JP3562536B2 - 常温保存可能な調理済食品の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、食品の加工方法に関し、特に、複数種類の固形素材を当該固形形態を保持したままで充填・包装してなる常温流通可能な調理済食品の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
レトルト食品のような調理済食品は、近年もっとも普及の進んだ食品形態であり、常温流通が可能であること、取り扱いやすさのためカレーソースをはじめ多用途への展開が図られている。レトルト食品の特徴として、固形素材を多く含んだ液体と固体の混合状態の製品が多く、特に最近では固形素材の大型化が進み、人々の嗜好に合わせた製品が開発されている。
【0003】
一般的なレトルト食品の製造方法は、生の野菜、肉等をブランチング(熱湯による素材のあく抜き)して計量し、適宜調理された調味液と別々にレトルトパウチに充填し、脱気密封包装した後、製品の中心部で120℃4分相当(F0 値が約3.1)以上の加圧加熱殺菌(レトルト殺菌)が施される。製品の中心部としては、固形分を含む場合、その中心の温度で計られるべきであり、その場合、固形分の大きさが大きくなるに従いレトルト殺菌の条件はいきおい厳しいものとなり、そのため従来の方法によるレトルト食品においては、製品の褐変、固形物の煮崩れ等の問題が生ずる場合が多く、製品の品質と歩留まりの低下をもたらしていた。
【0004】
一方、液体食品、飲料については、プレート殺菌等で十分殺菌が施された内容物を無菌環境下にて充填密封する所謂無菌充填包装が実用化されており、殺菌条件の緩和が可能となっているが、固形素材を当該固形形態を保持したままで含む食品については、未だ満足のいく方法が確立されていないのが現状である。
【0005】
したがって、本発明は、固体素材の煮崩れや変性を防止し、素材本来の形態および味の双方を良好な状態で保持したままで充填・包装されてなる常温流通・保存が可能な調理済食品を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
発明の概要
本発明者は、上記問題を解決するために、特に従来の無菌充填包装により製造できなかった固形物を含む食品について、従来の調理済食品と比較して加熱による劣化を最小限に抑制、素材の固形形態と素材のもつ自然な味を最大限に保持した状態で充填・包装された調理済食品を得るための方法を鋭意研究した結果、個々の材料毎の汚染状況に応じた調理殺菌を各素材毎に施し、これを無菌的な環境下で組み合わせて充填を行えば、従来のレトルト殺菌に要求されていた過酷な加圧加熱殺菌は必要でないことを見出して本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明による調理済食品の製造方法は、複数種類の固形素材を当該固形形態を保持したままで充填・包装してなる常温流通可能な調理済食品を製造する方法であって、所定形態にカットされた複数種類の素材に対し、予め、各素材毎に当該素材の大きさおよび性状に応じた条件に従った調理殺菌を施すことによって、各素材を実質的に無菌状態にし、次いで、このようにして調理殺菌された各素材を組み合わせて耐熱・耐圧パウチまたは容器に充填、密封し、次いで、このようにして充填された素材混合物に対して、耐熱・耐圧パウチまたは容器に充填されたままの状態で、比較的緩和された熱負荷条件下で行う低熱負荷殺菌を施すことにより、素材の形態および味の双方を良好な状態で保持したままで充填・包装されてなる調理済食品を得ることを特徴とするものである。
発明の具体的説明
本発明を加工の順序に従い、詳細に説明する。
【0008】
本発明の適用される食品は、従来レトルト加工が施された食品のすべてに適用することが可能であり、特に固体素材と液状素材の混合状態の製品について好適である。
【0009】
固形の素材については、一度レトルトを施した材料を用いるか、高温加圧釜による調理その他の加工方法により、予め、各素材毎に、その素材毎の汚染状況に応じた調理殺菌、すなわち、各素材毎に当該素材の大きさおよび性状に応じた条件に従った調理殺菌を施す。本発明における調理殺菌とは、このように各素材毎に行われる殺菌処理をともなう調理加工をすべて含むものとする。
【0010】
また、本発明においては、この調理殺菌に先立ち、もしくは調理殺菌と同時にブランチング(熱湯を用いるあく抜き処理)を行うこともできる。
【0011】
各素材の汚染の指標は、耐熱芽胞をもって行い、固形物のサイズに応じて殺菌条件を決定する。液体についても、プレート殺菌他により、必要かつ十分な殺菌を施す。殺菌方法については特に制限されるものではないが、常温保存可能な食材であっても、微生物学的に完全には無菌ではないので注意を要する。
【0012】
一般的には、上記調理殺菌は、素材毎の汚染状況に応じて、当該素材の大きさおよび性状に応じた条件で行われ得る。
【0013】
たとえば、カレー食品を製造する場合、カレールーは、耐熱性菌を比較的多く含む香辛料を使用するためF0 =4程度の加熱殺菌が必要であるが、ジャガイモの場合は耐熱性菌のほとんどが土壌由来であってジャガイモの外表面に存在しているため剥皮したジャガイモは上記のような過酷な加熱条件を必要としない。
【0014】
このように、素材の混合・充填に先立って、各素材毎に調理殺菌を行うことによって各素材を実質的に無菌状態にすることは従来行われていなかったことであるが、本発明者の知見によれば、このような製造初期段階における素材毎の条件に応じた殺菌を行うことにより、充填・密封後における加熱加圧殺菌の熱負荷条件を著しく低減させることができ(熱履歴を可能な限り少なくすることができ)、従来必要であった、たとえば固形素材の中心部まで120℃×4分相当(F0 値3.1)以上の加熱は必要ではなくなり、これにより固体素材の煮崩れや変性(素材の褐変やいわゆるレトルト臭の発生などを含む)を防止し、素材本来の形態および味の双方を良好な状態で保持したままで充填・包装されてなる調理済食品を製造することが可能となる。
【0015】
本発明においては、このようにして調理殺菌された各素材を、レシピに従って組み合わせて耐熱・耐圧パウチまたは容器に充填、密封する。
【0016】
この素材の混合、充填、密封方法は特に限定されるものではなく、常法にしたがって行うことがきるが、素材の2次汚染を防止するために、素材の組み合わせ・混合および充填はできるだけ無菌的な環境において行うことが望ましい。また、この充填工程の無菌性にしたがって、その後の加圧加熱条件(低熱負荷殺菌条件)を選択しコントロールすることが好ましい。また、密封法としては、特に限定されるものではなく、常法に従って従来公知の方法を採用することができ、脱気包装の他、窒素ガス置換などの不活性ガス置換法などを用いることが可能である。
【0017】
次いで、このようにして充填された素材混合物に対して、耐熱・耐圧パウチに充填されたままの状態で、比較的低い熱負荷条件で加圧加熱殺菌を施す。本発明における低熱負荷殺菌とは、従来不可避的に必要とされたレトルト殺菌の条件に比べて緩和された条件下で行う加圧加熱殺菌を意味する。この場合の低熱負荷殺菌の条件は、固体素材の煮崩れや変性が実質的に起こらない程度の低負荷条件を意味するが、具体的には、F0 値としては、0.2〜3.1の範囲の条件下で行うことが好ましく、さらに好ましくは、F0 値0.5〜2.0の範囲である。
【0018】
この加圧加熱殺菌を行うにあたっては、従来のレトルト殺菌装置の使用が可能であるが、本発明の方法においては、充填時の微量の混入菌の殺菌が達成できれば十分であるため、通常のレトルト殺菌の基準であるF0 値3.1(120℃×4分相当)以上の殺菌は必要ではない。したがって、本発明においては、充填の無菌性によって、従来必要であった120℃、4分相当未満の加熱条件の範囲で適宜選択して行うことが可能となる。通常の場合、たとえば、120℃、4分相当未満の条件にコントロールするか、120℃、1分相当以下にコントロールするかを目的に応じて使い分けることができる。
【0019】
上述したF0 値はレトルト食品の品質保持において定められた殺菌条件であって、下記の式
【0020】
【数1】
(ただし、F=基準温度における加熱時間(分)、t=時間(分)、T=食品の温度、Tr=基準温度、Z=微生物の耐熱性値(ボツリヌス菌芽胞の耐熱性を基準とする))
で表される式に対し、Tr=250°F、Z=18°Fの場合により導かれるF値を特にF0 値と定義したものを意味する。
【0021】
なお、上記低熱負荷殺菌における加圧条件は、パウチまたは容器が破袋、変形しない範囲で任意にコントロールしてよい。
【0022】
上述したように、本発明者の知見によれば、製造初期段階における素材毎の条件に応じた殺菌を行うことは、殺菌効果を高める上で極めて効率的であり、しかも製造初期段階における加熱殺菌は各素材にとって必要十分な最低限の殺菌条件で行うことができるため素材の加熱による劣化は最小限に抑えられることが判明している。さらに、本発明者は、特に固体素材の煮崩れや変性は、製造最終段階における熱履歴に起因しており、したがって、上記製造初期段階における調理殺菌と製造最終段階における熱履歴の低減化とを組み合わせることによって、固体素材の形態および味の双方を良好な状態で保持した常温保存可能な調理済食品を得ることができること見出したものである。
【0023】
【実施例】
実施例1(カレーの製造)
材料として、ジャガイモ、人参、タマネギ、肉、カレールーを用い、1袋当りの各充填量を下表のようにした。
【0024】
ジャガイモ 30g(素材片の重量:4〜6g)
人参 15g(素材片の重量:1〜3g)
タマネギ 10g(素材片の重量:0.5〜2g)
肉 25g(素材片の重量:3〜5g)
カレールー 140g
固形分は、各材料毎に所定の大きさにカットし、材料毎にF0 =4となるよう加圧加熱殺菌を行い、掻き取りの式の殺菌機で同じくF0 =4となるよう殺菌されたカレールーと共に、無菌的な条件下で充填密封した。
【0025】
密封後、カレールー部でF0 =1となるように低熱負荷殺菌を施した。
実施例2(肉ジャガの製造)
材料として、ジャガイモ、タマネギ、人参、肉、調味液を用い、1袋当りの充填量を下表のようにした。
【0026】
ジャガイモ 40g(素材片の重量:6〜8g)
人参 20g(素材片の重量:1〜3g)
タマネギ 20g(素材片の重量:0.5〜2g)
ばら肉 50g(素材片の重量:2〜6g)
調味液 130g
じゃがいも、人参、タマネギは、新鮮なものを用い、清潔な環境下で剥皮したのち所定の大きさにカットし、90℃にて10分間ブランチングを行い、肉も同様に所定の大きさにカットし、90℃にて10分間ブランチングを行った。調味液は加圧加熱釜にてF0 =4となるように加熱し、それぞれを無菌的環境下で充填密封した後、じゃがいも中心部にて、F0 =2.5となるように調理を兼ねて低熱負荷殺菌して調理済食品を得た。
実施例3(鳥釜飯の素の製造)
人参、竹の子、椎茸、シメジ、鳥肉、こんにゃく、油揚げをカップに計量し(各素材片の重量:0.5〜3g)、加圧加熱殺菌(調理殺菌)を行い、鳥肉中心部でF0 =4とし、同じく、F0 =4の殺菌を施した調味液と共に無菌条件で充填密封し、次いで、110℃の温度にて製品中心部(液部)でF0 =1の低熱負荷殺菌を施した。
比較例1
実施例1に対応する製造例として、実施例1と同じ配合にて、各材料共に調理殺菌を行わずに充填し、充填密封後じゃがいも中心部でF0 =4の低熱負荷殺菌を行った。
比較例2
実施例2に対応する製造例として、実施例2と同じ配合にて充填し、じゃがいも中心部にて、F0 =4となるように調理殺菌した。
比較例3
実施例3に対応する製造例として、実施例3と同じ配合にて、殺菌を行わずに充填し、充填密封後において、120℃にて製品中心部(液部)でF0 =6となるように加熱殺菌を行った。
比較例4
実施例3に対応する製造例として、実施例3と同じ配合にて、殺菌を行わずに充填し、充填密封後において、110℃にて液中心部でF0 =6となるように加熱殺菌を行った。
【0027】
下表に各製造例における密封充填後の低熱負荷殺菌の条件ならびにこの低熱負荷殺菌後の内容物の状態を示す。上記実施例、比較例においては、いずれもPET/A1/CPPの構成からなるラミネートパウチを用い、脱気包装を施した。
【0028】
さらに、上記実施例1〜3で得られた調理済食品を22℃の温度で90日間保存したのちの品質を検査したところ、包装体の異常や損傷は認められず、内容物の味、風味とも良好な状態であり、変化は認められなかった。
【0029】
以上のように、本発明の方法によれば、内容物の煮崩れや褐変が抑制され、良好な品質の調理済食品を得ることができることがわかる。
Claims (6)
- 複数種類の固形素材を固形形態を保持したままで充填・包装してなる常温保存・流通可能な調理済食品を製造する方法であって、
所定形態にカットされた複数種類の素材に対し、予め、各素材毎に当該素材の大きさおよび性状に応じた条件に従った調理殺菌を施すことによって、各素材を実質的に無菌状態にし、
次いで、このようにして調理殺菌された各素材を組み合わせて耐熱・耐圧パウチまたは容器に充填、密封し、
次いで、このように充填された素材混合物に対して、耐熱・耐圧パウチまたは容器に充填されたままの状態で、比較的緩和された熱負荷条件下、F 0 値0.2〜3.1の範囲の条件下で行う低熱負荷殺菌を施すことからなることを特徴とする、素材の形態および味の双方を良好な状態で保持したまま充填・包装されてなる調理済食品の製造方法。 - 前記低熱負荷殺菌を、F0値0.5〜2.0の範囲の条件下で行う、請求項1に記載の方法。
- 前記調理殺菌に先立ち、もしくは調理殺菌と同時にブランチングを行う、請求項1に記載の方法。
- 前記充填・包装物のなかに液状素材をさらに含む、請求項1に記載の方法。
- 前記充填・包装を不活性ガス置換法により行う、請求項1に記載の方法。
- 前記低熱負荷殺菌が調理加熱を兼ねる、請求項1に記載の方法。
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