JP3549424B2 - 硬質焼結体工具及びその製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
この発明は、ダイヤモンド焼結体または立方晶窒化硼素を含有する硬質焼結体が工具母材に強固かつ高剛性に接合されてなる切削工具、掘削工具、耐摩工具などの硬質焼結体工具とその工具の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
微細なダイヤモンド粒子を鉄族金属等の結合材を用いて超高圧高温下で焼結して得られるダイヤモンド焼結体は、切削工具、伸線ダイス、ドリルビット、耐摩工具の刃先材料として、従来の超硬合金に比べ格段に優れた耐摩耗性を有している。また、微細な立方晶窒化硼素を種々の結合材を用いて焼結した材料は、高硬度の鉄族金属や鋳鉄の切削に対して優れた性能を示す。
【0003】
従来用いられてきた上記硬質焼結体工具の断面図を図5に示す。まず硬質焼結体1は、一体焼結により超硬合金製支持体2に裏打ちされた状態で、ダイヤモンド複合焼結体または立方晶窒化硼素複合焼結体として作製される。この硬質焼結体の超硬合金製支持体2側を、主にAgやCuからなる接合層3を介して、工具母材4にロウ付け接合することにより、図2に示される硬質焼結体工具が得られる。
【0004】
この場合、工具母材へのロウ付け工程において、急速な加熱と冷却がこれら複合焼結体に加えられるために、条件によっては硬質焼結体1と超硬合金製支持体2間の接合界面において、これら材料間の熱膨張差に起因するキレツやワレが発生する場合があった。さらに、切削工具として完成した場合も、硬質焼結体の焼結条件によっては、前記複合焼結体界面の接合強度が不足し、過酷な切削条件下では、切削中に剥離や欠損が発生する場合があり、工具の信頼性の点で問題があった。
【0005】
このような問題を克服するために、例えば特開昭60−85940号公報では、ダイヤモンド焼結体あるいは立方晶窒化硼素焼結体と超硬合金製支持体との接合界面に、TiやZrなどの炭化物・窒化物を形成させることにより、この接合部分の信頼性を向上させることを提案している。しかし、この場合も、結果的には熱膨張差の異なる異種材料を接合した複合焼結体であるために、改善の効果は少なく問題点を解決することはできなかった。
【0006】
一方、硬質焼結体1(ダイヤモンド焼結体または立方晶窒化硼素焼結体)と、超硬合金製支持体2との接合界面をなくすために、超硬合金製支持体2を介さずに硬質焼結体1を、工具母材上に接合させることが考えられている。このような工具構造は、特開昭59−134665号公報、特開昭60−187603号公報、実公昭64−4839号公報、特開平2−274405号公報、特公平3−17791号公報、特開平7−124804号公報、特開平9−108912号公報に示されている。ここでは、予めダイヤモンド焼結体あるいは立方晶窒化硼素焼結体の表面に活性金属層を形成した後に、Ag、Cuを主体とするロウ材により工具母材に接合させるか、あるいはAg−Cu−Ti、Cu−Ti、Ag−Ti、Au−Ta、Au−NbなどAg、Cu、Auなどの軟質金属にTi、Zr、Taなどの活性金属を含む活性ロウ材を用いて、直接工具母材に接合することが開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
これら先行例では多くの場合、主に軟質金属であるAgを主成分とする接合層を介して、ダイヤモンド焼結体あるいは立方晶窒化硼素焼結体が、工具母材上に接合されているために、過酷な切削条件下では接合層の変形による被削材精度の低下や、被削面粗さの悪化、あるいは剛性不足によるびびりの発生、さらには工具刃先の切削熱が、熱伝導率の高いダイヤモンド焼結体や立方晶窒化硼素焼結体を介して、直接接合層に流れ込むために、接合材が流失し工具欠損が発生するなどの問題があった。
【0008】
本発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、ダイヤモンド焼結体または立方晶窒化硼素を含有する硬質焼結体が接合層を介して工具母材上に接合され、この硬質焼結体がワレやキレツを有することなく強固かつ高剛性に接合されてなる硬質焼結体工具を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この発明は、ダイヤモンドまたは立方晶窒化硼素を20容量%以上含有する硬質焼結体が、接合層を介して超硬合金製の工具母材上に接合されている硬質焼結体切削工具にかかるものであって、上記接合層が、TiとZrをそれぞれ15重量%以上、両者の合計で65%以下含み、さらに、それ以外にCuを含んでなることを特徴とする。
【0010】
この発明の好ましい態様は、上記接合層が20〜30重量%のTiと、20〜30重量%のZrを含み、さらに、残部の中にCuを含んでいるものである。
【0011】
この発明のさらに好ましい態様は、上記残部が10〜30重量%のNiを含み、さらにCuと不可避不純物からなるものである。
【0012】
上記接合層の融点が700℃〜1000℃であるものも好ましい。
【0013】
また、上記焼結体の厚みを0.25〜1.5mmにすることや、上記工具母材として超硬合金を用いることも好ましい。
【0014】
【作用】
本発明者らは、ダイヤモンド焼結体または立方晶窒化硼素を含有する焼結体が接合層を介して工具母材上に接合され、この焼結体がワレやキレツを有することなく強固かつ高剛性に接合される接合方法の研究を鋭意行った。
【0015】
その結果、TiとZrをそれぞれ15重量%以上、両者の合計で65重量%以下含み、残部がCuまたはCuを含む組成の接合材料を用いることにより、ダイヤモンド焼結体または立方晶窒化硼素を含有する硬質焼結体を、ワレやキレツの発生なく強固かつ高剛性に工具母材に接合できることを見出した。
【0016】
ここで、接合層の主成分となりうる材料としては▲1▼負荷の高い用途においても接合層の変形が少ないこと▲2▼ダイヤモンド焼結体あるいは立方晶窒化硼素焼結体と、工具母材との接合時において、発生する熱膨張差による歪みを吸収できること、の以上2点が必要となる。
【0017】
従来この用途における接合材では、Agが主成分として用いられてきたが、Agは弾性率が低く、負荷の高い用途では、形成される接合層の変形が大きく、負荷の高い切削工具等には不向きであった。これに対してCuはAgに比べ弾性率が高く、また上記熱膨張差による歪みを吸収することが可能である。このため、本目的における接合材の成分にはCuを含む事が重要であることを見出した。
【0018】
一方、例えば切削工具の場合、切削時に接合部分に高い切削抵抗に加え、切削熱による高温が加わる。このため、接合部分における信頼性を向上させるためには、常温での高い接合強度に加え、高温においても強度低下の少ない耐熱性が必要となる。IVa、Va、VIa族金属はAg、Cuなどに比べ強度が高く、また高温での強度・変形においても優れている。発明者らは、主成分であるCuにこれらの族の金属を添加する事により、接合強度及び高温強度が大幅に優れるロウ材が作製できることを見出した。特にこれら金属の中でもTiおよびZrは、高温強度に加え、高い活性度を有しているために、CuにTiとZrを添加する事により、接合材の濡れ性が著しく改善され、ダイヤモンド焼結体あるいは立方晶窒化硼素焼結体との接合強度が大幅に向上することを見出した。
【0019】
このとき、接合材中に含まれるTiやZrが15重量%未満であれば、接合強度や高温強度の向上効果が生じず、逆に合計で65重量%を超えると、融点の上昇を招き、接合時の歪みやこれに起因するワレが発生しやすくなる。従って、接合材中のTi、Zrの含有量は15〜60重量%の範囲内にあるのが好ましい。
【0020】
さらに、接合材中に含まれるTiの含有量が20〜30重量%であり、かつZrの含有量が20〜30重量%の範囲にあれば、Ti−Zr−Cuの3元共晶による融点降下が顕著に現れ、より低融点での接合が可能になって好ましい。
【0021】
また、前記接合材組成に加え、10〜30重量%の範囲でNiを含む場合には、より耐熱性と腐食性が優れる接合層が形成されることになる。この場合、Niの含有量が10%未満であると、Niを添加することによる高温強度の向上効果が現れず、また30重量%を超える場合には、融点の上昇を招き、接合時の焼結体のワレや歪みの原因となる。従って、接合材中のNiの含有量は10〜30重量%の範囲内にあるのが好ましい。
【0022】
接合材をこの様な組成とすることにより、800℃〜1000℃と比較的低温での接合が可能となる。
【0023】
次に、硬質焼結体を上記組成の接合層により工具母材上に接合するためには、個々には15重量%以上、合計で65重量%以下のTi及びZrと、Cuを含んで成るロウ材、あるいは20〜30重量%のTiと20〜30重量%のZrと残部がCuから成るロウ材、または前記ロウ材組成に加えNiを10〜30重量%含むロウ材を用い、1×10−3〜1×10−6torr程度の真空中またはArなどの不活性ガス雰囲気中で、加熱接合する必要がある。なぜなら、接合加熱中にロウ材に含まれる成分、特にTiとZrの酸化を防ぐ必要があり、そのためには、残留酸素濃度の低い前記真空中あるいは不活性ガス雰囲気中での加熱接合が不可欠である。
【0024】
また、Ag、In、Li、Mn、Zn、Cu、Ti、Zrを含むロウ材やそれに更にNiを加えたロウ材を用い、1×10−4〜1×10−6torr程度の高真空中で加熱接合処理を行う方法でも、蒸気圧の高いAg、In、Li、Mn、Znの成分を蒸発させて、実質的にCu、Ti、Zrからなる接合層やCu、Ti、Zr、Niから成る接合層を形成することができる。この場合、700℃程度のより低い温度での加熱接合処理が可能であり、熱膨張差に起因する問題を少なくすることができる。なお、この方法で形成される接合層も各15重量%以上のTiとZr(合計で65重量%以下)と、Cuから成る組成、あるいは20〜30重量%Tiと20〜30重量%Zrと残部がCuから成る組成、さらに前記組成に加えNiを10〜30重量%含む組成にする。
【0025】
工具母材に接合される硬質焼結体は、従来より広く用いられてきた超硬合金製支持体に裏打ちされたダイヤモンドまたは立方晶窒化硼素を20容量%以上含有する硬質焼結体を用いてもよいが、これは、加熱接合過程において、急速な加熱と冷却がこれら複合体中に加えられるために、条件によっては前記硬質焼結体と工具母材との接合界面においてこれら材料間の熱膨張差に起因するキレツやカケが発生する場合がある。そこで、より信頼性の高い硬質焼結体工具を得るために、裏打ち支持体の無い硬質焼結体を、接合層を介して直接工具母材上に接合するのが好ましい。
【0026】
また、上記のような高剛性で高温強度に優れる接合層を用いても、ダイヤモンド焼結体または立方晶窒化硼素焼結体の厚みが0.25mm未満となった場合には、加工によって工具刃先等に発生した熱が熱伝導率の高いダイヤモンド焼結体や立方晶窒化硼素焼結体を介して大量に接合層部分に流れ込むために、接合層の温度が上昇し、これの変形や、変形に起因する欠損が発生しやすくなる。このため、接合されるダイヤモンド焼結体または立方晶窒化硼素焼結体の厚みは、0.25mm以上必要であることを見いだした。また、ダイヤモンド焼結体または立方晶窒化硼素焼結体の厚みが1.5mmを超えると、切削工具の場合、切れ刃の研磨に要する労力が多大になる。このため、ダイヤモンド焼結体または立方晶窒化硼素焼結体の厚みは、経済性の観点から1.5mm以下であることが望ましい。
【0027】
また、硬質焼結体が接合される工具母材としては、超硬合金、鋼、セラミックス等、加工抵抗に耐えうる強度を有する材料であればどのような材料でも構わない。接合される硬質焼結体との熱膨張差や、材料強度等を考慮に入れた場合、超硬合金が最も好適である。
【0028】
【発明の実施の形態】
図1乃至図4に、この発明の硬質焼結体工具の実施形態を示す。図の工具は、いずれも切削加工を行うスローアウェイチップへの適用例である。
【0029】
図中1は、ダイヤモンドまたは立方晶窒化硼素を20容量%以上含有する硬質焼結体、2は一体焼結により硬質焼結体1に裏打ちされた超硬合金製支持体、3は図1の硬質焼結体や図2の複合焼結体を工具母材4固着する接合層である。この接合層は、ロウ材によって形成される層であり、TiとZrとCu或いはそれ等に更にNiを加えた組成になっている。なお、Ti、Zr、Niの含有量は、本発明で指定した範囲内にある。また、工具母材4として、ここでは超硬合金を用いた。
【0030】
なお、図1、図2の工具は、硬質焼結体1を工具母材4の片面の1コーナにのみ取付けているが、図3のように片面の各コーナ、或いは図4のように両面の各コーナに取付けることもできる。
【0031】
【実施例】
(実施例1)
表1に主に接合層中のTiあるいはZrの含有量が、接合強度や切削性能に及ぼす影響を調べるために準備された種々の接合材の例を示している。
【0032】
【表1】
【0033】
表1における接合材1A〜1Dは、接合材中のCu,TiおよびZrの含有量が種々に変えられている。
【0034】
まず、接合材試料を作製するため、表1に記載される組成を有する接合材粉末を作製し、これを有機溶剤(テルピネオールC10H18O)と混ぜ合わせることにより、ペースト状の接合剤1A〜1Dを得た。立方晶窒化硼素焼結体と超硬合金製工具母材との接合強度の評価を行うために、断面が2.5×2.5mmの四角形形状を有し、長手長さが10mmである棒状の立方晶窒化硼素焼結体と超硬合金製工具母材のサンプルを作製した。そしてこれの断面部分に、前記1A〜1Dの接合材を塗布し、真空中表1の温度にて加熱することにより、断面部分同士の接合を行った。なお、その時の真空度は1×10−5torrであった。その後、1A〜1Dにより接合された試料2A〜2Dは、断面積が2×2mmの四角形状になるように、試料の長手方向4面に研削加工が施された。この試料2A〜2Dの接合部分におけるせん断強度を評価した結果が表2である。
【0035】
【表2】
【0036】
試料2Dは、接合材中のTiおよびZrの含有量が多いために、融点が上昇し高い温度でしか接合材を溶融させることができなかった。このため立方晶窒化硼素焼結体にキレツが発生し、接合強度の測定が不可能であった。
【0037】
これに対して試料2A〜2Cは高い接合強度を有しているが、中でも本発明品の試料2Bと2Cは、TiおよびZrの含有率が高いために、接合材部分からの破壊が起こりにくく、高い接合強度を有することが明らかとなった。
【0038】
引き続き、切削性能の評価を行うため、1A〜1Cの接合材を用い、立方晶窒化硼素焼結体を超硬合金製工具母材に接合して、表3に示される図1の構造の切削工具3A〜3Cを作製し、下記の条件で切削試験を実施した。なお、立方晶窒化硼素焼結体の厚みは0.75mmであった。
【0039】
【表3】
【0040】
−切削条件−
被削材 :浸炭焼入材(SCM415)丸棒
被削材硬度:HRC62
被削材の周表面速度:200(m/min)
工具の切り込み深さ:0.5(mm)
工具の送り速さ :0.16(mm/rev)
切削時間 :5(min)
その結果、工具3Aは接合層部分の耐熱性が低いために、切削中の切削熱によりロウ付け強度が低下し、硬質焼結体部分が脱落し継続評価が不可能であった。これに対して、本発明品の工具3B、3Cは、硬質焼結体の接合強度が高く、かつ高温強度にも優れるために、切削中に硬質焼結体の脱落や欠損が発生することなく、安定した加工を行うことが可能であった。
【0041】
(実施例2)
【0042】
【表4】
【0043】
表4は、主に接合層中のNi含有量が、高温強度に及ぼす影響を調べるために準備された種々の接合材の例を示している。すなわち、表4における接合材4A〜4Dは、いずれも接合材中のNi含有量が種々に変えられている。
【0044】
接合材試料を作製するため、実施例1と同様に、表4に記載される組成を有する接合材粉末を作製し、これを有機溶剤(エタノール)と混ぜ合わせることにより、ペースト状の接合材4A〜4Dを得た。立方晶窒化硼素焼結体と超硬合金製工具母材との接合強度の評価を行うために、断面が2.5×2.5mmの四角形形状を有し、長手長さが10mmである棒状の立方晶窒化硼素焼結体と超硬合金製工具母材のサンプルを作製した。そしてこれの断面部分に、前記4A〜4Dの接合材を塗布し、Ar雰囲気中表4の温度にて加熱することにより、断面部分同士の接合を行った。その後、4A〜4Dにより接合された試料5A〜5Dは、断面積が2×2mmの四角形形状になるように、試料の長手方向4面に研削加工が施された。この試料4A〜4Dの接合部分の接合層厚みは30μmであった。この接合材を350℃の高温大気雰囲気にて試料のせん断強度を評価した結果が表5である。
【0045】
【表5】
【0046】
試料5Dは、接合材中のNiの含有量が多いために、融点が上昇し高い温度でしか接合材を溶融させることができなかった。このため立方晶窒化硼素焼結体にキレツが発生し、接合強度の測定が不可能であった。
【0047】
これに対して試料5A〜5Cは高い融点強度を有しているが、中でも試料5Bと5Cは、Niの含有率が高いために、高温での接合部分の酸化が少なく、高い高温強度を有することが明らかとなった。
【0048】
(実施例3)
表6は、主に接合される硬質焼結体の厚みが、切削性能に及ぼす影響を調べるために準備された切削工具の例を示している。
【0049】
【表6】
【0050】
すなわち、表6における切削工具6A〜6Dは、実施例1と同様の方法により、表6に記載された接合材によりダイヤモンド焼結体を超硬合金製工具母材上に接合して作製された。これを下記の切削条件にて切削に供して性能評価を行った。
【0051】
−切削条件−
被削材 :軸方向に沿って4つの溝を有するA1−18重量%Si丸棒
被削材の周表面速度 :500(m/min)
バイトの切り込み深さ:1.5(mm)
バイトの送り速さ :0.2(mm/rev)
切削時間:10(min)
【0052】
【表7】
【0053】
その結果を表7に示す。工具7Aはダイヤモンド焼結体の厚みが薄いために、刃先に発生した切削熱が大量に接合層部分に流入し、そのために、接合層が軟化して接合強度の低下を招き、これが原因で切削中に工具欠損が発生した。これに対し、工具7B〜7Dはダイヤモンド焼結体の厚みが厚いために刃先で発生した切削熱が分散・放熱され、従って、接合層の軟化が発生せず、高い接合強度が維持されて、安定した加工が可能であった。
【0054】
(実施例4)
表8は主に接合層の組成が、切削性能に及ぼす影響を調べるために準備された切削工具の例を示している。
【0055】
表8の切削工具8A〜8Fは表8に記載されたロウ材を用い、各々のロウ付け条件で超硬合金に裏打ちされたダイヤモンド焼結体工具を工具母材上に接合した。この時、加熱接合処理後に形成された接合層の組成を表9に示している。この切削工具8A〜8Fによる下記の切削条件での性能評価結果を表10に示す。
【0056】
【表8】
【0057】
【表9】
【0058】
−切削条件−
被削材 :軸方向に沿って4つの溝を有するA1−20重量%Si丸棒
被削材の周表面速度 :800(m/min)
バイトの切り込み深さ:5.0(mm)
バイトの送り速さ :0.35(mm/rev)
切削時間:20(min)
【0059】
【表10】
【0060】
高温強度に優れない工具9A、9Cは、刃先に発生した大量の切削熱が接合層部分に流入することにより、接合層が軟化して接合強度の低下を招き、これが原因で工具欠損が発生した。これに対し、真空中で加熱処理を行った工具9B、9D、および工具9E、9Fは、接合層の軟化が発生せず、高い接合強度が維持されているために、安定した加工が可能であった。
【0061】
【発明の効果】
本発明品は、硬質焼結体を工具母材上に接合する接合層を個々には15重量%以上、合計で65重量%以下のTi及びZrと、Cuから成る組成の層となしたので、硬質焼結体にワレやキレツの発生がなく、強固かつ高剛性に接合される。接合層中に含まれるCuは従来のAgに比べ弾性率が高く、熱膨張差による歪みを吸収でき、また、TiまたはZrは高温強度に加え高い活性度を有しており、これをCuに添加することで接合材の濡れ性が著しく改善され接合強度が大幅に向上する効果がある。
【0062】
この結果、切削中に硬質焼結体の脱落や欠損が発生することなく、安定した加工が望めるようになった。
【0063】
なお、この発明は、切削工具に利用すると特に顕著な効果を期待できるが、掘削工具や耐摩工具、伸線ダイスなどに採用してもその有効性が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の硬質焼結体工具の実施形態を示す断面図
【図2】他の実施形態の断面図
【図3】更に他の実施形態の断面図
【図4】更に他の実施形態の断面図
【図5】硬質焼結体切削工具の従来例の断面図
【符号の説明】
1 硬質焼結体
2 超硬合金製支持体
3 接合層
4 工具母材
Claims (7)
- ダイヤモンドまたは立方晶窒化硼素を20容量%以上含有する硬質焼結体が、TiとZrをそれぞれ15重量%以上、両者の合計で65重量%以下含み、残部がCuと不可避不純物からなる接合層を介して超硬合金製工具母材上に接合されている硬質焼結体工具。
- 前記接合層中のTiとZrの含有量がそれぞれ20〜30重量%である請求項1記載の硬質焼結体工具。
- 前記接合層の融点が700℃〜1000℃である請求項1又は2に記載の硬質焼結体工具。
- 前記硬質焼結体が接合層を介して直接工具母材上に接合されている請求項1乃至3のいずれかに記載の硬質焼結体工具。
- 前記硬質焼結体の厚みが0.25〜1.5mmである請求項4に記載の硬質焼結体工具。
- ダイヤモンドまたは立方晶窒化硼素を20容量%以上含有する硬質焼結体を、接合層を構成するロウ材を用いて真空中または不活性ガス雰囲気中で工具母材にロウ付け接合することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の硬質焼結体工具の製造方法。
- ダイヤモンドまたは立方晶窒化硼素を20容量%以上含有する硬質焼結体を、Ag、In、Li、Mn、Zn、Cu、Ti、Zrを含むロウ材を用いて高真空雰囲気中で工具母材上にロウ付けすることにより実質的にCu、Ti、Zrから成る接合層を形成し、その接合層を介して硬質焼結体を工具母材に接合することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の硬質焼結体工具の製造方法。
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