JP3544877B2 - S−ヒドロキシニトリルリアーゼの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、キャッサバ由来のS−ヒドロキシニトリルリアーゼをコードする遺伝子を組込んだ組換え酵母菌によるS−ヒドロキシニトリルリアーゼの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
キャッサバ由来のS−ヒドロキシニトリルリアーゼ(EC 4.1.2.37)は芳香族および/または脂肪族のカルボニル化合物と青酸とから光学活性なS−シアノヒドリンを合成するために有効な酵素である。本酵素を用いた光学活性シアノヒドリンの合成は、種々の光学活性中間体を合成する上で極めて有用である。
しかしながら、本酵素はキャッサバの組織に微量含まれるに過ぎず、工業的に利用することは困難であった。これまで、キャッサバ由来のS−ヒドロキシニトリルリアーゼをコードする遺伝子を組込んだ組換え体DNAを含む大腸菌を培養することによって該酵素を製造した例が知られている(Angew.Chem.Int.Ed.Engl. 35, 437−439, 1996 、Biotechnol. Bioeng. 53, 332−338, 1997)。しかし、大腸菌を宿主とする方法では、生産性が高くないこと、酵素生産のための培養に高価な抗生物質や誘導基質を培地に添加することが必要であるなどの弊害があり、安価に効率よく該酵素を生産することは困難であった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、遺伝子工学的手法によりS−ヒドロキシニトリルリアーゼを効率よく大量に生産させることを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、キャッサバ由来のS−ヒドロキシニトリルリアーゼをコードする遺伝子を発現する宿主として酵母を選択することにより、大腸菌よりも大量にS−ヒドロキシニトリルリアーゼを生産させることに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、キャッサバ(Cassava, Manihot esculenta)由来のS−ヒドロキシニトリルリアーゼ(EC 4.1.2.37)をコードする遺伝子を酵母エピソーム型発現ベクターへ組込んだ組換え体DNAにより形質転換した酵母を培地に培養し、培養物からS−ヒドロキシニトリルリアーゼを得ることを特徴とする、S−ヒドロキシニトリルリアーゼの製造方法である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明においては、まず、高発現を目的とするキャッサバ由来のS−ヒドロキシニトリルリアーゼをコードする遺伝子のクローニングを行なう。該酵素の遺伝子配列は公知であり、文献に公開されている(Arch. Biochem. Biophys. 311, 496−502, 1994) 。キャッサバの葉より該酵素遺伝子のmRNAを含む全mRNAを抽出し、定法に従ってcDNAを合成する。公知のS−ヒドロキシニトリルリアーゼcDNA配列情報をもとに設計したプライマーを使い、PCRによって該酵素をコードする遺伝子を増幅する。
【0007】
次に、上記操作によって得た該酵素遺伝子を組換え酵母菌体で発現させるために、該酵素遺伝子の上流に転写プロモーターを、下流にターミネーターを挿入して発現カセットを構築し、これを発現ベクターに導入する。あるいは、該酵素遺伝子を導入する発現ベクターに、転写プロモーターとターミネーターが既に存在する場合は、発現カセットを構築することなく、その転写プロモーターとターミネーターを利用してその間に該酵素酵素遺伝子のみを導入すればよい。いずれの場合であっても、発現ベクター中に発現カセットを複数個存在させてもよい。
【0008】
発現カセット中のプロモーターは、酵素の発現量に大差を生じるので、最適なプロモーターを選択する必要がある。酵母菌内で導入遺伝子を効率的に発現させるための酵母プロモーターとしては、例えば、天然型としてはPGK 、GAP 、TPI 、GAL1、GAL10 、ADH2、PHO5、CUP1、MFα1 などが、組換え型としてはPGK/α2 オペレーター、GAP/GAL 、PGK/GAL 、GAP/ADH2、CYC/GRE 、PGK/ARE などが、変異型としてはLeu2−dなどがそれぞれ挙げられる。これらの中では特にGAPプロモーターが好ましい。
上記の各プロモーターは、天然型プロモーターの塩基配列からなるDNAのほか、該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換、付加した塩基配列からなり、かつプロモーター活性を保持するDNAであってもよい。塩基の欠失、置換若しくは付加は、出願前周知の常套的な技術、例えば部位特異的変異誘発法により実施することができる。
【0009】
一方、転写ターミネーターは、該酵素遺伝子の下流に存在させて、最大限の遺伝子発現を得るために効率的な転写終結が可能とするものであればよく、例えば、ADH1、TDH1、TFF 、TRP5などが挙げられる。
【0010】
本発明においては、発現ベクターとして酵母エピソーム型発現ベクターを使用する。
酵母エピソーム型プラスミドベクター(yeast episome plasmid vector) は、酵母の本来もつ2μプラスミドの配列を含んでおり、その複製起点を利用して宿主酵母細胞内で複製できるようにしたベクターである。
【0011】
本発明において使用する酵母エピソーム型発現ベクターは、酵母の2μプラスミド配列の少なくともORI 配列を含んでおり、かつ宿主酵母菌体内において染色体外で増殖することができれば特に制限はない。かかるベクターとしては、例えば、YEp51 、pYES2 、YEp351、YEp352などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0012】
上記の酵母エピソーム型発現ベクターは、組換え大腸菌でのサブクローニングを行なえる様、大腸菌体内部で増殖できるシャトルベクターである方が好ましく、またアンピシリン耐性遺伝子など選択マーカー遺伝子を含むものがさらに好ましい。また、該発現ベクターは、組換え酵母を作成した際に、栄養要求性や薬剤耐性によって酵母クローンを選抜できる、マーカー遺伝子を含む。マーカー遺伝子としては、例えば、HIS3、TRP1、LEU2、URA3、LYS2、Tn903 kanr、Cmr 、Hygr、CUP1、DHFRなどが挙げられる。これらはあくまで例示であり、遺伝子導入の宿主とするサッカロマイセス株の遺伝子型に応じて選択されるべきものである。
【0013】
本発明において使用することのできる上記酵母エピソーム型発現ベクターの具体例としては、酵母発現ベクターYEp352のマルチクローニングサイトに、GAP プロモーター、その下流にS−ヒドロキシニトリルリアーゼをコードする遺伝子、その下流にターミネーターを組み込むことによって作成されるベクター(YEp352−GCと命名);酵母発現ベクターYEp51 のGAL10 プロモーター下流にあるマルチクローニングサイトに、S−ヒドロキシニトリルリアーゼをコードする遺伝子を組みこむことによって作成されるベクター(YEp51−C と命名);酵母発現ベクターYEp351のマルチクローニングサイトに、GAP プロモーター、その下流にS−ヒドロキシニトリルリアーゼをコードする遺伝子、その下流にターミネーターを組み込むことによって作成されるベクター(YEp351−GC と命名);酵母発現ベクターpYES2 のGAL1プロモーター下流にあるマルチクローニングサイトに、S−ヒドロキシニトリルリアーゼをコードする遺伝子を組み込むことによって作成されるベクター(pYES2−C と命名)などが挙げられる。
【0014】
本発明において、宿主とする酵母は、サッカロマイセス属の酵母を用いるが、前記酵母エピソーム型発現ベクターを導入した後、安定に該ベクターを保持することができるものであれば、特に制限されない。サッカロマイセス属の酵母としては、例えば、Saccharomyces cerevisiae KK4株、Y334株、Inv−Sc1株、W303株などを挙げることができる。さらに該宿主酵母は、半数体(haploid) または2倍体(diploid)のいずれの株でも用いることができる。
【0015】
キャッサバ由来S−ヒドロキシニトリルリアーゼをコードする遺伝子を組込んだ酵母エピソーム型発現ベクターを上記宿主に組込んで、目的とするS−ヒドロキシニトリルリアーゼ生産能を持つ組換え酵母を得るには、定法の形質転換法によって行えばよい。
【0016】
得られた組換え酵母を培地に培養すれば、S−ヒドロキシニトリルリアーゼを生産することができる。
培地の組成としては、窒素源としてYeast nitrogen base w/o amino acids (Difco製) 、必須アミノ酸、カザミノ酸、炭素源してグルコース、ガラクトース、ラフィノースなどの糖類、またはグリセリン、エタノールなどのアルコール類を適宜添加したものを用いることができ、pHは4〜7に調節するのが適当である。
【0017】
本発明における、酵母エピソーム型発現ベクターにて形質転換した酵母を培養する場合は、組換え酵母菌体内に存在する該酵素遺伝子の脱落を防ぐため、用いたベクター上の選択マーカー遺伝子に応じて培地成分の変更をすることが好ましい。例えば、酵母エピソーム型発現ベクターYEp352−GC を組込んだ組換え酵母の場合は、選択マーカー遺伝子がURA3であるから、実質的にウラシルを含まない培地を、また酵母エピソーム型発現ベクターYEp351−GC を組込んだ組換え酵母の場合は、選択マーカー遺伝子がLEU2であるから、実質的にL−ロイシンを含まない培地を用いる。
【0018】
また、プロモーターの種類により、酵素生産を誘導させる必要がある場合には、それに応じた誘導基質を培地に加えることが好ましい。例えば、プロモーターの発現が特定炭素源によって促進あるいは阻害される場合には、その場合に応じて適宜炭素源を選択する必要がある。
本発明に好適なプロモーターであるGAPプロモーターによって酵素遺伝子の発現が制御されている場合には、本プロモーターは構成的に発現するので炭素源の制限はなく、宿主酵母菌が資化することのできる炭素源ならばいずれでも用いることができる。
【0019】
培養は、例えば、25〜35℃で、数時間〜3日間、増殖が定常期に達するまで行う。
このようにして培養した組換え酵母菌の菌体内には著量のS−ヒドロキシニトリルリアーゼが生産される。
培養終了後、培養物よりS−ヒドロキシニトリルリアーゼを採取するには、通常の酵素採取手段を用いることができる。すなわち細胞壁溶解酵素(ザイモリアーゼなど)を作用させて溶菌させる方法、超音波破砕処理、ガラスビーズなどを共存させて破砕処理する方法、界面活性剤などで抽出する方法、自己消化させる方法、凍結融解法などがある。次いで、ろ過または遠心分離などにより不溶物を除去することにより、S−ヒドロキシニトリルリアーゼを含有する粗酵素液を得ることができる。
【0020】
上記の粗酵素液から、S−ヒドロキシニトリルリアーゼをさらに精製するには、通常のタンパク質精製法を使用することができる。具体的には、硫安分画法、有機溶媒沈澱法、イオン交換体などによる吸着処理法、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動法などが、単独または適宜組み合わせて用いられる。
【0021】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕 キャッサバ組織からのcDNAの調製およびキャッサバ由来S−ヒドロキシニトリルリアーゼ遺伝子の調製
キャッサバの葉を材料として、全mRNAの抽出を行なった。回収したmRNAを鋳型として、cDNA合成を行ない、キャッサバのcDNAライブラリーを作った。文献(Arch. Biochem. Biophys. 311, 496−502, 1994) より入手した、キャッサバ由来のS−ヒドロキシニトリルリアーゼ遺伝子の配列情報を参考にして、下記PCRプライマーを合成した。
センスプライマー:GGG GAA TTC ATG GTA ACT GCA CAT TTT GTT CTG ATT C (配列番号1)
アンチセンスプライマー:GGG GTC GAC CTC ACG GAT TAG AAG CCG CCG (配列番号2)
【0022】
これらのプライマーを使い、上記のcDNAを鋳型としてPCR(95℃0.5 分、 55℃0.5 分、72℃1 分;計35サイクル)を行なったところ、S−ヒドロキシニトリルリアーゼをコードする遺伝子に相当する遺伝子を獲得した。遺伝子配列の解析を行なったところ、文献に示されている配列と一致した。
【0023】
〔実施例2〕 酵素遺伝子組換え酵母菌による発現
YEp352プラスミドベクターのマルチクローニングサイトに、GAPプロモーター、ターミネーターが組込まれているYEp352−GAPベクターを使い、実施例1にて取得したS−ヒドロキシニトリルリアーゼのcDNAについて、該YEp352−GAPベクターのGAPプロモーターとターミネーターの間に、該cDNA配列を挿入して、酵母エピソーム型発現ベクターYEp352−GC を作成した。このYEp352−GC は、アンピシリン耐性遺伝子、酵母 2μプラスミド由来の配列、組換え酵母の選択マーカ遺伝子であるURA3の配列を含んでいる、大腸菌−酵母シャトルベクターである。
この発現ベクターYEp352−GC を使い、宿主酵母菌Saccharomyces cerevisiae Inv−Sc1株の形質転換を行なった。ウラシルを含まない下記組成を有する最少選択培地で組換えクローンを選抜した。
【0024】
【表1】
【0025】
以上の操作によって取得した組換え酵母菌株(YEp352−GC−S2 株) を、下記の組成を有するYNBDCas 液体培地で24時間培養し、その酵素活性を以下のようにして測定した。
【表2】
【0026】
まず、組換え菌培養液1ml を遠心分離し、菌体を回収し、これに0.5mm径のガラスビーズを0.1ml 添加し、液体窒素で凍結した。次いで、0.15Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH5)を0.2ml 添加し、攪拌によって菌体破砕をした。菌体破砕液を遠心分離することによって上澄み液を得た。この上澄み液を酵素活性測定に用いた。活性値は、DL−マンデロニトリルを基質として、基質が酵素によって分解されてベンズアルデヒドを生成する際の吸光度変化を249.6nmの波長で測定することによって算出し、1分間に基質1μmol を分解する活性を1unit とした。本組換え菌株(YEp352−GC−S2 株) の培養液1ml 当たりのS−ヒドロキシニトリルリアーゼ活性は1.126unit/ml(比活性は1.33unit/mg protein)であった。
【0027】
〔比較例1〕 酵素遺伝子組換え大腸菌による発現
下記のプライマーを用いる以外は、実施例1と同様にして、S−ヒドロキシニトリルリアーゼをコードする遺伝子に相当する遺伝子を獲得した。
センスプライマー:GGG GAA TTC ATG GTA ACT GCA CAT TTT G (配列番号3)
アンチセンスプライマー:TAG GAG CTG CAG GCT TCA AGC ATA TGC ATC (配列番号4)
【0028】
上記遺伝子を、大腸菌用ベクターpKK223−3(ファルマシア製)のマルチクローニングサイトのBamHI サイトとPstIサイトの間に導入して組換えベクターを調製した。このベクタープラスミドを大腸菌へ組込むことにより、組換え大腸菌を得た。この組換え菌を誘導基質として1mM IPTG、抗生物質としてアンピシリン0.1g/Lを含むLB培地で培養して得た培養液の酵素活性は0.964unit/ml(比活性は 0.545unit/mg protein)であった。
【0029】
【発明の効果】
本発明によれば、遺伝子工学的手法によりS−ヒドロキシニトリルリアーゼを効率よく大量に生産させることができる。
【配列表】
Claims (2)
- キャッサバ(Cassava, Manihot esculenta)由来のS-ヒドロキシニトリルリアーゼ(EC 4.1.2.37)をコードする遺伝子を、サッカロマイセス (Saccharomyces) 属酵母由来のGAP(グリセロールアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ)プロモーターの塩基配列からなるDNAを含む酵母エピソーム型発現ベクターへ組み込んだ組換え体DNAを調製し、該組換え体DNAによって形質転換された酵母を培地に培養し、培養物からS-ヒドロキシニトリルリアーゼを得ることを特徴とする、S-ヒドロキシニトリルリアーゼの製造方法。
- 酵母が2倍体の菌株である、請求項1に記載のS-ヒドロキシニトリルリアーゼの製造方法。
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