JP3548482B2 - イオンビームによる元素分析装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、加速器から発射されたイオンビームを試料に照射し、試料から発生するX線をX線検出器により検出し、そのスペクトルにより試料の元素分析を行う装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、粒子線励起X線法(Particle Induced X−ray Emission)と称される元素分析法が知られている。この方法は、真空チャンバ内で、陽子、アルファ粒子、重イオン等のイオンビームを試料に照射することによって、試料に含まれる元素に固有のエネルギを持つX線(特性X線)を発生させ、この特性X線をX線検出器で測定し、そのX線スペクトルから試料中の元素を分析する方法である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の方法では、真空チャンバが用いられるため、その内部へのアプローチが必要なときには、その都度真空チャンバを開き、再び真空引きを行い、窒素ガスを導入する等の作業を行わなければならず、非効率的であり経済的にも無駄が多いという問題点がある。
従って、本発明は、粒子線励起X線法による元素分析を大気中で行い、真空環境の形成を必要としない効率的で、経済的な元素分析装置を提供することを目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明においては、ビーム導入管2の先端とX線検出器3のX線導入用スリーブ3aの先端を互いに接近させて配置し、ビーム導入管2とX線導入用スリーブ3aの先端部内にヘリウムガスを導入し、ビーム導入管2とX線導入用スリーブ3aの先端からヘリウムガスを噴射するようにして元素分析装置を構成する。これにより、試料S、ビーム導入管2の先端、X線導入用スリーブ3aの先端の三者に囲まれた小空間にヘリウムガス雰囲気を形成し、この雰囲気内でイオンビーム照射、特性X線の導入を行う。
【0005】
また本発明においては、ビーム導入管2の先端部に、イオンビームを通過させるビーム通路4cを有し、このビーム通路4cの途上に、ヘリウムガス供給源につながるガス通路4dをつなげた第1のガスノズル4を取り付け、またX線導入用スリーブ3aの先端部に、X線を通過させるX線通路6eを有し、このX線通路6eの途上に、ヘリウムガス供給源につながるガス通路8aをつなげた第2のガスノズル6を取り付けて上記元素分析装置を構成する。
【0006】
また、本発明においては、第2のガスノズル6に、さらにX線量を調整するX線コリメータ6bと、散乱陽子の進入を阻止する散乱陽子リムーバ6cと設けて上記元素分析装置を構成する。
【0007】
また、本発明においては、第2のガスノズル6に、接続筒部6aと、X線コリメータ6bと、散乱陽子リムーバ6cとを設けて上記元素分析装置を構成する。接続筒部6aは、X線導入用スリーブ3aの先端部に嵌合するようにし、この接続筒部6a内にX線コリメータ6bを設け、接続筒部6aの先端側に散乱陽子リムーバ6cを取り付ける。X線コリメータ6bには、X線の進入量を制限するための小径のX線通路6eと、この小径X線通路6eの途上につながるガス通路8aを設ける。散乱陽子リムーバ6cには、X線通路6e内に散乱陽子の進路を偏向させるための磁場を形成する永久磁石12を具備させる。
【0008】
また、本発明においては、相互間にほぼ平行な磁束が生じるように磁極を対向させて2枚の永久磁石板12を配置し、その間にX線通路6eを形成して散乱陽子リムーバ6cを構成する。X線通路6eの内周は、合成樹脂製の被覆壁で被覆し、かつ永久磁石板の外周は、鉄製のヨーク13で被覆して磁束の漏れを抑える。
【0009】
また、本発明においては、対向一対の永久磁石板12の相互間隔を保つように永久磁石板12の間に合成樹脂製の一対の第1のスペーサ11aを相互間隔をおいて配置すると共に、永久磁石板12の各対向面を被覆するように合成樹脂製の一対の第2のスペーサ11bを配置し、これら第1及び第2のスペーサ11a,11bによりX線通路6eの被覆壁を形成する。
【0010】
さらに、本発明においては、X線コリメータ6bの一端側に、X線通路6eを閉塞して、スリーブ3a内へリウムガスが進入しないようにする3μm程度の薄い合成樹脂製の隔膜10を貼着する。
【0011】
【発明の実施の形態】
図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1は元素分析装置の一部の概略的正面図、図2は図1におけるII−II断面図である。
【0012】
図1において、大気中に配置されたXY移動テーブル1上に試料Sが載せられている。試料Sの近傍位置に先端を向けて、イオンビーム導入管2、X線検出器3が設けられている。ビーム導入管2は、図示しない加速器に接続される。X線検出器3は、X線導入用のスリーブ3aを先端を試料Sに向けて配置される。ビーム導入管2を介してイオンビームを試料Sに照射することによって、試料Sに含まれる元素に固有のエネルギを持つX線(特性X線)を発生させ、この特性X線をX線検出器3で測定し、そのX線スペクトルから試料中の元素を分析する。
【0013】
ビーム導入管2の先端部には、先端側が先細りにカットされたノズル4が装着され、また先端の開口を閉塞するポリイミド製の隔膜15が貼着されている。ノズル4は、ステンレススチール等の金属製で、ビーム導入管2の筒状の先端部に嵌合する接続筒部4aとガス噴射部4bとを有する。ガス噴射部4bは、ビーム導入管2のビーム通路に連続するビーム通路4cと、このビーム通路4cの途上に一端がつながり他端が外側面に開口したガス通路4dとを有する。ガス通路4dは、ガス管5を介してヘリウムガス供給源に接続される。隔膜15は、加速器側を真空に保ち、かつイオンビームを透過させて大気中に取り出すためのものである。
【0014】
X線検出器3は、X線導入用のスリーブ3aを有し、その開放した先端をテーブル1上の試料Sに向けて配置されている。スリーブ3aの先端部には、先端側が先細りにカットされたノズル6が装着されている。ノズル6は、接続筒部6aと、X線コリメータ部6bと、散乱陽子リムーバ部6cと、ガス噴射部6dとを具備し、これらを貫通するX線通路6e(ヘリウムガス通路を兼ねる。)を有する。
【0015】
接続筒部6aはアルミニウム製で、一端側がスリーブ3aの先端部に嵌合し、他端側はX線コリメータ部6bの外殻7に連続する。
【0016】
X線コリメータ部6bは、外殻7内にステンレススチール等の金属製のコリメータブロック8を挿入して成る。X線コリメータ部6bを貫通するX線通路6eの途上に一端が接続するようにガス通路8aが設けられている。ガス通路8aの他端側は、X線コリメータ部6bの外周に開口し、ガス管9を介してヘリウムガス供給源に接続される。コリメータブロック8の一端面には、X線通路6eの開口を塞ぎ、ヘリウムガスの進入を阻止するためのポリプロピレン製の薄い隔膜10が貼着されている。X線コリメータ部6bは、X線検出器3内へ入射するX線量を調整し、その量が検出能を超えない範囲に制限し、さらに小径の通路6eにより、γ線、散乱陽子の進入を妨げる。
【0017】
散乱陽子リムーバ部6cは、相互間に合成樹脂製のスペーサ11を介在させて、2枚の強力な永久磁石板12を対向配置し、その周囲を軟鉄製のヨーク13でカバーして成る。スペーサ11は、一対の永久磁石板12の間隔を保ち、その間にX線の通路6eを形成すると共に、この通路6eに永久磁石板12が直接露出しないように被覆する被覆壁を構成するもので、各一対の第1スペーサ11aと第2スペーサ11bとから成る。第1スペーサ11aは、一対の永久磁石板12の間隔を保ち、隙間を形成するためのもので、一対が相互間隔をおいて配置され、両者の隙間に通路6eが形成される。通路6eには、ほぼ平行な磁束の磁場が形成される。第2スペーサ11bは、一対の永久磁石板12の対向する面を被覆するように配置される。
【0018】
ヨーク13は、永久磁石板12の周囲への漏洩磁場を抑えるためのもので、上下左右前後の6枚の矩形鉄板13a〜13fから成り、永久磁石板12の全周を被覆している。前後の鉄板13e、13fの中央には、通路16eに対応する位置に開口が形成されている。このヨーク13により、その表面付近での漏洩磁場を数ガウスに抑えることができる。
【0019】
散乱陽子リムーバ6cは、低エネルギの特性X線が通路6eへの進入するのを阻害せずに、散乱陽子の進入のみを阻止する。即ち、通路6e内に進入した散乱陽子は、永久磁石板12による磁場のために進路を偏向され、X線検出器3へ到達しない。永久磁石板12は、その全周をヨーク13に被覆されて漏洩する磁束が極めて少ないので、例えばX線検出器3の検出用半導体等に対する悪影響は生じない。
【0020】
ガス噴射部6dは、ステンレススチール等の金属製で、四角錐形に構成され、ヨーク鉄板13eの前面側に取り付けられ、その中心軸に沿って通路6eが形成されている。
【0021】
図示しない加速器からビーム導入管2を経て発射されたイオンビームを大気中の試料Sに照射し、試料Sから発生するX線をX線検出器3で検出し、X線のスペクトルにより元素分析を行う。この際、図示しないガス供給源からガス管5,9を経てヘリウムガスをノズル4,6に供給し、通路4c,6eを介して先端から噴射する。これにより、ノズル4,6の先端部及び試料Sで囲まれた小空間の空気が排除され、ヘリウムガス雰囲気が形成される。従って、試料Sへのイオンビーム照射、X線検出器3のX線の捕捉は、ヘリウムガス雰囲気中で行われる。したがって、軽元素からのエネルギーの低い特性X線が空気層に吸収されることがなく、軽元素の検出が可能である。ノズル4,6の先端部は、何れも先細りにカットされているので、両者の先端を可及的に接近させることができる。これにより、ヘリウムガス雰囲気を空気の混入なく形成し、かつ使用ヘリウムガスの節減を図る。
【0022】
図3には、本発明の他の実施形態を示す。図3において、図1,図2に示す先の実施形態と同等の構成部分には同一の符号を付して説明を省略する。
この実施形態において、ガス噴射部6dは、ステンレススチール製で、ほぼ筒状に構成され、ヨーク鉄板13eの前面側に取り付けられ、その中心軸に沿う通路6eを備えている。
そして、ノズル4,6の先端部及び試料Sを囲む小空間を覆うように、椀状の雰囲気カバー16が設けられている。雰囲気カバー16は、開口部の周縁をテーブル1の上面に接近させるように配置され、ノズル4,6の先端部が、雰囲気カバー16を貫通している。
雰囲気カバー16は、その内側に噴射されたヘリウムガスが散逸するのを防ぎ、比較的少量のヘリウムガスで、テーブル1の上面との間に、ヘリウムガス雰囲気が形成される。この場合、雰囲気カバー16によって、ヘリウムガス雰囲気を形成するためのガス使用量を大幅に縮減することができる。
テーブル1の下方には、試料Sを挟んで、ビーム導入管2の先端と対向する位置に、照射されたイオンビームの電流値を測定するためのファラディカップ17が配置される。このファラディカップ17は、上方へ開口する筒状で、その基端部に、窒素ガス導入管18が接続されている。ファラディカップ17内に窒素ガスを充満させ、試料Sの下面までの空間の空気を排除して窒素ガス雰囲気を形成することができる。このようにすることにより、試料Sの下方空間の空気中のアルゴン等がイオンビームによって電離され、それの特性X線が元素分析に悪影響を及ぼすのを防止する。
なお、ファラディカップ17内に噴射するガスをヘリウムガスでなく、窒素ガスとするのは、それがヘリウムガスに比して安価であることに加え、以下の理由がある。即ち、イオンビームがヘリウムに衝突すると、これを陽イオンと電子に電離させる。陽イオンは上方に移動し、電子がファラディカップの壁面に衝突してファラディカップを−(マイナス)にチャージする。この結果、イオン(H)の衝突による+(プラス)チャージとキャンセルされ、ビームの電流測定が不能となるからである。窒素ガスであればこの現象が生じず、電流測定は正常に行える。
【0023】
【発明の効果】
以上のように、本発明においては、ノズル4,6の先端部及び試料Sで囲まれた小空間の空気を排除し、空気の混入しないヘリウムガス雰囲気を比較的少量のヘリウムガスにより形成することができる。従って、試料Sへのイオンビーム照射、X線検出器3のX線の捕捉をヘリウムガス雰囲気中で行ない、軽元素からのエネルギーの低い特性X線を空気層に吸収されることなく、検出可能である。ノズル4,6の先端部は、何れも先細りにカットされているので、両者の先端を可及的に接近させ、ヘリウムガス雰囲気を空気の混入なく形成し、かつ使用ヘリウムガスの節減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】元素分析装置の一部の概略的正面図である。
【図2】図1におけるII−II断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態の元素分析装置の一部の概略的正面図である。
【符号の説明】
1 XY移動テーブル
2 ビーム導入管
3 X線検出器
3a スリーブ
4 ノズル
4a 接続筒部
4b ガス噴射部
4c ビーム通路
4d ガス通路
5 ガス管
6 ノズル
6a 接続筒部
6b X線コリメータ部
6c 散乱陽子リムーバ部
6d ガス噴射部
6e X線通路
7 外殻
8 コリメータブロック
8a ガス通路
10 隔膜
11 スペーサ
12 永久磁石板
13 ヨーク
15 隔膜
16 雰囲気カバー
17 ファラディカップ
18 窒素ガス導入管

Claims (8)

  1. 加速器からビームコリメータを経て発射されたイオンビームをビーム導入管を介して大気中のテーブル上の試料に照射し、試料から発生するX線をX線検出器で検出し、X線のスペクトルにより元素分析を行う装置であって、
    前記ビーム導入管と前記X線検出器のX線導入用スリーブが、相互に先端を接近させて配置され、
    前記ビーム導入管とX線導入用スリーブの少なくとも先端部内にヘリウムガスが導入され、ビーム導入管とX線導入用スリーブの先端から噴射されるヘリウムガスにより、試料とビーム導入管の先端及びX線導入用スリーブの先端に囲まれた小空間にヘリウムガス雰囲気が形成されることを特徴とするイオンビームによる元素分析装置。
  2. 前記ビーム導入管とX線導入用スリーブの先端部及びテーブル状の試料の上方を覆うように椀状の雰囲気カバーがさらに設けられ、試料とビーム導入管の先端及びX線導入用スリーブの先端に囲まれた小空間に噴射されるヘリウムガスが雰囲気カバー内に保持されることを特徴とする請求項1に記載のイオンビームによる元素分析装置。
  3. イオンビームを通過させるビーム通路を有すると共に、一端がこのビーム通路の途上につながり他端側がヘリウムガス供給源につながるガス通路を備えた第1のガスノズルが、前記ビーム導入管の先端部に取り付けられ、
    X線を通過させるX線通路を有すると共に、一端がこのX線通路の途上につながり他端側がヘリウムガス供給源につながるガス通路を備えた第2のガスノズルが、前記X線導入用スリーブの先端部に取り付けられることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオンビームによる元素分析装置。
  4. 前記第2のガスノズルは、導入X線量を調整するX線コリメータと、散乱陽子の進入を阻止する散乱陽子リムーバとを含むことを特徴とする請求項3に記載のイオンビームによる元素分析装置。
  5. 前記第2のガスノズルは、X線導入用スリーブの先端部に嵌合する嵌合筒と、
    この嵌合筒内に設けられ、X線の進入量を制限すべく適当な小内径に設定された小径X線通路と、この小径X線通路の途上につながる前記ガス通路を有するX線コリメータと、
    前記嵌合筒の先端側に取り付けられ、前記小径X線通路に連通するX線通路を有し、このX線通路内に散乱陽子の進路を偏向させるための磁場を形成する永久磁石を具備する散乱陽子リムーバとを含むことを特徴とする請求項3に記載のイオンビームによる元素分析装置。
  6. 前記散乱陽子リムーバは、相互間にほぼ平行な磁束が生じるように磁極を対向させて配置された2枚の永久磁石板の間に前記X線通路を形成して成り、このX線通路の内周が合成樹脂製の被覆壁で被覆され、かつ前記永久磁石板の外周が鉄製のヨークで被覆されていることを特徴とする請求項又はに記載のイオンビームによる元素分析装置。
  7. 前記対向一対の永久磁石板の相互間隔を保つように永久磁石板の間に合成樹脂製の一対の第1のスペーサが相互間隔をおいて配置され、前記永久磁石板の各対向面を被覆するように合成樹脂製の一対の第2のスペーサが配置され、これら第1及び第2のスペーサにより前記X線通路の被覆壁が形成されることを特徴とする請求項6に記載のイオンビームによる元素分析装置。
  8. 加速器からビームコリメータを経て発射されたイオンビームをビーム導入管を介して大気中のテーブル上の試料に照射し、試料から発生するX線をX線検出器で検出し、X線のスペクトルにより元素分析を行う装置であって、
    前記ビーム導入管と前記X線検出器のX線導入用スリーブが、相互に先端を接近させて配置され、
    前記ビーム導入管とX線導入用スリーブの先端部及びテーブル上の試料の上方を覆うように椀状の雰囲気カバーがさらに設けられ、試料とビーム導入管の先端及びX線導入用スリーブの先端に囲まれた小空間に噴射されるヘリウムガスが雰囲気カバー内に保持され、
    前記テーブルの下方には、前記試料を挟んで前記ビーム導入管の先端と対向するようにイオンビームの電流測定用ファラディカップが設けられ、
    このファラディカップは、ビーム導入管に向かって開放する筒状で、内側に窒素ガス導入管が接続され、試料の下面からファラディカップまでの空間の空気を排除して窒素ガス雰囲気を形成することを特徴とするイオンビームによる元素分析装置。
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