JP3551685B2 - シュウ酸ジアリールの製法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、シュウ酸ジアルキルとフェノール類(特にフェノール)を出発原料として、第1反応蒸留塔で『シュウ酸ジアルキルとフェノール類とのエステル交換反応』を行わせ、次いで第2反応蒸留塔で『シュウ酸アルキルアリールの不均化反応』を行わせた後、得られた反応液を蒸留装置で蒸留操作することによって、シュウ酸ジフェニル(ジフェニルオキサレート:以下、DPOとも略記する)等のシュウ酸ジアリール(ジアリールオキサレート)を連続的に製造する方法に係わる。
【0002】
即ち、本発明は、(A)第1反応蒸留塔で、エステル交換触媒の存在下に、副生する脂肪族アルコールを蒸発させて除去しながら、シュウ酸ジアルキルとフェノール類とのエステル交換反応を行わせ、(B)第2反応蒸留塔で、前記触媒の存在下に、副生するシュウ酸ジアルキルを蒸発させて除去しながらシュウ酸アルキルアリールの不均化反応を行わせ、(C)蒸留装置(蒸留プロセス)で、前記不均化反応による反応液を蒸留操作して(蒸留するか又は蒸発させて)、シュウ酸ジフェニル等のシュウ酸ジアリールを回収することによって、シュウ酸ジアリールを連続的に製造する方法に係わる。
【0003】
本発明におけるシュウ酸ジアルキルとフェノール類とのエステル交換反応、及びシュウ酸アルキルアリールの不均化反応によりシュウ酸ジアリール(特にシュウ酸ジフェニル)を連続的に製造する方法は、全く新規なシュウ酸ジアリール(特にシュウ酸ジフェニル)の工業的な製法である。
シュウ酸ジフェニルなどのシュウ酸ジアリールは、化学薬品等の製造において工業的に極めて重要な原料である。
【0004】
【従来の技術】
シュウ酸ジアリールの製法としては、従来、シュウ酸とフェノール類をエステル化触媒の存在下に有機溶剤中で100〜130℃に加熱して直接エステル化反応させてシュウ酸ジアリールを製造する方法(特公昭52−43826号公報)、シュウ酸ジアルキルと炭酸ジアリールを反応させてシュウ酸ジアリールを製造する方法(特公昭56−8019号公報、特開昭49−42621号公報)、あるいはシュウ酸ジアルキルと低級脂肪酸アリールエステルをエステル交換反応させてシュウ酸ジアリールを製造する方法(特公昭56−2541号公報、特公昭57−47658号公報)が知られていた。
【0005】
しかし、シュウ酸とフェノール類を直接エステル化反応させてシュウ酸ジアリールを製造する方法は、反応速度が極めて遅いために反応に長時間を要するという問題を有しており、工業的な見地から満足すべき方法ではなかった。
また、シュウ酸ジアルキルと炭酸ジアリール又は低級脂肪酸アリールエステルとを反応させてシュウ酸ジアリールを製造する方法は、原料である炭酸ジアリールや低級脂肪酸アリールエステルを簡単に製造することができないという問題、原料がかなり高価であるために原料を入手すること自体が困難であるという問題、及び目的物の他に種々の副生物が多量に生成してシュウ酸ジアリールを単離するには極めて煩雑又は複雑な精製工程が必要であるという問題を有していて、必ずしも工業的に満足できる方法ではなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、前記の公知の製法が有していた種々の問題(生産性がよくないこと、種々の副生物を生成することなど)を実質的に有していないシュウ酸ジアリールの工業的な製法を見出すために鋭意研究した結果、シュウ酸ジアルキルとフェノール類を出発原料として、副生物の脂肪族アルコールを除去しながらエステル交換反応を行い、次いで、副生物のシュウ酸ジアルキルを除去しながらシュウ酸アルキルアリールの不均化反応を行って、得られた反応液を蒸留操作することにより、シュウ酸ジアリールを連続的に製造できることを初めて見出して本発明を完成した。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(A)エステル交換触媒の存在下に、脂肪族アルコールを蒸発させて除去しながら、シュウ酸ジアルキルとフェノール類とのエステル交換反応を行わせてシュウ酸アルキルアリールを生成させ、(B)前記触媒の存在下に、シュウ酸ジアルキルを蒸発させて除去しながら、そのシュウ酸アルキルアリールの不均化反応を行わせてシュウ酸ジアリールを生成させ、(C)前記不均化反応によって得られた反応液を蒸留操作してシュウ酸ジアリールを回収することを特徴とするシュウ酸ジアリールの製法に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明では、(A)工程で、次に示される反応式(1)及び(2)に従って、シュウ酸ジアルキル(a)とフェノール類(b)とのエステル交換反応が起こって、シュウ酸アルキルアリール(c−1)、シュウ酸ジアリール(c−2)、及び脂肪族アルコール(d)が生成する。
そして、(B)工程で、反応式(3)に従ってシュウ酸アルキルアリール(c−1)の不均化反応が起こって、シュウ酸ジアリール(c−2)とシュウ酸ジアルキル(a)が生成する。これらの(A)工程及び(B)工程の反応は液相で行うことが好ましい。
【0009】
【化1】
【0010】
なお、(A)工程では反応式(1)〜(3)の反応が全て起っているが、主として反応式(1)のエステル交換反応により、シュウ酸アルキルアリール(c−1)と脂肪族アルコール(d)が生成する。また、(B)工程でも反応式(1)〜(3)の反応が全て起っているが、主として反応式(3)の不均化反応により、シュウ酸ジアリール(c−2)とシュウ酸ジアルキル(a)が生成する。
【0011】
反応式(1)、(2)、及び(3)において、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示し、Arは炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシ基のような種々の置換基を有してもよいフェニル基を示す。
Rで示される炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル、エチル、n−又はi−プロピル、n−又はi−ブチル、n−又はi−ペンチル、n−ヘキシル、n−オクチル等のアルキル基を挙げることができる。
Arが有する置換基である炭素数1〜6のアルキル基も上記のRで示されるアルキル基を挙げることができる。また、Arが有する置換基である炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n−又はi−プロポキシ、n−ブトキシ等のアルコキシ基を挙げることができる。
【0012】
前記の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−又はi−プロパノール、n−又はi−ブタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール等の炭素数1〜10の脂肪族アルコールを挙げることができる。
【0013】
本発明において、例えば、シュウ酸ジメチル(ジメチルオキサレート)とフェノールを原料として使用した場合には、主として、反応式(1)に従ってシュウ酸メチルフェニル(メチルフェニルオキサレート)とメタノールが生成し、次いで反応式(3)に従ってシュウ酸ジフェニルとシュウ酸ジメチルが生成する。また、反応式(2)に従ってシュウ酸ジフェニル(ジフェニルオキサレート)とメタノールも生成する。
【0014】
従って、この場合、(A)工程及び(B)工程の反応液は、原料及び触媒の他に、反応中間体であるシュウ酸メチルフェニルや目的物であるシュウ酸ジフェニル、そして副生物であるメタノールやシュウ酸ジメチルを含有することになり、その他の副生物は極めて微量である。このため、(B)工程の反応液を蒸留操作することによって、目的物のシュウ酸ジフェニルを極めて容易に分離・回収することができる。
【0015】
本発明は、概略、図1〜3に示されるようなシュウ酸ジアリールの製造装置を用いて実施することができる。
図1に示される製造装置は、例えば、多段蒸留塔からなる第1反応蒸留塔1及び第2反応蒸留塔10と蒸留装置の蒸留塔20を備えている。そして、この装置では、第1反応蒸留塔の底部の缶液の抜き出しライン7によって第1反応蒸留塔1と第2反応蒸留塔10が連結されていて、第2反応蒸留塔の底部の缶液の抜き出しライン17によって第2反応蒸留塔10と蒸留塔20が連結されている。
【0016】
図2に示される製造装置では、図1の蒸留装置である蒸留塔20が『第2蒸留塔20』となり、第2反応蒸留塔10と該第2蒸留塔20の間に、『蒸発器30』と『第1蒸留塔40』が組み込まれて蒸留装置(蒸留プロセス)が形成されている。
この装置では、蒸発器30において反応生成物及び未反応物を含む混合液を蒸発させることにより、反応生成物及び未反応物とエステル交換触媒を含有する高沸物とが実質的に分離され、そして、第1蒸留塔40においてこの反応生成物及び未反応物を含む混合液からシュウ酸アルキルアリールとフェノール類を主成分とする留分を除去することにより、高濃度のシュウ酸ジアリールが分離・回収される。
【0017】
図3に示される製造装置では、図1の蒸留装置である蒸留塔20が『第2蒸留塔20』となり、第2反応蒸留塔10と該第2蒸留塔20の間に、『第1蒸留塔40』が組み込まれて蒸留装置(蒸留プロセス)が形成されている。
この装置では、第1蒸留塔40において反応液からシュウ酸アルキルアリールとフェノール類を主成分とする留分を除去することにより、高濃度のシュウ酸ジアリールが分離・回収される。
【0018】
本発明の好ましい態様としては、(A)シュウ酸ジアルキル、フェノール類、及びエステル交換触媒を第1反応蒸留塔へ供給して、その第1反応蒸留塔で、脂肪族アルコールを主成分とする第1蒸気を頂部から抜き出して回収しながら、シュウ酸ジアルキルとフェノール類とのエステル交換反応を前記触媒の存在下で行わせ、(B)第1反応蒸留塔の底部から前記エステル交換反応による反応液を抜き出して第2反応蒸留塔へ供給し、その第2反応蒸留塔で、シュウ酸ジアルキルを含む第2蒸気を頂部から抜き出して回収しながら、シュウ酸アルキルアリールの不均化反応を前記触媒の存在下で行わせ、(C)第2反応蒸留塔の底部から前記不均化反応による反応液を抜き出して蒸留塔などの蒸留装置(蒸留プロセス)へ供給し、その蒸留塔で反応液の蒸留操作を行い、蒸留塔からシュウ酸ジアリールを含む蒸気を抜き出して回収する、シュウ酸ジアリールの製法を挙げることができる。
【0019】
本発明では、(A)工程の第1反応蒸留塔として、副生する低沸点生成物である脂肪族アルコールを反応液から直ちに蒸発させて除去しながら、シュウ酸ジアルキル(シュウ酸アルキルフェニルも含む)とフェノール類とのエステル交換反応を行うことができるものであれば、どのような反応蒸留塔を使用しても差し支えない。第1反応蒸留塔としては、特に、副生する脂肪族アルコールを蒸発させて除去しながら液相状態の反応液中でエステル交換反応を行うことができるものが好ましく、例えば、図1〜3に示されるような連続多段蒸留塔からなる反応蒸留塔1を好適に挙げることができる。
【0020】
本発明の(A)工程では、例えば、図1〜3に示されるような多数の棚段2を有する多段蒸留塔からなる第1反応蒸留塔1の内部(特に、第1反応蒸留塔1の棚段2の設置された部分あるいは充填材の充填された部分)で、エステル交換触媒の存在下に、前記の反応式(1)で示されるエステル交換反応を主として行わせながら(反応式(2)で示されるエステル交換反応と反応式(3)で示される不均化反応も同時に行わせながら)、副生する脂肪族アルコールを主成分として含む第1蒸気(低沸点生成物)を蒸発させて第1反応蒸留塔1の頂部から抜き出すことが好ましい。そして、その反応蒸留塔1の頂部に連結している抜き出しラインに設けた冷却器4経由でその第1蒸気を凝縮させて、凝縮液(主として脂肪族アルコール)を抜き出しライン6から系外へ除去することが好ましい。その際、必要であれば、凝縮液を循環ライン9で第1反応蒸留塔1の棚段部分の上部へ還流させることができる(還流比は0〜20、好ましくは0〜10である)。
【0021】
前記の第1反応蒸留塔は、理論段数が少なくとも2段以上、特に5〜100段、更には7〜50段である多段蒸留塔型の反応蒸留塔であることが好ましい。
多段蒸留塔型の反応蒸留塔としては、例えば、泡鐘トレイ、多孔板トレイ、バルブトレイなどを用いた棚段式蒸留塔形式のもの、あるいはラシヒリング、レッシングリング、ポールリングなどの各種充填物を充填した充填式蒸留塔形式のものを使用することができ、更に棚段式及び充填式を併せもつ反応蒸留塔も使用することができる。
【0022】
本発明に使用される原料及び触媒は、原料供給ライン5から、第1反応蒸留塔の棚段部分又は充填材部分、即ち、カラムの上部の区域、好ましくは『カラムの最下部から全段数の1/4程度上がった部分』から『カラムの最上部から全段数の1/20程度下がった部分』の区域内、更に好ましくは『カラムの中央部』から『カラムの最上部から全段数の1/10程度下がった部分』の区域内へ液相状態で供給される。
【0023】
本発明では、前述のようにして第1反応蒸留塔1のカラムの上部に原料及び触媒を供給して、その原料混合液(又は反応液)をカラムの下方へ流下させながら各段で主として前記エステル交換反応を行わせることによって、第1反応蒸留塔1の底部にシュウ酸アルキルアリールを高濃度で含有する(シュウ酸ジアリールも一部含有する)反応液を蓄積させることができる。そして、副生する脂肪族アルコールは、各段で蒸発させて蒸気相としてカラムの上方に導かれ、カラムの上方に行くに従って、脂肪族アルコールを高濃度で含有する第1蒸気となるように分留されて、反応液から分離・除去される。
【0024】
図1〜3に示される第1反応蒸留塔1では、原料(シュウ酸ジアルキル、フェノール類、及びエステル交換触媒)の溶液を供給するための『原料供給ライン5』がカラムの上部に連結されている。このように原料を第1反応蒸留塔1のカラムの上部に供給することにより、反応液が塔1のカラムを流下する際に前記エステル交換反応を充分に効果的に行わせることができる。
【0025】
図1〜3の第1反応蒸留塔1において、反応液の加熱は、反応蒸留塔1の底部に蓄積した反応液を循環ライン8で循環させながら、循環ライン8に設けた加熱器3で該反応液を加熱することによって行われる。そして、生成物のシュウ酸アルキルアリールを主として含有する(シュウ酸ジアリールも一部含有する)反応液は第1反応蒸留塔1の抜き出しライン7から系外へ抜き出されて、次に設けられた第2反応蒸留塔へ供給される。
【0026】
本発明の(A)工程において、エステル交換反応が第1反応蒸留塔1で液相状態の反応液を流下させながら行われる場合、その反応温度は各原料及び反応生成物を含有している反応液が溶融する温度以上であって、しかも生成物であるシュウ酸アルキルアリール(及びシュウ酸ジアリール)が熱分解しないような温度であることが好ましい。即ち、本発明では、前記のエステル交換反応における反応温度は約50〜350℃、特に100〜300℃、更には120〜280℃程度であることが好ましい。
【0027】
そして、(A)工程におけるエステル交換反応の反応圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれであってもよいが、副生物である脂肪族アルコールを蒸発させることができる圧力であることが好ましい。例えば、反応温度が約50〜350℃であれば、反応圧力は0.01mmHg〜100kg/cm2 、特に0.1mmHg〜50kg/cm2 程度であることが好ましい。
【0028】
また、(A)工程におけるエステル交換反応の反応時間(多段蒸留塔からなる反応蒸留塔を用いた場合には第1反応蒸留塔内での反応液の滞留時間)は、反応条件や反応蒸留塔の形式及び操作条件などによって異なるが、反応温度が約50〜350℃であれば、約0.01〜50時間、特に0.02〜10時間、更には0.03〜5時間程度であることが好ましい。
【0029】
本発明では、(B)工程の第2反応蒸留塔として、シュウ酸ジアルキルを含む第2蒸気を抜き出しながら、シュウ酸アルキルアリールの不均化反応を前記触媒(エステル交換触媒)の存在下で行わせることができるものであれば、どのような反応蒸留塔を使用してもよい。第2反応蒸留塔としては、特に、副生するシュウ酸ジアルキルを蒸発させて除去しながら液相状態の反応液中で前記の不均化反応を行うことができるものが好ましく、例えば、図1〜3に示されるような連続多段蒸留塔からなる反応蒸留塔10が好適に挙げられる。
【0030】
本発明の(B)工程では、例えば、図1〜3に示される複数の棚段12を有する多段蒸留塔からなる第2反応蒸留塔10の内部(特に、第2反応蒸留塔10の棚段12の設置された部分あるいは充填材の充填された部分、即ち、カラムの区域)で、前記触媒(エステル交換触媒)の存在下に、前記の反応式(3)で示される不均化反応を行わせながら(反応式(2)で示すエステル交換反応と反応式(1)で示されるエステル交換反応も同時に行わせながら)、副生するシュウ酸ジアルキルを主成分として含む第2蒸気を第2反応蒸留塔10の頂部から抜き出すことが好ましい。そして、その第2蒸気は反応蒸留塔10の頂部から抜き出しライン16経由で系外へ除去することが好ましい。その際、必要であれば、抜き出しラインに冷却器を設けて第2蒸気を凝縮させ、凝縮液(主としてシュウ酸ジアルキル)を第2反応蒸留塔10のカラムの上部へ還流させることもできる(還流比は0〜20、好ましくは0〜10である)。
【0031】
本発明では、前述の(B)工程において、第2反応蒸留塔の頂部から抜き出されたシュウ酸ジアルキルを含む第2蒸気は、抜き出しライン16経由で第1反応蒸留塔のカラムの区域へ供給して循環・再使用することが好ましい。
【0032】
前記の第2反応蒸留塔は、理論段数が少なくとも2段以上、特に3〜100段、更には5〜50段である多段蒸留塔型の反応蒸留塔であることが好ましい。
このような多段蒸留塔型の反応蒸留塔としては、第1反応蒸留塔における場合と同じような棚段式蒸留塔あるいは充填式蒸留塔を使用することができ、更に棚段式及び充填式を併せもつ反応蒸留塔も使用することができる。
【0033】
本発明では、第1反応蒸留塔1の底部から反応液を抜き出して第2反応蒸留塔10へ供給するための『抜き出しライン7』は、第2反応蒸留塔10の棚段部分又は充填材部分、即ち、カラムの上部の区域、好ましくは『カラムの最下部から全段数の1/4程度上がった部分』から『カラムの最上部から全段数の1/30程度下がった部分』の区域内、更に好ましくは『カラムの中央部』から『カラムの最上部から全段数の1/20程度下がった部分』の区域内へ連結されている。このように、第1反応蒸留塔1の底部からの反応液を抜き出しライン7経由で液相状態で第2反応蒸留塔10のカラムの上部へ供給することにより、その反応液が第2反応蒸留塔10のカラムを流下する際に、前記のシュウ酸アルキルアリールの不均化反応を充分に効果的に行わせることができる。
【0034】
本発明では、前述のようにして第2反応蒸留塔10のカラムの上部に第1反応蒸留塔1の底部から抜き出された反応液を供給して、その反応液をカラムの下方へ流下させながら、各段で前記の不均化反応を行わせることによって、第2蒸留反応塔10の底部にシュウ酸ジアリールを高濃度で含有する反応液を蓄積させることができる。そして、副生するシュウ酸ジアルキル(脂肪族アルコールも一部含有する)は、各段で蒸発させて蒸気相としてカラムの上方に導かれ、カラムの上方に行くに従ってシュウ酸ジアルキルを高濃度で含有する第2蒸気(脂肪族アルコールも一部含有する)となるように分留されて、反応液から分離・除去される。
【0035】
図1〜3に示される第2反応蒸留塔10において、反応液の加熱は、第2反応蒸留塔10の底部に存在する反応液を循環ライン18で循環させながら、循環ライン18に設けた加熱器13で該反応液を加熱することによって行うことができる。そして、生成物のシュウ酸ジアリールを主として含有する反応液は第2反応蒸留塔10の底部から抜き出しライン17経由で系外へ抜き出されて、次の(C)工程の蒸留塔20等の蒸留装置(蒸留プロセス)へ供給される。
【0036】
本発明の(B)工程において、不均化反応が第2反応蒸留塔で液相状態の反応液を流下させながら行われる場合、その反応温度は各原料及び反応生成物を含有している反応液が溶融する温度以上であって、しかもシュウ酸アルキルアリール及び目的物であるシュウ酸ジアリールが熱分解しないような温度であることが好ましい。即ち、本発明では、前記の不均化反応における反応温度は約50〜350℃、特に100〜300℃、更には140〜280℃程度であることが好ましい。
【0037】
そして、(B)工程における不均化反応の反応圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれであってもよいが、副生物であるシュウ酸ジアルキルを含む第2蒸気を第2反応蒸留塔の頂部から蒸発させることができる圧力とすることが好ましい。例えば、反応温度が約50〜350℃であれば、反応圧力は0.01mmHg〜100kg/cm2 、特に10mmHg〜10kg/cm2 程度であることが好ましい。
【0038】
また、(B)工程における不均化反応の反応時間(多段蒸留塔からなる反応蒸留塔を第2反応蒸留塔として用いた場合にはその反応液の滞留時間)は反応条件や反応蒸留塔の形式及び操作条件などによって異なるが、反応温度が約50〜350℃であれば、約0.01〜50時間、特に0.02〜10時間、更には0.03〜5時間程度であることが好ましい。
【0039】
本発明の(B)工程における第2反応蒸留塔の底部から抜き出される反応液は、次の(C)工程の蒸留装置へ供給されてその蒸留装置における蒸留塔で蒸留される。そして、その蒸留塔からシュウ酸ジアリールを主成分とする蒸気が抜き出されてシュウ酸ジアリールが回収される。得られたシュウ酸ジアリールは、シュウ酸アルキルアリールやフェノール類を含有していることがあるので、必要であれば、更に精製用の蒸留塔に供給して精留することによって、高純度のシュウ酸ジアリールとすることができる。
【0040】
本発明の(C)工程において、蒸留装置としては、第2反応蒸留塔の底部から得られた反応液を蒸留するか又は蒸発させることによって、シュウ酸ジアリールを主成分とする第3蒸気を得ることができるものであれば、どのような形式の蒸留装置を使用してもよく、例えば、複数の蒸留塔を組み合わせてもよく、蒸発器と蒸留塔を併用してもよい。そのような蒸留装置としては、例えば、第2反応蒸留塔の底部から抜き出された反応液を蒸留し、触媒を含有する高沸物を分離して高濃度のシュウ酸ジアリールを含有する反応液を得ることができると共に、高温の熱履歴によるシュウ酸ジアリールの分解が起こらないような蒸留装置が好ましい。
【0041】
(C)工程における蒸留装置として、具体的には、図1に示されるような連続多段蒸留塔からなる蒸留塔20(図1に示されていないが、更に蒸留塔20と精製蒸留塔とが組み合わされてもよい)、図2に示されるような第2反応蒸留塔10に連結している蒸発器30と連続多段蒸留塔からなる第1蒸留塔40と連続多段蒸留塔からなる第2蒸留塔20とがそれぞれ連結されているもの、及び図3に示されるような第2反応蒸留塔10に連結している連続多段蒸留塔からなる第1蒸留塔40と連続多段蒸留塔からなる第2蒸留塔20とが連結されているものなどを好適に挙げることができる。
【0042】
本発明の(C)工程では、例えば、図1に示されるように、5段以上の理論段を有する蒸留塔(充填塔又は棚段塔)からなる蒸留塔20の内部(特に、蒸留塔20の充填材の充填された部分あるいは棚段22の設置された部分)で、第2反応蒸留塔10の底部から抜き出された反応液の蒸留を行って、シュウ酸ジアリールを含む(シュウ酸ジアリールが高濃度に濃縮されている)第3蒸気を蒸留塔20の中段から抜き出しライン25経由で抜き出すことが好ましい。その際、塔頂から抜き出される蒸気は、蒸留塔20の頂部に連結している抜き出しラインに設けた冷却器24で凝縮させて、その凝縮液を循環ライン29で蒸留塔20の上部へ還流させると共に(還流比は0〜20、好ましくは0〜10である)、冷却器24で凝縮させた凝縮液(シュウ酸アルキルアリールなどの低沸物を含有する)として抜き出しライン26から系外へ抜き出すことが好ましい。
【0043】
図1に示される蒸留塔20による蒸留操作において、蒸留塔20の底部には、エステル交換触媒及び高沸物を主成分とする液(釜残)が蓄積されるので、抜き出しライン27から系外へ除去することが好ましい。このとき、釜残はそのまま第1反応蒸留塔及び/又は第2反応蒸留塔へ供給されるか、あるいはエステル交換触媒の回収、更に必要であればその再生が行われて、触媒成分のみが同様に供給される。
【0044】
図1に示される蒸留塔20において、前記反応液(缶液)の加熱は、蒸留塔20の底部に存在する前記反応液(缶液)を循環ライン28で循環させながら、循環ライン28に設けた加熱器23で加熱することによって行うことができる。(C)工程において、蒸留塔20の缶液の温度は、生成物の熱劣化を小さくするために、約50〜350℃、特に140〜280℃、更には180〜250℃程度であることが好ましい。
【0045】
(C)工程において、蒸留塔20での蒸留操作は、減圧、常圧、加圧のいずれで行ってもよいが、熱劣化を小さくできる温度で、かつ目的物のシュウ酸ジアリールを主成分として蒸留塔の中段から得ることができる圧力とすることが好ましい。即ち、缶液の温度は上記のように約50〜350℃であることが好ましく、それに従って、圧力は0.1mmHg〜5kg/cm2 、特に1mmHg〜1kg/cm2 程度であることが好ましい。
【0046】
本発明の(C)工程において、蒸留塔20から抜き出されたシュウ酸ジアリールを含む(シュウ酸ジアリールが高濃度に濃縮されている)第3蒸気は、冷却・凝縮されて凝縮液として回収されるが、必要であれば、更に水洗浄及び/又は精製蒸留塔による精製蒸留などによって精製して不純物を除去してもよい。
【0047】
本発明の(C)工程で用いられる蒸留装置の蒸発器は、シュウ酸ジアリール及びシュウ酸アルキルアリールを含む反応生成物を大部分蒸発させて、これらを触媒成分及び高沸物と分離できるものであれば、どのようなタイプの蒸発器であってもよく、例えば、図2に示されるような蒸発器30が好適に挙げられる。
蒸発器30においては、第2反応蒸留塔10の底部からライン17経由で抜き出された反応液を供給するために、ヒーター31で覆われている蒸発器30に抜き出しライン17が連結されている。そして、蒸発器30では、そのヒーター31による加熱によって反応液から反応生成物及び未反応原料を蒸発させて得られる蒸気混合物が、その頂部から抜き出されて供給ライン33経由で第1蒸留塔40へ供給される。また、触媒成分及びシュウ酸ジアリール以外の高沸物を含む釜残は蒸発器30の底部から抜き出しライン34経由で抜き出される。
【0048】
図2に示される第1蒸留塔40では、蒸発器30で得られた蒸気混合物が5段以上の理論段を有する蒸留塔(充填塔又は棚段塔)からなる第1蒸留塔40の蒸留部分(充填材の充填された部分あるいは棚段42の設置された部分)へ供給されて蒸留が行われる。即ち、第1蒸留塔40の頂部からシュウ酸アルキルアリールとフェノールを主成分とする蒸気が抜き出され、この蒸気がそのまま抜き出しライン46経由で抜き出されるか、又は冷却器44で冷却・凝縮されて得られた凝縮液がライン49経由で第1蒸留塔40へ循環されると共に、凝縮液の一部が抜き出しライン46経由で抜き出される。一方、第1蒸留塔40の底部からは、シュウ酸ジアリールが高濃度に濃縮された液が抜き出しライン47経由で抜き出されて、第2蒸留塔20へ供給される。
【0049】
図2に示される第1蒸留塔40の頂部から得られた前記の蒸気又はその凝縮液は、主としてシュウ酸アルキルアリールとフェノール類を含有しており、シュウ酸アルキルアリールの不均化反応に供するために、抜き出しライン46経由で第2反応蒸留塔10のカラムの区域へ供給して、循環・再使用することが可能である。
【0050】
図2に示される第1蒸留塔40では、缶液の加熱は、缶液を循環ライン48で循環させながら、その循環ラインの途中に設けた加熱器43で加熱することによって行われる。缶液の温度は50〜300℃、特に80〜250℃程度、更には100〜230℃程度であることが好ましい。
【0051】
図2に示される第1蒸留塔40での蒸留操作は、減圧、常圧、加圧のいずれの条件で行ってもよいが、シュウ酸アルキルアリールを主成分として第1蒸留塔の頂部から蒸発させることができる圧力とすることが好ましい。例えば、缶液の温度が約50〜350℃であれば、圧力は0.1mmHg〜2kg/cm2 、特に1mmHg〜1kg/cm2 程度であることが好ましい。
【0052】
図2に示されるように、第1蒸留塔40の底部から抜き出されたシュウ酸ジアリールを主成分とする缶液は、抜き出しライン47経由で第2蒸留塔20へ供給される。そして、図1における蒸留操作と実質的に同様に蒸留されて第2蒸留塔20の頂部からシュウ酸ジアリールを高濃度で含有する第3蒸気として抜き出され、冷却器24で冷却・凝縮されて凝縮液(シュウ酸ジアリールを95重量%以上の濃度で含有する)として抜き出しライン26経由で回収される。抜き出しライン27からは釜残が抜き出される。
【0053】
図2に示される蒸留装置で回収された第2蒸留塔20の凝縮液は、高純度(約95重量%以上、特に98%重量以上)のシュウ酸ジアリールとなっているが、更に、水洗浄及び/又は精製蒸留塔による精製蒸留などを行うことによってその凝縮液から不純物を除去して、99.0重量%以上、特に99.5重量%以上の高純度のシュウ酸ジアリールとすることができる。
【0054】
図3に示される蒸留装置は、図2における蒸留装置から蒸発器30が除かれた構成になっているのみである。この蒸留装置では、図3における第1蒸留塔40及び第2蒸留塔20を図2の蒸留塔と同様に操作して、その第2蒸留塔20の頂部からシュウ酸ジアリールを高濃度で含有する凝縮液を得ることができる。
【0055】
本発明の(A)工程で使用されるシュウ酸ジアルキルとフェノール類の割合は触媒の種類及び量ならびに反応条件によって変わるが、フェノール類が、例えば、供給原料中のシュウ酸ジアルキルに対して0.01〜1000モル倍、特に0.1〜100モル倍、更には0.5〜20モル倍程度であることが好ましい。
【0056】
本発明の(A)工程及び(B)工程で使用されるエステル交換触媒の量は、触媒の種類、反応装置(例えば、多段の反応蒸留塔)の形式及びサイズ、各原料の種類及び組成比、更にエステル交換反応及び不均化反応の反応条件によって異なるが、例えば、シュウ酸ジアルキル及びフェノール類の合計量に対する割合で表して約0.0001〜50重量%、特に0.001〜30重量%、更には0.005〜10重量%程度であることが好ましい。
【0057】
本発明の(A)工程及び(B)工程におけるエステル交換反応及び不均化反応の反応条件は特に限定されるものではないが、例えば、反応温度が約50〜350℃で、反応圧力が0.001mmHg〜200kg/cm2 であって、反応時間が約0.001〜100時間程度であればよい。
【0058】
本発明で使用されるシュウ酸ジアルキルとしては、炭素数1〜10、特に炭素数1〜6、更には炭素数1〜4であるアルキル基に基づくエステル基を2個有するシュウ酸ジエステルが好ましい。具体的には、例えば、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジプロピル、シュウ酸ジブチル、シュウ酸ジヘキシル、シュウ酸ジオクチル、シュウ酸メチルエチルなどが好適に挙げられる。
【0059】
本発明では、前記のシュウ酸ジアルキルの中でも、アルキル基の炭素数が1〜4程度であるシュウ酸ジアルキルが、エステル交換反応において副生する脂肪族アルコールを容易に除去できることから好適である。特に、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジプロピル、シュウ酸ジブチルが最も好ましい。
【0060】
本発明で使用されるフェノール類としては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子などの置換基を少なくとも1個有していてもよいフェノール類が挙げられるが、中でも好ましいものとしてフェノールを挙げることができる。
フェノール以外のフェノール類としては、o−、m−又はp−クレゾール、キシレノール(ジメチルフェノール)、ジプロピルフェノール、メチルエチルフェノール、トリメチルフェノール、テトラメチルフェノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、ヘキシルフェノール等の炭素数1〜6のアルキル基を有するアルキルフェノール類、o−、m−又はp−ヒドロキシアニソール、エトキシフェノール等の炭素数1〜6のアルコキシ基を有するアルコキシフェノール類、p−クロロフェノール、3,5−ジブロモフェノール等のハロフェノール類、o−、m−又はp−ニトロフェノール等のニトロフェノール類などを挙げることができる。
【0061】
本発明で使用されるエステル交換触媒としては、シュウ酸ジアルキルとフェノール類とのエステル交換反応、シュウ酸アルキルフェニルの不均化反応、及びシュウ酸アルキルフェニルとフェノール類とのエステル交換反応により、シュウ酸アルキルアリールやシュウ酸ジアリールを生成しうるものであれば、いかなるエステル交換触媒でも使用することができる。
【0062】
本発明では、エステル交換触媒として、例えば、公知のカルボン酸エステルとアルコール類とのエステル交換反応に使用されるエステル交換触媒であって、本発明で使用される原料であるシュウ酸ジアルキルやフェノール類の溶融液、またそれらの原料及び/又は生成物の反応混合液などに対して可溶性であるエステル交換触媒が好ましい。
【0063】
本発明では、前記エステル交換触媒の具体例として、(1)アルカリ金属化合物、カドミウム化合物、又はジルコニウム化合物、(2)鉛化合物、(3)鉄化合物、(4)銅族金属の化合物、(5)亜鉛化合物、(6)有機スズ化合物、及び(7)アルミニウム化合物、チタン化合物、又はバナジウム化合物、からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を挙げることができる。
【0064】
前記の(1)アルカリ金属化合物、カドミウム化合物、又はジルコニウム化合物としては、例えば、炭酸リチウム、ジブチルアミノリチウム、アセチルアセトナトリチウム等のアルカリ金属化合物、ビスアセチルアセトナトカドミウム等のカドミウム化合物、テトラキスアセチルアセトナトジルコニウム、ジルコノセン等のジルコニウム化合物などを挙げることができる。
【0065】
前記の(2)鉛化合物としては、例えば、硫化鉛、水酸化鉛、亜ナマリ酸塩、鉛酸塩、鉛の炭酸塩又はその塩基性塩、有機酸の鉛塩及びその炭酸塩や塩基性塩、更にテトラブチル鉛、テトラフェニル鉛、トリブチル鉛ハロゲン、トリフェニル鉛ブロム、トリフェニル鉛等のアルキル鉛化合物、ジメトキシ鉛、メトキシフェノキシ鉛、ジフェノキシ鉛等のアルコキシ又はアリール鉛化合物等などを挙げることができる。
【0066】
前記の(3)銅族金属の化合物としては、例えば、酢酸銅、ビスアセチルアセトナト銅、オレイン酸銅等の銅の有機酸塩、ブチル銅、ジメトキシ銅等のアルキル又はアリール銅化合物、ハロゲン化銅等のハロゲン化銅、及び硝酸銀、臭化銀、ピクリン酸銀等の銀化合物などを挙げることができる。
前記の(4)鉄化合物としては、例えば、水酸化鉄、炭酸鉄、トリアセトキシ鉄、トリメトキシ鉄、トリフェノキシ鉄などの鉄化合物を挙げることができ、
前記の(5)亜鉛化合物としては、例えば、ビスアセチルアセトナト亜鉛、ジアセトキシ亜鉛、ジメトキシ亜鉛、ジエトキシ亜鉛、ジフェノキシ亜鉛などを挙げることができる。
【0067】
前記の(6)有機スズ化合物としては、例えば、(C6 H5 )4 Snや、Sn(OCOCH3 )4 、(C4 H9 )2 Sn(OCOCH3 )2 、(CH3 )3 Sn(OCOCH3 )、(C2 H5 )3 Sn(OCOCH3 )、(C4 H9 )3 Sn(OCOCH3 )、(C6 H5 )3 Sn(OCOCH3 )等のスズのアセトキシ錯体や、Sn(OCH3 )4 、Sn(OC2 H5 )4 、Sn(OC6 H5 )4 、(C4 H9 )2 Sn(OCH3 )2 、(C6 H5 )2 Sn(OCH3 )2 、(C4 H9 )2 Sn(OC2 H5 )2 、(C4 H9 )2 Sn(OC6 H5 )2 、(C6 H5 )3 Sn(OCH3 )、(C2 H5 )3 Sn(OC6 H5 )等のスズのアルコキシ錯体や、(CH3 )3 Sn(OCOC6 H5 )、(C4 H9 )2 SnO、(C4 H9 )SnO(OH)、(C2 H5 )3 Sn(OH)、(C6 H5 )3 Sn(OH)、(C4 H9 )2 SnCl2 などを挙げることができる。
【0068】
前記の(7)アルミニウム化合物としては、例えば、AlX3 (但し、Xはハロゲン原子を示す)、Al(OCOCH3 )3 、Al(OCH3 )3 、Al(OC2 H5 )3 、Al(OC4 H9 )3 、Al(OC6 H5 )3 などを挙げることができ、前記のチタン化合物としては、例えば、TiX3 (但し、Xはハロゲン原子を示す)、Ti(OCOCH3 )3 、Ti(OCH3 )3 、Ti(OC2 H5 )3 、Ti(OC4 H9 )3 、Ti(OC6 H5 )3 、TiX4 (但し、Xはハロゲン原子を示す)、Ti(OCOCH3 )4 、Ti(OCH3 )4 、Ti(OC2 H5 )4 、Ti(OC4 H9 )4 、Ti(OC6 H5 )4 などを挙げることができ、そして、前記の(7)バナジウム化合物としては、例えば、VOX3 (但し、Xはハロゲン原子を示す)、VO(OCOCH3 )3 、VO(OCH3 )3 、VO(OC2 H5 )3 、VO(OC6 H5 )3 、VX5 (但し、Xはハロゲン原子を示す)などを挙げることができる。
【0069】
これら公知のエステル交換触媒は、本発明のシュウ酸ジアルキルとフェノール類とのエステル交換反応、シュウ酸アルキルアリールの不均化反応、及びシュウ酸アルキルアリールとフェノール類とのエステル交換反応を触媒して、シュウ酸アルキルアリール及びシュウ酸ジアリールを生成しうるものである。本発明で使用されるエステル交換触媒としては、前記のリチウム化合物、ジルコニウム化合物、有機スズ化合物、チタン化合物が好ましく、特に有機スズ化合物あるいはチタン化合物が最適である。
【0070】
【実施例】
以下に本発明の実施例を具体的に例示する。
実施例1
第1反応蒸留塔として、1L容のボトムフラスコを備えたオールダーショー(内径32mm、段数50段)を用い、このオールダーショーの上から12段目に、フェノール61.2重量%、シュウ酸ジメチル38.5重量%、テトラフェノキシチタン0.3重量%を含有する溶液を300ml/hrで供給した。そして、ボトムフラスコをマントルヒーターで190℃に加熱し、塔頂部からの蒸気を冷却器で凝縮して還流比2で抜き出しながら、エステル交換反応を行った。
塔の状態が安定した時点(供給開始から5時間後)で塔底液(反応液)の組成をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、シュウ酸ジフェニル6.74重量%、シュウ酸メチルフェニル26.76重量%、シュウ酸ジメチル23.45重量%、フェノール42.62重量%であった。なお、塔底液の抜き出し量は約306g/hrであった。塔頂からは、メタノール99.7重量%、シュウ酸ジメチル0.3重量%の組成の液を約24g/hrで抜き出した。
【0071】
実施例2
第2反応蒸留塔として実施例1と同様のオールダーショーを用い、このオールダーショーの上から12段目に、実施例1で得られた反応液を300ml/hrで供給した。そして、ボトムフラスコをマントルヒーターで230℃に加熱し、塔頂部からの蒸気を冷却器で凝縮して、還流することなく抜き出しながら、不均化反応を行った。
塔の状態が安定した時点(供給開始から5時間後)で塔底液(反応液)の組成をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、シュウ酸ジフェニル53.22重量%、シュウ酸メチルフェニル25.81重量%、シュウ酸ジメチル2.37重量%、フェノール17.14重量%であった。なお、塔底液の抜き出し量は約132g/hrであった。塔頂部からは、メタノール2.32重量%、シュウ酸ジメチル43.75重量%、フェノール50.16重量%、シュウ酸メチルフェニル3.64重量%、シュウ酸ジフェニル0.13重量%の組成の液を約189g/hrで抜き出した。
【0072】
実施例3
蒸留装置(第1蒸留塔)として、ヘリパック(5×5mm)を充填したガラス製蒸留塔(内径20mm、長さ2m)を用い、この塔の上から80cmの位置に、実施例2で得られた塔底液(反応液)を100ml/hrで供給した。そして、缶液温度135℃、塔頂圧力10mmHg、還流比2で連続で蒸留を行って、塔頂部からシュウ酸ジメチル5.63重量%、フェノール30.43重量%、シュウ酸メチルフェニル61.48重量%、シュウ酸ジフェニル2.46重量%の組成の液を約47g/hrで抜き出した。塔底部からは、塔底液(純度97.9重量%のシュウ酸ジフェニル)を58g/hrで抜き出した。
【0073】
蒸留装置(第2蒸留塔)として前記と同様のガラス製蒸留塔を用い、この塔の上から80cmの位置に、前記の塔底液を100ml/hrで供給した。そして、缶液温度180℃、塔頂圧力10mmHg、還流比2で連続で蒸留を行って、塔頂部からシュウ酸ジフェニル99.7重量%以上の組成の液を約90g/hrで抜き出した。塔底部からは、テトラフェノキシチタンを約15重量%含有する液を約15g/hrで抜き出した。なお、テトラフェノキシチタンは原子吸光法により分析した。
【0074】
実施例4
蒸留装置として、ヘリパック(5×5mm)を充填したSUS製蒸留塔(内径30mm、高さ3m)を用い、この塔の上から1mの位置に、実施例2で得られた塔底液(反応液)を100ml/hrで供給した。そして、缶液温度198℃、塔頂圧力10mmHg、還流比0.5で連続で蒸留を行って、塔頂部からシュウ酸ジメチル6.38重量%、フェノール30.84重量%、シュウ酸メチルフェニル62.78重量%の組成の液を44ml/hrで抜き出した。
また、塔底から50cmの位置よりシュウ酸ジフェニルの蒸気を連続で抜き出し、コンデンサーを通して、純度99.2重量%のシュウ酸ジフェニルを55g/hrで得た。塔底部からは、テトラフェノキシチタンを含有する液を約5g/hrで抜き出した。
【0075】
実施例5
圧力20mmHgに減圧した回転薄膜式蒸発器(伝熱面積0.1m2 )に、実施例2で得られた塔底液(反応液)を100ml/hrで供給し、熱媒で蒸発器を200℃に加熱して、シュウ酸ジメチル、フェノール及びシュウ酸メチルフェニルを連続で蒸発させた。
そして、得られた蒸気を実施例3と同様の蒸留塔(第1蒸留塔)の上から80cmの位置に供給し、実施例3と同様にして連続で蒸留を行って、蒸留塔の頂部からシュウ酸ジメチル6.52重量%、フェノール31.50重量%、シュウ酸メチルフェニル61.95重量%の組成の液を43ml/hrで抜き出した。蒸留塔の塔底部からは、塔底液(純度99.6重量%のシュウ酸ジフェニル)を約50g/hrで抜き出した。また、蒸発器の底部から、テトラフェノキシチタンを約20重量%含有する液を約7g/hrで抜き出した。
【0076】
蒸留装置(第2蒸留塔)として実施例3と同様のガラス製蒸留塔を用い、この塔の上から80cmの位置に、前記の塔底液を100ml/hrで供給した。そして、缶液温度178℃、塔頂圧力10mmHg、還流比2で連続で蒸留を行って、塔頂部からシュウ酸ジフェニル99.9重量%以上の組成の液を約98g/hrで抜き出した。塔底部からは、高沸物を含有する液を約7g/hrで抜き出した。
【0077】
実施例6
実施例1において、実施例2の第2反応蒸留塔の塔頂部から得られた少量のメタノールを含むシュウ酸ジメチルとフェノールの溶液を供給して反応を行った。即ち、実施例1において、第1反応蒸留塔の上から12段目に、フェノール72.4重量%、シュウ酸ジメチル27.0重量%、テトラフェノキシチタン0.6重量%を含有する溶液を143ml/hrで供給し、塔の上から15段目に、メタノール2.3重量%、フェノール47.0重量%、シュウ酸ジメチル45.2重量%の溶液を170ml/hrで同時に供給したほかは、実施例1と同様にエステル交換反応を行った。
その結果、塔底液(反応液)の組成はシュウ酸ジフェニル6.71重量%、シュウ酸メチルフェニル26.51重量%、シュウ酸ジメチル23.63重量%、フェノール42.75重量%であった。なお、塔底液の抜き出し量は約307g/hrであった。塔頂からは、メタノール99.7重量%、シュウ酸ジメチル0.3重量%の組成の液を約24g/hrで抜き出した。
【0078】
実施例7
実施例2において、実施例1で得られた反応液300ml/hrに加えて、実施例3で第1蒸留塔の塔頂部から得られたシュウ酸メチルフェニルを含む液50ml/hrを第2反応蒸留塔の上から5段目の位置に供給したほかは、実施例2と同様に不均化反応を行った。
その結果、塔底液(反応液)の組成はシュウ酸ジフェニル53.38重量%、シュウ酸メチルフェニル25.92重量%、シュウ酸ジメチル2.22重量%、フェノール17.76重量%であった。なお、塔底液の抜き出し量は約154g/hrであった。塔頂部からは、メタノール2.35重量%、シュウ酸ジメチル43.84重量%、フェノール50.16重量%、シュウ酸メチルフェニル3.78重量%、シュウ酸ジフェニル0.14重量%の組成の液を約220g/hrで抜き出した。
【0079】
【発明の効果】
本発明は、(A)シュウ酸ジアルキル(特にシュウ酸ジメチル)とフェノール類(特にフェノール)とのエステル交換反応、及び(B)シュウ酸アルキルアリールの不均化反応により、化学反応において重要であるシュウ酸ジアリール(特にシュウ酸ジフェニル)を生成させ、更に(C)蒸留装置(蒸留プロセス)でその反応液を蒸留することにより、シュウ酸ジアリールを工業的に連続的に製造する方法を初めて提供するものである。
本発明の製法では、副生物が実質的に脂肪族アルコールのみであるため、公知のシュウ酸ジアリールの製法と比較して副生物の種類が少なく、目的物であるシュウ酸ジアリールの分離・回収などが容易であり、しかも工業的に連続して大規模にシュウ酸ジアリールを生産することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製法を実施するための反応装置の一例を示す。
【図2】本発明の製法を実施するための反応装置の他の一例を示す。
【図3】本発明の製法を実施するための反応装置の更に他の一例を示す。
【符号の説明】
1:第1反応蒸留塔
2、12、22、42:棚段
3、13、23、43:加熱器
4、24、44:冷却器
5:原料供給ライン
6:(第1蒸気の凝縮液の)抜出しライン
7:(反応液の)抜出しライン
8:(反応液の)循環ライン
9:(第1蒸気の凝縮液の)循環ライン
10:第2反応蒸留塔
16:(第2蒸気の)抜出しライン
17:(反応液の)抜出しライン
18:(反応液の)循環ライン
20:蒸留塔(第2蒸留塔)
25:(第3蒸気の)抜出しライン
26:抜出しライン(但し、図2、3では第3蒸気の抜出しライン)
27:(釜残の)抜出しライン
28:(缶液の)循環ライン
29:(凝縮液の)循環ライン
30:蒸発器
31:ヒーター
34:(釜残の)抜出しライン
40:蒸留塔(第1蒸留塔)
46:抜出しライン
47:(缶液の)抜出しライン
48:(缶液の)循環ライン
49:(凝縮液の)循環ライン
Claims (3)
- (A)シュウ酸ジアルキル、フェノール類、及びエステル交換触媒を、棚段部分又は充填材部分を有する第1反応蒸留塔へ供給して、その第1反応蒸留塔で、脂肪族アルコールを含む第1蒸気を頂部から抜き出しながら、シュウ酸ジアルキルとフェノール類とのエステル交換反応を前記触媒の存在下で行わせてシュウ酸アルキルアリールを生成させ、
(B)第1反応蒸留塔の底部から前記エステル交換反応による反応液を抜き出して、棚段部分又は充填材部分を有する第2反応蒸留塔へ供給し、その第2反応蒸留塔で、シュウ酸ジアルキルを含む第2蒸気を頂部から抜き出して第1反応蒸留塔へ供給して循環使用しながら、そのシュウ酸アルキルアリールの不均化反応を前記触媒の存在下で行わせてシュウ酸ジアリールを生成させ、
(C)第2反応蒸留塔の底部から前記不均化反応による反応液を抜き出して蒸発器へ供給し、その蒸発器で反応液を蒸発させ、次いでその蒸発成分を第1蒸留塔へ供給し、その第1蒸留塔で蒸留操作を行って頂部からシュウ酸アルキルアリールを含む蒸気を抜き出し、その蒸気又は凝縮液を棚段部分又は充填材部分を有する第2反応蒸留塔の棚段部分又は充填材部分へ供給して循環使用すると共に、第1蒸留塔の底部からシュウ酸ジアリールを含む缶液を抜き出して第2蒸留塔へ供給し、その第2蒸留塔で蒸留操作を行って第2蒸留塔からシュウ酸ジアリールを含む第3蒸気を抜き出して回収することを特徴とするシュウ酸ジアリールの製法。 - (A)工程において、シュウ酸ジアルキル、フェノール類、及びエステル交換触媒を、それぞれ別々に又は混合液で棚段部分又は充填剤部分を有する第1反応蒸留塔の棚段部分又は充填剤部分へ供給することを特徴とする請求項1記載のシュウ酸ジアリールの製法。
- エステル交換触媒が、(1)アルカリ金属化合物、カドミウム化合物、又はジルコニウム化合物、(2)鉛化合物、(3)鉄化合物、(4)銅族金属化合物、(5)亜鉛化合物、(6)有機スズ化合物、及び(7)アルミウム化合物、チタン化合物、又はバナジウム化合物、からなる群から選ばれた少なくとも一種のエステル交換反応触媒であることを特徴とする請求項1記載のシュウ酸ジアリールの製法。
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