JP3642910B2 - 処理穀物及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、穀物を特定条件下で処理した処理穀物に関し、タンパク質や脂質及び穀物臭の低減されたデンプンに富む処理穀物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、穀物はそのまま直接に主食又は原料に供されず、表層部を搗精して胚芽と糠を除去した搗精穀物を蒸煮した蒸し穀物とするか、この搗精穀物を粉体にして食品や飲料の原料として加工して食されている。これは、穀物の表層付近がタンパク質や脂質に富み、内部ほどデンプン比率が高いことから、物理的に、例えば搗精機で穀物の表面を削り取り、表層のタンパク質や脂質が多い部分や胚芽を糠として除去し、精白した穀物として使用するものである。タンパク質や脂質を多く除去しようとすると穀物の表層を多く削ることになり、精穀物歩合(未精白穀物の重量に対する精白穀物の重量の比を%表示したもの)の値が低くなり、同時に、削り取るデンプンの損失と搗精に要するエネルギーや手間等も多くなる。しかし、穀物よりタンパク質や脂質を確実に除去できることから、現在でも広く使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
穀物には、タンパク質、脂質がデンプン、ミネラル、粗繊維等と共に含有されているが、使用する食品や飲料によっては、香味や品質において、タンパク質が多いと雑味に、脂質が多いと品質劣化につながる場合があり、このようなケースではタンパク質や脂質を除去して使用する必要がある。
例えば、米粒を例に取ると、一般にご飯として食する飯米では、表層を1割程度削り、90%程度の精米歩合で使用され、清酒原料としては、一般の清酒用では玄米を3割、吟醸用の極端なものでは6割5分削ったものが使用される。したがって、削られた部分の糠にもデンプンがかなり含有されているのが現状である。
これらの搗精機等を用いる物理的搗精・精白による方法以外には、タンパク質は、プロテアーゼ処理により低減することが知られ(特公平6−6427号公報)、また、清酒醸造の精白米において、浸漬時にリパーゼ処理により脂質の低減することが知られている〔日本醸造協会雑誌、第71巻、第975〜978頁(1976)〕。
しかし、穀物中で組織を形成するタンパク質や脂質の周囲にはデンプンが多量に存在し、デンプンに取り囲まれた状態になっており、更に水を吸水してデンプンが膨潤すると、プロテアーゼやリパーゼの作用は水膨潤デンプンが障害となり十分に作用できず、また、脂質は水中に溶出することもないので、上記従来技術においては、デンプンの欠減がない状態で、目的とする穀物中のタンパク質や脂質の十分な低減という効果は得難い。また、生穀物には穀物特有の生穀物臭があるがこれらの除去はできない。
本発明の目的は、デンプンの欠減がなく、タンパク質及び脂質の十分低減された処理穀物、その製造方法及び該処理穀物を用いた食品又は飲料を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明を概説すれば、本発明は、穀物を有機溶剤含有アルカリ液中、有機溶剤耐性で、かつ95℃においてタンパクを分解する活性を有しているプロテアーゼで処理することを特徴とするタンパク質及び脂質が低減された処理穀物の製造方法に関する。
【0005】
処理穀物の製造は、穀物を有機溶剤含有アルカリ液中、有機溶剤耐性で、かつ95℃においてタンパクを分解する活性を有しているプロテアーゼで処理する工程により、タンパク質、脂質及び生穀物臭の低減された処理穀物を提供できる。
すなわち、より詳しくは、本発明者らは、前記の従来技術の課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、例えば、有機溶剤含有アルカリ液で穀物を処理することにより、必要によっては加温することにより、タンパク質及び脂質を効率よく、大幅に除去できることを見出した。また、有機溶剤又は加温した有機溶剤と有機溶剤耐性プロテアーゼを組合せることにより、処理穀物は殺菌されるのみならず、穀物臭も低減され、食品や飲料に好適な原料としての処理穀物となることも見出した。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明における穀物とは、例えば、ジャポニカ米(粳米、糯米)、インディカ米(粳米、糯米)、大麦、小麦、ライ麦、燕麦、ヒエ、アワ、コウリャン、ソバ、トウモロコシ、モロコシ、マイロ等の穀物を挙げることができ、単独若しくは一つ以上を併用してもよい。なお、穀物から豆類を除くものとする。
この穀物は、玄穀物でよいが、表層を1%以上(精穀物歩合99%以下)精白するか、好ましくは3%以上(精穀物歩合97%以下)、更に好ましくは5〜15%(精穀物歩合95〜85%)程度精白することにより、より効率よくタンパク質及び脂質が除去できる。ここでいう穀物は粒状体及び粉状体のいずれでも使用できる。
【0007】
本発明に使用する有機溶剤は、特に限定はないが、例えば、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、ブタノール、エタノール、メタノール等が挙げられ、食品の処理という面からは、エタノール、ブタノールが好ましく、特にエタノールが操作上好ましい。
また、これらを混合して使用することも可能で、水と混合させてもよい。溶剤の濃度は、例えは、エタノールの場合、エタノール濃度1〜95v/v%が使用可能で、安全と作業効率の上からは10〜90v/v%、タンパク質除去効率を加味すると10〜80v/v%がより好ましい。
【0008】
また、本発明に用いるアルカリ液は、特に限定はないが、食品に用いられるものであればよく、例えば、無機のアルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、アンモニア又はそれらの各塩、有機のアルカリとしてはアルギニン又はその塩を単独又は混合して用いる。その濃度は、0.1mM以上であればよく、好ましくは1mM〜3M、更に好ましくは10mM〜1Mである。
【0009】
酵素を作用させるpH条件は、特に限定はないが、使用する有機溶剤耐性プロテアーゼの至適pHが好ましく、タンパク質や脂質の溶解の面から、pH4〜12、好ましくはpH7超〜11のアルカリ側がよい。
必要に応じて行う酵素反応における加温、すなわち作用温度及び時間は、特に限定はないが5〜120℃、数分〜数日の範囲で設定可能である。
酵素作用と脂質の溶解の面からは高温が好ましいが、デンプンの糊化による作業上の困難やデンプン損失を考慮すると20〜70℃が好適である。70℃を超えるとデンプンの流出を生ずる。
作用時間は、作業と目的とするタンパク質、脂質の低減量に達するのに要する時間であればよいが、作業面からは1〜48時間が好ましい。設定する低減量により時間を調節する。
【0010】
本発明に使用できるプロテアーゼには特に制限はなく、処理温度により選択することができるが、有機溶剤に対して耐性(有機溶剤存在下で活性を示す)を有する種々のプロテアーゼが好ましく、例えば微生物由来のものを使用するのがよい。微生物プロテアーゼとしては、好ましくは安定性に優れたもの、例えばバチルス(Bacillus) 属細菌由来のサブチリシン、サーモライシン等が使用できるが、更に高い安定性を有する超好熱菌由来のプロテアーゼは本発明に好適に使用することができる。このようなプロテアーゼとしてはピロコッカス(Pyrococcus) 属やサーモコッカス(Thermococcus) 属等に属する細菌、例えばピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)やサーモコッカス・セラー(Thermococcusceler)の生産するプロテアーゼを挙げることができる。
【0011】
ピロコッカス・フリオサスの生産するプロテアーゼとしては、例えば、WO95/34645号公報に記載のピロコッカス・フリオサスDSM3638由来のプロテアーゼ(プロテアーゼPFUL)が知られている。プロテアーゼPFULはシグナル配列、プロ領域を含めて1398残基のアミノ酸からなる高分子量のプロテアーゼである。また、その前半部分のアミノ酸配列はサブチリシンに代表される微生物由来アルカリ性セリンプロテアーゼのアミノ酸配列との間に相同性を有している。該プロテアーゼをコードする遺伝子は既に単離されており、該遺伝子が組込まれたプラスミド、pTPR12を保持する大腸菌 Escherichia coli JM109/pTPR12は平成6年5月24日(原寄託日)より、ブタペスト条約の下、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM
BP−5103として寄託されている。
【0012】
該プロテアーゼはその遺伝子が導入された形質転換体、例えば上記の大腸菌、あるいは上記の公報に記載のプロテアーゼPFULをコードする遺伝子が導入された枯草菌 Bacillus subtilis DB104/pUBP13を培養し、該培養物より精製を行って取得することができる。 Bacillus subtilis DB104/pUBP13の場合には通常の条件、例えば、10μg/mlのカナマイシンを含むLB培地中、37℃で培養を行うことにより培養液中に超耐熱性プロテアーゼが発現される。培養終了後、遠心分離によって集めた菌体を超音波処理法などにより破砕した後、熱処理による夾雑タンパクの除去、硫酸アンモニウムによる塩析処理、及び透析処理等を行って粗精製酵素標品を得ることができる。更に公知の酵素精製方法、例えばイオン交換クロマトグラフィーやアフィニティークロマトグラフィーを行って該粗精製酵素標品より精製されたプロテアーゼPFULの標品を得ることができる。
【0013】
プロテアーゼPFULは95℃においてカゼイン、ゼラチン等のタンパクを分解する活性を有しており、その至適pHはpH9.0〜10.0付近である。該プロテアーゼは高い安定性を有しており、95℃、4時間の熱処理の後もほぼ100%の活性を保持している。この安定性は0.1%のSDSの存在下においても同様である。
【0014】
また、ピロコッカス フリオサスは上記のプロテアーゼPFULとは異なるプロテアーゼ(プロテアーゼPFUS)を生産している。該酵素をコードする遺伝子はプロテアーゼPFULをコードする遺伝子を利用して取得することができる。すなわち、プロテアーゼPFULのアミノ酸配列のうちサブチリシン等と高い相同性を示す領域の配列部分をコードするプロテアーゼPFUL遺伝子、その一部分からなるDNA断片、あるいはその塩基配列を基に設計したオリゴヌクレオチドをプローブあるいはプライマーとして使用することにより、ピロコッカス・フリオサス染色体DNA上にプロテアーゼPFULとは異なる、もう1つのプロテアーゼ遺伝子が存在することがわかる。
【0015】
こうして見出されたピロコッカス フリオサス由来の第2のプロテアーゼ(プロテアーゼPFUS)の遺伝子は既に単離されており、そのアミノ酸配列も解明されている。該遺伝子が組込まれたプラスミドpSNP1で形質転換された枯草菌 Bacillus subtilis DB104は Bacillus subtilis DB104/pSNP1と命名され、平成7年12月1日(原寄託日)より、ブタペスト条約の下、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM BP−5634として寄託されている。
【0016】
プロテアーゼPFUSはその遺伝子が導入された形質転換体、例えば上記の枯草菌、あるいはプロテアーゼPFUS遺伝子の上流にサブチリシン遺伝子由来のプロモーター〜シグナルペプチド部分をコードするDNA断片を導入したプラスミドpNAPS1で形質転換された枯草菌、 Bacillus subtilis DB104/pNAPS1等を培養し、該培養物より精製を行って取得することができる。これらの枯草菌を通常の条件、例えば10μg/mlのカナマイシンを含むLB培地中、37℃で培養を行うことにより菌体内及び培養液中に超耐熱性プロテアーゼが発現される。培養終了後、遠心分離により菌体と培養液上清とを分け、そのそれぞれから以下に示す操作によって、プロテアーゼPFUSを得ることができる。
【0017】
菌体より酵素を精製する場合には、まずリゾチーム処理や超音波処理によって菌体を破砕し、更に熱処理によって熱に不安定なタンパク質の除去を行った後、遠心分離によって上清を回収する。この上清について硫酸アンモニウム分画やイオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィーといった公知の酵素精製方法を実施することにより、精製プロテアーゼPFUS標品を得ることができる。また、培養液上清中に含まれるプロテアーゼも、熱処理、硫酸アンモニウム分画や各種のクロマトグラフィー操作を組合せることにより精製することができる。
【0018】
プロテアーゼPFUSの精製は、例えば以下に示す操作によって行うことができる。上記の枯草菌 Bacillus subtilis DB104/pSNP1、あるいは Bacillus subtilis DB104/pNAPS1を、10μg/mlのカナマイシンを含むLB培地5mlを含む試験管2本に接種し、37℃で7時間振とう培養する。同様の培地125mlずつを含む500ml容の三角フラスコ計6本を準備し、フラスコ1本当り上記培養液を1ml接種して37℃で17時間振とう培養した後、遠心分離を行って菌体と培養液上清とを得る。
得られた培養液上清(750ml)を25mM トリス−HCl、pH8.0に対して透析した後、同じ緩衝液で平衡化したEcono−Pack Qカートリッジ(5ml:バイオラッド社製)にアプライし、次いで吸着した酵素を0〜1.5M NaClの直線濃度勾配により溶出させる。得られた活性画分を95℃で1時間加熱処理した後、3分の1量の飽和硫酸アンモニウム溶液を加え、0.45μmフィルターユニット(ステリベクスHV:ミリポア社製)を用いてろ過を行う。得られたろ液を25%飽和の硫酸アンモニウムを含む25mM トリス−HCl、pH7.5で平衡化したPOROS PHカラム(4.6mm×150mm:バーセプティブ社製)にアプライする。カラムを平衡化に使用した緩衝液で洗浄した後、硫酸アンモニウム濃度を20%飽和から0%飽和に低下させると同時にアセトニトリル濃度を0%から20%に増加させる直線濃度勾配溶出を行い、プロテアーゼ活性を有する画分を集める。こうして得られた酵素標品を精製プロテアーゼPFUSとして本発明に使用することができる。
また、上記の菌体に含まれるプロテアーゼPFUSも、適当な操作で菌体を破砕して無細胞抽出液を調製した後、例えば上記の培養液上清からの酵素精製方法に準じた操作で精製することができる。
【0019】
このようにして得られるプロテアーゼPFUSは培養、精製の過程で酵素活性の発現に不必要なシグナルペプチド、及びプロ領域が失われた成熟型の酵素である。
【0020】
こうして得られたプロテアーゼPFUSはカゼイン、ゼラチン等のタンパクを分解する活性を有する。更にスクシニル−L−ロイシル−L−ロイシル−L−バリル−L−チロシン−4−メチルクマリン−7−アミド(Suc−Leu−Leu−Val−Tyr−MCA)、スクシニル−L−アラニル−L−アラニル−L−プロリル−L−フェニルアラニン−p−ニトロアニリド(Suc−Ala−Ala−Pro−Phe−p−NA)といった合成のプロテアーゼ基質を分解する活性を有する。
【0021】
プロテアーゼPFUSの至適温度は80〜95℃である。また、該酵素はpH5〜10の間で活性を示し、至適pHはpH6〜8付近である。
該酵素は極めて高い安定性を有しており、pH7.5の緩衝液中で処理した場合、95℃、3時間の熱処理の後も80%以上の活性を保持している。また、終濃度0.1%あるいは1%のSDSが存在する場合でも95℃、3時間の熱処理の後にほぼ80%程度の活性を保持している。更に、有機溶剤の存在下においても該酵素は安定であり、例えば50%(v/v)アセトニトリルの存在下で95℃、1時間の処理を行った場合でも処理前の80%以上の活性を有している。
【0022】
また、上記のプロテアーゼPFUSの場合と同様にしてサーモコッカス・セラーDSM2476の染色体DNA上に存在しているプロテアーゼ(プロテアーゼTCES)遺伝子を単離することができる。該遺伝子が組込まれたプラスミドpSTC1で形質転換された枯草菌 Bacillus subtilis DB104は Bacillus subtilis DB104/pSTC1と命名され、平成7年12月1日(原寄託日)より、ブタペスト条約の下、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM BP−5635として寄託されている。
【0023】
プロテアーゼTCESはその遺伝子を導入された形質転換体、例えば上記の枯草菌 Bacillus subtilis DB104/pSTC1を培養し、該培養物より精製を行って取得することができる。該枯草菌を通常の条件、例えば10μg/mlのカナマイシンを含むLB培地中、37℃で培養を行うことにより、菌体内及び培養液中に超耐熱性プロテアーゼが発現される。培養終了後、遠心分離により菌体と培養液上清とを分け、そのそれぞれからプロテアーゼPFUSの場合と同様にして精製酵素標品を得ることができる。
【0024】
プロテアーゼTCESはカゼイン、ゼラチン等のタンパクを分解する活性を有する。更にスクシニル−L−ロイシル−L−ロイシル−L−バリル−L−チロシン−4−メチルクマリン−7−アミド(Suc−Leu−Leu−Val−Tyr−MCA)、スクシニル−L−アラニル−L−アラニル−L−プロリル−L−フェニルアラニン−p−ニトロアニリド(Suc−Ala−Ala−Pro−Phe−p−NA)といった合成のプロテアーゼ基質を分解する活性を有する。
プロテアーゼTCESの至適温度は70〜80℃である。また、該酵素はpH5.5〜9の間で活性を示し、至適pHはpH7〜8付近である。
該酵素はpH7.5の緩衝液中で処理した場合、80℃、3時間の熱処理の後も90%以上の活性を保持する、安定性に優れたプロテアーゼである。
【0025】
酵素活性の測定はSuc−Ala−Ala−Pro−Phe−p−NAを基質とし、酵素による加水分解反応によって生成するp−ニトロアニリンを分光光学的に測定することにより行う。すなわち、酵素活性を測定しようとする酵素標品を適度に希釈し、その試料溶液50μlに1mM Suc−Ala−Ala−Pro−Phe−p−NA溶液(100mM リン酸緩衝液、pH7.0)50μlを加え、95℃で30分間反応させる。氷冷して反応を停止した後、405nmにおける吸光度を測定し、p−ニトロアニリンの生成量を求める。酵素1単位は、95℃において1分間に1μmoleのp−ニトロアニリンを生成する酵素量とする。
【0026】
有機溶剤含有アルカリ液存在下でのプロテアーゼ処理は、特に限定はないが、例えば、穀物を有機溶剤耐性プロテアーゼを溶解させた有機溶剤含有アルカリ液へ浸漬して静置してもよいし、有機溶剤耐性プロテアーゼ含有の有機溶剤含有アルカリ液を循環させながら、連続的処理を行ってもよい。また、有機溶剤耐性プロテアーゼを含む有機溶剤含有アルカリ液を穀物に散布する方法でもよい。
【0027】
有機溶剤含有アルカリ液、又は有機溶剤耐性プロテアーゼを含有する有機溶剤含有アルカリ液処理後の処理穀物は、そのまま、又は水洗浄してもよいし、その後乾燥してもよく、例えばエタノール等で脱水して保存性を向上させることも可能である。
有機溶剤中のアミノ酸、ペプチド、脂質は分離して各々の成分として利用することもできる。
【0028】
本発明の処理穀物を用いた食品又は飲料は、穀物を原料として用いるものであれば特に限定はないが、穀物の調理品(例えば、炊飯米、モチ、カユ)、パン類、麺類、菓子類、調味料(豆を用いない味噌、若しくは醤油、又は食酢)、嗜好飲料類(非アルコール飲料、アルコール飲料)、酒類及び加工食品類が挙げられる。
【0029】
以下、穀物の有機溶剤耐性プロテアーゼによる処理検討例についての結果を示す。
【0030】
検討例1
90%精白米(日本晴)1kgを、50、60、70℃の温度に設定した、有機溶剤耐性プロテアーゼ(プロテアーゼPFUS)のプロテアーゼ活性179単位を含む0.1Mのホウ酸緩衝液(pH9.0)500mlの各水溶液中に、50℃の場合は14時間、60℃の場合は5時間、70℃の場合は4時間浸漬し、その後、各処理米を流水中で2時間洗浄した(酵素1単位は、95℃において1分間に1μmoleのp−ニトロアニリンを生成する酵素量とする)。
対照は、上記各条件において、有機溶剤耐性プロテアーゼ無添加のものとした。
以下の各タンパク画分含量の測定には、上記洗浄米を乾燥した後、破砕した試料を用いた。
【0031】
その試料米粉1gに対し、5mlの蒸留水(常温25℃前後)を添加し、十分かくはん抽出(常温2時間)後、遠心分離(10,000rpm、10分間)して、上澄と残渣に分離し、アルブミン画分とした。
上記残渣に5mlの2M NaClを添加し、上記同様十分かくはんして、遠心分離し、上澄区分をグロブリン画分とした。
その残渣は、5mlのエタノール溶液(70v/v%)を添加し、上記同様十分かくはんして、遠心分離し、上澄区分をプロラミン画分とした。
それぞれのアルブミン、グロブリン、プロラミン画分の溶液は、10mmセルを用いて、280nmの吸光度で各タンパク含量を測定した。
【0032】
【表1】
【0033】
表1より、50℃(pH9.0)では、有機溶剤耐性プロテアーゼ処理により、対照のアルブミン、グロブリン、プロラミン各画分の合計値を100%とすると、約35%のタンパク質が低減されたことになり、温水50℃処理におけるタンパク質の低減(22%)と比較して低減の程度が向上することが見出された。これは有機溶剤耐性プロテアーゼの効果と評価される。なお、70℃を超える温度では糊化が著しく、全体が糊化してタンパク質の測定ができなかった。したがって、プロテアーゼの耐熱性からは、5〜120℃の温度が選定できるが、操作面からは20〜70℃が好ましい。
【0034】
検討例2
次に、有機溶剤存在下での有機溶剤耐性プロテアーゼ処理による米粒中のタンパク質、脂質及び穀物臭の低減に検討を加えた。
試料として、検討例1と同様の90%精白米を使用した。
下記表2に示すように、第1段階では、水系又は有機溶剤系の100mM ホウ酸緩衝液(pH9.0)5mlを使用し、有機溶剤耐性プロテアーゼで処理する場合には有機溶剤耐性プロテアーゼ(プロテアーゼPFUS)3.75単位を使用した。
10gの90%精白米を表2に示した系へ添加し、全体を脱気後、50℃で15時間浸漬した。この状態を第1段階とすると、次の第2段階では、第1段階で有機溶剤を用いた場合には、当該有機溶剤を除き、新しく表2のとおり、有機溶剤耐性プロテアーゼ0.75単位を含むか又は含まない、また、70v/v%エタノール25mlを含むか含まない100mM ホウ酸緩衝液(pH9.0)に置き替えて、再び50℃で6時間、第1段階と合せると合計21時間処理した。
タンパク質画分の定量は検討例1同様に行ったが、プロラミン画分を分離した残渣に、更に5mlの0.2w/v%NaOHを添加し、前記同様十分かくはん抽出後、遠心分離し、残渣と上澄に分離し、上澄液をオリゼニン画分とした。
【0035】
【表2】
【0036】
次に、米粒成分について、一般的な主要成分を第三回改正国税庁所定分析法注解に従い分析した結果を表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
表3より、有機溶剤含有アルカリ液存在下で、有機溶剤耐性プロテアーゼを米粒に作用させることにより、米粒中のタンパク質及び粗脂質は顕著に低減され、清酒の35%吟醸用精白米の水準と同等以下となった。しかも、米粒の穀物臭も除去されていた。
更に、表3より、有機溶剤系−有機溶剤系の酵素処理の場合、それら成分の低減効果は顕著で、デンプン価に対する粗タンパク質の比を計算すると、デンプンの比率が大であり、35%吟醸用精白米より低い値であった。
また、有機溶剤系−有機溶剤系の酵素処理をしない場合も、粗タンパク質含量は低減し、デンプン価に対する粗タンパク質の比は35%吟醸用精白米に近くなった。このように、35%吟醸用精白米に匹敵する粗脂質やタンパク質量にするよう、温度(20〜70℃)や時間(1時間〜48時間)を適宜組合せて達成することができる。また、目的に応じて目標の穀物中のタンパク質や脂質を設定することができる。
【0039】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
なお、実施例1及び実施例6は、本発明の参考例として示した例である。
【0040】
実施例1
精米歩合95%、1kgの粳精白米に、検討例2の有機溶剤存在下で有機溶剤耐性プロテアーゼを作用させない条件(実験区8)で処理し、調製した。
対照は精米歩合90%を用い、常法により、常温で井水浸漬を24時間行ったものを調製した。それぞれの調製した処理米及び通常の浸漬米を各々同様に十分に井水で洗浄、水切り後、100℃蒸気で30分間蒸し、蒸し米を得た。それらの蒸し米の官能特性を評価し、その結果を表4に示した。
【0041】
【表4】
【0042】
表4に示すごとく、本発明の95%精白処理米の蒸し米は、対照の90%精白米に比べ、味が淡白で、米特有の香りも穏やかで、味が全体にあっさりとした食味であった。
【0043】
実施例2
精米歩合95%の450gの粳精白米を、検討例2の有機溶剤存在下で、有機溶剤耐性プロテアーゼ処理したもの(実験区7)、対照として精米歩合90%の450gの粳精白米を十分洗浄した後、各々に水を加えて、合計1150gとして、市販の電気炊飯器で炊飯した。
得られた炊飯米について官能検査した結果、本発明の処理米を用いた飯米は、95%精白にもかかわらず、対照に比べ香りは穏やかで、味は淡泊で、柔らかくふっくらした食味・食感のものが得られた。
【0044】
実施例3
実施例1と同様に、精米歩合90%の450gの粳精白米を有機溶剤耐性プロテアーゼ処理したもの(実験区7)、及びしないもの(実験区8)、対照1として精米歩合90%の粳精白米、対照2として精米歩合35%の粳精白米を掛米として用い、100℃の蒸気で30分間蒸した。
麹は、75%粳精白米を用い、常法に従って調製し、下記の表5に示す仕込配合で清酒を試醸した。すなわち、15℃で、21日間発酵を行い上槽した。
上槽後の清酒の分析結果を表6に示す。
【0045】
【表5】
【0046】
【表6】
【0047】
表6より、本発明品は対照1に比べアミノ酸度は顕著に低下し、対照2とほぼ同等となった。
また、清酒中の鉄含量については、本発明品は対照1の半量以下で、対照2と同等であった。したがって、本発明により鉄分の清酒への移行が防止され、清酒の酒質としてもより好ましいものとなった。
これらの清酒は、20人のパネラーにより3点法(1点:良−3点:不良)で官能検査を行った。
【0048】
【表7】
【0049】
表7より、本発明品は、対照1に比べ、香り・味共に極めて優れ、吟醸香がほどよく、すっきりした淡麗な酒質で、対照2に近いという評価となった。
【0050】
実施例4
4kgの95%糯精白米を検討例2の水系−有機溶剤系での組合せで、有機溶剤耐性プロテアーゼ処理(実験区5)して、十分洗浄し、水切り後、これを120℃の蒸気で10分蒸した後、水分調整して5.8kg(水分42.0w/w%)の蒸し糯米を得た。
一方、対照として、4kgの95%糯精白米を、20℃で井水中24時間浸漬後、水切りして120℃蒸気で10分間蒸した後、水分調整して5.8kg(水分42.0w/w%)の蒸し糯米を調製した。
麹は、85%精白の粳米2kgを用い、常法に従って処理し、100℃蒸気で20分間蒸し、市販の黄麹種もやしを蒸し米当り0.1w/w%接種して、30℃で48時間製麹して、麹2.4kgを得た。
【0051】
【表8】
【0052】
表8に示す配合で醪を調製し、30℃で30日間糖化・熟成した後、小型圧搾機を用い搾汁し、みりんと粕に分離した。そのみりんについて一般的な分析を行った結果を表9に示す。
【0053】
【表9】
【0054】
表9から、本発明の処理した蒸し糯米を用いた場合には、対照の精白米の場合に比べて、全窒素及びアミノ態窒素成分は、95%精白米使用にもかかわらず、80%以下に減少し、みりんの外観も対照がやや茶褐色であるのに対して、消費者に好まれる黄金色に仕上がった。
また、搾汁の収率は、8%以上の増加となった。これは、米粒中のタンパク質が軽減されたことにより、粕中の不溶性残渣が減少し、粕量が少なくなった結果と推定される。
これらのみりんの官能検査を5名のパネラーにより5点法で行った(1:極めて不良、2:不良、3:普通、4:良い、5:極めて良い)。その結果の合計値を表10に示す。
【0055】
【表10】
【0056】
表10より、本発明品は、対照に比べ、95%精白米を用いているにもかかわらず、香りもみりん特有の甘い感じの香気に富み良好で、味も上品な旨味が多く、みりんとしてまったりとした感じに仕上がり、官能評価の総合でも高い値を得た。
【0057】
実施例5
90%粳精白米を用い、実施例1と同様に処理米(実験区7)を調製し、それを蒸して蒸し糯米(水分38w/w%)を得た。
一方、対照1として、90%粳精白米を、対照2として、35%粳精白米を用い、井水浸漬し、100℃で30分間蒸して、蒸し米水分を38.0w/w%に調製した。
米麹は、70%精白の粳米を用い、一般的な焼酎用麹調製法に従って調製して用いた。
これらの原料を表11に示す配合で醸造した。麹菌は焼酎麹菌を使用した。
【0058】
【表11】
【0059】
醸造においては、一次仕込後、5日間30℃で発酵を行い、6日目に二次仕込を行い、引き続き30℃で、8日間発酵を継続し、計13日間発酵させた。
得られた醪の分析値を表12に示す。
【0060】
【表12】
【0061】
表12に示すごとく、熟成醪中のアミノ酸度は、本発明品は対照1に比べ、半分以下であり、対照2に比べても幾分低い値になっている。
次いで、これらの熟成醪を減圧ポットスチルで蒸留し、中間区分を分取し、官能検査を行った。パネラー5名(5点:良〜1点:不良)で行った結果を表12に併記した。
表12の官能評価においても本発明品は、対照1に比べて吟醸香が多く味にも優れており、蒸留液中の酢酸イソアミルやカプロン酸エチル含量もほぼ2倍含有されている。また、本発明品は対照2と比較しても、ほぼ同水準の香気成分の含有と官能評価の結果が得られた。
【0062】
実施例6
ライ麦及びコーンを、実施例1の処理条件(実験区8)と同様にして処理した処理ライ麦、及び処理コーンを得た。これを十分に洗浄、水切り後、60℃で24時間乾燥し、水分10w/w%になるように乾燥した。対照は無処理のライ麦及びコーンを用い、水分を処理物と同様になるように調製した。
それぞれの穀物を使用し、酵素剤を用いて糖化し、その糖化液を発酵・蒸留して焼酎を調製した。焼酎の糖化液の仕込配合を表13に示す。
【0063】
【表13】
【0064】
糖化は60℃、18時間行った。
酒母の調製として、得られた糖化液0.7リットルに、井水0.35リットルを加え、焼酎酵母を接種し、30℃で36時間振とう培養した。得られた酒母0.7リットルを糖化液6.3リットルへ添加し、25℃で5日間発酵して、熟成醪を調製した。処理ライ麦及びコーンを用いた熟成醪は、対照の無処理穀物の醪に比べ、エステル香が豊富で、穀物に由来するライ麦臭やコーン臭等の悪い臭いが著しく軽減されていた。
醪を、単式蒸留機で蒸留し、得られた粗留液のアルコール濃度を25v/v%に調製して25%焼酎を得た。
表14に焼酎の成分分析値を示す。
【0065】
【表14】
【0066】
表14に示すごとく、処理したライ麦及びコーンを用いた焼酎には、エステル類が対照に比べて多く含有され、更に、穀物に由来するライ麦臭やコーン臭等の穀物臭のない製品となり、上品な香味を有する焼酎が得られる。
【0067】
【発明の効果】
以上述べてきたように、本発明の製造方法によれば、穀物を有機溶剤含有アルカリ液中で有機溶剤耐性プロテアーゼを作用させて物理的精白をすることなく、精白に伴ってデンプンが損失することなく、タンパク質、脂質及び穀物臭が低減された処理穀物を得ることが、効率よく簡便に可能となるので、経済的にもコスト低減が図れる。
また、これらの処理穀物を用いることによって香味的に優れた食品又は飲料を提供することができる。
Claims (4)
- 穀物を有機溶剤含有アルカリ液中、有機溶剤耐性で、かつ95℃においてタンパクを分解する活性を有しているプロテアーゼで処理することを特徴とするタンパク質及び脂質が低減された処理穀物の製造方法。
- 有機溶剤がエタノールであることを特徴とする請求項1記載の処理穀物の製造方法。
- 有機溶剤含有アルカリ液がpH7超〜11であることを特徴とする請求項1又は2記載の処理穀物の製造方法。
- 処理温度が20〜70℃であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の処理穀物の製造方法。
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