JP3539244B2 - 被研磨物保持材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
シリコンウエハ,ハードディスクなどの製造工程には、これらの表面を研磨する工程がある。本発明は、前記研磨工程で、シリコンウエハ,ハードディスクなどの被研磨物を保持するための保持材に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記被研磨物保持材は、駆動用のギアを周囲に形成した円板に、被研磨物保持用の貫通穴を1個ないし複数個あけた構造である。前記貫通穴に被研磨物を嵌め込んで研磨装置に装着し、保持材を平面で駆動させることにより被研磨物の研磨を行なう。
【0003】
従来、このような被研磨物保持材には、熱硬化性樹脂積層板が用いられている。例えば、熱硬化性樹脂を含浸乾燥したガラス繊維基材の層を表面層とし、熱硬化性樹脂を含浸したポリエステル繊維基材の層を中間層として、これらを加熱加圧成形により一体化したものである(特開平6−304859号公報)。中間層にポリエステル繊維基材を用いているのは、中間層を軟質にするためである。被研磨物保持用の貫通穴に嵌め込んだ被研磨物の外周面は、研磨作業中、前記貫通穴壁面の厚さ方向中央に最もよく当接する。前記公報に開示された技術は、被研磨物の外周面が最もよく当接する中間層を軟質にしておくことによって、被研磨物の外周面にスクラッチ(掻き傷)が付きにくいようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記被研磨物保持材は、貫通穴壁面の厚さ方向中央がポリエステル繊維基材で構成され軟質になっている。このことは、被研磨物の外周面にスクラッチが付きにくいという効果を発揮する一方で、貫通穴壁面が早く摩耗するということも意味する。貫通穴壁面の摩耗によって貫通穴径が大きくなると、研磨作業中に被研磨物が貫通穴内で大きく動き貫通穴壁面に衝突して、ますます貫通穴壁面を摩耗させる。貫通穴壁面が摩耗してくると、表面層を構成しているガラス繊維基材のガラス繊維が毛羽立ってくるので被研磨物の外周面にスクラッチを付けたり、折れたガラス繊維が被研磨物の研磨面にスクラッチを付けるという心配がある。ガラス繊維の毛羽立ちは、被研磨物保持材の周囲に形成した歯部においても同様に発生し、被研磨物保持材の使用寿命は、むしろ歯部の摩耗の程度によって決まってくる。結局、上記公報に開示された技術は、被研磨物保持材の使用開始初期の段階では、被研磨物の外周面にスクラッチが付くのを防止するために有効であるが、被研磨物保持材の使用寿命が短いという問題がある。
本発明が解決しようとする課題は、被研磨物にスクラッチが付きにくい被研磨物保持材を提供することであり、被研磨物保持材の使用寿命を長くすることである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明に係る被研磨物保持材は、熱硬化性樹脂を含浸したシート状繊維基材の層を加熱加圧成形してなる。その中間層を構成するシート状繊維基材がアラミド繊維基材であり、表面層を構成するシート状繊維基材がポリエステル繊維基材であることを特徴とする。
【0006】
アラミド繊維基材を中間層に使用した被研磨物保持材が、被研磨物の外周面にスクラッチが付くのを抑制する理由は、以下のように考えられる。
すなわち、アラミド繊維は、一般の繊維より引張り強度が極めて高い有機繊維であるものの、ガラス繊維など無機繊維と比較すると硬度が軟らかいために被研磨物にスクラッチが付きにくいのである。本発明者らが検討した結果、アラミド繊維基材を中間層に使用するとスクラッチが全く付かないわけではないが、ガラス繊維などの無機繊維基材を使用した場合よりもスクラッチの深さが浅く、不良になるような深さのスクラッチが皆無若しくは激減することが判明した。
アラミド繊維は強度が大きいので、被研磨物保持材の貫通穴壁厚さ方向中央の摩耗を抑制する。また、被研磨物保持材の周囲に形成した駆動用のギア部には厚さ方向中央部に最も大きな力がかかるが、この部分がアラミド繊維基材で構成されているので、ギア部の摩耗も抑制することができる。これらのことから、被研磨物保持材の使用寿命を延ばすことができるわけである。被研磨物保持材の表面層を構成しているポリエステル繊維基材は軟質であるので、これが毛羽立ってきても、被研磨物の研磨面にスクラッチを付ける心配もない。
【0007】
【発明の実施の形態】
上述のように、本発明に係る被研磨物保持材は、熱硬化性樹脂を含浸したアラミド繊維基材の層を中間層にし、熱硬化性樹脂を含浸したポリエステル繊維基材の層を表面層にして、加熱加圧成形してなるものである。アラミド繊維基材を構成するアラミド繊維には、パラ系とメタ系があるが、パラ系を主成分としたアラミド繊維基材が好ましい。ここでパラ系アラミド繊維が好ましい理由は、パラ系アラミド繊維はメタ系アラミド繊維より繊維自体の引張り強度など力学的物性値が高く、被研磨物保持材の摩耗を抑制してその寿命をより延ばせるからである。また、パラ系アラミド繊維は、メタ系アラミド繊維より吸湿性も小さいので、水分のある研磨環境に好適である。パラ系アラミド繊維としては、ポリp−フェニレンテレフタラミド繊維とポリp−フェニレンジフェニールエーテルテレフタラミド繊維が一般的である。アラミド繊維基材は織布と不織布のいずれでもよい。ポリエステル繊維基材も織布と不織布のいずれでもよい。
【0008】
アラミド繊維基材に含浸する熱硬化性樹脂は特に限定するものではなく、フェノール樹脂,エポキシ樹脂,ポリエステル,ポリイミドなどである。しかし、フェノール樹脂やポリイミドなど、比較的耐熱性の高い熱硬化性樹脂(例えば、ベンゼン核など接着に直接関与しない部分を分子骨格に高密度で有している樹脂)は、樹脂自体は硬いものの、接着性が比較的低いため研磨時にアラミド繊維基材やポリエステル繊維基材と樹脂の界面剥離が発生しやすかったり、樹脂自体の破壊・摩耗が起こりやすいということが分かった。このようなことから、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用することが好ましい。さらに、エポキシ樹脂の脆さを低減するために、ゴム成分などの可撓化成分を加え、変性したエポキシ樹脂も好ましいものである。
【0009】
被研磨物保持材の成形は、熱硬化性樹脂を含浸乾燥したアラミド繊維基材の層を中間層にし、熱硬化性樹脂を含浸乾燥したポリエステル繊維基材の層を表面層にして、これら全体を離型フィルムで被覆して鏡面板に挟みこみ、プレス熱盤間で加熱加圧成形する。シリコンウエハ,ハードディスクなど被研磨物の種類や研磨条件により、各シート状繊維基材の使用枚数を変える。
【0010】
【実施例】
アラミド繊維基材として、以下のものを準備した。
(アラミド繊維基材1)
パラ系アラミド繊維チョップ(繊維径:1.5デニール,繊維長:3mm,帝人製「テクノーラ」)とメタ系アラミド繊維チョップ(繊維径:3デニール,繊維長:6mm,軟化温度280℃,帝人製「コーネックス」,未延伸)を混抄し、水溶性エポキシ樹脂バインダ(ガラス転移温度110℃)をスプレーして加熱乾燥により単位重量60g/m2の不織布とした。パラ系アラミド繊維/メタ系アラミド繊維/樹脂バインダの配合重量比は、85/5/10である。
さらに、この不織布を一対の熱ロール間に通すことにより加熱圧縮し、メタ系アラミド繊維をパラ系アラミド繊維に熱融着した不織布である。前記パラ系アラミド繊維は、具体的には、ポリp−フェニレン3,4−ジフェニールエーテルテレフタラミド繊維である。
(アラミド繊維基材2)
アラミド繊維としてメタ系アラミド繊維チョップ(繊維径:3デニール,繊維長:6mm,軟化温度280℃,帝人製「コーネックス」,未延伸)だけを使用し、アラミド繊維基材1と同様に製造した不織布である。
(アラミド繊維基材3)
厚さ0.11mm,単位重量61g/m2の平織りの織布である(デュポン製「K120」)。アラミド繊維はパラ系でポリp−フェニレンテレフタラミド繊維である。
【0011】
ポリエステル繊維基材として、以下のものを準備した。
(ポリエステル繊維基材1)
織密度たて48本/よこ48本、単位重量130g/m2の織布である(旭化成製「BKEポプリン」)。
(ポリエステル繊維基材2)
単位重量70g/m2の不織布である(日本バイリーン製「EPM−4070TE」)。
【0012】
(ガラス繊維織布基材)
単位重量107g/m2のガラス繊維織布である(旭シュエーベル製「GC−216」)。
【0013】
プリプレグとして、以下のものを準備した。
先ず、硬化剤としてジシアンジアミドを、また、硬化促進剤として2−エチル−4メチルイミダゾールを配合したビスフェノールA型エポキシ樹脂ワニス(A)を準備した。
また、ワニス(A)にダイマ酸変性エポキシ樹脂を樹脂固形重量比でビスフェノールA型エポキシ樹脂/ダイマ酸変性エポキシ樹脂=80/20になるように配合したワニス(B)を準備した。これは可撓性エポキシ樹脂である。
上記の各繊維基材に、表1に示す組合せでワニス(A)(B)を含浸乾燥してプリプレグとした。各プリプレグは、その1枚を加熱加圧成形したときの厚さが0.1mmになるように樹脂付着量を調整した。
【0014】
【表1】
【0015】
実施例1
プリプレグAR1を3枚重ねた両側に、プリプレグES1を各1枚重ね、これらプリプレグの層の両表面に離型フィルム(50μm厚のポリプロピレンフィルム)を配置しこれを鏡面板に挟み込み、クラフト紙層からなる厚さ10mmのクッション材を介してプレス熱盤間で加熱加圧成形し、厚さ0.5mmの積層板を得た。
上記積層板を被研磨物保持材に加工した。この被研磨物保持材は、周囲にギアを形成した直径10インチの円板であり、被研磨物を嵌め込むための直径3.5インチの貫通穴を4個設けたものである。
この実施例は、以下に述べる実施例3(中間層にメタ系アラミド繊維不織布基材を使用)より吸湿が少なく被研磨物保持材の膨潤が抑えられるので、使用中の寸法変化が小さい。研磨剤は水と一緒に存在しているので、保持材の吸湿が少ないことは好ましいことである。
【0016】
実施例2
プリプレグAR1の代わりにプリプレグAR11を使用し、そのほかは実施例1と同様に厚さ0.5mmの被研磨物保持材を得た。
この実施例は、厚さ方向端面が軟質になる。従って、被研磨物保持用貫通穴の壁面に当接する被研磨物周面にスクラッチがより付きにくい。硬質の金属製駆動ギアと噛み合う被研磨物保持材周囲のギア部も、強度の大きいアラミド繊維基材に保持された可撓性樹脂であるので耐摩耗性が実施例1より向上する。
【0017】
実施例3
プリプレグAR1の代わりにプリプレグAR2を使用し、そのほかは実施例1と同様に厚さ0.5mmの被研磨物保持材を得た。
【0018】
実施例4
プリプレグAR1の代わりにプリプレグAR3を使用し、そのほかは実施例1と同様に厚さ0.5mmの被研磨物保持材を得た。
【0019】
実施例5
プリプレグES1の代わりにプリプレグES2を使用し、そのほかは実施例1と同様に厚さ0.5mmの被研磨物保持材を得た。
【0020】
従来例1
プリプレグES1を3枚重ねた両側に、プリプレグGLを各1枚重ね、これらプリプレグの層の両表面に離型フィルム(50μm厚のポリプロピレンフィルム)を配置しこれを鏡面板に挟み込み、クラフト紙層からなる厚さ10mmのクッション材を介してプレス熱盤間で加熱加圧成形し、厚さ0.5mmの積層板を得た。以下、実施例1と同様に厚さ0.5mmの被研磨物保持材を得た。
【0021】
従来例2
プリプレグES1の代わりにプリプレグES2を使用し、そのほかは従来1と同様に厚さ0.5mmの被研磨物保持材を得た。
【0022】
以上の各実施例と従来例の被研磨物保持材を使用して研磨作業を行なった。被研磨物は3.5インチアルミハードディスクである。被研磨物の外周面並びに研磨面のスクラッチ有無、クラッシュ発生の有無及び被研磨物保持材の使用寿命を評価した結果を表2に示す。
クラッシュとは、被研磨物保持材の周囲に形成したギア部が引裂かれる破壊現象である。被研磨物保持材の最も破壊が著しい箇所は、被研磨物保持材(円板)の周囲に形成したギア部分であり、クラッシュが発生するのは、研磨時に被研磨物保持材の平面に対して垂直方向に引裂き荷重が加わるからである。通常、ハードディスクなどの研磨においては、周囲にギアを形成した被研磨物保持材をインターナルギアと太陽ギアを有した研磨装置に数枚装着し、さらに、被研磨物保持材の貫通穴に被研磨物を嵌め込み、遊星運動をさせて回転研磨する。被研磨物保持材の厚さは被研磨物の厚さより薄いので、研磨時の被研磨物保持材には垂直方向の圧力がほとんどかからない。このため、被研磨物保持材のギア部分にかかった回転方向の力は被研磨物保持材の垂直方向に逃げるように働き、ギアの隣合う歯と歯の間が引裂かれる破壊を起こしやすいのである。
表2において、被研磨物のスクラッチ発生の有無は、上記ハードディスク4000個の研磨におけるスクラッチ不良率を求めた。また、クラッシュの発生の有無は、200バッチの研磨作業(1バッチで20個のハードディスクを研磨)において、その発生回数を調査した。被研磨物保持材の使用寿命は、ギア部の磨耗レベルで判断し使用可能なバッチ数を調査した。
【0023】
【表2】
【0024】
(注)従来例1の使用寿命を100とした指数(指数が大きいほど、使用寿命が長い)。
【0025】
【発明の効果】
表2から明らかなように、本発明に係る被研磨物保持材は摩耗が抑制され使用寿命が延びる。かつ、本発明に係る被研磨物保持材を使用することにより、被研磨物に付くスクラッチが低減され、また、クラッシュの発生も減る。これらによって、被研磨物の生産歩留まり向上を図れ、大幅なコスト低減が可能となる。
Claims (4)
- 熱硬化性樹脂を含浸したシート状繊維基材の層を加熱加圧成形してなり、中間層を構成するシート状繊維基材がアラミド繊維基材であり、表面層を構成するシート状繊維基材がポリエステル繊維基材であることを特徴とする被研磨物保持材。
- アラミド繊維基材がパラ系アラミド繊維を主成分とする基材であることを特徴とする請求項1記載の被研磨物保持材。
- 熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である請求項1又は2記載の被研磨物保持材。
- 少なくとも中間層のエポキシ樹脂が可撓性エポキシ樹脂である請求項3記載の被研磨物保持材。
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