JP3542093B2 - 苦味が少なく且つ低アレルゲン性の乳組成物とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、乳組成物に関し、特に、苦味が少なくしかもアレルゲン性の低い乳組成物とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】
牛乳等に由来する各種の乳組成物は、そのまま食品として、あるいは、機能性ペプチド組成物として特殊栄養食品の素材に利用されている。
【0003】
このような乳製品における問題は食物アレルギーであり、これはヒトにとって異種蛋白質である牛乳等の蛋白質が充分に分解されずに抗原性を残したまま体内に吸収されることが原因とされている。このような乳製品のアレルゲン性を無くすか低下させることを目的として、さらに、機能性ペプチドを得ることを目的として、現在最も一般的に行われている手段が乳蛋白質の酵素加水分解である。
【0004】
しかし、一般に蛋白質を分解すると苦味が生じ、乳蛋白質分解物を食品や食品機能素材として利用する場合に解決しなければならない課題となっている。これは分解によりいろいろなサイズのペプチドが生成し、それまで蛋白質の内部に存在していた疎水性側鎖が露出するためと考えられている。
【0005】
乳蛋白質の低アレルゲン化を目的として酵素分解により乳組成物を得るための従来からの方法の多くは、酵素の基質(乳蛋白質原料)として、あらかじめ成分の調整されたものを用いたり(特開平4−320650)、あるいはカゼインや乳清蛋白質の分解物を後で混合する(特開平5−17368)など、特殊な原料を用いるものである。
【0006】
栄養の点からは、乳蛋白質全体を基質とすることが好ましい(カゼインはアミノ酸組成において含硫アミノ酸であるシスティンの含量が著しく低い。ホエー蛋白質中にはシスティンがかなり含まれているので乳全体を用いれば栄養的に問題でない)が、このような技術は見あたらない。また、これらの方法は、いずれも、苦味の解消については特に工夫しておらず、食品や食品機能素材として適さない場合もあることは明らかである。
【0007】
特開平5−5000には、牛乳由来の蛋白質を酵素分解して分子量を1万以下とすることにより経口寛容誘導能を有する低アレルゲン性ペプチド組成物が得られる旨示されている。しかしながら、本発明者の見出した知見によれば、分子量を1万より幾分低くしたのみでは、充分な抗原性の低下は得られず、また、苦味を解消することもできない。
【0008】
苦味除去法としては、苦味ペプチドをエキソペプチダーゼでさらに加水分解させる方法(例えば、 K.M.Cleggand, A.D.Mc Millian, J.Food Techonol. 9 :21 (1974) ; H.Umetsu, H.Matsuoka and E.Ichishima, J.Agric.FoodChem. 31 :50 (1983))が用いられているが、この方法では極端に風味が損なわれる。苦味を除くためには、このほかに、苦味が発生しやすいジまたはトリペプチドの生成を抑えるために酵素分解の程度を抑えたり、膜を利用して低分子ペプチドを除去するという方法もとられている。しかしながらこれらの手法では充分な抗原性の低下が得られない。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、以上のような問題を解決するために研究を重ねた結果、乳蛋白質を加水分解して得られる乳組成物の物性として氷点降下測定法による濃度が乳組成物の苦味およびアレルゲン性と相関することを見出し本発明を導くに到った。
【0010】
かくして、本発明は、タンパク分解酵素で乳蛋白質を加水分解して得られる乳組成物であって、氷点降下測定法による濃度が加水分解前よりも80(mOsm)以上大きいことを特徴とする苦味が少なく、且つ低アレルゲン性の乳組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、別の視点として、苦味が少なく且つ低アレルゲン性の乳組成物を製造するための方法であって、乳蛋白質をタンパク質分解酵素を用いて加水分解する工程を含み、氷点降下測定法による濃度を加水分解前よりも80(mOsm)以上大きくすることを特徴とする方法を提供する。好ましい態様においては、本発明の方法は、加水分解生成物のpHを酸性に調整することを含む。そして、本発明の最も好ましい態様に従えば、乳蛋白質をタンパク質分解酵素を用いて加水分解して氷点降下測定法による濃度を加水分解前より80(mOsm)以上大きくした後、加水分解生成物を乳酸発酵させることによりpHを4.5以下に調整する。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の乳組成物の特徴は、氷点降下測定法による濃度について加水分解前の値との差が特定されていることにある。
【0013】
このように本発明に関して用いる氷点降下測定法による濃度とは、次のように純水1kg中の溶質分子のオズモル(オズモラリティ、Osmolarity)によって表されるものである。
オズモラリティ=Osm(オズモル)/kg H2 O=φnc
ここで、φは浸透係数(分子の解離の程度を表す)、nは分子が解離してできる粒子の数、cは溶液のモル濃度を示す。
【0014】
よく知られているように、溶質を純溶媒に溶解すると氷点が降下するが、これは溶質の濃度に比例して溶媒の結合性または凝縮特性が変化するためと考えられる。したがって、氷点降下測定を行うことにより溶質の濃度(溶液中の粒子の数)を知ることができる。理想的には、完全に解離した物質1モルは純水の氷点を1.86℃低下させるが、実際には完全に解離することはない。溶質分子間の干渉が浸透係数(φ)と呼ばれるファクターによって解離が減少するからである。
【0015】
水溶液では、水1kgに対し物質1mOsm(ミリオズモル=10ー3Osm)が氷点を1.86m℃低下させる。すなわちmOsmまたはOsmの単位は、溶液中に存在する溶質のうち氷点降下に寄与するような溶質の濃度ないしはモル数を反映しているものと考えられる。
【0016】
迅速に正確に溶液の氷点測定を行うには、その溶液の氷点をさらに数度過冷却してから、機械的に凍結させてその温度を測定する。急激に放出された溶質の温度を、水と氷(シャーベット状態)の平衡状態(プラトー)まで上昇させる。この平衡状態を、溶液の氷点としてオズモラリティを求める。このような測定はオズモメーターを用いて行われる。
【0017】
乳組成物において、このような氷点降下測定法による濃度の加水分解前の値との差が、当該乳組成物の苦味やアレルゲン性と相関する理由は未だ完全には明らかでない。本発明の対象とするような乳組成物においては、オズモラリティで表されるような濃度は蛋白質、糖質(乳糖など)、無機塩類等の苦味や抗原性に関与する成分の量を全体的に表示する合成濃度として寄与しているのかもしれない。
【0018】
本発明は、原料(基質)として、牛乳等に由来する乳蛋白質を含有するいずれのタイプの乳製品を酵素加水分解するに際して適用できる。一般的には、生乳、牛乳(普通牛乳)、脱脂乳、加工乳、濃縮乳、各種乳飲料などの液状乳を酵素加水分解して得られる乳組成物に適用されるが、粉末状、固形状、またはゼリー状の乳製品を再溶解または懸濁して得られるような液状物に対しても同様に適用される。例えば、本発明は、粉末ホエーを液状化したものを原料として酵素加水分解して得られる乳組成物に対しても適用される。
【0019】
すなわち、本発明の乳組成物とは、牛乳等に由来し、カゼイン、βーラクトグロブリン、αーラクトアルブミン、さらに免疫グロブリン、血清アルブミンなどの蛋白質の他、システィンなどのアミノ酸などの全て又は一部を含有し、液状物として総蛋白含有量が、一般に2〜10重量%にあるような乳製品を酵素加水分解に供することによって得られるものである。
【0020】
本発明に従い乳蛋白質を加水分解するには原理的には各種の酵素を使用できるが、本発明者らは、微生物由来の酵素、たとえば、アルカラーゼおよびフレーバーザイムと称されているものが優れていることを見出している。
【0021】
アルカラーゼは、ノボノルディスク( Novo Nordisk)社から販売され、 Bacillus licheniformis から得られるエンド型プロテアーゼである。その主要な酵素成分は、サブティリシンA( Subtilisin Carlsberg )であり、活性中心はセリンである。また、フレーバーザイムは、やはりノボノルディスク( Novo Nordisk )社から販売され、 Aspergillus oryzae 由来のエンド型プロテアーゼとエキソ型プロテアーゼの両活性を有する複合酵素である。これらの酵素は、それぞれを単独で使用してもよいが、両者を混合して使用した場合には優れた効果が得られる。
【0022】
酵素による加水分解反応における反応温度や反応時間は用いる酵素によって幾分異なる。本発明の方法を実施するのに好適な酵素であるアルカラーゼやフレーバーザイムの場合、加水分解反応は一般に50〜55℃において2〜6時間行われる。この際、加水分解反応の進行に応じて、適当な間隔でサンプリングを行い、酵素の失活程度を確認しながら氷点降下測定法による濃度を測定しておく。乳組成物のアレルゲン性を確認するには、従来より液体クロマトグラフィーによる分子量測定が行われてきた。しかしながら、本発明におけるようなオズモメーターによる氷点降下測定は、液体クロマトグラフィーによる分子量測定よりも著しく簡便であり、この点においても本発明の方法は有利である。
【0023】
本発明者の見出した事実によれば、このような酵素加水分解工程を含む乳組成物の製造に際して氷点降下測定法による濃度を加水分解前よりも少なくとも80(mOsm)以上、好ましくは、90(mOsm)以上大きくしておくことにより、かなり苦味が少ない低アレルゲン性の乳組成物が得られる。このとき、本発明の好ましい態様に従えば、乳蛋白質をタンパク質分解酵素を用いて加水分解して、氷点降下測定法による濃度を80(mOsm)以上大きくするのが一般的である。しかしながら、酵素加水分解により、氷点降下測定法による濃度をある程度大きくするとともに、その前後の工程、(例えば、pH調整工程、あるいは、更に別種の酵素を用いる分解工程)との組合わせにより、氷点降下測定法による濃度を加水分解前より80(mOsm)以上大きくすることもできる。
【0024】
また、本発明に従えば、加水分解後の分解生成物のpHを酸性領域に調整することにより、特に苦味の少ない低アレルゲン性(抗原性)の乳組成物を得ることができる。pHは、一般に4.5以下に調整し、特に4.0〜4.5とするのが好ましく、pHがこれより低くなると酸味が強くなる傾向がある。
【0025】
pHの調整は、加水分解後の組成物に単に適当な酸(たとえば、乳酸、クエン酸)を加えることによっても原理的には可能である。しかしながら、本発明の特に好ましい態様に従えば、乳酸菌を用いた乳酸発酵を行うことによりpHを4.5以下に調整する。これにより、フレーバー、酸味が酸で調整するだけよりまろやかになり、発酵による風味の改善が得られたり、乳酸菌(菌体成分)による免疫賦活作用や抗菌作用が得られるほか、カルシウムの吸収に好ましい効果を与えたり、コレステロールの低下作用があるなどの利点も付加される。乳酸発酵に用いる乳酸菌は特に限定されるものではなく、一般的に使用されているものでよい。乳酸菌を添加して所定のpHになるまで発酵を行わせた後、加熱殺菌(好ましくは65℃で30分間加熱)して発酵を停止し、氷点降下測定法による濃度を測定し所望の乳組成物が得られたことを確認する。
【0026】
以上のようにして、本発明に従えば、低アレンゲン性でありながら苦味が少なく風味も損なわれていない乳組成物が得られる。なお、液体クロマトグラフィーで測定したところ、本発明の乳組成物は、分子量が5000を超えるような部分は実質的に存在せず、特に分子量1000以下のものがかなり部分(80%以上)占めていることが確認されている。また、乳組成物全体を基準とする遊離アミノ酸の含有量は全窒素量当り約20重量%以下である。本発明の乳組成物は、そのまま飲料として供することができるが、さらに、食品素材としてゼリー、アイスクリーム、クリーム、乳飲料などを調製する際に使用することができ、また、乾燥させることにより、パンや菓子を作るときのプレミックス粉などとして、通常の粉乳(脱粉、全粉)と同様な原料としても使用できる。
【0027】
【実施例】
以下、本発明の特徴をさらに明らかにするため実施例に沿って本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0028】
[実施例1]
酵素加水分解反応
原料として、カゼイン、β―ラクトグロブリン、α―ラクトアルブミン、乳糖、脂肪を含有し、総蛋白量3重量%の牛乳(普通牛乳)を用いた。この牛乳の氷点降下測定法による濃度を測定したところ285(mOsm)であった。これを50℃に昇温し、これにアルカラーゼ0.02%(v/v)とフレーバーザイム0.01%(w/v)を添加した。酵素添加後、50℃で攪拌しながら、酵素加水分解を行い、1時間ごとにサンプリングし90℃で20分間加熱して酵素を失活させた後、氷点降下測定法による濃度の測定を行った。酵素加水分解反応は6時間まで行った。なお、氷点降下測定法による濃度の測定は、FISKE 社のオズモメーターマーク3を用いて行った。
【0029】
乳酸発酵
酵素による加水分解後の乳蛋白質を乳酸発酵に供してpHを調整した。すなわち、あらかじめ分解脱脂乳で前培養しておいた乳酸菌( Streptcoccus thermophilus, Lactobacillus bulgaricus )を1.5%(v/v)接種した後、37℃でpH4.5になるまで発酵を実施した。その後、65℃で30分加熱して発酵を止めた。
【0030】
苦味評価試験
訓練された10人のパネラーにより、上記の酵素加水分解により得られた分解乳および乳酸発酵により得られた分解発酵乳について苦味の評価試験を実施した。すなわち、1〜6時間の反応中、各時間毎にサンプリングした分解乳と分解発酵乳の中で、一番苦いものを5とし、苦味を感じない場合を0として点数をつけた。分解乳(乳酸発酵前)についての結果を図1のグラフに示す。グラフ中、縦軸は苦味評価点の合計を示し、横軸は、各分解乳の氷点降下測定法による濃度から分解前の氷点降下測定法による濃度を減じた差の値を示し、グラフ中、左から右に進むに従って1時間毎の反応経過後のデータを表している。図には示していないが、酵素加水分解反応を3時間、4時間、5時間および6時間行った後に、上記の乳酸発酵に供した分解発酵乳の苦味評価合計点は、それぞれ、21、17、15および15であった。なお、これらの分解発酵乳の氷点降下測定法による濃度は、酵素加水分解反応後の値よりも僅かに[〜10(mOsm)]増加しており、したがって、いずれも、加水分解前よりも80(mOsm)以上大きい。
【0031】
図から理解されるように、氷点降下測定法による濃度の増加に伴い苦味は増加するが、分解前の氷点降下測定法による濃度との差が約80(mOsm)を超えると減少し、特に90(mOsm)を超えると激減する。そして、その差が80(mOsm)を超えた分解生成物、特に90(mOsm)を超えた分解生成物に乳酸発酵を行うことにより乳組成物の苦味は更に軽減する。
【0032】
分子量の測定
以上のようにして得られた乳組成物(6時間の酵素加水分解の後、乳酸発酵に供したもの)の分子量の測定を試みた。測定は、液体クロマトグラフィーを用いて行い、カラムとしてTSK−GELG2000SWXL(東ソー社製)を使用した。試料は、凍結乾燥粉末を移動相に2mg/mlの濃度で溶解し、0.45μmのフィルターで濾過した。
【0033】
移動相は、0.1%TFAを含む45%アセトニトリルを用いた。測定は室温で行い、流速0.2ml/分、検出器として紫外吸光光度計を用い215nmにおける吸光度を検出した。分子量のマーカーとしてチトクロームC(MW:12,500)、インシュリン(MW:5749.5)、インシュリン chain B
Fragment 22−30(MW:1086.3)トリプトファン(MW:204.23)を用い、分子量分布検量線を作成し、分子量10,000、5,000、1,000の溶出時間を求めた。
【0034】
その結果を図2のIに示す。図に示すように本発明の乳組成物においては、分子量5000を超える部分は存在していない。しかも分子量1000以下の部分が大部分(約80%)を占めている。
【0035】
抗原性テスト
また、得られた乳組成物の抗原性を以下のように抑制ELISA試験によって測定した。用いた方法はラットIgGによる抑制ELISA試験である。抗原溶液(1mg/ml)を各ウェルに100μl注入し、37℃で1時間放置して固定化を行った後、ウェルを0.15M NaClおよび0.05% Tween20を含むリン酸緩衝液(pH7.2)(以下、PBS・Tween と略記)で3回洗浄してPBS・Tween に溶解した2.0% Fish Gelatin 溶液を300μl注入し、4℃で一晩放置してブロッキングを行った。
【0036】
次いでPBS・Tween で3回洗浄後、血清−試料混合物(0/15M NaClを含むリン酸緩衝液(pH7.2)(以下、PBSと略記)で段階希釈した分解発酵物100μlと1000倍希釈したラットの抗脱脂乳抗血清100μlを混合し、4℃で一晩放置したもの)100μlを注入して37℃で1時間放置した。さらにウェルを洗浄後、ペルオキシターゼを標識した2次抗体を Fish Gelatin 溶液で1000倍希釈し、100μlずつ注入して37℃で1時間放置した。ウェルを洗浄後、基質溶液100μlを注入して約15分反応させ、1.5%シュウ酸溶液100μlを添加して反応を停止させた。測定は、Immuno ReaderNJ−2001(Inter Med 社製)を用いて405nmで行い、次の式に従って抑制率を求めた。
抑制率(%)=((A0−A)/A0)×100
ただし、Aは血清と試料を反応させたときの吸光度であり、A0は血清とPBSを反応させたときの吸光度である。
【0037】
その結果、6時間の酵素加水分解の後に乳酸発酵に供したものについて図2のIIに示す。白で示すのが原料牛乳であり、黒で示すのが乳組成物試料であるが、抗原性が牛乳の約1/105 に低下していることが理解される。なお、得られた乳組成物の遊離アミノ酸含有量をアミノ酸分析器で分析したところ全窒素量当り14重量%であった。その他の乳組成物についても同様の結果が得られた。
【0038】
[実施例2]
酵素としてアルカラーゼを単独で0.02%(v/v)添加したことを除いては、実施例1と同じように酵素加水分解反応および乳酸発酵を行った。酵素加水分解反応に際して、実施例1と同様に氷点降下測定法による濃度の測定を行いながら、苦味評価試験を行ったところ、図3のような結果が得られた。また、酵素加水分解反応を5時間および6時間行った後に乳酸発酵に供した分解発酵乳の苦味評価合計点の値は、それぞれ、30および27であった。なお、これらの分解発酵乳について氷点降下測定法による濃度を測定したところ、酵素加水分解後の値よりも僅かに増加しており、いずれも加水分解前より80(mOsm)以上大きいことが見出された。これらの結果から理解されるように、氷点降下測定法による濃度の差が80(mOsm)を超えると苦味が低減され、その効果は乳酸発酵を経ると更に増す。
【0039】
また、得られた乳組成物(分解発酵乳)について、実施例1の場合と同様に抑制ELISA試験を実施したところ、抗原性は原料牛乳の約1/104 に低減していることが見出された。
【0040】
[実施例3]
酵素としてフレーバーザイムを単独で0.01%(w/v)添加したことを除いては、実施例1と同じように酵素加水分解反応および乳酸発酵を行った。酵素加水分解反応に際して、実施例1と同様に苦味評価試験を行い、図4の結果を得た。なお、酵素加水分解反応を5時間および6時間行った後に乳酸発酵に供して得た分解発酵乳の苦味評価合計点の値はそれぞれ30および28であった。また、これらの分解発酵乳の氷点降下測定法による濃度は、酵素加水分解後の値よりも僅かに増加しており、加水分解前よりも80(mOsm)以上大きい。これらの結果から理解されるように氷点降下測定法による濃度の差が80(mOsm)を超えると苦味が低減しており、特に乳酸発酵による分解発酵乳は顕著な苦味低減を示している。
【0041】
また、得られた乳組成物(分解発酵乳)について実施例1で示した抑制ELISA試験により抗原性を測定したところ、原料牛乳に比べて約1/104 に低下していた。
【0042】
[実施例4]
原料として、β―ラクトグロブリン、α―ラクトアルブミンおよび乳糖を主成分として含有する粉末ホエーを総蛋白量が3.1重量%となるように水に溶かした液状物を用いて、実施例1と同様に酵素加水分解反応および乳酸発酵を行い、苦味評価試験を実施したところ、酵素加水分解生成物について図5のIの結果を得た。また、酵素加水分解反応を4時間、5時間および6時間行った後に乳酸発酵に供した分解発酵物の苦味評価合計点の値は、それぞれ、20、20および18であった。なお、これらの分解発酵物の氷点降下測定法による濃度は、酵素加水分解後よりも僅かに増加しており、いずれも加水分解前よりも80(mOsm)以上大きい。これらの結果から理解されるようにこの場合においても、氷点降下測定法による濃度が80(mOsm)を超えると苦味が低減し、乳酸発酵を経ると苦味は更に低減している。
【0043】
また、このホエー液状物について、実施例1の場合と同様に抑制ELISA試験を実施したところ、抗原性は原料のホエー液状物の約1/104 に低減していた(図5のII参照)。
【0044】
[比較例]
酵素としてトリプシンを0.004%(w/v)添加し、酵素加水分解の反応温度を37℃として実施例1と同じように酵素加水分解を行った。実施例1と同様に、酵素加水分解反応の進行に応じて逐次サンプリングしたものについて、氷点降下測定法による濃度を測定しながら苦味評価試験を行ったところ図6の結果を得た。図に示すように、反応(6時間)終了後の加水分解前の氷点降下測定法による濃度との差は約70(mOsm)であり、かなりの苦味を残存していることが認められた。なお、酵素加水分解反応生成物のpHは5.5であった。また、反応生成物について実施例1と同様の抑制ELISA試験を行ったところ、抗原性の低下は原料牛乳の約1/10にすぎなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に従う乳組成物の1例を製造するため酵素加水分解を行うに際して、氷点降下測定法による濃度差と苦味評価の関係を示すグラフである。
【図2】本発明に従う乳組成物の1例の分子量分布と抗原性測定の結果を示すグラフである。
【図3】本発明に従う乳組成物の他の例を製造するため酵素加水分解を行うに際して、氷点降下測定法による濃度差と苦味評価の関係を示すグラフである。
【図4】本発明に従う乳組成物のさらに別の例を製造するため酵素加水分解を行うに際して、氷点降下測定法による濃度差と苦味評価の関係を示すグラフである。
【図5】本発明に従う乳組成物の他の1例を製造するため酵素加水分解を行うに際して、氷点降下測定法による濃度差と苦味評価の関係を示すグラフ、および抗原性測定の結果を示すグラフである。
【図6】比較のために行った酵素加水分解反応について氷点降下測定法による濃度差と苦味評価の関係を示すグラフである。
Claims (1)
- 乳蛋白質をタンパク質分解酵素を用いて加水分解して氷点降下測定法による濃度を加水分解前よりも80(mOsm)以上大きくした後、加水分解後の分解生成物を乳酸発酵させることによりpHを4.0〜4.5に調整することを特徴とする乳組成物の製造方法。
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