JP3549920B2 - ワックス組成物およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ワックス組成物、特に、自動車用ワックス、家具用ワックス、皮革用ワックスなどとして用いられるワックス組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ワックスは、自動車ボディ、木製品、皮革などの表面に塗布されて磨かれることにより、それらの表面の摩擦抵抗を低減して潤滑性を高め、表面における光沢を高めて外観を向上させる働きを有する。ワックスは、また、水をはじくことにより、下地に水が浸透して錆、カビ、汚れを生じさせるのを防ぐ働きも有している。
【0003】
従来のワックスとしては、カルナバワックス等の植物系天然ワックス、みつろう等の動物系天然ワックス、パラフィンワックス等の石油系天然ワックス、モンタンワックス等の鉱物系天然ワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス、高級脂肪酸ワックス、高級脂肪族アルコール、高級脂肪酸または高級脂肪族アルコールの合成エステルが知られている。
【0004】
これら従来ワックスは、塗布される下地の表面潤滑性と外観を向上させるものの、摩擦抵抗の低減、および、光沢と耐摩耗性の向上が不十分である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
光沢に優れたワックスは、たとえば、パラフィンワックスやカルナバワックスのような低軟化点の天然ワックスであるが、そのような天然ワックスは耐摩耗性に劣っている。
耐摩耗性に優れたワックスは、たとえば、ポリエチレンワックスやポリプロピレンワックスのような高軟化点の合成ワックスであるが、そのような合成ワックスは光沢が低い。
【0006】
そこで、発明者は、低軟化点の天然ワックスと高軟化点の合成ワックスとを含むワックス組成物を検討したが、光沢と耐摩耗性の両方に優れたワックス組成物は得られなかった。
本発明の課題は、表面潤滑性、光沢および耐摩耗性がすべて優れているワックス組成物を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のワックス組成物は、下記一般式(1)および(2)で示される繰り返し単位から選ばれる少なくとも1つを80〜100重量%の範囲で有する長側鎖含有重合体と前記長側鎖含有重合体の変性物とから選ばれる少なくとも1つの重合体ワックス(A)と、天然ワックスと前記重合体ワックス(A)以外の合成ワックスとから選ばれる少なくとも1つのワックス(B)(以下、「従来のワックス」と言う)とを含む。
【0008】
【化3】
【0009】
【化4】
【0010】
上記一般式(1)において、R1 、R2 、Dは、それぞれ次のとおりである。R1 は、HまたはCH3 である。R2 は、炭素数15〜30の脂肪族炭化水素基である。Dは、
【0011】
【化5】
【0012】
から選ばれる2価の基のいずれかである。なお、ここでの表示では、上記Dの右側にR2 が結合する。ここで、R3 は、2価の有機基、典型的には炭素数2〜30の、脂肪族、脂環式または芳香族の炭化水素基などである。
上記一般式(2)において、R4 は、H、または、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基;R5 は、H、または、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基であり、R4 とR5 の少なくとも1つが炭素数15〜30の脂肪族炭化水素基である。
【0013】
本発明のワックス組成物の製造方法は、下記一般式(3)で示される長側鎖含有ビニル系単量体および下記一般式(4)で示される長側鎖含有マレイン酸系単量体から選ばれる少なくとも1つの長側鎖含有単量体を80〜100重量%の範囲で有する単量体成分をラジカル重合することにより長側鎖含有重合体からなる重合体ワックス(A)を得た後、
該重合体ワックス(A)と、天然ワックスと前記重合体ワックス(A)以外の合成ワックスとから選ばれる少なくとも1つのワックス(B)とを混合する、ワックス組成物の製造方法である。
【化5】
【化6】
上記一般式(1)で示される繰り返し単位は、上記一般式(3)で示される長側鎖含有ビニル系単量体に由来し、上記一般式(2)で示される繰り返し単位は、上記一般式(4)で示される長側鎖マレイン酸系単量体に由来する。
本発明のワックス組成物はワックスを含み、含まれているワックスの合計量に対して10〜90重量%、好ましくは10〜70重量%、より好ましくは10〜50重量%が上記重合体ワックス(A)であり、残部が重合体ワックス(A)以外の従来のワックスである。重合体ワックス(A)の量が前記範囲を下回ると、表面潤滑性と光沢が向上しないか、または、硬度が向上しないという問題があり、前記範囲を上回ると従来のワックスの有する耐久性、密着性、耐候性、撥水性、撥油性、平滑性および防汚性の少なくとも1つが低下するという問題がある。
【0014】
本発明で使用される重合体ワックス(A)は、長側鎖含有重合体およびその変性物からなる群から選ばれる少なくとも1つであり、通常、常温で固体の物質である。重合体ワックスは、重量平均分子量1万〜100万が好ましく、重量平均分子量5万〜50万がより好ましい。重量平均分子量が1万よりも小さいと硬度が低すぎるおそれがあり、100万よりも大きいと表面潤滑性が低すぎるおそれがある。
【0015】
前記長側鎖含有重合体は、上記一般式(1)および(2)で示される繰り返し単位から選ばれる少なくとも1つを80〜100重量%の範囲、好ましくは90〜100重量%の範囲で有する。前記繰り返し単位が前記範囲を下回ると、ワックスとしての性能が不充分となり、滑り性や撥水性が低下するという問題がある。この重量割合においては、繰り返し単位からなる分子鎖末端の基の分子量は計算に入れていない。一般式(1)と(2)で示される繰り返し単位の合計量が80重量%以上、100重量%未満である長側鎖含有重合体は、残部として、後述する長鎖単量体以外の重合性単量体に由来する繰り返し単位を有する。長側鎖含有重合体は、一般式(1)と(2)で示される繰り返し単位のうちの1つの繰り返し単位からなる単一重合体であってもよい。長側鎖含有重合体は、一般式(1)と(2)で示される繰り返し単位、および、必要に応じて含まれる前記残部の繰り返し単位が規則的または不規則に配列していてもよいし、また、同じ繰り返し単位が複数個直接つながってブロック状に配列していてもよい。
【0016】
上記長側鎖含有重合体の変性物は、たとえば、ポリオレフィン系ワックスの存在下に長側鎖含有重合体用単量体成分を重合して得られた生成物、および、ポリオレフィン系ワックスと長側鎖含有重合体とを加熱下に混合して得られた生成物からなる群から選ばれる少なくとも1つである。ポリオレフィン系ワックスは、たとえば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、変性ポリエチレンワックス、変性ポリプロピレンワックスからなる群から選ばれる少なくとも1つである。上記長側鎖含有重合体の変性物において、ポリオレフィン系ワックスの割合は、変性物全体量に対して、たとえば1〜70重量%、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは1〜30重量%である。前記範囲を外れると表面潤滑性、光沢、撥水性が低下するおそれがある。
【0017】
本発明で使用される重合体ワックス(A)は、たとえば、次のようにして製造されるが、製造方法によって限定されるものではない。
上記長側鎖含有重合体は、下記一般式(3)
【0018】
【化6】
【0019】
で示される長側鎖含有ビニル系単量体および下記一般式(4)
【0020】
【化7】
【0021】
で示される長側鎖含有マレイン酸系単量体から選ばれる少なくとも1つの長側鎖含有単量体を必須成分とするワックス用単量体成分をラジカル重合することにより作られる。ラジカル重合は、溶液、塊状、懸濁、乳化のいずれの重合法によって行ってもよい。長側鎖含有重合体は、長側鎖含有重合体が溶解した溶液、あるいは、固体、あるいは、長側鎖含有重合体の固体粒子が媒体中に分散した懸濁液、あるいは、長側鎖含有重合体の溶液粒子が媒体中に分散した乳化液として得られる。これらの反応混合物から未反応単量体や溶剤などの揮発分を除去すれば、長側鎖含有重合体が固体として得られる。
【0022】
前記長側鎖含有ビニル系単量体は、たとえば、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等のごとき炭素数15〜30の高級アルキル(メタ)アクリレート類;ステアリン酸のごとき一塩基性直鎖脂肪酸と、カルボキシル基と付加反応しうる重合性単量体(たとえば、グリシジル(メタ)アクリレート、イソプロペニルオキサゾリン)との付加物;ヤシ油などの植物油の脂肪酸(混合脂肪酸)と前記のごときカルボキシル基と付加反応しうる重合性単量体との付加物;ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコールと、多価イソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する重合性単量体との付加物;ステアリン酸ビニルのごとき高級脂肪酸ビニルエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1つである。好ましい長側鎖含有ビニル系単量体は、撥水性に優れるという理由で、ステアリルアクリレートおよびベヘニル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0023】
前記長側鎖含有マレイン酸系単量体は、たとえば、ステアリルマレエート、ベヘニルマレエート、ジステアリルマレエートなどのごとき炭素数15〜30の高級アルキルマレエート類;ステアリルフマレート、ベヘニルフマレート、ジステアリルフマレートなどのごとき炭素数15〜30の高級アルキルフマレート類からなる群から選ばれる少なくとも1つである。好ましい長側鎖含有マレイン酸系単量体は、撥水性に優れるという理由で、ステアリルマレエート、ベヘニルマレエートおよびステアリルフマレートからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0024】
前記長側鎖含有単量体以外の重合性単量体は、前記長側鎖含有単量体と共重合可能な化合物であれば特に限定はなく、たとえば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸もしくはこれらの半エステルまたはこれらの塩等の不飽和カルボン酸;(メタ)アクリルアミド、N−モノメチル(メタ)アクリルアミド、N−モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N′−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、これらの塩、および、これらの4級化物等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸とポリプロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールとのモノエステル等のヒドロキシル基含有不飽和単量体類;(メタ)アクリル酸−2−スルフォン酸エチル、ビニルスルフォン酸、スチレンスルフォン酸、および、これらの塩等のスルフォン酸基含有ビニル化合物類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ドデシルなどの、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜14のモノアルコールのエステル化により合成される(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルメチルスチレンなどのスチレン類;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエステル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルピロリドンなどの塩基性不飽和単量体類;(メタ)アクリル酸と、エチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどの多価アルコールとのエステルなどの分子内に重合性不飽和基を2個以上有する多官能(メタ)アクリル酸エステル類;ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、トリメトキシシリルプロピルアリルアミンなどの有機珪素基含有不飽和単量体類;イソプロペニルオキサゾリン、ビニルオキサゾリンなどのオキサゾリン基含有不飽和単量体類;グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有不飽和単量体類;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−3−クロロプロピレンなどのハロヒドリン基含有不飽和単量体類;2−アジリジニルエチルメタクリレートなどのアジリジニル基含有不飽和単量体類;2−イソシアナートエチルメタクリレートとエチルアルコールとの反応付加物などのブロック化イソシアネート基含有不飽和単量体類;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのハロゲン化不飽和単量体類;ジビニルベンゼン、ジアリルフタレートなどのエチレン性不飽和基を2個有する不飽和単量体類;酢酸ビニルなどの、飽和カルボン酸のビニルエステル類;(メタ)アクリロニトリル;および、アクロレインからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0025】
【化8】
【0026】
【化9】
【0027】
前記ワックス用単量体成分における長側鎖含有単量体の量は、長側鎖含有重合体を構成する繰り返し単位中に上記一般式(1)と(2)で表される単位が80〜100重量%を占めるように、長側鎖含有単量体の量を設定すればよく、その他の重合性単量体を残部とすればよい。
本発明では、ワックス用単量体成分の円滑な重合の促進のためにラジカル重合開始剤を用いる。ラジカル重合開始剤は従来公知のものであれば何でも使用することができ、油溶性のものおよび水溶性のもののいずれでも使用できる。油溶性重合開始剤は、たとえば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル、2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1′−アゾビス−(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2′−アゾビス−(2−アミジノプロパン)2塩酸塩、4,4′−アゾビス−(4−シアノペンタン酸)などのアゾ化合物類;ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物類からなる群から選ばれる少なくとも1つである。水溶性重合開始剤は、たとえば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素からなる群から選ばれる少なくとも1つである。なお、重合速度を速くするためには、酸化剤型の重合開始剤を必要に応じて還元剤と組み合わせてレドックス系開始剤として使用することもできる。使用される重合開始剤の量は、たとえば、ワックス用単量体成分100重量部あたり0.01〜5重量部の範囲である。ラジカル重合開始剤の添加は、通常のラジカル重合と同様に、適宜の時期に行うことができる。
【0028】
前記ワックス用単量体成分のラジカル重合に使用する重合装置は、従来公知のものを適用することができる。重合温度は、たとえば、0〜200℃、好ましくは50〜150℃、重合時間は、たとえば、1〜15時間である。
上記長側鎖含有重合体の変性物を、ポリオレフィン系ワックスの存在下に長側鎖含有重合体用単量体成分を重合して得る場合には、たとえば、ポリオレフィン系ワックスを適当な溶剤(たとえば、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、クロロホルム、高沸点石油系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの溶剤などの上記重合体ワックスが溶解可能な溶剤)に溶解し、このワックス溶液に対してワックス用単量体成分と重合開始剤を滴下などにより添加してラジカル重合を行うことにより、長側鎖含有重合体の変性物が得られる。ポリオレフィン系ワックスとワックス用単量体成分の量は、たとえば、生成する変性物中に長側鎖含有重合体99〜30重量%、ポリオレフィン系ワックス1〜70重量%の範囲となるように設定される。
【0029】
上記長側鎖含有重合体の変性物を、ポリオレフィン系ワックスと長側鎖含有重合体とを加熱下に混合して得る場合には、たとえば、ポリオレフィン系ワックス、長側鎖含有重合体、重合開始剤を適当な溶剤(たとえば、上記重合体ワックスが溶解可能な溶剤)に溶解し、50〜180℃の加熱攪拌下に反応を行うことにより、長側鎖含有重合体の変性物が得られる。ポリオレフィン系ワックスと長側鎖含有重合体の量は、たとえば、生成する変性物中に長側鎖含有重合体99〜30重量%、ポリオレフィン系ワックス1〜70重量%の範囲となるように設定される。
【0030】
上記重合体ワックスを水性媒体に分散した水性分散体を得る方法は、乳化重合、懸濁重合、強制乳化のいずれかによるが、ワックス用単量体成分の液滴を水性媒体中に分散した状態でラジカル重合するのが好ましい。
上記重合体ワックスを水性媒体に分散させるために用いる分散安定剤としては、公知のアニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の界面活性剤および保護コロイドが例示される。分散安定剤は、低分子化合物でも高分子化合物であってもよい。アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ、ラウリル硫酸ソーダ、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、アルキルフェニルポリオキシエチレンサルフェート(たとえば、ナトリウム塩またはアンモニウム塩)、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体などが挙げられる。両性界面活性剤としては、ラウリルベタインなどが挙げられる。保護コロイドとしては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。これらの分散安定剤は単独で使用しても2種以上併用してもよい。
【0031】
ワックス用単量体成分の液滴を水性媒体中に分散した状態でラジカル重合する方法としては、たとえば、ワックス用単量体成分、ラジカル重合開始剤、水性媒体および分散安定剤を混合して強攪拌を加えることによりワックス用単量体成分を0.5〜30μmの微細液滴の状態で水性媒体中に分散させ、その分散液の状態で重合する(すなわち、懸濁重合する)方法が挙げられる。強攪拌は、たとえば、ワックス用単量体成分、水性媒体、ラジカル重合開始剤および分散安定剤を含む予備分散混合液を高圧ホモジナイザーに導入し、導入された混合液を該高圧ホモジナイザー内において100〜5000kgf/cm2 の高圧下で圧送することにより行われる。
【0032】
このようにして得られた、重合体ワックス(A)の水性分散体を水性分散液のワックス組成物に用いる場合には、そのまま他の成分と混合すればよく、固形のワックス組成物に用いる場合には水性分散体より微粒子状の重合体ワックス(A)を取り出して他の成分と混合する。
本発明で使用される従来のワックス(B)は、上記重合体ワックス(A)以外のワックスであれば特に限定はなく、たとえば、カルナバワックス、キャンデリラワックス、シュガーワックス、ライスワックス、木ロウ、ベイベリーワックス、オーキュリーワックス、エスパルトワックスなどの植物系天然ワックス;みつろう、昆虫ロウ、鯨ロウ、セラックロウ、ラノリンワックス等の動物系天然ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系天然ワックス;モンタンワックス、オゾケライトワックス、セレシン等の鉱物系天然ワックス:ヘキストワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルボワックス、カスターワックス、フィッシャートロプシュワックス(サゾールワックス(南アフリカ共和国サゾール社製)とも言う)等の合成ワックス;高級脂肪酸;高級アルコール;および、高級脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1つである。本発明で好ましく使用される従来のワックスは、表面潤滑性および光沢に優れるという理由で、パラフィンワックス、カルナバワックスおよびモンタンワックスからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0033】
本発明のワックス組成物では、ワックスは、溶剤に溶解しているか、または、固体粒子で存在している。固体粒子は、通常、容積平均粒子径0.5〜30μm、好ましくは容積平均粒子径0.5〜10μm、より好ましくは0.5〜5μmである。容積平均粒子径が前記範囲を外れると表面潤滑性が低下するおそれがある。
【0034】
本発明のワックス組成物は、ワックス以外に、必要に応じて、他の添加剤を含む。他の添加剤は、たとえば、ミネラルスピリット、ケロシン、白灯油、シリコーンオイル、水などの溶剤または分散媒体からなる群から選ばれる少なくとも1つである。
本発明のワックス組成物は、固体、分散体、溶液のいずれであってもよい。
【0035】
固体の場合には、たとえば、重合体ワックス(A)10〜90重量%と従来のワックス(B)90〜10重量%(AとBの合計量は100重量%である)とを加熱溶融して混合したり、粉砕混合したり、溶剤に溶解して混合した後に溶剤を除去したりして作られる。
分散体の場合には、たとえば、重合体ワックス(A)10〜90重量%と従来のワックス(B)90〜10重量%(AとBの合計量は100重量%である)とをそれらが室温では溶解しない有機溶媒に高温で溶解した後、室温まで冷却してワックスが有機溶媒に分散したペースト(分散液)としたり、前記ワックスを溶融状態にし、界面活性剤と水とを混合して強攪拌によりワックスを水中に分散した後に冷却して分散液を作ったりするといった方法などにより作られる。
【0036】
溶液の場合には、たとえば、重合体ワックス(A)10〜90重量%と従来のワックス(B)90〜10重量%(AとBの合計量は100重量%である)とを溶媒に溶解させて作られる。
【0037】
【作用】
本発明のワックス組成物は、上記特定の重合体ワックス(A)と従来のワックス(B)を含むので、従来のワックス(B)だけからなるワックス組成物が光沢と耐摩耗性の両立ができなかったのに比べると、表面潤滑性、光沢および耐摩耗性のすべてが良好である。
【0038】
本発明において、重合体ワックスが、前記長側鎖含有重合体の変性物が、ポリオレフィン系ワックスの存在下に長側鎖含有重合体用重合性単量体成分を重合して得られた生成物、および、ポリオレフィン系ワックスと長側鎖含有重合体を加熱下に混合して得られた生成物からなる群から選ばれる少なくとも1つであると、表面潤滑性、光沢および耐摩耗性がより向上し、更に、硬度も向上する。
【0039】
【実施例】
以下に、この発明の実施例とこの発明の範囲を外れた比較例とを示すが、この発明は下記実施例に限定されない。なお、以下では、特に断りのない限り「%」は「重量%」を、「部」は「重量部」をそれぞれ示すものとする。平均粒子径は容積平均粒子径である。
【0040】
(製造例1)
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えたフラスコにトルエン33部に仕込み、窒素を吹き込みながら80℃まで昇温した。次に、予め用意しておいたステアリルアクリレート80部とベヘニルアクリレート15部とスチレン5部とトルエン33部と2,2′−アゾビスイソブチロニトリル0.4部とからなる重合性単量体溶液を滴下ロートから2時間かけて滴下し、80℃で重合した。滴下終了後、還流状態で2時間熟成を行い、固形分60.2%のトルエン溶液を得た。この溶液をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、残存単量体は検出されず、重合率は100%であった。この溶液について、加水分解ガスクロマトグラフ分析および 1H−NMR分析を行ったところ、次式
【0041】
【化10】
【0042】
で表される単位を81.6重量%、次式
【0043】
【化11】
【0044】
で表される単位を15.3重量%、次式
【0045】
【化12】
【0046】
で表される単位を3.1重量%含む長側鎖含有重合体(ゲルバーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量Mw=4.2×104 )のトルエン溶液であることがわかった。
(製造例2)
製造例1と同様のフラスコにポリプロピレンワックス(三井ハイワックスNP055:三井石油化学(株)製、分子量7000)50部およびトルエン47部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら還流状態まで昇温した。これにより、ポリプロピレンワックスがトルエンに溶解した。次に、予め用意しておいたステアリルアクリレート45部とメチルメタクリレート5部とトルエン20部とベンゾイルパーオキサイド0.4部とからなる重合性単量体溶液を滴下ロートから2時間かけて滴下し、還流温度で重合した。滴下終了後、還流状態で2時間熟成を行った。室温まで冷却して、長側鎖含有重合体の変性物(長側鎖含有重合体とポリオレフィン系ワックスのグラフト体と推定される)が平均粒子径1〜2μmの粒子となってトルエン中に分散したペースト(固形分60.0%)を得た。この変性物のペーストについて、ガスクロマトグラフ分析を行ったところ、残存単量体は検出されず、重合率は100%であった。この変性物のペーストについて、加水分解ガスクロマトグラフ分析および 1H−NMR分析を行ったところ、次式
【0047】
【化13】
【0048】
で表される単位を45.5重量%、次式
【0049】
【化14】
【0050】
で表される単位を4.0重量%含み、ポリプロピレンワックスに由来する単位を50.5%含む重合体(GPCによる重量平均分子量Mw=2.5×104 )のペーストであることがわかった。
(製造例3)
製造例1と同様のフラスコにトルエン33部を仕込み、窒素を吹き込みながら80℃まで昇温した。次に、予め用意しておいたステアリルアクリレート30部とトルエン66部と2,2′−アゾビスイソブチロニトリル0.4部とからなる重合性単量体溶液を滴下ロートで2時間かけて滴下し、80℃で重合した。滴下終了後、還流状態で2時間熟成を行った。続いてポリプロピレンワックス(三井ハイワックスNP055:三井石油化学(株)製、分子量7000)70部およびベンゾイルパーオキサイド0.15部をフラスコに添加し、還流温度で2時間反応させた。反応混合物を室温まで冷却して、長側鎖含有重合体の変性物(長側鎖含有重合体とポリオレフィン系ワックスのグラフト体と推定される)が平均粒子径1〜2μmの粒子となってトルエン中に分散したペースト(固形分60.4%)を得た。この変性物のペーストについて、ガスクロマトグラフ分析を行ったところ、残存単量体は検出されず、重合率は100%であった。この変性物のペーストについて、加水分解ガスクロマトグラフ分析および 1H−NMR分析を行ったところ、次式
【0051】
【化15】
【0052】
で表される単位を30%含み、ポリプロピレンワックスに由来する単位を70%含む重合体(GPCによる重量平均分子量Mw=7.7×104 )のペーストであることがわかった。
(比較製造例1)
製造例1と同様のフラスコにポリエチレンワックス(三井ハイワックス220MP:三井石油化学(株)製、分子量2000、酸価1.0)100部およびトルエン67部を仕込み、窒素を吹き込みながら還流温度まで昇温し、完全溶解させた。この溶液を室温まで冷却して、ポリエチレンワックスが平均粒子径2〜10μmの粒子となってトルエン中に分散したペースト(固形分59.9%)を得た。
【0053】
(実施例1)
製造例1で得られた重合体ワックスのトルエン溶液6.7部、カルナバワックス(野田ワックス株式会社製、融点80〜85℃)16.0部、ミネラルスピリット77.3部を均一になるまで80℃で攪拌混合し、その後、室温まで冷却し、ワックスが粒子径1〜10μmの粒子となって溶媒中に分散した固形分20.0%のワックス組成物を得た。
【0054】
(実施例2)
実施例1において、製造例1で得られた重合体ワックスの代わりに製造例2で得られた重合体ワックスを用いたこと以外は実施例1と同様にして本発明のワックス組成物を得た。
(実施例3)
実施例1において、製造例1で得られた重合体ワックスの代わりに製造例3で得られた重合体ワックスを用いたこと以外は実施例1と同様にして本発明のワックス組成物を得た。
【0055】
(比較例1〜4)
表1に示した配合組成で実施例1と同様の方法で固形分20.0%の比較用ワックス組成物を得た。
【0056】
【表1】
【0057】
上記実施例と比較例で得られたワックス組成物について、表面潤滑性、光沢、耐摩耗性を調べた。試験のためのワックス塗膜は、ワックス組成物をJIS K2236にて調製した塗装板にガーゼを用いて塗り広げ、室温にて15分間乾燥させ、きれいなガーゼで拭き上げを行って作製した。
表面潤滑性は、摩擦係数測定装置により、200gfの荷重をかけてステンレススチールボールを用いて測定した摩擦係数で評価した。
【0058】
光沢は、鏡面光沢度測定装置にて60°鏡面光沢度を5か所測定してその平均値で示した。
耐摩耗性は、S型摩擦試験機を用いて、40回摩擦後の塗膜面を肉眼観察し、下記の基準で評価した。
○:良好(摩擦面に変化のないもの)
△:普通(摩擦面にある程度の変化(キズ、摩耗)があるもの)
×:悪い(摩擦面にかなりの変化(塗膜の消失)があるもの)
結果を表に示した。
【0059】
【表2】
【0060】
表2にみるように、本発明のワックス組成物は、重合体ワックス(A)以外の従来のワックス(B)からなる比較例1や4のものに比べて耐摩耗性が優れている。重合体ワックス(A)の量が本発明で規定する範囲を下回ると比較例2にみるように、耐摩耗性が低下する。重合体ワックス(A)の量が本発明で規定する範囲を上回ると比較例3にみるように、光沢が低下する。
【0061】
【発明の効果】
本発明のワックス組成物は、従来のワックスに比べると、表面潤滑性、光沢および耐摩耗性のすべてが良好であるので、従来のワックスと同じ用途、たとえば、自動車用ワックスなどの表面保護剤、家具用ワックス、皮革用ワックスなどの艶出し剤、紙や布などの仕上げ剤などとして使用され、従来のワックスよりも優れた潤滑性と光沢を有する表面を形成することができる。
【0062】
本発明において、重合体ワックスが、前記長側鎖含有重合体の変性物が、ポリオレフィン系ワックスの存在下に長側鎖含有重合体用重合性単量体成分を重合して得られた生成物、および、ポリオレフィン系ワックスと長側鎖含有重合体を加熱下に混合して得られた生成物からなる群から選ばれる少なくとも1つであると、更に硬度が高く、耐久性に優れる。
Claims (5)
- 重合体ワックス(A)を10〜90重量%、ワックス(B)を90〜10重量%(ただし、(A)と(B)の合計量は100重量%である)含む請求項1に記載のワックス組成物。
- 重合体ワックス(A)が前記長側鎖含有重合体からなる、請求項1または2に記載のワックス組成物。
- ワックス(B)として少なくとも天然ワックスを含む、請求項1から3のいずれかに記載のワックス組成物。
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