JP3559383B2 - 液化仕込清酒の製造法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、液化仕込清酒の製造法に関する。さらに詳しくは、液化仕込による清酒の製造法において、プロテアーゼを有効成分とする酵素剤を加え、当該清酒のサエを改善することを特徴とする液化仕込による清酒の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、清酒醸造業界においては、杜氏制度に由来した季節的生産形態で清酒が製造されていた。即ち、従来の清酒製造法では蒸米、麹、水を数回に分けて仕込む方法(以下、「在来仕込」ともいう)であり、初期もろみに水が詰まった状態となり、流動性が乏しく、清酒の品質に大きな影響を及ぼす温度制御が難しいなどの問題があり、温暖期での清酒製造を困難なものとしていた。
【0003】
このような状況のもとで、当業界では後継者不足の解消、製造工程の簡易化と自動化、年間の定常的生産等を図るためにたゆまぬ研究開発がなされ、いわゆる掛米液化仕込による清酒の製造法が開発された。
【0004】
掛米液化仕込による清酒の製造法には、例えば「融米造り」、「姫飯造り」等が知られている。「融米造り」とは白米をあらかじめ破砕したのち、短時間で液化適温まで加熱して、液化酵素で液化する方法であり、「姫飯造り」とは丸粒白米のまま液化槽に投入してから、数時間程度かけて穏やかに加温しながら破砕と液化酵素による液化を行う方法である。
【0005】
これらの方法はいずれも原料である白米に適量の澱粉液化酵素を添加し、白米液化処理装置(攪拌槽)により米澱粉の糊化温度帯まで加温して液状化させる方法である。本発明においては、これらの方法を総称して「液化仕込」という。
【0006】
清酒を評価する方法(きき酒)としては、例えば、色、清澄度、香り、味などを対象としている。これらの評価項目の中で、清酒は輝くような清澄度を有すること、即ち「サエが良い」とされることが一般的によいとされている。
【0007】
在来仕込で製造された清酒においては、火入れしてタンクに貯蔵中、またはビン詰めして出荷後に、次第に透明度が悪くなり白濁してくることがある。この原因には細菌性の場合以外に蛋白混濁(俗に白ボケ)が原因となることがある。蛋白混濁を防止するためには、麹の使用量を減らしたり、老麹のかわりに若麹を使用するなどの手段がとられる。
【0008】
しかし、既に白濁した場合においては、セライトなどの助剤を用いた濾過が行われるが、混濁物質が微細であるので濾過だけでは不十分な場合が多い。そのため各種のおり下剤によるおり下げ処理が行われている。
【0009】
おり下げ処理としては物理的方法(タンニンとゼラチンによる凝固沈殿やアルギン酸の酸性での凝固沈殿)(例えば、商品名:オリトール)や酵素的方法(プロテアーゼ作用により混濁蛋白分子の一部が分解され、これによって凝固を生じる)(例えば、商品名:クラリンS)が知られている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等は、前記したような液化仕込によって得られた清酒において、いかなる問題点があるかを鋭意検討した。その結果、製造された清酒について、その品質を評価したところ、その透明度がやや悪いこと、即ち「サエが悪い」との感触を得た。そこで、本発明者らは、この問題点の解消を試みたものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、液化仕込で製造された清酒の「サエ」の悪さの原因となるものについて検討した。即ち、在来仕込で製造された清酒と、液化仕込で製造された清酒を比較検討したところ、在来仕込で得られた清酒にはほとんど見られない、分子量の比較的小さい12,000〜16,000の物質が、液化仕込で得られた清酒には含まれていることが確認できた。
【0012】
そこで、この物質の除去法について種々検討した結果、プロテアーゼを有効成分として含有する酵素剤を作用させることにより、本物質が分解除去され、清酒に「サエ」がもたらされることを知り本発明を完成した。即ち、本発明は、液化仕込の清酒の製造法において、プロテアーゼを有効成分とする酵素剤を作用させることを特徴とする清酒の改良法である。
【0013】
本発明の対象とする清酒は、液化仕込によって得られる清酒であって、在来仕込のような蒸米を使用することなく、掛米に相当する粒白米、粉砕白米を仕込水とともに液化装置に投入して、昇温しながら液化を図り、終了後液化物を麹とともに醗酵タンクに仕込んで得られた清酒である。
【0014】
具体的な液化方法としては、例えば、白米とそれの150〜170%量の水を、ゆっくり攪拌しながら投入し、白米の5000分の1量のα−アミラーゼ剤を添加して、常温で30〜40分間保持し、吸水を進める。次に攪拌速度を上げて米を砕きながら70〜75℃まで昇温して、10〜15分間保持し、更に85〜90℃まで昇温、10〜15分間保持して液化を図り、液化終了後、15℃付近まで冷却して、もろみタンクへ仕込む。
【0015】
また、糖化まで図る場合には、60℃付近まで冷却したところで、白米の3000分の1量の糖化酵素剤を添加して50〜55℃付近で4〜6時間糖化を図ったのちに冷却して仕込む方法等が行われる。
【0016】
本発明に使用できるプロテアーゼを有効成分とする酵素剤としては、例えば、プロテアーゼA「アマノ」、プロテアーゼM「アマノ」(以上、天野製薬製)、オリエンターゼONS(上田化学製)等であり、何れもアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oyzae)由来のプロテアーゼである。特に、プロテアーゼA「アマノ」やプロテアーゼM「アマノ」が好ましく用いられる。
【0017】
プロテアーゼA「アマノ」は中性領域(pH4〜10で有効)で安定な酵素剤であり、プロテアーゼM「アマノ」は酸性領域(pH3〜6で有効)で安定な酵素剤であり、ともに強力なペプチダーゼ活性を有している。
【0018】
本発明に使用できるプロテアーゼを有効成分とする酵素剤を添加する時期としては、液化仕込による清酒の製造工程であればその時期は問わない、例えば、液化工程終了後、本発明の酵素剤が効果を発揮する程度の温度に冷却後に加えることができる。この液化液を、もろみタンクへの仕込み時(「添」)、「仲」、「留」として使用することもできる。また、このようにして調製されたもろみに直接添加しても良いし、液化仕込によって得られた清酒に直接添加しても良い。また、得られた清酒に添加する場合においては、火入れする前でも後でも良いが、好ましくは火入れする前が選択される。
【0019】
本発明に使用できるプロテアーゼを有効成分とする酵素剤の使用量は、対原料で当たり0.005%〜0.5%(W/V)であり、好ましくは0.01%〜0.1%程度が使用できる。
【0020】
また、液化仕込で調製された清酒を処理する場合には、その処理時間、温度により異なるが、通常、清酒の0.001%〜0.1%(W/V)であり、好ましくは0.05〜0.01%程度が使用できる。また、処理温度としては、清酒の品質保持の観点から30℃以下であることが好ましく、処理期間としては、1〜30日程度が好ましい。
【0021】
以下、実験例及び実施例で本発明をより具体的に詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
実験例 液化仕込によって得られた清酒中の蛋白質の確認
在来仕込による清酒(8サンプル)と液化仕込による清酒(20サンプル)を各々50〜100ml使用し、一昼夜純水で透析した(Spectra/por 3、分画分子量3,500)。透析サンプルを凍結乾燥したのち、少量の純水で溶解(サンプル清酒50mlに対して1.5ml)し、以下の条件でSDS電気泳動を行った。
【0023】
ゲル濃度 15.0%(ポリアクリルアミド)
(定電圧 90V:図1の条件)
(定電流 20mA:図2の条件)
サンプル量 12μl
分子量マーカー 各々、97,400、66,200、45,000、31,000、21,000、14,400、9,000、3,000を使用
【0024】
その結果を、図1及び図2に模式図で示す。即ち、図1(在来仕込8サンプルと液化仕込7サンプルの比較)より明らかなように、液化仕込の清酒には、在来仕込には見られない比較的小さな分子量の物質が含まれていることが判明した。その分子量は約16,000を示す物質と12,000〜14,000を示す物質に大別できた。その量は清酒100ml当たり約18mgと推定された。
【0025】
また、他の液化仕込の13サンプルの結果(図2)よりも明らかなように、これらの物質は量の多少はあるにしても、全てのサンプルに検出された。
【0026】
【実施例】
実施例1
実験例に使用した液化仕込清酒をサンプルとして、下記の各種酵素剤を使用して処理した。処理条件としては、酵素添加量を0.01%(W/V)、処理温度は室温(約30℃)、処理日数は2日、14日とした。
【0027】
【0028】
処理後の各サンプルについて、実験例と同様にしてSDS電気泳動による分析を行った。その結果を図3に示す。図より明らかなように▲7▼プロテアーゼM「アマノ」及び▲8▼プロテアーゼA「アマノ」の場合に、明らかに効果が見られ、液化仕込特有の比較的低分子の物質が除去されていることが判る。
【0029】
プロテアーゼM「アマノ」及びプロテアーゼA「アマノ」は何れもアスペルギルス・オリゼ由来でペプチダーゼ活性の高いプロテアーゼ剤である。
【0030】
また、処理した清酒は、室温において保存した場合においても、混濁を呈することもなく安定した品質を保つことができた。尚、プロテアーゼM「アマノ」又はプロテアーゼA「アマノ」で処理して得られた清酒について、熟練した醸造関連者による官能検査の結果、何れも「サエの良い」清酒と判定された。更に、味についてもきれいになったと判定された。
【0031】
実施例2
実験例に使用した液化仕込清酒(18種)についてもプロテアーゼM「アマノ」及びプロテアーゼA「アマノ」を使用し、添加量を0.01〜0.05%(W/V)と変化させ、室温で処理日数を1〜21日と変化させて処理した。その結果、何れにおいても酵素剤の効果が見られ、使用量と処理日数を適宜組み合わせることによって、液化仕込清酒に含まれる物質を取り除くことができた。
【0032】
また、酵素剤の使用量が多い場合には、酵素に由来する比較的高分子の蛋白質が清酒に混ざることとなるが、火入れをすることによってこれらは取り除くことが可能である。
【0033】
実施例3
白米27Kgと水42Lを、ゆっくり攪拌しながら投入し、α−アミラーゼ剤9.0gを添加して、常温で30分間保持し、吸水を進める。次に攪拌速度を上げて米を砕きながら70℃まで昇温して、10分間保持し、更に90℃まで昇温、10分間保持して液化を図り、液化終了後、15℃付近まで冷却して、もろみタンクへ仕込んだ。
【0034】
もろみ4日目及び10日目にもろみを各5L小分けし、各々にプロテアーゼM「アマノ」又はプロテアーゼA「アマノ」を2.5g添加し、更に12日間(もろみ4日目使用)及び8日間(もろみ10日目使用)発酵した。このようにして得られた各種清酒について実験例と同様にして、清酒中の蛋白質を確認した。
【0035】
その結果、プロテアーゼM「アマノ」又はプロテアーゼA「アマノ」を使用する製造法で得られた清酒は、本発明に使用する酵素剤を使用しないで製造した清酒と比較した場合、試験例で確認されたような比較的低分子の蛋白質が明らかに減少或いは消失していた。
【0036】
また、得られた清酒について実施例1と同様にして、熟練した醸造関連者による官能検査の結果、何れも「サエの良い」清酒と判定された。更に、味についてもきれいであると判定された。
【0037】
実施例4
白米10Kg、汲水10L、アミラーゼK3.3gを用いて実施例3と同様にして液化を行い、液化終了後、15℃付近まで冷却し、プロテアーゼM「アマノ」を2g添加し「添」とした、更に白米24kg、汲水40L、アミラーゼK 8.0gを用いて同様にして液化後、冷却した液化液にプロテアーゼM「アマノ」を4.8g添加し「仲」とした。また、白米21kg、汲水38L、アミラーゼK 7.0gを用いて同様にして液化後、冷却した液化液にプロテアーゼA「アマノ」を4.2g添加し「留」とした。更にプロテアーゼA「アマノ」を添加した「留」を行なった。このようにして得られた清酒について実験例と同様にして、清酒中の蛋白質を確認した。
【0038】
その結果、プロテアーゼM「アマノ」又はプロテアーゼA「アマノ」を白米液化後に当該液化液に直接使用する製造法で得られた清酒においても、本発明に使用する酵素剤を使用しないで製造した清酒と比較した場合、試験例で確認されたような比較的低分子の蛋白質が明らかに減少或いは消失していた。
【0039】
また、得られた清酒について実施例1と同様にして、熟練した醸造関連者による官能検査の結果、「サエの良い」清酒と判定された。
【発明の効果】
本発明により、液化仕込による清酒の、サエの悪さ、を改善し、サエの良い、良質の清酒を製造することができる。更に、本発明の処理法により得られた清酒はその味の改善にも効果を示し、製造工程中の濾過性も改善される。
【図面の簡単な説明】
【図1】液化仕込によって得られた清酒と在来仕込によって得られた清酒について比較した実験例の結果を示す模式図である。
【図2】各種液化仕込清酒に関する実験例の結果を示す模式図である。
【図3】実施例1の結果を示す図であり、右の▲1▼〜▲8▼が反応日数が2日の場合を示し、左の▲1▼〜▲8▼が反応日数が14日の場合を示す。
【符号の説明】
図中の▲1▼はプロテアーゼP「アマノ」3、▲2▼はプロテアーゼP、▲3▼はパパインW−40、▲4▼はパンクレアチンF、▲5▼はプロテアーゼS、▲6▼はプロレザー、▲7▼はプロテアーゼM「アマノ」、▲8▼はプロテアーゼA「アマノ」を用いた場合である。
Claims (3)
- 液化仕込による清酒の製造法において、液化工程終了後にプロテアーゼを有効成分とする酵素剤を加え、液化仕込による清酒のサエを改善することを特徴とする液化仕込清酒の製造法。
- 液化仕込による清酒の製造法において、液化工程終了後にプロテアーゼを有効成分とする酵素剤を加えた後に、火入れを行い、液化仕込による清酒のサエを改善することを特徴とする液化仕込清酒の製造法。
- プロテアーゼを有効成分とする酵素剤がアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来の酵素剤である請求項1又は請求項2記載の液化仕込清酒の製造法。
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JP8751896A JP3559383B2 (ja) | 1996-03-15 | 1996-03-15 | 液化仕込清酒の製造法 |
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