JP3546834B2 - マグネシウム合金の塗装帯板およびその製造方法 - Google Patents

マグネシウム合金の塗装帯板およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、成形加工が可能なマグネシウム合金の塗装帯板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
マグネシウム合金は、実用金属材料の中で最も軽量(密度約1.8)で比強度が高く、リサイクルが可能であるため、近年、自動車や電機機器などの部品としての需要が急速に拡大している。
【0003】
これらの部品は鍛造、ダイカスト、チクソモールディングおよび粉末冶金などの方法で最終製品に近い形に製造されることが多い。
【0004】
マグネシウム合金は比較的耐食性の悪い金属であるため、使用中における腐食を防止する目的で化成処理、陽極酸化あるいは塗装などの防食処理を施すことが必須と考えられており、すでに多くの防食処理方法が開示されている。
【0005】
例えば、特開平7−109598号にはアルカリ処理、陽極酸化処理および塗布型クロメート処理を組み合わせた防食処理法が開示されている。
【0006】
特開平7−204577号には、りん酸亜鉛またはクロム酸塩の処理液で塗装下地処理した後、エポキシ系塗料を粉体塗装する方法が開示されている。
【0007】
特開平11−29874号には、環境問題の発生を防止するために、クロムなどの重金属を含まない塗装下地処理として、りん酸マグネシウムを主成分とする処理方法が開示されている。
【0008】
しかし、これらの防食処理は主として最終製品の形に加工した後で製品1個毎に処理することを想定した方法である。従来の塗装前処理は、ほとんどが処理液に数分間〜約1時間程度浸漬してマグネシウム合金表面に化成皮膜を生成させるか、処理溶液中で陽極電解する方法であるため、製品1個当たりの処理時間が長く生産効率がわるかった。したがって、従来の方法ではマグネシウム合金の帯板に連続的に塗装前処理することができないか、できても非常に大きな設備が必要となる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、マグネシウム合金部品の防食処理によるコストアップという問題を解消するためになされたもので、その課題は部品成形後の防食処理を不要とするため、成形加工に適した塗装仕上げしたマグネシウム合金の帯板およびその塗装帯板を低コストで効率的に製造する方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
従来のように最終製品1個毎に塗装前処理と塗装をおこなっていたのでは生産能率が悪く、処理コストも非常に高くなる。そこで、最終製品に加工する前のマグネシウム合金の帯板に塗装前処理と塗装を施し、この塗装した帯板から製品を成形するのに必要な大きさの板を切り出し、成形加工するのがよいと考え、帯板に連続的に前処理、塗装を施す方法を開発するため、種々実験、検討した結果下記の知見を得た。
【0011】
a)所定の塗装前処理液を用いれば、従来のように前処理液に被処理材を長時間浸漬する必要がなく、マグネシウム合金の帯板にロールコーティング法等により連続的に塗布した後、数分間加熱して乾燥させることにより、帯板を連続的に短時間で前処理することが可能で、設備も極めてコンパクトにすることができる。
【0012】
b)帯板に連続的に処理ができ、マグネシウム合金と塗料との密着性を高めるためのマグネシウム合金の塗装前処理液としては、6価のクロム化合物、3価のクロム化合物およびりん酸系化合物の1種または2種以上を含む前処理液が最適である。
【0013】
c)塗料としては、成形性の良い塗料用樹脂を主成分とするものが好適でありマグネシウム合金の帯板の表面に塗布する方法で充分であり塗布時間も極めて短時間ですみ、しかも前処理装置がそのまま利用でき設備費が大幅に圧縮され、製造コスト低減になる。
d)上記の前処理液と樹脂塗料とを用いれば、ある程度の曲げ加工や絞り加工であれば十分に可能であり、加工による塗膜の割れ、剥離が生じない。
【0014】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は下記の通りである。
【0015】
(1)マグネシウム合金の帯板の表面に、塗装前処理被膜とその被膜上に設けた樹脂塗膜とを備え、前記塗装前処理被膜がクロム酸化物系被膜およびりん酸塩被膜の1種または2種からなっている成形加工に適したマグネシウム合金の塗装帯板。
(2)樹脂被膜が、ポリエステル系、高分子ポリエステル系、エポキシ系、ウレタン系およびアクリル系の樹脂の1種以上からなる塗膜である上記(1)に記載の成形加工に適したマグネシウム合金の塗装帯板。
(3)マグネシウム合金の帯板の表面に、6価のクロム酸化物、3価のクロム酸化物およびりん酸系化合物の1種または2種以上を含む前処理液を塗布し、加熱して乾燥させ、次いで樹脂塗料を塗布する成形加工に適したマグネシウム合金の塗装帯板の製造方法。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のマグネシウム合金の塗装帯板およびその製造方法について具体的に説明する。
1.マグネシウム合金の塗装帯板
帯板:
帯板の化学組成は、特に限定するものではないが、常温での成形加工が容易なものが望ましい。その理由は、常温での成形加工が困難な場合には、200〜300℃のような比較的高い温度での加工をおこなう必要があるが、このような加工に耐えられる塗料は限られるため、一般に塗料自体のコストが高くなる。また、加熱しながら加工するための特別の装置が必要である点でも不利である。
【0017】
常温で成形加工できるマグネシウム合金としては、リチウムを11%以上含む合金が好適であり、5〜11%含む合金も推奨される。また、その他には1〜3%のアルミニウムと0.5〜1%の亜鉛を含むマグネシウム合金も推奨される。帯板の板厚については、特に限定するものではないが1mm以下が望ましい。その理由は、板厚が1mmを超えると成形加工によって塗膜が素地から剥離し易くなるからである。また、帯板状の素材を用いることによって、塗装前処理および樹脂塗装が連続的におこなえるので、処理時間の短縮と処理コストの大幅な削減が可能となる。
【0018】
塗装前処理被膜:
塗装前処理被膜を、クロム酸化物系被膜およびりん酸塩被膜の1種または2種からなる被膜とするのは、マグネシウム合金との密着性に優れており、また前処理被膜の上に塗布する樹脂との密着性にも優れており、成形加工の際に合金の表面から剥離したり割れが発生せず、防食性にも優れているからである。
【0019】
樹脂塗膜:
塗装前処理被膜上に樹脂塗膜を設けるのは、耐食性に劣るマグネシウム合金が腐食されるのを防止するためである。樹脂塗膜として好ましいのは、ポリエステル系、高分子ポリエステル系、エポキシ系、ウレタン系およびアクリル系の樹脂の1種以上である。
【0020】
樹脂塗膜は、装塗装前処理被膜と密着性にすぐれているエポキシ系樹脂膜等とその上に設けた成形性や防食能に優れた高分子ポリエステル系やウレタン系の樹脂膜等との2層の塗膜とするのが好ましい。
【0021】
2.製造方法
素材としてのマグネシウム合金の帯板は、インゴットまたはスラブを鍛造または熱間圧延して数mmから30mm程度の板厚にした後、温間圧延または冷間圧延によって製造することができる。板厚は前記のように1mm以下とするのが好ましい。なお、必要に応じて、鍛造または熱間圧延後に疵取りのための研磨や酸洗が施され、温間圧延または冷間圧延後に軟化のための熱処理や表面調整のための酸洗を施すのがよい。酸洗液としては0.5〜3%程度の硫酸水溶液が利用できる。
【0022】
塗装前処理用処理液としては、6価のクロム化合物、3価のクロム化合物およびりん酸系化合物の1種または2種以上を含む前処理液を用いるのが好ましい。この中で、防食機能の高い処理液として6価のクロム化合物(クロメート)を含む処理液が推奨される。ただし、最近は環境保全の観点から6価クロムの使用が規制される傾向が強まっているので、3価のクロム化合物、あるいはりん酸系化合物を含む処理液がよい。
【0023】
なお、6価のクロム化合物とは、CrO、NaCrなど、3価のクロム化合物とはCrなど、りん酸系化合物とはZn(PO、Mn(HPOなどである。これらの化合物は単独で含ませてもよく、2種または3種以上を複合で含ませてもよい。また、含まれる化合物の種類が異なる処理液を2層以上に分けて塗布、乾燥する方法も、防食機能を高める上で推奨される。
【0024】
これらの化合物以外に少量の有機の樹脂化合物を添加することにより、マグネシウム合金および樹脂塗膜との結合力が高まり、膜としての強度が向上する。また、少量のふっ素系化合物を添加することによって処理膜と素地との付着力が高まる。
【0025】
樹脂化合物としては、微粒子状のポリアクリル樹脂、ポリアクリル・エポキシ樹脂などが利用でき、ふっ素系化合物としては、HF、NaHF、NaF、HSiFなどが利用できる。
【0026】
処理液中のこれらの成分の濃度は特に厳密に規定する必要はないが、6価または3価のクロム化合物の場合は単独で 2〜20g/dm、りん酸系化合物の場合は単独で5〜100g/dm が適当であり、これらの成分を複合で含ませる場合は、単独での濃度を成分数で除した値を目安とすればよい。
また、樹脂化合物は0〜5g/dm、ふっ素系化合物は0〜5g/dm が適当である。処理液に適当な酸、例えばりん酸、硝酸などを添加することによってマグネシウム合金素材への処理膜の付着力を高めることができ、この場合には酸濃度が0.2〜2規定になるように添加すればよい。
【0027】
これらの前処理液の塗布量も特に厳密に規定する必要はないが、マグネシウム合金素材の表面積1m当たり、2〜10cmの処理液でよく、塗布はロールコーターを用いて均一に塗布するのが好ましい。塗布後は60〜100℃程度に加熱して乾燥すると数十秒〜数分で乾燥できる。
【0028】
次に、塗装に用いる塗料としては、塗膜がある程度の成形加工に耐えられるものを使用する必要があり、例えば、ポリエステル樹脂(とりわけ、高分子ポリエステル樹脂)、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂を主成分とする塗料などを用いるのが好ましい。
【0029】
塗装方法は、塗装前処理被膜上にその被膜と密着性に優れている樹脂塗料を塗布し、乾燥させた後その上に成形性や防食能の優れた樹脂塗料を塗布するのが好ましい。装塗前処理被膜と密着性にすぐれている樹脂としては、エポキシ系樹脂等が好ましく成形性や防食能に優れた樹脂としては、ポリエステル系、高分子ポリエステル系やウレタン系の樹脂等がある。
【0030】
【実施例】
表1に示す記号A〜Eの5種類の化学組成のマグネシウム合金のインゴットを、熱間鍛造および熱間圧延によって厚さ30mm、幅600mmの帯板とし、さらに300〜400℃に加熱して温間圧延によって厚さ0.5〜0.89mmの帯板とした後、コイル状に巻き取った。
【0031】
【表1】
Figure 0003546834
次に、この帯板を巻き戻しながら300〜350℃に設定した電気炉中を連続的に通過させて熱処理し、引き続いて30℃、2質量%硫酸中を通過させて酸洗した後、水洗、乾燥して、再びコイル状に巻き取った。
【0032】
帯板の5種のコイルを巻き戻しながら、表2の記号▲1▼〜▲5▼で示す塗装前処理液をロールコーティング法で塗布し、引き続いて電気炉中を通過させながら板温が最高80℃になるように加熱、乾燥した後、コイル状に巻き取った。なお、記号▲2▼、▲3▼および▲5▼の処理液を塗布した帯板は電気炉で乾燥させた後、表2の記号(2)、(3)および(5)の処理液を塗布し、上記と同じ条件で乾燥させコイル状に巻き取った。
【0033】
【表2】
Figure 0003546834
次で、塗装前処理した帯板を巻き戻しながらロールコーティング法で表3に示す2種の下塗り塗料を塗布し、電気炉を通過させながら板温が最高185〜215℃になるように加熱、乾燥した後、コイル状に巻き取った。
【0034】
【表3】
Figure 0003546834
次に、下塗り塗装した帯板を巻き戻しながらロールコーティング法で表3に示す上塗り塗料を塗布し、電気炉を通過させながら板温が最高225〜235℃になるように加熱、焼成した後、コイル状に巻き取った。
【0035】
これらの帯板から50×100mmの大きさの曲げ加工試験片と70×150mmの大きさの塩水噴霧試験片を切り出した。
【0036】
曲げ加工試験は塗装面での曲げ半径が4mmになるようにしながら、室温(25℃)で180°曲げし、曲げ部の塗膜の割れおよび剥離状況を拡大鏡で調べた。 塩水噴霧試験は、JISZ2371に従って中性の5%塩化ナトリウム水溶液を2000時間噴霧した後、クロスカット部の塗膜のふくれ幅を測定した。
【0037】
一方、比較のために、前記A、DおよびEの3種のマグネシウム合金の温間圧延の途中で、帯板から板厚0.87〜3.56mm、大きさ200×200mmの試験片を切り出し、DおよびEの切り板について表2の記号▲6▼および▲7▼で示すJISH8651に示されているマグネシウム合金防食処理法の3種および5種の条件で処理した。また切り板Aは、前処理を省略した。
【0038】
次に、これらの塗装前処理した切り板D、Eおよび塗装前処理を省略した切り板Aについて、ロールコーターおよび電気炉を用いて表3に示す下塗り塗装および上塗り塗装をおこなった後、上記と同じ条件で曲げ加工試験および塩水噴霧試験をおこなった。
これらの試験結果を表3に併せて示す。
【0039】
表3から明らかなように、比較例の切板での塗装前処理には25〜50分間を要し、しかも曲げ加工試験によって塗膜に割れが発生した(No.6、7)。
【0040】
また、塗装前処理を省略した比較例(No.8)の場合は、曲げ加工試験によって曲げ部の塗膜が剥離し、塩水噴霧試験によってクロスカット部近傍の塗膜のふくれが10mm以上の幅で発生した。
【0041】
これに対して、本発明例(No.1〜5)の帯板による塗装前処理の所要時間は2.3〜5分間と極めて短く、曲げ加工試験による塗膜の割れや剥離は全く発生せず、塩水噴霧試験によるクロスカット部の塗膜のふくれ幅も1.3〜2.6mmと極めて小さかった。
【0042】
【発明の効果】
本発明によれば、耐食性に優れ、曲げ加工や絞り加工しても塗膜が割れたり剥離しないマグネシウム合金の塗装帯板を低コストで効率的に製造することができ、従来のように製品1個毎に処理する必要がなくなり工業的効果が大きい。

Claims (3)

  1. マグネシウム合金の帯板の表面に、塗装前処理被膜とその被膜上に設けた樹脂塗膜とを備え、前記塗装前処理被膜がクロム酸化物系被膜およびりん酸塩被膜の1種または2種からなっていることを特徴とする成形加工に適したマグネシウム合金の塗装帯板。
  2. 樹脂被膜が、ポリエステル系、高分子ポリエステル系、エポキシ系、ウレタン系およびアクリル系の樹脂の1種以上からなる塗膜であることを特徴とする請求項1に記載の成形加工に適したマグネシウム合金の塗装帯板。
  3. マグネシウム合金の帯板の表面に、6価のクロム酸化物、3価のクロム酸化物およびりん酸系化合物の1種または2種以上を含む前処理液を塗布し、加熱して乾燥させ、次いで樹脂塗料を塗布することを特徴とする成形加工に適したマグネシウム合金の塗装帯板の製造方法。
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