に不十分であり、かつ比重の付与手段にも重大な欠陥を有していたのである。
【0007】
まず、物性上の問題から述べる。
第一に強度が低い。塩化ビニリデン系繊維で2g/d程度、ナイロンやポリエステル繊維に高比重物質を含有させた繊維でも1〜2g/dの強度を有するにすぎない。
このため、延縄として使用するには多くの場合、テンションメンバーとして他の繊維を併用せざるを得ないのが実情であり、延縄の生産性が低下してしまうことになる。
【0008】
次に、比重の付与手段の欠陥について述べる。
それは、その手段が環境汚染を引き起こすという欠陥である。
ナイロンやポリエステル繊維に含有させる高比重物質として、一般に毒性の高い鉛またはその化合物(以下、鉛化合物と略記する)が用いられている。
この鉛化合物が、繊維製造工程あるいは加工工程において、ガイドとの摩擦等により繊維から脱落したり、延縄として使用中に海水中に溶出して鉛公害が発生する可能性がある。さらに、使用済みの延縄を廃棄する場合においても、焼却後に鉛を含む有害成分が残るため、安易に廃棄処分できないという問題を抱えているのである。
一方、鉛化合物を含まない塩化ビニリデン系繊維もまた、焼却時に塩化水素ガスが発生するためやはり焼却処理が困難である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、優れた漁獲性能と加工性、並びに操業性を兼ね備え、かつ、環境汚染のない安全性の高い延縄を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、比重3以上の非鉛系金属またはその化合物の微粒子を50〜85重量%含有する芯ポリマー成分と、該成分を覆う保護ポリマー成分で構成される強度3.5g/d以上、かつ比重1.5以上である複合繊維を断面積比で50%以上使用し、沈降速度が2.5cm/秒以上の延縄である。
【0011】
本発明に係わる複合繊維は、延縄として用いるに十分な強度と比重を兼備し、従来の高比重繊維のようにテンションメンバーを併用する必要がない。または、併用したとしてもその使用量を従来の高比重繊維に比し大幅に低減し得るため、加工性に優れている。さらに、比重を付与する手段として、鉛化合物を使用しないため繊維製造、加工、実地使用、廃棄というサイクルすべてにおいて、環境汚染の問題が生ずることはない。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の延縄に供する複合繊維は、3.5g/d以上の強度と1.5以上の比重を兼備するものでなければならない。
強度が3.5g/d未満では、加工(撚糸工程)において繊維が損傷を受けやすく、また、テンションメンバーを多用する必要があり、比重が1.5未満では海水中での沈降速度、保形性が満足されない。このような観点から、強度4g/d、比重1.55以上の繊維を用いることが好ましい。
【0013】
このような特性を有する複合繊維は、比重が3以上の非鉛系金属またはその化合物からなる微粒子を含有させることが必須であり、該微粒子の種類としては、非鉛系金属の微粒子またはその化合物の微粒子を使用する必要がある。本発明において『非鉛系金属』とは、鉛や錫など環境問題を極めて起こしやすい金属以外の金属を意味しており、たとえばチタン、鉄、銅、亜鉛、銀、バリウム、ジルコニウム、マンガン、アンチモン、タングステンなどの金属やその酸化物、具体的には酸化鉄、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、アルミナ、フェライト、リトポン、酸化銅、酸化マグネシウム等を挙げることができ、本発明においては1種類だけではなく、2種類以上を併用して使用することができる。
【0014】
比重が3未満の微粒子では、目的の繊維比重を得るために該微粒子の含有量を高め、しかも芯成分の複合比率を大きくしなければならず、たとえ目的とする繊維比重の繊維が得られたとしても、曳糸性、延伸性が不良で、繊維の強度が低いものしか得られない。
【0015】
また、本発明における延縄に供される繊維において、芯ポリマ−成分中の微粒子の含有量は50〜85重量%である。微粒子の含有量が50重量%未満では、目的の繊維比重を得るために、芯成分の複合比率を高める必要があり、繊維強度の低いものしか得られない。一方、85重量%を越えると、溶融時のポリマ−の流動性が著しく低下し、糸切れが多発する。
【0016】
これらの微粒子を芯成分のポリマーに多量に含有させ円滑に溶融紡糸するためには、特に粒子表面の活性に起因する微粒子の熱凝集と、ポリマーの熱分解に対する配慮が必要である。かかる現象が生じた場合、紡糸調子を損なうにとどまらず、配管詰まりに至るためである。
このような事態を避けるためには、微粒子の種類、形状と、ポリマーとの組み合わせにおいて適性な選択を行うことが不可欠である。
【0017】
本発明者等の検討結果によれば、微粒子の形状は一次粒子径が0.05〜5μであることが好ましい。0.05μより小さい場合は、粒子の表面活性が大きく熱凝集を起こしやすくなる。また、5μより大きい場合は紡糸、延伸時に糸切れが発生しやすくなる。
さらに、微粒子の表面活性を抑制するという観点から、粒子は球状のものが好ましく、加えて有機または無機系化合物で粒子表面をコーティングすることも場合によっては有効である。
【0018】
使用する微粒子の種類については、所望に応じて上記した微粒子の中から適宜選択することができる。一般に、延縄は魚に警戒感を与えないように黒色顔料を練り込んだり、染色を施したりして使用されるが、コストの点からできる限り黒色顔料の使用量を軽減したり、染色工程を省略することが望ましい。本発明においては、このような要望を満足する微粒子として酸化鉄を使用することが望ましい。
【0019】
酸化鉄には、色調が黒色のマグネタイト、すなわち磁鉄鉱(Fe)、茶色のγ型のヘマタイト、赤褐色のα型ヘマタイト等があるが、魚に警戒感を与えないためには黒色を呈する磁鉄鉱を使用することが好ましい。この時、使用する微粒子全体の20重量%以上が磁鉄鉱であることが好ましい。かかる磁鉄鉱を使用することにより、染色処理等を簡略化または省略することができるが、かかる場合においても鞘ポリマ−成分として原着ポリマ−を使用することは何等差支えない。また、延縄の色相を褐色系とすることによっても魚に警戒感を与えにくいので、ヘマタイト微粒子を使用することもできる。
【0020】
上記の酸化鉄の粒子形状としては、球状、八面体状、六面体状、多面体状等があり、いずれの形状でも使用できるが、本発明においては球状の酸化鉄微粒子を用いると芯ポリマ−成分中での分散性が良好となる。とくに、この球状粒子の使用は、本発明のように微粒子をポリマ−中に数十%以上という高添加率で添加する場合に顕著な効果が認められ、かかる粒子を用いた場合、凝集による紡糸時のフィルタ−詰まりの発生も少なく、その上紡糸時、延伸時の糸切れ発生も少ない。
【0021】
さらに酸化鉄微粒子として、有機系または無機系化合物により表面コ−ティング処理を施した微粒子、たとえばシリカコ−ティング処理やフェライトコ−ティング処理された微粒子を使用すると耐熱性や微粒子分散性をさらに向上させることができるので好ましい。
【0022】
芯ポリマ−成分に配合される微粒子は、酸化鉄単独でもよいが、芯ポリマ−成分中での酸化鉄微粒子の含有量が50重量%以上になると、粒子形状、粒子サイズの適切なものを用いても、前記したような溶融押出時のライン中での粒子凝集によるコンタミの発生や、激しい場合には配管の詰まり等のトラブルが生じる場合があり、芯ポリマ−成分中の微粒子の含有量を高めるためには、酸化鉄と他の微粒子とを併用することが好ましい。
【0023】
酸化鉄と併用する微粒子としては二酸化チタンを挙げることができる。芯ポリマ−成分における微粒子の合計が50〜85重量%の範囲内で酸化鉄と二酸化チタンの混合比率を任意に変更しても紡糸性、延伸性は良好で大きなトラブルも発生せず、目的とする複合繊維を得ることができる。酸化鉄と二酸化チタンとの配合比率の好ましい範囲としては酸化鉄/二酸化チタン=1/9〜7/3、とくに2/8〜6/4(重量比)である。
芯成分ポリマ−中の微粒子の含有量が50重量%以上で、しかもその中に酸化鉄微粒子を高添加する場合、二酸化チタン粒子を併用することにより、溶融押出時の微粒子の凝集によるライン詰まり等のトラブルもなく、しかもポリマ−中の微粒子の分散性も良好で、工程中の糸切れも少なく、A格率が高い状態で目的とする複合繊維が得られる。
【0024】
二酸化チタンは結晶形により、アナタ−ゼ、ルチルおよびブルカイトの3つの形態があり、一般に顔料として使用されているのはアナタ−ゼとルチル型である。とくに化学繊維には、二酸化チタンの工程上の摩耗性に及ぼす硬度の関係と溶剤または分散媒に対する分散性の問題からアナタ−ゼ型が主として用いられているが、アナタ−ゼ型の比重が3.9に対し、ルチル型の比重が4.2と大きいので、本発明の目的にはルチル型の二酸化チタンを用いることが好ましい。
【0025】
この場合、ルチル型のモ−ス硬度がアナタ−ゼ型のモ−ス硬度よりも大きいので、工程上の摩耗等のトラブルが発生する懸念があるが、本発明の複合繊維は、微粒子を多量に含有する芯ポリマ−成分が保護ポリマ−成分で実質的に覆われているので、紡糸時のノズル口金の摩耗や加工工程中のガイド類やロ−ラ類の摩耗損傷等の問題もない。
さらに、他の微粒子に比較して二酸化チタン微粒子はポリマ−中へ高添加してポリマ−を溶融押出する際に、熱凝集が起こりにくく、溶融ポリマ−ライン中でのコンタミによる詰まりが発生しにくく、紡糸時のフィルタ−詰まりも少なく、かつ紡糸、延伸時の糸切れの発生も少ない。
【0026】
本発明においては、二酸化チタンの一部を、比重が3以上で平均粒径が5μ以下の他の白色系微粒子に置き換えてもよい。ただし、上述の微粒子の熱凝集の問題があるので、熱凝集が生じない範囲内で置換することが好ましい。
【0027】
次に、微粒子を添加する芯成分ポリマ−は、保護成分ポリマ−の紡糸温度において耐熱性を示す熱可塑性ポリマ−が好ましく用いられる。たとえばナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン4、ナイロン46等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリブチレンテレフタレ−ト、ポリヘキサメチレンテレフタレ−ト等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;SBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンのブロック共重合体)の水素添加物、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンのブロック共重合体)の水素添加物、SI(ポリスチレン−ポリイソプレンのブロック共重合体)の水素添加物、ポリα−メチルスチレン−ポリイソプレン−ポリα−メチルスチレンのブロック共重合体の水素添加物等の芳香族ビニルブロックと共役ジエンブロックからなる共重合体などから適宜選択することができるが、微粒子を高添加する場合には、微粒子とポリマ−とのヌレ性およびポリマ−中での微粒子の分散性が良好で、紡糸性、延伸性が最も良好なポリマ−を使用することが好ましく、かかる観点から本発明においてはポリアミド、とくにナイロン6を主成分とするポリアミドを使用することが望ましい。
【0028】
好適な例として用いるポリアミドの重合度は、数平均分子量で約22000以下、とくに6000〜20000、さらには11000〜15000であることが好ましい。重合度が高すぎると微粒子を高添加したときの混練ポリマ−の溶融粘度が高くなりすぎ、トラブルが発生したり、分散不良が生じたりする。また、実際に無機微粒子を高添加したポリマ−を溶融押出し繊維化する際も、溶融粘度が高すぎると設備上のトラブルが多発しやすくなると同時に、断糸が多発し易くなる。一方、重合度が低すぎると溶融粘度が保護ポリマ−成分に対して低くなりすぎるため複合形態をなすことができにくくなる。
【0029】
また、芯成分ポリマ−としてポリアミドを用いる場合には、無機微粒子を含有する芯成分として水分を500ppm以下、とくに300ppm以下とすることが望ましい。ポリアミドのごとき吸水性ポリマ−に多量の無機微粒子を含有せしめると、水分率が高い場合、溶融時に極端にポリマ−の流動性が低下し、工程調子を著しく害してしまうためである。一般に、微粒子をあまり多く含有しないポリアミドが水分率500〜1000ppm程度で使用されているのに対し、多量に含有せしめた本発明においてはとくに配慮しなければならない点である。
さらに、かかるポリアミドは少量の第3成分が共重合されていてもよく、少量の安定剤、添加剤が含まれていてもよく、劣化防止剤として該ポリマーに対して0.01〜2重量%のヨウ化銅などの同塩を添加することも有効である。
【0030】
本発明において、芯成分ポリマ−としてポリエステルを用いる場合には、極限粘度が0.45以上、とくに0.5以上であることが望ましい。該極限粘度の上限値としては1.2が好ましい。
【0031】
芯成分ポリマ−へ微粒子を添加させる方法としては、種々の方法が可能であるが、たとえば二軸押出機等が好適である。また芯成分ポリマ−と微粒子を混練する場合には、ステアリン酸金属塩、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤等の分散剤を添加すると分散性が良好となり好ましい。
【0032】
本発明において保護成分ポリマ−は繊維形成能を有するポリマ−であればとくに限定されず、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等を挙げることができる。繊維としての実用性能上、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリブチレンテレフタレ−トを主成分とするポリエステル;ナイロン66を主成分とするポリアミドが好ましい。ポリエステルとしてはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタリン−2,5−ジカルボン酸、α,β−(4−カルボキシフェノキシ)エタン、4,4’−ジカルボキシジフェニル、ビスフェノ−ルAのエチレンオキサイド付加物、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリメリット酸、エチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、ペンタエリスリト−ル、シクロヘキサン−1,4−ジメタノ−ル、ポリエチレングリコ−ル、ポリテトラメチレングリコ−ル、5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩等の芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸;ジオ−ル;ヒドロキシ安息香酸等のオキシカルボン酸等から合成される繊維形成性ポリエステルであり、構成単位の80モル%以上、とくに90モル%以上がエチレンテレフタレ−ト単位またはブチレンテレフタレ−ト単位であるポリエステルが好ましい。これらのポリマ−は蛍光増白剤、安定剤等の添加剤を含んでいてもよい。
また、かかる保護成分ポリマーとして好適なポリエステルの極限粘度は、0.7以上でなければ目標とする強度、比重が得られにくい。極限粘度が0.7未満では、強度を得るために芯ポリマー成分と、保護ポリマー成分の比率を保護ポリマー成分リッチとする必要があり、必然的に比重が犠牲になる。これを避けるには芯成分の微粒子含有量を高めねばならないが、この場合工程調子を著しく損なうことは、先に述べたとおりである。該ポリエステルの極限粘度の好ましい上限は1.45である。
【0033】
本発明における極限粘度とは、紡糸後の繊維を形成しているポリエステルの極限粘度である。すなわち、紡糸時に熱分解または加水分解等で重合度低下が生じる場合は、その分を見込んだやや高目の重合度のポリマ−を用いて繊維化しなければならないことは言うまでもないことである。
【0034】
本発明に係わる複合繊維は、上述したような微粒子を含有した芯ポリマ−成分を一成分とし、繊維形成性の熱可塑性ポリマ−を保護ポリマ−成分として複合紡糸することにより得られる。複合断面形状としては、繊維表面周長の60%以上、好ましくは80%以上、とくに好ましくは100%を保護ポリマ−成分が占めていることが望ましい。該複合形態の具体例を図1(1)〜(8)に挙げる。
図1中、(1)は一芯、(2)は三芯、(3)は四芯の芯鞘構造繊維、(4)は三層同心円、(5)および(6)は一部露出タイプの芯鞘構造、(7)および(8)は分割タイプの複合構造である。
【0035】
保護ポリマー成分と芯ポリマー成分との重量複合比率は、用いる材料の比重や分子量を勘案し適宜調整すればよいが、30:70〜80:20、より好ましくは50:50〜80:20である。保護ポリマ−成分の比率が少なすぎると、繊維強度が低下してくるため好ましくなく、また該比率が多すぎると繊維比重を高くする効果が十分発揮できないため。好ましくない。
【0036】
本発明の延縄に供する複合繊維を製造する方法はとくに限定されるものではないが、保護ポリマー成分と芯ポリマ−成分とをを別々の溶融系で加熱溶融し、紡糸口金直前で目的とする複合形状に合流させて紡糸し、一旦巻き取った後、あるいは巻き取ることなく延伸、熱処理することで得られる。
【0037】
具体的には、捲取速度は300〜4000m/分、特に600〜2000m/分とすることが好ましい。
300m/分未満では、未延伸糸の配向度が低く、所望の繊維強度を得るために延伸倍率を高める必要があり、結果として繊維中に延伸によるボイドが生じ、比重が低下する場合がある。逆に、4000m/分を越えると、微粒子を多量に含有するがゆえに、溶融粘度が高い芯ポリマー成分は高速変形に追随しきれず紡糸調子を損なう場合があり、好ましくない。
【0038】
延伸は一段でも多段でもよいが、ボイドの発生による比重低下を抑制するには、高温のスチームジェットを用いて延伸することが好ましい。しかし、かかる延伸方法によっても多少のボイドの発生は不可避であり、これを修復し、比重を高めるには、次いで熱処理を行う必要がある。
【0039】
該熱処理は、芯成分の熱可塑性ポリマーの(融点−80)℃以上で保護成分ポリマーの(融点−5)℃以下の温度で行うと、繊維比重が高く、かつタフネスの大きいものが得られる。これは芯成分の熱可塑性ポリマーの融点付近の温度に加熱されることにより、繊維が収縮しつつ、延伸時に発生した繊維中の微粒子周辺でのポリマ−中のボイドがある程度修復され、また処理温度を高めることにより繊維の機械的性質を発現させる保護成分ポリマ−の結晶化が促進されるためと推察される。ボイド修復のためには、繊維に少なくとも2%以上の収縮をさせることが好ましい。
熱処理温度が芯成分ポリマ−の(融点−80)℃未満ではボイドを十分に修復することが困難であり、保護成分ポリマ−の(融点−5)℃を越えると断糸が多発し好ましくない。好ましい温度範囲は、芯成分ポリマ−の(融点−60)℃以上、保護成分ポリマ−の(融点−1)℃以下である。
例えば、芯のポリマーがナイロン6、保護成分ポリマーがポリエチレンテレフタレートである場合、熱処理温度を160〜230℃の範囲とすることが好ましい。
【0040】
また、延伸を安定化させ、かつ、ボイドの発生を抑制するには、延伸時の加熱を熱ロ−ル等の接触加熱方式に加えてスチ−ムジェットや空気加熱等の非接触加熱方式を併用することが好ましい。これは、芯成分ポリマ−の融点よりも十分に高い温度で芯成分ポリマ−の流動性を高めた状態で延伸しようというものであり、たとえば、芯成分ポリマ−がナイロン6であるときには350℃以上、好ましくは400℃以上、とくに好ましくは430℃以上のスチ−ムジェットを用いて加熱延伸することが望ましい。
なお、かかるスチ−ムジェットの温度は、本発明における熱処理温度そのものを示すものではなく、本発明における熱処理温度とは接触加熱温度を意味するものである。
これらの知見から芯成分ポリマ−は保護成分ポリマ−よりも20℃以上、好ましくは30℃以上低い融点を有するものが好適である。
【0041】
本発明の延縄は、沈降速度2.5cm/秒以上の特性を有する。本発明で規定する沈降速度は、縄の海水中での縄の沈降および吹かれ状態を決定づける因子である比重と、水に対する抵抗の双方を同時に評価し得るものである。
その評価方法は、実施例の項に詳述するが、沈降速度が2.5cm/秒より小さい場合は、海水に縄を投入した場合、沈降しにくく、また吹かれが大きいために漁獲性能が著しく損なわれるばかりか、幹縄に枝縄が巻き付いたり、枝縄同士が絡み合ったりする。従って、好ましくは3.0cm/秒以上、更に好ましくは3.5cm/秒以上である。
【0042】
かかる延縄は、特殊な製法を採る必要はなく、公知の製造方法で得ることができる。
具体的には、繊維を下撚をかけつつ合撚糸し、これをさらに合せながら逆方向に合撚糸する。場合によっては、その上に再度逆方向に合撚糸することもできる。合糸本数や撚数は、目標とする強度、耐久性、撚りの安定性を念頭に適宜設定すればよい。
また、必要に応じて他の繊維と混繊、合糸、合撚等を行うこともできる。
【0043】
しかし、延縄の沈降速度を2.5cm/秒以上とするには、上述の高比重の複合繊維が、断面積比で50%以上占めるように合撚糸しなければならない。該断面積比が50%未満では、縄の強力利用率が大きく低下するため糸を太くする必要があり、沈降速度が低下し、漁獲性能や操業性の低下を招くことになる。
【0044】
本発明の延縄は、沈降速度が大きく、吹かれが少ないため、狙った漁場にしかけ(枝縄とその先端にある釣針)を置くことができ、さらに深度によらず海流に対して形態保持性が良好であるために、マグロ縄、タラ縄をはじめとするあらゆる延縄漁に適している。
【0045】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお、実施例中の物性値は以下の方法により測定した値である。
(1)ポリエステルの極限粘度[η]
溶剤としてフェノ−ルとテトラクロロエタン1:1の混合溶剤を用い、30℃の温度下で測定した。
(2)ナイロンの数平均分子量
ウオ−タ−ズ社製HLC−510によるGPCクロマトグラムにより測定した。
(3)微粒子の平均粒径(μ)
堀場製作所製の遠心式自動粒度分布測定装置CAPA−500により測定した。
(4)繊維比重
溶剤として四塩化炭素とn−ヘキサンを用い、密度勾配を作成して20℃で測定した。
【0046】
(5)繊維および縄の引張強度(g/d)
島津製作所社製引張試験機(オ−トグラフIN−100)を用い、20℃、65RH%下で、JIS L 1043に準拠して測定した。
(6)縄の沈降速度
試料作成;延縄の枝縄を1.5cmの長さに切り、試料とする。
比重液作成;n−ヘプタン/四塩化炭素=44/89の体積比で混合、20℃で比重1.3の比重液を作成した。
沈降速度測定;試料を比重液に30分以上浸漬して、脱気した。
比重液を内径3cm以上、深さ15cm以上の円筒状のガラス管に液深が15cm以上となるように入れ20℃に保った。その液面に、脱気試料を水平にして静かに置き沈降させ、液面より5cmの深さと15cmの深さ、即ち10cmの沈降距離を試料が通過する時間を測定した。
この操作を5回繰り返しその平均時間(t)を求め、10/t(cm/秒)として、沈降速度を定義した。
【0047】
実施例1
芯ポリマーとして宇部興産社製のナイロン6粉末(商品名P1011F、数平均分子量11000)30部、微粒子として戸田工業社製の平均粒子径0.2μの球状磁鉄鉱(表面フェライトコート品、比重5.0)30部と、チタン工業社製の平均粒子径0.35μの二酸化チタン(比重4.2)を混合し、二軸押出し機で溶融混練してストランド状に押出し、これをカットしてペレットを作成した。
一方、保護ポリマー成分は常法により溶融重合した〔η〕1.0のポリエチレンテレフタレートのペレットを使用した。
【0048】
得られた双方のペレットを別々の押出し機で溶融押出し、図1(1)の複合形状で、芯鞘重量比芯/鞘=1/2となるようノズル部で合流し、300℃で口径0.8mmφ、96ホールのノズルを通じて吐出させた。吐出糸条は、ノズル直下に設けた20cm長、400℃の加熱体域を通過させたのち、25℃、7Nm/分の冷却風で冷却し、オイリングローラーで紡糸油剤を付与し、600m/分で引き取った。
【0049】
引き続き、該糸条を巻き取ることなく以下の要領で延伸、熱処理して巻き取った。
延伸:110℃と125℃の熱ロール間で3倍、さらに400℃に加熱蒸気を
噴射しつつ1.7倍に二段延伸(合計5.1倍)。
熱処理:220℃の熱ロールと弛緩ロールとの間で3%熱収縮処理。
この処理により、1500デニール、強度5.1g/d、伸度18%、比重1.61の繊維を得た。
【0050】
該繊維を8本合糸しつつ、Z方向に240t/mで下撚し、ついでこれを4本合糸してS方向に130t/mで上撚し、縄を得た。
得られた縄は、比重1.61、引張り強力138Kg、沈降速度5.4cm/秒で、強力、沈降速度共に優れたものであった。
該縄を枝縄として用い、そして強度8g/d,伸度19%の1000d/48fのポリエステルフィラメントを15本合糸しつつS方向に16t/m、これを3本合糸しつつZ方向に160t/m、さらにこれを3本合糸でS方向に50t/m合撚糸した520Kgの強力を有する縄を幹縄として延縄を作成し、実地投入した。
枝縄は予想通り投入時に幹縄に巻き付いたり、枝縄同士がからんだりすることなく速やかに海中に沈降し、また、海中での形態も安定していた。
【0051】
実施例2および比較例1〜2
実施例1で用いた複合繊維と、比重1.38、強度9.2g/d、1500d/96fのポリエステル繊維とを以下の様に混撚し、同様に縄を作成した。
各縄の仕様と物性値を表1に示した。実施例1も合せて示した。
【0052】
【表1】
Figure 0003563160
【0053】
表1から明らかなように、高比重繊維の断面積比が本発明で規定する50%に満たない場合は、比重が低下し、それにも増して沈降速度が大きく低下する。これは、ポリエステル繊維の本数が増えるに従い比重が低くなることに加え、撚糸状態が不均一となり液抵抗を受けやすくなるためである。
【0054】
【発明の効果】
特定の高比重繊維を用いる本発明の延縄は、従来品に比し縄の生産性が高く、環境汚染もない。更に、漁獲性能、操業性に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】(1)〜(8)は本発明に供される繊維断面における芯ポリマ−成分と保護ポリマ−成分の代表的な複合形態を示す模式図である。
【符号の説明】
1:芯ポリマ−成分
2:保護ポリマ−成分

Claims (1)

  1. 比重3以上の非鉛系金属またはその化合物の微粒子を50〜85重量%含有する芯ポリマー成分と、該成分を覆う保護ポリマー成分とで構成される、強度3.5g/d以上、かつ比重1.5以上であり、さらに該芯ポリマーを構成するポリマーが数平均分子量6000〜20000のナイロン6を主成分とするポリアミドであり、かつ該芯成分ポリマーは該保護成分ポリマーより20℃以上低い融点を有するものである複合繊維が、断面積比で50%以上含まれており、かつ沈降速度が2.5cm/秒以上である延縄。
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