JP3559473B2 - 観察光学機器 - Google Patents

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Description

【0001】
【技術分野】
本発明は、対物光学系の光軸に対して垂直でない面に接眼光学系のピントを合わせることができるティルト可能な観察光学機器に関する。
【0002】
【従来技術及びその問題点】
従来の双眼鏡や望遠鏡などの観察光学機器では、対物光学系の光軸に対して垂直な面にしかピントが合わないため、対物光学系の光軸に対して垂直な面以外(斜めに奥行きのある物体など)ではその全面にピントが合わなかった。特に近距離で、大きく傾いた面などにはその一部にしかピントが合わず、その全面を観察しようとすると何度もピントを合わせ直す必要があった。例えば、大学の大講義室の中の黒板を前列の端の方から見るときや、大きな部屋の壁を部屋の四隅から監視するような場合、視野内のピントの合う範囲が狭くて困る場合があった。
【0003】
【発明の目的】
本発明は、以上の問題意識に基づき、対物光学系の光軸に対して垂直でない面の全面にピントを合わせることができる観察光学機器を得ることを目的とする。
【0004】
【発明の概要】
本発明の観察光学機器は、対物光学系によって形成される物体像を接眼光学系で拡大して観察する観察光学系において、対物光学系の像面位置に拡散板を配設し、この拡散板と接眼光学系側を一体にして、対物光学系の光軸と拡散板が交わる点を中心に、対物光学系側に対して回動調節可能としたことを特徴としている。
【0005】
拡散板の中心は、対物光学系及び接眼光学系の光軸に一致させることが好ましい。異なる物体距離にピントを合わせるため、接眼光学系と拡散板は、対物光学系の光軸方向に位置調節可能とする。
【0006】
【発明の実施態様】
本実施形態の双眼鏡は、眼幅調整軸11で枢着された左右対称形状の一対の対物光学系ホルダ12を有し、各対物光学系ホルダ12内に、対物レンズ群(対物光学系)13と、正立プリズム14が固定されている。対物レンズ群13の光軸13Xは、この2つの直角プリズム14a、14bからなるポロプリズム(正立プリズム)14によって曲折されている。
【0007】
各対物光学系ホルダ12には、その後部に、光軸13Xを中心とする凹円錐台状の接続皿15が固定されており、この接続皿15に、接眼レンズ群(接眼光学系)16と拡散板17を有する接眼光学系ホルダ18が支持されている。
【0008】
各接続皿15には、接眼レンズ群16の光軸16Xを挟んで、水平方向(左右の対物レンズ群13の光軸を結ぶ平面方向)と垂直方向に位置させてそれぞれ(図では水平方向のみを図示)、従動進退ピン(ニードル)21と、原動進退ピン(ニードル)22とが設けられている。従動進退ピン21と原動進退ピン22の先端のニードル部21a、22aはそれぞれ、接眼光学系ホルダ18の前端部(対物光学系ホルダ12側の端部)の球状面部に当接する。従動進退ピン21は、圧縮ばね23によって接眼光学系ホルダ18に突出する方向に付勢されており、原動進退ピン22は、その軸線と平行に形成したラック22b(図4)に、ピニオン24が噛み合っている。ピニオン24は、正逆駆動モータ25及び減速機構26によって回転駆動される。
【0009】
接眼光学系ホルダ18は、図示しない付勢手段により接続皿15側に移動付勢されていて、接続皿15からの脱落が防止されている。従って従動進退ピン21の圧縮ばね23は常時圧縮されている。そして、原動進退ピン22の軸線方向の進退位置を正逆駆動モータ25及び減速機構26によって変化させると、原動進退ピン22が進出するとき従動進退ピン21は後退し、後退するとき進出する形となって、接眼光学系ホルダ18が接続皿15に対して回動する。この回動中心Xは、光軸13X上であって、かつ拡散板17の対物レンズ群13側の表面上に位置している。
【0010】
従動進退ピン21、原動進退ピン22、圧縮ばね23、ピニオン24、正逆駆動モータ25及び減速機構26は、左右の接続皿15にそれぞれぞれ水平用と垂直用が設けられており、合計4セット存在する。図4では、正逆駆動モータ25のみ、水平方向用正逆駆動モータ25H1と25H2、垂直方向用正逆駆動モータ25V1と25V2を描いている。これらの4つの正逆駆動モータ25は、4方向(全方向)操作ボタン27及び制御回路28によって、同期して制御される。
【0011】
接眼レンズ群16と拡散板17は、接眼光学系ホルダ18に固定されていて、この接眼光学系ホルダ18と接続皿15は、対物光学系ホルダ12に対して光軸方向に進退調節可能である。すなわち、物体距離によって異なる対物レンズ群13による物体像の結像位置に、拡散板17の表面を一致させて、観察することができる。この光軸方向の移動、すなわちピント調整は、手動または電動で行うことができる。
【0012】
上記構成の観察光学機器は、4方向(全方向)操作ボタン27及び制御回路28を介して、4つの正逆駆動モータ25を正逆に同期駆動すると、接眼光学系ホルダ18を回動中心Xを中心にあらゆる方向に回動させ、接眼レンズ群16の光軸16Xを、対物光学系ホルダ12に保持されている対物レンズ群13の光軸13Xから変位させる(光軸16Xと光軸13Xが点Xで180゜以外の角度をなすようにする)ことができる。
【0013】
図5は、回動中心Xを中心とする接眼レンズ群16の正逆の回動の様子を示すもので、図の中段は、接眼レンズ群16の光軸16Xと対物レンズ群13の光軸13Xが一致している状態、同上下段は、それぞれ、中段の状態から光軸16Xが回動中心Xを中心に正逆に回動した状態を示している。中段の状態は、図1、図2の状態に対応するもので、拡散板17は、対物レンズ群13の光軸13Xに直交しており、光軸13Xと直交する面上の物体は全て拡散板17上に合焦する。これに対し、上段、下段(図3、図4に対応する)のように、拡散板17が対物レンズ群13の光軸13Xに対して傾斜すると、光軸13Xに直交する面に対して傾斜した面上の物体を拡散板17上に合焦させ、この像を接眼レンズ群16で観察することができる。E.Pはアイポイントを示す。
【0014】
図6は、その原理を示す。物体面30の全てを拡散板17上に結像させる条件は、物体面30と、拡散板17の延長面と、対物レンズ群13の主点を通り光軸13Xと直交する面とが一直線で交わることであり、シャインプルーフの原理として知られている。すなわち、この条件を満足するように、点Xを中心に拡散板17と接眼レンズ群13を一緒にティルトさせると、対物レンズ群13の光軸13Xに対して斜め方向に奥行きのある物体の面30にピントを合わせることができる。そのピント面、つまり拡散板17を、該拡散板17に対し垂直な光軸16Xを持つ接眼レンズ群16で拡大して観察するので、対物レンズ群13の光軸13Xに対して斜め方向に奥行きのある物体の面30を鮮明に観察することができる。
【0015】
いま、対物レンズ群13の主点から物体面30迄の物体距離をD0、対物レンズ群13の光軸13Xに直交する面と物体面30とのなす角をθ、対物レンズ群13の主点と拡散板17(回動中心X)までの距離をL、拡散板17が光軸13Xと直交する面となす角度をαとすると、
D0・tan(90°−θ)=L・tan(90°−α)
の関係を満足するとき、傾斜した物体面30のすべてを拡散板17上に結像させることができる。
【0016】
具体的な物体距離と傾斜の例を挙げる。
例1
D0=2m
θ=60゜
L=100mmのとき、
α=4.95゜
例2
D0=2m
θ=30゜
L=100mmのとき、
α=1.65゜
例3
D0=1m
θ=45゜
L=100mmのとき、
α=5.71゜
【0017】
このように、物体までの距離1〜2mで、対物レンズ群13の光軸13Xと物体面30のなす角度が30〜60゜であっても、拡散板17を接眼レンズ群13と一緒に約2゜弱から6゜程度傾けることにより、物体面30全体の鮮明な像を観察することができる。
【0018】
なお、シャインプルーフの原理は、例えば大型カメラのアオリ撮影機構に用いられている。すなわち、アオリによってピントの合う範囲をコントロールしたり、パースペクティブをコントロールしたりできるが、一般にレンズの光軸とフィルムの中心が撮影時にズレるため、撮影レンズにはかなり大きなイメージサークルが要求される。35mmSLRカメラのシフトレンズは、フィルムに対してレンズを平行に移動させて建物などの上窄まりの修正に利用される(パースペクティブのコントロールのみ可能)が,レンズの移動が平行移動だけのため、ピントの合う範囲が広がることはなく、対物光学系の光軸に対して垂直でない物体側面にピントを合わせることはできない。また、シフトレンズは大きなイメージサークルを必要とし、コストアップにつながる。一般の撮影レンズでも絞りを絞れば被写界深度(ピントの合う範囲)を大きくできるが、ティルトを使うと絞らずに被写界深度を大きくできるので、像の明るさの点で非常に有利である。また観察光学系では、対物光学系より接眼光学系のほうが一般に小さいため,対物光学系より接眼光学系をティルトしたほうが小型化やコストの面で有利となる。
【0019】
さらに、拡散板17の中心を対物レンズ群13の光軸13X上に位置させ、拡散板17と接眼レンズ群16が、拡散板17の表面を通る回動中心Xを回転中心としてティルト可能であると、対物レンズ群13(または対物レンズ群13と正立プリズム14)のイメージサークルの大きさを気にせずに(周辺光量を気にせずに)ティルトが可能となる。特に対物レンズ群13と拡散板17の間に正立プリズム14がある場合は、正立プリズム14等によるケラレを気にせずにティルトが可能となる。一般に双眼鏡等では、正立系の大きさはティルト等がないときの光束が通る範囲ギリギリの大きさで余裕がない。従って対物レンズ群13やアイピースをティルトするとケラレが生じて視野の周辺が暗くなったり、見えなくなることがあるが、拡散板17があれば、このような問題が生じない。
【0020】
異なる物体距離の観察物体にピントを合わせるには、対物光学系ホルダ12に対して接眼光学系ホルダ18を進退させ、接眼レンズ群16と拡散板17の対物レンズ群13(正立プリズム14)に対する相対位置を変化させればよい。
【0021】
以上の実施形態は、本発明を双眼鏡に適用したものであるが、本発明は、単眼鏡等の対物光学系と接眼光学系を有する観察光学機器一般に適用できる。
【0022】
また、以上の実施形態では、接眼レンズ群13(接眼光学系ホルダ18)が回転中心Xを中心にすべての方向に回動可能としたものであるが、簡易な形態として、水平方向だけに回動できるようにしてもよい。
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば、対物光学系の光軸に対して垂直でない面に接眼光学系のピントを合わせることができる観察光学機器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による観察光学機器を双眼鏡に適用した実施形態を示す横断面図である。
【図2】図1の双眼鏡の接眼光学系部分の拡大断面図である。
【図3】図1の双眼鏡の接眼光学系をティルトさせた状態を示す横断面図である。
【図4】図3の双眼鏡の接眼光学系部分の拡大断面図である。
【図5】図1の双眼鏡の展開図である。
【図6】シャインプルーフの原理を説明する光学図である。
【符号の説明】
11 眼幅調整軸
12 対物光学系ホルダ
13 対物レンズ群(対物光学系)
14 正立プリズム
15 接続皿
16 接眼レンズ群(接眼光学系)
17 拡散板
18 接眼光学系ホルダ
21 従動進退ピン
22 原動進退ピン
23 圧縮ばね
24 ピニオン
25 正逆駆動モータ
26 減速機構
27 4方向(全方向)操作ボタン
28 制御回路

Claims (3)

  1. 対物光学系によって形成される物体像を接眼光学系で拡大して観察する観察光学系において、
    上記対物光学系の像面位置に拡散板を配設し、
    この拡散板と接眼光学系側を一体にして、対物光学系の光軸と拡散板が交わる点を中心に、対物光学系側に対して回動調節可能としたことを特徴とするティルト可能な観察光学機器。
  2. 請求項1記載の観察光学機器において、拡散板の中心は、対物光学系及び接眼光学系の光軸に一致している観察光学機器。
  3. 請求項1または2記載の観察光学機器において、接眼光学系と拡散板は、対物光学系の光軸方向に位置調節可能である観察光学機器。
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